メイド学校に通う佐天さん   作:ラーフィ

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第十四話 情報が欲しい

朝起きて、最初に頭をよぎったのはあの名前。

 

『テレスティーナ』

 

「(私はどこでこの名前を聞いたんだ……?)」

 

ありふれた名前ではない。日本人が日本で過ごしている限り耳にすることがない名前。つまり鞠亜は何らかの形で、それも頭の片隅に残るような覚え方で記憶したことになる。

情報は色んなところにありふれており、インターネットが普及した現代では、様々な形で入手することが出来る。

 

テレビ、パソコン、携帯、新聞、雑誌、友人の話など。

 

鞠亜はお世辞にも友達が多いわけではない。友人から聞いた線は低いか。

新聞、雑誌は殆ど見たことがない。この可能性も低いだろう。

普段積極的に使わないパソコン、携帯で入手する情報なんて皆無に等しい。

するとテレビから聞いたのか?だが頭の中に残るほど印象が深かった外国人なんていただろうか?

 

いいや、あるとすれば。

 

そう思い、鞠亜は携帯電話を取り出した。

連絡帳アプリを開きスクロールする。「く」のところにある、自分に似た名前が書かれた欄をタップした。

 

『こんな時間になんの用?忙しいから手短にしてほしいのだけど』

 

そう、相手は鞠亜の実の姉、雲川芹亜である。

しかし実の妹からの久しぶりの電話だというのに何でそんな気だるそうな返事をしているのだろうか。

だが、姉が何をしているかなんて妹の鞠亜はあまり把握していないため、特に言い詰めるようなことはしなかった。

 

「あーごめん。じゃあ手短に話すね」

『頼む』

「単刀直入に聞くけどさ、テレスティーナって名前に聞き覚えある?」

『……何?』

 

その瞬間、妹からの面倒な電話に対応するような雰囲気が消えた。

声のトーンが低くなり、明らかに不審がるような雰囲気を醸し出した。

 

『その名前どこで聞いた?』

「え、いや、今ポルターガイストの事件に関わっていて、それでその人の名前を知って……ってどうしたの急に」

 

しかし妹の質問に耳を傾ける様子はなく、芹亜は質問を投げかける。

 

『それに彼女は関わっているのか?』

「あー……ガッツリ関わってるよ」

『……そうか……どうしてこう何度も何度も』

「姉さん?」

『なんでもないけど。ああ、そうだな。質問のことだけど』

 

ようやく、答える気になったようで、鞠亜は芹亜の言葉を待った。

そして、芹亜の口から聞こえてきた言葉は、鞠亜にとっても無視できない言葉だった。

 

『奴は木原一族の女だ』

「……木原!?」

 

なぜ鞠亜がテレスティーナの名前に聞き覚えがあったのか。

そうだ。あの時の私はどうかしていた。先生が全てで、先生がいなくなってとても落ち込んでいた。

だから先生の居場所が知りたくて、それでネットや知人に聞きまくって、でも結局見つからなくて。

その過程で、木原一族の事を知ったんだ。

 

『どうせポルターガイストとやらも何かしら別の目的で動いているだろうけど』

「別の、目的?」

『木原が善意的な活動をすると思えないのだけど』

 

鞠亜は木原のことの内部まで知っているわけではない。

鞠亜は木原が行った具体的なことまで知っているわけではない。

 

ただ、何となくモラルに反したことをしている集団だという認識があるだけ。

 

しかし、それだけで好意的に思えないぐらいには危険な集団だと認識させられる。

 

『仕方がない。私達も裏で手を回すとしよう。そんな問題に手間をかけては意味がない』

「ずーっと気になってたんだけど、どうしてそこまであの子に執着するのかね?」

『今は知る必要がないけど、そのうち分かる』

「まーたそれ?いつになったら教えてくれるのさ!」

『とにかく、こちらでも動くから。その時には鞠亜にも手伝ってもらうから準備してほしいんだけど』

「……ハァ、了解」

 

不満たらたらな様子で返事をしたが、興味がないのか芹亜は全く気にもとめずに電話を一方的に切った。

どうやら教えてくれるのはまだ先のようだ。

一番気になっていることを教えてくれなかった事に対してフラストレーションが溜まったが、結果的には芹亜に電話して正解だった。

 

この事件には木原が関わっていること。

姉が協力してくれること。

 

鞠亜は姉の芹亜が今どこで何を目的にどんな行動をしているのかはわからない。権力のある人達と何かしらしているとだけは聞いているが、それ以外は一切不明。

しかしそれでも十分。

学園都市の偉い人達と繋がっている人脈を利用できるなら、近い内にこの事件も収束できるだろう。

もちろん鞠亜もいつでも動けるように準備は欠かさずしておく。

 

問題は佐天だ。

 

本来なら佐天なんかと友達になんかならず、もっと成績のいい人たちと一緒に行動し、自分のスキルを高めながら先生探しに没頭していただろう。

しかし姉の依頼でそのプランが今の所全くできていないのだ。

 

姉の芹亜からは、『佐天涙子という女性を監視してほしい』とのこと。

 

正直意味が分からなかった。理由も聞かされていないこともあるが、何より頭が悪く成績もダントツの最下位。何か飛び出ているスキルも無い上に能力もレベル0。

しかし姉の命令には逆らえず渋々佐天に近づき、鞠亜は最初は過ごしていた。

 

億劫だと思った。

辞めたいと思った。

命令に逆らおうとも考えた。

 

だがその考えはある日をキッカケに一変した。

前提として繚乱家政女学校はその辺の中学校とは宿題や課題の数が尋常じゃないぐらい多い。

それこそあらゆる局面で主人を補佐することの出来るスペシャリスト育成を目指しているメイド養育施設。土曜も日曜も無く夏休みも存在せず、「真のメイドさんには休息はいらないってのが校則」であるほどだから。

だからこの学校に通う生徒はどうしても自分中心になりやすく、周りに目が行かなくなるものだ。

 

しかし佐天は違った。

 

繚乱家政女学校の前で困っている人を助けたのだ。

誰もが見て見ぬ振りをして、自分に課せられた義務を言い訳の盾にして、逃げるように立ち去っていく中で、たった一人だけ。

 

あの時鞠亜は彼女が天使に見えた。

 

誰よりも優しくて。

誰に対しても心が広くて。

 

そして。

 

この繚乱家政女学校に通う生徒の誰よりも、メイドらしいと思ってしまった。

 

自分に足りないもの、メイドになる上で必要なことを教えてもらったような気がしたのだ。

 

だから彼女の力になりたい。

 

お世辞にも優秀とは言えない彼女だけど。

誰よりも努力して這い上がろうとしている彼女の姿はとても眩しいものだから。

 

でも彼女は人の助けを嫌う節がある。

 

それは幻想御手という前科があるからなのかもしれないが、それ以上に根っこの部分で自分が何もできないということに対してのコンプレックスがあるのだと思う。

だからこそ誰にも助けを求めずに、自分の力だけで解決して、自分は無能ではないと自分自身で証明したいんだろう。

 

だけど。

 

「(それは違う……!)」

 

誰も一人で何も解決できない。

誰かの助けなしでは生きていけない。

誰の助け無しでできている人も、表面上はそう見えているだけで、裏では誰かの力を借りて解決しているのだから。

 

「(きっとわかってもらえる。だって、友達だから……!)」

 

そして。

 

その考えは何も間違っていない。

分かってもらうために行動に移すこと自体もきっと正しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

いや。

一つだけ、見誤ったことがあるとすれば。

 

 

 

佐天が抱えている『無能』というコンプレックスは。

 

鞠亜の想像を遥かに超えた闇だったということだろう。

 

 

 

ーーーー

ーーー

ーー

 

 

 

次の日、学校の授業が終わって放課後になった。いつもの通り佐天、舞夏、鞠亜の3人は佐天、舞夏の部屋へと集まっていた。

基本的には今日の授業の復習だったり、明日の課題の予習だったり、佐天の都市伝説の話などが繰り広げられるのが彼女らの日常だった。

 

しかし、今日は違った。

 

話の軸になったのは、ポルターガイスト。

 

「で、結局ポルターガイストを引き起こしたのは春上っていう女の子なのかー?」

 

今日の実習で作ったクッキーを頬張りながら、相変わらずの口調で舞夏は佐天に問いかけた。

 

「うーん、どうだろ。まだ仮定の段階だしね」

「佐天はどう思ってるんだー?」

「そりゃあ友達としてはそんなことしてるとは思いたくないけど、情報がないから」

「まあ、情報があったとしても、動けるかどうかはまた別問題だしなー」

「う……確かに」

 

そう、彼女たちは繚乱家政女学校に通う生徒。その課題やボランティアの数は計り知れず、どれだけ効率よくやっても丸一日フリーになる日ほぼゼロといっても過言ではない。

 

それは休日であっても同じ。一流のメイドになるには休日を返上してでもスキルを磨かなければ無理な世界。

 

草野球を突き詰めた人がプロ野球選手になるように。

毎日球を蹴っていた人がプロサッカー選手なるように。

 

メイドもまた、家事や人のサポート役を突き詰めた人がなれるもの。

 

生半可な取り組みではやっていけないのだ。

 

「結局、美琴さん達の力になれないのかなー……」

 

佐天はため息をつくように言葉を吐いた。何もできないというもどかしさが、やはり佐天の心を暗くしてしまう。

舞夏だって何とかしてやりたいのだが、状況が状況なだけに手が出しずらいのが厄介だ。

真実が完全に解明されていない以上、自分がどの役割を担えばいいのか不明なのだから。

 

佐天と舞夏は自分たちが何もできないことに暗く沈み込んでしまった。

 

と。

 

「すげぇな姉さん……」

 

その中で一人、鞠亜は携帯電話を画面を見ながらポツリとつぶやいた。

 

「どうしたの?」

 

佐天が問うと、鞠亜は僅かに微笑んでから、二人に言った。

 

「情報が手に入った。先手を打つチャンスが出来そうだ」

 

その言葉に、思わず佐天と舞夏は顔を合わせてしまった。

しかし鞠亜は笑みを崩さない。まるで、勝機は自分たちにあると訴えかけているようだった。

 

「私たちメイドにだって主役になれることを、思い知らせてやろうぜ!」

 

 

 

 

 

 




この後いろいろ長いので短いですがここで区切ります。

余談ですが、最近文章力落ちたなーって小説書くたびに思います。
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