メイド学校に通う佐天さん   作:ラーフィ

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第二話 不思議な人だなぁ

 

寮の部屋の前に着いた佐天は迷わずインターホンを鳴らした。

 

ピンポーンという軽はずみな音が聞こえたが、一分経っても本人が出てくる気配はない。

もう一度鳴らしてみたものの反応はなし。

 

出かけてるのか、と思ったが恐らく今日自分がここに来ることは分かっているはずだ。ならばそんな日に出かけたりするだろうか。

 

不審に思い、とりあえずドアノブを回してみると。

 

「あれ、開いてる……?」

 

そのまま扉を開くと、まず玄関があり、そのまま廊下に沿って部屋があった。玄関には男物の靴が一つ置いてあるだけで他に靴はない。恐らくこの家主の物だろう。

 

このままでは不法侵入者と思われかねないので取り合えず声を上げてみる。

 

「すみませーん。アクセラレータさんいますかー?」

 

しかし返事はない。一瞬部屋を間違えたかとも思ったが何度も書類を確認したのでそれはあり得なかった。

 

やはり留守なのだろうか。

 

考えてみればそうかもしれない。一人暮らしとは言え普通靴は二足以上持つものだ。雨の日に濡れた時ように持つのは自然な流れと言える。

 

「やっぱりいないのかなぁ」

 

そう思い、佐天は部屋に上がって中の様子を探ってみた。

 

この部屋は1Kの小さな寮。玄関から続く廊下にはトイレとバスタブ、キッチンといった必要最低限の備えしかない。

 

そうして、小さな部屋を覗き込むような形で見て、身体が震え上がった。

 

「(誰かいるー!!?)」

 

言わずともこの部屋の主に決まっているのだが何度も呼び鈴を鳴らしても起きなかったことから勝手にいないものだと思っていたのだ。

 

部屋の主であるアクセラレータという男はベッドではなくソファに寝ており、寝間着を着ているわけでもなく、布団をかけているわけでもなく、私服のままダイレクトにソファに寝転がってそのまま寝てしまったという感じで寝転がっていた。

 

声を掛けるかどうか少し迷ったが、このまま突っ立っていてはそれこそ不審者と思われかねないので寝転がっている男に話しかけてみた。

 

「アクセラレータさん?」

 

反応はなし。

 

「あのー……」

 

起きる気配はない。

 

「ちょっと……!」

 

と、身体をさすろうとした瞬間、その指先に電撃のような痛みが走った。

 

「痛っ……」

 

静電気に触れてしまった痛みに似ていただろうか。とにかくこの男に触れようとした瞬間理由も分からない痛みに襲われたのだ。今はまだ六月上旬。静電気に悩む季節ではないし、佐天自身あまり静電気に敏感なわけでもない。

 

もう一度触ろうとして、触れるその一瞬前に痛みが走った。

 

「(何なんだろう……)」

 

痛みがあった指先を不思議そうに眺めながら、その男の姿を改めて確認した。

 

年はやはり自分より少し年上の男性。高校生ぐらいだろうか。髪は白髪と日本人離れした髪色だったが、その髪は女性が羨んでしまうほど綺麗で触るまでもなくサラサラだと思わせる印象があった。

 

実は外国人で男性よりの顔をした女性だったり?

 

そんな考えも一瞬よぎったが、それは男の言葉でかき消された。

 

「……誰だテメェ」

 

佐天が自分の世界に入っている際に起きてしまったようだ。佐天は身体を震わせ勢いよく立ち上がって距離を取りながら綺麗なお辞儀をした。

 

「は、初めまして!今日から世話係をすることになった佐天涙子です!!よろしくお願いします!!」

「……世話係だと?」

 

そんな佐天のテンパりなど気にする様子もなくアクセラレータ……一方通行は眉をひそめる。

 

「は、はい。そういうことで派遣されたんですが……」

「誰からの命令だ」

「えっと、繚乱家政女学校から……あ、でも何か上からの命令って言ってたような」

「……チッ、何を企ンでンだ上層部の野郎は」

 

何か思い当たる節があるのか一方通行は不機嫌そうに舌打ちをする。

 

しかし暗部に身を浸らせている一方通行は上からの命令という言葉を聞いて胸糞悪い吐き気を覚えた。この学園都市には大きな見えない闇が潜んでおり、一方通行はそれにどっぷりと浸かっている。上層部の連中が考えていることなんざ知る由もないがそれがくだらないことに利用されていることぐらいすぐに分かる。

 

この佐天という女性からは闇を感じさせるものが何一つ感じられない。一度それに浸った者は少なからずその片鱗を見せるのだが……まあ彼女のしていることが演技という可能性も否定できないが。

 

 

 

なんとなくだが、そうであって欲しくないと思ってしまった。

 

 

 

それが何なのか、今の彼には理解しようとも思わなかった。

 

「……まあいい。世話係ってことは俺は何でも命令していいってことだな?」

「えっと、私に出来る範囲なら……」

「じゃあコーヒー20本」

「……はい?」

「レッドマウンテンのブラックコーヒーだ。その辺のコンビニで売ってる。金は俺のカードでも使ってろ」

 

と言って気怠そうに机の上のクレジットカードを指さしながら一方通行は再び眠りに落ちた。

 

ええ、と困惑する佐天など気にする様子もなく、彼は再び反射の設定を変えて音を完全反射する。

 

「(……上の連中がこの女を俺のところによこすメリットはなンだ?)」

 

その眠りに落ちる寸前、彼は疑問に上がったものを頭の中で整理していく。

 

「(実験中の俺を殺しにくるとは思えねェし、もしそうならわざわざ起きるまで待つ必要はない。あの女は……おそらく何も知らされていない)」

 

メイド服をまとった少女の顔をもう一度思い出しながら、学園都市の考えを読み取っていく。

 

「(つまり俺とあの女を一緒にいさせて初めて意味がある……)」

 

だが一方通行から見た佐天は本当にその辺にいる奴らと大差ないように思えた。

 

「(ってことは能力か?……そういや、あの女の能力を聞いてなかったな)」

 

そこまで考えて一方通行は考えるのをやめた。

 

「(……後で聞いとくか)」

 

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

佐天は学校の成績は悪いが幼少期から母親の家事の手伝いをしていたこともあり、人並み以上の家事をこなすことは出来ていた。

 

コーヒーを買ってきた佐天は掃除もせずゴミも放置されっぱなしの部屋を一通り掃除しようかとあらかじめ持ってきておいた雑巾や洗剤一式をカバンの中から取り出し……たところでまずゴミ捨てから始めようと思い当たって部屋の中を見回した。

 

改めて見ると、言うほど散らかってはいなかった。確かにありとあらゆるところにコーヒーの缶が捨ててあるが、言ってしまえばそれだけ。床が見えなくなるほどゴミが散らかっているだとか耐え難い臭いがするだとかそんなことはない。

 

とりあえず窓を開けて換気をし、落ちている缶を拾っていく。この間も一方通行はソファで寝ていた。未だにここが世話係として派遣された場所なのか疑いたくなるぐらいに。

 

「(不思議な人だよなぁ)」

 

どうやら一方通行本人も自分がここに来ることを知らなかったみたいだし、それなのにどこかに確認を取ったり佐天に詳しい話を聞こうとしない。

 

それが当たり前のことだと受け入れているようで、不思議な感じがした。

 

「それじゃ、さっさと終わらせますか」

 

ゴミをきちんと回収し終わったところで佐天はせっせと床拭きを始めた。

 

 

 

 

大体の掃除を終わらせてから、実施研修だろうと構わず授業を行っている学校へと向かっていった。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

時刻は夕方になり、学校から帰ってきた佐天は掃除も済ませて夕飯の買い出しへ行ったところだった。今日は昨日ネットで見つけたグラタンにしよう、と考えながら食材を買っていった。

 

お金はもちろん一方通行のカードで払った。自由に使ってもいいということなのでありがたく使わせていただいている。

 

買い物を済ませスーパーから出た時、なにやら知り合いに似た人影を見つけた。

 

その人物にそっくりだったが。

 

「(御坂さん……なのかな今の人)」

 

しかしその表情、仕草、何より頭の上につけているゴーグルのようなものがそれがあの御坂美琴の趣味とは思えなかった。

 

御坂美琴は子供向けのキャラクターなどを好む傾向があり、サバイバルゲームに出てくるようなゴーグルを掛けるとはとても思えなかった。

 

「(もしかして妹さんとか?……あ、でも兄弟はいないって言っていたし)」

 

常盤台中学の制服を身にまとった御坂によく似た少女。その姿は追いかけようとする佐天を振り払うかのように人込みに紛れていき、追跡は困難になった。

 

「……気のせいだよね」

 

と適当に結論づけて佐天はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

一方通行の部屋に戻ってくると、そこに一方通行の姿はなかった。

 

今日一日何をしたかと言えばトイレに行き、コーヒーを飲み、寝転んでいただけだ。働かないもいいところだが、ここまでくるといっそ清々しい。

 

そんな彼が急に姿を消した。

 

でも佐天はそんなに気にしていなかった。どこかのコンビニ行ったのかもしれないし、気分転換に散歩でも行ったのかもしれない。ずっと家に閉じこもって生活する人なんて殆どいないのだからそれも人間としての当たり前の本能だったのかもしれない。

 

そんなことを考えながら佐天は夕飯の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

まさかあんなおぞましい実験をしている最中だとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

―――

――

 

 

繚乱家政女学校では生徒用の寮が設けられており、ここに通う生徒は例外を除きここで生活することになっている。

 

もちろん門限もきつく設定されており、一秒でも門限に遅れたら成績に大きく影響するといった中々厳しい規則があるのだ。

 

佐天は門限ギリギリで寮の門を潜り抜けて自分の部屋に戻っていった。

 

扉を開けると、そこから気の抜けた声が返ってきた。

 

「おー遅かったな涙子。何してたんだー?」

 

彼女は自分と同じ屋根の下に住む土御門舞夏。佐天と同級生で一年生から実施研修を任されたもう一人の女の子である。

 

もちろん佐天とは違い、成績優秀者のみに与えられる実施研修の椅子を確保したいわゆるエリートである。

 

「どうもこうもないよー……」

「んー?」

「あの後結局帰ってこなかったし、ギリギリまで待ってたから門限守れず罰則食らうところだったし……最悪の滑り出しってところかな」

「……話が見えないんだが、要は面倒な奴の世話係なったってことでいいのかー?」

 

荷物を適当に置き、部屋着に着替えることもしないまま佐天はベッドに倒れこむような形で寝転がりながら答えた。

 

「……まあ、そんな感じ。舞夏の方はどうなの?」

「常盤台中学の寮は楽しいぞー。教えてくれるシェフは一流ばかりで勉強になるし同じ年代の生徒しかいないから話しやすいしなー。もう友達が五人も出来たんだぞー」

「何それ羨ましいんだけど」

「まあなー」

「そういえば昨日の夜帰ってこなかったけど何してたの?」

「ふぇ?……あ、兄貴が風邪を引いたから、そのまま兄貴の家に泊ったんだ。もちろん寮監には連絡してなー!」

 

この時、あからさまに顔を赤らめ動揺している舞夏の様子に汚れている一部の大人は「そういうことか」と気づけたかもしれないが、純粋無垢で疲れている佐天にはそんな事気づけるはずもなく。

 

「そっかー……」

 

そしてその声が寝息へと変わっていったのはすぐのことだった。

 

「むむ、風呂も入らず歯磨きもせず仕事着のまま眠りに落ちるとはメイドの風上にも置けんな」

 

だが舞夏は無理に起こそうとはしなかった。風呂と歯磨きは最悪朝にやってしまえばいいし、メイド服にしわが出来てしまうがメイド服は数着の予備を用意してあるので明日はそれを着れば問題ない。

 

それより、なんだかんだ言いながらどこか楽しそうに眠りに落ちた佐天の表情をもう少し眺めたいと、親友の土御門舞夏は思った。

 

 

 

 

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