メイド学校に通う佐天さん   作:ラーフィ

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第四話 話してみると案外普通の人でした

街を行く人混みの中に、見知った後ろ姿を見かけた。

 

「御坂さーん!」

 

御坂と呼ばれた彼女は肩のところで切られた茶髪を揺らしながらゆっくりと振り向く。

 

「あ、佐天さん」

 

手をハラハラと振って佐天が追いつくのを待ってからまた歩き始めた。

 

ちなみに佐天は繚乱家政女学校の校則の関係で外に出るときは例外を除き常にメイド服じゃないとダメなため、こうしている今でもメイドの恰好で歩いているのだ。常盤台中学の制服を着た女の子とメイド服を着た女の子が一緒に歩いている姿はありとあらゆる人の視線を釘付けにしたが二人はそんなことを気にする様子もなく。

 

「そっちの様子はどう?」

「最近やっとまともに話が出来るようになりましたよ~。今までは何回話しかけてもうんともすんとも言わなかったから」

「え、佐天さんって赤ちゃんの世話でもしてるの?」

 

言いながら二人はとある場所へと向かっていた。それは二人が最初に出会った場所であり、仲良し四人組の集合場所でもあるところ。

 

「今日はお仕事休み?」

「はい。ほとんどない大切な休日なんですよ!」

「……全く、黒子や初春さんもそうだけど……ちょっと働きすぎなんじゃない?」

 

そう、彼女たちは能力者であるため忘れがちだが御坂は中学二年、ほかの三人は中学一年生なのだ。世間一般ではまだ働く年ではないのだが、風紀委員やメイドといった学園都市で知られていたり知られていなかったりする仕事をこなしているのだ。

 

これでは年上の自分だけがサボってるみたいじゃない、と御坂は最近思い始めていた。もちろん友達として三人の身体の心配もしているのだが。

 

と二人が仲良く会話している内に目的のレストランの前に着いた。その名も『あずきの真髄』。一体何がどうなってこんな名前になったのか店長に問いただしたい程変わった名前のレストランだった。

 

いつものように野外に開放されている席の方へ向かうと、そこには二人の先客がいた。

 

「あ、御坂さんに佐天さん」

「お姉さまあああ!!」

「黒子!テレポートで抱き着いてくんな!!」

「私お姉さまと会うのを楽しみにしておりましたのよー!!」

「いつも寮で顔合わせてるでしょうがー!!」

 

御坂の事を『お姉さま』と呼び慕う彼女は白井黒子。空間移動という珍しい能力を持つ大能力者(レベル4)で正義感の強い中学一年生なのだが御坂に対しての性癖が異常者が異常だと言うほど異常なのだ。自称『お姉さまの露払い』らしいが白井自身が露なのでは、と佐天は最近思い始めている。

 

「うーいーはーるー!!」

「はっ!」

「なっ、座っているからスカートを捲れないだと!?」

「ええ、私がそう何回もスカートを捲らせると思いましたか!残念ですね佐天さん。私だって恥があるってことを知ってください!」

「でも花柄のパンツは可愛いよね」

「なんで分かったんですか!!?」

 

顔を赤くしながらポカポカと佐天の胸元を叩いているのは初春飾利。定温保存という低能力者(レベル1)。ショートヘアの頭に造花の飾りの付いたカチューシャを付けており、ひ弱そうな身体をしているがこれでも白井と同じ風紀委員なのだ。能力、身体能力が劣る彼女が風紀委員になれたのは彼女が持つ超一流のハッカー能力があったからだ。ハッカーに詳しい人からは『守護神(ゴールキーパー)』と呼ばれているらしい。

 

「別にいいではありませんの。今日は特に忙しかったんですし」

「忙しかったって?」

「この前の爆弾魔、覚えてらっしゃいますわよね」

「ええ。あの薄汚い奴でしょ?」

「その男が今日取り調べ中に急に倒れましたの」

「え!?」

 

それはつい先日まで学園都市で起こっていた風紀委員が九人も負傷するという異常な連続爆破事件。通常の爆弾とは違い、時間や場所に法則性がないため犯人の特定に時間がかかったが、標的にされた初春が死んだと思って高笑いしているところを御坂に見つかり、制裁を受けたのだ。

 

その犯人の介旅初矢は警備員に捕まり、今日事情聴取を受けていたはずだが。

 

「えっと、まさか私が殴ったからとか……?」

「いいえ。脳に異常は見られませんでした。それに意識不明で倒れたのは介旅だけではありません。ここ数日で原因不明で倒れる患者が急に増えてるようですの」

「嘘っ!?」

「我々風紀委員にも原因を究明するように言われましたわ。医学的な原因が見つからない以上、外部から何らかの力が働いているのかもって」

「それで私色々調べたんですけど、今朝こんなスレを見つけまして」

 

と初春がノートパソコンを操作して、その画面を三人に見せる。席を立って覗き込むと「【速報】能力を底上げする道具が見つかる」といういかにもスレらしい題名が書かれていた。

 

そこには道具の存在を信じる者、信じない者、そもそも興味がない者など様々いたが、全員のコメントに共通していたのはある単語の存在だった。

 

「幻想御手?」

「あ、私知ってます。でもどこかの学者が残した論文だとか、料理のレシピだとか色々な噂があってよく分かんないんですよね」

「でも、もしその幻想御手が能力を底上げするモノだとしたら、そのために起こった脳への負荷が原因で倒れたってことが考えられるんじゃない?」

「その可能性は否定しませんが……信憑性が低すぎますの。まだ断定するのは良くないですわね」

 

スレや佐天の発言からも明確な言葉は得られなかった。黒子はうーんと唸りながら、今後のことについて考えていく。

 

「幻想御手かぁ……」

「どうしたの佐天さん?」

「あーいや、やっぱり無能力者(レベル0)の私からすると能力に憧れるっていうか……使ってみたいなーって」

「ダメよ。もし何らかの手段を用いて手に入ったとしても絶対に使ったらダメ!」

「えぇ……」

「佐天さんのためを思って言ってるのよ!確かに能力に憧れる気持ちは分からなくはないけど……」

「……でも――」

「とにかく」

 

と、佐天が何か言おうとしたところだった。白井がそれを遮るように口を開く。

 

「幻想御手についてはもう少し調べる必要がありそうですわね。専門家に聞いた方が良いかと」

「あ、それならこの人に聞いてみてはどうですか?脳の専門家の木山春生先生。意識不明で倒れている人が入院している病院に明日訪れるそうですよ」

「脳の専門家……確かにその人なら何か手掛かりを知っていそうですわね」

「んじゃ明日行ってみますか」

「……どうしてそこでお姉さまが仕切るんですの?」

 

 

 

 

――――

―――

――

 

 

その日の夜。佐天はノートパソコンをカタカタといじりながら幻想御手について調べていた。噂の真実を突き止めたかったのと……どうしてもそれを手に入れたかったという理由で。

 

「うーん……兄貴ぃー……」

 

相部屋の舞夏はそんな寝言を発しながら寝ていた。何がどうなればここまで兄のことを溺愛するのか不明なところだが、今回は好都合だった。

 

起きていたら『何を見てるんだー?』とか言って覗き込んでくるに決まっている。佐天はあまり音をたてないようにこっそり調べていく。

 

しかし。

 

「(見つからないなぁ……)」

 

かれこれ一時間近く経つのだが幻想御手の正体については全く掴むことが出来なかった。

 

やはり噂は噂なのか、そう結論づけてそろそろ自分も寝ようと思い始めた――

 

――その時だった。

 

「(……ん?)」

 

マウスポインタの矢印をそのページの題名の部分に指した時、その題名の文字の一部が反応したのだ。

 

「(隠しページ?)」

 

どうしてこんなところに、と思いながらも佐天はそれをクリックする。すると不気味に思えてくるほど何もない真っ黒なページに飛んだ。気になってページの下の方までスクロールしていくと、白い文字でこう書かれていた。

 

 

 

 

      DL

 

  TITLE:LeveL UppeR

ARTIST:UNKNOWN

 

 

 

 

 

「……これって」

 

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

佐天は今日も一方通行の家へと訪れていた。相変わらずソファに寝ころんだまま起きようとしないが、ここ最近は変化があった。

 

「じゃーん!見てくださいこれ!」

「……ただの音楽プレーヤーじゃねェか」

「ふふふ、実はこれにはある仕掛けがありましてねぇ」

「そォかよ」

「あ!まだ話は終わってないですよ!!こら寝ないで聞きなさいあーくん!音を全反射しないでください!!」

「……うるせェ」

「あ、ちゃんと聞いてくれてますね。なんとこの中には幻想御手が入ってるんですよ!」

「幻想御手だァ?」

「はい、能力を底上げする道具なんです!」

 

能力を底上げ、という言葉を聞いて一方通行は一瞬眉をひそめたが佐天はそれに気づいていないようだ。

 

「……」

「……あれ?驚かないんですか?」

 

自信満々に披露したギャグが滑ったような空気が漂っていたが、一方通行は微塵にも気にしていなかった。

 

それよりも気になったのは幻想御手の存在。『実験』のこともあって今の一方通行はそういう話に特に敏感になっていたのだ。

 

佐天が音楽プレーヤーを出して自慢してきたということは幻想御手は音楽そのもの。聞くだけで能力が上がるというバカげた話。

 

一方通行はその存在を全く知らなかったし、それを聞いた今でもそんなものただの幻想にすぎないものだと思っている。なぜなら音楽を聴くだけでレベルが上がるのなら、『実験』する必要性なんてないからだ。

 

だから。

 

「……くだらねェ」

 

一言で切り捨てる。そんなものは存在しないんだと。

 

「……その様子だと信じていませんね?」

「当たり前だ」

「いいですよーだ。私がレベル上がって度肝抜かさないように注意してくださいね」

「言ってろ」

 

一方通行が面倒くさそうに話を切り上げると佐天もこれ以上機嫌を損ねないように雑巾に手をかける。

 

これから夏本番。蒸し暑くなってくる中で佐天は冷房を付けず窓を全開にして拭き掃除を始めた。

 

そんな佐天の姿を睨むように凝視しながら、一方通行は考える。

 

「(まさかこれも『上』の奴らの差し金か?)」

 

佐天は学園都市の上層部に位置する人たちから直々に配属されたのだ。その裏の理由は見当もついていないが、この幻想御手の存在自体を佐天に持たせることに意味があったのだろうか。しかしそれには幻想御手に関する情報が少なすぎる。こんな状態で結論を出せるはずがなかった。

 

一方通行は掃除を終えた佐天に幻想御手について聞こうとしたが。

 

「オイ――」

「あ、ちょっと今から出かけますね。夕方頃には帰ってくるので」

 

絶妙にタイミングが悪かったようだ。一方通行は舌打ちしながら適当に答える。

 

「そォかよ」

「じゃあ行ってきまーす!」

 

くるっとターンして玄関へと一直線に向かった。佐天がいなくなったのを確認し、一方通行はゆっくりと立ちあがる。

 

そのまま押し入れの扉を開けて中を確認する。そこには適当に買った服と佐天がメイドとして使う道具やら様々入っていたが、一方通行が求めたのは奥の方に眠っていたノートパソコンだった。普段は全く使うことはないが念のために買っておいて正解だった。そう思いながらパソコンを立ち上げてあるワードについて検索をかける。

 

 

 

もちろん、幻想御手についてだ。

 

 

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