Fate/Weird Tales 作:Hisa Wisteria
基本妄想をシコシコ書いてるだけなのでそこのところよろしくお願いします
オリジナル鯖等々登場します。
断続的に書いていたものを書き足したり、かき直したりして投稿しています。気に入っていただけたら、ぜひともいいねしていただけると幸いです。
最後に電車を降りた駅から数時間。ひたすら暗い森に囲まれた道を歩いていた。シュバルツヴァルトという名は確か、ドイツ語で黒い森という意味だっただろうか。本当にその名にふさわしい様相だ。太くたくましく育った針葉樹たちは、その一本一本が不気味な美しさを放っていた。漂う魔力はこの場所の放つ雰囲気を殊更に引き立て、頬に触れる冷たい空気はまるで針で刺されているかのようだった。
「流石に寒いわね......でもまぁ、ロンドンと同じ位か。」
夜は更けて、気温が下がり、体の四肢は冷えていても、体の芯の部分はとても熱かった。これから一族の悲願を叶えられるの戦いに臨むのだ。せんせいからから盗む、もとい譲り受けた聖遺物を使えば、強力なサーヴァントを呼び出せる。愚かな欲かも知れない。だがこれは苦しみ死んだ父へ弔いだ。諦める事などありえない。私がやらなければ妹が、或いはまだ見ぬ誰かがそんな使命を背負い込んでしまうことになる。それは嫌だ。
「この令呪と父さんの導きのおかげね....」
つい三日前までロンドン時計塔で教えを受けていたティーンエイジャーが、僅かな時間でここまで準備し得たのは、一重に聖遺物を先生から盗む、もとい譲り受ける事が出来たという事が大きい。聖遺物は殆どの場合、高品質な魔術触媒として超高値で取り引きされている。それこそ、財を失い没落した我が一族では簡単に手を出せるものではない。そんな物が簡単に手に入ってくれたおかげで、最速と言っても良い行動を起こすことが出来た。
「霊脈が近いわね。英霊召喚はそこでしようかな。」
舗装された道をそれ、真っ暗な森の中へと踏み込んで行く。より強力な魔力を感じる方へと。葉が落ち腐って出来た土の上を暫く歩くと、少し開けた場所に出た。そこには小さな湖がありかなりの量の魔力を帯びていた。霊脈の中心部だろう。世界広しと言えど、これ程のマナを帯びている霊脈が未だに至る所に点在しているのは、ここドイツのシュバルツヴァルトの中だけだろう。ここシュバルツヴァルトは、未開の地が数多く残されている。加えて、この針葉樹一つ一つは神代から受け継がれてきたある種の神秘を要している。たとえ一つが微弱でもこれだけの量があれば強力になるのは必然と言えるだろう。
「綺麗な場所......」
空を見上げると美しい星々を見ることが出来た。ここらでは元々人工の光が少ない。その上、魔術師としての基本的な技能のひとつである、''強化の魔術''を使えば空に瞬くあまねくの星を見渡すことが出来た。夜空を見たのはいつぶりだろうか。母と見上げたあの空。見るもの全てが美しかったあの頃の何かを、私は忘れてしまったような気がする。
「さて.....準備しなきゃ。」
肩から下げた大きな鞄から、石灰の粉末の袋を取り出す。これが怪しげな粉末に見えてしまったせいで空港の税関で二時間近くも足止めを食らってしまったものだ。
石灰で円を描き、細々とした文字を円の中に書き込んでいく。
ものの五分ちょっとで召喚陣を構築する事が出来た。英霊召喚がここまで簡単だと言うのは拍子抜けだが、それは英霊を呼び出すのはあくまでも聖杯だからだ。令呪を授かった者は単なる要石といえる。だがそれゆえにサーヴァントとマスターは切っても切れぬ縁で繋がれているのだ。
魔法円の前に触媒となる遺物を置き、自分はその反対側に立つ。
「ふぅ........」
大きく息を吐く。目を瞑り身体中の魔術回路を開き、霊脈の魔力を効率よく身体へと取り込む。時計はもうすぐ十二時を指す頃あいだった。私の魔力が最大限に高まるには二時間程早いが、敵サーヴァントと遭遇する可能性や野生の動物達の危険性、これから野宿することを考えるとこれ以上夜道を一人で歩くのは流石に危険だ。
[素に銀と鉄]
何回も暗記し直した詠唱を始める。会ったこともない御先祖様が構築したシステムを、聖杯戦争の歴史に脈略と受け継がれてきた言葉を、心の中でなぞる。
[礎に石と契約の大公]
[祖には我が大師シュバインオーグ]
周囲を蒼白い光が包み始める。その光景はまるで蛍が舞っているようだった、
[降り立つ風には壁を]
[四方の門は閉じ]
[王冠よりいで]
[王国に至る三叉路は循環せよ]
[満たせ......満たせ......満たせ......満たせ.......満たせ......繰り返す都度に五度。ただ満たされる時を破却する....!]
凄まじい魔力と大量のエーテルが渦を巻き、眩い程の光を放つ。
[Anfang........]
[告げる!]
[汝の身は我が元に。我が命運は汝の剣に。聖杯のよるべに従い、その意、その理に従うならば応えよ!!!!]
光の輪の回転数が更に上がり、光がより一層強くなって行く。
[誓いをここに。我は常世総ての善と成る者。我は常世総ての悪を敷く者。]
[汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ!天秤の守り手よ!!!!]
光の輪は魔法円上の一点へと収束し、思わず目を覆うほどの煌々とした光を放った。集まったエーテルは規則的に纏まり、瞬間的に人の形をとった。
光の残滓が辺に広がり、光の中心から褐色の男の姿が現れた。
帷子に紅い胸当てや紅いレガースを着け、その一つ一つに古代の文明を想起させる紋章が刻まれていた。
「......これが...サーヴァント。」
少し遅れて達成感と安堵が体を走り抜け、力が抜けて膝を地面につけてしまった。
「っ.....」
開いていた魔術回路を閉じる。魔力がごっそり持っていかれたのだろう。だが確かに眼前に立つ褐色の男との確かなパスを確認出来た。ステータスを見える。間違いなくサーヴァントだ。
「おいおい、召喚早々に大丈夫か?お嬢ちゃん?」
曇りのない目だった。純粋で無邪気で美しい。伝承に曰く、大勢の人のためにその身を捧げたこの大英雄は千里を見渡すを眼持っていたという。
足に力を入れて立ち上がる。膝についた土を払い、男に向き直る。
「私の名前はリン。リン トーサカよ。あなたのマスターなんだからお嬢ちゃんなんて呼ばないで。」
「こいつは失敬。あんまりに若いもんでよ。少々心配になっちまったよ。」
若いとは言え私はもう一人前だ。少しムッとしてしまったが、それを表に出さないようにした。
「俺の名前は解ってるだろうが、一応名乗らせてもらうぜ。俺はサーヴァント、アーチャー。東方の大英雄、人呼んでアーラシュ カマンガーだ。よろしくな。」
「よろしくね。アーラシュ。」
弓兵のサーヴァント。大英雄アーラシュ。シリアにある古代の地層から発掘された矢尻。彼がトゥランとペルシャの国境を作り上げるために放った絶技の一射。その名残りを触媒とした事で彼は召喚された。
彼の宝具はおそらく対軍、対城あるいは対国にも匹敵しうるだろう。
「私は無事にいいサーヴァントを引き当てたようね。」
「ハハハ! そいつは解らねぇぜ?」
アーチャーは笑いながら頭をかいた。その笑顔もまた無邪気で愛嬌があった。
だがすぐその顔は曇った。何かを察知したかのように西側の空を見上げた。
私も少し遅れて強大な魔力が向かってくるのが分かった。凄まじいスピードだ。
「マスター。感じたか?」
「ええ。おそらく敵のサーヴァントね。こんなに早く仕掛けて来るなんて。感知範囲が想像より広かったみたい。」
思ったより敵魔術師の領地に入りこんでいたようだ。だがそれなら相手もこちらのサーヴァントの現界を感知したはず。このタイミングで仕掛けてくるとは、相当血気盛んな奴らしい。
「不測の事態ってやつか。どうする?ここは逃げるか?」
「確かに不測の事態ね。でも私、売られた喧嘩は買う人間なの。」
相手がどんなサーヴァントだろうが、関係はない。聖杯戦争のルールはシンプルだ。強い者が勝つ。ならばアーチャーがそう簡単に負ける事はないはずだ。私は彼を信頼している。
「ハハハ! そうこなくっちゃなぁ!!」
「迎撃よ、アーチャー。早速だけど、あなたの力を見せてちょうだい。」
「おうよっ!!!」
アーチャーは飛び上がり、近くで最も高い木の上にたった。
「敵を視認したぜ。南西に約六百メートルだ。迎撃開始する。」
彼の手に深紅の弓が現れた。彼の着ている鎧と同じく、美しい紋章が刻まれていた。
「我が作りし矢よ.....」
もう一方の手に変哲のない矢が現れた。シンプルではあったが綺麗な矢だ。それを弓につがえて魔力を込め始める。
引き絞られた矢は紅い光を放つ。
「行けっ...!!!」
放たれた矢は一筋の光となって一直線に飛んでいき、襲撃者へと襲いかかる。矢は炸裂し、何本もの木を吹き飛ばすほどの衝撃波を放った。それはざわめきとなって森全体へと伝わっていく。
「仕留めた?」
「ダメだ。奴さんかなりの手練だぜ。俺の矢を完全に防ぎやがった。」
「続けて迎撃!痛い目見せてやりなさい!!アーチャー!」
「言われなくても!!敵は南西三百メートルを尚も移動中!今度は防げるかな?」
今度のアーチャーの手には三本の矢が現れた。
それを一度に弓につがえ、引き絞る。
「アールマティの加護を受けた矢を受けてみろ!!!」
同時に放たれた三本の矢は螺旋を描きながら、直進し、再び襲撃者に直撃する。今度の一撃は先のものとは比べ物にならない規模で森を揺らした。木々をすり抜けた衝撃波が土や落ち葉を巻き上げる。私は顔を覆って、倒されないのように踏ん張った。
衝撃波が去り、顔をあげると、アーチャーがこちらに飛んでくるのが見えた。刹那、まるで雷に撃たれたように一帯は青い光に包まれ、アーチャーは私を担ぎながら森の木の上まで瞬間的に跳躍した。
「参ったぜこりゃ。あの野郎想像以上だ。」
アーチャーが私を担いだまま言った。
「あっ....ありがとう、アーチャー」
つい数秒前まで私が立っていた場所はぽっかりと小さなクレーターになっていた。
アーチャーが助けてくれなかったらと思うとゾッとさせられた。
「おぉ、わりぃ。立てるか?」
「え、えぇ。消耗はしてるけど、強化の魔術を使って木の上でバランスを取るくらいなら造作もないわ。」
アーチャーは私をゆっくりと下ろしてくれた。
「敵は?」
「あそこだよ。」
アーチャーが指を指した方向を見ると、数十メートル先の木の上で、灰色の鎧を着たサーヴァントが月光に照らされていた。顔の半分をマスクで覆い隠し、腰には赤い短剣が数本挿されている。
目に見えるステータスは軒並み、アーチャーと同等かそれ以上だった。
優秀なステータスを誇るならばセイバークラスと推察するのが妥当、加えてあの腰の短剣をみればまず間違いないだろう。
「あのステータス、加えて腰の短剣。セイバークラスとみて間違いないかしら?アーチャーどう思う?」
「まず間違いねぇな、ありゃ。」
セイバークラスを相手取るとなると、おそらく並のクラスでは勝つ事は難しいだろう。だがアーチャークラスなら別だ。遠距離攻撃に特化した弓兵であるならば、近距離戦闘に特化した剣士に有利を取ることができるはず。
「くるぞ!下がってろマスター!」
私は急いでアーチャーから距離のある位置の木の上へと移動した。
襲撃者は体のを丸めたかと思うと、凄まじい力で足場を蹴って一気に距離を詰めてくる。そのままの勢いで繰り出された蹴りをアーチャーはギリギリで躱し、足を掴んで空中へと投げ飛ばした。すぐさま矢を作り出し、襲撃者に向かってつがえる。
放たれた三本の矢は直撃し爆発した。完全に仕留めたかに見えた。だがすぐさま爆煙の中から短剣が数本飛び出し、アーチャーに襲いかかった。アーチャーはそれを弓を使って弾き、すぐさま矢を打ち返す。爆煙から飛び出てきた影は手に持った短剣でアーチャーの矢をいとも簡単に弾き、再び木の上に着地した。
「あんたやるじゃねぇか。女神の加護を受けた俺の矢をここまで簡単に防ぐとは。」
アーチャーの問いかけに、襲撃者は意外にも紳士的に応えた。
「アーチャーのサーヴァントよ。貴殿こそ当方の魔銀の刃をここまで容易くあしらうとは、相当な実力とお見受けする。当方、ここまでの強者と名乗りあいもなしに、覇を競い合わなければならないのは残念でならない。」
「戦士としての矜恃は持ち合わせているようだな。」
「無論。当方も生前は英傑と呼ばれた身。猛者との戦いの享楽は心得ている。」
そう言うと灰色の騎士は右腕をアーチャーに向かってかざした。するとさっきアーチャーへと投げつけられた紅い短剣達がぞくぞくと襲撃者の前へと戻り、手のひらの前で規則的にならんで円を描き始めた。
「我がクラスはセイバー。だがこの場で我が魔剣は使わない。当方が今宵、マスターから提示された職務はあくまでも偵察がゆえに。」
円を描く短剣達に魔力が満ち始め、赤かった刀身が青い炎とも雷とも見えるような様相を見せた。
「もう一度言うが、当方は猛者との享楽を心得ている。ゆえに当方は貴殿が我が魔剣を抜くに値する猛者である事を期待する。」
セイバーのサーヴァントが拳を構えると、短剣と同じく青い光を放ち始める。
「宝具封印。絶技、限定解放開始。貴殿の矜恃、見させてもらおう。」
一閃、セイバーの拳が短剣へと叩き込まれる。短剣は圧倒的スピードで直進し、私の目には一筋の光となってアーチャーの頬を掠めたように見えた。
「なっ??!」
「ふんッ!!」
間髪入れずに魔力を帯びた短剣にセイバーの拳が叩きつけられる。アーチャーは超高速にまで加速した短剣を紙一重で躱し、矢を放つ。
「あまい!」
セイバーはまた短剣を殴り飛ばしてアーチャーの矢を完全に粉砕しつつ、追撃に数本の短剣を殴り飛ばす。アーチャーは木の上を移動して紙一重で躱していく。
「おいおい!!剣を飛ばすなんてホントにセイバーかってんだ!」
アーチャーの声にはどこか余裕が感じられた。追撃を躱しながら矢を放つ。矢はセイバーに命中すると爆煙をあげて視界を奪いとった。
アーチャーは跳躍し、セイバーとの距離を一気に詰める。
「でりゃぁぁぁぁ!!!!」
煙を切りながらセイバーに向けて渾身の蹴りを放つ。小さな衝撃波が起こり、爆煙が一気に晴れる。
セイバーは蹴りを完全に受け切り、アーチャーの足を掴み取っていた。
「くっ.....!」
「ふんっ!!」
セイバーはそのままアーチャーを振り回し、森の下へと投げ飛ばした。木々が次々と倒れ、休んでいた鳥達が一斉に飛び立って行った。
「アーチャー!!」
そう叫ぶと、応えるように高速の矢が木々の間から飛び出し、セイバーへと向かっていく。セイバーは再び短剣をふるい、いとも簡単に矢をうち払った。
「森に紛れるか、弓兵。それもいいだろう。」
セイバーがまた手をかざすと、散っていた短剣が集まる。
「はぁぁっ!」
拳が短剣へと叩きつけられ、連続で放たれたそれは強大な威力をもって森へと降り注ぐ。木々はなぎ倒しされ、大地は抉られ、木の葉と土が舞う。森中が揺れ、それが私の所まで伝わってきた。
顕になった木々の根間を見ると、アーチャーが矢をつがえていた。
「今度はそう簡単には弾けねぇぜ?」
先程までとは比べられない程に引き絞られた矢には、煌々と光を放つほどの魔力を帯びていた。
「避けはしない。我が魔銀の刃と力比べといこう。」
セイバーも残った短剣に目一杯の魔力を込め始める。光はさらに強くなり、直視するにはあまりにも眩しかった。それに応えるかのようにアーチャーの矢も光を放つ。
「こっ....これは!?」
伝承に曰く、アーラシュは女神アールマティの加護をうけ、彼の作り出す矢はとてつもない威力を誇ったと言う。
「我が矢は敵を喰らう!! くらえッ!!」
「沈めッ!!!」
アーチャーが渾身の矢を放ち、セイバーも全力の拳を叩き込む。二つの光は空中で交差し、強烈な衝撃波と光を放った。強大な魔力の塊の衝突によって周囲に膨大な量の残滓を散らばらせた。
あまりの風圧に思わず顔を覆い、風がさるのを待って顔を上げた。
「これが...サーヴァントの戦い....」
両者渾身の力比べの結果を確認する。アーチャーとはまだパスが繋がっている事を確認した。消耗はしているようだが、まだまだ健在のようだった。セイバーに目を向けると、その腹にはアーチャーの放った矢が深々と刺さっていた。
「(どうなったのアーチャー?)」
繋がったパスを使ってアーチャーに状況を確認する。
「(力比べは俺の勝ちだ。これぐらいで仕留められたら苦労はないんだがな。俺の最大威力の通常攻撃をまともに受けてもまだ立ってやがる。長引けばこちらが不利かもな。)」
「(わかったわ。撤退しましょう。森を出て都市部に近づけばアイツも無理に仕掛けては来ないはず。あなたの足なら逃げ切れるわよね?)」
「(あぁ、問題ねぇ。合図で木の下に飛び降りろ。着地は任せな。)」
「(わかったわ。)」
撤退のタイミングを測っていたその時、セイバーはおもむろに口を開いた。
「賛辞を贈ろう。魔銀の刃を完全に撃ち落とし、我が鎧を貫く程の矢を有しているとは。貴殿は我が魔剣を抜くに値する猛者だ。」
「当然だろ?こちとら大英雄名乗ってんだ。そう易々と取られてたまるかってんだよ。」
腹に刺さったアーチャーの矢を引き抜きながら、セイバーは続けた。
「一つ進言を。先刻も申し上げたが、マスターからの提示された職務は偵察。それゆえ当方はこれにて撤退を選択する。貴殿らも撤退するべきだ。」
「力比べで負けたから尻尾巻いて逃げようってか?そう簡単に逃がすとでも?」
アーチャーが発破をかける。実力が拮抗しているこの状況で相手の出方を見る事は定石だ。私は黙ってアーチャーに選択を任せた。
「貴殿らがどのように考えるかは、当方には預かり知らぬ事。だが追ってくると言うのなら、当方は今度こそ全力をもってお相手しよう。」
さっきまでの戦闘を見てもセイバーの実力が不明確な以上、一旦引いて対抗策を講じる必要がある。このまま全力を出したセイバーを相手に勝利出来る確証などない。
「いいだろう。こちらのマスターもそれが最良と判断した。今日の所は引くとするぜ。」
「貴殿と次にまみえる機会があれば、当方も全力をもって貴殿を打ち倒すと約束しよう。」
「楽しみにしといてやるよ。」
「では、さらば。」
セイバーはそう言うと体を霊体化し、完全に透明になった。周囲から気配が完全に消え去った。このタイミングで彼が撤退を選択したのは僥倖だった。あのまま続けていたら、アーチャーは宝具を解禁するしかなかっただろう。
アーチャーに声をかけて、私が木の上から飛び降りると、彼は真下に来て受け止めてくれた。
「さて、これからどうすんだ?とりあえず街に行くのか?」
ゆっくりと私をおろしながら尋ねてきた。
「えぇ、森の中で工房を作るのは難しそうだから。また襲われたらたまったもんじゃないわ。それにこういう時の為にホテルも取ってあるし。」
「なかなか準備がいいじゃねぇか!うめぇ飯もあるか?」
「多分あるんじゃない?そんなことより、召喚してすぐ戦闘になってごめんなさいね。私の責任だわ。」
「ハハハ!そんなこと気にすんなって。さっきの戦闘のおかげで、マスターが優秀な魔術師だってわかったからな。あんたなら、心置き無く戦えるってもんだぜ。」
「ありがと。」
生返事をしながら、吹き飛ばされていた鞄を拾い、着いている土を払って、肩にかけた。
「別のサーヴァントに絡まれる前に行きましょ。」
「おう。俺におぶさりな。その方が早いぜ。」
「それもそうね。じゃあ、お言葉に甘えて。」
促されてアーチャーの背中に乗る。
「じゃあ、いくぜ?」
アーチャーは思い切り地面を蹴り、木の上に上がり、そのまま森の上を走り出した。
正直言って乗り心地はジェットコースターより最悪だったが、不思議と安心感はあった。
同時刻
ドイツ
フライブルグ市
キルヒツァルテン
いったいどうなっているのだ。
人々は叫んだ。その様相は果てしなく凄絶で、ダンテの絵画に描かれた地獄そのものだった。甲冑を着込んだ騎士たちが馬を駆り、目についたものすべてに切りかかる。何が起こっているのか、誰も見当がつかない。ただ目の前にあるのは、果てしなく夢に近い現実だった。すべての人間がおのおのの家にある凶器を持ち出し、目につく生物すべてに襲い掛かった。街の通りには死体が並び、地面は血によって塗られていた。
突如街に現れた中世的な塔は禍々しい気配を放ち、そこからはおびただしい数の騎士たちがあふれ出すように街に出てきている。
【この世すべての悪】とはよく言ったものだ。
少年は一人、薄暗い塔の一室。開け放たれた鉄格子の窓から街を眺める。
「僕は争いなんて大嫌いなんだ。」
虚ろな目には燃える街が映る。
嘆き、刺し、引き裂き、切り、潰し、燃やし、噛み付き、撃ち、轢き。命あるものは殺し、命なき者は犯される。
「魔女だ」
「異端者だ」
「王制に死を」
「処刑しろ」
「殺せ」
「忌まわしいガキめ」
「殺してやる」
怒号や罵倒、行き場をもたない叱責がこだまする。
人々の悲鳴は、少年の慟哭に共鳴するように大きくなっていく。
「だからみんな死んじゃえ。」
少年は振り返る。すると床から滲むように血が湧きだし、奇怪な模様を有した円が現れた。
「汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を放つ者。」
祭壇には供物として、ケルト神話においてクーフーリンを襲ったという大鴉の羽がささげてある。先ほど愚かながら挑んできた人間の魔術師が持っていた物だった。
エーテルを含んだ黒い靄が部屋中に満ち、それらが召喚陣の中心に急激に集まっていく。眩いばかりの光が靄を切り裂く。
そこには一人の女が立っていた。
深紅のドレスに身を包み、膝まであろうかという長い灰色の髪を持ち、頭には兜とも、王冠とも見えるものを被った背の高い女だ。天井が低いせいか、ぎりぎり部屋に収まっているような感じだった。
「うふふふ。ここは良い匂いがする。そう、わたくしの好きな匂い。そうよね、小さな被虐者さん?」
不気味な女が喋りだす。
「うん。ここはとっても血の匂いがするね。」
少年はにこやかにそう答えた。
「ええそう。血の匂い。争いの匂い。暴力の香ね。」
小さな被虐者はさらに嬉しそうに、そして無邪気な表情を浮かべながら続けた。
「僕が君のマスター。お名前は?」
「わたくしは殺戮と破壊と戦争の女神。モリガン。この歪んだ召喚においては狂戦士の器を得て顕現したわ。其方とは気が合いそうね。」
「よろしくね。バーサーカー。」
「あらあら。あなたは美麗なる夢魔の女王に名乗らせたのよ?あなたも名乗ってちょうだい?」
「うん。そうだったね。僕はアヴェンジャー、ルイ十七世。面倒だから簡単に言うけど、僕の国でも似たような催しがあって、僕はそこで呼ばれたんだ。」
「ああ。見たらわかるわ。其方は醜い殺戮から生まれたのね。」
バーサーカーはゆっくりと少年に近づき、そして頭を優しく撫でた。本当に優しく。まるで我が子を褒める母親のように。
「ああ。なんて可愛らしい。こんな可愛らしい男の子には出会ったことはないわ。」
バーサーカーはうっとりした顔で鉄格子の外を見ると、少年に問いかけた。
「これも其方がやっているの?」
アヴェンジャーはにっこりと笑いながら、褒めてもらいたいかのように誇らしげに答えた。
「そうだよ!みんないがみ合って、心の底では何時だって誰かを殺したいって思ってるんだ。だから僕が王様になって、みんな殺して、誰も殺したい人をいなくならせてあげるんだ。」
バーサーカーはこれまで以上にうっとりした表情で言う。
「うふふふふふ。なんて美しいのかしら。暴力が生み出した怪物がさらに大きな暴力を生むなんて。」
バーサーカーは再び少年に向き直り、彼を抱き上げた。
「ふふふ。わーい!」
楽しそうに無邪気に笑う彼を胸に抱き、バーサーカーは言う。
「戦いと殺戮、それに破壊から生まれた者はすべて私のクラン子供。ああ、愛しい私のクランの王。共にすべてを殺して、壊して、犯してしまいましょう。」
薄暗いの部屋の中で二つの影が笑う。街から聞こえる慟哭は彼らを一層の事酔いしれさせた。
数時間後
ドイツ
フライブルグ市
キルヒツァルテン郊外
「なあ。あんたってホントにあの超有名な作家なの?」
明朗闊達な少女は街を見渡しながら、魔術師の霊基を与えられたサーヴァントに問うた。
「厳密には違う。僕はあくまで影法師でしかないのさ。確かに生前の記憶はあるし、遂げられなかった願望だって持っている。だけどそれだけなんだ。なんていったって僕は死んでしまったんだから。死はすべてに訪れる絶対的な終わりなのさ。」
キャスターは答えた。
黒い肌に丹精に編み込まれたドレッドヘアー。母なる大陸の血筋を受け継ぐ少女は、胸の高鳴りを抑えられないようだった。
「ふーん…まあ、よくわかんないけど。」
少女は腰を上げ、昨夜まで苦しみに包まれていた街を眼下にキャスターに笑いかける。
「生き返ったんなら、人生楽しまないとね。」
屈託なく、途方もなく心の底から笑う彼女を見た。その姿はまるで、生前に出会った、どうしようもなくあこがれた者の在り方ようだった。
「君を見ていると、忘れかけていた物を思い出すよ。」
「えへへ。生きてた頃にこんな経験したことないでしょ。完全に封鎖された街に乗り込むなんて。」
彼女は相も変わらずニコニコとしていた。数日前まで、今日を生きるために明日を捨てるような生き方をしてきたというのに。それが彼女の生きたかなのだろう。愛おしく、たくましく、悲しく、楽しい。そうあらなければ、この世界は彼女が生きるには辛すぎる。
誰よりも戦乱を嫌い、人の届かぬ果てを目指した文豪は街を見ながら言う。
「あれから多くの年月が経とうとしていてもなおも、世界でこんなことが起こっているのだなんて。」
その眼は悲しみか、憂いか、茫然か。彼の目に映るのは地獄、世界に名を馳せる大文豪の生前に巻き起こった戦乱と似たものだった。
「さーて!目指すは街の真ん中にある謎の塔!平和なこの世界に突如として巻き起こった災厄をぶっ倒そうじゃないの!」
彼女の眼は輝いていた。まるで戯曲に登場する古き英雄たちのように。目前の広がる地獄を冒険し尽くしたいようだった。
「無茶はしないでくれよ。キャスタークラスとして最低限の援護はできるが、僕自身は戦えないんだから。」
「大丈夫だって!なんせ私は世界で一番強いんだから!」