Fate/Weird Tales 作:Hisa Wisteria
基本妄想をシコシコ書いてるだけなのでそこのところよろしくお願いします
オリジナル鯖等々登場します。
断続的に書いていたものを書き足したり、かき直したりして投稿しています。気に入っていただけたら、ぜひともいいねしていただけると幸いです。
サーヴァント召喚から一夜
フライブルグ近郊
けたたましい着信音で目を覚ました。つい数時間前にドイツに到着し、サーヴァントの召喚を済ませたばかりで恐ろしいほどの頭痛と眠気が残っていたが、ベッドから体を無理やり引きはがして携帯電話をとる。
「もしもし。」
「やあ。執行者。そちらでは朝かな?」
電話の相手はロードエルメロイ二世だった。
「ああ、今起きたところだよ。」
あくびを噛み殺しながら答える。目を擦り、昨日の夜中に召喚科の力を借りて作った工房を見回す。
「拠点も押さえられたし、こちらとしては今日中から調査を始めようと思ってたところだ。」
「ああ。召喚科から報告は受けている。そこなら君の期待にそえる霊地だろう。」
「現状は満足してる。」
ベッドから降り、武器に魔力を込める祭壇の前に置かれたテーブルに並べられた重火器を見る。昨日から仕込んでおいた弾丸たちには十分に魔力がこもっているようだった。
「それで?召喚科からの報告で十分なことを確認するために電話を寄こしたわけではないんだろ?」
HK417 DMRのマガジンを手に取り、儀式を済ませた劣化起源7.62㎜弾を一発ずつ込める。それぞれに魔術師の魔術回路を破壊するのに特化した術式が組み込まれている。魔術回路を切ってつなぐ、数多くの魔術師を葬ってきた先代の起源弾には遠く及ばない代物だ。だが希薄となった【起源の発露】という効果に我流の儀式と術式を使って強化し、自分自身の起源も同時に組み込むことである程度の量産と応用力を実現したものだ。
「話が早くて助かる。実は君のいる場所から十数キロの街でとんでもないことが起こってるんだ。」
「というと?」
「電話を繋いだままネットニュースは見れるか?」
弾を込め終わったマガジンを机に置き、携帯の機能を使ってニュース欄を確認する。
「【ドイツ、フライブルグ市キルヒツァルテンで暴動発生。現在、街は完全封鎖中】ここから近いな。」
「それだ。今は魔術協会が厳戒態勢を引いて事態の隠ぺいに取り掛かっているが、それは間違いなくサーヴァントの仕業とみて間違いないだろう。」
「神秘の隠匿のため、現地に行って調査しろと。」
「そうだ。」
次々と仕事が増える一方だ。これほど派手なことをやらかす魔術師がいるなんて。
「とりあえず、君はキルヒツァルテンに向かって何が起こっていたのか確認してくれ。それと――」
ロードエルメロイが言い淀んだ。
「それとなんだ?」
「――私の教え子がその亜種聖杯戦争に参加しているんだ。」
電話越しでも、彼が頭を抱えているのが分かった。
「まさか、子守りをしろなんて言いださないでくれよ。これ以上仕事を増やされてたら困る。」
ロードは口を開いた。
「彼女には連絡済みだ。助手として存分に使ってくれて構わない。外見によらずタフなレディなんだ。」
「助手なんて必要ない。」
仕事は一人で十分だ。時計塔のひよっこなんて足手まといもいい所なのが目に見える。
「ではこうしよう。彼女を無事に生きてロンドンに戻したら追加でエルメロイから報酬を出す。」
「そこまでする理由は?」
食い下がってくるロードに尋ねた。自分の生徒には過保護気味だとは聞いていたが、まさかここまでとは。何が彼にそうさせるのか。
「彼女が私の教室の生徒だからだ。」
言葉を失った。そんな理由で私財を投げ出すロードがいるとは。こんな人間がどうやって時計塔で生き残ってきたのか。
「善処する、こき使わせてもらおう。」
「それでいい。彼女はオリジナルの聖杯戦争の関係者だ。君の力になるだろう。」
「な、、それってもしかして」
「合流ポイントは追って送る。頼んだぞ。」
「あ、ちょっとま…」
逃げるようにロードは電話を切った。
「くそ。」
聖杯戦争の関係者。思い当たるのは御三家のアインツベルン、マキリ、そして遠坂。アインツベルンとマキリはそれぞれ聖杯戦争が瓦解した段階で衰退の一途をたどっていった。だが遠坂だけはその後でも積極的に亜種聖杯戦争に参加していった。前に読んだ資料によると中国拳法の流派である八極拳に根源に至る道を見出したらしい。
先代の遠坂の当主であった遠坂時臣を殺したのは、自分の先代である衛宮切嗣だった。
あの時は確か、フリーランスで魔術師を殺して回っていた時だっただろうか。自分たちはアメリカ出身の魔術師に雇われ、遠坂時臣を暗殺した。この時初めて、聖杯戦争に関する噂を耳にしたのだった。
”遠坂時臣は聖杯戦争をもう一度行うつもりだ”と。世界をひっくり返しかねないそんなことを、先代が見逃すわけもなかったし、なにより莫大な報酬が出たのを覚えている。今思えば、先代遠坂は聖杯戦争の参加者側だったのかもしれない。
「なんて因果なこった。」
送られてきた座標を確認する。
「ライダー」
背後に霊子が集まり、白銀の甲冑を着込んだ騎士を形作った。
「はい。ライダー。ここにおります。」
「これから斥候に行ってほしい。場所はこの一帯だ。」
紙の地図を開き、指定されたエリアに円をつける。
「ええ、問題ありません。この場所から私が先行します。」
そういうと地図の円の近くを差した。
「そうしよう。合流するのは時計塔の人間だが、万が一ってこともある。覚悟しておいてくれ。」
「了解しました。」
「よし。準備出来次第、出発する。用意してほしいものがあったら言ってくれ。」
「そうですね…では、当世風のお召し物を。」
「霊体化すればいいじゃないか。」
「そうなのですが…」
ライダーは顔をそらしながら言った。
「あの状態はあまり好きません。なるべく実体としてこの世にありたいのです。」
彼女は少し恥じらいながら言った。
「なるほどね。ま、そういうことなら途中で買ってやるよ。」
「感謝します。マスター。」
英霊の事情なんてわかったものではないが、彼女たちは過去の影。少しでもこの現代、自分たちの築いた世界に立っていたいのだろう。
体にホルスターを巻き、腰と脇に銃火器を仕込ませる。愛用のコートを羽織り、その内側に大型のライフルを隠し持つ。
「せめて店に着くまでは我慢してくれ。そんな恰好で街歩かれたら目立っちまう。」
「わかりました。」
ライダーは跪きながらそう言うと、即座に霊体化していった。
愛煙するタバコを口に咥えながら、工房の結界を一時的に解いて外に出た。
狂騒から一夜明け、その日最初の日の光に照らされる町の姿を見渡す。中世から残る人工物と現代の街並みが混ざり合った、ある種神秘さ、古臭さ、健美さを見せるその町は数時間前の奇怪な出来事の余韻に冷えあがっているように映った。
街の通りに並べられていた死体は影すら残さず消え去り、昨晩確かに終わったはずの命達が、それまでとよく似た一日の始まりを迎えていた。
当たり前に送ってきた日常、和やかで、健やかで、人として至極幸せで、全うで、多くの人々が「これぞ人生」というような生き方。疑問もなしに彼らは今日を謳歌する。皆が分かっているはずの、気持ち悪さを忘れ、昨晩の出来事は自分とは関係ないと断じ、魂の隙間に入り込んだ何者かに気付かない。
「誰に聞いて昨晩の騒ぎとやらは他人事。人々は口をそろえて〈ずっと家にいたから外で何が起こっていたのか知らない〉ときた。明らかな大魔術の痕跡が空気中に漂っているにもかかわらず、いったい何が行われていたのか見当がつかない。どうしたものか。」
頭を掻きながら町中を歩く。その隣には男物の黒い背広に身をつつみ、華聯でいて聡明、紳士的であり淑女的な空気を身にまとった中性的な女が侍っていた。いや、中世的といった方がいいか。
「やはり。サーヴァントの所業でしょう。これほどまでの大規模なもの、神代の御業を行使する魔術師かあるいは、〈都市を恐慌に陥れた〉逸話を持つ英霊の宝具による物か。それ以外には思い当たりません。」
「とりあえず、今日のところは予定通り。ロードエルメロイの言っていた教え子とやらと合流することにするか。」
「ええ、それが最善と私も考えます。マスター。」
隣町で買ってここまで着させてきた背広のセンスは我ながらなかなかなものだと思う。黒いメッシュの入ったブロンドの髪の毛にすらっと高い身長はまさにおとぎ話に登場する騎士そのものだった。
「こうしてみると、その服、なかなか似合ってるじゃないかライダー。優秀な社長秘書って感じがしてな。」
そんな言葉を口にした瞬間。すれ違ったアフリカ系の少女を連れた男の言葉が耳に飛び込んだ。それをどう形容したいいか。昔、親父が言っていた極東の国の諺を借りて言うと〈寝耳に水〉って奴だろう。
〈サーヴァントなのだから〉
確かにそう聞こえた。すれ違ってから暫くしてから、ライダーが口を開いた。
「賛辞の言葉には感謝します。が、マスターは気づかれましたか?」
「もちろんだ。ああ俺もなかなかどうして間抜けなもんだ。ああやってすれ違うまで気付かないなんて。」
「それは仕方ないでしょう。あの二人とも奇妙な気配がしました。人間でありそうでないような。あの雰囲気は生前であった妖精のようでした。」
「とりあえず、距離を保って後をつけるぞ。この町で起こった出来事に関係してるかもしれんし、そもそも聖杯戦争の関係者であることに間違いなさそうだしな。」
「了解しました。では私は霊体化してビルの上から追います。身に危険が迫った際は迷わずに令呪を使ってください。」
「わかってるよ。じゃ、あとで。」
お互いに顔を合わせ、それぞれの仕事にかかる。ライダーは跳躍しながらその姿を消し去り、自分は人込みをかき分けながら来た道を戻ってさっきの二人組の姿を探した。
追跡を初めて三十分。地味目な色合いだがしっかりとサイズが合わせてある上物のスーツを着た、欧州出身と思われる痩せぎすの男と、ドレッドヘアーを後ろで束ねた十代後半から二十歳くらいのアフリカ系移民の少女と思われる奇妙な二人組は、この町の市営バスに乗りこみ、郊外の方へと移動していった。
無論、後を追って同じバスに乗り込んだはいいものの、例の二人組は一向にバスから降りる気配がない。
いよいよ終点も近くなってきて、ほかの乗客の数もかなり疎らになってきた。今座っている最後方の座席からは、バスの全体の丁度真ん中あたりに座った彼らの後ろ姿はしっかりと確認できていた。
「(ライダー。そちらから感じられる変化はあるか?)」
魔力のパスを通じてライダーに問いかける。
「(いいえ、マスター。現在、一定の距離の先回りを保ちつつ前方から様子を伺っていますが、動きはありません。)」
どうも嫌な感じだ。人通りの疎らな郊外の方にまるで連れてこられたような気がした。
「(次の停車中に仕掛ける。あいつらが何であれ、人外の類であることは確かだ。この町で起こった儀式に何かしらの関係があるはずだ。)」
「(マスター、私はどうすれば?)」
「(お前は待機しておいてくれ、呼んだらすぐ来れるようにな。)」
「(了解しました。マスター。)」
ライダーにそう伝えてから、コートの内ポケットから赤黒い液体の入った小さな瓶を取り出した。
「ここから先は、正義の味方には見せられない。」
そう呟いて、コルクでできた栓を外し、ゆっくりとそれを床に垂らす。
市街地で追手にキャスターが勘付いてから約三十分くらい、バスに乗り込んで郊外の方に出てきた。人気のない所まで何とか誘導できれば、私も心置きなく戦えると思ったからだ。もしあそこで私が全力で戦ったらきっと多くの死傷者が出ていただろう。それは嫌だ。それにどんな英雄だって、無垢の人々を巻きこむような戦いは避けるだろう。だから私もそうしたんだ。
「キャスター。あなたが言う追手ってやつは今どこにいるの?」
痩せぎすの地味なスーツの男、キャスターに小声で問いかけた。
「どうやらこのバスを一定の間隔で先回りしているみたいだ。誘っているのか、こちらの動きを見極めているのか、何はともあれ僕と同じサーヴァントであることには間違いないだろう。」
キャスターもまた小声でそう答えた。
「一つ気になってるんだけど、なんでそんなことがわかるの?」
「僕はこれでもサーヴァントだ。英霊になった事で、生前に持っていた能力に由来するスキルが備わっているのさ。とはいってもそんなに便利なものでもない。大まかな目標の位置がわかる程度のものだよ。」
彼は、出会ってからというものずっとこんな語り方をする。自分を卑下するような物言いだ。もっと自分の残したものに誇りを持ってもいいと思うのだが。
「へぇ。サーヴァントってやっぱりすごいんだ。」
「関心している場合じゃないぞ。マスター。いつ仕掛けてくるかわからない。どうやらほかの乗客はみんな次で降りるようだ。相手にとっては好機に違いない。」
バスが停留所に停まり、ほかの乗客が次々と前方の方にあるドアから降りていく。最後に、一番後ろに座っていた茶髪の男が、降り口で何やら運転手と話しているようだった。何かトラブルかと持って聞き耳を立てようとしたが、会話の内容はあまり聞こえなかった。男は最後に〈よい一日を〉と運転手に言って降りて行った。バスのドアが閉まり、運転手がアクセルを踏み込んだ。その時だった。
「いたっ・・・」
足首に刺されたような痛みが走り、思わず声をだしてしまった。慌てて足首に目をやると、小さな、ヒルのような形をした赤黒い生き物がそこには張り付いていた。
「うん?どうしたんだいマスター?」
「いや、なんか変な虫みたいなやつに噛まれて・・・」
言いかけ、体中が痺れた。もっと適格に言うと、体の時間が止まってしまったような感じがした。筋肉に動けと命令しても脳からの伝達が異常に遅いような、故に口すらもうまく動かせず、喋ることが出来なくなってしまった。
キャスターは私に起こっていることを察したようで、すぐ運転手のもとへと走っていった。
「おい!バスを止めろ!」
キャスターが叫んでいるのが見えた。だが運転手は反応しない。ハンドルを固く握りしめて、微塵も離さず、足はアクセルを満身の力を込めて踏みしめていた。
運転手が大きくハンドルを右に切ったのが見えた。
バスが大きく傾くその数舜、キャスターが床を蹴ってこっちに文字通り飛んできた。
バスは山あいに沿った道路をせき止める形で横転した。中にいた私たちは激しい衝撃に襲われ、バスの天井や床を転がりまわった。体が言うことを聞かず、私はろくな受け身一つとることが出来なかったが、キャスターが私を覆いかぶさるように抱きかかえ、守ってくれた。
転がった天地が車体の左側を地にして止まった。
人気のない山道を歩きながら、小瓶が入っていたのとは反対側の内ポケットから箱を取り出す。中に詰まった煙草の内から一本を取り上げて口に咥え、風が入らないように先端を手で覆って何の刻印も装飾も入っていないジッポライターで火をつける。
深く息を吸う。この季節のドイツはまだ冷えていることもあって、冷たい空気と煙草の煙が肺の中へと流れこんだ。添加されたメンソールが肺の内壁にしみこむのを感じてからゆっくりと息を吐く。
バスは停留所から百メートルほど行った山あいの道で横転していた。
バスから降りるとき、運転手に強力な暗示をかけておいたのだ。それほど難しい暗示ではない。時計塔に属する魔術師であればこの程度の事は全体基礎の段階で習う事だ。もっとも耐性のない一般人に抗う術等ないだろうが。
道路をせき止めるように横転したバスから数メートル離れたところで立ち止まり、吸い終わった煙草を投げ捨てる。
「早く出てこい。この程度で殺せるなんて思ってない。」
声を張ってそう呼びかけるとバスの右側の窓、つまり上側の窓からあの男が。欧州出身であろう、痩せぎすの、地味目の上物のスーツを着た、尋常ではないであろう彼がひょこっと頭を出し、それから手をついてバスの上に立ち上がった。
「いたたた。まったく酷い目にあった。」
そういって男は、服についたガラス片を手でパンパンと払い落とすと改めてこちらを向いた。
「君は一体何者かね。何の目的があって僕たちを狙ったんだい?」
凡庸で気の抜けるようなことを問うてきた。そんなことぐらいわかりそうなものなのに。
「お前の質問に答えるつもりはない。俺の質問に答えろ。」
コートの内側に手を入れ、脇の下に仕込んでおいたホルスターからハンドガンBerretaM9を抜き取り、ゆっくりと痩せ男に向ける。
「昨晩、この町で大規模な魔術儀式が行われたようだな。犯人はお前たちか?」
問いを投げると、男は両手をプラプラと上にあげ、飄々と喋り始めた。
「おいおい。いきなり銃なんか出さないでくれよ。そんなものを向けられたら話もできないじゃないか。魔術師君。」
「質問に答えろ。」
射撃体勢を崩さずにそう告げると、男はぺらぺらとまた喋り始めた。
「昨日の暴動に関しては、僕たちは何も知らない。何かこの町で異常が発生したという事を知って、ただ単に、興味本位で、ちょっとした冒険のつもりでこの町に来たんだよ、僕たちは。そんな僕たちを付け回して、君たちこそいったい何のつもりなんだい?」
投げられた問いを無視し、もう一つの問いを投げ返す。
「お前の真名とクラスを今ここで明かせ。」
少しの間、静寂が一帯を包む。男は〈はあ〉と息を吐いて、そして答えた。
「やっぱりそっちにもバレてたんだね。いかにも、僕は今回の聖杯戦争に招かれた者。サーヴァント、キャスターだ。残念だけど真名は明かせない。それが聖杯戦争とやらの定石なんだろう?」
やはりサーヴァントか。街中ですれ違ったときは耳を疑ったものだ、なるほど、やけに時代錯誤なスーツのセンスだと思ったが、なるほどあの風体は比較的近世の英霊という事なのだろう。
「一回くらいは僕の質問にも答えてくれよ。僕のマスターはどうやら君の魔術によって動けなくされているみたいじゃないか。流石に卑怯だろう。動けない相手をなぶり殺すのかい?これを解いてくれるつもりはあるのかな?」
黒人の少女に食らわせた術式。先代がさらにその先代から継承した魔術、固有時制御〈Time alter〉。人体の内部を疑似的に固有結界とし、身体に効果範囲を限定した時間制御。俺が先代から受け継ぎ、衛宮家に伝わる魔術刻印を自分の血液に転写し、他人の体内でのそれを再現できるようにした代物。もちろん完全な転写ではなく、劣化コピーのようなものだ。それでも今回使ったのは固有時制御四重停滞〈Time alter―Square Stagnate〉。身体の時間経過を四倍遅らせる術式だ。感覚器官も、神経も、血流も。すべての人体で行われている生命活動を四分の一倍速にする。人間相手であれば、これだけで活動不能に追い込めるだろう。
「これは戦争だ。何でもありの殺し合いだ。マスターを排除していくのは最も効率的な戦闘ドクトリンだ。マスターなしではサーヴァントは限界を保てない。」
「確かに、君の言う通りだ。交渉は決裂の様だな。僕たちは戦うしかないようだ。悲しいことだ。心が重いよ。」
そういって男は頭を振りながらうなだれた。
「俺は最初から交渉なんかしていない。だが、こちらの条件を飲めばお前のマスターを救ってやる。」
「条件?」
キャスターはすかさず問うてきた。
「自害しろキャスター。それだけでお前のマスターの術式を解いてやる。」
「そうかい・・でも残念だね。僕は君と取引するつもりはないし、そんな意味なんかないみたいだ。」
哀し気な顔から一転、キャスターは不敵な笑みを浮かべていた。
瞬間、バスの後部に付いていたドアが凄まじい勢いで蹴り破られる。もともと外れかかっていたドアは、肩を掠めるようにして後方に吹き飛ばされていった。
バスの中から、あの男のマスター。黒い肌にドレッドヘアーを頭の後ろでくくった少女が現れた。
その姿、挙動を見て狼狽えてしまった。
こいつ、なんで動ける。
こいつの持つ魔術回路が原因なのだろうか、それとも俺の組んだ術式を解析して自力で解除したのか。
そんな、目の前の理解不能を処理しようとしたほんの一瞬だった。
瞬きすら追いつかない、まさに駿足、距離を詰められていた。少女の拳は固く握られ、上半身のしなりを生かして、ボディーに全力の一撃を叩き込もうとしていた。
「Time alter―」
とっさの判断で固有時制御を発動しようとするが、しかし間に合わない。体を右側にそらすだけでいいはずなのに、そんな行動すら間に合わない。
致命的な打撃を覚悟した瞬間、白い光が目の前を覆った。少女から繰り出された殺人的なパンチを、そこに現れた光が完全に受け止めた。
二つの物体の衝突によって起こった衝撃波があたりに走る。
「マスター、ご無事ですか?」
白亜の甲冑をまとった騎士がそこにはいた。