Fate/Weird Tales 作:Hisa Wisteria
シュヴァルツヴァルトの森の中
暗い森の中で、深紅の鎧に身を包んだ騎士は退去しようとしていた。
彼は聖杯戦争を戦うために用意されたサーヴァントだったが、召喚早々にマスターに見切りをつけた。彼のサーヴァントとしての特性上、自分の支配下に定めた霊地から魔力を得ることができる。自分を召喚した不遜な魔術師を大剣で叩き潰し、森に根差した霊脈と接続して現界を保っていた。
そんな所に、ルーラーが行使した令呪による自害の命令があった。どうやら、聖杯戦争とやらは、なかなかに混迷しているようだ。どのような経緯にせよ、剣呑な命令をルーラーが発する程のイレギュラーが起こっていると考えられる。
命令に従い、彼は自分の霊核に自らの剣を突き立てた。しかし、彼の持つ対魔力と狂化によって、令呪の命令に対しても少し反抗できたからか、彼の行動は霊核を完全には砕かなかった。もちろん致命傷だが、即死ではなくゆっくりと彼の体を蝕む傷になった。
しかし、バーサーカーである深紅の騎士イロンシッドはこれでよいと思っていた。自分が仕えるのは後にも先にもガレスだけだ。陰気な魔術師風情に操られるなど、ありえない。無理矢理従わせようとするならば殺すだけだ。叶わざる自らの願いと共に、静かに座へと帰るのを待っていた。
しかし、そんな彼一つの強力な命令が届く。
『おいで、バーサーカー』
本来はルーラーが行使すべき令呪によってもたらされた命に応えるべく、イロンシッドの体は魔力の本流となって転移を始める。
彼が再び実体化したその荒野には灰を被ったようなベールで顔を隠した魔女のような女と十歳前後に見える少年がいた。
「やあ。君がこの聖杯戦争のバーサーカーだね?」
幼さの残る少年が口を開く。あどけなく、可愛らしさすら持ったその口調は、しかし品格をも持ち合わせていた。まるで王になるべくして生まれてきたような、万人に愛を受ける為政者としての才覚を持つように感じた。
「お前ら…何者だ…?」
少なくとも、ルーラーではないことは確かだとイロンシッドは思った。加えて、少年のそばで圧倒的に禍々しい神気を放つ女。見間違うことのない、バーサーカーが生前に森で出会った魔女の持っていたそれとよく似ていたのだ。似ているが違ったのだ。イロンシッドは警戒を強めた。
「僕はアヴェンジャー。ルイ=シャルル。君は?」
アヴェンジャーと名乗った少年は問う。彼の顔には優し気な笑顔があった。そこに、イロンシッドは僅かな綻びを見た。このアヴェンジャーを名乗った少年は、気味が悪かった。まるでその笑顔が機械的なモノのように、ただの人間の真似事のようにイロンシッドの目には映った。人の心など理解しないような、怪物のような奇妙さ。深淵のように黒い眼が恐ろしかった。
「俺は深紅の騎士、イロンシッド。見ての通り死にかけだ。何の用だ?」
相対するのがどのようなモノだろうと、イロンシッドには関係ない。戦うにしろ、彼は深手を負っている。勝算は低いだろう。そもそも、第二の生に求めるものが手に入らないというのなら潔くあきらめる。それだけなのだ。
「僕の剣となって戦ってくれないかな。イロンシッド」
少年が静かに言う。イロンシッドはそれを聞いて即答する。
「嫌だね。俺が剣を捧げるのは、過去にも未来にも友のためだけだ。」
「モリガン」
強烈な速度で振り向かれたハルバードがイロンシッドの頭にかぶった兜をかすめる。アヴェンジャーのそばに立つ、神気をまとった女が振るったものだった。
無残にも砕け散った兜があたりに散らばる。
「君にも願望はあるんでしょ?このまま消えてもいいの?」
少年は笑顔を崩さない。
「願い、叶えてあげようか?」
悲劇の王子。被虐者の王。この世すべての悪であれと願われた少年は無邪気にそう告げながら笑みを深めた。
同時刻
アメルハウザー邸
当主執務室
ドイツに広がる黒い森、シュヴァルツヴァルトは霊脈の上に広がってる。遥かな神代から存在し続ける霊脈はドイツ全土に蜘蛛の巣のように広がっており、その多くが合流するポイントがフライブルグ近郊の山の頂上にある。
そこを巨大な屋敷を建てて自らの管理下に置いているのがアメルハウザーという一族だ。まだ三代しか続いていない、魔術師としては生まれたてにも等しい家系だが、彼らにはある特異性があった。
それは自分たちの血統を重要視しないということだ。彼らは積極的に他の家系の魔術師を養子に迎え入れる。当主になれなかった優秀な魔術師や、政争で敗れ没落した家の魔術師を取り込み、自分たちの研究に統合してゆく。それがアメルハウザーという一族だ。故に彼らのあり方は魔術組織に近い。
そんな一族に二人の天才が現れた。一人は現当主、イーナ・アメルハウザー。豊富な魔術回路と抜群のセンスを持って生みだされ、わずか十歳にして先代から魔術刻印を継承した。
二人目がアウグスト・アメルハウザー。先代当主の息子であり、それまでに一族の積み上げた成果を元に研究を三世代進めたと称されている。年の若い当主の代わりに実務を取り仕切っている。
この二人こそ、今回の亜種聖杯戦争を主催した者たちである。
アウグストは執務室の椅子に腰掛け、亜種聖杯戦争開戦から立て続けに起こった出来事を整理していた。
前に置かれた豪奢な机の上に広げられているのは、中立の立場にいる監督役から送られてきた資料だった。その資料に記されている内容は、昨夜キルヒツァルテンで起こった大規模な魔術儀式に関する事だった。その内容を要約すると
第一。聖堂協会は一連の事象を魔術師、ないしは呼び出されたサーヴァントによるものと断定。
第二。亜種聖杯戦争に参加してるマスター達に即時休戦と、当該事象の首謀者の討伐に協力することを強く要求する。
第三。当該事象に対応するために、監督役は空席だったアサシンの英霊を召喚した。
第四。首謀者の討伐がなされた暁には、その中で最も貢献したマスターに監督役が召喚した英霊のマスター権及び令呪を譲渡する。
教会はいつも通り強引で自分勝手だと、アウグストは思った。亜種聖杯戦争が開幕と同時に不測の事態に陥ったのは事実だが、アサシンが空席であることに目をつけて漬け込んでくるとは。中立の立場を明らかに超えている。
「聖堂教会は何を考えている…?」
聖堂教会は本質的に魔術を異端とする者達だ。そんな彼らが自ら魔術師同士の闘争に割って入る意味がわからない。そこには必ず明確な意図があるはずだ。
アウグストが思索を巡らせていると、執務室の硬い扉がノックされる。
「失礼します。兄様」
「入ってくれ」
ノックした相手に短く告げると、ゆっくりと扉が開いた。扉の影には、まだ十代前半の小さな少女が佇んでいた。
「やぁ、イーナ。どうしたんだい?」
優しい声色だった。しかし、イーナと呼ばれた少女は神妙な面持ちで部屋に入ってくる。その様子にアウグストはもう一度声を掛ける。
「何があったんだい?」
少女はゆっくりと口を開けた。
「先程、報告が入りましたの。召喚されていたルーラーが脱落したと」
「なんだって…?」
アウグストは耳を疑った。ルーラーの召喚自体は、自分たちが用意した霊基盤を元に探知していた。故にその動向を可能な限り追わせていた。ルーラーに与えられる特権を考えるとアメルハウザーの目的に気付き、障害として立ち塞がる可能性すらあったからだ。
アウグストの計画では、遅かれ早かれルーラーは処理する予定だった。
「特権的に強力なルーラーを打倒できるサーヴァントを召喚した者が僕たちの他にもいたのか。その者は警戒しなければ…」
「違いますわ、兄様」
イーナがアウグストの言葉を遮り、更に驚愕の事実を続ける。
「ルーラーを殺したのは亜種聖杯戦争のサーヴァントではありませんの」
一瞬、アウグストの思考が硬直する。サーヴァントがサーヴァントを倒したと言うなら、まだ理解できる。如何にルーラーが強いとはいえ、同じかそれ以上の格を持った英霊ならば夢物語ではない。
イーナの言い回しに、そう言うことかと合点がいく。
「つまり、我々の聖杯戦争のサーヴァントでは無いということかい?」
我々が用意した亜種聖杯ではない、何か別の儀式なり術式なりで呼び出された英霊。それもかなり強力な存在が呼び出されている。ルーラーを含めて九騎目のサーヴァント。
「詳細はわかりませんが、サーヴァントであることは確実のようですわ」
「そうか…」
アウグストは少し考える。こちらが把握している他のサーヴァント達、アーチャー、キャスター、バーサーカー。キャスターの動向は終始追えている。彼らは実力的に見ても大きな障害にはならないだろう。バーサーカーに関しては、暴走してマスターを殺害したとの情報が入っている。どうにかして現界を保っているようだが、霊基盤を見るに長く保つとは思えない。
この中で最も警戒するべきはアーチャーだろう。昨夜、斥候に行かせたセイバーによると相当手練れの英霊らしい。宝具を開放すれば仕留められるとセイバーは言っていたが、向こうも宝具を隠している以上、迂闊には全力で戦えない。
少なくとも、乱入者を排除するまではどこかの陣営と共同戦線を張るべきか…
「アウグスト兄様、どうなされるおつもりなのですか?」
イーナの声がアウグストのように滑り込み、意識をようやく目の前にいる少女にむける。少女は不安そうに目を細め、年相応の可憐さを称えていた。
「大丈夫だよ、イーナ。想定してた順序ではないが聖杯戦争自体は順調だ。想定外ではあるけど、大幅に修正するほどのものではないさ」
アウグストがそう告げると、イーナは少し安心したように表情を和らげた。それを見てアウグストも少し安心する。
「では、当面の課題は乱入者ですわね」
「あぁ、彼らに方針を伝えなくてはね」
イーナが頷くと、全身に走る魔術回路に魔力を通す。
「出てきてください。セイバー、ランサー」
イーナがそう言うと、彼女の前に2騎の英霊が実体化する。
一人は銀色の鎧に身を包んだ騎士。
一人は豊かな金色の髪をした可憐な女性で、その手には二又槍を持っていた。
「何か様だろうか、我がマスターよ」
「呼んだ?イーナちゃん」
イーナは実体化した英霊たちをたしなめるように言う
「二人共、兄様の前ですよ」
「やぁ、ご苦労。今後の方針について伝えておきたい」
アウグストが声を掛けると、二騎の英霊はその方を向き、その場に片膝をつく。形式的なそれを見てから、アウグストは続ける。
「当面の間、我々の第一目標は乱入者である正体不明のサーヴァントの討伐とする。詳細はイーナから聞いてくれ」
そう告げると二人は、了解を示して頷いた。
「セイバー。君には引き続き斥候を任せたい。乱入者の居所を探ってくれ。もし他のマスターとサーヴァントと接触した際は共闘を申込んでほしい」
「共闘を提案するのは構わない。しかし、相手を問わずというのは、少し見境がないのではないだろうか」
セイバーは極めて冷静で事務的な口調で問う。
「はじめから駄目で元々だからね。断られて戦闘に発展した場合は君の独断で動いてもらってかまわない。排除できるならばそうしてくれ」
「了解した」
軽く頷きながら返したセイバーに対して
「頼んだよ」
そう声をかけてから、今度はランサーの方を見ながら問う。
「ランサー、宝具のストックは増やせそうか?」
古代ギリシャを思わせる装束に身を包んだ金髪の美女は落ち着いた口調で答える。
「それは厳しそうだったよ。いくらイーナちゃんがマスターとしての才能に溢れてても、こればっかりはどうにも出来ないね」
ランサーの宝具、かの冥界神から借り受けた権能の全力開放は強力なものだ。
「英雄クラスなら何回呼び出せる?」
「二回。この権能はお借りしてるだけだから、使用制限みたいなものがあるんだ。強い魂は無尽蔵には呼び出せない。私の使い魔レベルならそんな縛りは無いけどね」
英雄クラスの存在を少なくとも二回は使い潰せる。これならば、他の陣営が協力して我々に敵対しても、拮抗、あるいは勝利を修めることができるだろう。
「十分だ。君の宝具は搦め手として使うことになるだろう。」
「いつでも呼び出せるから必要なら言ってね」
「あぁ、それともう一つ頼みたい事がある」
アウグストは更に続ける。
「なんだい?」
「あの聖遺物の解読のために私は暫く工房に籠もる。その間の指揮を君とイーナに任せたい」
「お安い御用さ。頑張ろうねイーナちゃん」
「一人では危険だと思います兄様」
イーナが心配の声をもらす。
「大丈夫だ、それなりの準備はしてある。暫くは任せたよ」
イーナに優しく声をかけながら頭を撫でる。こんなにも小さい、一族の長としての責任を背負った神童にアウグストは尊敬と愛を持って接しているのだ。
アウグストはイーナと二騎のサーヴァントにつげる。
「よし。では三人とも行動開始だ」
同時刻
山間部
幾度となく交わされた剣戟。魔力のぶつかり合いが繰り返された道路は至るところがめくれ上がり、捻じれ波打っていた。
「はぁっ!」
魔力を込めた拳がライダーに迫る。それに天才的なタイミングでライダーは剣を合わせる。この戦闘において何度か見せた攻撃の組み立てだ。剣をガードに使ったタイミングでがら空きのボディにもう片方の拳を滑り込ませる。
シブシソが狙っているのはこのパターンから派生する連撃だ。もう何度か見せたこの攻撃に、ライダーは身を引く事で対応する。ならば、そうわきまえた上でもう一歩踏み込む事で相手のガードと体制を崩す。
剣と拳が交差する。魔力を放つ拳と剣は衝撃波をうむ。ライダーは完璧に拳を受けきり、左足を後ろに引いた。
シブシソはそれを見逃さない。やはり攻撃を読んで最速のタイミングで後退を選んだと確信する。予定通りボディに拳を滑り込ませながら、更に一歩前に出る。これで退路は潰した。
「おらぁぁぁぁ!!」
拳はライダーのボディに命中する。だが、シブシソが感じた手応えは思っていた程のものではなかった。
押し返されるような感覚があった。後ろ下がったと思っていたライダーの体は、逆に前に向かっていた。
「しまっ……」
攻撃をあえて受けながらのカウンター。ライダーはシブシソの攻撃を読み切っていた。
「せいっっ!」
踏み込むために体制を低くしていたシブシソの顎に渾身の膝が叩き込まれる。
「がはっっ…」
上体が跳ね上げられる。攻撃を受けたシブシソに対し、ライダーは最速で追撃体制に入っていた。
「(やば…!)」
シブシソがそう考えるより早く、ライダーは手に持った剣はより多くの魔力をまとわせる。まばゆい光の軌跡となった剣はシブシソの首を捉える。
それと同時にシブシソも捨て身の蹴りをライダーの顔面に放っていた。
辺りがまばゆい光に包まれる。
シブシソの蹴りはライダーの兜を蹴り飛ばし、ライダーの剣はシブシソの体は凄まじい勢いで吹き飛ばしていた。
「くっ…これは一体…」
弧を描いて飛んだ兜が地面におちる。黒毛混じりのブロンドが月夜になびく。顕になったライダーの顔は、忌々しげにシブシソの飛んでいった方向を見つめていた。
自らの攻撃の結果にライダーは驚きを覚える。
確かに、今の一撃はシブシソの首を落とすに足るはずだった。だが、手に伝わった感触がそれを否定する。
仕留めきれなかった。何らかの方法でシブシソは今の一撃をガードした。
土煙の中を凝視する。そこには確かに首の繋がったシブシソがいた。
「今のは一本取られたよ、ライダー」
「いえ、おあいこです。なんですか今のは」
シブシソは笑みを深める。
「貴方と同じでまだ奥の手があるってこと。やっとそのかっこいい顔も見れたし、そろそろ加減の辞め時じゃない?」
「(やはり彼女にも伝わっていましたか…)」
ライダーはシブシソに相対する。戦闘の中で自分のもつ手札をアピールしつつ、臨機応変に派生させていく戦闘技術。窮地に追い込まれても、咄嗟の機転と思い切りの良さで切り抜ける圧倒的センス。紛れもない天才。格闘戦においてライダーの知る誰よりも秀でている。
だがシブシソには致命的なつけ入る隙がある。
彼女は戦いを楽しんでいるのだ。
「さぁ、もっとやろうよ!ライダー!」
シブシソは再び構える。その目にライダーを捉え、自分の取るべき動きを頭の中に思い描く。それにどうライダーは反応するのか。どのように対処するのか。幾度となく打ち合って尚、その動きを完璧に捉えきれない。手札を隠し、こちらを見定め、精度の高い攻撃を狙いすましたところに叩き込む。つくづく、英霊とは規格外なものなのだと、シブシソは痛感する。
故に、彼女は狂喜していた。想像を超える強者との邂逅に。それと渡り合う事のできる自分自身に。
今、シブシソは眼前に相対する英雄を超克する事だけを考えていた。
故にこそ、それが間隙になったのだ。
突如として、一筋の光がシブシソの足を捉える。
「なっ…!?」
シブシソは反応すらできなかった。無論、体には魔力を纏わせて防御していた。にも関わらず、不可視の速度で飛来したこの矢は、それをいともたやすく突破し、シブシソの太ももを貫通していた。
「来ましたか…」
「(まずいっ!)」
一筋の光が再び空気を裂きながら飛来する。
シブシソは全力で体に魔力を纏ってガードを更に固めた。
シブシソの天性の直感で攻撃を受ける前にそれらを展開することは出来たが、やはり意味を成さなかった。
「ぐあぁっ!」
矢はシブシソの肩に深々と突き刺さり、直後に炸裂した。爆風によって吹き飛ばされ、続けざまに矢は浴びせられた彼女は体勢を崩しながら爆煙に包まれていく。
ライダーはアーチャーによって行われた一連の攻撃を見て感嘆する。付近には気配を感じれない。おそらくかなり遠くから攻撃しているのだろう。
「(ライダー。聞こえているか?)」
ライダーの頭に響いたのはマスターであるシロウの声だった。
「(聞こえています。マスター)」
「(こちらはアーチャーのマスターとの合流地点にむかってる。あとはアーチャーに任せてお前は下がれ)」
「(このまま彼女を仕留めに掛からなくても良いのですか?)」
「(アーチャーはあの女に対して相性が良さそうだ。今のお前では有効打にかけるんだろ?)」
「(それはそうですが…)」
「(つべこべ言わずに戻ってこい。お前の力をこれ以上他の奴らに見せたくない)」
「(…承知しました)」
命令に従い、ライダーは霊体化してその場から退く
シブシソは久しく味わう事のなかった激痛に危機感を覚えていた。ライダーの攻撃の比ではない威力と圧倒的なスピード。どんなからくりかわからないがガードを貫通するそれらの矢を喰らい続けるのはまずい。
シブシソは持てる脚力の全力を使ってその場からの離脱を試みる。ジグザグの軌道を描きながら森の中へと逃げ込もうとする。
しかし、迫りくる矢は的確にシブシソの左足を捉える。
「ぐっ…それも当てるのか…!?」
体を駆け回る痛みに耐えながら、やっとの思いで森の中に逃げ込む。体に三発、両足に一発ずつ。傷口からは赤黒い血が流れ出ている。これ以上攻撃を食らうのはまず過ぎる。
木の陰に隠れて一息つこうとしたその時、大きな光が迫っているのを視認した。
「(うそでしょ…?!!)」
体にむち打ち、可能な限り大きく回避行動を取る。
あたりが光りに包まれたと思うと衝撃波が巻き起こり、数瞬前にいた場所一体に大きな穴が空いていた。
「(キャスター!流石にやばい!逃げよう!)」
咄嗟の判断で自身のサーヴァントに呼びかける。
「(了解した!マスター!)」
キャスターは霊体化を解いてシブシソのすぐ近くに現れると、すぐさま彼女を抱きかかえる。
キャスターは英霊と化した事で手に入れた力を行使する。
それは彼が愛した空をかける翼。人々が様々な心をもって見上げるもの。ある時は彼方に思いをはせる人々の憧れの象徴。ある時は絶望を投下する人殺しの道具。この星を、人の営みを近く狭くする革命。この時代ではすでに当たり前になった乗り物。
飛行機である。
「揺れるぞマスター!掴まってろ!」
滑走路もなく、飛行機が飛び立てる隙間などないはずの森の中からそれは飛び立つ。超常の存在、英霊となった彼と同じく、彼の愛機もまた常識から外れた性能を備えていた。
「うおオオオ!!!」
シブシソとキャスターは声を合わせて叫ぶ。飛来する超高速の矢をよけるために乱数回避軌道を徹底した飛行機内は天地が何度も変わり右へ左へと何度も移動する。
その動きに、かつて最高の射手と謳われた大英雄すらも面食らう。聖杯に与えられ、知識として知っていても、飛行機を初めて見たアーチャーには、それを捉えることができない。見たことのない軌道、凄まじいスピードで遠ざかるそれを見ながら、大英雄は感嘆する。
「すごいな。あんなものがあるのか」
大地の嬰児とそのサーヴァントはかの大英雄の攻撃をしのぎ切り、射程の外へと出ていく。こうしてキャスターとシブシソは窮地を脱するに至ったのだ。
目標地点から十キロメートル程離れた黒い森の中。一際高く育った木のてっぺんから矢を引き絞っていたアーチャーは構えを解く。その眼は子供のように輝いていた。
「(標的は仕留められた?)」
念話でマスターからの声が響く。
「(いや、逃しちまった。射程ギリギリから攻撃したのが仇になったわけだ)」
「(気にしなくていいわよアーチャー。私たちは“急いで来い”と言われただけだもの。“敵を倒せ”なんて言われてないわ)」
黒髪の可憐な少女、リン・トーサカは不機嫌そうに言った。
「(本当によかったのか?同盟相手から不興を買いそうだ)」
「(それでいいのよ。私たちは共闘関係であって上下関係はない事分からせる必要があるんだもの)」
それを聞いて大英雄は頭を掻きながら言う。
「やれやれ、俺のマスターは人を振り回すタイプだな」
そんな独り言が聞こえていたのか、念話の声は再び機嫌の悪そうに言う。
「(今振り回されてるのは私の方なんだけど!)」
「(聞こえてたのか?!いや、すまない。悪い意味じゃなねぇんだ)」
「(じゃあ、どういう意味よ!)」
アーチャーは笑いながら言う。
「(あんたといたら退屈しないだろうって事さ)」
そんな軽口を聞いてリンも少しだけ機嫌を直したのか、少し柔らかくなった口調でいう。
「(そうなの?だったらもっと振り回してあげるわよ。ほら、さっさと降りてきなさい。私達も移動よ)」
「(了解だ。マスター)」
かくして、宝石嬢とそのサーヴァントは共闘者との邂逅に臨む。その出会いは運命か、それとも宿命か。どちらにせよ、何かが両者をこの聖杯戦争へと導いたのかもしれない。
お久しぶりです。
Fate apocrypha世界の二次創作です。
基本妄想をシコシコ書いてるだけなのでそこのところよろしくお願いします
オリジナル鯖等々登場します。
断続的に書いていたものを書き足したり、かき直したりして投稿しています。気に入っていただけたら、ぜひともいいねしていただけると幸いです