空いた時間に書いていきたいと思ってますー
レミリアと咲夜は長い廊下を走っていた。
(…もう!どうしてこの廊下こんなに長いのよ…!って、そう言えば私が駄々をこねたんだっけ…)
昔、咲夜に部屋を大きくするように命令したことを思い出したレミリアが、軽く後悔していると…ようやく地下室への階段が見えてきたのだった。
「…ッ!?何なの…?この部屋から感じる妖力…前にここを通った時は黒く濁ったような邪悪な雰囲気がしていた筈なのに…?まさか、霞が何かしたの………!?」
この地下室に足を運んだのは…久しぶりなのだけれど。明らかに昔と今で、雰囲気が違っていた。
今この部屋から感じるのは…喜色に染まった、ほのかに暖かく。そして澄み渡るように和やかな、そんな雰囲気の妖力だった。
隣に居た咲夜も首を傾げて驚いている…さっきまで霞と見ていた筈の重く、近寄り難かった筈の…
そんな地下室の扉が、今なら気軽に開けられる…そんな風に思えたから。
「咲夜!!」
「…はい!お嬢様!」
2人は覚悟を決めて地下室の扉を開けたー…
…その先に見えたのは
「きゃ〜♪ねぇねぇ霞?それでその時に、その小さい鬼はなんて言ってたの?」
「あぁ…『霞の膝は私のものだー!!!』なんて言ってね?しばらく私の膝の上で湯に浸かっていたよ……ん?あぁ、レミリアに咲夜じゃないか。さっきぶりだね?」
2人が入れそうな程の温泉の中で、霞とフランが仲良く話をしている姿だった。
「霞ッ!?どうしてフランと一緒に…?貴方は確からフランによって爆散してしまったんじゃ…?」
レミリアは勢い良くそう話しかけるが…霞は首を横に何度か振って、レミリアを諌めた。
「私の事はいいから…レミリアは私より先に一言、言うべき相手が居るんじゃないかな?」
霞が目線をフランへと向けると、さっきまで笑っていたフランの顔が急に歪んだ。しかし、何度か怯える身体を叩きながら、レミリアの方へとゆっくり歩み寄ってきた。
おずおずと、震えるような足で近寄ってくるフランは…これから叱られるかもしれない。もしかしたら嫌われているのかもしれない…
そんなことを知るのが怖くて仕方ないといった風に、弱気で、自信の無い歩調のままレミリアへと向かってきた。
フランは何度か息を飲みこんで、その口を開く。
「お姉様……わ、私…ようやく能力を制御出来るようになったんだよ…?…あの、こ、これで、また…皆で一緒に過ごせるよね…?もう、私は独りぼっちじゃないんだよね…?」
涙で潤んだ紅い、レミリアと同じ色をした目を。レミリアが認識した瞬間。
身体は、勝手に動いていた。レミリアはフランを抱きしめると、湧き出した涙など全て無視して叫んだ。
「…ッ…当たり前じゃないッ!!!貴方を…これから、もう、離さない…絶対にッ!!もう、貴方に誰かを傷つけたりさせないんだから…ッ!!!
貴方はこの世で1番大切で大好きな、私のたった一人の妹なんだからッ!!」
「お…姉様ぁッ!!!!!私…も、ずっと、会いたかった…!!寂しかった…哀しかった…!とっても、とても辛かった…!!
もう、離さない!!絶対に離さない…ッ!!私のお姉様…ッ!!!うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
2人は、泣いた。屋敷に響く程に大きな声で、数百年続いた孤独と、何も出来ない自分を呪い続ける心の闇はたった今、完全に晴れたのだろう。
やっと触れ合えたお互いの身体を強く、固く抱きしめ合う2人は…何度も何度も肩に頭を擦りつけあった。もう、絶対に独りになんてさせないように。ただ、ひたすら。
そんな姿を見ていた霞は昔、友人に教えられていた事を思い出していた。
『ねぇ…吸血鬼、って種族を知っているかい?誇りを大事にしながら尚、とても気高く。そして見るもの全てが自然と眼が惹き付けられる…そんな種族が、いるらしいよ?』
実に、この事だろうと霞は思う。今、霞の目に映っているこの美しい光景からは…目を離そうとする気がまるで浮かばない。
この光景をいつまでも見ていたいと思える程に、あまりにも鮮烈に記憶の中へ打ち込まれた。
「霞様……貴方が来てくれたおかげで、お嬢様達は救われて…もう、感謝…などという言葉だけでは到底言い表すことが出来ないのですが…
妹様の孤独を払ってくれて…ッ…本当に、ありがとうございました!!」
霞の隣で、咲夜は心の底からの感謝を、霞へと伝えた。咲夜は人間であり、レミリアに忠誠を誓っている為、フランとどうにかして接しようとしたものの…どうする事も出来なかった。
しかし、それを霞は救ってくれた………
潤んだ瞳なので、格好がつかないけれど…今、自分が出来る最高の笑顔を向けられただろう。
「そうだね…まぁ、感謝はそこまでしなくても大丈夫だよ。…こう見えて、私も嬉しいのさ…噂に違わぬ吸血鬼の姿を、この目で見られたし…それに。あんなに素敵な笑顔を見られたんだから、堅苦しい事はナシにしようじゃないか?」
「…えぇ。そうですね…本当に…ッ…素晴らしい笑顔だと思います…!!」
2人の目線の先にいたのは…今なお泣きながら抱き合う、2人の少女達。
けれど2人はの表情は先程とは違っていて…顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながらも、お互いをもう離すまいと…笑い合っていた。
そんな、花が咲いたかのような笑顔を、霞と咲夜は目に焼き付けていた。
★
2人が落ち着いた頃、レミリアはフランが裸だった事に今更ながら気がついた。咲夜は気づいた時にはもう、部屋には居ないし…大方ぐしゃぐしゃになったフランの服の替えを持ってこようとしているのだろう。
…それより思い返せば、この地下室に入った時。確か霞とフランは一緒に温泉に入っていた。
今は、霞の羽衣が身体に広く巻きついているだけの状態で…湯船に浸かっている。よく見ると温泉の片隅には、ビリビリになって破けている浴衣が浮いていた。
…つまり、この2人は裸で一緒に入浴を…?
レミリアがそれを霞へ指摘しようとした瞬間。
「ちょっと霞…」
「お姉様も一緒に入ろう!!どぼーんって!!」
フランに腕を掴まれた。…外れない
「ちょ、ふ、フランッ!?」
(…えぇっ!?何よこれ、ふ、フランってば…力、強過ぎない!?私の力でも全ッ然振りほどけないんだけどッ!?)
吸血鬼はその名の記す通り、細腕に見合わない鬼の如き強力な腕力を持っている。
…が、どうやらフランの方が強いらしい。
( お姉ちゃん結構ショックだわ…)
姉としてのメンツをひとつ失ってしまったわ…
なんて思ったのも束の間。
「ちょっとフラン!?まだ私入るなんて言ってな」
バシャーーーン!!!!!!
2人は霞目掛けて飛び込んだ。……レミリアは、強引に手を引っ張られながらの着水だった。
頭からお湯を被った霞の胸の中にフランが抱きつく。
「…もう、いっその事飛び込み制にするべきなのかな…?」
霞が若干目に悟りの色を混ぜながら、そう呟いているが…抱きついているフランはそんな事など気にすることは無かった。そしてそのまますりすりと、頬を霞へと擦りつけている。
「…プハァッ!?いきなり入れるなんて酷いじゃないの…ってフラァン!?どうして貴方、そんな所に居るのよ!?」
服を着たまま湯船に入れられたレミリアがフランを責めようとする…が、霞を見て矛先が変わった。
「んー?お姉様も抱きついてみる?霞ってね?とっても温かくって安心出来るんだよ?」
「な、そんな事出来るわけ…ッ!それに霞は何でさっき着てた浴衣姿じゃないのよ!?あの浴衣、さっき破れてたのに、もう直ってるんだけど!?」
そう聞いた時にレミリアは気がついた。ここにいる霞は生きているものの確かに、フランの能力によって身体を爆散されて死んでしまったはず……なのに、何故………?
「ねぇ霞……その…どうして貴方は、さっき運命が見えなくなったのに生きているの…?」
「それについてはこれから話すから…レミリア、湯に浸かる時は服を脱ぎなさい。それだとせっかくの洋服がダメになってしまうじゃないか…」
( えぇ!?この流れでそれを気にするの!?…そ、そう言われると脱ぐしかないじゃない…確かにさっき入るって言ったけど、ちょっとまだ心の準備が…ッ!?)
不公平だとレミリアは思っていた。霞は羽衣を巻いているのに…自分は身体を晒すのなんて、とても恥ずかしい。若干まごつきながら少しずつ服を脱いでいると…
「お姉様脱ぐの遅いよー。あ、私が手伝ってあげるね!」
「へ?」
フランがレミリアのドレスを掴み、そのまま勢い良く下にずり下げてしまった。レミリアの着ている服は先ほどからお湯を吸っていたためするんっと綺麗に脱げ、ドレスは濡れた肌を滑り落ちていった。
…下着まで巻き込んで。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?!?!?」
あまりの恥ずかしさにレミリアは、自分の身体を抱き締めるようにしてしゃがみこんだ。
「あははははっ!お姉様も裸だねー?お姉様と一緒に温泉に入るなんて初めてだから、私…なんだかすっごく嬉しいな〜♪」
怒りたいのに、可愛すぎて怒れない。
レミリアは心底そう思ってしまった…
「…恥ずかしいと思うのも頷けるけれど、今日位は大目に見てやってくれないかな…?ほら、こんなに喜ぶフランを見たのはレミリアだって初めてだろう?」
湯船から少しだけ顔を出しながら…恨みがましい視線を霞へ向けていたレミリアだったが、フランの笑顔を見て………湯船から、顔を出した。そして、フランへゆっくりと近づくと
「そ…そうよね。今まで1度も一緒に温泉なんか入った事も無かったものね。…でも、これからは大丈夫よ。これからは紅魔館の外に遊びに行くことだって可能なんだから。
…だけど、やはり立派な淑女としてはみだりに自分の裸を見せたり男の身体に引っ付くのはどうかと思うのよ…ッ!!だから今すぐフランは霞から離れなさーいッ!!!」
「わきゃぁぁぁあ!?」
レミリアはさっきからずっと霞に抱きついているフランを思い切り引っペがす…
…流石に実の妹が目の前で男に抱きついているのを見ているのは…かなり、精神的にクるものがあった。だからこそレミリアは…何とか落ち着いてから話を聞こうとした。
「で、霞?詳しく教えて欲しいのだけど…」
「ああ、それ自体は案外大したことないよ…私が本当に1度死んだだけだからね。」
「……は?」
レミリアはキョトンと呆けた顔をしている…誰が見てもカリスマなど感じられない…そんな顔をして固まってしまった。
「え、死んだ…?だって霞は今生きていて……?ってきゃぁ!?フラン!?」
「私がその先教えてあげるー!!」
ぐるぐると考え込むレミリアへフランが後ろから突撃する。そのまま2人して霞の両隣へとなだれ込むと…フランがにっこりと笑ったまま話し始めた。
「えっとね……さっきまで話を戻すんだけど。私の能力で霞を爆散させてしまう前にね、霞に、妖力の弾を当てられたの。けど私、それ自体は全然気にしないまま霞の「目」を握りつぶしちゃったの…
そしたらその瞬間、急に私の意識が戻って…私の身体を狂気に塗れた心から取り返せたの!!
それで正気に戻った私が抱きしめてた霞の身体を湯船につけたら…バラバラになってた身体がどんどん元の身体に治っていってね…?うーん、再生したって感じなのかな…?
それで意識が戻った霞に、どうして生きてるのかを聞いてみたの。そしたら
『 私は怪我や疲労の他にも、不治の病なんかも癒せるんだけどね…
昔は、そんな事は出来なかったんだよ。
けど、色んな人や神や妖怪がこの温泉に浸かったおかげでね?様々な妖力や神力、霊力なんかが混ざりあった万能の湯に昇華したんだよ…
…そんな湯に浸かり続ける私は効能によって簡単には死なないし…というか、すぐに復活する…と言った方が正しいかな?』
…って言ってたの!霞が今までにね?色々な人の力を湯に混ぜてくれたから…私は今、お姉様と霞とお風呂に入れる…それが私、とっても嬉しいの!!!」
そう言ってフランはレミリアへと抱きついてきた。腕の中のフランの体温を感じつつ、霞を見上げてその時の事を問いかける
「…分かったわ……いや、何がわかったのかあまり分からないけど…
つまり…霞は死んだとしてもすぐに復活するから…フランを助けに行く事を即決したの?」
「うーん…まぁ、結果的にはそうなるのかなら…?最初はそんな軽い気分も持ち合わせていたと思うけど…この扉を見た時にはもう、無くなってたね。
…だってそうだろう?自分の力があれば、1人の少女がこの先の人生を笑顔で過ごせるかもしれないんだ。
…なら、やるしかないだろう?」
そう語った霞の目には何も憂いたことなどなく、当然のことをした迄だと語っていた。霞にとってそれは利を求めた行動ではなく、ただ独りで泣いていた少女を救いたいという気持ちだけだった。
笑顔のフランを微笑みながら見つめていた霞を見て、フランが霞の腕を抱きしめると…霞はもう片方の手で、ワシワシとフランの頭を撫で始めた。
「…甘え方が上手だねぇ」
「くふふっ…気持ちいいねぇー…」
そんなフランの顔は、幸福感に満ちていた。
「…ねぇ、霞。最後に1つ言わせて頂戴?」
「 構わないよ…何かな?」
そう言ったレミリアは…霞の脇腹へ近づくと、そっと霞を抱きしめた。
思ってもみなかった行動に霞がフランを撫でている手を止めてしまった瞬間…レミリアは小さく、震える声で…お礼を告げた。
「 …本当に、ありがとう…霞ッ…!!!私、貴方を信じて良かったわ…貴方のお陰で、私はフランの事を両手で抱きしめることが出来た…!!
私だけだと…これから先、何年経っても結局フランを隔離するだけで…何も、助けが出来なかったはずなの…ッ!!!
…いつもいつも、フランを苦しめる自分の弱さを嘆くばかりで…私は、フランのために、何もしてあげられなかった…ッ…ごめんなさい……私が弱かったせいで、霞に大変な役目を負わせてしまって…!!!
…だから、私は決めたわ」
そしてレミリアは息を大きく吸い込んで、
はっきりと、まるで幻想郷中に轟くような声で叫ぶ。
「私、レミリア・スカーレットはここに誓うッ!!
霞という恩人に対して最大級の感謝を持って
今後、霞のために…全力で支え、報いることをッ!!」
そう言ったレミリアの真紅の瞳には…少しの涙と、澄み切った決意の炎が揺らめいていた。
小さな身体から湧き出す妖力は…最後に出会った時よりも更に強さと輝きを増して、霞とフランを照らしていた。
「…わ、私も!!!」
威風堂々としたレミリアに触発されたのか、いきなり霞の膝の上から立ち上がったフランも…そう言って霞へ何かを決意した目を向けると
「私!フランドール・スカーレットは…私の事を救ってくれた霞に対して!最大級の感謝と尊敬と、あと……色んな事に対して誓います!それとこれからは絶対に、他人を傷つけないように…能力を完全に制御出来るようになりますッ!!!」
フランも澄み切った真紅の瞳に決意の炎を燃やして、輝く笑顔を霞へと向けたのだった。
もう、誰も絶対傷つけない。そう、心に誓って。
「…ああ。そうだね…その誓い、ありがたく受け取るよ。レミリア。フラン。ありがとうね…」
今、霞の心は満たされていた。2人の笑顔が見れたこともあるけれど…
1番の要因は…2人が浸かる温泉に混ざった妖力だった。
力強く、気高く、そして美しい…孤独に塗れた妖力や、無力に嘆いた妖力とは違っている……とても、満たされた。そんな充実した妖力を感じて……霞はまた、人との触れ合いの大切さを再確認することが出来た。
( …やはり私も少し参っていたようだね。数百年の孤独は私の心も蝕んでいたのかもしれない。やはりフランと私は、似ていたんだろうね…)
「私は……この紅魔館に来れて良かったよ。ありがとう。レミリア、フラン」
そう言った霞の隣に座っていた2人は、見惚れる程に綺麗に笑って、体重を霞へとかけていく…
「もう、悲しい話はよしましょう?せっかく霞が湧かしてくれた温泉なんだから…思う存分、疲れを取りましょう。それに、私だって霞の昔の話…聞きたいわ?」
「私も!もっと聞きたい!!私ももっと霞のことが知りたいの!!」
笑顔でそんな事を言ってくれる2人を見て、霞は普段よりも柔らかな笑顔を向けて
「分かったよ。色々と教えてあげよう…」
そう、答えるのだった。