東方湯煙録   作:鯖人間

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本心と姉妹と暖かい食事

レミリアとフランに話をしていると、ふいにフランが霞に向かって1つ問いかけた。

 

「ねぇ霞?もうすっかり夜だけど霞はどこで寝泊まりしてるの?昨日ここに来たばっかりなら家なんて無いよね?」

 

「ああ、確かにそれを考えて無かったね……うーん。今から人里に行けば、空き家かなにかを貸してもらえるかもしれないかな…?」

 

そう呟いた霞を見てフランが目を輝かせると

 

「じゃあさ!霞がこの紅魔館に泊まればいいんじゃないの!?私、霞と一緒に寝たいなぁー?」

 

フランは霞の腕に張り付いて、キラキラと期待した目で霞を見つめている。

そして、それを聞いて焦ったのが紅魔館の主。

 

 

「ちょっとフラン?主の私を差し置いてそんなこと勝手に決めるんじゃ…ウッ!?」

 

 

レミリアがフランを諌めようとフランの目を見た瞬間ー……息を詰まらせた。

 

 

「お姉様…ダメ?」

 

完璧な角度の上目遣いをレミリアに向けるフラン。目を合わせると、その表情の愛らしさはずば抜けていた。つぶらな瞳を輝かせてこちらに甘えるように擦り寄って来たその姿は長年愛する妹と触れ合うことが出来なかったレミリアの心を撃ち抜いたのだった。

 

 

「…ッ…ええ…フランの言う通りよ!霞!?貴方は今夜この紅魔館に泊まるの!!もう、これは決定事項だから…ッ!」

 

「そうかい?泊まらせて貰えるのはありがたいけど…ってレミリア…鼻血が出てるじゃないか…大丈夫か?」

 

「え、えぇ…それなら大丈夫よ。それに霞が紅魔館に泊まることには私も特に異論は無いし…他ならないフランのお願いだしね。あ…ごめんなさい、湯船が汚れちゃうわ…あら?」

 

レミリアの鼻血が垂れたことにより、湯船に血が混じってしまった。しかし、その血は直ぐに消え去りいつの間にか湯船は普段の透明な湯に戻っていた。それを見て、ピンと来たレミリア。

 

「…霞、この湯に混ざった妖力って…もしかして血液からも吸収されているの?」

 

「…まぁ、そんな所だね……怪我を治す時なんかに混ざることが多いんだけど…まぁ、汚れては無いから。特に気にしなくて大丈夫だよ?」

 

「そうなの…なら、そろそろ上がりましょう?私たち、起きてからまだ何も食べてなかったのよ…久しぶりに大泣きしたら、お腹すいちゃったわ…」

 

「あ、私もお腹すいたー」

 

「それもそうだね…よし。そろそろ出ようか…ああ、身体を拭くならこれを」

 

2人が湯船から出たのを確認して霞は温泉を消滅させ始めた。霞から渡された羽衣で身体を拭こうとしたレミリアは

 

「これで拭けばいいの…?ってきゃあ!?」

 

手に取った瞬間に身体に羽衣が巻きついてきた。

 

「ちょ、ちょっと!?これっ…んっ、か、霞!?こんなの聞いて…なあっ!?こ、こら!自分で拭けるってば…ッひゃ!?」

 

「わぁー!身体を自動で拭いてくれる羽衣ってこの事だったのね!すごーい!ねぇねぇお姉様、拭かれるってどんな感じがするの?鬼とか亡霊さんは気持ちいいって言ってたらしいけど、お姉様はどんな気持ちなのー?」

 

フランは霞と温泉の話を聞いていた時に自動で身体を吹いてくれる羽衣についてかなり心を惹かれていた。昔、森の中では何度も何度も霞が入った妖怪達の身体を拭いていたらしくどうにか効率化しようとして自動で動くような術式を何年もかけて作り出したらしい。やたら鬼の少女や亡霊の少女にすこぶる好評で鬼の少女曰く

 

『霞に拭いてもらうのもオツなんだけどねぇ…あの羽衣の肌触りは特に最高なんだよ!だからこれ、絶対続けてくれなきゃ私が困るよ?』

 

なんて言われてしまい今に至る…らしい。だからこそフランが現在拭かれているレミリアに感想を求めることは自然なことなのだろう。

 

「そ、そんなの恥ずかしいに決まってるわよ!だってさっきから身体を這い回ってるような…んっ…色々と擦れて…ひぅっ!?」

 

そう言っているもののレミリアの表情は何となく気持ちよさそうだった。

 

「お姉様ばっかり気持ちいいのずるい!私だって拭かれたいんだからーッ!」

 

「ちょっ!誰が気持ちいいなんて…ってきゃぁ!?」

 

レミリアがちょっと気持ちいいなんて考えた事に腹を立てたフランはレミリアへと飛び込んだ。

 

「わー凄い!勝手に巻きついてくるー!お姉様、これスベスベしてて気持ちいいねぇー…んっ…んー?今なんかムズムズする感じが…?

あれ?ねぇねぇお姉様?顔真っ赤だけど大丈夫?」

 

「だ、大丈夫よ…どうやらもう拭き終わったらしいし…というかフラン?貴方はどうしてさっきから自分の身体を触っているのよ?」

 

フランは少しだけ顔を赤くして自分の身体を何度も触っている…正確には、胸の辺りを。

 

「さっきかここを拭かれた時になんだか一瞬だけ気持ちよかったんだけど……うーん…自分で触ってもわかんないや…」

 

「フラン!?貴方何やってるのよ!?淑女がそんなはしたないことしちゃダメでしょう!!」

 

レミリアは慌ててフランの手を取り上げると羽衣から引き離す…丁度拭き終わったのかあっさりと羽衣は離れて霞の元へと飛んでいった。

 

「あーッ!!何するのお姉様!スベスベしててとっても気持ちよかったのに…お姉様のバカァーッ!!!!!」

 

「えぇ!?何で私が怒られるの!?ってちょ、ちょっとフラン!どこ触って……んッ!!ひゃぁっ!?そこは…ダメッて…もうっあっ、あ、や、止めなさぁあぁあああああい!!!」

 

 

フランは突如レミリアへと飛びつくとさっきまで自分が触っていたようにレミリアの慎ましい平原へ手を伸ばして何度も揉む……程も無いので両手で何度も上下にわしゃわしゃと動かし始めたのだった。

 

 

 

 

そんな中、少しだけ時間を巻き戻す。

 

 

「霞様。お二人のお召し物をお持ちしまし…ッ…!」

 

霞が温泉を消し終わり、破けていた浴衣に妖力を流して元の浴衣へと直すと、いきなり咲夜が目の前に現れた……そして急に頬を染めると

 

「霞様……失礼しましたッ!?その、お着替えの途中だとは思っておらず……ですが、お嬢様達とは、その…一緒に、ご入浴をされたのでしょうけれど…まさか、御二方に手を出されたりなどは…されてませんよね?」

 

「ああ、咲夜が想像しているようなことは多分していないと思うけれど……あまり従者としては見過ごせない事なのかな?」

 

「い、いえっ!そんな私が想像した事など全然ッ…それに霞様の性格はある程度こちらで判断できましたので…」

 

「そうか、それは良かったよ…昔から私は周りより少しズレているらしくてね。咲夜のようにしっかりしている子が居るなら私も助かるよ…ありがとうね?咲夜」

 

「…は、はいっ!霞様には私も感謝していますので……精一杯、お力になりたいと思ってます!」

 

どうやら咲夜は頭の回転が早いようだ。霞が元通りになった浴衣を身につけると、霞は1つ気になっていた事を咲夜へと問いかけた。

 

「…なぁ、咲夜?1つ聞いてもいいかな?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「私は今日この紅魔館に来てすぐの時は咲夜はかなり素っ気ないような感じだったけれど…今の咲夜が、本当の咲夜なのかな?」

 

初対面で出会った時、咲夜は霞を見てかなり冷たい反応を返していたが、地下室へ向かう時にはもう少しづつ今のような感情の起伏が見えるようになってきていたし、もしかしてこれが普段、紅魔館の皆に見せている十六夜咲夜という少女の顔なのでは?と、霞は先程からずっとそう考えていた。

 

 

「そ、そうですね…お嬢様達の為に、メイド長として無様な姿は見せられないので職務の最中は常に気を張っていますけど…

一人でいる時はこんな感じで少し緩くなって…ッ!?」

 

そこで咲夜は気づいた。いつの間にか霞に対して普段の職務モードが

使えていなかった事に。まだ出会って数時間の霞に対して自分本来の性格が出てきてしまうほどに信用してしまっていた事に。

 

(ど、どうしてかしら……?普段はもっとしっかりして客人に対応するのに…いつからこんなに………あ、)

 

そしてその違和感に気づいた。咲夜は最初霞のことを大妖怪だと思い

かなり警戒していた……が。結局霞には武力なんてものは無かった…

というよりも、本人が武力を嫌ってさえいたのだ。

 

それに、霞の纏う空気にはなんだか強気な姿勢や警戒心などの心の壁が必要ないと思えるほどの和やかさがあった。まるで、どんな存在すらも包み込んで癒し、温めてくれる温泉の様に…

 

そう理解した時。咲夜は自分が出来る最大の笑顔を霞へと向け

 

「私は、霞様に対して感謝してますし…それに恩人に対して失礼な態度で接することは私のメイドとしての美学に反するので。それが、私が霞様に対して自分の本来の顔を見せられる理由……では、駄目でしょうか?」

霞の目の前に立って柔らかく、笑った。

 

そして年頃の少女らしい笑顔を見せてくれた咲夜に霞はまた、心に充実感を得たのだった。

 

「そうか…ありがとう、咲夜。こちらこそ、これからも宜しく頼むよ。

…そろそろあの二人に服を着せてやらないと、風邪をひいてしまうかもしれないからね…」

 

「はい!お嬢様ー!着替えをお持ち…」

 

そこで、咲夜が固まった。何事かと思い霞が急いでフランとレミリアもとへ向かおうとすると…何故か羽衣だけが戻ってきた。

 

 

「二人共…一体騒いでどうしたんだ?二人の洋服なら咲夜が持ってきて………

んん…仲がいいのはわかっていたけれど、これは予想してなかったな…」

 

珍しく目をパチクリさせながら微妙に視線を横に流した霞の見た先には

 

「はぁ…はぁ…って霞!?一体いつから…ち、違うわよ!!これはそんなんじゃなくてフランが急に…ってひゃん!?ちょっとフラン!?

そろそろやめて…ッん!」

 

「ほれほれーってお姉様?さっきからどうしたの?お顔が真っ赤だしなんかここも硬くなってる……あ、霞!もう遅いよー!って咲夜もいたの?もうちょっと早く来てたら温泉入れてたのになぁー?」

 

レミリアに馬乗りになった状態で胸を触っていたフランは霞を見つけると、すぐに霞へと抱きついてきた。

仰向けで荒い息を吐きながら、顔以外の全身までも赤く染めているレミリアの方へ、復活した咲夜が走っていくと…

 

「お嬢様!一体どうして…って、あ……す、すぐにお召し物をお着替えさせますね!」

 

レミリアの胸元で何かを察したのか、咲夜は顔を赤くしながらレミリアに下着を履かせると急いで洋服を着せ始めた。

 

「ねー霞?私もお姉様みたいにお洋服を着せてほしいんだけど……ダメ?」

 

上目遣いでそうお願いするフランはなんとも断り辛い雰囲気を出している…霞は苦笑しながら

 

「うーん、仕方ないねぇ…今回だけだよ」

 

「やったぁ!ありがとね!霞!」

 

にへーっと笑顔を見せるフランを見ているとなんだかこちらも悪くない気分になってきてしまう。

どうやら、フランはとても甘え上手のようだった。

 

(流石にこんなふうにお願いされると断りきれないな……天然の甘え上手ってのはやはり、強いねぇ…)

 

霞はフランの下着を手に取ると、そのままフランへと履かせていく。もしかすると父親とはこんな気分なのかね…なんてことを考えながら霞はフランへと服を着せていった。

 

 

 

 

 

「さぁ…お嬢様、それに霞様も…お泊まりになられると思ってお食事の用意を済ませてありますので大広間へどうぞ」

 

「うん?食事を頂けるのは有難いけど紅魔館の面子に混ざってもいいのかい?」

 

「ええ。霞様の分も用意してありますのでどうぞこちらへ…」

 

「私霞の隣で食べたーい!!ねぇねぇいいでしょ霞?」

 

「ちょっとフラン!?そこはこの紅魔館の当主である私が先に席を決めるんじゃ…」

 

「お姉様も私の隣だよね?私、霞とお姉様の間で食べたいなぁ…?」

 

少し目を潤ませてフランがそう言うと

 

「ええ決まってるじゃないフランは霞と私の間で食べるのよいいわねこれ決定よ!当主命令よ当主命令!!」

 

即、意見をフランへ合わせた。さっきまでの触れ合いといいこの姉妹

なんだか仲が拗れて以来の修復が早すぎて霞も若干驚いていた。

 

 

少し歩くとホールのような広い部屋へ着くとそこにはテーブルがあり、その上には大量のご馳走が並んでいた。

 

「今宵は嬉しい出来事が沢山あったので腕によりをかけて作らさせて頂きました!」

 

「凄いね…いつの間にこんなに大量の料理を作っていたのかな…?」

 

「それは時を止めながら調理をしているので…それに元々、仕込みは午前中に終わっていたので…」

 

「霞!咲夜の料理はとっても美味しいんだよ!それに、皆で食べるなんて久しぶり…で…う、ううっ…嬉しいよぉ……」

 

感極まったのか目に涙が溢れてきたフランはぐすっと鼻を鳴らすとポロポロと涙を零し始めた。咲夜とレミリアがフランへと寄り添うと

 

「フラン…これからはずっと一緒に過ごせるわ。このご飯だってこれから毎日並べられるんだから…また、一緒に味わいましょう?」

 

「フランお嬢様…これからは私ももっと美味しい物を作れるように頑張りますので…私の料理で、笑顔を見せてはくれませんか?」

 

二人の言葉を受け、フランは2人を抱きしめる。ぐしぐしと頭を擦り付けて何度も頷いたのだった。

 

 

そんな時、3人の少女達が部屋へと入ってきた。

 

「あー…今日も疲れましたねー…今日の咲夜さんの料理は……って、霞さんに…ッ…?フ、フランお嬢様…?」

 

驚きの表情で目を見開いていたのは美鈴。

 

「あ、あれ!?あれってもしかしてフランお嬢様…?どうしてここにいらっしゃって……ってま、まさか霞様が………?」

 

慌てた様子で霞とパチュリーに何度も視線を往復させている小悪魔。

 

そして

「やっぱり効果があったようね……全く…この紅魔館は一体どこまで霞に借りを作れば気が済むのかしらね…?」

 

こうなる事が分かっていたかのように微笑んでフランの元へと歩いてきたパチュリーはフランと目線まで合わせると

 

「おかえりなさい…フラン。色々と聞きたいことは山のようにあるけれど…まず、謝らせてほしいの。ごめんなさいフラン…レミィに言われてあなたの狂気を抑える魔法薬を作り出そうとしたけど中々上手くいかなくって…魔女失格だわ。長い間寂しい時間を過ごさせてしまって…私の力が及ばなくて、本当にごめんなさい…」

 

フランへ頭を下げたパチュリーを見てフランは慌ててしまった

 

「ち、違うよ!パチュリーは悪くないの!私が能力を制御出来ないから…それに、もう終わった事なの!!だから…かおを上げて?パチュリー…」

 

パチュリーが顔を上げるとそこには涙を浮かべながらも笑顔を見せてくれるそんなフランの顔があった。

 

暗い部屋で閉じこもった自分とは決別した…そんな、笑顔だった。

 

 

「そうね…改めてこれから宜しくね?フラン」

 

「うん!パチュリー!」

 

そんな2人の元へ美鈴と小悪魔が走り込んできた。抱きしめ合う2人の上からフランへ擦り寄ると

 

「私もお力になれず、申し訳ありませんでしたッ!!フランお嬢様ッ!!どうかッ…また、私も中に入れてくれませんか…?」

 

「わ、私も力になれず…すいません!これからは、フランお嬢様とも毎日を過ごすんですよね!改めて宜しくお願いします!」

 

そんな2人を見てフランは笑顔を向けると

 

「えへへ…美鈴と小悪魔もこれから宜しくね!」

 

「「はい!!」」

 

2人声が揃った…と、そこへ痺れを切らしたのか

 

「ちょっと!再会の挨拶はそこまでにして早くご飯食べないと冷めちゃうわよ!パチェも美鈴も小悪魔もフランも早く席に座りなさーい!!」

 

「皆…積もる話はご飯中にしないかい?ここはレミリアの顔を立ててくれると嬉しいな?」

 

「はーい!分かった霞!すぐ行きます!」

 

そう言ってフランが席に座ったのを見て皆も順々に席へと座って行く。そして皆か飲み物を持つとレミリアが

 

「はい!じゃあ今日はこの紅魔館の新しい日々の幕開けって事で乾杯するわよ!フラン!貴方が音頭を取ってちょうだい?」

 

「え、私!?う、うーん…えっと…」

 

いきなり振られて驚いたフランはモジモジしながらも

 

「え、えと。今日は私が能力を制御出来たのは霞が手伝ってくれて…そのおかげで私はみんなとご飯が食べられるわけなの…だから、その…霞に感謝を込めて!乾杯!!」

 

「え?」

「「「「「「乾杯!!!!!」」」」」」

 

 

フランの思ってもみなかった言葉によって…霞だけが乾杯に乗り遅れたまま、暖かな食事は始まった。

 

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