当作品は自分が読んできて感銘を受けた作品の
雰囲気が混ざって居ますのでその辺はご理解をば。
まだ、ら文章力が低いため…手直しや付け足しを行っており
お話は随時改稿しています。
この話、山あり谷間ありでお送りいたしますので…
では、よろしくお願いします。
それは遥か昔。数多の種族から、とても信仰されている不思議な秘湯があった。
その秘湯の効能は多岐に渡り、肩こりや腰痛など。軽い症状のものから…当時、既に手遅れだと言われている不治の病。そして、大怪我によって命が助からない程と言われた重体の人間の怪我など。医者や薬師にはもう、どうする手当ても無いと匙を投げられた人々さえも皆、その湯の力によって傷を癒したという。
人々はそれを喜び、そして深く感謝した。命を助けられた者は特に、その温泉を『神の湯』として崇めていた。
それはか弱き存在にも分け隔てなく、癒しを与えてくれる……神の秘湯だと。
…しかし、その秘湯も時が経つと共に廃れていった。時代は移ろい、次第に信仰は迷信へと流れて行き、そんな奇跡を信じる民も減っていった。
元々それは現代の人里から離れた山深くに湧いている為、人々はわざわざそんな所まで足を運ぼうとはしなくなってしまった事もあり、簡潔に言えば風化して行ったのだった。
…既に、誰も寄り付かなくなった秘湯の周りは苔に覆われ、荒れ果てていた。
「今日もまた、静かだなぁ……」
「…ここまで進んだ時代にとって、やはり私の存在は…必要では無いらしい。」
「…どうも頭をよぎるのは、過去の事ばかり。そろそろ潮時かもしれないな。
…残った妖力も僅か。さて…あいつの言っていた話に乗ってみないと…矜恃なんてモノも、とうに廃れてしまったんだ。そろそろ、考えを改めるべきだろう…」
その温泉に腰掛けていた独りの男はそう、力無く呟くと……
少し煤けており、古切れてしまった浴衣の懐から、1枚の札を取り出した。そしてその札へと自身の妖力を込め始める。
「時間ばかりずるずると引き伸ばしてしまった事だ。さぞかし怒られるだろうなぁ……」
そして、一筋の光が札から飛び出すと…秘湯の中へとその光は吸い込まれる。
…そしてその瞬間、男の居る温泉が空間ごと割れた。
「さて、私も行くとしようか……幻想郷とやらに」
そうして…悠久の時を過ごす太古から生きる秘湯の化身は、根付いていた現世を捨て、友が創った楽園の地……幻想郷へと流れてゆく。
鈍い光が辺りを包み込んだ後。
その男が居た秘湯にはもう、普段と何も変わらない、荒れ果てた森の社以外。何も残ってはいなかった。
──────---・・・!!!
「…ッ!!今のは!?」
八雲紫は、感じた。懐かしい…とても懐かしい力の波動を。
妖力を込めた存在を引き寄せ、この世界へと連れてくる特別な札が今。使われた事に気がついた瞬間。
身体は、既に動いていた
「遂に…遂に来てくれたのね……!!」
自分が作ったこの世界『幻想郷』。妖怪や人間。そして神までもが共に住んでいる世界。現世で忘れ去られた者達が集う幻想の世界である私の元に。
その懐かしい妖力の持ち主は紫の古い友だった。友であり、それ以上の大切な存在でもあった。妖怪と人間の共存を実現しようと思い始めた時、その夢を後押ししてくれて、紫を支えてくれた存在だった。
……そして、とても頑固な一面を持った唐変木だった。
「今行くから!!待ってなさいよ霞ーーッ!!!」
たった1人の特異な温泉妖怪。それを、彼を知る者は皆。『霞』と呼んだ。
同時刻・妖怪の山
妖怪の山は幻想郷の中でも指折りの危険地域…広大な土地を広がる山々には、強い力を持つ妖怪が多数存在している。
…中でも強大な力を持つ天狗達がこの森を支配しているため、人間は原則立ち入り禁止になっており、力の弱い妖怪達が天狗の領域で不用意に暴れたりするような事があれば凄惨な現場が待っているだろう。
そして同族同士の意識が高く。個々の持つ力もそれなりに強い天狗達は、己の縄張りへ現れた侵入者の無礼や狼藉を、決して許すことは無い。
人々はそれを恐れて滅多に立ち入らず、故にこの山は畏れられてもいた。
「ふーん…ふふーん……」
そんな中、1人の白狼天狗がいつものように哨戒任務を行っていた。
名を、犬走椛。「千里先まで見通す程度の能力」をもつこの天狗社会で言うところの…下っ端天狗である。
今日もまた、仕事熱心な椛はいつものように妖怪の山を俯瞰していると…
「……あれ?」
危険地帯であり余り人が通らないはずの山の入り口近くに…何やら見かけない風貌の男が立っている姿が、椛の千里眼へ映りこんできた。
「…どうしてあんな所に人間が…?だけど人間にしては…うーん。何だか纏ってる雰囲気が違うし……あ、もしかして、最近ここに流れてきた妖怪かな?」
その男の風貌は、今まで椛の見てきた幻想郷に住んでいるどの存在よりも…異質だった。
1度見たらとても強く印象に残りそうなその出で立ちは…白い長髪を片方に結い上げながら、淡い水色の浴衣を纏っている背の高い男。
そして、木漏れ日を反射する程にキメ細やかに輝く純白の滑らかな羽衣が…その男の首周りを縦横無尽に動き回っていた。
その異質な風貌の男は現代の妖怪には無い…どこか神秘的な雰囲気を纏っており、椛が今までに見たことの無い類の妖怪だった。
「…と、とりあえず、注意しないと。急がなきゃ!!」
この白狼天狗……もといわんこは、他の下っ端の天狗よりも哨戒任務に対してかなりの熱意があった。天狗特有の持ち前であるスピードを活かし、問題の男の元へと風のような速さで向かうと…その男は山の入り口で辺りをキョロキョロと見渡しながら何かを考え込み、ふと。突然何を思ったのか、自分の足元へと微弱な妖力を流し始めていた。
なんだろう。とても怪しい。そう感じた椛は一息でその男の側まで近づくと…
「そ、そこの妖怪ッ!!ここは天狗の治める妖怪の山よ!!今すぐ立ち去りなs…
そう叫んだ時、椛は絶句してしまった。「開いた口が塞がらない」というやつだろう。
「……ん?」
…何故か、その妖怪の足元から湯気を纏った水……即ち温泉が、湧き出していたのだから。
…温泉?
「…あぁ、すまない。見慣れない景色に少し驚いてしまってね。これに関しては何もしなければ少し経ったら多分消えると思うから、余り気にしないでくれ。…それで、私に何か用かな?」
椛の警告を聞いていたのか分からないが…男はさも当然のように、そう答えた。武装した椛を見てもなお、警戒心の欠片も感じない侵入者の男に対しても椛は警戒心を1段階上げると、訝しんだ目を向けながらも様子を伺い始めた。
「…私は警告をしたのであって、そんな事を聞いてるんじゃありません!
…それに貴方、幻想郷では見かけませんが…一体何者ですか?そして一体何処から現れたんですか?素直に答えなければ、この剣の錆になる事になりますよ!!」
椛はそう問いかけた。いくら何でも突然この山へ現れるなんて…普通は考えられない。どう考えても怪しすぎる。
「あぁ、私はー…」
男が口を開いたその時
「ーーーーぁぁぁぁぁぁあすぅぅうみぃぃぃい!!!」
何かが飛んできたと思った瞬間、
「ガハッ」
とてつもない轟音とと共に、何かが、一直線に男へと直撃した。
椛が慌ててぶつかってきた何かを確認すると……椛の顔が引き攣った。ぶつかってきたのはどうやら女性のようだ。…そして、それは椛の記憶が間違っていなければ…幻想郷の生みの親ともいわれていて、妖怪の賢者として周りの妖怪からとても恐れられているはずの……大妖怪、八雲紫だった。
……え?
「もぉぉー!!一体今まで何してたのよ霞ぃぃぃ!!!バカバカ急に来るなんて知らなかったから紫ちゃん即行で会いに来ちゃったわよ!!ずっと会いたかったんだからもぉー!!!」
…は?
うーん……私は幻覚でも見ているんでしょうか…?なんて、椛が目を疑っている間。八雲紫は男の腰に抱きついたままぐりぐりと頭を擦りつけていた。なんだろう、この光景…?やっぱり幻覚?幻覚なんですかね?
そして問題の男の方はというと、綺麗だった白い髪は何処へやら。小枝や落ち葉によってデコレーションされてしまう程の大ダメージを負いながらも、そのまま賢者を抱きとめて起き上がった。
…身体から相当嫌な音が響いたけど、大丈夫かな…?
「痛たた……あぁ、久しぶりだね紫…。成長して、少しは大妖怪らしくなったじゃないか………あと、大妖怪になったお前の力だとな?私の身体が持たないから、突進はやめろと言ったはずなんだけどな…?」
男が少し顔を顰めた時。
「そ、それは……だってぇ…霞と会えたのが嬉しかったから…つい。…ご、ごめんなさい…」
そんな紫のあざと……心のこもった言葉に、どうやら怒る気も失せてしまったのか…もしくはちょっとした意趣返しのつもりだったのか。
顰めていた顔を先程までの微笑み顔へ戻すと
「相変わらずお前は何年経っても変わらないな…」
「霞ぃぃぃいいい!!!」
微笑みながら、紫の頭をゆっくりと撫でていった。
椛は訳が分からなかった。今、自分が今見ている光景は現実なのだろうか?
……妖怪の賢者がこんなに笑うなんて知らなかった…。普段は胡散臭い言葉遣いで妖怪達の警戒心をやたら煽って来て…大妖怪として、妖怪の頂点に君臨していたはずなのに。
それに、この男は一体誰なんだろうか?急に現れたと思ったらいきなり温泉を湧かせて簡単な風呂を作って…しかも、どうやら八雲紫と知り合いらしいし…
混乱してきちゃった…今のところ怪しい所しか無いんだけど、一体何者なんだろう…?
…謎すぎる。椛は正直な所、今自分が何を言ってるのかさえ自分でも理解することが出来ないでいた。
しかし、お仕事はしなくてはならない。
「あ、あの。すいません、妖怪の賢者様……今日はどうしてこんな所へ…?それと、そちらの男性は一体…???」
最低限の敬いを伴った混乱している椛を見た賢者の代わりに、男が口を開く。
「あぁ、すまなかったね…先にお前と会話をしていたのに邪魔してしまって。私の名前は霞。ただの長生きな温泉好きな妖怪だよ」
男はそう名乗った。成程、温泉好き…だからさっきも温泉を沸かしていたのか。そうか。どう考えても変な類いの妖怪らしい。
「つい先程、外の世界からこっちへとやってきたばかりでね…右も左も分からなかったんだよ。何だかすまないね?どうやら仕事熱心な君の仕事を増やしてしまったようだ。…そうさな。お詫びとしてはなんだけど…温泉。入っていかないかい?」
突然、椛は霞にそう誘われた。あまりに唐突な発言によって、椛が答えられずにキョトンとした瞬間。
その隣にいた紫が突然目を輝かせた。
「何ですって!?あ、私も入りたい!!そこのわんこ知らないと思うけど、霞の温泉ってば凄いのよ!?大抵の怪我や病は治って妖力もみなぎってくる、とっても不思議ですっごい温泉なんだから!!絶対入るべきよ!というか、入りなさい!!ね?ね?」
紫は手をピョンピョンと上げて霞に向かって入りたいとせがんでいる。確かに、視線の端に見える先程の小さな温泉は、透き通った水がとても綺麗で澄み渡っており、白い湯気はとても暖かそうだった。
昼間の陽気によって少しばかり汗を流したいと思っていたのも事実だったので、椛にその提案はとても魅力的に思えた。
…しかし、そんな椛も八雲紫と一緒に入るなんて…絶対心臓がもたない。大妖怪クラスでもない限り、恐怖心によって温泉を楽しめそうにも無いし…それに、初対面の男と一緒に風呂に入るのなんて…普通は嫌に決まっている。
ここは丁重にお断りしよう…そう思った椛が断りの返事を口に出そうとした時、
ガシッと賢者様に肩を掴まれた。
「あ、あの。え…賢者様…?」
「入るわよね?」 「え」
「せっかくこうやって霞が誘ってくれたんだもの。は い る わ よ ね ?」ギリギリギリ
怖い。そして凄く痛い。手を置かれた肩に指がめり込んでいる!?こんな細い腕の何処にこんな力がッ………このままだと私の肩が砕かれちゃうッ!?
焦った椛はほぼ絶叫に近い声で叫ぶ。
「は、入ります入ります!!謹んで入らせて頂きますうぅぅぅう!?!?」
パアッと紫の顔が輝く。
「そうよね!入るわよね!絶対入らなきゃ損するんだから、貴方ってばかなり得したわよ!良かったわね!
…それと、ねぇ霞?この子と入るなら私も入って良いよわねッ!?とっても久しぶりなんだから、せっかく会えたんだからいいでしょッ!?ね?ね!?」
紫は霞に詰め寄っていた。涙目の椛を無視してご機嫌の様である…解せない。
「はいはい分かった分かった、好きにするといい……あぁ、ここにある温泉は片手間で作ったから…3人で入るには少し小さいな。改めてきちんとした別の温泉を湧かすとして…ふむ。少しだけ2人には待っていて欲しいんだけど、それでも構わないな?」
そう言って霞が改めて温泉を湧かせようとした時、何かに気づいた紫がそれを止めた。
「ちょっと待って霞!!ここだともしかしたら通りかかった奴に私達の姿が見られるかもしれないじゃない?ということでぇ……そんな心配のない人気がない素敵な場所へ、私が案内してあげるわ!」
紫はそう言って、椛と霞の足元に不気味とも取れる背景のスキマを作りだした。
「ヒッ!?」
急に椛を襲った浮遊感によって、つい声が漏れてしまう。八雲紫が『境界を操る程度の能力』を使ったのだろう。スキマ妖怪の名は伊達ではないようだ。
スキマの中に入った霞は懐かしいものを見るような目で辺りを見渡した後、紫に一言
「相変わらず、ここは趣味の悪いところだねぇ…」
「もう!何でこの良さが分からないのよ!?」
霞の言葉に紫が半泣きで縋り付いているけれど…しかし椛も霞に同意見だ。赤黒い背景に多数の目玉がギョロギョロとこちらを見てくるのは正直気持ち悪いし…うわ…今目が合った。最悪。
「もう!いっつもそんなこと言うんだから…皆の美的センスは遅れてるわね……あ、着いたわよ!どう?ここなら大丈夫よね!」
2人が連れてこられたのは森の中。しかし、どうやら妖怪の森とは違う場所の様だった…
そこは空気が澄み渡っている高台で、心地よい風が吹き抜けている…とても景色の美しい場所だった。
「ふむ…確かにここならよさそうかな。景色も素晴らしい……2人とも、ここに温泉を創ろうと思うから…服を脱いだら少しだけ待っててくれると助かるのだけど」
「はーい!…ほら!貴方も服を脱がないと温泉入れないわよ?ほらほら早く脱いじゃいなさい!」
「えぇっ!?」
…え!?ちょちょ…ちょっと!?ここで脱ぐの!?しかもなんでこの賢者はもう脱いでるの!?ドレスが脱いだ瞬間が目で追えないってどういう事…!?それにスタイル、良すぎじゃありませんか…?
まさに黄金比、と言えばいいのだろうか。何だか胸とかもう、なんて言えば良いのか分からないけど………椛と比べて、ばいんばいんだった。流石は大妖怪……
「ちょ、ちょっと待って下さい!?自分で、自分で脱げますから!」
そんな椛は抵抗するものの、圧倒的な早業を持つ賢者によってグイグイと服を脱がされてしまう。大妖怪の力に、下っ端天狗の自分が抵抗できるはずなんて無かったのだ。そのまま椛は為す術もなく服を脱がされてゆく…
それにしても、近くに男がいるのに!!どうしてこんなにすぐ服を脱げるの!?
「は、恥ずかしいですって!?それに男の人が居るのに…っ……!!」
粗方服を脱がされてしまい、残りは下着だけになった状態で涙を潤ませた椛は霞の方を振り向く。
「……ふぅ。ここは……良いなぁ…」
…だがしかし、霞は既に温泉を作り終えていたのか…先に1人で湯に浸かっていた。そしてこちらで騒ぐ2人なんて一瞥もせず、呑気に高台から見える景色を眺めながら、温泉を楽しんでいた。
…なんだろう。このなんとも言えない胸のモヤモヤ感…
「あーズルい!!!霞だけ先に入るなんて!!!ほら!あなたも行くわよ!」
「ひ、ひぇぇぇぇぇぇえ!?!?!?」
紫は、霞が入っているのを見て油断していた椛の下着をすぐに剥ぎ取ると。
そのまま椛を掴んで温泉へと飛び込んだ。
ザバーン
当然の事ながら、先に入っていた霞は頭から飛沫を被ることになる。
「………おい、紫?」
頭からお湯を被り、前髪からポタポタとお湯を垂らす霞は…紫をジト目で見つめていた。
「…ご、ごめんなさい?」
じーっ…とチクチク刺さる視線に耐えかねたのか紫はしょんぼりと項垂れ、謝っていた。
そんな中、椛は身体を手で覆いながら…2人とは逆の方向を向いていた。
「こ、こんなのはじめてだよぅ…恥ずかしいぃぃぃ…」
顔を真っ赤にして温泉に浸かっている椛。
「もぉおおお……!!なんで、こんな事になったのぉっ……!!」
恥ずかしい。とても、恥ずかしい……
そんな感情に取り憑かれて居た時。椛は徐々に身体が熱くなって来たことに気がついた。
「……あれ、これ……」
…じんわりと身体に染み渡る熱は、疲れていた椛の身体にはとても心地よく感じて…
「……あ、ふ、ふぁぁあぁあぁあ〜」
そう、椛は声を上げてしまった。懲戒任務で立ちっぱなしだった足腰の疲れ、そしてまるで裸を見られることに対しての羞恥心が、お湯の中に溶けていくような……
控えめに言っても尚、気持ちが良い。
「ねぇ霞……??あの子相当気に入ってるわよ?ふふ。顔がとってもだらしないわ」
「…ほぅ。あれは面白いね…」
そんな弛緩しきった椛に伴い、ピクピクと動く耳を見て…霞が興味深く椛を眺めていた。
「あー…これ、気持ちいいですねぇ…なんだかこの温泉、凄く癒されますぅ…」
「でしょう?私もはじめてこの湯に浸かった時はそんな感じでふやけてたわね〜…数百年振りにお肌に染みるわぁ〜!!」
どうやらこの温泉に浸かると皆、頭の先からつま先までふやけてしまうらしい。椛はすっかり蕩けきってしまっていた。
「……あぁ、喜んでもらえたなら私も嬉しいよ。湯に浸かった人や妖怪を癒すのが、私の存在理由だからね……
しかしまぁ、もう外の世界では…私は用済みになってしまったらしいんだけどね…」
「え…?こんなに気持ちいいのに…?ハッ!と、というかどうして貴方も一緒に温泉に入って…」
「…ん?あぁ、それは私が湯船に入った方が、どうやら相手を癒す効能が上がるらしくてね…
それにこれが本音なんだけど…私も温泉には入りたいからかな?誰かと入るのはもう、数百年ぶりでね。
…あぁ、裸を見られるのが気になるのかい?それはすまないね。どうも私はその辺に疎くて…何だっけ、デリカシー?とやらが足りなかったかな?」
「あ、えっと…そ、そうなんですか…それなら、まぁ……い、いえ、だ、大丈夫です!…それで、あの。霞さんはどうして幻想郷に…?」
椛は先程から疑問だったことを問うた。椛にとってはこんなにも疲れが取れる気持ちいい温泉なのに。
…どうして外の世界では、必要とされなくなってしまったのだろう?
「そうだねぇ…私はもう、自分でも覚えてないくらい昔から存在していたんだけど…昔は色々な人や妖怪が私の温泉への入りに来てくれたんだよ。人族妖怪分け隔てなくね?」
「けれど、時が流れて時代が変わると、私のような山奥にある秘湯には誰も寄り付かなくなってしまってね。古くから共に生きた妖怪は徐々に居なくなってしまったし、人々は山の近くの温泉や、銭湯なんかに行くようになってしまってね。
…そうなってしまうと、何だか私も疲れてしまってね?…だからもう、潮時だと思ったんだよ。で、そんな時に紫に貰った札の事を思い出してね…」
椛の目に映った霞の姿は、なんだか酷く寂しげに見えてしまった。さっきまでとは違い、少しだけ…声のトーンが落ちている事に椛は気づいていた。
「そうだったの…でも、私は今霞に会えたから。全部もーまんたいなんだけどね?むしろ霞はもう幻想郷にいるべきなの!というかむしろ私のところにずっといて欲しいのよッ!!!もうはーなーしーまーせーんーっ!!!」
そう言って紫は霞の背中へとギューッと抱きついた。豊満な胸が霞の腕で押しつぶされる……何これすごい。
( あわわわ!?は、恥ずかしくないの!?そんな事をしたら霞さんが…!?)
椛は咄嗟に霞の顔を見る…が、しかし霞はそんなことは何処吹く風の様で、背伸びした子供を眺めるような顔で紫へ向き直ると
「こらこら…立派な淑女がそんなことしては駄目だろう?お前は大妖怪なんだから、もう他の妖怪の見本になるべきだよ…少し離れなさい?」
「霞のけちー…でもそんなとこ好きー……」
紫はぶーぶーと文句を言いながらも名残惜しそうに抱きつくのをやめる…が、霞の隣へピッチリと貼り付き離れようとしない。
紫はくるりと椛の方へ顔を向けると、ため息を零す。
「今、そこの顔を真っ赤にしたわんこが何を思ってたかなんてすぐ分かるけど…霞ってこういう妖怪なのよ。長い時を生きた上で色々な人や妖怪と風呂に入ってきたものだから……色欲とか、皆無なのよね。もうこれ、絶望しかないじゃない。残念すぎるわ…本ッ当に残念ッ!!!!」
そんな風に怒る賢者の話を聞いて、なんとも納得がいった。どうやら二人の話を聞く限り、霞は随分ご長寿な様子だし…今この状況さえも年の離れた孫と風呂に入る。
…そんな風に捉えているのかもしれない。
そして、椛はというと…外見は整っているし、スタイルも決して悪くなどない。上司や同僚の男天狗からも、下心丸出しのアタックを何度かされている程だった。けれど、それを踏まえてこの反応だから…色々と、精神的に枯れているのかもしれない。勿論下心が見え見えの告白など、斬って捨てたけれど。
そこで椛は気づく。その霞という存在に。
「あ…だからこう、裸を見られても…不快な感じがしないんですかね…?なんだか凄く穏やかな気持ちだし…それに私。男の人に裸なんて見せたことなかったんですよ…?」
「そうよ。そうなのよ。それに温泉だって気持ちいいからみーんな霞に気を許しちゃうのよねぇ…ライバルばっかり増えるんだから…もう。困っちゃうわ」
そんな風に言う紫は怒っているように見えて、何だか少し嬉しそうにも見えた。
その間、霞は純粋に誰かと入る温泉を楽しんでいるのか椛や紫の裸にはあまり目を向けていないようだった。
(……不思議な人だなぁ。今まで、こんな人と接した事無かったし…それに、悪い妖怪じゃなさそうだなぁ…)
椛の目に映った霞という妖怪は多分、自分のような妖怪とは違った生き方をしてきた変わり者の妖怪なんだろう…椛はそう思った後、温泉を堪能するかのように…心地良い感覚へと意識を溶かせていった。
「…二人とも、そろそろ上がった方がいいね。そうさな…私の羽衣を貸すから、それで身体を拭くといい」
「はっ、そ、そうですね…確かに随分と長湯してる気が…」
「…ふふ。来たわね。」
気づけばかなり長湯していたようだ。霞はそう言って温泉を段々と狭めていく。
そんな中、何かを待ち構えるような紫を不思議に思いながら…椛が体を拭くための羽衣を手に受け取ったその瞬間。
「きゃっ!?」
霞が湯を消している最中。椛と紫の体に何かが巻きついてくる…
「ひゃん!」「あっ…」
どうやら霞が身につけていたであろう羽衣が、椛たちの身体を這い回り、肌に取り付いた水分を吸収している様だった。
「んっ…こ、これは一体何ですかぁ!?」
「……そんな身構えなくって大丈夫よ?これは…ッあっ、この温泉のサービス、みたいなものっ、だから」
どうやら濡れた身体を自動で拭いてくれている、そんな便利なシロモノ…らしいが
(で、でもこれって…んっ!?なんて言えばいいのか分かんないけど…)
偶に、色々と擦れる。
これ、は、恥ずかしい…
椛の顔は湯上りとは別の理由で真っ赤に染まってしまった。
(そ、そうだ!賢者さんなら、こんな時どうやって…?)
そう思って目線を賢者へと向けてみるものの。椛の視線の先ではなんとも幸せな顔をしながら身体を拭かれている賢者姿があった。
「あぁ〜…霞ってば、もう…ふふふふふそんなにぃぃぃい〜!!」
…何だか恍惚そう表情をしていた様に見えたけれど、多分…見間違いだろう。ここで声をかけることを、椛は躊躇してしまった。
羽衣はまるで意思を持っているかの如く、的確に水分だけを吸い終わった。羽衣は温泉を消し終わった霞の首へと戻る…それと入れ替わりで、霞が自分たちの服を持ってきてくれた。どうやら分担作業が出来るらしい。
……羽衣って便利なんだなぁ……ってき、機能性だけだけど!本当にそれ以外ないから!!!
椛が熱にボーッっとしながら自問自答している間にも、どうやら話は進んでいた。どうやら賢者が元の場所に送ってくれるらしく、再びあの趣味の悪いスキマに入って移動をしていると…ふいに、賢者が霞に問いかけた。
「ねぇ霞…貴方はこれからどうするの?ここに来たばかりなら…ウチに住まない?」
どうやら霞の今後を聞いているらしい。
いきなり家に誘う辺り、お互いに相当の信頼関係があるように見えた。
「…ん、そうだね。けど、まずは1度。ぶらりと幻想郷を回ってみようかな。せっかく紫が作った世界なんだから…色々と見て回りたいしね。
…それに、ここには色々な妖怪が居るんだろう?」
霞はそう答えた。…どうやらその目は、新しい出会いを求めているようだった。刺激された探究心と、好奇心と…そして、人との出会いを求める寂しさが入り混じったような、顔に見合わない子供のような感情が紫には読み取れた。
「そう…分かったわ。それなら博麗神社はどう?私、1人あなたに会わせたい子がいるのよ。あ、それとこれも渡しておくわね。その札に力を込めるとあら不思議!紫ちゃんハウスへ一直線よ!」
ドレスの中からから突然取り出された札を霞へと渡した紫は、ニッコリと笑っている。
「あぁ、ありがとう紫。そうだ、椛?お前はこれからどうするんだ?」
「あ…私はそろそろ、仕事に戻らないと…」
そうだ、そういえばまだ仕事中だった…!!流石にこれ以上の休憩は、同僚の天狗達にに何を言われるか分からないし…
「そうか…元気でな。また会えることを楽しみにしてるよ」
「はい。それでは私はこれで…」
「あぁ。また今度ね」
霞はそう言って椛へ手を振ると、賢者と共に隙間の中へと消えていく…
「霞さん、かぁ……」
2人の気配が完全に消えるのを確認すると、椛も妖怪の山目掛けて飛び立った。
…何だか身体が軽く感じていつもより、とても速く飛べたのは…もしかしてさっきの温泉のお陰だろうか?
スキマの中で、霞は久しく感じなかった感情に頬を緩ませる。
「幻想郷か…思っていた所より、とてもいい所じゃないか。」
「そうでしょう!?まだまだ面白いところがあるんだから楽しみにしてて頂戴!」
「そうか…それは楽しみだな。」
霞は口元を綻ばせる。…今度はまた、どんな相手に出会えるのだろう?
書き方変えました…
少しは見やすくなってると思いたいッ!!