学校が休みだったから良かったものの
この昼夜逆転は洒落にならない…どうしよう?
睡眠に悩むお年頃です
…どうしてこうなったのだろうか?
今、上白沢慧音は………何故か温泉に入っている。
隣に、男がいる状況で…
( どうしてこんな事に…?私は1人で見張りをしていた妹紅の様子が気になってここまで急いで駆けつけた筈だよな…?それがどうして、こ、混浴なんかをする羽目になったんだ!?)
慧音は今、出会って10分程度しか経ってない男の前で…今まで男になんて1度として見せたことの無い肌を晒してしまっていた。
羞恥に悶える慧音。
…しかしその男は妹紅と和やかに談笑していた。
「おーい慧音?何で霞と逆方向を向いてるんだ?女の裸なんてとっくに見慣れてる霞には、羞恥を持って対応しちゃあダメなんだぞー?」
「な、何を言ってるんだお前は!そもそもこうなったのはあの時お前が私をーーーーー…」
★
この現場へと辿り着いた時、自分の友人が裸で、見知らぬ男の膝の上に乗っている姿を目撃してしまった慧音は…あまりにも現実離れした光景に、思わず絶叫を上げてしまった。
『妹紅ッ!?こ、これは一体どういう事だッ!?お、男に裸を見せるなど破廉恥の極みではないかっ!人が心配して様子を見に来たというのに、お前というやつはどうしてこんな『霞ッ!!』…きゃっ!?』
しかし、ここは夜の森の中。大声を出せばその分危険な妖怪と出会ってしまう可能性が上がってしまう…だからこそ、妹紅の一声によって男の近くから突然布のような物が現れたかと思った瞬間。そのまま慧音へと巻き付いて、あっさりと慧音を拘束してしまった。
『ふむっ!?むむむーッ!!!むむむ!』
…慧音の背丈は妹紅よりも小さい。見た目からして、妖精達よりも頭一つ分大きい程度だろうか…?だからこそ、見た目の幼い少女の身体を羽衣で拘束して口まで押さえるというのは……非常に世間体が悪く、主に霞の精神面をガリガリと削って行く程に危ない現場となってしまっていた。
『…妹紅?流石にこれはちょっと…』
『いや、言いたい事は分かってるよ?けどここに別の妖怪が来たらシャレになんないし…仕方ないじゃん?』
『んむ!むむむっ!』
身体に巻き付いた羽衣を引き剥がそうと慧音は必死に藻掻くものの…動く分だけ、更に羽衣はキツく身体へと締まっていった。身体に害が及ぶほどの強さでは無いものの…今まで縛られたことなど無い慧音は、羞恥によってパニックを起こしてしまっていた。
『あー…慧音?ちょっと落ち着いてくれない?いや、裸の私が言うのも説得力無いかもしれないけど…私だって最初に温泉に入れられた時は割と恥ずかしかったしね?でも、この妖怪…霞って言うんだけどさ。私にとっては恩人みたいな存在なんだ…』
『…んーッ………んむ?』
それを聞いた慧音は少し落ち着きを取り戻したのか、こてりと首を傾げる…どうやら自分の話を聞いてくれる様だと判断した妹紅は口を開くと
…千年以上前。全てに絶望していた妹紅が、霞と初めて出会った時の話を始めたのだった。
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それは、緑だった葉が全て枯れ落ちた…特に気温の冷え込みが激しかった、ある冬の日の事だった。
『……ん……寒い…な。もうそろそろ、冬…か…?……後、何回これを…越えれば、良いんだろうな……?』
もう、数える事を止めてしまう程に妖怪に襲われ続けた妹紅。今、妹紅へと襲いかかっているのは…強烈な肌寒さだった。今朝から何もすること無く、ただ。ずっと冷たい地面へと倒れ込んでいた。
ふと、辺りを見渡してみるけれど…暗くて見づらい。
…まぁどうせ近くにあるのは、葉が落ちきって枯れた細々とした木々と、夥しいほどに流れて地面を黒く彩っている自分の血痕だけだろう。
そんな光景を達観して見ている自分はもう、とっくに狂ってしまっているだろう。
死んで再生する事を延々と繰り返した結果、妹紅の心はもう。既に壊れてしまっていた。
妹紅は独り、思考に走った。ロクな答えなど出やしないが…まだ、何か考えていた方が気が紛れる。…最初に自分が死んでからもう、何度自分は喰われたのだろうか?そして何度、自分で喉を掻っ切っただろう?
…何度、今自分は生きているのか死んでいるのかさえ曖昧な現実に……絶望したのだろう?
生きたくても、殺され。死にたくても死ねず。ひび割れ、冷え切り。廃れて壊れてしまった妹紅の心はもう、この現実から耐えきれなくなっていた。
『…誰か、私を殺してくれないかな…』
そんな事を呟いた時、近くに妖力の気配を感じた。
( 今日もまた、中途半端に喰われるのか……いっそ殺し切って欲しいのに。もう、私が死ぬ為にはこっちから襲われに行くしかないのかな…)
その妖力はここ数年で稀に見る程に強かった。これならば、私を完全に殺してくれるかもしれない…!
そう思った妹紅は行動に動いた。芯まで冷えきって動きづらい身体を引きずりながら、ボロボロの身体でその妖力の持ち主の方へと近づいていった。
そしてその妖怪の顔を直視する直前、妹紅は地面へと倒れ込んだ。傷ついた心によって、身体を動かす気力が尽きてしまった。
…いや、そんなものは元々無かったのかもしれない。1秒でも早く、この地獄から抜け出したかった。もう、どうにでもなれ…そんな、諦めの感情を胸に秘めながら。
『…?そこのお前…人間…じゃ、ないよな?こんな所に人間がいる訳ないし…一体どうしたんだ?もうすぐ夜が来るのに山奥で1人でいるなんて…』
『…………ッ!?』
その妖怪は、どうやら若い男だった。
ゆっくりと顔を上げた先で見えたのは、妹紅と同じ白髪を片方に髪を結い上げ。淡い水色の浴衣と真っ白な羽衣を身につけている……今まで妹紅が見たことも無い雰囲気の妖怪だった。
『そう身構えないで欲しいんだけどね…ん?お前、服が破れてるじゃないか。…何があったんだ?』
『…ッ…お前も…妖怪か…?また、また私を喰らう気か……いいよ。もういい…こっちは慣れてんだよ、さっさとしろ…』
( 妖怪が、一丁前に自分の心配をしている…?
…そんな事、あるはずが無いだろう…ッ…!!!)
しかし妹紅はそれを流して目を瞑って抵抗することを止めた。何故なら妖怪の中には恐怖の感情や悲鳴などといった物を主食にするものも中には居たからだ。
…話す妖怪は、妹紅を長い時間をかけて嬲っていたので1番嫌いな類だった。
妖怪の話なんて聞くだけ無駄だ。そんなもの、信じた所でロクな目に合わない…
そう思った妹紅は口を閉じたまま、男を睨みながら身体の力を抜いて行った。
『…あぁ。どうやら訳ありの娘らしいね…ここで会ったのも何かの縁だ。…少し話さないか?』
『………あ?妖怪の言葉なんて信じないに決まってんだろ…どうせお前だって私を騙しー…ッ!?は、離せよッ!私に何する気だッ!?』
しかし、男は話を突っぱねる妹紅を見て少しだけ何かを考え込むと…その首に巻かれていた羽衣が、突然妹紅の身体へと巻きついてきた。
一体何事かと思い、目を見開けると、自分の身体は男の羽衣に締め付けられていて全く動かせなくなってしまった。
今までと違う妖怪を見て妹紅が心に恐怖を湧かせた時。…男はそのまま地面で拘束されていた妹紅を両手で持ち上げた。…そして、裸だった妹紅の身体を温めるように羽衣を巻き直すと……薄暗くて分かりにくかったけど、ニコリと笑い。呆然としていた妹紅の顔を見つめ、微笑みを浮かべていた。
『今、住んでる廃屋が近くにあるからそこで話そうか。ここに来るまでに厄介な妖怪に出会ってしまってね?…私も他の妖怪との面倒事はなるべく遠慮したいんだよ。
まずは冷えた身体を暖めないとね…それに、酷い匂いだ。こんな子供が一体何をしてたんだ…?』
『お、おい!まだ私は何も言ってー…ちょ、は、離せぇぇぇぇぇぇぇえぇえッ!?!?』
妙に手慣れた手つきで抵抗出来ない妹紅を運び始めた妹紅の心は…自分でも収拾つかない程に混乱しきっていた。
( な、何なんだよこの妖怪…これから私を廃屋に連れていって、何を話す気だ…?…いや、そんな事より本当に妖怪がこんなに流暢に話すことなんてあるのか?今、特に私と話して得ることなんてこの妖怪には無いはずだ。……このまま廃屋に入った瞬間、自分は襲われてしまうかもしれない…)
衣服や身を守る武器を一切身につけていない妹紅に対して…この妖怪には羽衣があった。
この羽衣だって力を込めさえすれば、そのまま妹紅身体を締め上げる事すら可能だろう…
と、この妖怪に対して否定的な意見を内心で浮かべ続けている妹紅だが…
…しかし、それとは別の事も考えてしまっていた。
( そういや…私、微笑まれたことなんてあったっけ…?)
妾の子だった妹紅は街では常に人に嗤われ、貶された。
…しかし家では厄介な存在として扱われ、周りにいたのはいつも怒鳴る姉妹や自分を無視する女中ばかり。化け物になって出会った妖怪達も皆、妹紅を餌としてしか見なかった。
( ホント、なんなんだろう。この妖怪…)
妹紅の事を悪意の籠らない…そんな瞳で見つめてくれる存在は、この妖怪が初めてだった。
化け物になってしまった妹紅の抱える絶望を見て、それでも話さないかと聞いていた存在も初めてだった。
( なんか、あったかいなぁ…)
…羽衣や男の両手から感じる熱を感じたのは…幼い頃の、たまにだけ自分を抱きしめてくれた父によく似ていて…とても温かかった。
だからこそ、妹紅は抵抗することを辞めた。
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『まぁ、出会いはそんな感じだったんだよ。…いやー今でも忘れらんないね、出会って即座に縛られるなんて中々ないし』
『私もまぁ、少し疲れてたからね…あの時はすまなかったね』
『霞だから許す。だからもう少し強く抱きしめて?』
『はいはい…何だか最近、やたらと甘えられてるような気がするな…?』
『え?もうそんなに落としたの?霞ったら手が早いねぇー?』
『いや、そんな事は無いと思うけどね…?』
『…むむ』
慧音は過去の妹紅の話を聞いて、胸が締め付けられる程に痛くなった。そして、今までは誰にも教えようとしなかった過去を話すきっかけになった男に対して…いつの間にか、興味を抱いていた。
『あ、話逸れちゃったけど…その後もまぁ、色々あったんだけど…出会い頭にすぐさま縛られて廃屋連れ込まれて…一体何されるのかと思ってたら…
『私と風呂に浸からないか?』
なんて言うんだから…唖然としちゃったよ』
『…む!?』
その言葉によって慧音の顔に熱が戻る。失礼な紹介だが…あながち間違ってもいないため霞は自己紹介を始めた。
『…慧音、でいいのかな?名乗り遅れたけど…私の名は霞といってね?ただの温泉好きな妖怪だよ。
それと…妹紅の理解者になってくれて、ありがとう』
男は心底嬉しそうに慧音へと微笑みを向けてきた。
そして…それを聞いた妹紅も口元を緩めて笑っていた。
『…ね?まぁ、そんな訳だから…慧音もこの温泉、入ってみない?霞は良い奴だし…大丈夫だから!…それに慧音って男と温泉に入るなんてした事無いでしょ?それなのに男に対して隙が多いしさー…何事も経験だって言うじゃん?』
『んむむッ!?』
そう言って妹紅は指をワキワキと動かしながらゆっくりと、慧音へと近づいてきた。…身の危険を感じた慧音が身体を動かすものの身体の拘束は外れない。
『それじゃあ脱ごうか!せーのっ!!』
目の前の妹紅が慧音の両肩に乗った時、妹紅は服を掴んでそのまま一気にずり下げたのだった。
『んむむむぅーッ!?!?!?』
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そんな事があった中、慧音は全身を抱き込むようにして身体を隠しながらも隣に居る男…霞と名乗った怪しい男の方をチラリと見てみるが…
妹紅と話すばかりでこちらを見ようともしなかった。慧音はここに来る前、不本意だが教え子に自分の身体について語られてしまったので…必要以上に視線を気にしてしまっていた。
そんな霞へ妹紅が話しかける…
「なぁ…霞って今どこに住んでんの?ここ来たばっかりなんでしょ?」
「ん、そうだね…妖怪の山に今度、私の家を兼用した温泉宿が出来るらしいんだよ」
「へーっ………え?何それめっちゃ気になるんだけどどういう事?というかここに定住するの?それ本当ッ!?」
「ここに来る前に友人に叱られてね…」
霞は妹紅と何やら話し込んでいた。そして突然妹紅の頭に手を乗せると、緩やかに撫で始めた。
「…霞?」
不思議そうに霞を見上げた妹紅に対して…霞は昔、妹紅の元を去った理由を話し始めた。
「…妹紅。私があの時立ち去ったのは…他の友人に呼び出されてしまったからなんだよ。私は数日だけ空けるつもりだったんだけど…思ってた以上に長引いてしまってね?…これに関しては、全て私が悪かったよ…」
「霞…」
「私もね…妹紅は初対面の時のような全てに絶望した顔をする事も無くなったし、かぐや姫に対しての強烈な復讐心も随分薄れてきていたから、頃合だと思っててね……もう、人に紛れて生きていけると思ったんだよ」
「霞ぃ…」
あの頃の妹紅は復讐心と絶望しか無かった。しかし、霞と過ごすことによってそれも薄れて心の落ち着きを取り戻す事が出来た…
妹紅がまた、人として生きていける様にしてくれたのは…間違いなく霞のお陰だった。
しかし、その次の言葉によって妹紅は固まった。
「それに、あの時はかぐや姫…いや、『蓬莱山輝夜』って言った方がいいんだっけ?輝夜も大変だったんだよ…」
「…え?どうして霞がアイツの本名を…?って、ま、まさか…?」
妹紅の頭に蓬莱山輝夜……同じ不老不死の少女が思い浮かんだ。会えばいつもお互いに殺し合い、自分が生きている証を確かめ合う関係になった…憎き、そして他に代えがたい存在だった。
そういやアイツ、1度だけ理想の男のタイプ語ってたけど…あれ?何か嫌な予感してきた。
もう何度目か分からない程の殺し合いを続けた頃。
復讐心ではなく、少しの信頼関係を…認めたくは無いけれどもお互いに築いていた。
『なぁ…お前って昔あんなにモテてたのに…今は誰も来ないよな?やっぱ昔の人間は美的感覚がおかしかったのかねぇ?』
妹紅の目の前にいる、輝夜の額に青筋が走るー…
『はぁ!?アンタ負け犬の分際で何言ってんのよ!それに私、あの時代の男ってほぼ全員嫌いだったもの。アンタの父親みたいなロリコン野郎は1番嫌いだったわよ!!」
妹紅の額に青筋が走った。
『あぁ!?人の父親廃人にしといてその言い草かよ!だったら誰なら良かったんだよえぇ!?』
『そんなの優しくって背が高くて私のこと…『かぐや姫』じゃなくて、1人の『蓬莱山輝夜』として見てくれる…そんな人が良いに決まってるじゃない!」
なんか、そんな事を言っていた気がする…そして、霞を見た妹紅は気づいてしまった。その、好みに見合った男の存在に…
「か、霞…お前、まさか…?」
「そうだね…私は、かぐや姫とは知り合いなんだよ」
「やっぱりかぁぁぁぁぁぁあぁあッ!?!?!?」
今度は、妹紅の絶叫が森へと響いていった…