森の中で、慧音は1人悩んでいた。
昔から気にしていた子供体型の事を霞にまで指摘されて…つい、怒髪天に至ってしまった慧音は…普段より力を込めた頭突きを霞にぶつけてしまったのだ。
…目の前に、完全に気絶してしてまっている霞と妹紅が湯船に浮かんでいた。
額を真っ赤に染めている為、とても痛々しい…が。今はそんな悠長な事は言っていられなかった。
「こ、この状況…一体私はどうすれば良いんだ…?ここに2人を放置する訳には行かないし…
…かと言って、この二人を同時に運ぶのは…流石に私も厳しいし…畜生!私の大馬鹿ッ…!!!どうして、妹紅にまで頭突きをしてしまったんだ…ッ!!」
このまま夜の森で時間を過ごすのは…得策では無い。今、もし危険な妖怪がここへ現れたりなんかして。そのまま襲ってきたら。慧音達はひとたまりも無いからだ。
慧音は、考えていた。
里から人を呼ぼうにも…慧音は霞のことを、町の男衆に伝えることを躊躇ってしまった。
『霞を人里へ連れてきた理由』…これが今、具体的に思い浮かばなかったのだ。
ただでさえ頻繁に里へと訪れる天狗達によって、里全体が緊張の波に飲まれているのに…
今、下手に人里を刺激する事は…慧音には出来なかった。
そして1番致命的なのは…少し拓けたこの場所以外、既に周りの光景が闇に溶けて。何も見えなくなってしまっている事だ。
いくら星の光が明るいといった所で、それには限度がある。普段なら妹紅が灯りを照らして見廻りが出来る筈なのに…肝心の妹紅が気絶してしてまっている為、慧音たちは下手に身動きを取ることが出来なくなってしまっていた。
既に日が沈んでしまった森の危険度は格段に高い。特に、道に迷ったりしたら命に関わる問題だ…
慧音が元来た道を思い出そうとするものの…周りは同じような木々が連なっていた。慧音が辺りを警戒するように、静寂に包まれた森を見渡すものの……当然ながら、慧音の目には闇しか見えなかった。
「どうすればいいんだ……!自業自得とはいえこの先の時間を森の中で過ごすのはいけない…
もう、これから人を襲う妖怪がウヨウヨと活動し始める時間帯だというのに…!!
2人が目を覚ますまでは…私一人でも守りきるしか無い。…しかし今夜は、人里の警護もしなくてはならないのに…!」
手詰まりした状況に頭を抱え込んでしまう。普段から里を守っている慧音だが…この森は、何が起こるか分からないのだ。中には群れを構成する妖怪も沢山いる為…相手が1匹だとは限らない。
不安に駆られ、増え続ける焦燥感と高鳴る動悸に…慧音の心は喘いでいた。
…しかし、そんな慧音がその場へしゃがみ込んだ時だった。浸かった湯船から…じんわりと。
心へ、温もりを感じた。
…焦る気持ちを抑えるように。後悔と自責の念に駆られた慧音の心を…やんわりと労わるように。
そう感じてしまった。今まで必死だった筈なのに、突然現れた心地の良いそんな温もりによって
慧音は徐々に、落ち着きを取り戻していった。
「…まずは、冷静になろう。話はそれからだな…」
慧音は辺りを警戒しながら…妹紅と霞を守り始めた。そして、この状況を打破する為の方法を考え始める。
( 慌ててしまうと周りが見えなくなるのは、私の悪い癖だな。気をつけなければ…
確か天狗が人間を襲うことは、こちらから相手の領域へと入った時だけだった筈だ。…つまり、人里に来ていた天狗達には里を襲うが無い。
それに翌々考えてみると…私は何回、大声を上げたんだ?自分でも反省するべき所だが…あれだけ叫んでなお、この辺りには妖怪の気配が一切しない。
…何故だ?まるで、人里周辺の森から…低級妖怪がいなくなってしまった様ではないか…!!! )
そんな時。いきなりガサリと…手前にある草木が集まっている所から、何かが動いたような音が聴こえてきた。それを聞き逃さなかった慧音は湯船から勢い良く立ち上がると、気絶した2人を庇うようにして…その草陰の前に立ち塞がった。
( もう妖怪が来たか…!しかし、この湯に浸かってから身体の調子がかなり良い。そこら辺の有象無象の妖怪になど、この私が負けるわけにはいかないんだ…ッ!!)
「誰か、そこに居るのかッ!?」
警戒心を限界まで高め、いつでも攻撃ができるように構えを取った慧音。
そして、音の鳴った方を見つめていると…
パシャリ、と。一瞬、慧音が光に照らされてしまい…同時に先程とは違った音が聴こえてきた。慧音が予想外な光と機会的な音に驚いていると…
「うーん…何だか物凄く価値の高い写真が撮れちゃいましたね…こんな夜更けに奇遇ですね?どうも、清く正しい射命丸です!」
「…って、しゃ、射命丸じゃないか…というか、何故お前がこんな所に…?」
その草陰から…幻想郷最速のジャーナリストこと。射命丸文がカメラを片手に、平然とした様子で現れたのだった。
…カメラ?
「ちょっと新聞のネタを探しに遠出をしたせいで家に帰るのが遅くなっちゃいましてー…それよりも慧音さんは一体どうしてこんな所に居るんですか?
…というより…どうして、裸なんですかね?」
「そ、それはさっきまで湯に……?」
慧音は慌てて身体を隠そうとする…と、気づいてしまった。月の光で照らされた時、一瞬だけ見えた射命丸の顔は…笑っていた。
「…お、おい…お前…ッ…まさか今、私の裸を写真に撮ったんじゃなかろうな…?」
「プフッ…ふふっ…」
すると、遂に噴き出してしまった射命丸。
青い顔のまま、全身から嫌な汗が湧き出し始めた慧音と違い。…その顔は、笑顔だった。
「いやーすみませんね!!私もこれは流石に風紀を乱してしまうと思ってたんですけど…なぜだかここで撮らないと、後々後悔するぞ…と新聞記者としての本能が疼いちゃいまして?
…あ!心配しなくとも良いですよ!!この写真は門外不出ですので、安心してください!」
「やっぱり撮ってたんじゃないか!?け、消せっ!頼むから今すぐ消してくれっ!?」
( 今の光は文のカメラのフラッシュだったのか!こ、こいつ勝手に人の裸を…ッ!?ゆ、許せんッ!あのカメラ、ぶっ壊してやるッ!!!)
「天誅ッ!!!」
「おっと!危ないじゃないですか?慧音さんの頭突きは人間の里以外でも、閻魔様の説教並みに恐れられてるんですよ?あ、今の揺れ方良いですねー?はいパシャリ」
「き、貴様ァ!!」
「はいスキありっ!!いやーっこのアングル凄いですね!ばいんばいんですよ!?それに慧音さん、もしかして私よりも大きいんじゃないですか?気になって来ちゃったので後で測ってみましょうね!」
「誰がそんな事するかッ!!いい加減にしろおおおおおおおおおおおッ!!!!」
慧音の攻撃…高速の頭突きとカメラを破壊しようとする拳を…射命丸はスイスイと避ける。そして未だ服を着ていない慧音のダイナミックな身体を…雑談混じりに撮影し始めた。
そんな事が数分続いたころ。相当の枚数を撮られてしまった慧音は遂に諦めてしまい…
半泣きになりながら、手で自分の身体を隠すようにして、地面へとへたりこんでしまった。
「ぐすっ…もう、何しに来たんだ。お前…」
「…あやや?どうやら少し、からかいすぎてしまった様ですね…いやぁすみません!!!実は私、今日はとっても気分が良くってですね…だからちょっと、調子に乗ってしまいまして。…あの、すみません?」
「…今日はもう、散々だ……人里に天狗が沢山くるし、男衆には変なことを暴露されるし…妹紅が男と一緒に風呂に入ってるし、てか仲良さそうだし…私まで、一緒に入ることになっちゃうし………全部見られたのに、子供扱いされるし…天狗に裸も撮られたし…もう、疲れた…」
色々と思い返していく内に…憂鬱になってきた慧音。今日一日…ろくな目に合ってない。
…厄日だ。きっとそうに違いない。
座り方を体育座りに変えた慧音は…そのまま膝の間に顔を埋める。射命丸にすら目視できるほどの負のオーラを出す慧音は…もう、動く気力を根こそぎ削がれていた。
「あやややや…どうやらとても、気の毒に思えてしまう一日を過ごしてらっしゃったんですねぇ…
…慧音さん?どうやらお困りのようですね?」
「…え?」
そんな慧音に、思わず射命丸も同情してしまう…そして、射命丸はそんな慧音へと、1つの取り引きを持ち掛けてきた。
「もうすっかり夜ですし…急いで森から出なければいけないですよね?…こんな所にいては危険ですし、何より慧音さんは人里の事だって気にかかっている筈でしょう?」
「…だが、今ここにはーーー」
「そう!今なお慧音さんの渾身の頭突きによって気絶してしまっている霞さんと妹紅さん!2人が目を覚ますまで、ここを離れる訳にも行きませんよね…?」
( な、何が言いたいんだ…?)
射命丸の話に一瞬、違和感を感じたけれど…それがわからない為、慧音は射命丸の話を聞くことに意識を戻す事にした。
「だから今。この2人を里まで運ぶ事を…私、射命丸文が手伝って差し上げましょうか?」
「…ッ…ほ、本当かッ!?」
予想外の言葉に、慧音はその取り引きに食い付いた。射命丸は慧音へと笑顔を向けて、詳しく話を語り出した。
「はい!ジャーナリストの誇りにかけて、私、嘘はつきませんよ?…私が霞さんを背負い、そして妹紅さんを慧音さんが背負う…
…そして更に!実は私はここから人里まで帰る道のりを知っているので、いち早く人里へと帰ることが可能ですよ?」
「…ッ!ここからの帰り道を知っているのか!?」
「ええ。そしてその代わりと言ってはなんですけど…慧音さんの裸を写した写真を今後、1枚ずつ消していきますので…その際、1つだけ簡単なお願いを聞いてもらっても…宜しいですかね?」
「…お、お願い…?」
射命丸の言葉に、慧音が息を飲み込んだ。
「あ、そんな難しいことや、金品を要求する事じゃ無いんです。例えば○○さんについて教えて欲しい…とか、慧音さんの家に泊めて下さい!とか。…そんな事でいいですから!…どうですかね?」
「…なら、頼む。今は一刻も早く里へと戻りたい………しかし、他人の秘密を勝手に漏らすのは…私には、出来そうに無いんだが…」
「分かりました!それではお話を聞く程度で構いません!」
「それなら了承した。…頼む」
射命丸との取り引きを受け入れた慧音は、そのまま射命丸へと頭を下げた。
「はい!それでは2人を背負わないといけないので慧音さん?妹紅さんも温泉から出して、2人が近づいた状態で…霞さんの首に巻いている羽衣に触ってくれませんか?
「わ、分かった………これでいいーー…キャッ!?」
妹紅を抱え起こした慧音は、射命丸の言う通り…温泉に浮かぶ霞の羽衣へと手を伸ばした。
…その瞬間、突然羽衣が慧音と妹紅の身体に巻き付き始め…2人の肌についた水分を一気に拭き取り始めた。
「…っ…んっ………」
気絶している妹紅も、突然巻きついた羽衣を受け、くぐもった声を漏らしている…
…そして、射命丸のからかいによって全身から汗を流していた慧音。掌から始まり、腕や胸を重点的に羽衣は拭き取り続けていった。
「んー…慧音さん、胸が大きいから絵面が凄いですね!!流石に写真は撮りませんけど、目に焼き付けさせて貰いますね!」
「お、おい!?これは、ひゃっ!?んっ、ど、どういう事だ!?…あ、そ、そこはッ!?や、やめろぉぉぉおぉお!!!」
「あ!慧音さん?ちょっと言い忘れてたんですけどー…この羽衣、なんと霞さんの湯に浸かった人を自動で拭いてくれるんですよ!
…確かに初めての時はちょっとだけ刺激が強いかも知れませんが、慣れると結構気持ちいいんですよ?
はぁ…私も入りたかったんですけどねー…?これもスクープの為ですし、仕方ないですね!!」
そんな事をニッコリと笑いながら宣う射命丸。…そして、慧音は今更気づいてしまった…
「…お、おい射命丸…っあ、ん、まさか、私が最初にここに来た時…から、あっ…くっ…お前は、ここに居たというのか…?」
「あ、はい。そうですよ?実は今日の昼頃から…霞さんの密着取材をしてましてね?ちょっとだけ小細工は施させて頂きましたよ?…まぁ、詳しい事はまた慧音さんの家で話しますから…今は羽衣が、身体を拭き終わるまで耐えて下さい?」
「お、お前ッ!お、覚えてろよぉぉぉッ!!!」
それから数分間の間、羽衣に全身を拭かれた慧音。少し刺激が強すぎたのかすっかり脱力してしまい…目の前の射命丸に、服を着せてもらう羽目になってしまった。
★
そして、人里では…男衆が会議を開いていた。
「…なぁ、天狗の様子がおかしいらしいぞ?」
「…?そんなの皆知ってる事だろ?ここに来てた天狗、皆今にも死にそうなくらいの酷ぇ面した奴ばっかりだったじゃねぇか。あんなのがおかしくない訳がないだろ?」
「いやさ、さっきからぱったり天狗が来なくなっただろ?何か妖怪の森の方角からさ…奇妙な音が聞こえるんだよ。こう、なんか家を作ってるような…」
「…家ってか?あの妖怪の山にある神社……名前、何だっけ?…早苗神社…だったっけ?改築でも始めたのか?」
「お前が普段、何を目当てにあの神社へ行ってるかがよーく分かったよ。守矢神社だよ守矢神社!というか、改築するなんて話は聞いてないぞ?」
「ああ、それだそれ!…って、別にいいじゃねぇか!お前らと違って、俺には嫁が居ないんだからよッ!!若くて可愛い巨乳の女の子がいたら、そりゃあ見に行きたくなるだろ!?」
「…くっ、否定出来ない…ッ…!!」
「しょうがねぇよ…ありゃあ天然物らしいけど、凄いもんな?こう、ドンッ!て感じでよ!!スタイルのいい美人の巫女を信仰したくなる気持ちは、分かるぜ…」
「同士よ…ッ!!!」
「…そういや巫女ってもう1人いるだろ?博麗……何だっけ?あの脇がガラ空きの巫女服着てる、早苗ちゃんと比べて胸のちっちゃい子…
あの子、異変が起きた時は動いてくれるらしいんだけど、今みたいな異変か何かが曖昧な状態では動いてくれないんだよなぁ…妖怪退治の専門家らしいけど、あんな所までわざわざ頼みに行けねぇよ…」
「確かにな…それに、俺たちに力があれば…慧音先生の手伝いが出来るのにッ!!!あの人だけに、負担をかけなくて済むのに………俺はこう、慧音先生を支えてあげたいんだ!!」
「………そしてお近づきになって?」
「あわよくばおっぱいを………ハッ!?」
「お前は寺子屋にいた時から慧音先生の胸ばっかり見てたもんな?しょっちゅう頭突きされてんのに全然懲りないんだから……動機が不純過ぎるし、だから嫁の1人も出来ねぇんだよ…」
「しょうがねぇだろう!?俺はあの胸を一度でいいから生で見てみたい!!そして一緒にお風呂に入りたいんだよォ!!」
「まぁ、その、気持ちがわからんでも無いけど…俺は嫁一筋だからな。今は森の様子を見に行った慧音先生と妹紅ちゃんが心配だよ」
「そうだな。そろそろ戻ってもおかしくなーーー」
バターン!!!
口々に話していた男達。すると突然、男達がの集まる家の扉が…強引に開かれた。
「だ、誰だ!?」
「他人の家に一体何をしーーー…ッ!?て、天狗!?」
「ど、どうしてここに天狗が居るんだよ!?」
目の前には、1人の天狗の少女。
その少女はニコニコと男達に笑顔を向けながら、名乗り始める…
「あ、どうも!私、清く正しい射命丸と申します。突然ですけど…全員、今直ぐに慧音さんの家に集合してくれませんかね?…というか、来て貰わないと私が困るんです。
それじゃあ、手早く来てくださいね?」
鴉天狗の少女はそう言い残すと、直ぐに男の家を後にしてしまった。
男達は今の光景に唖然としていたが…すぐさま我を取り戻し、急いで射命丸の後を追い始めた。
「お、お前ら!とにかく慧音先生の家へ急ぐぞッ!!!」
『『『応ッ!!!!』』』
作者は気分屋ですが…
精神的にも不安定な季節がやって来ますね。
執筆意欲が続くかしら…