東方湯煙録   作:鯖人間

34 / 51
文さんって絶対有能だと思う。


天魔と仕事と完全なる生き物

「あ゛ー…疲れたわぁー…」

 

天魔は今、1人で休憩時間を謳歌していた。先程まで生気の無かった天狗たちが一斉に復活して、天魔の負担がかなり減ったからだった。

河童たちが内装を整えるために出向いた為、ようやっと休憩できるようになった天魔は…すっかり疲れ果てていた。それもあの、忌まわしき雑な謀反計画のせいで。

 

 

 

 

「あンの馬鹿天狗め…不満があるんだったら私に正面から言えばいいものを、何故に一々河童を使って来るのよボケェ!!

アイツら本当に技術力を高める事しか考えて無いんだから止めんのクッソ疲れるんってのよッ!!!

それに大体『鬼に媚を売る…』これ、実行してたのアンタ達みたいなチキンハートな大天狗でしょうが!!山の四天王相手に物凄くヘコヘコしてた奴が、今更何を言ってるのよッ!!

後、河童のジジイはいい加減にしろぉッ!!!」

 

 

溜まった鬱憤を1度に吐き出した天魔は今。かなり荒れていた。

 

 

やたらと宿に兵器を付けたがる河童の相手をし、自身も宿作りを手伝う。これだけでもかなりしんどいというのに…そんな天魔の元へ、紬が何かを手に持って、歩いて来た。

 

 

『あ、椿ちゃーん?ちょっとお願いがあるんだけどー…この残骸、何処かに棄てておいて欲しいんだけど、いいかなー?』

 

 

そう言って、紬は大きな黒い翼を2枚。天魔の目の前にポイッと放り捨て…嗚呼。もう、この時点で色々と察する事が出来た。

大天狗特有の大きな翼の付け根には、少なからず血痕が付いており…

 

 

 

( うわぁ…あの大天狗の末路を考えるだけで、なんか身体がめっちゃ痛く感じるんだけど…)

 

 

大方霞…か、レミリア達のことを酷く侮辱したのだろう。『天狗はこの世界の頂点の種族』なんて豪語していたが、コイツのせいで天狗全体の品位が下がっているような気もする。

そう考えると、長い事生きてる癖してどうにも想像力が足りないというか…肩書きだけの大馬鹿というか…

 

 

何だか、やるせなくなった。

 

 

『お、お疲れ様…紬?ほ、本当に両翼毟り取ったの…?…で、もう粗方想像出来ちゃってるんだけど…結局、その翼の持ち主はどうなったのよ…?』

 

 

しかし、抜けたポストは埋めなければ行けないし…その為に色々と書き出す書類もある。さっさと誰かに役職を引き継いで貰うのじゃ。それにどうやら馬鹿は白狼天狗にも居たそうじゃし…そいつ等の処遇についても、ある程度知っておかなければならないのが天魔としてのーーーー

 

『えーっとね…?まず初めに女性をストーカーしてた方と、その片割れの方はー…取り敢えず、三途の川の方角へ投げといたよ?』

 

 

『 ………え?紬、今なんて言った?』

 

 

おかしい。うん、私はどうやら仕事のしすぎで幻聴が聞こえるほどになってしまったらしい。なんか三途の川とか聞こえたけど、ここから三途の川って結構離れてるし…

ダメね…やっぱり天狗のトップとして、体調管理はきちんと行わなければ下に示しがつかないわ。これはもう、この宿が完成した暁には…霞と一緒に温泉にでも入って心身共に癒してもらおーーー

 

『えーっとね?詳しく言うと、あの白い変態天狗さんは2人共気絶してたから…取り敢えずえい、って投げてみたんだよ。…まぁ、運が良ければ助かるかも知れないし?

…それにもし、当たりどころが悪かったとしても……目の前に三途の川があるんだから。色々と、小町さんの手間が省けるでしょ?』

 

 

 

その時の紬さんはーーーーー薄く、笑っていた。

 

 

え、怖いんだけど。何コレ?何でこんなに綺麗で儚い笑みを浮かべてるのに、こんなに背筋が凍りつく程に冷えるんだろう?

おかしいなぁ…今日の紬、結構ブチ切れちゃってるなぁ…こんなにブチ切れたのも久しぶりだから、宥める方法がさっぱり思いつかないのよね…

取り敢えずその変態白狼天狗共は自業自得よね。そのまま彼岸まで行って閻魔の奴にこってりと絞られて来るがいいわ。もし、転生するような事があれば…今度は勤勉な蟻にでもなるのがお似合いだろう。

 

『えー…一応、分かったわ。それじゃあ、その翼の持ち主の大天狗の方は』

『さぁ?何をしたんでしょうねー…?』

 

 

あ、これはもうかなりやっちゃってるパターンね。コイツの方が悪質だったから既に、薄々感じてたけど…まぁ。明るく考えてみればこれで見せしめが出来たから、今後紬に逆らう天狗は現れなーーー

 

『あと、いつの間にか霞ちゃんと私の住む家に13個の固定砲台を付けていた河童のお爺さんも、三途の川へ投げといたけどー……別に、いいよね?』

 

 

ジジイーーーッ!?えぇ!?もう既に紬さん、粛清行ってたの!?というかジジイ馬鹿じゃんやっぱり!!私、あれだけ説明したハズよね?『ここには鬼子母神も住むことがある』って、ちゃんと言ってたよね!?

なーんーでー付けちゃうのよあのバカ河童はぁッ!!口調がなんか河童の長っぽかったから現場監督に任命したけど…あのジジイ本当に長だったの!?タダの爆弾魔か何かじゃ無いでしょうねッ!?

 

 

『え、ええ。…た、確かに、あそこにはこれから色んな人間や妖怪が住むんだから…あまり物騒な物を置いておくのもダメだからね?霞の悪評が立つのは、絶対に阻止しなくちゃいけないし…』

 

 

『あ、その事なんだけどねー?紫さんの話だと…既に人間の里の懐柔は済んでるみたい。

いやー話がトントン拍子で進むっていいよねぇー…これで私たち、また霞ちゃんに褒められちゃうかもしれないよー?』

 

 

『…ん?人間の里の懐柔?』

 

 

え?いつの間にそんな事してたの?…え?それ、私知らないんだけど。どういうことなんだろう?…あれ?もしかして私だけハブられて…あれれー?おかしいぞ〜??

 

 

『はい!紫さんが謀反を起こそうとしてるってタレコミを受けてたじゃん?そしたらその鴉天狗さん、その報酬として霞ちゃんの密着取材を要求してきたんだよ!!しかもね?取材で撮った霞ちゃんの写真は欲しい方にプレゼントしてくれるらしくてね?紫さんから聞いた私も大喜びなんだよ!

私、人が欲しがるものを当てられる人って、やっぱり貴重だと思ってるんだよねー?だから、人間が霞ちゃんに求めるものはなにか…って、聞いてみたんだよ。そしたらその鴉天狗さんは…

 

『そうですねー…人間は妖怪に対して抵抗がありますので、里の人間全てが使える銭湯なんかどうですか?私がまず、霞さんの価値を説いてきますから。そうすれば…霞さんは確実に、人間の里から受け入れられますよ?』

 

って、言ってくれてね?もう私も紫さんも『その手があったか!?』って驚いちゃったよー!!

だから、この宿建設が終わったら…紫さんと協力して。この時代にあった銭湯を作る予定なんだけど…あ、椿ちゃんも手伝ってくれますか?』

 

『手伝うに決まってるわよ!!私だけ除け者とかつらいわあぁぁぁッ!!私だって仕事するよりそっち手伝いたいもん!というか妖怪の森のトップは紬なんだけど、仕事とかどうやってるのッ!?』

 

『え?だって書類のサインとハンコ押すだけでしょ?地底でも一応やってたし、この先1週間分はパパっと終わらせちゃったよ?』

 

 

 

『ゆ、有能ッ!?』

 

 

 

頑張ってるけど仕事の遅い天魔は、紬の発言でかなり心にダメージを負ってしまった。何だこの完璧な生き物…

 

 

 

 

 

『紬ってずるいわ…里で見たお人形の様に可愛いし、家事万能だし、仕事も出来るし、めっちゃ強いし、おっぱいだって大っきい…

…私、何にも勝てる事がないのね…」

 

 

 

すると、そんな天魔を紬は後ろからゆっくりと抱きしめると…まるで天魔をあやす様に。天魔の疲労を癒すように。座り込む天魔の頭を撫で始めた。

 

 

『紬…?』

 

 

『大丈夫だよー?椿ちゃんの頑張ってる所、私がちゃーんと知ってるしねー?私だって椿ちゃんのこと、いつも羨ましいと思ってるよ?

だって元々私はー…他人に全然興味を持つ事が出来なかったしー…霞ちゃんに会うまではー…何も変わらない日々を、ただただ心を冷めさせるだけの毎日を…延々と過ごしてたんだもん。

それに、私は1回失敗しちゃったんだー…さっき、霞ちゃんが1番求めてるものが何か分かる?って鴉天狗さんに聞いてみたんだけど…

 

…当てられちゃってね?』

 

 

昔の紬には分からなかった、霞の求めるもの。それにすぐに気づいたあの鴉天狗さんは…とても頭が良いんだろう。

 

 

『そうね……それ、間違い無く文でしょ?そんな洞察力と頭の回転を持ち合わせた天狗。そうそういないしね…』

 

『あ、正解ー!!、そうだ、射命丸さんだった。凄いよねー…私、霞ちゃんが居なくなってしまってから気づいたのに。

…どうやら、霞ちゃんが無意識に求めているのは…『自分の居場所』…たったこれだけなんだよねー…』

 

『ああ…何というか、霞らしいわね…』

 

 

生来の自分の能力によって、癒しを求める存在の元へと旅をしていた霞。

 

しかし、その度に霞は慣れ親しんだ土地を離れ…別の地へと歩んでいった。

 

仲の良い友達は沢山増えたものの…結局、最後まで霞のそばに居た妖怪は1人も居らず…最近までは山奥で独りで過ごしていたらしい。

 

 

性格上、お人好しな霞は…他の存在に尽くした結果、時代の流れに取り残されてしまった。

 

 

 

その結果、『自分とは何なのか…?』『何故私は生まれてきた?』と、延々と自問自答を繰り返すだけの存在に成り果ててしまったのだろう。

 

 

 

『ですから私、その時から練習を始めたんだよ?家事が上手くなれば霞ちゃんの負担が減るしー…仕事もできれば、なお良し!!

それに、私が霞ちゃんを守って、その代わりに私の事を癒してくれればー…また、昔とは違った結果が生まれるって私は思ってるんだよねー…?

…だからこそ、霞ちゃんの良い所を沢山知ってる椿ちゃんは…私にとって、とっても大切な存在なんだよ?』

 

 

紬にそう言われて、天魔の心に熱が戻ってきた。先程までとは全然違って、心の底からやる気が漲って来る感じがしたのだった。

 

 

そして、天魔はガバッと立ち上がると。大きな声で宣言した。

 

 

『…よーっし!!もう、メソメソするなんて私らしく無いわね!!私だって霞の力になりたいし。霞の求めるものを提供出来るようになりたいわ!!』

 

 

天魔のその言葉を聞いて、目を輝かせる紬。

 

 

『その意気だよ椿ちゃん!やっぱりいつも元気な椿ちゃんを見ると、私も頑張ろう!って思えちゃうよねー?そこが椿ちゃんの良い所だと私はずっと思ってるよー?』

 

『そ、そう?えへへ…』

 

 

あれ、なんかとっても嬉しい。

やっぱり紬の言葉って何かいいなぁ…

 

 

 

 

『はい!けど、おっぱいは小さいけどねー?』

 

「おいコラ紬ィッ!?今それ言う必要絶対無かったハズでしょおおおおおおおお!?」

 

 

 

「きゃー♪椿ちゃんが怒ってるー!!」

 

 

突然天魔の地雷を踏み抜き、にこやかに笑う紬とキレる天魔。

紬なりの励ましなんだろうか…?

 

 

「うわあああああッ!!返せよぅ!私の感謝を返しなさい紬ィッ!!というかどうして紬はおっぱいが大きいのよッ!?ま、まさかこれも霞のためにありとあらゆる手を使って大きくしたんじゃ…」

 

「あ、これは勝手に大きくなっただけだよ?」

 

 

「畜生めぇぇぇぇぇぇえッッッ!!!」

 

 

叫ぶ天魔と笑う紬。これもまた、仲のいい2人にとってのコミュニケーションの一環なのだろう…

 

 

天魔はそう信じたい……と、強く思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま2人で話をしていると…そこに、こちらも少しぐったりとした様子の紫が現れたのだった。

 

 

 

 

 

 

「アンタ達、まだそんなに話す元気が残ってるの?それにまだ一日経ってないのに…アンタ達って本当に凄いわねぇ…これならもう、明日の夕方には温泉宿。出来上がるんじゃないの?」

 

 

紫は思っていたよりも遥かに早く、完成しつつある温泉宿を見て驚かずには居られなかった。

仕事自体は昼から夜にかけてのおおよそ12時間程度。しかしたったそれだけの時間で既に、おおよその外装が出来上がってしまっていた。

 

 

「え?何を言ってるの紫さん?この宿は明日の昼には完成するように作ってるよー?」

 

 

「「え?」」

 

 

 

天魔と紫の声が被った。2人は目をパチクリとさせて、お互いにキョトンとした顔を見合わせている…

 

 

「私の想像以上に序盤の天狗さんの仕事が早くてねー?というか、諏訪子さんのお蔭でこの辺りの地盤がいい感じに整地されたんだよ。

そしたらそこから河童さんの下地を作る作業が効率化されてね?あっという間に一面の土台が出来上がっちゃってね?

萃香さんと勇儀さんのおかげで壁を作る作業と屋根の組み立ても予想より早く終わっちゃったし…あの二人はお酒を用意すれば普段以上に働いてくれるからねー?

後は私が残っていた色んな部分の補強に回ったし、分担作業で宿の建設と、宿に必要な物資を運んで来る人とー…ここまで来る為の山道の整地を天狗の皆さんがしてくれたからねー?

 

…もう、宿自体は完成間際なんですよー」

 

 

開いた口が、塞がらない。

 

 

「…今思えば、紬の作業量がおかしかったわね」

「ええ…紬ってば、夜間の犯人退治の為に…日中の間に物凄く動いてたのね…」

 

 

 

「けどね?今回1番役に立ったのはー…やっぱり、紅魔館の皆だよねー…!!」

 

 

「あー…確かにあのおにぎり、美味かったのぅ…」

 

「そうね…あのおにぎり、私も食べたんだけどめちゃめちゃ美味しかったわよ?アレ、本当にあのフランドールって子が作ったの?」

 

 

「そうだよー?あのおにぎりのおかげで天狗さんの疲労は消えちゃったしー…『吸血鬼幼女を眺め隊』とか『メイド長を讃え隊』なんてものが天狗さんの中では出来上がったらしいよ?ようやく天狗の排他的な価値観が変わってくれて良かったねー?」

 

 

 

「…え?紬?私、そんなの聞いてないんだけど?」

 

 

おおぅ…なんということ…紬が妖怪の山に来てまだたった12時間。…しかしそのたった12時間で『天狗』そのものの概念が変わってしまったらしい。

 

 

地獄のような作業を続けられた先に見た、顔のレベルが相当高い紅魔館の面子は…どうやら簡単に天狗達の心の隙間に入り込み、そのヒビ割れた心を埋める役目を果たしたらしい。

 

 

 

…こんなこと、アリなのかしら?

 

 

「ちょ、ちょっと!?そんなの作ったりしたら、天狗の中に不埒な輩が出てくる可能性がーーー」

 

 

「あ、そこは心配ないよ?天狗さんって、規律とか秩序を重んじるじゃない?だから、それぞれ簡単なルールは作ってもらってるから、心配しなくとも大丈夫だと思うよ?

 

…それを破ったら、極刑だし?」

 

 

 

あ、なんかもう安心した。どうやら紬の目的はこの妖怪の森に住む天狗が、みだりに他の種族を害さないようにする為の措置であり…

 

他の種類に対して天狗が狼藉を働いた場合は、有無を言わさず三途の川送りという宣言でもあった。

 

 

「それじゃあ今日一日、守矢神社や紅魔館の協力のおかげで…もう少しで完成を迎えるしー…残りも頑張りますかー?」

 

「…それもそうね。もう、この際天狗については後回しでいいわ…温泉宿の経営についても霞と予定を合わせないといけないし…銭湯の件もあるから。私、これからが忙しいのよねー…」

 

「まぁ、仕方ないわね。というかさっさと完成させて、宴会の準備もぼちぼち始めないといけないし…」

 

 

 

 

 

「あ、宴会に必要な物資は持ってるから、その心配はしなくても大丈夫だよ?」

 

 

 

 

「「紬が有能過ぎるッ!?」」

 

 

 

 

天魔と紫は声を揃え、そう叫んだのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。