いつまで続くんでしょう。
『んッーーーーーーー!!』
『〜♪』
( うわぁ…何やってんだあれ…)
妹紅は慧音の大声によって、既に意識を戻していた。まだ額はズキズキと痛むものの…不死者にとってはそう大したことではない。むしろ今まで色々な激痛を味わって来た妹紅にとって、未だに慣れない痛みなんてものは…逆に珍しいと言えるだろう。
そんな妹紅は今、顔を真っ赤に染めていた。隣で寝ている霞に対してドキドキしているのも、理由の一つとなるが…
『 …ふぅ。もう大体分かりましたので、慧音さんの取材はここまでにしましょうか。
…しかし謎ですねぇ?身体は小さいのに胸が大きいなんて、鬼子母神様以外にも居たんですね…
あ、せっかくなんで鬼子母神様の写真要りますか?えーっと…あ、コレですね。見てくださいよ、やっぱ大きいですよねぇ…』
『はぁ…はッ…お、お前…あ、後で絶対ッ…て、天誅だからな………って…お、大きいな…』
先程まで慧音の胸をこれでもかと言わんばかりに揉みまくっていた射命丸と、やたらと色っぽい声を上げていた慧音のせいだろう。
どうやら今、鬼子母神とやらの写真を見ているらしいが…何でそんなものを持ってるんだ…?
( 落ち着け…落ち着くんだ藤原妹紅千三百……歳なんてもう忘れてしまったけど、これでも私は大人ッ!!大人な私はあれしきの光景では狼狽えない!)
自分にそう言い聞かせながら、妹紅はゆっくりと状況を整理することにした。
まず、『自分は何処にいるのか?』を考え始める…が、妹紅の目に入った天井や家の中の光景は…見慣れた光景だった。だからこれは簡単…これは慧音の家だ。普段、よく来るからそれは分かる。
次に、『何故ここに居るのか?』これもまぁ、ある程度理解していた。隣で霞が寝ていることから…私と同じで慧音の頭突きにやられたんだろうなぁ…大方夜の森で2人が気絶してしまったから、慧音は急いで私たちを家まで運んだんだろう。
そこで多分、射命丸と出会って…2人で私と霞を運んだんだと思うけど…慧音は裸を晒した相手を恥ずかしがるから、絶対私を運んだハズ。まさか射命丸が、霞を運んだのか…?
( …うーん。なんか引っかかる所もあるっちゃあるんだけど…問題は射命丸なんだよなー…アイツ。一体何が目的で、こんな所に居るんだ…?)
妹紅からすれば、そこが1番分からないところだった。射命丸は普段はネタ探しに奔走して、それを新聞にする為。普段は家へと直帰していると聞いていたのだが…
しかし、そんな事よりも妹紅にとって。気にしないようにしようとしていのだが…やっぱりどうしても気になることがあった。
( 慧音と射命丸はひとまず端へ置いとくとして…霞、良い寝顔してるよなぁ…)
妹紅の隣で気ぜ……寝ている霞の寝顔は…長い間、自分に重くのしかかっていた物から解放されたような。
…そんな、清々しい顔をしていた。
昔、まだ妹紅と旅をしていた時の霞は確か…普段はニコニコと笑っていたけれど、偶に。ふとした瞬間にボーッ…としたりすることが多くあった。
そして睡眠時も、険しい表情をしながら何度か魘されていたこともあった程だった。
そんな霞は…もう、居なかった。今の霞は纏う妖力からして昔と違っていた。顔つきも、背丈も、服すら未だに変わらないのに…偶に見えていた陰鬱な雰囲気はもう、消え去っていた。
それを確認した妹紅は…なんだか理由もなく嬉しくなってしまった。
( 霞もなんか、色々とあったんだろうな。…けど、あんなに絶望していた私でさえ元気でやってけるんだから。霞が過去を引き摺ったまま立ち直れないなんて事は…ないと思ってたんだよなぁ…)
そんな事を考えながら、妹紅は少し霞へと近づいて…そのまま眠り始める。
慧音と射命丸の乳繰りあいにも興味がないわけじゃ無いんだけれど…妹紅にとっての優先順位は、霞の方が上だっただけなのだ。
( おやすみ…霞…)
★
そんな妹紅が眠ってしまった頃。
「ねぇ慧音さん?実はお願いがあってですね…お風呂を借りても宜しいでしょうか?」
慧音の裸の写真が『全て入ったカメラ』を手に持ちながら、慧音へと話しかける文。…それはもうお願いという名の脅迫に近いナニカへと、変わってしまっていた。
「そ、それが人に、物を頼む態度か…!?」
「あやや?貸してくれないんですか…?そうですかぁ…私、今日は霞さんの密着取材として…昼間の紅魔館で霞さんが私の新聞を読んでくれてるのを写真に撮ったり、紅魔館をあとにして魔理沙と別れた霞さんが…昔の私のように高速で空を飛ぶ姿を写真に撮ったりしてたんですよ?
こう見えても私、色々と飛び回ったので結構疲れてましてね?汗もかいちゃいましたし…流石に乙女として、殿方に『汗臭い女』なんて思われてしまうのは、乙女のプライドが傷ついてしまうんですよ…」
「ぐッ………!?」
慧音は前半に対しては突っ込みたく思ってしまったが…後半は同じ乙女として、理解出来る話だった。確かに、汗を流さない状態でこれから霞の隣で寝るのは抵抗があるだろう…
しかし、慧音にも譲れないものがあった。今、必ず文の持っている…自分の裸写真を消しておかなければならない。
「…なら、カメラを私に預けていけ。ふ、風呂場にはその…見られたくないものだってあるんだ。だから余計なことはせず、汗を流してくるだけなら構わん」
「お、交渉成立ですね!それでは最速で入って来ますので…慧音さん?写真は消しても構いませんけど、その中に入ってる霞さんの写真を消したら許しませんからねー?
…きちんとバックアップは取ってますけど」
そう言い残して、文は風呂場へと向かっていった。意外と素直に渡したことに対して疑問が残っているが…
それに、最後の一言が逐一腹立たしい。
…そう言えば着替えとか、持っているのだろうか?
「と、取り敢えず写真を消さなければ……ん?」
文から渡されたカメラのフォルダの中から映りこんだのは…1枚の写真だった。それはまだ妹紅と霞の話を聞いている時の慧音が…2人の様子を、ニコニコと微笑みながら眺めている姿が写っていた。
そして、その次の写真は霞に張り付く妹紅とそれを窘める霞の姿。尚、この時の慧音も微笑みを浮かべている…
その後、色々な写真が見つかるものの…目的の写真は1枚も出てこなかった。
「 …ど、どういう事だ…?確かにあの時、文の奴は写真を撮ったと話していた筈だ『そんなの撮るわけ無いじゃないですか?』ヒイッ!?」
突然後ろにから聞こえた声によって、驚きのあまり跳ね上がってしまった慧音。
慌てて背後を振り返ると…寝巻きのような薄い生地の服に着替えた文がそこにいた。
「お、お前ッ!?ふ、風呂に入りに行ったんじゃないのか!?」
「え?ちゃんと風呂場には入ってきましたよ?こう、パパっと洗い流しきましたし…」
…まだ数分しか経って無いのに!?いくらなんでもこれは早すぎる…これではまるで、
「本当に烏の行水じゃないか!」
「あ、上手いこと言いますねぇ慧音さん!!今のはイイですよ!見事に的を得てますね。私、あんまり長湯をしないタチなので…いやぁー…お見事ですね?」
「ッ!?…う、上手くなんかないッ!!」
つい言ってしまった事だが…何故か好意的に受け取られてしまうとなんだかやけに恥ずかしく感じてしまった。
「そもそも私、朝風呂が好きなんですよね。それで今日は既に、湯に浸かってますので…これでも最低限の汗は流してますし、このまま霞さんと眠る準備は万端なんですよねー…ふぁ…ん。そう思ったら急に眠気がー…」
「ほ、本当に泊まる気なのか…というか、このカメラの写真のことだが…
…これはどういう事なんだ?」
文のカメラの中には、慧音の裸の写真などは1枚も入ってはいなかった。
…その代わりとして、慧音たち以外の妖怪が霞と共に笑いながら湯に浸かっている写真が大量に入っていた。
「んー…確かに慧音さんの裸には価値がありますし、遊びで胸も揉みましたけど…それ、元々霞さん専用のカメラなんですよね」
「遊びで揉むなッ!!って、霞専用だと…?」
「はい。霞さんがこの幻想郷に来ていたことは既に昨日から知ってたんですよ。だから今日の撮影は…趣味の一環ですかね?
勿論慧音さんの裸の写真なんて、とっくに消してますよ?私だって女です。自分の裸の写真を撮られるなんてのは真っ平御免ですからね!」
そう言って、文はカメラに写った人物の説明を始める…
「このカメラで撮った写真を見るのも懐かしいですねー…もう千年以上前ですかね?私が霞さんの後を偶にですけどついて行って、色々な妖怪と温泉に入る霞さんの姿を撮ってたんですよ。
…あ、勿論天魔様に許可は取ってますよ?
そうですねぇ…例えばこれは鬼の萃香さんと勇儀さんですね。2人ともお酒を呑んでますから結構大胆な事してますけど…このあと勇儀さんは酔っ払う以外の理由で真っ赤になっちゃってましたね。その分萃香さんは裸を見られても平気そうでしたけど…胸のせいですかね?
…で、これは紫さんですね?紫さん、妖怪の賢者っていわれてますけどやっぱりだらしなく思っちゃいますよねー…いくら霞さん大好きって公言してるからってこんなに甘えちゃって…これ、隣に居る幽香さんの頬が引きつってますよ?
そしてその後のことなんですけど、2人共張り合うように胸を押し付けあったまま喧嘩を始めちゃいましてね?霞さんの前でポージング対決とかしてましたよ。それは流石に撮影出来なかったんですけどねー…
それにこれは小町さんと閻魔様ですね!確か…小町さんが仕事をサボってるから、閻魔様がそれに気づいて説教をしに来たんですけど…流れで閻魔様も入ることになっちゃいましてね?
この時は閻魔様が恥ずかしがって写真を撮る隙を中々見せてくれなくて困っちゃってましたけど…この時は顔を真っ赤にしてますから、懐かしいものですよねぇ…慣れてくると『労って下さい』なんて言って霞さんに甘える時もありましたし。
…で、これが最初に撮ったやつですね。鬼子母神様の写真ですけど…もう、霞さんの顔が半分以上おっぱいですよこれ。昔は鬼子母神様ってとっても甘えん坊だったんですよねー…いつも霞さんの肩から降りようとしませんでしたし。くっつくのが大好きだったらしいですよ?」
しかし、文の言葉は慧音に届かない。
今…慧音の頭の中はそれどころでは無かったのだ。
「…なぁ、もしかして霞って…有名なのか?」
慧音はここに来て、霞の交友関係を知ってしまった。…あれ?萃香って鬼の事じゃないか?妖怪の賢者?それに幽香…って、まさか太陽の畑に住むフラワーマスターの幽香の事…?
それに閻魔とか鬼子母神はその名の通り、この幻想郷に置いて…トップと言っても過言では無い存在だった。
そんな人物と仲睦まじく湯に浸かれる霞って、もしかして凄い奴なんじゃないのか?…そしてその霞に対して渾身の頭突きをぶつけた私って…これ、大変なことをやらかしちゃったんじゃ…?
滝のような汗を流しながら…恐る恐る、文に聞いてみる慧音。
「あ、心配しなくても大丈夫ですよ?結局のところ霞さんが許すと言ったらそれが結果になりますので。それに、この写真見れば分かると思いますけど…これ、霞さん…怒ってるように見えますか?」
そう言って文は1枚の写真を慧音に見せた。そこに写っていたのは…慧音の頭突きによって崩れ落ちる霞の写真だった。綺麗に慧音は写っておらず、その代わりにズームされた霞の表情は…笑っていた。
…え、笑ってる?
「…お、おい?まさか霞って…痛みを受けて喜ぶ趣味があるんじゃなかろうな…?」
「あ、取り敢えずそれは無いですね。もしも霞さんがマゾだったら…この幻想郷のトップの皆さんが全員サドになっちゃいますよ?そうなるともう誰も幽香さんとかには手を出せなくなっちゃいますねー?」
なんかこの天狗、凄いこと言ってる気がするけど…まぁ、どの道理解できそうにないので気にしなくてもいいだろう。
「そ、それならいいんだが…」
「はい!というかむしろ霞さんってたまーにですけど…意地悪になっちゃいますしね?ほら、慧音さんもなってましたけど…霞さんって、自分の話を聞かない人やパニック状態に陥った人を相手にする時…取り敢えず1回縛るんですよね。
…本人曰くやましい気持ちは無いって言ってますけど…何ていうか無自覚にサドっぽい事しますよね?…慧音さんは縛られてどうでしたか?」
「ぶっ……!?」
慧音は縛られたことを思い出す…確かにあの時、叫ぶ慧音を見た妹紅の一声によって…霞は慧音を拘束した。
本当はあまり進んで縛っているような雰囲気は無かったが…いくら何でも手際が良すぎていた。
「そ、それは…突然あの羽衣が巻き付いてきて…後ろ手に縛られて焦ったところを見計らって胴体や口を抑えて…」
「ですよねぇ…私も頑張って練習しましたけど、あそこまで手早くは出来ませんねー…」
「お前も充分早いわッ!!」
この天狗、しらばっくれているが相当早かった。縛られた慧音が言うのだから間違いはないだろう…1日に2度縛られた慧音の言葉なのだから。
「…ま、そんな理由で霞さんは信用できる妖怪です。だってこの写真の慧音さんも…霞さんの事を信用した雰囲気の目で見てますし?
さて!そろそろ寝ましょうか!慧音さんの布団には霞さんと妹紅さんが寝てますので…ここ、客用の布団が一つあるようですし。くっつけて寝ちゃいましょうか!」
「な、なんでそれを…」
「よっ…と。それじゃあ寝ましょうか?霞さんの隣は頂きますねー?」
「だから行動が早いんだお前はッ!一体なんなんだその霞に対しての行動力は!?説明を省くんじゃないッ!!」
慧音の質問に答え終わる前に、文は押入れの中から布団を取り出して霞の隣に敷き始めていた。
…おかしい。いくら幻想郷最速を謳っている天狗だとしてもここまで速かったとは考えにくい。今日、明らかに文の行動は普段よりも速かった。
「慧音さん、私がなんでこんなに素早いか……知りたいんですか?」
「そ、そうだな…いくら何でも今日のお前の行動は早すぎる…それに
自分よりも体格の大きな霞を軽々と持ち上げ、男衆を呼び出すスピードも早い。それに、私を縛るのも相当早かった…
…一体何をしたんだ?」
「別に大したことはしてませんよ?先程の話で『普段よりも早く飛ぶ』知り合いの天狗を追いかけたー…って言いましたけどね?その知り合いが早く飛べた原因を知ってるだけですよ?
…あ、そう言えば慧音さんも…今日は普段よりも頭突きの威力が強かったですよねぇ?」
意味ありげな言葉を残してニコニコ笑う文。慧音がその言葉を頭の中で噛み砕いていると…気づいてしまった事があった。
「頭突き…?…ッ!ま、まさか!?」
慧音は思わず霞の方へと振り返ってしまう。自分の頭突きの威力が上がる原因なんて…それ以外には考えられなかった。
「ま、まさか……霞の湯…なのか?」
それを聞いた文はニッコリと笑うと…
「それ…正解です♪」
そう言って、霞の眠る布団の中へと潜っていった。
それ以降の文は慧音の質問を返すこともなく。妹紅の反対側で霞へと擦り寄ったまま…眠ってしまった。
取り残されてしまった慧音。布団で眠る3人を見て溜息を吐きながら…
「 霞…お前は一体、何者なんだ…?」
そう零すと、文の隣の布団へ潜った慧音は今日あった出来事を思い返しながら…
すぐにやって来た睡魔に意識を託したのだった。