ある程度元の状態に戻りましたので
また、ぼちぼち書いていこうと思います。
あの後、倒れた射命丸を霞が抱き抱えて浴室から上がったのだが…1つ、問題が浮上した。
逆上せた射命丸を抱き上げた時、射命丸は霞の腕の中でぐったりとしながら目を回していた。昔は湯の中が心地良いからと言って逆上せた人間や妖怪も多数存在していたので、そこまでは霞にとっては特に気にする事も無かったのだが…
『しまった…この家の脱衣所には、文を寝かせられるスペースが無いのか。うーん…これは少し抜かったなぁ…これだと休ませようにも横にできないな…』
ここは慧音の家。その為、さっきまで湯に浸かっていた文の身体はまだ濡れている。だからそんな文を脱衣所の床に寝かせる訳にはいかなかった。
…そもそも慧音の風呂は一人用なので、2人で使うには少々手狭だったのは当たり前だった。
…2人が両手を広げてギリギリ入れる程度の大きさな為、寝かせるどころか横にする事も出来ないのが現状だった。
『…しかし、着替えを済まさずに部屋へ連れていくのも射命丸が困るだろうし…
それに妹紅や慧音が起きていると洒落にならない事になりそうだしなぁ…』
濡れた身体に、いつも着ていた洋服を着せられるというのは…流石に誰しも抵抗があるだろう。それに、もしも今。この姿を起きてきた慧音にでも見つかってしまったら…
『な、何ィ!?あ、朝から2人でこ、混浴……?こ、こんな狭い浴槽で!?
…は、破廉恥だッ!!不純だッ!!お前達…そこに直れッ!私が天誅を下してやるッ!!』
とか言いいながら…頭突きの構えを取ってしまうだろう。そうなってしまうと…流石に霞としても、心中穏やかではいられなかった。
…アレの痛みは、洒落にならない。
『うーん…やっぱりこういった場合、逆上せるまで付き合わせてしまった私が責任を取って拭くべきなのか…?』
霞は抱えた射命丸を見て、そう呟いた。
霞が射命丸ーーー文と知り合ったのは、まだ文が子供…というか、産まれてから妖怪基準でそこまで時間が経っていない頃だった。昔は他人に攻撃的だったので、初めて出会った時は結構暴言を吐かれていた気がする…が、即座に紬の手によって謝らされていたのを思い出す。
…今までそれなりに長い年月の親交があり、文が成長する様子を眺めていた霞。
気心…というか、親心が芽生えていたような仲である存在が発育しきった裸体を自分が拭くというのは…かなり、霞にとって悩みどころであった。というかそんな家庭の話は聞いたことがない。あるとするなら…異常だろう。
…昔の文は、他人に肌を見せることを極端に嫌がっていた。しかし素っ気ない態度を続ける文に対して、興味を持った相手からは中々離れようとしない霞が何度も何度も継続して話しかけたこと。そして初対面の紬によって霞の湯に入る以外の退路を断たれた事によって。ようやっと『私に近づいてくるな』といった壁を取り払い、素直に自分と混浴をしてくれた存在だった。
…だからこそ、今朝の突然の申し出に思わず驚いてしまったのだが。
まぁ、色々と踏まえるとそんな背景がある為…昔の幼い紫や文といった身体自体が幼かった者。それに紬や萃香の様な子供…の様な見た目をした存在以外は、霞はあまり体を拭く手助けはしていなかった。
…というか幼い子を拭くのも何だか腑に落ちない所もあるし、萃香や紬なんかは身体が小さいことを理由に何度も霞に身体を拭いてもらっていた。今思えばあれも大概おかしい。勇儀が顔を赤くしながらこちらをチラチラと見ていたのは多分、錯覚だろう。
…それは置いておいて、今の文は成人した女性の身体つきをしている。更に運動神経も高く、頭の回転も早い才女である為…よりにもよって霞が身体を拭くことを手伝う必要性など微塵も無かった。
だからこそ普段通りに羽衣任せにしようと思った霞。術式によって、自分の腕の中にいる文の身体をを拭くようにと羽衣に命令しようとしたのだが…
「…霞さぁん…それはダメですよ…?昔みたいに…拭いてくれませんか?」
顔…というか、身体中がすっかりと熱によって火照った姿の…普段纏っている軽快な雰囲気と全く違った様子の文の請願の言葉によって、
…何故か、却下されてしまった。
…逆上せている影響故に声が若干上ずっており、霞の湯の効能によって磨きがかかっている淑やかに肌に張り付いた漆黒の黒髪。艶やかな肌から少なからず女性的な魅力を感じてしまった霞…
そんな時、かなり昔に巷で『ぎゃっぷ』という単語を聞いたことがあった事を思い出した。
…確か普段とっている行動とは違う事をした時、何かとその行動や仕草に新鮮さを感じること。だった気がするけれど………まさか、この事がそうなのだろうか?
「…なぁ、射命丸…私。まだ小かった頃のお前を拭くことに対してはまだ許容出来るんだけど…今のお前を拭くのは、流石に世間体やら倫理感…とか、そういうのがズレてると思うんだけど。それはちょっとおかしくないかな…?」
「んー…けど霞さんってば、今だって私の身体…隅から隅までぜーんぶ見てるじゃないですかぁ…それに、この身体の持ち主の私が良いって言ってるんだから…良いんですよ。
…霞さんだから、拭いて欲しいんです。 」
羽衣をかけられてはいるけれど…先程から顔を真っ赤にしている文は、ずっと抱き抱えられているので霞が目を凝らせば全てが見えてしまっていると考えており…今尚暑さと羞恥によるふわふわした感覚に翻弄されていた。
文はそう言って霞から視線を隠すように…両手で目の辺りを覆うようにした。
…せめてもの、羞恥心への抵抗だった。
当の霞本人はあまり見ないようにしていたのだが…
「それなら頭と背中だけで勘弁してくれないか…?取り敢えず、床さえ濡らさなければ慧音も怒らないだろうし…」
「なら、それで良いですけど…」
…何故、不服そうなのかは考えないでおこう。
「…それじゃあ拭くけど…私の両手が塞がっていると何も出来ないな…ちょっと失礼。よっ、と…」
「わっ……」
霞はゆっくりと胡座を組むように床へと座り込むと、お姫様抱っこの形で抱えていた文を、自分の膝の間へポスンと座らせた。
「はい、頭を拭くから目を閉じておきなさい。髪が目に入ったら痛いからね?
…何だかこうして成長したお前を見ていると、時が経つのは早いなぁ…なんて考えてしまうねぇ。
もっと早くこの世界に来ても良かった気がするよ」
わしゃわしゃと手を動かしながら文の髪を羽衣で乾かしてゆく霞。普通の布ではない為、吸水性が桁違いだったりする。
文は少しくすぐったそうにしながらも、ご機嫌な様子で霞のなすがままにされていた。
「そ、そうですねぇ…だって霞さんってば幻想郷に全然来てくれませんし…結構頻繁に博麗神社で紫さんが『霞は絶対に来てくれるもん!!本当なんだから!!!』って何度も騒いで、その度に霊夢さんを困らせてましたよ?」
「…あぁ、それは紫にも悪いことをしてしまったかな。今度会った時には何かまた…感謝の気持ちを込めた贈り物でも渡しておこうかな?」
昔から紫には霞自身、結構世話になっている節が多くあった。数百年程一緒に旅をした中でも、スキマ移動は利便性の中では1番だったと思う。
…しかし今まで旅をした人間や妖怪は数多く居るものの、そのほとんどが女性だった為………一時期、紫が拗ねてしまった事があった。
特に酷かったのが向日葵畑で出会った緑髪の少女と生活していた時、普段の様にスキマの残滓の妖力を辿ってやってきた紫が混浴中の霞と鉢合わせてしまった事だろう。
…しかしそれだけの事なら日常茶飯事な為、大した問題ではなかったのだが………如何せん、その少女と紫は当時、反りが合わなかったのだ。
突然現れた棒立ちの紫を見て、裸を見られてしまった事に怒ったプライドの高い少女はパニックを起こして紫の事をかなり煽ってしまい…その結果掴み合いの喧嘩へと発展。
その後、双方の怒りが治まらない事を察した霞が丁度手元に持っていた日傘を2人にプレゼントすることよって、ようやく事件が解決したのだった。
…あれは、大変だった。
「…霞さん、今。紫さんと…あ、幽香さんのことを考えてますね?顔が引きつってますよ?
…私が思うに紫さんは…二人きりで湯船に入ったら、絶対満足しそうですけどね?」
「…おっと、察しがいいね…私もそれを考えてたよ」
まぁ、それに関してはまたおいおい考えるとして…ふと、自分の頬を触ってみると…確かにピクピクと引きつっていた。
…やはり、あの時の事を考えると少し心配に思えてきた。…あの二人、今はどうなってるのだろう…?人様に迷惑をかけてなければいいんだが…
「…まあ、思い出ってものは良いものだよ。私もこの世界に来てからその事を噛み締めてるからね…
…というかお前、そういえば昔は逆上せる前にきちんと湯船から上がってなかったかい?」
「 んー…気の所為でしょう。それにだって、霞さんの湯…久しぶりだったから……あー…暑いです………っん、…んぁ…!!っ…か、霞さんッ…!?そ、その辺はもうちょっと優しく…っ…!」
その時、霞の手が文の脇腹を撫でた。突然敏感な部分を拭かれた事により、文は驚いて変な声を上げてしまう。
「 あ、すまないね………ほら、もう脇腹と背中は拭き終わったから…前側は自分で拭きなさい」
そう言って羽衣を渡そうとする霞。
…それを見て、文がボソりと一言呟いた。
「……別に、拭いてくれてもいいんですよ?」
「却下で」
顔を赤くした文の言葉は…一言でバッサリと両断しておく。ここで断っておかないと…際限が無くなってしまいそうだし。そうなったら多分、霞自身の身が持たなくなってしまうだろう。
「ちぇー…惜しいですねぇ…霞さん。このチャンスを逃すなんて男としてどうなんですか?妖怪の森の天狗だったら絶対に乗ってきますよ?というか女天狗も多分乗りますよ?お得ですよ?サービスで『文ちゃんブロマイド』とか付いてきますよ?非売品ですけど霞さんにはあげちゃいますよ?」
何だかやたらと自身の身体に自信がある様子の文。…確かに、昔見た妖怪の山の天狗は変態率が妙に高かった事も事実。霞に引っ付く紬を見て目の色を変えた天狗も多く居た。もしも今の霞の状態を見れば…延々と嫉妬の炎を燃やし続け、発狂しながら空中を飛び回っていたかも知れない。
そして霞は先程から…ジャーナリストを生業とする上で鍛え上げられ、計算され尽くした上目遣いをこちらへと向ける文に対して…1つ、気になった事を質問をしてみる事にした。
『清く正しい射命丸』…今では新聞作りで有名になっていた事に対して疑問があったのだ。
「誰か、天狗に気になる相手居るのか?」
ピシッ…
その瞬間、文の顔から表情が消えた。
文は裸を晒すことなどおくびにも出さず、座っている向きを霞の方へとゆっくりと座り直すと…そっと、霞の浴衣へ両手をかけた。
突然の文の変化に霞はついていけない中、霞はここでようやく…文の地雷を踏んでしまった事に気づいたのだった。
「…は?そんな相手居る訳無いじゃないですか。霞さんってば何言ってるんです?」
あ、やっちゃったな。
…霞は己の失敗に気づいた。霞としては『誰か競争相手として気になる新聞記者はいるのか?』
という意味合いだったのだが…誤解されたようだ。
「天狗なんて………眼中に無いですよ」
腕の動きの加速を感じて、霞はまたもやデジャヴを感じていた。
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「ーー…ー、……」
「…ふぁ……ん…?」
慧音は自分の右半身から伝わる熱によって、重い瞼を開ける。朧気にしか覚えていないけれど…何か、夢を見たらしい。心做しか気分良く目を覚ます事が出来た。
「…今、何時だ…?というか暑い…あ、あや?そろそろ離れてーーー…」
隣へと視線をやると…そこには妹紅が引っ付いていた。スヤスヤと安らかな表情で眠っており、起こすのを躊躇うほどに心地よさそうに眠っていた。
時たま『…か、かすみぃ…へへ……』とか『輝夜ぶっ殺す』とか言っているのが気になるが…って、隣に………妹紅?
確か自分の隣は文がいたはずじゃー…
「 …ま、まさかーーー」
嫌な予感がして布団や部屋を見渡すものの…何処にも『霞と文』の姿が無かった。
視界がグラグラと揺れ、ガンガンと金槌で頭を叩かれる様な衝撃が慧音を襲う。
嫌な汗を全身で流しつつ、この状況をどうにか否定したくて呆然としていた慧音の耳の中にーーー声が、聞こえた。
『ーーに乗ーーがーてーー変ーー!!』
…それは女の声だった。
『口ーー相手ーーちーとーろッ!!!』
…それは風呂の方から聞こえてくる。
『老害爺は威張り腐る暇があるんだったら…自分達にしかできない仕事でも探せッ!!個人の趣味に一々突っかかって来るんじゃないわよッ!!』
…それは明らかに、文の声だった。それもその声には怒りや不満が籠っていて…溜め込んでいたストレスや愚痴をそのまま吐き出しているかのような、激流の如き勢いだった。
…これにより、この先の風呂場に霞がいる可能性が高くなっーーー
『霞もそう思うでしょッ!?あんな年取っただけの置物天狗が偉ぶってるなんて虫唾が走って仕方ないじゃない!?私達みたいな鴉天狗の趣味にまでのさばり込んできて何が『幼稚な遊び』よッ!!あいつらなんて下っ端をいびるかセクハラするかしか脳のないようなゲテモノ野郎の癖してッ!!!』
…はい、確定。
「あの二人…ふ、2人で風呂だと…?」
私の家の風呂場はそこまで広くなかった筈…だから2人で入るとなると、相当くっつかねばならない。
み、密着しての入浴なんて…破廉恥過ぎるッ!!
慧音は勢いよく布団から抜け出し、風呂場に目掛けて走り出した。普段は走ることの無い廊下を全力で走り抜け、脱衣所の扉を思い切り開けると…
バターン!!!!!
「お前達ッ!?ふ、2人で風呂に入るなんてっ!!そんな事は家主である私が絶対に許さー…」
顔を真っ赤にした慧音が脱衣所の光景を目に入れた瞬間。その目に飛び込んできたのは…
ハイライトの消えた目をした裸の文が霞の上に馬乗りになり、そのまま胸ぐらを掴んでガクガクと揺すり続けていた光景だった。
「い、一体何をやってるんだお前らはァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?!?!?」
霞と出会って2日目の朝を…
慧音は絶叫で迎えたのだった。
自分の家にはクーラーがありませんので
極度に暑い日なんかは書く気力がゴリゴリ削がれてます。
熱中症にはお気をつけて…