東方湯煙録   作:鯖人間

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ちょっと書き出しに悩んで、投稿遅れました…
竹取物語編は霞と紬の過去にも
サラッと触って行く感じですね。




願いと歪みと竹取物語

『竹取物語』

 

古くから人伝や文書によって伝えられてきたその物語の内容は、後の世に…竹から産まれた主人公である『かぐや姫』は、自分を必死に引き止める育ててくれた2人の両親や都を治める帝、そして多くの人々を地上へと残したまま、月からの使者に迎えられ…最終的には月へと帰ってしまうという筋書きになっている。

 

そしてそれが、この世界の誰もがそう思っている『常識』であり、そう思ったまま生きている筈だろう。

 

 

…しかし、実際の所…真実は違っている。

 

今から語られる話は、竹取物語の裏話。

 

月からの使者によって己の身へと降りかかる、凄惨な結末を知ってしまったかぐや姫は憂い嘆いた。そして世話をしてくれた養父母との別れを咽び泣いた。

…退屈に塗れた地上での生活の中で、突然現れた『想い人』と『恋敵』の存在との…永劫の別れを夢に見て、ふと。枕を濡らしてしまった時もあった。

 

…だが、そんなかぐや姫の哀しみを知っていた者が居た。それはかぐや姫本人の知らない所で、近くから見ていた『二人の妖怪』によって、実はその物語は根本から、結末までの一連の流れが力ずくで歪められていた。

 

これは、決して『竹取物語』では語られない…『二人の常識外れな妖怪』によって。やや強引に叶えられてしまった、何でも望めば手に入る世界を捨てたかぐや姫が、新たな居場所を掴むまでの…

 

そんな小話だ。

 

 

 

──────────────────────

 

かぐや姫は、毎日に退屈を感じていた。

 

かぐや姫は容姿に恵まれていた。他の女と比較することすら出来ない程のに圧倒的な美貌と、育ての親である竹取の翁と言われた男の持つ際限の無い財力から…未だ少女の身でありながらも数え切れないほどの求婚を受け、そしてその全てを断ってきた。

しかし、そんな噂を聞いているにも関わらず。貴族というものは己のプライドに余程自信があるのか、

『それは、他の男なぞとは書くの違う、自分の行う求婚を待っているのだな』

…と、勝手に自分の都合のいい解釈を行ったまま、かぐや姫の居る屋敷へと訪れる。そして案の定求婚を跳ね除けられ、意気消沈して帰るのだが…それがまた、別の貴族を呼び寄せる…といった無限ループが勝手に構築されていた。

それこそ、わざわざ他の国から遠出してまでかぐや姫の姿を是非一目だけでも見たいと思った貴族や町民が、屋敷まで押しかけて来る程に。

 

そして今さっきまで目の前で輝夜を口説いていた男の姿を思い出し、顔を顰める。

 

(……あー…どうして男って、学習しないのかしら。それに、自分の事をどうしてそんなに過大評価してるんだろう。どいつもこいつも肥太って脂ぎったオッサンばっかりだし。そんなのが人の身体をあけすけにジロジロ舐め回すかのように見てくるなんて…怖気がするわ、本当に…

…大方、持ち前の金に寄ってきた女しか知らないのか…それか逆に、女は金さえあれば誰でも堕ちるとでも思ってんのかしら。

薄汚い下心と、私を捕まえる魂胆が見え見えの男に釣られる程…私は甘く無い)

 

 

かぐや姫の元へ群がる男達は、皆かぐや姫の持つ美しさをに息を飲み、唾を呑み込んだ。中には涎を垂らしたバカも居たけれど、そんな男…いや、ケダモノは即刻。屋敷からつまみ出して二度と近づかないように厳命してやった。

 

他にも、かぐや姫と出会った時から品定めでもするかのような目で延々身体を「何が悪いのか?」といった風に平然とした様子で凝視し続けながらも巧言令色を並べて口説いてくる貴族がいた。

逆にかぐや姫のことを口説きながら、しきりに翁の方へと話を繋げようとする男もいた。

 

自分の身体を手に入れたい者。自分と繋がる翁との縁が欲しい者。そんな邪な想念を日々、ぶつけられていたかぐや姫…

 

…かぐや姫こと、『蓬莱山輝夜』は…この代わり映えのしない淡々とした毎日に、孤独と絶望を感じずには居られなかった。

 

 

(誰か、私を見つけてくれないかしら……)

 

 

 

…月を見ながらそう、心から願った晩のこと。

虫の音が心地よく響く庭の中で。恐らくここで、輝夜の人生は変わった…というより、変えられたのだろう。

 

 

想像を絶する程の、お人好しに。

 

 

 

─────────────────

 

「…もう、どうしてこうなったのかしら。私…夜風を浴びたくて屋敷の中を散歩していただけなんだけど!?それなのに、何で私は全身拘束されてるのよ!可笑しいでしょこんなのって…さっさとこれ外しなさいよぉ!!…って、あんたら私にこんなことをしておいて、無視するなんていい度胸じゃない!兎に角私の話を聞きなさ『静かに』

ッむぐっ!…………〜〜〜〜〜っ!!!!ぶはっ!?もう!分かったからっ!これ…離しなさいよぉぉおおお!!!」

 

ここは輝夜の部屋で。夜間は誰も入室を許可されていない筈の寝室で。

 

皆から『絶世の美女』とまで言われた存在が…高級感漂う畳の床へと、簀巻きにされたまま転がされていた。

 

それしきの音では誰も駆けつけない程の、大きさを誇る輝夜の寝室に。初対面なのに馴れ馴れしく話しかけてきて、池の水を頭から被せて。恥辱を与えられて叫ぶ輝夜を拘束して、問答無用で寝室へと乗り込んで。

そしてその結果、こんな夜更けに現れておいて、その輝夜の美しさに酔いしれた結果。狼藉を働くかと思いきや…寝室の奥へと転がしたまま、延々と放置されていた。

 

一体誰がこうなると想像できるだろうか?

 

しかし…こうなってしまったきっかけなんてものは、大した事ではなかった。

輝夜はただ、今夜は普段よりも少しだけ寝付きが悪かった為、少し外の風にでも当たって涼もうと思っただけだった。

 

そして眼前に登る月を見て、頭に思い浮かんだ行動は至って単純だった。こんなにも綺麗な月夜だし、寝室の前に広がる池には大方…朧に光る月の様子が、水面へと綺麗に映っていた事を思い出した。

 

だからこそ今宵はさぞかし綺麗な事だろうと思い、少し気分が落ち着くまでの間に眺めてみようかなぁ…なんて、そんなごく有り触れた方法を輝夜は思いついただけだったのに。

 

 

今、輝夜の前で広がる光景は…

 

 

 

「んん〜…やっぱり星と霞ちゃんをを見ながら入る温泉って、良い感じに格別…!!それにお酒まで着いてるなんて…もうこれ、至上の贅沢なんじゃないのかなぁ…?

こんなに至れり尽くせりだと、ここまで歩いてきた疲れなんてさぁ〜…直ぐに癒されちゃうに決まってるよねぇ〜…?」

 

「ん…確かに、ここは見晴らしも良いし…うん。普段の森の中より、贅沢をしてる感じはするなあ…

こんなにも綺麗な風景なんだし、2人で見るだけじゃあ…勿体ないかもしれないね?」

 

「そうだよねぇ〜…って、あー…何で手が止まってるのかなー…?ねぇねぇ霞ちゃんってばさぁ…呑まないの?折角勇儀さん達がくれたお酒だって言うのに、勿体ないことしちゃメッ!…だよぉ?」

 

「…ああ、すまない。少し、星空に魅入ってしまってたよ…きちんと呑むからさ。その腕の構えを解いてはくれないか…?」

 

「それなら良いよぉ…あ、もしかしてぇ…私に見蕩れてたりするのかなぁ?それなら私、とぉーっても嬉しいんだけどなー?ねぇねぇどうなの?うりうりうりぃ〜♪」

 

「いや、景色……うん。紬も綺麗だから、流石に少し離れてくれ。顔に引っ付かれると酒が呑めないだろう?」

 

 

…そんな風に仲睦まじく温泉に浸かった、二人の妖怪が呑気にイチャ……ついている光景だった。うん、コイツら絶対イチャついてるわ。この私を放置して、二人の世界を構築してるわ…

 

突然自分を案内させ、放置するなり自室の真ん中に急に温泉を創り出した馬鹿が二人。こいつら常識が無さすぎる。

無視されることに慣れていない輝夜の心が悲鳴を上げた時、輝夜を威圧した少女がくるりとこちらを振り返る。

 

 

「あれ?さっきの子…そこで何してるの?」

「…っ!?」

 

こいつ、私の事完全に頭の中からポイしていたらしい。殴りたい…この拘束さえなければ絶対に殴ってやるのにッ!!!!

 

だからこそ輝夜は頭を悩ませていた。一体どこのはた迷惑な神が自分の運命の歯車を弄くり回したのかは分からないけれど、もしも自分の目の前に出てきたら…その時は、神であったとしても問答無用で殴りかかってしまいそうだ。

 

今における自分の現状は何故、こんな妖怪相手に手も足も出せずに拘束されるだけになってしまったのだろうか。そう自問自答する輝夜の目の前へと…風呂から出たはずなのに、身体が一切濡れていない…輝夜と比べて、背丈は輝夜の方が大きい筈なのに……その紬と呼ばれた少女の身体の一部は、圧倒的なまでに輝夜を越えていた。

 

まるで月と鼈。天と地の差がそこにはあった。多分、この屋敷に使える女中の中にこれを越えるモノを持つ者は居ないだろう。

 

愕然とする輝夜へ向き直った紬は少しだけ、顔を顰めてから輝夜へ話しかける。

 

「貴方……くんくん。やっぱり、貴方から何だか臭うんだよねぇ…あ。もしかしてさっきの池の水を被ってから、ずっとこの状態だったの?お風呂、入りたいならそういえば良かったのに。もしかしてだけど…貴方、周りから変な子って、言われてないかなぁー?」

 

「…そうよ。アンタ達が来てから、ずっとここで放置されてたわよ。それに入れなんて言われて、すぐさま入るバカが何処にいるっていうの!!それに変なのはアンタでしょ!私なんて、さっきからあんたにもそこの男にも無視されて……

…なんかもう、ずっと呑気なアンタ達見てると…この世の全てのことが嫌になってきたわ。…ベタベタになった髪も汚れた身体も身体にこびりついた泥臭い臭いも、胸が透けてるのに着替えさせてくれない鬼みたいな女も、そんな服のまま身動き取れない状態で私を縛り続けるそこの男のこともね………

それに、私の事を見てくれない男も身体しか見ないケダモノも!!!!私を縛り付ける男もだけど、私よりおっぱいが大きいアンタが大っ嫌いだわ!!!!

…というかアンタは早く服を着なさいよ!?何で全裸で近づいて来んのよ!!…まさかとは思うけど見せつけてんのかしら!?喧嘩なら買ってや…むぐっ!?」

 

感情が爆発し、思わず大きくなった声を察知した紬によって、輝夜は口を塞がれる。

 

輝夜としては先程までの陰鬱とした気分だったものに加えてのこの現状。いつの間にか、輝夜の胸の中で黒く濁ったまま、溜まりに溜まっていた不満が…堰を切ったように溢れ出した。

 

今、この妖怪達に向けて吐き出してしまった事については少し迷惑を掛けてしまったかもしれない。しかし、元々この2人にも自分は迷惑をかけられているんだ。そう考えて、そのまま思いの丈を吐き出し続けていた。

 

この二人に向かって、関係の無い縁談の事までぶつけてしまったのかは、何となく自分でも分かっていた「寂しい」といった本音が出てしまったのかは分からないけれど。

 

輝夜にとって、この二人の関係は…羨ましく感じていたのだ。

 

常に笑顔を絶やさない男と、常に身体を預け続ける女。深く、強く重ね続けた圧倒的までの信頼関係は、輝夜が見てきた全ての存在を凌駕するには充分過ぎていた。

 

だからこそ、嫌いだった。

そのはずだった。しかし、それを聞いた紬の手が、輝夜の頭を包み込むと…

 

「…よく、頑張ったんだねぇ…」

 

その一言で。たったその一言によって…輝夜の胸の内はスっと軽くなった。何故だか、涙が出そうな気がするのは…一体どうしてだろう?

 

そして、そんな輝夜の心の中で起こった変化を察した紬は少し考え込んだ後。チラリと後ろを振り返った。そして何かを確認すると、そのまま輝夜の身体を抱き締める。

 

 

…その瞬間、輝夜の身体へとんでもない破壊力を持つ2つの柔らかな双丘が押し付けられる。何よコレ半端無い圧力…柔らか過ぎっ…

 

「…何だかとぉっても、心がお疲れだったんだねぇー…うん。ねぇねぇ貴方、お名前はなんて言うのかなー?」

 

「…え?えっと…輝夜。蓬莱山、輝夜よ」

 

「そっかー…よーし!それなら輝夜ちゃん?1回しか言わないから、よーく聞いておいてね?私、面倒だから質問は受け付けない主義だからね?

…じゃあ、いくよ?」

 

「え、え?」

 

「お風呂は、静かに入ってね?あと、あそこに居る霞ちゃんはとぉーっても良い人だから、輝夜ちゃんがしてるような心配は無いからね?だからそんなに警戒しちゃダメだよぉ?

あと、霞ちゃんのお風呂に衣服は要らないから…これは脱いじゃおうねぇ?」

 

「…へ?」

 

紬はそう言って、抱きしめていた輝夜の身につけていた寝巻きの紐をするりと抜き取った。

そして、輝夜を縛っていた羽衣がはらりと解けると同時に。輝夜が纏っていた寝巻きの布までも同時にふわりと肌を滑って行った。

紬の様子が突然変わったことにより、いきなり服を脱がされた事に気付かない程、大混乱している輝夜の事など紬は全く気にしないまま、全ての話を聴いていた…霞の居る浴槽へと、輝夜を連れて行く。

 

「このお話の続きは、三人でやろっか。夜も長いし、折角なんだから楽しもぉ?」

それを聞いて、輝夜は気づいた。自分は今、追い詰められている事に。

 

(…!?これ、もしかして私…あの湯に入れられる!?じょ、冗談じゃ無かったの!?だってあそこ、男が入ってるじゃない!!てか力強ッ!?な、何で私より小さいのにこんな力……力?

…これ、絶対におかしい!そもそもこの二人、屋敷の壁を乗り越えてきたじゃない!!それにあの温泉だって、あの男が勝手に創り出して…まさか、この二人の正体って───)

 

 

バシャーン…

 

 

そこまで思考が至った所で、輝夜の思考は途切れてしまった。なぜなら、普段の生活では全く感じたことの無い…身体全身を包む、暖かい感覚を知ったからだった。

 

そんな輝夜が慌てて顔にかかった湯を手で拭ってから、白き湯気に囲まれながらも目の前を見ると…

そこには、初めて出会った時とは雰囲気の変わった…先程とは違い、微笑みの中に少しだけ、真剣な眼差しを秘めているように見える…霞と呼ばれていた男の姿があった。

 

そして、その隣に紬も座り。こちらをニコニコとした目で見つめている。

 

そして…初めに、男が口を開いた。

 

「初めまして…私の名前は霞。ただの温泉妖怪さ」

 

温泉、妖怪……?

 

「それで私が紬って言ってね?ただの温泉妖怪好きな鬼の女の子だから…さっきまでと変わらず、普通に接してくれて良いよー?」

 

え、鬼……?

 

自分達が妖怪であることを、あっさりとバラしてきた。

輝夜は先程から薄々思っていたけど、あまりにも簡単に正体を答えるとは思わず…

 

「…ぅへ?」

 

輝夜は、今までの生の中で……一番。人には見せられない程に呆けた顔を、していただろう。

 




この時代の霞、結構人を縛ることに抵抗が無いです。
若いって素敵!(若いとは言ってない)
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