さて、肩の荷が1つ降りたので
楽しく書いてこうと思います。
輝夜は煽りに弱い(確信)
輝夜が湯に浸かってから、数分が経っていた。今、どうやら輝夜が連れ込まれた浴槽に入っているお湯は霞曰く、常に湧き出し続けているらしい。それが理由で決して冷めることがない為、この時代を生きている筈の大半の貴族ですら、こんな風にお湯を使うことなど滅多に出来ることではないだろう。
輝夜だって最初は戸惑いがあった。妖怪と混浴なんてした事が無いし、そもそも異性と風呂に入ることも初めてだ。だからこそ裸を見せるなんてものは死んでも嫌だった。けれどそれを許さないのが、鬼を自称する鬼畜女こと紬。多分こいつは本当に鬼だろう…全てにおいて。
確かにこの温泉に関しては贅沢の極みであり、輝夜も全身を包み込む湯の快感や心地良さを感じていたのは事実。
(…何でこの二人、平然としてるのかしら)
しかし、今はその感覚に身を委ねられないでいた。
目の前の、存在によって。
「ねぇねぇ、輝夜ちゃんってばー…何だかさっきからずっと怒ってなぁい?もう私達、一緒の湯に浸かった仲なんだからさー…そんな肩肘張らずに、ゆっくりすればいいのにねー?」
「…おや、この感じ…私とは別の妖力…?やはりこの都にも妖怪は居るんだねぇ…明日にでも挨拶に行くべきかな?」
「………」
本当にこの二人…どういう思考回路をすれば、初対面の相手にここまで警戒心を緩められるのだろう。見たところ武器も携帯して居ない…というか後者に関しては、こちらを見てすらいなかった。そして実はこの男…大概、発言の内容がおかしいと思う。
(…この二人『輝夜』って名前…知らないのかしら?)
そう1人で考える輝夜。そんな中、紬は顔をへの字に曲げながら霞へ振り返る。
「あーん…輝夜ちゃんってばさっきから私の事無視してるっ!今ので私、とぉっても心が傷ついちゃった!…これはもう霞ちゃんに慰めてもらうしか無いね!霞ちゃん、いつものお願いしていいー?というか、良いよねぇ…?」
「ん?あぁ…はいはい、分かったから…湯が跳ねるから湯船の中で飛びつかないでくれないか…?
それとあれだね…紬はもう少しだけでいいから、相手のペースに合わせることを学んだ方がいいと思うんだが?輝夜だって、まだ混乱しているだろうし…自分も少し、輝夜に手荒な真似をしてしまった事を反省してる最中だからね…」
そうだ。その事についてはもっと反省して欲しい。輝夜自身、無理やり身体を縛られるなんて事は初めてだったのだ。それに布越しとはいえ異性に身体を見られた事も、一緒の湯に浸かるなんてのも輝夜の人生の中で初めてだったりする。
こいつは一体、私の初めてを幾つ奪っていけば気が済むのだろうか?
「とか言いながらも甘やかしてくれる霞ちゃん…やっぱり最高だねぇ〜…んふふ。だって仕方なかったんだよ?あの時の輝夜ちゃんってば…『あの目』をしてたから。
…うん。仕方ない!だってそんなことしてても、気分が暗くなるだし。折角の人生が楽しく無いもんねー?」
(…………?今、何か声が違ったような?)
そう言いながらすりすりと霞へと張り付く紬の言葉に、少し輝夜は違和感を感じていた。『あの目』…その言葉を発していた時だけは、常にふわふわとしている紬の感情が、少しだけ揺れている様に輝夜には思えてしまった。
輝夜は常に人に囲まれて生きてきた。両親は輝夜を可愛がっていた為、仕事を手伝ったり労ったりする事で二人が喜ぶことを見て学んでいた。
そして輝夜の持つ美しさを買われて都へと赴いてからは、常に自分を褒める男と女に毎日を過ごして来た。
下世話な考えを持ちながらも美辞麗句を述べる男共の魂胆を見抜くために培われた輝夜の観察眼は、紬の本心の一部を感じ取っていた。
「…まぁ、それもそうだね。折角知り合ったんだ。今夜一時の関係でも構わないから…ゆっくり、楽しんでくれると嬉しいかな」
「楽しまなきゃ、絶対にソンしちゃうからねー?」
屈託の無い笑顔を向ける二人の『妖怪』。いくら自分に対して好意的出会ったとして、目の前にいる存在が『妖怪』という存在であれば…普通の人間であれば即座に心を恐怖に飲み込まれてしまい、2人の前から逃げ出してしまう事だろう。
それが普通の『人間』と『妖怪』の関係。互いに絶対に相容れることのない存在…
だったはずなのに。
「…〜ッ!……だ・か・ら!!!私はアンタ達の常識の無さに呆れて、物が言えないってだけよ!!怒らせてるのはアンタ達のせいでしょうが!!!!!
…もう!何でアンタ達はそんなにサラッと『実は私達は妖怪なんです』なんてばらしてんのよ…ここは都なのよ!?アンタ達みたいな妖怪を、退治する専門の人間が一体どれくらい居ると思ってんのよ!!」
相容れることのない存在な筈なのに、輝夜の心はこの二人の存在が…他の存在とは違う、特別な存在のように思えて仕方が無かったのだ。
そうやって輝夜は、先程から堪えていた怒りを声量を気にしながら2人へぶつけてゆく。万一にも、屋敷の人間が起きて来ないように…
「それに…成り行きで有耶無耶になってるだけで、アンタ達って普通に不法侵入だからね!?しかも私、結構偉い身分にいるから…普通の人間がこの私の屋敷に入り込むなんてすれば、その首…飛んじゃうわよ?最悪私を襲ったと見なされれば、アンタ達はその場で退治されかねれないのよ!?
……そんなのは、私…嫌よ。アンタ達妖怪だろうがなんだろうが、私にあんな事をしたんだから…ちゃんと、きっちり私が満足するまで償って貰わないと困るのよ!!!!」
非常に不本意だが、輝夜はこの二人の存在が心の底から嫌うことが出来なかった。思い返せば出会いは最悪だった。水をかけられ、恥辱を与えられ…縛られたまま、放置すらされた。普通に考えればこんな存在、視界に入れることすら嫌悪感を感じるだろう。
…しかし、この二人は『輝夜』を見てくれた。その美貌も、身体も、権力にも目を向けずに…『蓬莱山輝夜』の抱えていた鬱憤すら受け止め、決して態度を変えなかった。
紬の言葉に、多分輝夜は救われたのだろう。
そんな事は『かぐや姫』の変わり映えしない毎日には無く、新しい刺激として…鮮烈に輝夜の網膜を彩っていた。
だから、心配していた。このままこの二人が陰陽師に退治されることがあれば、またもや自分の置かれた環境は色のない退屈な日々に戻ってしまう。
だから、伝えた。輝夜の心からの思いと………先程からまるで自分達の家のように自分の部屋を使っている事への苦言を。
「ん…それについてはすまなかったね。まだここには来たばかりで、この都の事には詳しく無いんだよ。確かに、明日はきちんと壁を越えて来るから…今回の事は許してくれないかな?」
「今日はちょっと照準を間違えちゃったんだー…次は場所は覚えたから、楽勝だね?」
「…ねぇ、本当に分かってる?それと、どうして明日も来るつもりなのよ。今言ったじゃない!ここは危険だって…もしかして、馬鹿なの?」
「いや、そうだね…ここから見える景色は、1度きりじゃあ勿体ないと思ったからかな?それに、暫くこの街には滞在する予定なんだよ」
「それに私って、寝る時は裸なんだよねぇ…つまり、夜は屋根のある部屋が欲しいんだよねぇ。大丈夫!ちゃんと夜に来るから…迷惑かけないよ?多分だけど!!」
この二人、どう足掻いても明日も来るらしい。なんとも『それっぽい』理由を語った霞と超個人的な理由を推す紬。
しかも、どうやら二人とも輝夜の本心を察しているらしく…こちらを微笑ましいものを見るような目をしていた。
『また来るから、寂しがらないで?』
…それを何だか嬉しく思ってしまった自分が少し、嫌になってしまう。
「…もう、なんか冷静でいるのが馬鹿みたいに思えてきたから貴方に話すけど…私は『かぐや姫』よ?滅茶苦茶男にモテてるのよ?そこの霞!貴方はそんな私の裸を見ておいて、さっきからなんの感想も無いってどういう事よ!?何か言うことあるんじゃないの!?」
「…ん?ああ…さっきから綺麗な肌をしてるなぁ…とは思ってたけど、湯に浸かってから更に美しさに磨きがかかってるんじゃないかな…?ふむ、やはりこの温泉、美容なんかにも効果がありそうだねぇ…」
「わーありがとー……って、え?それだけ?それだけなの?私、初めて裸を晒したってのに、肌しか褒められないの…?
ちょ、ちょっと!もっとちゃんと見なさいよ!私の身体、褒めるところもっといっぱいあるでしょ!?あっこら目を背けないでよ!!」
実は内心、自信があった自分の身体を見ておいて、まるで庶民の食べている汁物の味程度しか反応を貰えなかった事に慌てる輝夜。求婚に来た貴族達はまだ幼さの残る輝夜の体を見て、皆同じようにその身体を好きにしたいといった、下世話な妄想を輝夜の目の前で繰り広げていたハズなのに。
思わず霞の目の前で、立ち上がって感想を求める輝夜。普段なら絶対に不快な思いをする為考えられない行為だし、実際はしたないだろう。しかし、今は頭に血が上ってそれどころでは無かった。
そんな輝夜を見て、紬はニヤリと笑う。
「何だか、負け犬の遠吠えが聞こえるなー?」
「あぁん!?」
輝夜を挑発し始めた。
普段から抑圧されていた輝夜の負の感情へ、紬は笑顔で日を放っていく。
「ふっふっふ…輝夜ちゃん。考えが甘々だね!霞ちゃんに褒められたいのなら、せめてこれくらいのサイズが必要だと思うんだけどなぁー…?そんな椿ちゃんより少し大きい程度の胸と腰じゃあ霞ちゃんは釣れませーん!
後、お肌の艶なら私だって負けないよー?それにぃー…輝夜ちゃんってば絶世の美女?って言われてるらしいけど、今まで霞ちゃんが出会った女の子の中だと…多分、4番目位じゃないかな?あ!私の1位は不動だから、あしからず?」
「んなっ!?」
女の輝夜でさえも魅力的だと感じてしまい、そして嫉妬してしまう程のスタイルを持つ紬。小柄な身体と大きな胸といったアンバランスなのに完成されているようなそのスタイルは、輝夜も少し気後れしてしまっていた。
そして4番目。輝夜が自分をそんな風に言われた事は、生まれてこの方初めてだった。常に褒められていた少女は貶される事に慣れておらず、そのままペースを崩されてしまう。
「な、なんて事言うのよ!私、今まで『可愛い』『美しい』『麗しい』の三拍子揃った女の子だって皆言ってたのに…!!というかアンタがサラッと1位に居るとかふざけんじゃないわよ!
というか何で私が4番目なのよ!本当に私より魅力的だっていうの!?その残りの二人ここに連れてきなさい!?私より偉い存在なんて認めないんだからぁ!!」
騒ぐ輝夜を見て、紬は不敵に笑う。それを見た霞は何かを察しているのか、苦笑していた。
「そうだねぇー…輝夜ちゃんってやっぱり偉いんだ?ねぇねぇ、それってどれくらい偉いのかなぁ?実は私も鬼の中では結構偉いんだよ?んふふふふ…その名も鬼子母神!!!!!太古より生きる最強の鬼…なーんて言われてた時もあったんだよ?まぁ、今はただの温泉妖怪好きな女の子なんだけどねー?…どう、驚いたかなぁ?」
「…は?」
「そして霞ちゃんも太古から生きてるんだよー?つまり、霞ちゃんは私の運命共同体と言っても過言じゃない!つまり私が認めた最強の妖怪!!
ふふふふふ…そんな私達と輝夜ちゃん。どっちの方が偉いんだろうねー?」
何言ってんのよ、この鬼畜女は…そんな事があってたまるかって……え?
今、鬼子母神って言った?
「こら紬…私をそんな過大評価するのはやめてくれ。それに、妖怪と人間の偉さを競うなんて事をしても仕方ないだろう?」
霞の言葉は、完全に常識外れだった。
予想外の肩書きに、輝夜は驚きを隠せない。
「…ね、ねぇ、もう一回だけ確認させて欲しいんだけど」
「何かな?」
湯に浸かっているのに、何故だか身体が寒さを感じている。輝夜は全神経を集中させながら、揺れる精神をなんとか抑え込みつつ平静を保って問いかけた。
何故だろう。輝夜はもう、目の前にいる少女…その姿の背後から、長い年月を掛けて積み重なった、巨大な山があるかのような。そんなとてつもない圧力を感じずには居られなくなっている。もうヤダ怖い。助けてオジイサンオバアサンッ…!?
決して寒さから来るものでは無い震えを纏いながら、恐る恐る輝夜は言葉を紡ぎ始める。
「お、お二人は、何でこの屋敷へ来たの…?」
蛇に睨まれた蛙の様に、ぷるぷると震える輝夜。そんな輝夜を他所に、その言葉を聞いた二人はお互いチラリと横目で見つめ合い、笑身を零すと…
「…っはは!!」
「…あはっ!!」
頬が砕けたように笑った。
そして、同時に口を開く…
「「目立つし、大きいから…何となく?」」
蓬莱山輝夜…またの名をかぐや姫。大きな屋敷に住む、絶世の美を持つお嬢様。
そんな少女は、その言葉を聞いて…
(どうして私の屋敷はこんなバケモノ二人に目をつけられるくらい大きいのよぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!)
産まれて始めて、自分の屋敷の大きさを呪った。
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誤字報告、ありがとうございますm(_ _)m