東方湯煙録   作:鯖人間

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なんか普段より短いです。
今、東京に居るんですけど…凄いですね。
建物デカいし人は多いし…田舎帰りたいです。

都会って凄いけど、自分には合いそうに無いですね…


事故と会話と目覚めた心。

鈍い日差しと肌を撫でる冷たい風を身体に受け、輝夜の意識は覚め始める。

 

周りを見渡す限り…いつもと変わらない、ただ広いだけの寝室がそこにはあった。

 

(…もう、朝か……)

 

 

蓬莱山輝夜の朝は早い。今日も自分のことをを手に入れようとする、様々な貴族の男達が…己の手練手管を用いて、輝夜を口説き落とす為の縁談を持ちかけていたからだ。

 

しかしそんな事は毎日行われていることであり、いい歳したオッサン達の邪な視線をその身に浴びることには不快感しか感じないものの…最早それが日常である事に、輝夜は慣れきっていた。

 

だからいつもの様に、着替えを済ませようと思った輝夜は寝巻きに手をかけようとした…が、1枚の手紙が輝夜の薄い胸から滑って寝巻きの中から落ちてきた。

不思議に思った輝夜がそれを拾い上げ、中身を堪忍しようとしたその瞬間。

…昨晩、自分の身に降り注いだ光景が、輝夜の脳裏に蘇った。

 

─────────────────────

 

 

二人が大妖怪だと知ってから、輝夜は二人を怒らすことのないよう…主に、紬の言う通りに行動した。自分が敵う相手では無いどころか、この都に住む人間達ですら束になっても、勝てるかどうかすら怪しい相手として畏れられているのが…この、鬼子母神と呼ばれる存在だった。

 

それなのに、当の紬本人は…先程とは違う。態度の変わった輝夜を見ると、その小さな口をへの字に曲げ…あからさまに不満そうな顔をし始めた。

 

 

『もーっ…輝夜ちゃんってば緊張しすぎー…!そんなのってつまんないからさー、取り敢えず何も考えずに湯に浸かってみて?紬ちゃんの一生のお願いだからさー!!』

『え、ええ…?わ、分かったわよ…』

 

何年生きてるのかすら分からない程に、長生きしている妖怪が使う一生のお願い…?

思わず首を傾げてしまった輝夜は頭を切り替え、紬の言った通りに無心になって、意識を温泉に移すようにお願いを実行してみると…あれほど自分を苛んでいた寒気はいつの間にか消えてしまい、すこぶる気分が楽になっていた。

そして更に、まるで今まで感じていた疲れが全て消え去ったかのように、普段よりも身体が軽く感じていた。

 

 

(…何よこれ、さっきよりも気持ちいい…?)

 

思わぬ温泉の心地良さに、肩の力をすっかり抜いてしまった輝夜。

 

 

『じゃあそのまま霞ちゃんの膝、座って?』

 

(…は?)

 

そんな輝夜に向けて、何食わぬ顔で紬は『一生のお願い』を重ねてくる。

…こいつもう絶対信用しない。輝夜はそう誓った。

 

 

 

─────────────────

あれから数分経った頃。飽きることの無い温泉の温もりに絆され、すっかり緊張のほぐれた輝夜は…立場に縛られた自分の話を、霞へと吐露していた。

 

 

『…だから、私は毎日毎日飽きもせずに口説きに来る男の相手をしてるの。けど、ロクな男が居ないんだもの。こんなに退屈で、憂鬱で、無気力な日々が続くのって…死んでるのと、何が違うって言うのかしら?』

 

輝夜は霞の膝に座ったまま、霞に会話をしようと持ちかけられて今に至る。何で裸の女を膝に乗せておいて、話をしようとするのかが分からない。

しかし思いの外、霞が輝夜の話を真剣に聞いているものだから…零し始めた本音は止まりそうもなく、輝夜自身。こんなにも話を聞いてくれる事に少し驚いていた。

 

 

『…そうか。そんな毎日を送るのは…私には3日として、耐えられそうにないね…?…うん、何となく出会った時から感じてた空気は…それが原因だったって訳か。

輝夜はよく頑張ったよ。けど…それはもう今日でお終いにして、明日からはもっと生を楽しむ努力をした方が良い…と、私は思ってるんだが?』

 

『…何よ。アンタに私の何が分かるのよ?それに、お終いって…というか、何で勝手に頭を撫でてるのよ。えっち…』

 

『一応、私もその気持ちは分かってるつもりさ…それと…いや、すまない。これはちょっとした癖だから、気に触るなら辞めておこうか…『…続けて』…うん?』

 

『…続けても良いって、言ったのよ。…恥ずかしいから何度も言わせないで頂戴…』

 

『…ありがとう。それならついでに…こんなのはどうかな?』

 

『…!っ…!!』

 

 

霞と名乗った謎の妖怪は、温厚そうな見た目をしているのに、様々な行動が雑に感じてしまう程…おおらかな性格をしていた。

輝夜との出会いは最悪だったし、多分トラウマにすらなったと思う。けど、そこから輝夜を拾い上げてからは…愚痴や不満の溜まった輝夜の話を聞いては、優しく返答を返し、その愚痴すら受け入れてくれる。多分、ここ数年で1番自分に親身になって接してくれる良い妖怪だろう。妖怪と話すなんて、全く想像すらしていなかったけど…というか、こいつ実は無自覚に飴と鞭を使い分けている気がする。

そんな霞はとても変わっていて、裸の鬼子母神や輝夜を見ても決して邪な視線を向けてこず、微笑ましいものを見る目でこちらを眺めていた。

そして輝夜相手にすることと言えば、話を聞いて考え込んだ後……輝夜の頭を撫で始めるといった、輝夜自身。予想していなかった行動だった。

…その手は大きく、昔祖父に撫でられた感触に似ていて…とても安心できた。

だから、続けていいと言ってしまった。男に触れられることなんて真っ平御免だった筈なのに、好きにしてくれていいと身を差し出してしまった。

 

輝夜の長い髪を手で梳いた時の霞の手つきは…脳から全身へと電気が流れたような、えも言われぬ感覚を輝夜に与えていた。

 

…変な声が出そうになったのは、自分だけの秘密だ。

 

 

 

そして、もう1人。

 

『あーん…輝夜ちゃんってば、どうしてそんなに私の事を威嚇するのかなー?私、輝夜ちゃんの境遇を知った上で貴方のことを抱きしめてあげたい…そしてさっきからその白露みたいに透き通ってる輝夜ちゃんのお肌を、ちょっとだけ触ってみたいと思ってるだけなんだけどなぁー?

…というか、触らせろー?』

 

『ちょ、アンタは近づかないでよ!?私の家庭教師から、鬼子母神には気をつけろって昔から言われてたのよ!アンタ絶対危険!私の勘がそう言ってるのよ…本当に実在してるとか思ってなかったのにぃ!!

…って、ち、力強すぎでしょアンタ!?何でこんな細腕にこんな馬鹿みたいな力が…っ…は、離せええええええええええっ!!!!!』

 

『うふふふふふふ…素敵だねぇ?何だか何処と無く椿ちゃんに雰囲気が似てるから、ついつい弄りたくなっちゃうこの感じ………本当に、素敵だねぇ?』

 

『ひぃっ!?あ、アンタ絶対性格黒いっ!!というか何でこんなに叫んでるのに誰も起きてこないのよ!?この屋敷の警備どうなってんの!?…って、霞はなんでそんなに呑気にしてるのよ!ボサっと見てないでさっさとこいつを止め…ひゃん!?ちょっ…あ、アンタどこ触って…!!』

 

『ふふふ…あ、言い忘れてたけど、実はちょっと前から私の能力でこの付近の音は遮断してるから…この辺りで起きた音は、この部屋の外部に漏れないんだよねぇー…?

…あはっ!凄ーいスベスベだぁー!ねぇねぇ霞ちゃん?私、ずっと霞ちゃんの温泉に浸かってるから…自分のお肌って結構自信あったのに、輝夜ちゃんってば予想以上に気持ちいい肌してるー…これは嫉妬しちゃうなぁー?…ねぇ霞ちゃん!ちょっと霞ちゃんも触ってみて、どっちが真の良いお肌をしてるかどうか、霞ちゃんの手で確かめてくれないかなー?』

 

『はァ!?何言ってんのよアンタは!?』

 

 

鬼子母神こと、紬。常識が通用しないヤバいやつ。

私より小さいくせに、胸が大きい。とてもでかい。もげればいいのに。

細身な体つきをしていて、華奢な印象が強いのに…そこから漲る力はそんじょそこらの大人の男と比べてみても桁違い。多分鬼ってのは本当なんだろう…

紬は本当に、何を考えているかがわからない。常に目にハイライトが入っていない為、ぼーっとしている様な印象があるものの、多分相当頭が良い。

…だけど、それを台無しにしてしまうのが霞という存在だろう。紬は、多分霞を中心にして物事を考えていると思う。

だから、霞相手に羞恥心を持たないのか…ベタベタとくっ付いては、むにゅむにゅと形を変える双丘を見ていると…腹立つ。本気で。

けど多分、性根は良いんだと思う。でなきゃあの霞が一緒に旅をする筈がない。紬には紬なりの、コミュニケーションのとり方があるのかもしれない。非常に迷惑だが。

 

…それにしても、あの時の紬から感じた柔らかな包容力は…一体何だったんだろうか?

 

 

 

 

『…紬、取り敢えずストップ』

『はい!霞ちゃん!』

 

『え?ってきゃあああっ!?』

 

そんな時…霞の言葉によって、突然力を抜いた紬。それによって輝夜は体制を崩してしまった。

グラりと輝夜が倒れ込む時に見えたのは…霞の顔。正確には、顔を斜めに眺めているような…

 

 

温泉の飛沫が舞い散り、輝夜はそのまま霞の方へと倒れ込んだ。

 

 

 

『………輝夜?大丈夫かい?』

『…っ!?っえ…ええっ!?』

 

そして、倒れ込んだ輝夜は…霞を対面から抱きしめたまま。霞の頬へと自分の唇を触れさせている状態で…座り込んでいた。

 

『…あーっ!!輝夜ちゃん、ズルいッ!!』

 

何故か、騒ぐ紬の声が遠い。

 

『…輝夜。取り敢えず、ゆっくり風に当たりなさい。あぁ、頭から湯気が出て……今の事に関しての文句は、後で山程聞いてあげるから…』

 

そう言って輝夜の肩に手を触れ、裸の輝夜を羽衣で隠す霞。

 

そんな霞を、輝夜は…見れなかった。既に頭は混乱し始め、身体中の血液が沸騰しているように感じる。

 

熱い。熱い。

輝夜の頭は、ここで許容値を越えた。

 

『…輝夜!?』

 

霞の慌てた声。突然倒れた輝夜を見て、とても焦っているんだろう。

 

嗚呼、今日は本当に………

 

 

 

(…初めての、キスだったのに…)

 

 

 

自分の初めてを、奪われる日だなぁ…

 

 

 

─────────────────────

 

「〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!!!」

 

元いた布団へ潜り込み、悶える輝夜。顔を真っ赤に染めながら、昨日の出来事を全て思い出す。

そうだった。自分は昨日、事故によって霞へとキスしてしまい……そのまま、気絶したのだった。

 

輝夜は布団の中に籠ると、目を瞑ったまま動くことを止めた。このままだと誰かが部屋までやって来て、早く起きなさいと叱るだろう。

 

…しかし、今はそれもいいかもしれない。状況に流された結果、昨日の晩。自分のした行為は淑女としてありえない振る舞いだった筈…

 

(…誰か、こんな私を叱ってよぉ…)

 

涙目の輝夜が握りしめた手紙の最後の文章には…

 

 

『今夜は、羽目を外しすぎ無いように』

 

 

細く綺麗な文字で、そう書いてあった。

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