…文字数って、どれ位あれば読みやすいんですかね…
霞と紬。この二人との出会いは、輝夜を良い方向へと変化させていた。屋敷に務める女中は皆、明るくなった輝夜を見ては驚き。またそれ以上に喜びの声を上げていた。もとより美しさにおいては次元の違う顔をしていた輝夜だったけれど、最近は磨きがかかったように。女中達すらも見蕩れてしまう程の美しさを輝夜は振りまいていた。
そして、最近の輝夜はよく養父母以外の人間とも積極的に話すようになり、着付けや食事の際に笑顔を見せることが多くなった。その代わりによく寝坊をするようになったことに対しては、周りも苦笑しているものの…何かを待ち遠しく感じるように、日中を過ごしていた。淡々と日々を過ごすのではなく。生き生きと楽しそうに毎日を過ごす輝夜の存在は、屋敷で働く人々にさえ笑顔と活力を与えていた。
…屋敷へと足を運んで来る、貴族の男達を除いて。
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『…やぁ、今日も良い夜だね。1杯どうかな?』
『今ならお団子もついてるよー?』
霞と紬は、それから毎日夜になると突然現れては輝夜を温泉に誘い、その日は何があったのかを聞いてくるようになった。
ある時は塀を超え、またある時は寝室で輝夜を待ち伏せていたりと、兎に角自由で普通じゃない登場をしては、毎度輝夜を驚かせていた。
『もう…私も食べるから、ちょっと静かにしてくれない?さっきまでこの辺りにはお爺さん達が居たんだから。何かあってここに来ちゃったら、大変じゃない…
というか私の寝室を宿代わりに使うなんて、こんなのアンタ達じゃないと絶対に許さないんだからね?そこ、分かってる?』
輝夜の目の前にいる2人の妖怪はどこから持ち寄ったのか、都で売っている団子とお茶を食べつつ湯に入って輝夜を待っていた。創られた温泉は広く2人はかなり寛いでいるのか…咎められたことにさえ笑顔を向けながら、輝夜を見ては微笑みを浮かべていた。
『うふふふふ…それについてはごめんねー?けど最近は輝夜ちゃんもすーっかり私達と打ち解けてくれたみたいでさぁー…嬉しくって、つい?』
そんな風に笑う紬を見て、輝夜はため息を零す。
『ここに人が来たら洒落にならないんだから…あ、このお団子美味しいわね。もう食べ終わっちゃった……それで?今日は一体何の話が聞きたいのよ?…あ、紬はちょっと右にズレて頂戴。私だってそこに入りたいんだから…』
『ふふふ…分かってるってばー…ここは輝夜ちゃん『も』特等席なんだもんね?どうぞいらっしゃーい!あ、10分したら変わってね?』
『分かってるわよ…はぁ。今日も疲れたわぁ…』
『…おや。輝夜もお疲れらしいねぇ…それなら今、なんだか都で話題になってる5人の男の話に関係してるのかな?
…本当。一体何をすれば、都があんな風に湧くのか気になってたんだよ』
『…あぁ、それはね────』
慣れた様子で服を脱ぎ、当然のように霞の膝の上に座る輝夜。輝夜も最初のうちは恥ずかしがっていて、初日の失敗からなかなか立ち直る事が出来無かったけれど…そんな輝夜などお構い無しに紬は問答無用で服を剥ぎ取り、温泉へと連れ込んだ。
それは輝夜が混浴に慣れるまでの間、毎日続き…紬はそんな風に怒った輝夜を弄っては遊んでいた。今では慣れたもので、自分から入ることも出来るようになった。しかし、やはりまだ心臓に悪い。
そして思い返せば何度も紬のペースに飲まれることによって、輝夜は感情を吐き出すことを覚えた。そしてそんな負の感情を爆発させることによって、輝夜の心に重く沈殿していた黒く粘ついた不満ごと……輝夜のことを、紬は受け止めていたのかもしれないと思い始めていた。
そして、霞に対しては…事故によるキスをしてしまって以降。少しづつ霞のことを意識する様になってしまっていた。
霞という男は本当に変わっている。輝夜の周りにいる男とは全然違っていて、一緒の時を過ごすことに不快感を感じなかった。
あれから何度も湯を共にする度に、霞の自分を本心を見てくれる所や自分の言葉を受け止めてくれる所。普段輝夜がすることの出来ない、他人に甘えるといった行為を容認してくれて、好きなように甘やかしてくれる所など…
正に、特別な存在。輝夜の中で、霞の存在がどんどん大きくなって行く事を…輝夜自身、心で理解していた。
だからここ最近、輝夜の機嫌はとても良かった。最早輝夜にとって、この3人で過ごしたたった数時間程度の夜の一時こそ。色褪せ変わらない日々の中で光る、大切な宝物のように感じていたから。
だからだろう。先日求婚に来た5人の貴族の男達へ、輝夜は絶対に不可能と思われる無理難題を与えた。
そして、もしもそれを成し遂げた者は…『かぐや姫』と結婚する事を許す。と、自ら公言してやった。
「ふふん。けど私が取ってきてって言ったのは、全部実現不可能なものばかりなんだから…控えめに『アンタ達なんてお断りよ』って意味を伝えたつもりだったんだけど、全然汲み取ってもらえなかったのよね…
どいつもこいつも馬鹿ばっかりなんだから…もっと自分の身の丈にあった考え方をして欲しいのよ。諦めない男って、ねちっこくて寒気がするわ…」
そう輝夜が公言した時、周りに居た屋敷の者は驚きのあまり声を上げ、貴族の男達はそれは誠かといきなり輝夜へと詰め寄ってきた。中年男性の年相応による臭いは精神衛生上良くなかったし、あの時の男達の心の中は、手に取るように分かってしまった。
私利私欲に塗れた男など、全員お断りに決まってる。
「そうか…成程。これはまた、見事に無理難題を吹っかけたものだね…
…ん、蓬莱の珠の枝…か。懐かしい言葉だね…」
「ということは今頃、その貴族の人はあちこち走り回ってるってことかー…あははっ!輝夜ちゃん、なんだか見違えるくらいにとぉっても…悪いコになっちゃったねー?」
「この際、悪女と呼ばれても構わないわ。女はそれ位で丁度良いのよ…だってそれくらいじゃないと、困るもの。そうでないと結婚するって言っちゃった訳だから…万が一にでも、持ってくる人が居ない物じゃないと駄目なのよ。素直に求婚を受ける気がなんてこれっぽっちもないんだし…
…鬼子母神の首。なんて言えば良かったかしら?』
『ふふふ…良いねぇ輝夜ちゃん。やっぱり本音で語り合った方が愉しいよねー?私的にはそれでも良かったよ?そしたら輝夜ちゃんが塵一つ分だけでも生きやすくなるだろうしねー…?輝夜ちゃんの敵、潰しちゃう?』
『あーもうそんなの冗談に決まってるじゃない…だから、変にやる気を出さないで?気持ちだけ受け取っとくから…』
『くふふ…残念?』
確かに自分は変わったと思う。今までなら自分から周りを変えようとなんてしなかっただろう。いつもの様に求婚に来た貴族の話を聞いてはまた、退屈世界に絶望する…
…しかし、そんな事を繰り返してきた輝夜はもう居ない。輝夜の心は2人のお人好しによって変えられた。だから今回の求婚だって、自分の気持ちを正直にする為にやったのだ。自分に群がる塵芥の様な存在を振り払ってから、ずっと求めていた『特別』を手に入れる為に。
『…それに。本当に求婚して来て欲しい人は…私に振り向いてくれないのよ?』
「…ん?」
「およよ…?」
霞の膝からクルリと向き直り、もたれ掛かるように霞の肩へと手をかける輝夜。小さな声で、そう問いかける輝夜を見た二人は目を丸くして驚いていた。濡れた自分の黒く艶やかな髪が浴衣に張り付く事も気にせず、そのまま輝夜は密着する。
その身体から仄かな色香を醸し出す、輝夜の物憂げな視線の先にいる存在。
『…輝夜。どうかしたのかい?』
…霞は普段の様にキョトンとしながら、そんな輝夜の頭を撫で始める。そして紬はどこかで見た様な、不敵な笑みを浮かべていた。
『…ね?気づいてもらえないんだから……あーあ。なんでこんなの選んじゃったのかしら…全くもう…
ねぇ、よく聞きなさいよ…霞。貴方ってば、こんな絶世の美女を相手にしてるんだから…絶対に幸せ者なのよ。…分かった?分かったなら、その手は止めないでね。私が満足したって言うまでは…続けて頂戴…』
『…はは。確かに、輝夜と出会えた事は私にとって、今後もとても良い思い出になるだろうね…やはり都に来たのは正解だったよ。
…明日もこんな風に、また一緒に月を眺めてくれないかな?』
『…そうね。こんなにも、月が綺麗だものね…そんなの、受けるに決まってるじゃない。私、楽しみにしてるから…絶対に明日も来なさいよ?良いわね?』
『…了解だ。何が起きても、来ると誓おう』
そう言って2人は同時に月を眺め始める。満月に近付く度にその光と大きさを増す月を見て、輝夜は2人と出会ったこの幸福な日々を噛み締めていた。
…そして、霞は何故自分の方を向いたのか最初は不思議がっていたものの…輝夜の瞳を見て纏う雰囲気を見て、実際はある程度の事を察していた。そして、その事を面には出さず…心の中に留めて置くことにする。
今はまだ、その時ではないと。
『…ねぇ、というか紬はさっきからどうしたのよ?なんかブツブツ言ってるけど…あれ、なんかおかしくなってるんじゃないの?逆上せたならお湯から出した方がいいんじゃない…?』
『…あぁ、紬の機嫌がいいと偶にある事だから…そんなに気にしないでくれ。多分、そのうちこっちに帰ってくるさ』
そんな2人の目の前では、紬がトリップ状態に陥っていた。こちらから言葉をかけても帰ってこず、ひたすら自分の中で何かを導き出そうと思考の沼に飛び込んでいる…
霞はそんな紬を見て、いつもの事だと言うけれど…どうしてあんな状態の紬を見て、そこまでマイペースを貫けるのだろうか…?
…この二人の信頼関係は、強すぎて謎が深い。
『え、ええ…霞が言うなら良いけど…普通に怖いわよ、あれ。偶に私の方をチラチラ見てるから、尚更タチが悪いわ…』
輝夜の視線の先で、小さく早口な声で何かを呟き続ける紬。偶に視線を感じることから、何か自分のことを言っているのかもしれない。
…普通に怖いので、輝夜は放置しておくことにした。なんだか変なことに巻き込まれそうな予感がするし……それに、今は霞とできるだけ長く話していたい…そう思ったから。
『ねぇ、いつも私が話してるんだから…霞の話だって、聞かせて頂戴?』
『あぁ…構わないよ。昨日の事なんだけど…この街にある、あるお寺に言った時のことなんだが─────』
こうして2人は語り合う。
…月が満ちる、最期の夜まで。
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以下、紬の言葉、抜粋。
『輝夜ちゃんも候補だとすると…もうそろそろいい傾向になってきたかなぁ…?
…けど、まだ足りないなぁ。やっぱりこの先は輝夜ちゃんみたいな『あの目』をした子には人は、変えていかなくっちゃね…まだまだ足りないんだから、もっと数を集めないと────』