東方湯煙録   作:鯖人間

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構想練ってたのとバイト始めたので
書くのに時間かかってしまった…

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満月と涙と溢れた本音

『嘘でしょ…』

 

朝焼けの光が少し眩しい輝夜の寝室で…ただ独り。輝夜は立ち尽くしていた。全く寝付く事が出来なかった輝夜は美しかった顔を焦燥感に溢れさせ、普段は麗しく、澄んだ色をした目の下に…薄い隈を作っていた。それは輝夜の透き通る程に白い肌を受け、際立って目立っていた。

 

 

『…もう、潮時…なの?』

 

輝夜の心は、昨晩。霞の温泉に入ったはずなのに…凍てついた様に凍え、穴が空いたような空虚さを感じていた。

 

 

 

 

この時、幾つか都で噂が経っていた。やれ満月の月が普段よりも大きく見える…かぐや姫に求婚を申し込んだ5人の貴族が皆、破滅の道を辿っている…人々は、そんな噂で持ちきりだった。

偽物作りに精を出した結果、呆気なく財産を全て無くした者。公での偽物を使用した事によって、貴族としての信用を翁から完全に無くしてしまった者。

…そして、宝物を探す途中で志半ば命を落とした者まで現れるとなれば…かぐや姫へ行われていたプロポーズは、満潮だった波が引いていくように。みるみる減って行った。

 

輝夜自身、その事に何も思わなかった訳では無い。流石に亡くなってしまった貴族の男にご愁傷さま…くらいの事を思う気持ちはあった。ある意味では人柱となったその人に対して、感謝なんて行為は絶対にしないけれど。寧ろここで悔い改めて、地獄で性根を叩き直されて来ればいいとさえ思っていた。

 

 

 

 

しかし今の輝夜にとって、そんな瑣末ごとに割くような時間など存在してい無い。こんな事をしている間にも、恐れていた時間は刻一刻と近づいて来る。既に輝夜に取っての一番大切な存在が、未来永劫会えなくなる…輝夜の前から消えてしまうような、そんな現状に追い込まれているのに。そんな俗世の話なんかに、興味を持てるはずが無い。

 

 

満月まで、もうあと少し。輝夜にとっての地獄はもう、目の前に迫っていた。

 

 

ヒトも妖怪も、己の幸福の為に生きている。だが『本当の幸せ』は、儚く脆い。

この時間がずっと続けばいいのに。もっとこの時間に甘えていたいのに…

それが『本当の幸せ』を掴んだ者の本心。

 

…だが、現実というものはそこまで甘くは無い。寧ろ、その幸せを奪い取るかのように、無慈悲にも試練を与え続けてくる。本人の気持ちなどはばかることも無く、『幸せ』を維持出来ない程の困難を、常に与えているのが現実というものだ。

 

そして、そんな風に。儚く砕け散る事になってしまった幸せを…『悲劇』とでも言うのだろう。

 

そんな『悲劇』が起きたとすれば。会話の楽しさや人との出会いの新鮮さ。そして、心を通わせることの嬉しさを知ってしまった輝夜の心は…それを喪うと同時に、擦り切れ、潰され、焼けるような心の痛みに苛まれる事になってしまうだろう。

もし、『輝夜を次の満月の日、月へと送還する』…そんな風に決まりきった残酷な運命が存在すると言うのなら。

 

 

蓬莱山輝夜という罪人は。許され無い程の罪を犯した咎人に…自由と安寧の居場所は存在するのだろうか?

 

 

 

─────────────────────

 

それから二日目の夜。ここ二日は輝夜は寝室に行かず、お婆さん達の部屋で眠っていた。だから二日間、霞と紬には会っていなかった。

 

だから今夜、いつもの様にやって来た霞と紬を迎えた輝夜は…全てを伝えようと、覚悟を決めてこの寝室へとやってきていた。

そして、そんな輝夜を見て…何故かいつもとは違う雰囲気を纏っている事に、二人は気がついた。主に、紬が驚かせてみないかと企んだ事が初めだったけれど…二人が来る前から寝室に居るのは初めての事であり、いつも輝夜はそんな二人がどうやって現れるのかを楽しみにしていると言っていたはずだったのに、輝夜の方から先に部屋で待っていた。

 

「…久しぶり。今夜は会えて良かったよ…」

「輝夜ちゃん?昨日と一昨日は何かあったのかな?」

 

「…後で話すから、まずは湯に入らない?」

 

「あららー?大胆だねぇー…輝夜ちゃんって以外と攻めるタイプなのかなぁー…?」

「そうだね…じゃあ、造らせて貰うから…輝夜、少しこれを羽織ってなさい」

 

「えぇ…ありがとう…」

 

…二人を迎えるように、静かに部屋で鎮座していた輝夜は塀を越えて来た二人の姿を見つけると…何を思ったのか、突然着ていた気崩しやすい寝巻きを脱ぎ出した。そんな輝夜が早く温泉に入りたいと催促した事は初めてだったので、二人とも驚いていた。

 

 

しかし、霞から羽衣を受け取った時の輝夜は…いつもより一回り小さく見える程に弱々しく…秋の寒さとは違う、別の理由で震えていた。

 

 

「輝夜…何かあったのかい?」

「………………」

 

「…輝夜ちゃーん?あれー…私の声、聞こえてるよね?ねぇってばー…?」

「……………」

 

そして今…三人で湯に浸かっている最中なのに、輝夜は暗い顔をして落ち込んでいた。それも先程から輝夜に向かって声をかけ続ける霞と紬の言葉すら、聞こえないほどに座礁した顔をして…

 

 

「…ぬぬぬ。こうなったら…」

 

紬は自分の気に入った存在以外は基本淡白に接し、無視されることにもすることにも慣れている紬だったものの………自分が気に入った存在からの無視を極端に嫌う性格をしている為、この状況が激しく面白く無かった。

 

「…紬。それはやめといた方が…」

「そんなのダメ。何回も私と、霞ちゃんを無視した報いを与えないとー…霞ちゃんは黙って見ててねぇー…?」

 

だからもう、やるしか無い。自分はこういう性格だから、仕方ない。そう決めた対して、紬に静止するように声をかけた霞の言葉を紬はばっさりと切り捨てた。不機嫌になった紬はもう、強硬姿勢を取ると決めたら梃子でも動かない。

そして俯いたままの輝夜へと向けていた視線を下へと逸らすと、そこにあるのは年相応と言っていい大きさをした2つの果実…程もない、紬からすれば無いに等しいと言える胸があった。激しく失礼な感想であるが、本人は黙って何も言わないので気にしない事にする。

 

 

「さーん……にー……」

 

目を光らせ、両腕を広げた紬。狙いは既に定まっており、発射準備も万全だ。

そっと目を閉じた霞は、この先の光景を察して溜息を零すものの…今の輝夜の様子がおかしい事を心配しているのは自分も同じであり、何とかしてやりたいと思っていたのも事実だった。

だからこそ、当の本人から何があったのかを話してもらいたい。全ては会話から始まるからこそ、殻へと閉じこもる輝夜を呼び返す為に。紬の行動を霞は黙認することにした。

 

「いーち………!!!」

 

…願わくば、自分の持つ秘湯の力が。たったこれだけの力だけれど…少しでも、訳ありの様子をした輝夜の心を癒してやれたら良いなぁ……なんて。そんなことを思いながら…

 

「おりゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

掛け声と共に、紬は…それを両手で『掴んだ』。

 

「きゃ、きゃああああああああああああああああ!?!?!?!?!?」

 

 

あまりにも唐突な身体への刺激により、輝夜の喉からとんでもない声量の絶叫が飛び出してきた。紬の能力がなければ、直ぐに屋敷中の人々が押し寄せてくる程の勢いだろう。

ぷるぷるどころか滅茶苦茶に形を変える輝夜の双丘と、紬の両腕。それは初めて出会った時のように、輝夜の絶叫は寝室から見える、宵闇の空で輝く月にまで届きそう………そう錯覚する程に、輝夜は驚きにより声を張り上げていた。

 

輝夜の叫び声を聞いた時、実行犯の紬の顔は…とても、いい笑顔をしていたとか。

 

 

 

───────────────────────

 

「な、何を考えてるのよアンタって奴は!!私も話を聞いてなかったのは悪いと思ってるけど、アンタはいつも報復が大きすぎるのよ!!!霞も居るってのに、どうしてこんな、この……む、胸を揉みしだくなんて意味わかんない!アンタに気を許した私が馬鹿だったわ!もう…!!」

 

「えーっと、私的に言えば揉みしだくっていうか…撫でくり回すって言った方が適切だと思うよぉ?なんというか、お昼に食べたお饅頭もこんな感じだったかなー…?

あ、けどとっても柔らかいね?椿ちゃんよりも触った時に弾力があったからー…カスミン補給すれば、良いとこまで膨らむんじゃないかなぁ?」

 

「うっさい!!」

 

顔を真っ赤にした輝夜は、目の前にいる敵から胸を守るかのようにぴっちりと腕で自分の身体を固めていた。あの時の衝撃はかなり凄まじかったのか、輝夜は割と本気で怒っているらしい。というか胸を触られたのなんて、初めてだったのに!!

霞はわかり切っているけれど、思い返せば紬にも。かなり自分の初めてを奪われているような気がする…?

 

「私にだって、悩みの一つや二つあるんだから…落ち込んでる人に対して更に鞭を打つのは辞めて欲しいんだけど…?今は何だか、胸がモヤモヤしてて…辛いの…」

 

輝夜はそう言って、無意識に少しだけ二人から距離を取った。いざ二人を目の前にすると、覚悟なんて直ぐに揺らいでしまったから。このままだと、何も言えなくなる…そう思って。

 

「…だってさー…輝夜ちゃんってば、私たちに何か隠してるでしょ?それも多分、結構人に言えないようなヤツだよね?」

 

「…!?な、何でそれが…」

 

「あ、やっぱり。輝夜ちゃんってばツれないねぇー?私なんの為に私たちが、こんなにもあけすけに自分のことを教えたと思ってるの?最初に出会った時から、輝夜ちゃんが訳アリなのは知ってたよ?

…なのに輝夜ちゃんってば、じっと俯いたままで私たちに何も教えてくれないんだもの!私って秘密は交換するモノだと思ってるんだぁー…だから、輝夜ちゃんの行動って…やっぱり不公平だなーって、私は思ってるんだけどぉー…?」

 

 

しかし、そんな事は知らない。まずは私の質問に答えろとでも言うかのように、紬は自分の伝えたかったことをそのまま輝夜へとぶつけてくる。謝罪も反省を後回しにして、輝夜の身を案じたのか自分が知りたいだけなのかは知らないけれど…紬の言葉には、軽い口調とは裏腹に…こちらの真意を探るかのような、そんな思いが垣間見えていた。

 

自分が今まで悩んだ事だって、紬はいざとなれば輝夜を脅してでも聞くつもりなのだろう。だけど打ち明けるように、優しく輝夜の心へと語りかける姿は…

覚えてもいないけれど、自分母親のような…この地上で自分を見つけ、育ててくれたお婆さんのように。そんな輝夜の悩み事受け入れ、そのまま包み込む様な…そんな柔らかい笑顔を輝夜へと向けていた。

 

「…そ、そんな事を言われても…仕方ないじゃない!!私だって、こんな事になるなんて思ってなくって、混乱してるんだもの…!!

お爺さん達にも、周りの女中達にも、こんな事言えないから…どうすればいいのか、私…分かんなくて…

けど、それでも…霞と紬なら、こんな話でも聞いてくれると思ってて………

 

…けど、いざ会ったら…本当に信じてくれるのか、分かんなくなっちゃって。もし信じて貰えないかもしれないって思ったら、頭の中が真っ白で…それで…」

 

輝夜がここに来てから、ずっと思っていた事を吐露し始める。輝夜の心で、ずっと輝夜の考えを掻き乱していた小さな不安。それは自分の秘密を二人に教えたとして、本当に信じてくれるかどうかが気がかりだった。そして自分が今まで黙っていたことに対して、騙していたと思われることが何よりも辛かったから…

 

「私…実は、人間じゃないの。それなのに…二人の事を、化け物、とか…言っちゃった。私だって、人間じゃないし、それに…私の方が化け物に近いの…

 

…これ、見てくれたら…わかると思うんだけど…」

 

知らず知らずのうちに、涙が溢れてくる。今自分の流した涙は、一重に自分の情けなさから来るものだった。自分を棚に上げ、二人を罵ったこと。二人は信頼してくれているのに、自分は嘘を重ねていたこと。

そんな自分の独りよがりな浅慮を悔いるように、輝夜は言い訳をすることを辞めた。ここまで来たのだから、もう…どう思われても仕方がない。初めに小さな嘘をついたのは、自分なのだから。

 

だからこそ、自分への罰を込めて…輝夜は綺麗に切りそろえられた爪を、真珠のように輝く胸の上に手を当て……そのまま、一息に振り下ろそうとした。

 

その瞬間だった…輝夜を静か見つめていた霞が、そんな輝夜の華奢な手を強く握りしめ…『自分が人間では無い証明』になるはずだった自傷行為を、止めたのは。

 

 

「輝夜。もう大丈夫だから…そんな事をしなくても、信じるから…それ以上、そんなにも辛そうな顔をして泣かないで欲しい…」

 

 

大好きな存在から怒られる事を怖がるように、嫌われてしまう事に耐えきれなくて…自分では涙を止められない輝夜を見て。そのまま何も言わずに頭を大きな手で押さえると…宥めるように、優しく輝夜を撫で始める。

 

 

「…ほら、輝夜も少し落ち着いて。ゆっくり肩の力を抜いてみるんだ…考えをまとめるのに、慌ててたら…何も始まらないよ?

…例え輝夜が何を言って、どんな存在だったとしても。私達は輝夜を嫌わないから…安心して話すといい。なに、困った時はお互い様さ…そうだろう?紬?」

 

「うふふ…そのとーり!霞ちゃんが止めなかったら、私が止めてたからねぇー…さぁ泣き虫輝夜ちゃん?そのお悩みって…私達にもお手伝い…出来るんじゃない?一人で抱え込むなんてぇー…水臭いじゃない?」

 

 

そんな二人の笑顔と言葉によって、輝夜の心に重くのしかかっていた気持ちが溶かされていくような感覚を、輝夜は胸の辺りで覚えていた。

この二人は…多分、自分の正体など…とうの昔に気づいていたのだろう。

それでも尚、人間として輝夜を見てくれていた。

 

 

「ごめん、なさい…私、二人の気持ちを考えずに、ひたすら独りで悩んでて…

顔を合わせるのが、怖くて…二人が来てるって知ってたのに、会わずに自分の中で解決しようとして…

無視しちゃって、ごめんなさい…!!」

 

 

輝夜は謝った…心から。輝夜は生来の人を頼らない性格が災いした結果、悩みを抱え込み、それを誰にも伝えず独りで悩み続けていた。

しかし、そんな日は…今日で終わらせよう。

 

「私は、実は月人で…蓬莱の薬を飲んで地上追放された、罪人なの。だから、明日の満月の日に、月から私を迎えのための…使者が来るの。

…けど、罪人は、地上で生活させた後…月で永遠に、拘留されてしまう。そのまま、蓬莱の薬で得た『不老不死』の身体を、研究に使うために私は連れ戻されるッ…」

 

『月人』という名前聞いて、二人の瞳の色が変わった。霞は珍しく眉間に皺を寄せながら、険しい顔をしているが…紬に至っては、普段から無いハイライトが全く無くなっており、真っ暗な空洞の様な眼で輝夜の話を聞いていた。

 

 

「そんな私を道具のようにしかいない所に…月になんて、私…ッ…帰りたく無いの!!月になんて、絶対に帰りたく無い…この地上で、この都で…ただ、こんな風に私の事を見てくれる特別な存在と…日々を過ごしたいだけなのにッ…どうしてよ…私が望んだ毎日は、ここにあるのに……霞と、紬と、それにお爺さんやお婆さん達と…離れたく、無いよぉッ…!!」

 

輝夜は、霞と紬を抱きしめる。離れたくないから、ずっと一緒にいたいから。冷え切った自分を温めてくれた、この二人の熱を忘れたくないから…

 

泣きながら、たったそれだけの願いすら奪いさる運命を…輝夜は呪っていた。地上に堕ちてまで、やっとの思いで手に入れた…大切な時間。絶対に手離したくないからこそ、輝夜は二人を抱きしめる手に力を込め続ける。

 

 

そして、そんな輝夜に…二人は答えた。

 

 

 

 

『それじゃあ…』

 

二人は声を揃えて、輝夜へ向き直ると…

 

 

 

 

『私たちも、月と決着着けないとね?』

 

 

 

迸る怒りを目に込めて、そう言った。

 

 

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