東方湯煙録   作:鯖人間

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ソシャゲとバイトとスマブラと…
やること多いですね。

グリモアとコンパスやってたら
時間なんて直ぐ過ぎてしまうのが最近の悩み。


月と準備と太古の戦争

「はぁ…どうしてこうなったのかしら…」

 

あの後、二人は『準備がある』と言い残し、そのまま帰って行ってしまった。

明日の満月に備える事に異論は無いけれど…やはりどうしても気になった事も多かった。そのせいか、自分の布団でくるまっていても一向に眠気が来る様な気がしない。寧ろ考えれば考える程、思考の沼に沈んでしまい……頭が冴えていくように感じてしまう。

 

 

「あの時、どうしてあの二人…あんなにも、感情が振り切って、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜたようになった顔をしてたのかしら…」

 

輝夜はそう独り言を呟きながら、再び思考の海へと意識を持って行く。

 

考えは、一向に纏まる気配は無いけれど。

 

 

───────────────────

 

 

 

「月と決着って…一体どういうことよ!?」

 

 

輝夜の目の前で、そう言い放った二人の妖怪は、輝夜には酷く…怒りを堪えているように見えた。先程まで、つい感極まって目に涙を浮かべていた輝夜でさえも、あまりの二人の変わりように驚き、動揺してしまっていた。

 

 

「あぁ…すまないね、いきなり驚かせてしまって…少しだけ冷静さを失ってしまっただけだから、気にしないでくれ。

明日の夜、お前のことは私たちが必ず護ってやる。必ず…もう、喪ったりはしないから…だから、安心してくれ」

 

「霞…?それ、一体どういうこと…?」

 

「ふぅ…しかし長生きをすれば、少なからず色々と…厄介事には巻き込まれるという事は身に染みて理解していたけれど、まさかこんな形で再び月人と相見えることになるとは…流石に、予想していなかったね…」

 

輝夜が月人であることを暴露しても、いつもの様に…輝夜の心を安心させてくれる、優しい笑顔を向けている霞。

…しかし、一瞬だけ顔が曇った事を輝夜は見逃さ無かった。その一瞬…瞳に揺らぐ深い後悔の色は、どうやら霞が過去の情景に思いを馳せている中で際立って辛く、苦い想い出に触れたらしい。

 

そして…その横で、輝夜の身すら凍ってしまうかと思えてしまう程に純度の高い。正に絶対零度の如き、冷たい妖力を零し続ける紬が居た。どうやら感情の乱れによって妖力の制御が緩み、そのまま駄々漏れにしているようで…

 

 

「あはははは!月…月かぁ…まーたまた、数奇な縁だねぇー…?それに、明日にはもう、大勢でここに来ちゃうのかぁ…

…そっかそっか。なら良いよね。それなら手間が省けるねしね!!実は私もねー?ずーっと昔から、月人に会いたかった所なんだー…?

…本当に、あの、自分たちの、事しか、考える脳が、ないような…そんな月人に、私も是非とも『もう一度』会いたかったんだよねぇー…

私、自分が受けた借りと恩と……痛みは、百倍にして返すタチなんだー…本当に、明日が楽しみだなぁ?ね、霞ちゃーん?」

 

 

「…そうだね。それじゃあ私も準備をしないといけないな?輝夜。まだ夜もふけたばかりだけど…今日は、ここでお開きとしよう。

…明日は少し早めにここに来るから…絶対に駆けつけるから、待っててくれ」

 

「それじゃあ…また明日ねぇー…?」

 

 

そう言って、紬はいつの間にか浴衣を着用し、放心した輝夜を置いて…二人は去っていった。正確に言えば…紬を背負った霞が、空を飛びながら闇の中へと溶けていったというのが正しいのかもしれないが…

 

 

 

───────────────────────

 

「…あの時の紬…初めて会った時にもし、あんな妖力を経験してきたら、多分、私漏らしてたかも。というか、絶対泣いてたわね。

…最近は慣れてるから良かったけど、もしもそんなことになったとしたら…私の中で、末代までの恥になる所だったかも…」

 

今思えばあの時の紬は…完全に、タガが外れていたと思う。その小さな身体からは想像も出来ないような、全身に伸し掛るような重圧を周りへと振りまいていた姿は正に、鬼を統べる鬼子母神の姿を体現していた。

 

口調が緩いのが紬の特徴でもあるけれど…あの時の紬の言葉は一言一言が甘ったるい蜜のように粘っこく、そして体の芯へと張り付くような重みも持っていた。

 

 

…明日の紬には近寄らない方がいいかもしれない。どんな流れ弾が飛んでくるかすら分からないのだから、仕方ない。警戒しておこう。

 

 

 

 

…そしてふと、輝夜は疑問に思ったことがある。

そういえば…二人はいつから生きているのだろう?

 

そこまで考えて、輝夜は一つ…二人に関わる不可思議な事に気がついた。

 

遥か昔…まだ輝夜が月に住んで居た時のことだ。自分の家庭教師をしていた人物から、『鬼子母神』といった単語を輝夜は聞いたことがあった。

…という事は、太古から生きていると語ったこの二人と…出会った事がある?

 

 

「確か…あの時は…」

 

 

輝夜の記憶に、その時の情景が浮かび上がる。自分の面倒を見てくれた存在。『月の頭脳』とまで言われた月人の中でもトップクラスの才女であり、輝夜にとっての唯一の理解者であり、家庭教師であり………家族だった存在が居た。

 

 

 

「…そうだわ…永琳が居たじゃない!!」

 

 

その名を、八意永琳。

蓬莱の薬の製作者であり…永遠の輝夜の味方。

 

 

 

 

 

『…ねぇ永琳?地上ってどんな所なの?地上で何があったのかが知りたいわ!』

 

『…あら…急にどうしたの?そんなに目を輝かせて…そんなにも私の授業は面白くなかったのかしら。それなら姫様の今日の分の宿題は3倍にしてしまっても構わないわよね?』

 

『何言ってるのよ!そんなのい、嫌に決まってるでしょ!?そうじゃなくって……ちょっと気になっただけじゃない!だって昔は永琳だってずっと地上に住んでたんでしょ?それなのにどうしてわざわざこんな何も無いような月へ私たちは移り住んだのかなー…って、ふと気になったのよ。だから教えて頂戴!じゃないと今日、私眠れないわ!』

 

 

真顔でとんでもないことを言い出した永琳。そんな悪気のない本気でやろうとしている言葉を、輝夜のもてうる限りの全力の力で否定しながら、輝夜は質問を続けていた。気になった事は納得出来る理由を見つけるまで問いただすのが、生まれ持った輝夜の性分だったから…

 

 

『もう…姫様ったら、また授業外の事ばっかり考えて…それに、地上について…ねぇ……こうなったら仕方ないし、今日の分はまた明日するとして…それじゃあどこから教えれば良いのかしら?何が起きたかって事を聞きたいなら、主に移住する直前までの話になるけど…

…まぁ、まずはどうして私たちがこの月へと移住したかを、姫様にとっての復習のつもりで教えましょうか』

 

自分が月で過ごしていた時、家庭教師として世話をしてくれたり、遊び相手になってくれたのが永琳だった。そんな永琳は輝夜が地上とはどんな所なのかと言った質問をした時…ほんの一瞬だけ顔に影を指しながらも、そのままその当時を思い出すようにして…地上での出来事を輝夜に面と向かって、授業のついでとして教えてくれた。

 

 

 

『じゃあ姫様?今ここで住んでいる私たち月人の身体には、寿命が無いのは知ってるでしょう?何故なら私たちは月で過ごす限り、不老で居られるから。どうして不老でいられるか…その理由は分かってるわよね?』

 

『ええ。月には穢れが無いからでしょう?』

 

『正解。この月には穢れが存在し無いから、私たちは半永久的に生き続ける事が出来るのよ。

…けど、地上で過ごしていた時の月人は、地上にある穢れが徐々にだけれど…生活をする上で、少しずつ身体に穢れが溜まっていったのよ。…その結果、本来は存在しないはずの月人に、寿命が訪れてしまうようになってしまったの。だから、地上の穢れが大幅に増加してしまった時、私たちは地上で生きる事を棄てて…この月へと逃げ出したのよ』

 

『へぇー…それじゃあ永琳が地上で過ごしていた時って、その『穢れ』のせいで、皆が困ってたってこと?穢れが無ければずっとそこで住んでたの?』

 

『…まぁ、端的に言えばそうなるわ。穢れさえなければ月人は月に逃げることなんて無かったわ。けど穢れの有無は、月人にとってとても重要なの。それも強い権力を持った月人程、自分の地位を守るために穢れに対して過敏になるのよ。

結局の所、月人って存在は…恒久的で、普遍的なものを好むから…穢れを生み出しながら地上で過ごす妖怪…というより、地上というそのものを根本的に見下していたのよ。

…だから、いつも地上の妖怪とは対立していたの。地上の穢れが限界に達してしまったことで、私たちは月へと移住……いえ、逃亡するしかなかった。

…そして地上で過ごす最後の日…事件が起こったの。月人に対して怨みを持った大勢の妖怪達が、月人の住む国へと戦争を仕掛けてきたのよ』

 

『…せ、戦争!?そんなの私、知らない…で、でも月の技術は凄く進化してるし…そんなの、妖怪になんて負けないでしょう?だって永琳だってとっても強いじゃない!?』

 

『…いえ、単純な戦力だけなら妖怪の方が上だったわ。それに、私は戦闘するにしても、上層部の月人達がそれを許さなかった。もし私が死ぬ事があれば、月にとっての重大な損失に繋がるから。だから、私は戦うことが出来なかったわ。

…それに、住民を護りながらだと、どの道勝てなかったと思うし…何しろあの時の妖怪と言えば、量が多いこと多いこと…あと一刻ロケットが発射するまでの時間が遅ければ、月人にも相当な被害が出ていたでしょうね…』

 

『じゃあ、ぎりぎり間に合ったのかー…なんだか地上って、とっても怖いところなのね。私には縁がなさそうだわ…それならもう、この退屈な世界の方が…まだマシなのかしら…?』

 

『…私はこの世界、大嫌いだけど』

 

『…え?』

 

その時、永琳の顔に静かな怒りの火が灯った。先程とは違った雰囲気を纏う永琳は…輝夜には、胸の内に秘めた哀しみや悔しさを燃やしているように見えた。

 

 

『…本当は、最後のロケットの発射は時間通りだと…妖怪達の攻撃を受けていたの。その時は、私の命の恩人だった妖怪が…発射の為の時間稼ぎに回ってくれていたのよ。その妖怪が居なければ、きっと多数の死人が出ていたわ。

…私も、最後のロケットに乗って居たから』

 

『え、よ、妖怪が…?それじゃあ永琳はその妖怪のおかげで助かったっていこと…?私、そんな事知らなかったわよ!?』

 

『…ええ、そうよ』

 

『…じゃあ、その永琳を助けたっていう妖怪は…その後どうなったの?もしかしてまだ地上で生きて…『死んだわ』…え?』

 

輝夜の言葉を鋭く裂いた永琳の顔は…とても、淋しそうな顔をしていた。信頼していた、何よりも大切にしていた友を。自分の力が及ばなかったせいで喪ってしまったように…その悲痛な表情は、まるでじくじくと胸を刺すような、そんな痛みを堪えているかのようで…

 

 

思わず、輝夜も戸惑ってしまう。

 

 

『…私たちは助けられたの。それなのに月人の幹部達は…妖怪に護られたその事すら嫌悪感を振りまきながら、月の技術が万が一にでも流出する事を嫌って…その時地上に居た、私の命の恩人諸共………地上の妖怪達を、核爆弾を落として皆殺しにして行ったのよ…』

 

『え…?』

 

 

 

そこに、輝夜が知っていた永琳は居なかった。いつも冷静で、時々勉強から逃げる輝夜を咎めつつも笑顔を見せてくれるのが、輝夜の知っている永琳の怒った姿だった。

しかし、話を続ける永琳は…ちょっと輝夜でも泣きそうになってしまう程に鋭い眼をしながら…そんな目に涙を浮かべながら、悔しそうにそう吐き捨てた。

 

『…出来ることなら姫様にも、あの『二人』に会わせてあげたかったわ…あの性格上、姫様は多分気に入られていたでしょうね。弄れば反応が返って来ると喜ぶんだもの、あの鬼達は…』

 

『…鬼?』

 

『ええ。鬼子母神っていう本物の鬼と…なんて言えばいいのかしら…敢えて言うなら、鬼畜…かしら?輝夜なんか格好のカモなんだから…気をつけなきゃ駄目よ。鬼子母神みたいな常識の通用しない相手には、いちいち驚いてたらキリがないから…

 

…まぁ、もう会えないけれど…』

 

 

その時の永琳の顔は、とても印象深く輝夜の脳へと保存されていた。

 

───────────────────────

 

 

「…ッ!!まさか、あの時の『二人』って…!!」

 

 

輝夜はその時、二人が怒っていた真意をようやく理解した。もしもあの時の××の言葉が本当ならば…本当に月人が、妖怪相手にそんな仕打ちをしていたと言うのなら。

 

 

もしも太古の昔、永琳を助けた妖怪の正体が…あの、輝夜の常識を変え、価値観も変え、心すら塗り替えてしまった原因であるあの二人ならば?

 

『鬼子母神』は…月人として膨大な年月を生きた輝夜より、更に昔から生きている事になる。

寧ろ、あの鬼二人が核爆弾如きで死ぬ筈が無い。

 

 

「…そういうことなら、いける。これなら、ここに永琳が入れば…月になんて、帰らなくても済む…!!」

 

 

 

 

月人と因縁のある、霞と紬。

 

…そして、その二人と縁のある…輝夜と永琳。

 

 

 

輝夜の思考は先程まで、暗闇の中で彷徨って居たけれど…遂に、光明を得る事に成功した。これだけ数が揃えば、月の技術に勝てるかもしれない…!!

 

 

 

 

反逆の狼煙は上がった。

満月はもう、目の前に迫っている。

 

 




残り数話で回想を終わらせるつもり…

嗚呼、時間が足りない。

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