パチュリーの実験室にて
小悪魔はパチュリーに言われた事が信じられずつい聞き返してしまった。
「あ、あのパチュリー様…?わ、私つい聞き逃してしまって…もう一度言ってもらってよろしいですか…?」
小悪魔はパチュリーによって紅魔館に召喚された存在だったため、なし崩し的に呼び主のパチュリー仕事の手伝いとして主に図書館の司書として働いてきたのだが…今度の手伝いは毛色が違っていた。
「仕方ないわね…こあ。もう一度だけ言うわよ?今から湧かせる温泉の効能が知りたいからこの妖怪と一緒に湯船に使って頂戴?」
「聞き間違いじゃ無かった!?ど、どうして私が…はっ?!まさか治療って!?」
「あら、察しが良いわね。どうやらこの妖怪が湧かせた温泉は怪我や病なんかが癒されるらしいのよ…にわかには信じられないから証拠が欲しくって…こあ?逃げないで頂戴。もしそれが本当なら…私の喘息と、フランの心を蝕む狂気が、治るかもしれないのよ」
「っ…そっ…そう言われると……はぁ、わ、分かりました…入りますよぉ…」
パチュリーの喘息とフランお嬢様を出されてしまってはもう小悪魔は断れない。発作を起こして辛そうだったパチュリーと長い間地下の部 屋に幽閉されている幼い金髪の吸血鬼を思い出して、小悪魔は決意を固めたのだった。
「ん、話は終わったかい?取り敢えず3人用を作ったんだけれど…狭くは無いかな?個人的に効能を調べてくれるのは私にとっても助かるしね。あ、好きな時に入ってきてくれていいからね?」
そう言って温泉に腰をかけた霞はニコニコと微笑みながら、そのままパチュリーの部屋にある魔導書を眺め始めた。
「では入りますけど…というか、あの妖怪さんは服を着てるんだから、私も着てちゃあ駄目なんでしょうかね…?」
「…気持ちはわかるけど、ダメね。怪我の様子が知りたいから、とっとと全部脱いでほしいんだけど…あら?」
そこで、パチュリーは目の前の妖怪はお湯に使っているのに浴衣が濡れていないことに気づいた。何か気になるけど…まぁ、入るのが先だろう。
「分かりましたよぉ…ひーん、どうしてこんなことにぃー…パチュリー様ぁーあまり見ないで下さいぃー」
「ダメに決まってるでしょ?ホントに怪我を癒せるのかを見るんだから…」
涙目の小悪魔はそう言いながら服を脱いでゆく。パチュリーの目の前に小悪魔のスラリとした肢体が顕になった。
(目立った怪我は腕に擦り傷と顔を庇った時についた手の怪我位かしら……後はほぼ煤けてるだけね。それにしても私より胸が大きいのは
何かとムカつくわ…)
小悪魔はパチュリーよりも背が高く、胸も大きい。普段から図書館の司書以外にも掃除や本の片付けなどかなり動いているため健康的な身体をしていた。
逆にパチュリーは日がな一日引きこもって本を読むか魔法の研究をするかといった動かない日常を過ごしていたせいか、背丈はさっきの魔理沙ほどしかない。胸はそこそこあると自分では思っているものの
…小悪魔には勝てるとは思えなかった。
「そ、それでは入りますね!失礼します!」
「どうぞ、ゆっくりと傷を癒してくれ。」
そう、霞に言われた小悪魔は恥ずかしさに悶えながら霞の隣へ座って
怪我をした手のひらを眺め始めた。
「うぅ〜ッ…男の人と入浴するなんて初めてなんですけど…か、霞さんは、今までにどれくらいの異性と入ってるんですか?」
(…私が恥ずかしがってるのがおかしいのかな…?霞さんさっきから全然胸とか見てこないし…男の人って、皆直ぐに見てケダモノになると思ってたのに。私、それなりに身体には自信あったんだけど…)
そんな事を考えつつも、さっきから小悪魔の身体を全く見ようともしない霞へと話しかける小悪魔。
小悪魔は力はそこまで強くなくとも一応、悪魔である。そのため色恋の話なんかは特に好んでいて、男についても詳しかった。もしかしてこの人は同性愛的な感性を持ってるのかと小悪魔が疑い出すと
「…小悪魔。君は考えてることが顔に出るタイプなんだね…何か、失礼なことを考えてないかな?」
霞に言い当てられてしまった。
「そ、ソンナコトナイデスヨォー?」
「まぁ、小悪魔のような美人さんに対してこんな反応をしているとそう思われても仕方ないかもしれないけど…あぁ。小悪魔はとても魅力的だと思うよ?けれど私はこんな風に数え切れないほどの人や妖怪と
一緒に入ってきたものだからね…まぁ、慣れるものだよ」
「そ、そうなんですか………えへへ…魅力的……あ、そう言えばさっきからどの棚の魔導書を見てるんですか?」
お世辞抜きで素直に褒められた為、恥ずかしいけど嬉しく思った小悪魔は先程から、壁に並べられている魔導書を眺めていた霞へそう話しかけた。
既に、自分の手の怪我が治っていることにも気付かずに。そのまま小悪魔は霞との話に積極的になっていった。
★
それを見ていたパチュリーは目の前の事態について驚きつつ、考え始めた
(…あれだけ自分の裸を見せる事を恥ずかしがっていた小悪魔がもう笑顔を見せてるなんて…それに、寧ろ自分から話しかけている…一体どういう事なの?
…彼がなにか別の能力を使った気配もしなかったし…それに、怪我が治っている所も見れたから彼の言っていた事は信じるに値するわね……というか、彼の色欲とか性欲は一体どうなってるのよ…)
そう結論づけたパチュリーは魔導書を机に置いて、ゆっくりと自分の服を脱ぎ去ると…仲良く話し込む2人へと近づいた。
「私も入らせて貰っていいかしら?」
霞が振り向いた先には顔を赤く染めて裸で立っているパチュリーがいた。小悪魔がはっ!と声を上げると
「パ、パチュリー様!?少しはお身体を隠したら……ってあ…私、人の事言えないですよね…」
再び顔を真っ赤にした小悪魔を見て霞はパチュリーに返事をした。
「あぁ。いらっしゃい、パチュリー。喘息に効くのかはまだ分からないけど…多分、癒す事は出来ると思うんだよ」
「えぇ…どうやらこあの怪我はもう治ってるし…能力については信用しているわ。私的には裸を見せる事に抵抗があったのだけれど、こあの反応を見る限りだと…貴方は変な事をするどころか視線すら女体へ向けないしね………ねぇこあ?貴方、どうして既に霞へ心を許しているの?」
「え、あ、それはその…」
そう聞かれた小悪魔は霞の方をチラリと見る…
目が合った霞は先程のように微笑みを返してきた。
「えーっと…自分でも分からないんですけど…なんだか話しているうちに自分の心がじんわりと温められてきたような気がして…気がついたら、こんな感じに…?最初にあった不快感がもう無くなってて、何だか自分でも不思議なんですよねー…」
最初に霞を見た時はいかがわしい妖怪だと思って怒っていたのに…今は自分が裸になって一緒に温泉に入っていた。でも、不思議と嫌な気分ではなく、むしろなんだか心地よい気分になっていた。
「そう…なら私も隣へ失礼するわ。そこにいた方がなんだか効果がありそうなのよね…あ、でも私はこあ程魅力的な身体じゃないから見ても楽しくなんか無いわよ?」
自分で言って少し凹むがまぁ、男の霞から見ればパチュリーの胸は
多少の谷間がある程度の普通な胸だし…さらに普段は本ばかり読んでいるためオシャレなんかに興味が無く、お肌のケアや髪の手入れも怠っていたので女としての魅力は欠けているだろう…そんな事を思っていると霞はそんなパチュリーを諌めるような目をして口を開いた
。
「…そんなことは無いと思うよ。それに私には女性の身体を楽しむなんて事にはあまり興味が湧かなくてね…そんな風に自分を卑下するよりも折角温泉に入ってるんだから…心身共に癒されてみないかい?」
「…ん、それもそうね。こんな温泉に入るのも生まれてこのかた経験したことも無かったから…折角だし、堪能させて貰おうかしら?」
何か吹っ切れた様子のパチュリーは霞を見てふっと、笑うと霞へと寄りかかって温泉に意識を向け始めた。
じんわりと身体を温めてゆくお湯は魔法研究で疲れた身体や煮詰まった研究により荒んでいた心を癒してゆく。小悪魔の方を向いてみると
「パチュリーさまぁ〜…極楽ってここにあったんですねぇ〜」
「こあ…貴方悪魔なのに極楽なんて…ボケているのかしら?全く……ふふっ」
パチュリーの頬が緩み笑い声が零れだした。それを見た小悪魔は
「あっ!み、見ましたか霞さん!?今のパチュリー様すごく可愛くなかったですか!?普段はあまり笑ってくれないんですけど…あ〜レアショット逃しましたね…カメラ持ってくれば良かったですぅー…」
「ちょっと、なんで笑っただけでそんなこと言われないといけないのよ…これは温泉が気持ちよかったからよ。そう。」
「あーんまたそんな事言ってー…霞さんも何か言って下さいよー」
「仲良く話すのはいいんだけどね…どうして2人とも私の方にしなだれかかって来るんだ?それに小悪魔…腕を抱きしめられると身動きが取りづらいんだが…」
パチュリーが小悪魔を見ると霞の腕を抱きしめて顔と胸を擦り寄せていた。
むぎゅむぎゅと形を変える豊満な胸を見て、折角温もった心が冷めていくパチュリーを他所に小悪魔は満足気な顔を向けて
「えー?でも私霞さんならもうこんな事しても恥ずかしく無いですよ?最初は勿論出来ないと思ってましたしというか考えてすら無かったですけど…霞さんはには邪な視線も向けられてないし、そもそも女として見られてなさそうですし…それは何か女として複雑なので…私、こう見えて悪魔ですし!ちょっと誘惑をしてみました!」
「流石に故意に胸を当てるのはやめてくれ…ほら、パチュリーの顔から表情が無くなってるし…それに誘惑するのはサキュバスじゃないのか…?」
「私的には霞さんなら…ヒッ!?パ、パチュリー様!?どうして魔法の詠唱を…!?えっ嘘です嘘です冗談ですって多分パュリー様のそのお胸でも霞さんの腕は挟めきゃああああ!?」
小悪魔の顔面に弾幕が直撃する…気絶して浮いている小悪魔を端へ寄せるとパチュリーは霞の腕を抱きしめてみる…
柔らかい感触が霞の腕を包んだ
「…ど、どうかしら?」
「ノーコメントでお願いするよ…取り敢えずはこれで勘弁してくれないか?」
そう言って霞はパチュリーの艶やかになった髪を広い手で撫で始めた。
(…あぁ…この年で頭を撫でられるなんて恥ずかしい……こんなのいつ以来かしら?というかこあに触発されたからって私は一体何を…!?)
さっきしたことを思い出して思わず顔の熱が上がったパチュリーは
顔を湯船に沈める…そこで気づいた。自分の肌や髪が普段よりも瑞々しくなっている事に。
「ねぇ霞…どうやらこの温泉の効能には怪我や病だけじゃなくて、お肌や髪にまで効果があるらしいわよ…?」
今のパチュリーの肌や髪の毛は普段とは比べ物にならないほどに艶々していた。艶々とした自分の髪を見ていると、夜の女性達がお洒落に気を使うのも少しわかる気がしてしまう。
「へぇ…そんな効果もあったのか…それはお役に立てたかな?」
「ええ。むしろこちらがお礼を言いたいほど助けられちゃったわね……ありがとう、霞」
「どういたしまして。…そろそろ上がろうか?」
そう言われてパチュリーはかなり温泉に浸かっていたことに気がついた。急いでこあを起こすと
「うーん…はっ!?パチュリー様!さっきのはちょっとした言葉の綾で…ってあれ?何だかさっきまでと雰囲気が違うような…?」
「…なんでもないわ。それは後にして…とりあえず上がるわよ?そういえば弾幕ごっこで倒れた本棚がまだ残っていたでしょう?」
「そ、そうでした!すぐに上がりますね!」
2人がお湯から上がると霞が風呂に妖力を流し始める…
それを見ていた2人に霞の羽衣が巻きついてきた。
「ちょ、ちょっと霞…ッ!?これは一体…じ、自分で拭けるわよってそこは…ッ!」
「ひぃぃぃぃ!!!この羽衣何だかとってもスベスベしてて…んッ…
な、何だか気持ちいいですね…ってあッ!?そ、そこはダメですよぉ!!」」
「「ひゃぁぁぁあッ!?」」
ものの数分ですべての水分を拭き終わり羽衣が離れていった瞬間2人はペタンとゆかへ座り込んだ。そこへ服を持ってきた霞からすぐに服を受け取って着替えた2人は霞へと説明を求めた。
「ちょっと霞!?今の何よ!?あ、あんな所まで勝手に拭いて…!!」
「酷いですよぉ霞さん!せめて最初に説明してくれてたら、心の準備をしておけたはずなのにぃ!」
それを受けた霞は首をコテりと曲げて、不思議そうな目で二人へと答える。
「あぁ…私は昔から森の中で色々な人と湯に浸かって来たのだけれど…皆、身体を拭くものを持ってきていなくてね?最初は羽衣を貸していたんだが、ある時、知人の妖怪に拭いてくれと頼まれてね…いざ拭いてあげるとかなり好評の様でそれ以来ずっと私が拭くようになったんだよ…
まぁ、なんていうか、習慣?みたいな物だと思って欲しいんだけどね?羽衣が勝手に動いてしまってね…まぁ、何度か経験すれば慣れると思うよ」
(…確かに気持ちいいとは思ってしまったけど…流石に、恥ずかしいわよ…ッ)
パチュリー達は渋々引き下がると、それぞれの用事をする事にした。
「それでは私は図書館の掃除をして来るので…霞さんはこれから何時でもここに来てくださって構いませんからね!それでは!」
そう言って小悪魔は図書館の方へと飛んでいった。
残されたパチュリーも霞へと向き直る。
「まぁ、今の私って凄く体が軽いのよ…それに肌ツヤなんかが良くなってるのを見ると、世の女性達がこれを維持したくなるのにも頷けるわ…本当に、ありがとう」
その笑顔は、暗く光の入りづらい部屋でも輝くように見えたのだった。
「ああ。今後ともよろしく頼むよ……ん?」
霞は部屋の前に誰かの気配を感じ取った。すると、ドアがノックがされて十六夜咲夜が入ってきた。
「失礼しますパチュリー様…ここへ霞様が居ると小悪魔から聞いたのですが…あら、目の前にいましたか。お嬢様が及びになっていますのでご同行して頂けますね?」
「ほぅ…?それはいいね。吸血鬼に会えるのなら喜んで行かせてもらうよ…」
そう笑う霞に対してパチュリーは
「レミィが人と会うなんて…珍しいわね。
…ねぇ咲夜?この客人は私と友人になったから…丁重にもてなしてあげて頂戴?」
「友人…ですか?…分かりました。なるべく丁重におもてなしさせて頂きます…しかしパチュリー様?雰囲気が少し変わっているようですが…どうされたのでしょうか?」
昨夜の知っているパチュリーという少女はもっと暗く、清潔感や口数も少なくてお嬢様以外に「友人」など作るとは考えられなかったのだが…
「ん…まぁ、あなたも多分その内分かるわよ…この妖怪はこの紅魔館を良くしてくれる……そんな気がするのよ。」
今まで見たことない程に柔らかく微笑むパチュリーを見て咲夜は霞を見つめた。見られていると分かったのか霞は微笑みをこちらへと向けてきた。
「…それは今は置いておきましょう。今はレミリアお嬢様が呼んでいるので早く、こちらへ付いてきて下さいませ」
「ああ、分かってるよ。それじゃあまた会おうね、パチュリー?」
そう言って2人は部屋を出ていった。
それを見届けたパチュリーは
「霞…か。私の喘息に効いたのか確証は無いけれど…あの温泉に浸かればフランの狂気も本当に抑えられるかもしれないわね……」
そう呟いた後
さっきまで煮詰まっていた魔法の研究を再開した。
「あ、ここでこの詠唱を入れれば良かったのね…それならこの触媒を…」
その研究はさっきまでとは違い、スラスラと答えが思い浮かんだのだった。