赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい! 作:倉崎あるちゅ
前回の話で触れた過去のお話をちょろっと。実際これやりたいがために作った回なのでプロットなんて作ってません。なので支離滅裂かもしれませんがよろしくお願いしますm(_ _)m
誰かのヒーローになりたくて
懐かしい夢を見た。
それはまだ俺が小学生の頃の事で、あの頃は暇があればいつも人助けできないかずっと考えていたし、歩き回っていた。
親の海外出張を機に、俺は北海道に住む祖父母の家に預けられる事になる予定だった。
大好きなこの街から離れるのが嫌で、祖父母が迎えに来る前に家を飛び出して人混みの中へ行こうとショッピングモールに向かった。
ショッピングモールで人混みに紛れていると、困ったような声が聴こえてきた。人助けをしていたから、そういう困った声、嗚咽、悲鳴などには敏感だったからだ。
「ど、どうしよ……。──とはぐれちゃったし、ママとパパとも……」
はぐれちゃった、の前に誰かの名前を言ったようだが生憎と聴こえなかった。
幼い俺はその声の主を探し出す。
ほんの少し見回して、人混みの中で小さく立ち竦む女の子をすぐに見つけ出した。
栗色のウェーブがかかった長い髪の後ろ姿。それを見た俺は心臓が跳ねた。どこかで見た事があるようで、それが喉のところまで来ているのに思い出せない。
「ねぇ、君迷子? 大丈夫?」
「ふぇ……?」
幼い俺が女の子に声をかける。振り返る彼女の顔はモヤがかかっててどんな子なのかわからない。
「あ……あたし気付いたら、──と、ママとパパとはぐれちゃってて……」
「──って言うのは友達なのかな? まぁいいや! 探すの手伝うよ! どこではぐれたの?」
「ライオンの像があるとこ……」
「ライオン? ライオンなんてあったっけ……?」
ちなみに、今も昔もショッピングモールにライオンの像なんてあった事は一切無い。あるのは街の商店街で有名なマスコットキャラクターである、ピンク色の熊の姿をしたミッシェルという可愛らしいキャラクターの像だ。
「あー、もしかしてミッシェルかなぁ……あれ熊だよ」
「そうだったの? わかんなかったや」
「紛らわしいし、しょーがないよ!」
いや、どこが紛らわしいんだよ幼い俺よ。あれはどこから見ても熊だろ。
幼い俺は女の子の手を引き、ミッシェル像の周辺まで来た。
像を一周するようにして女の子の友達と両親を探す。
「うぅ……どこにもいないよぉ」
「あー……きっと君の事を探してるんだよ! もしかしたら入れ違いかも! 他のところ行こ! お昼ご飯どこで食べたの?」
「和食のお店……」
「和食……えーっと……あ、あそこか」
女の子が言う和食の店を案内図で確認した幼い俺は、泣きそうな雰囲気のある女の子を元気付ける。
「大丈夫! おれがちゃんと見つける! 冒険してる感じで楽しいよ!」
「でも……」
「ほーら、これで涙拭いて……うん、OKだね」
女の子の目元をハンカチで拭い、幼い俺は彼女の手を優しく引いてニヒヒ、と笑って言った。
「──ノリノリでいこーぜ! 楽しくさ!」
この頃でも使ってたんだな、この口癖。
中学に入ってあまり使う機会が無かったが、ここ最近使う頻度が高くなってきた気がする。
幼い俺の励ましが効いたのか、女の子は幼い俺の手を強く握る。
「うん!」
その時の女の子の表情は、きっと満面の笑みだったと思う。
──そうだ。俺は、誰かのヒーローになりたくて……。
♪ ♭ ♪ ♭
ピピピピピ、と携帯でセットしていたアラームが部屋に響く。
布団から手を出して携帯を探る。少し離れたところにあって、手を伸ばしてどうにか携帯をとる。
アラームを切って、布団を退かす。
「……ふわぁ……」
時刻は十時半頃。
本日は休日で、バイトもない。
楽器店に行ってベースの弦を見て回るのも良いし、このまま家にいて読書を楽しむのも良い。
──とりあえず朝飯食べよう……。
寝惚けた頭で考え、部屋から出る。後ろからナウがついてくるのがチラリと見えた。
階段を降りてリビングに行こうとドアノブに手をかけた瞬間、家のインターホンが鳴り響いた。
「……誰だ、この時間から?」
まだ寝惚けている頭で考える。
荷物なんて頼んでないし、海外にいる両親から荷物が来るなんて連絡を受けていない。
つまり誰か訪問しに来たのだろうが、誰か来るなんて連絡もない。新聞だろうか。
とりあえず応対しなきゃな………………眠い。
「はーい、どなたですかー」
間の抜けた声が出た状態で玄関の扉を開ける。
新聞の勧誘なら速攻で扉を閉めてやろうと思いながら開けると、そこにはいつも通りにオシャレに決めたリサの姿があった。
「……リサ? どーしたんだこの時間から」
太陽の日差しが眩しくて、目を細めて彼女を見る。すると、リサは苦笑いを浮かべた。
「いやぁ、友達と遊ぶ予定だったんだけどさ? ドタキャンされちゃって。……というか、ショウ今起きたでしょ?」
「あぁ、さっき起きた。これから飯食べるとこ……」
「へぇ……寝起きのショウってこうなるんだー♪ 友希那に少し似てて可愛いかも」
「可愛くねぇ……」
ニマニマとした笑みを浮かべるリサを家の中に通す。冬に入り始めたため、寒いのであまり玄関外で話すわけにはいかない。
おっじゃましまーす♪ と上機嫌に彼女は家の中に入る。
「ドタキャンされてなんで俺の所に? 友希那はどうしたよ?」
「友希那は今日ボイストレーニングあるからって」
「他の友達は?」
「皆用事」
「家で大人しく……」
「やだ、遊びたいじゃん? あ、その前にショウは朝ご飯食べなきゃだね。アタシが作ってあげるよー♪」
俺の言葉など聞かずに、彼女はキッチンに向かっていった。
もうどうでもいいや。
冷蔵庫開けるねー、と言われたので適当に返事をする。
「ショーウ? 冷蔵庫空に近いんだけどー?」
「あー、昨日使い切る感じで作ったからな……」
「じゃあ、朝ご飯食べて、遊んで、帰りに夜ご飯の買い物しなきゃね♪ 夜も作ってあげるよ」
「いや……そこまでは……」
「いーからいーから! 朝ご飯作っちゃうからショウは歯を磨いて顔洗ってくる事! あ、あとは服も着替えてきてよねー」
何時からかはわからないが、最近リサは良く俺にお節介を焼く事が多くなった気がする。
実際、たまに弁当をくれる時とかすごく助かっているのであまり強く言えないでいる。今日だって朝飯を作ってもらう事も助かっているわけなのだし。
ただ、注意事項がある。
あまり連続でリサの料理を食べると、次に自分の料理を食べるとガッカリするし、また食べたくなってくる。そこが怖いところだ。
──今日は一日暇だし、リサに付き合うとするか。
歯を磨いて顔を洗い終えた俺は、リビングに戻ってキッチンで手際よく調理している彼女の後ろ姿を見つめる。
ハーフアップに結われた栗色の髪がゆらゆらと揺れている。
そういえばナウは何処に行ったのだろう。
そう思って周りを見ると、いつもナウがご飯を食べる場所で嬉しそうに尻尾を振りながらご飯にありついていた。
「ありがとな、ナウにご飯あげてくれて。……あれ、ご飯のある場所知ってたのか?」
「いーよ、別に♪ 場所は何回か来てるし把握しちゃったなー」
なるほど。なら、何かあった時とかリサに鍵預ければナウにご飯あげられるな。
ふむふむと納得していると、キッチンから出来たよー! というリサの声が聴こえた。
テーブルに着くと目の前に置かれている白米と豆腐とワカメの味噌汁、昨日の残りのおかず。
おかずは昨日の残りのはずだ。にも関わらず俺が作った時より美味しそうに輝いて見えるのは何故だ。
「いただきます」
「はーい♪」
♪ ♭ ♪ ♭
すごく美味しかった。特に味噌汁。
俺は味噌汁は薄味が好きなのだが、見事に俺の好みの味を突いてきた。はなまるをあげたいレベルだ。
少し多めに作られた味噌汁は底を尽き、俺の胃袋へと消えた。
「すげー美味しかった。ごちそうさま」
「あはは、凄い食べっぷりだったねー! お粗末さまでした♪」
嬉しそうに笑ってリサは空いた食器を下げる。
流石に食器洗いまでやらせるわけにはいかないので、男のプライドに賭けて俺がやることにした。
食器を洗い終えると、リビングのテーブルにはホットコーヒーが置かれていた。
「コーヒーまで……いつの間に……」
リサの事だから、腹を落ち着かせたら遊びに行こうって言うんだろうな。
果たして俺の予想は的中し、腹を落ち着かせて遊びに出る事になった。
秋風が頬を撫で、羽織ったテラードジャケットがふわりと靡く。
「それで、どこに行くんだリサ」
「んー、まずはアクセショップかなー? その後は服見たいな♪」
「服か……俺も新しいジャケットとか買わなきゃな……」
「あ、じゃあアタシがショウの服コーディネートしてあげるよ♪ 普段とは違う感じでいいんじゃない?」
「そうかもな。じゃよろしく」
「リサ姉に任せなさい!」
機嫌よく張り切る彼女はショッピングモールのアクセショップに向かって歩きはじめた。
……リサ姉ってなんだろう。
疑問に思って訊いてみたら、後輩がそう呼んでいるらしい。その後輩の名前が
「ゲームが好きみたいでさ、アタシはよく分からないんだけど、闇の力がーとか言ってるよ」
「……へ、へぇ」
嫌な予感がビリビリ来たのは気のせいだな、うん。
聖堕天使あこ姫とかいう厨二発言を良くするフレンドなんて知らない。
リサと一緒に遊べたのは楽しかったが……まさか、あこ姫について知る事になるとは思ってもみなかった。