赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい! 作:倉崎あるちゅ
リサがベースをやり直すと決意して数日後の休日。
前使っていたベースは友希那のお父さんが持っていた物で、自分の物はないというリサにベースを貸し出すため、現在いる場所は俺の家だ。
数ヶ月間も俺の家を出入りしているからか、リサの足取りは軽快そのものである。勝手に冷蔵庫を開けてはあれがない、これがない、と文句を垂れている。練習が終わったら買い物に行くそうだ。もちろんついて行くとも。俺の晩御飯と弁当のために。
すっかり胃袋を掴まれてしまい、料理関係ではリサには逆らえない。
いつも作ってもらって悪いなと思っていたし、今回のベースの練習はそのお礼とまではいかないけれど、何かの足しにでもなれば、と思う。
「どのベース使いたい? 結構種類あるけど」
「んー、どんなのがいいんだろ……?」
防音室に入った俺達はベースが置かれているスペースに行き、リサに合いそうなベースを探す。
家に置かれているベースは、ボディの形がオーソドックスなものから異形のものまで幅広く、種類は大まかにジャズベース、プレシジョンベース、PJタイプベースといったものがある。
俺のお気に入りはミュージックマンのスティングレイ、ESPのFOREST-STDとBOTTOM BUMPだ。
スティングレイは高音にクセがあって弾いている時、あの音が好きだ。ESPは形も音も好きで、親も使っているため愛着がある。
リサはうーん、と悩みながら手にしたのは俺のお気に入りのBOTTOM BUMP。
「それにするか?」
「そうだね〜。友希那のお父さんに借りてたやつもこういう形でこのメーカーだったと思うし、扱いやすいから」
「そっか。じゃあ、調整したら早速練習しようか」
「はーい♪ お願いします先生♪」
リサが可愛らしくウィンクして言うので、調子に乗るなと意味を込めて額を指で弾く。あはは、と額を押さえて彼女は笑った。
俺もお気に入りのベースを取り出してスタンドにかけ、エフェクターやアンプなどの機材を準備する。
今回俺が使うのはFOREST-STD。ボディの形が特徴的でカッコイイベースだ。それの紅色。リサが今肩に下げているBOTTOM BUMPも紅色だ。
「おおー、様になってるね〜」
「そうか? リサこそ、いい感じじゃないか?」
「えへへ、そうかな?」
互いにベースを持つ姿を褒める。中二の頃に辞めたとは言っていたが、やはり体は覚えているのか構え方が慣れている。
それに、紅色のベースがリサに合っていると思った。
二人で準備をしていき、早速練習を始める。
ブランクがあって初心者に近いという事を自覚している為、最初は基礎練習から始める。
しばらく基礎練習をし、そのあとに次のステップ、それが終わればまた次と、ハイスピードな練習を休憩を挟んで行われた。
ここでわかった事は、本当にブランクがあるのかと聞きたくなる程だ。それ程リサのレベルは高い。
「ふぅ。少しは弾けるようになったかな?」
「少しどころじゃないぞ。お前本当にブランクあるの……?」
リサの言葉に思わず口に出してしまう。すると彼女はホントだよー! と反論してきた。
まぁ、確かに細かいミスや遅れはあったけど、これならあと数回練習したら友希那も認めるくらいの実力になると思う。
視線をリサから手元の手帳に移して、あらかじめ彼女から渡された予定と自分の予定をすり合わせて確認する。
あことのセッションは来週の休日。明日はリサが朝から部活でお昼には予定が空くからその時に練習をしよう。リサには辛いとは思うが、その分彼女には甘い物などをあげよう。それしか出来ない。
手帳を閉じて足元に放る。すると、ベースを鳴らしていたリサがそういえば、と口を開いた。
「アタシ、ショウの演奏聴いた事ないかも。友希那からは聞いたりするけど直接はまだじゃない?」
「あー……そうだな。簡単なヤツだけど、聴くか?」
「聴きたい!」
マジマジと見つめて即答され、俺は苦笑いを浮かべる。ベースを構え直してこの前友希那が歌っていた曲を弾く。
あまり長くやっても意味もないし、Aメロをやって終わる事にする。
ギターよりも太い弦が指に触れ、振動し、ベース独特の低音がアンプから流れて防音室に響き渡る。その音は形を作り曲となった。
サビもアウトロも終わり、弦から指を離してリサの方を見ると口を開けて固まっていた。
「り、リサ? どうした?」
「……」
おーい、と彼女の顔の前で手を振るが反応を見せない。
しばらく続けていると、ハッ、と我に返ったのかリサが俺に詰め寄ってきた。
「なに今の!? ショウって本当にアマ!? プロの間違いじゃないよね!?」
「お……落ち着けよ。俺はプロじゃないし、今のだって基礎固めてたら出来る事だから……」
近過ぎるリサの肩を抑え、椅子に座らせる。それでもまだ興奮が冷めないのか、何故そんなに弾けるのか、どんな練習をしているのかしつこく訊かれる。
「前にも言っただろ、親がベースやってるって。昔から弾いてる姿見てきてたし、それをただ真似てるだけなんだ」
海外に行っている両親は今頃、どこかでライブをやっているのだろう。俺の母親はそれなりに有名なベーシストで、父親もマネージャーとして母親の所属するバンドを支えている。そんな二人に憧れてベースを始めて母親の真似をしてきて今に至る。
そう、真似ているだけ。中身が無くて空っぽ。そこに俺の
「それでもだよ! すごいじゃん♪ プロ顔負けの実力だよ! 友希那が最初誘ってた理由がわかる気がするな〜」
けれど、笑顔でそう言われると悪い気はしない。
「アタシもショウみたいに弾けるように頑張るぞ〜!」
いつか、自分の
頑張るぞ、と意気込むリサを見て俺はそう思った。
♪ ♭ ♪ ♭
数日後、ついにやってきたあことのセッションの日。場所はライブハウス『CiRCLE』。そのスタジオ内では、一生懸命練習したのか、ボロボロのスコアを握ったあこと、俺のベースが入ったケースを背負うリサ、困惑気味の友希那と紗夜の姿がある。
俺は機材のセッティングをしている。一年間やってきたから手際も良くなって、こうしたらもっといい音が聴こえるんじゃないか、など視野が広くなってきた。角度とか気にしたら何時間かかるんだか。
……決して友希那の視線から逃げてるとか、そんなのではない。違う。違うったら違う。
「ショウ、ベーシストを連れてくると言っていたけれど……。まさか、リサなの?」
「…………」
友希那がリサと俺を交互に見ながら言う。そんな彼女をリサが不安そうに見つめる。
「あぁ、リサなら友希那との相性もいいし、友希那だってリサの性格も知ってるから何かとやりやすいと思って」
「確かにそうね。……でも、それとこれは別よ。リサがベースをやってた事は私がよく知ってる。けれど、中学二年で辞めたからブランクだってあるわ」
友希那が首を振って厳しい意見を言う。俺もそれには同意見なのでひとつ頷く。
「確かにこの前リサと練習したけど、その時はブランクもあって初心者みたいだった。でも、基礎は固めたし技術も短い間だが身に付けた」
ちらりとリサを見て視線を友希那に戻す。
「リサなら大丈夫だ。俺が保証する」
ハッキリとした声でリサなら大丈夫だと、強い意志を込めて友希那の目を見て言った。
友希那と見つめ合う事数秒、彼女の方が折れた。はぁ、と息をついてほんの少し微笑む。
「まぁ、ベースに関してはショウに一任していたし、何も言わないわ」
それを聞いて俺とリサは互いに顔を見合わせ、やったー! と興奮気味にハイタッチをした。そんな俺達を見た友希那はただし、と言葉を続ける。
「リサ、貴女もあこと同じで今日テストしてもらうわ。それでダメなら……」
「うん、わかってるよ友希那。元よりそのつもりだからさ♪」
そう言ってベースが入ったケースを背負い直す。
なんとか、リサをテストさせてもらう事が出来た。紗夜が何か言うんじゃないかとひやひやしたものだが、どうやら友希那が何も言わなければ彼女は特に口を出さないようだ。
「さ、機材のセッティングはOKだ。ほら、リサと紗夜はベースとギターにシールド刺して。友希那とあこはマイクとドラムの位置大丈夫か? 」
「はーい」
「わかりました」
「大丈夫よ」
「おおー! 凄い! 丁度いい位置!」
「そりゃよかった」
リサがベースを取り出し、シールドを刺す。その時に彼女の指を見たのか、慣れた手つきでシールドを刺した紗夜が口を開く。
「今井さん、でしたね。ネイルをしているようですが……」
「あぁ、これ? 大丈夫だよ、アタシ指弾きしないから!」
「爪を保護するためならネイルも手だな。割れやすい人とか透明のネイルをしてる人もいるし。現に俺もしてるぞ?」
「そうだったんですね。私はあまりそういうのは詳しくないので」
紗夜に自分の爪を見せると、感心したように頷いた。
「アタシのは少し長いからショウみたいに指弾き出来ないけどね〜」
アタシも短いやつにしようかな、と自身の手を見てリサが呟く。
それぞれ準備が出来たのでセッションを始める。イントロが始まり、歌が入り始める時に俺は一つの違和感を覚えた。
それは四人も思ったようで驚いたような顔をしている。
普通なら初めてセッションしたら互いに気を遣ったり遠慮したりして思う存分に弾けない事が度々ある。だが、四人にはそれがなく、逆に指が、手が自然に動き、声が出ている。ベースを弾くリサがこの前より上手くなっているようだ。
「「…………」」
演奏が終わり、友希那と紗夜が唖然としている。リサも驚きでフリーズしており、俺だって今まで感じた事の無いものだったのでリサ同様フリーズしている。あこは黙る皆を見て不安そうに友希那と紗夜を交互に見る。
「あの……皆さっきから黙ってるけど……あこ、バンドに入れないんですか?」
その言葉で俺と友希那、紗夜が復活した。
「あぁ、そうだったな。俺はいいと思うけど二人は?」
「そ……う、だったわね。ごめんなさい。いいわ、リサもあこも合格よ。紗夜の意見は?」
「いえ、私も同意です。ただ、今のは……」
「「いやったぁー!」」
困惑する紗夜の言葉を遮り、リサとあこが飛び跳ねた。
飛び跳ねるあこが興奮冷めやらぬ勢いで先程の演奏の感想を口にする。
「それにしても、なんか、なんか凄かった!! 初めて合わせたのに体が勝手に動いて! ねぇリサ姉!」
「うん! アタシもそう思ったよ! ショウとやった時も似た感じがあったけど、それ以上に凄かったよねっ♪」
「だな。今のは誰もが体験するものじゃないくらい珍しいものだ。人や楽器、技術、機材、コンディションではない、その時でしか揃い得ない条件下で奏でられる
一瞬、自分で言っていて羨ましい、と思ってしまった。
きっと俺がリサの代わりにベースを弾いていたら、ここまで凄い演奏は出来なかっただろう。ただ親の技術を真似て、ただ知識を叩き込んだだけの俺より、友希那を支えたいと思うリサだからこそ出来た事だ。
友希那と紗夜、あこもそうだ。誰か一人が別の誰かだったら出来ない事だろう。
「さーって、これであとはキーボードだけだな?」
「えぇ、そうね。私も探すからショウも頼んだわ」
「おう、任せておけよ!」
ネガティブな方向に行きそうだった気持ちを切り替えて、俺はニヒヒ、と笑う。
後はキーボードのみ。ライブハウスで探すのは効果が薄そうだから、ちょっとアプローチの仕方を変えるとしよう。
♪ ♭ ♪ ♭
翌日。俺は羽沢珈琲店にてコーヒーを飲みながら、そこ店員──
つぐみはピアノを七年やっており、キーボードは三年もやっている。それにAfterglowのキーボード担当だ。そんな彼女に、ピアノのコンクールで凄い人がいなかったかどうか聞いているところである。
「──てなわけで、誰かいないかつぐみ」
そう訊くとつぐみは、んー、と唸った。
短く切られた栗色の髪が首を傾げた際に揺れる。『ザ・普通』を体現するつぐみだが、こうやって人の話を聞く姿勢は俺も見習う程だ。誰に対しても真摯に接してくれる。あの雨河さんにでさえしっかり接するからな。その性格もあってか、学校では生徒会をやってるみたいだが、モカやひまり、雨河さんに無理するなと釘を刺されているようだ。
「いなくはないんですけど……」
「ですけど?」
「聞いたところによると、その人引き籠もりらしくて」
「あー……んー……他いる……?」
引き籠もりはまぁ、リサやあこが無理矢理連れ出しそうだからいいけど、友希那や紗夜がそういう人をバンドに入れる事を許すかどうかだな。実力があればいけるとは思うけど。
「他だと……んー」
少し唸った後、何かを思い出したのか、ちょっと待ってて下さいと告げてつぐみは奥に引っ込んだ。
待ってる間に冷めかけているコーヒーを飲み干すと、ちょうどつぐみが本を手にして帰ってきた。
「お待たせしました! これなんですけど……」
「ん?」
開かれた本の中は写真が入っており、アルバムになっていた。つぐみが指で指し示す写真を見る。
「これ、私が大賞を逃した時なんですけど、その時に大賞になった人の写真なんです」
ステージに並ぶ数人の少女達。その中にはつぐみの姿もある。入選はしたのだろう。悔しかったんだろうなと思いつつ、つぐみの指先に目を移すと、俺はガバッと立ち上がった。
「わわっ! ど、どうしたんですかショウさん……?」
急に立ち上がった俺に驚いて、つぐみが後ずさる。
だが、俺はそれよりも写真に写る大賞になった少女に意識が持っていかれていた。
長い艶やかな黒髪、大人しそうなアメジストの瞳をした肌の白い少女。
その少女は──
「──燐子?」
ついこの間リアルで出会ったNFOでのフレンドだった。
ネイルの話ですが、ただの個人的な意見です。この間仲のいい作家さんから、保護用にネイルすると野球でピッチャーやってても割れないよって聞いたので。(話の大元は私の右手の親指の爪が仕事の都合上、ふやけてミルフィーユみたいになったからです)
リサとあこのテストはすみません、ほぼ原作コピペのようになりました。運営からメッセ来ないといいけど……
では皆さん、失礼します!
※活動報告にてアンケートを設けました。内容はそちらにてご確認ください。