赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい!   作:倉崎あるちゅ

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少し遅くなってすみません。ちょっと難産でした。それと体調不良が少しありまして。すみませんでした。




八曲 BLACK SHOUT

 ついにやってきたライブ当日。

 アタシはついこの間届いたベースが入ったケースを背負い、ライブハウス前まで着ていた。……着いて、いたんだけど……ガチガチに緊張して若干脚が震えてる。燐子も緊張してるみたいで、隣でぷるぷる震えてる。

 そんな中、一緒にいるあこがすごいやる気を見せている。

 

「うん。ついに当日だねっ。ほらりんりん、このボード見て元気だして! あこ達のバンド名だよっ!」

Roselia(ロゼリア)……そっか。友希那いろいろ考えてたけど、これにしたんだ〜」

「夜遅くまで名前に付き合った甲斐あっていい名前になったな……」

 

 はは、とショウが乾いた笑い声を出す。話を聞くとアタシのベース練習が終わったあとに友希那からの相談をずっと受けていたらしく、ここ数日の彼は疲れからか目の下のクマが酷い事になっている。

 ショウのおかげで新しいベースには慣れたけど、ライブ、上手くいくかな……。

 

「よーしっ! Roselia初ライブ! 行くぞー! おー!」

「「……っ! お、おー……」」

 

 緊張しすぎて反応が遅れた。

 

「って、えっ? りんりんだけじゃなく、リサ姉も緊張……」

「しっ……してない、してないよ〜……。ダンスの大会でも、一緒にステージに出てるじゃん? あははは……」

 

 とか言って、結構緊張してんじゃんアタシ……。はぁ……。緊張を紛らわせるために、緊張してないあこと、ライブをしないショウと話したいけどそろそろ時間もないし、そもそもショウは燐子と話してて話せないし。

 確かにさ? 燐子緊張してるし、緊張ほぐすのは大切だけどさ。アタシも緊張してるんだけど。しかもさ、なんか距離近くない? そんなに近い必要ないと思うんですけど。ちょっとは弟子に何かあってもいいんじゃないかな。

 

「……? どーした、リサ?」

 

 アタシの視線に気付いたようで、ショウがきょとんとした表情でこちらを向いた。アタシはふん、と鼻を鳴らしてライブハウスの方に顔を向ける。

 ここ最近、あこと燐子と接しているショウを見ると妙な気持ちになる。去年はあんなに楽しそうにアタシや友希那以外の人に話す事は無かった。どこか刃物みたいな雰囲気だったのが、段々今みたいに温かくて、それこそ昔アタシを助けてくれたショウみたいで、懐かしく思える。昔みたいになってくれた事を喜ぶべきなのか、それとも、今弟子であるアタシを放っておいて燐子と喋る事に怒ればいいのかわからない。

 

「さっ! そろそろ行かないとあの二人に怒られるよー!」

 

 アタシはその妙な気持ちを表に出ないように押し殺し、少し震える脚を動かしてライブハウスの中に入った。

 すると、アタシはこつん、と入口の段差に躓き、前のめりに倒れそうになった。しかも背中にはベースが入ったケースもある。普段から一緒に持って行くようにしてるけど、やっぱり慣れてないから体勢を整えることが出来ない。

 盛大に転ぶと思ったアタシは目を瞑った。

 

「よっ……と」

「え……?」

 

 転ぶ寸前に、お腹の辺りに腕が通された。アタシは不思議に思って隣を見ると、すぐ近くにショウの顔があった。

 

「っ……」

 

 ぎゅぅ、と胸が締め付けられるような痛みを感じる。毎回こうやって不意にショウに助けられたり、なにかあったりすると、こんなふうに胸が苦しくなる。

 

「転ばなくてよかったな。転んでたら一大事だ」

「ぅ、うん……。ありがとう……」

 

 ……だ、ダメだ。ショウの瞳から目が離せない。今のお礼の言葉だってやっと出せた。ホント、最近こういう事が多い。爪の時だって、ショウに手を握られた時は頭が真っ白になった。急だったし。

 ショウもこの距離に気付いたようで頬が赤くなった。

 

「リサ姉大丈夫?」

「今井……さん、怪我とか……ない……ですか……?」

 

 後ろにいるあこと燐子が心配そうに聞いてきてくれた。アタシはハッとなりショウから距離を取って後ろの二人に振り向いて笑顔を浮かべる。

 

「大丈夫だよー! ごめんね〜」

「よかったー! ショウ兄のファインプレーだね!」

「ショウくん……早かった、ね……」

「……いや、危ないなって思っただけだし」

 

 そう言ってショウは目を逸らして左耳に触れた。

 アタシとショウが顔を赤くしているなか、あこと燐子がライブハウスの中に入っていく。残されたアタシはショウの方に目を向けると、ショウもアタシを見ていたのか、お互いの目が合う。

 

「「っ……」」

 

 合った直後に逸らす。

 ちょっと、あこ〜燐子〜……気まずいから帰ってきてぇ……。まりなさんもニヤニヤしてるから帰ってきてぇ〜。

 

「……とりあえず、行こっか……」

「おう……」

 

 そう言ってアタシとショウは楽屋まで一緒に向かった。

 カウンターにいたまりなさんに青春だねーって言われたけど、アタシ達は無視した。だってショウとはそんなんじゃないし……。

 

 

 

 ♪ ♭ ♪ ♭

 

 

 

「遅いですよ、紅宮くん、今井さん」

「「ごめんなさい……」」

 

 将吾、リサが楽屋に入った直後、遅刻した二人に紗夜の叱責が飛び、二人は打ち合わせでもしていたかのように、綺麗に揃って頭を下げた。

 

「大丈夫なの、リサ。あこから転びかけたと聞いたけれど」

「大丈夫だよ☆ ショウが支えてくれたから♪」

「そう、ならいいわ。体調管理はしっかりして」

「うん、ありがと友希那、心配してくれて」

「……別に、心配なんて……」

 

 リサの言葉に、友希那は若干頬を染めて準備に戻って行った。それを見たリサと将吾は顔を見合わせて微笑む。

 

「わ……わたし……も、皆さんと……演奏するって……決めたから……が、頑張り……ますっ」

「口だけではなく、音での証明をお願いね」

「は、はい……! いっぱい……練習した……ので、自信……あります……!」

 

 まだ緊張している燐子は、その緊張を払い除けるようにやる気を示す。紗夜もやる気を示す燐子を見て、期待を込めてそう言葉を紡いだ。

 ──バンドで技術が足りないのはアタシだけ。……やるしかない。結果を出して、友希那の隣に……! そして、ショウといつか本気のセッションをしたいから……!

 ベースを取り出したリサがベースを真剣な表情で見つめ、心の中でそう誓う。

 すると、あ、とあこが思い出したように声を上げる。

 

「そういえば友希那さん、なんでバンド名、Roseliaなんですか?」

 

 ひと足早く準備を終えた彼女は、ドラムスティックを片手に荷物を整理する友希那にバンド名について問いかけた。

 

「薔薇のRoseと、椿のCamelliaからとったわ。……とくに青い薔薇……そんなイメージだから」

「イメージ……?」

 

 ──青い薔薇……花言葉は『不可能を為し遂げる』……だっけ。

 友希那とあこの会話を聞いていた燐子は青薔薇についての知識を掘り返していた。一方将吾は夜中まで友希那とバンド名について相談されていたため、意味を理解しており、彼女を見て微笑んでいるだけだった。

 

 

「ラスト、聴いてください。『BLACK SHOUT』」

 

 友希那のMCで、リサ、紗夜、あこ、燐子が演奏を始める。

 リサはついこの間届いた、真紅のベースを手にベース独特の低音を、ドラムを叩くあこと一緒に響かせていく。燐子の優しいキーボードの音が包み込み、紗夜の正確無比なギターの音が皆を先導する。その音に友希那の綺麗な歌声が合わさり、観客達は一気に歓声を上げる。

 

 ──わーいっ! もっと見て! Roseliaって超カッコイイでしょっ!

 

 ──不思議……あんなに緊張してたのに……わたし……凄く、楽しんでる……! ……これなら……変われるかな、わたし……。

 

 ──凄い……ショウと練習した時よりも上手く弾ける……! 二人で弾く時の楽しみとは違う、別の楽しさがある……!

 

 ──今井さんのベース、練習の時よりまた上手くなってる。宇田川さんも白金さんも……。この前よりももっと、()に引き寄せられる……!

 

 ──行けるかもしれない、このバンドなら!

 

 ──そうだ。これが見たかった……! 凄いバンドメンバーと、その音に合わせて歌う友希那の歌。このバンドなら、絶対行ける……!

 

 あこ、燐子、リサ、紗夜、友希那、そして将吾は同時にそう思った。このバンドなら行けると、そう確信めいた予感を抱いたのだった。

 この日、初めてRoseliaはライブをし、見事に大成功を収めた。これが、青薔薇のはじまりである。

 

 

 

 ♪ ♭ ♪ ♭

 

 

 

 ライブが成功し、あこがお腹が減ったと言ったのでRoseliaのメンバーと一緒に俺はファミレスに入った。それぞれ、手軽に食べられるポテトやサンドイッチなどの軽食類を頼んだ。

 

「あははっ! お腹痛い! あこ、もっかい、もっかリクエスト!」

「この……闇のドラムスティックから……何かが……アレして……我がドラムを叩きし時、魔界への扉は開かれる! 出でよ! 『BLACK SHOUT』!!」

 

 あこ、決してBLACK SHOUTは召喚魔獣ではないぞ。どちらかというと魔法系というか……別にいいかそんなの。

 にしても、この時間にファミレスに来るのは久々だな。いつもならリサの料理を食べてる頃だ。

 

「ほーら、友希那も紗夜も! 初ライブの記念なんだからさー! 二人もなにか話して話してー? ショウも! さっきから黙ってるなんてらしくないぞー?」

 

 おっと、少しボーッとしていたら目の前のリサに言われてしまった。ちなみに、席は通路側から、紗夜、友希那、俺。反対側は、燐子、あこ、リサの順だ。

 ドリンクバーで既に皆の分はコップにそれぞれ好みのジュース、お茶等入れてある。

 紗夜はお茶を少量飲んで口を湿らし、口を開いた。

 

「……湊さんが、こんなところに来るなんて意外でした。私はこういった、得体の知れない添加物系のメニューは受け付けませんので」

「! ……私だって普段は来ないわ。用がないもの。リサ、私がしたいのは音楽の話だけよ」

 

 ……果たしてそれは本当だろうか。俺は知っている。紗夜はファストフード店に出入りしていることを。友希那は俺やリサに誘われたら文句を言いながらついてくることも知っている。

 

「同感ね。……でも、ここはともかく、今日の演奏は良かった。今井さん、貴女、この短い期間でとても良くなったと思う」

「……! ほ、ホント? あ、ありがと。ショウが教えてくれたおかげだよ」

「いや、リサは飲み込みが速いから。全部、リサの実力だよ。俺は何もやってない」

 

 そう。俺は何もしてはいない。ただ、基礎練習を見ただけで、あとは彼女が精一杯努力した証だ。

 

「そうね。この短期間で、Roseliaの実力は確かに上がった。あこ、燐子、貴女達もよ。……だから、この()()で本格的に活動するなら……あこ、燐子……リサ。貴女達にも、そろそろ目標を教える」

 

 友希那の言葉を横で聞いていて、俺は疑問に思った。六人と言ったか、このボーカルは。おかしい。俺はRoseliaに入った覚えはないのだが。

 

「ちょっ……友希那、なんで俺が入ってんの……」

 

 会話を中断させ、俺は友希那に訊く。

 

「? ショウもRoseliaの一員よ。メンバーを集めてくれたり、練習の手伝いをしてくれたのも貴方のおかげじゃない。……だから、これからも、私達を助けて欲しい」

「私達は貴方のおかげで、こうして集まることが出来ました。どうか、これからもよろしくお願いします」

「あこ達もそう思うよショウ兄!」

「……うん」

「そうだね☆ ショウがいなかったらもっと大変そうだしさ、これからも……ね?」

「……」

 

 五人とも俺の目を見てそう言ってくれた。

 俺は、メンバーを集めたらそこで終わりだと思っていた。Roseliaに関わる事はもうバイトやリサのベース練習だけだろうと思っていた。しかし、五人ともそう思ってはおらず、これからも手伝って欲しいと本心で言ってくれている。

 ──俺も、

 

「俺も……皆と活動していきたい。改めて、これからよろしく」

「えぇ、よろしくショウ」

「やったね! じゃあ友希那、さっきの話に戻そ! なんて言おうとしてたのか気になるなー!」

「そうだったわね。簡単に話すわ」

 

 リサの言葉に友希那は頷き、先程話そうとしていた目標について語り出す。

 FUTURE WORLD FES.に出るための出場権を手に入れるため、次のコンテストで上位三位以内に入る事。そのためにはRoseliaの実力を極限までに上げること。

 次は練習メニューについてこれなくなった者は、その時点で抜けてもらう。ちょっと厳しいが、これは仕方ない。リーダーである友希那が決めた事だし、俺も一理あると思う。

 

「ふゅーちゃー……」

「……わーるど……ふぇす……?」

 

 その名前を知らないのであろう、あこと燐子が首を傾げる。彼女達には後で教えてあげよう。

 俺がそう思った時、友希那は少し息を吸って、小さく吐いた。

 

 

「あこ、燐子。……リサ。貴女達、Roseliaにすべてを賭ける覚悟はある?」

 

 

 

 




リサのモヤモヤとした心情上手く書けたか不安ですが、もう気にしない()


現在、新作で花音ちゃんの弟モノ書いてます。良ければそちらもどうぞ。まだ一話しか投稿してませんけど。

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