赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい! 作:倉崎あるちゅ
そして今回少し強引です。文字数も少ない……。
「それじゃお先に失礼しまーす! お疲れ様でした!」
「うん、お疲れ様〜! 気を付けて帰ってねショウくん」
「まりなさんも帰る時気を付けてくださいねー」
CiRCLEのバイトが終わり、まりなさんと他の先輩スタッフに挨拶をして、俺はRoseliaがバンド練習しているスタジオに向かって走りだした。
今日の練習はCiRCLEのスタジオではなく別のスタジオなので、こうしてバイト終わりに走ってスタジオに向かっているのだ。今日はあまり忙しくなかったから疲れてないが、疲れてる時に走らされるのは本当に厳しい。
しかし、練習に来なかったらリサと友希那からメッセージやら電話などで小言を言われる。それが最近、あこと燐子からも来るようになったのだから尚更行かねばならない。
しばらく走って、俺はRoseliaが練習しているスタジオに着いた。早速中に入ろうと近寄ると、中から人が出てくる。
ギターケースを背負った水浅葱色の長い髪をした少女──氷川紗夜が俺の目の前に現れた。
「紗夜? どうした?」
「っ! 紅宮くん……」
「あ、もしかして練習終わった? やば……また小言が……」
「……いえ、まだ練習していますよ」
まずい、と思った俺に、紗夜がそう言う。
安堵した俺だったが、ふと疑問に思った。練習しているのなら何故紗夜はここにいるのだろうか。具合が悪いとかなら早く帰してあげないとな。
「紗夜は? もしかして具合悪い?」
「……私は……その……」
そう訊くと、紗夜は珍しく歯切れの悪い返答をする。
彼女は目を逸らして俯く。俯く瞬間に顔が歪められたのを俺は見逃さなかった。
練習に行かなかったら怒られるけど、それよりも今目の前で苦しそうにしてるバンドメンバーを放っておくのはよろしくない。
「……少し、話さないか?」
なにか奢るぞ、とつけて誘うと紗夜は少し間を置いてコクリと頷く。俺は彼女の手を引き、スタジオから離れる事にした。
少し歩くと開けた広場に着いた。ちょうどそこでクレープを移動販売してるお店があり、そこでクレープを買う事に決めた。紗夜はクレープなんて、って渋ってたが、メニューを見るなり何にするか悩んでいる。
「……キャラメル、チョコレート、カスタード……んー……どれも捨て難い……」
小声で呟いてるけど、全部俺の耳が拾っているんだよなこれ。やっぱり紗夜ってファストフード店とかこういう店が好きなのかもしれない。
既に俺は頼むものは決めているため、あとは紗夜の注文を聞くだけだ。
「あはは、紗夜決まったか?」
「っ! ……えぇ、とっくに決まっているわ」
「いや、決まってなかっただろ。無理すんな」
強がる彼女にそう言うとプイっと顔を背けられてしまった。どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。
「…………ではチョコレートで」
「OK。……すみませーん、チョコレートと抹茶でお願いしまーす」
店員さんにそう注文して二つ分のお金を渡す。少し待つとチョコレートと抹茶のクレープが差し出された。
「ほら、紗夜の分」
「ありがとうございます。あの、お金を……」
「いらない。奢るって言っただろー?」
「……ありがとうございます」
近くにあったベンチに並んで座ってクレープを食べ始め、少し落ち着いてから話し始める。
躊躇いつつも話してくれた。
どうやら今日の練習の前に楽器店でとあるポスターを発見したようで、それに写っていたのがギターを持っていた紗夜の妹、氷川日菜だったそうだ。
そのアイドルバンドグループのギター担当ということで、紗夜はショックを受けている。
「それで、そんな思いのまま練習をしてあこに当たった、って事か……」
「はい……おねーちゃん、おねーちゃんって、憧れられる方の負担も知らないで、と」
なんでも真似をして、自分の意思はないのか。姉がする事が全てなら自分なんて要らない。
そうあこにぶつけたそうだ。
俺は一人っ子だから妹や弟に憧れられるっていうのはわからない。けれど、妹や弟が姉や兄、または親に憧れる気持ちは少なからずわかる。俺もそうだったから。
「……俺はさ、弟も妹もいないから紗夜の気持ちを理解する事は出来ない。……けど、憧れる気持ちはわかるよ」
手元にあるクレープの欠片を口の中に放り込んで飲み込み、俺は遠くの方を見た。
「その背中が眩しくてさ。いつか、こんなふうにカッコよくなれたらなって、思うんだ」
「それは……紅宮優凪さん……紅宮くんのお母さんの事ですか……?」
「あぁ。母さんが言ってたのは、憧れられるのは嬉しい事だって言ってた。その分ライバルが増えて楽しくなるって」
母さんはそう思っていた。しかし、紗夜の場合は精神的にも余裕はない。ライバルが増えて楽しくなる、という感覚は掴めないかもしれない。
「けど、こうも言ってたよ」
「……?」
「絶対に負けない、って。例えどんな人が後ろから追いかけて来ても、それを蹴落とすくらい成長するって言ってた」
チラリと紗夜を見ると俯いて何かを考えてるのか、押し黙る。俺は視線をまた遠くに戻して、だからさ、と言葉を続けた。
「……紗夜もさ、妹が同じ土俵に来たならそれを蹴落とすくらいの気持ちでいたらいいと思うよ」
俯く紗夜の方を向き、俺はトン、と彼女の背中を軽く叩いた。
「……そう、ですね。今はそう思えないかもしれませんが、いつか、いつかそう思えたら……」
そう言って彼女は俺の顔を見て、ふっ、と憑き物が取れたようなスッキリした表情で微笑む。
「少し、考え方が変わりました。日菜には負けない。後ろから来ても蹴落とすくらい成長してみせるわ」
「ははっ、そうだな。紗夜はそうやって上を向き続けるのがらしいな。姉として意地見せてくれよ、おねーちゃん?」
俺には兄や姉の苦しみはわからない。
けれど、こうして思った事を吐き出して楽になってくれたなら、俺はいくらでも相手になろう。
「やめてください。貴方に姉と言われたくありません」
「えぇ……」
♪ ♭ ♪ ♭
翌日の朝。
学校へ向かっている最中、俺は昨日の練習に来なかった事をリサにぐちぐちと小言を受けていた。
しっかり事情は話しているため今回は普段より小言は言われなかったのが救いか。
今日は友希那は先に学校に行っていて、今は俺とリサの二人だけだ。こうして二人で登校するのは久しぶりな気がする。
「それで? どーだったの、クレープ」
「美味かったよ。抹茶を頼んだんだけど味が濃くて美味しかった。今度は紗夜が食べてたチョコレート頼んでみようかな」
「ふーん……」
「なんだよ、自分から聞いといてふーんって」
別に、と返事をして、だんだん不機嫌になっていくリサに、俺は首を傾げる。もしかして、この前メッセージでやりとりしてた時にクレープとかスイーツ系の話してたし行きたかったのか?
「今度一緒に行こうか?」
「えっ?」
「だからクレープ、一緒に行くかって言ったんだよ」
リサはしばらく驚いたような顔をして、その次にはにやーっとした笑みを浮かべた。
「行くっ! ショウの奢りね! 紗夜にも奢ったんだからさ♪」
「……うっ……ま、まぁ、普段からリサには世話になってるからな。当然だよな……うん」
少し財布がキツイがまぁいいだろう。リサには本当に世話になっているのだから。
「どうする? 今日行く? バンド練習無いしさ」
「あぁ、そうだな。俺も予定無いし行ける」
「じゃあ決まりだね☆ それじゃ、放課後にねー!」
羽丘に着き、リサは後ろにいる俺に手を振りながら走っていった。俺はその進行方向には人がいるのを見て、声を荒らげた。
「おう……って、リサ! 前見ろ!」
「うわっ!? ご、ごめんね~! ってヒナじゃん!」
「あ、リサちーだ! おはよー! ……お? なになに、あの人リサちーのカレシ?」
「違っ!? 違うから! 友達!」
どうやら、紗夜の妹の氷川日菜さんのようだ。
少し遠いけど十分聞き取れる範囲なので、バッチリ彼女達の会話が聞こえてくる。
顔を真っ赤にして抗議しているリサを尻目に、俺は自分の学校へ向かおうとすると、急に肩を叩かれた。
「つっ……誰だよ……って、なんだよ飛鳥か」
「なんだよとはツレないなー」
叩かれた肩を押さえて、隣に来た友人である飛鳥を睨む。そんな彼はまぁまぁ、と笑っている。
「それより! お前、あんな可愛い子と知り合いなのかよ! もしかして彼女か!?」
「ちげーよ、アホ。友達」
「なわけあるか! あんな楽しそうに手を振ってだぞ!?」
「学校の帰りにクレープ食いに行く約束したから、クレープ食えるの楽しみなんだろ」
騒ぐ飛鳥をあしらうように雑に言うと、急に彼は立ち止まった。
「……許さん」
「は?」
小さく呟いて、飛鳥はギラりと憎悪が篭もった眼で俺を見てくる。そして一気に詰め寄り俺の襟を引っ掴んだ。
「許さねぇぞショウ! アレだろ! 去年から持ってきてる弁当、アレもあの子の手作りだろ!」
「……なんだよ、急に」
「いいから答えろ!!」
血走った眼で見られ、俺はコクコクと首を縦に降る。
すると飛鳥はバッ、と襟を離して涙を流して膝を着き、天に向かって手を組んだ。
「神様……あなたはなんて惨い事を……!」
なんの事だ。
俺は飛鳥のテンションについていけず、そのまま彼を置いて学校に向かった。
放課後になって、リサと一緒に紗夜と行ったクレープ屋ではなく、リサおすすめのクレープ屋で一緒に食べた。
流石リサがおすすめするだけあってとても美味しかった。CiRCLEのカフェのメニューの参考にしようかとすら思える程だった。
これで紗夜さんと日菜ちゃんの関係が少しマシになればいいな……なるよね?
感想、評価お待ちしております。気軽にどうぞ。