赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい!   作:倉崎あるちゅ

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大変遅れまして申し訳ありません。
ゲームのイベントやらで遅れてました。


十四曲 あの時

 

 

 リサにひっ叩かれた。

 じんじんと熱を持つ頬。俺は部屋に置かれた姿見で顔を確認した。頬には綺麗な紅葉が咲いていて結構強めにされたのだと理解する。心配するナウが俺の空いた手にすりすりと自分の体を擦り付けてきた。

 リサは今、ベッドの角に座って俺の枕を抱きかかえて、涙目で俺の事を睨んでいる。

 

「悪かったって、リサ」

 

 宥めるように笑いかけるが、頬が痛くて引きつったような笑みになった。リサは猫が威嚇するみたいな雰囲気でより一層強く睨み付けてくる。

 

「あー、ホントにごめんって……」

 

 どうしたらいいかわからなくて、ガシガシと乱暴に自分の頭を掻く。

 というか、ハーフパンツがずり落ちたのは俺のせいではないと思うんだけどな。渡した時に大きいから気を付けるように言ったはずだ。

 気まずい空気が流れる中、リサがはぁ、と溜息をついた。

 

「……まぁ、ショウのせいじゃないし、今回はもういいよ」

「ありがとうございます」

 

 許してくれなかったら泣きそうだった。俺は震える声でお礼を言う。安堵を覚えていると、その代わり、とリサが口を開いた。

 

「許してあげる代わりにアタシの質問に答えて欲しいかな」

「質問? 答えられるなら答えるけど」

 

 思ったより簡単な要望だったので首を縦に降る。

 リサに写真とって、と言われたので素直に従って、机に置いてあった写真立てを彼女に手渡す。その時に俺の指とリサの指が触れ合う。ピタリと一瞬リサが止まるが、次の瞬間にはひったくるように写真立てを奪われた。

 そんなに触れた事が嫌だったのか。いや、でも今日何回も触れた時あったし、なんなんだ一体。

 

 「……やっぱり」

 

 むむ、と唸っていると、そんなリサの小さな呟きが聞こえてくる。彼女の顔を覗くと得心がいった、というような表情をしていた。

 

「リサ? なんかあった?」

 

 どうしたのだろう、と思って訊いてみるがリサはしばらく黙り込む。俺もしばらく黙って首を傾げる。

 すると、彼女は視線を写真に固定したまま口開いた。

 

「ねぇ、ショウってさ今まで助けてきた人の事覚えてる?」

「え? 助けてきた人の事? まぁ、覚えてなくはないけど」

 

 少しだけなら、と言葉の最後に付け足す。

 結構昔から人助けをしてきたため、昔の頃は特に記憶が曖昧だ。印象的なものだったら覚えているかもしれないが。

 

「じゃあさ、ショッピングモールで迷子になった女の子とか覚えてる?」

「ショッピングモールで? ちょっと待ってくれ、思い出す」

 

 ショッピングモールで、か。確かに何度か女の子を助けた覚えはあるが、少し多過ぎてわからないな。

 リサにいつ頃なのか訊くと、俺達が小学四年生か三年生の頃だと言う。確か、その頃は俺が活発的で、いろいろな場所に駆け回っていた頃だ。

 ダメだ、余計にわからなくなった。

 

「悪いリサ、多過ぎてわからない」

 

 頭に手をやり、俺はリサに謝罪をした。すると彼女は視線を写真から俺に移して真剣な面持ちで俺の瞳を覗き込む。

 

「ホントにわからない? ミッシェルの像の周りで親探さなかった……?」

「ミッシェルの像……」

 

 そう言われると、去年の初冬にそんな内容の昔の記憶の夢を見た気がする。

 小四か小三の頃に、祖父母の家に引っ越す前にどうしてもここから出たくなくて悪足掻きでショッピングモールに逃げ込んだ。その時に迷子だった子を助けたのだ。

 

「リサ、それって両親ともう一人でショッピングモールにいなかったか? 思い当たる節としたらこれくらいしかない」

「うぅん、合ってるよ。……その子の事って覚えてる?」

「悪い、その子の顔を思い出そうとしてもモヤがかかって思い出せないんだ」

「……そ、っか」

 

 基本的に、一年や二年は覚えていても小四、小三の頃は覚えていない。

 俺の目を見つめていた彼女の瞳は大きく揺れ、次第に潤んでいく。すぐにリサは顔を俯かせた。

 そんな姿が、昔の記憶に残る少女と重なって見えた。

 もしかして、リサが話すその迷子の子って、リサ自身の事なのか? やけに積極的に訊いてくるしピンポイントな質問だし。

 俺はそう思い、彼女に訊いてみる事にした。

 

「もしかしてリサが、昔俺が助けた女の子だったりする……?」

 

 ガバッと俯いていた顔を上げる。リサのその眼には涙が溜まっていた。

 

「っ! ……うんっ、アタシ、ずっとショウにお礼言いたくて……! でも、タイミングがわからなくてさ」

「結構前から知ってたの?」

「一緒に海に行った時から」

 

 去年の夏の頃から……。そんなに前から知ってたのか。言えずにいたのはRoseliaの事や友希那の件があったからだろう。

 

「あの時、助けてくれてありがとう……! ずっと、言いたかったんだ」

 

 ニコリとリサが笑う。その時に眼から一筋の涙が滴り落ちた。

 その笑顔を見てズキ、と胸が痛んだ。今までにない程の痛み。幼馴染(あいつ)の事を思い出す時の痛みではない、心地の良い痛み。

 

「どういたしまして」

 

 俺も頬を緩めてそう口にした。

 

 

 その後、俺とリサは互いにあの時の事を思い出せる範囲の事を話した。

 俺はあの時、リサの両親ともう一人──友希那を見つけたあとまだ幼い彼女の背中を押して三人の下へ向かわせた。少し彼女達と話して別のところに行こうと思っていた矢先に、俺の事を探していた母さんと父さんに見つかり家に連れ戻された。

 リサとその両親がお礼を言おうとしていたらしく、タイミングが悪く、俺は既にその場からいなくなっていた。

 リサはその後しばらくショッピングモールやその周辺を通っては俺の事を探していたみたいで、それを中学に上がるまでしていたようだ。それを話している最中に怒られたが、全く俺は悪くないと思うのだが。

 高校に上がって俺と本屋で出会い、友希那も連れて一緒に海に行った時、俺がその時に言ったノリノリでいこーぜ、という言葉で、俺がリサを助けた人だと分かったらしい。

 

「ホント、よくもまぁ、覚えてるもんだなぁ」

 

 俺があの時言ったのなんて一回しかないというのに。

 感嘆していると、急に左側が重くなった。

 そちらに顔を向けると、リサが俺に寄りかかって寝息を立てていた。

 

「なんで寄りかかるかな……」

 

 普通に寝てくれたら掛け布団をかけて部屋を出て行ったのに。これだと一回起こさなければ。

 

「リサー、寝るならちゃんと寝ろよー。おーい」

「んぅ……」

 

 寝惚けているのか、子供がよくするイヤイヤをして、手を俺の服にかけ、しがみつくようにした。

 やめろ、なんでしがみつく。俺も寝たいんだ。もう深夜二時付近だし。

 

「リサ、ほら離し──」

 

 彼女の手を握って服から離そうとした瞬間、収まりつつあった外の豪雨が酷くなり、雷鳴を轟かせた。

 不意に来たため、俺はビクッと肩を震わせる。それに連鎖してリサも震え、目を開けた。

 

「な、なに、いまの……」

「雷だよ、結構でかい音だったな」

 

 チラリと窓を見るがカーテンに隠れて外の状況は掴めない。雨音がよく聞え、また土砂降りだという事がわかる。

 静かな部屋の中で、雨音と寝息が聞こえる。

 ……ん? 寝息?

 

「って、リサ何また寝てんの!? ちゃんと横になって寝ろよ!」

 

 手を掴んで離そうとしても離れない。無理やり立ち上がって怪我されても困るし。

 くそ、と内心で悪態をついて、溜息を吐く。俺は仕方なくそのままリサの方に体重をかけて彼女を押し倒した。

 シーツにリサの髪が広がり、香りが舞う。同じシャンプーを使ったはずなのにいい匂いがする。

 

「朝早く起きれば問題ないか……」

 

 俺も眠くなってきた。

 壁にかけてある照明のリモコンを操作して明かりを消した。

 重たい瞼を逆らう事なく閉じ、俺は両腕に温もりを感じたまま意識を手放した。

 

 

 

 ♪ ♭ ♪ ♭

 

 

 

 優しくて、安心する温もりを感じながら微睡んでいると、急に寒くなった。

 アタシは無意識に隣に手を伸ばし、抱き寄せようとするが、手は空振り、アタシの手はシーツの上に落ちた。

 そこでやっとちゃんとアタシの頭は覚醒する。

 部屋に差し込む太陽の光で部屋の中は照らされ、その光でアタシの目を焼く。

 眩しくて、枕に顔を埋める。お日様のような香りですごく落ち着く。そこでふと、アタシは思った。

 この枕、アタシのじゃないよね、と。

 

「──っ!!」

 

 ガバッと体を起こして部屋を見渡す。

 ダークブラウンで統一された家具と本棚に大量に詰め込まれた本達。

 そうだ、ここはショウの部屋で、さっき顔を埋めたのは彼の、枕で……。

 

「あぁぁ……! なにやってるのアタシ……!」

 

 よく考えてみれば夜も枕を抱きかかえてた。

 今更ながら恥ずかしい。とりあえず、リビングに行こう。ショウ起きてるかもしれないし。

 そう思ってアタシは階段を降りてリビングに向かった。

 扉を開けるといい匂いがした。キッチンの方に目を向けると、料理をしているショウの姿があった。彼はアタシに気が付くと、ニッ、と笑う。

 

「お、起きたか。朝ごはん出来るから待ってろよ」

 

 その間ナウと遊んでて、と言ってまた調理に戻っていく。

 呆然と、アタシは調理に戻っていくショウを見て、胸に手を当てた。

 もう、無理かもしれない。胸が痛くて苦しい。アタシ、なんでこんなにも……。

 

 

 ──こんなにも、ショウの事が頭から離れないんだろ。

 

 




今回短くてすみません。
次回はしっかりと書きますので。どうか御容赦を……。
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