赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい!   作:倉崎あるちゅ

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一ヶ月更新しなくて申し訳ありませんでした。
思ったよりLOUDER編の構成が難しくて筆が乗りませんでした。なんとか軌道に乗りそうなので更新です。


三章 未完成の歌 未熟な支え
一曲 激しく、繊細な曲


 

 CiRCLEのスタジオに、友希那達Roseliaの演奏が響き渡る。演奏してる曲はRe:birthday。俺はいつも通りスコアを見ながら彼女達の演奏に耳を傾ける。

 やはり彼女達の技術力は凄まじいと思う。

 フェスのコンテストで披露したこの曲を、まだ一ヶ月ほどしか経っていないにも関わらず、曲に合わせたアレンジを加えたりオーディエンスへのパフォーマンスをここまで仕上げたりするなんて。

 そう思った俺は熱心に演奏し続ける五人を見て頬を緩めた。

 

「お疲れ様ー! いやー、今日の練習も頑張ったね♪」

 

 演奏し終え、リサが満足そうに皆に声をかける。俺もそれに頷いて彼女達を労う。

 

「お疲れ皆。最後の曲、今までの練習で上手くいってたと思う」

「だよねっ、だよね! あこも上手く叩けたなって思ったんだ〜! ねっ、りんりん!」

「う、うん……あこちゃんも、すごく……よかったよ」

 

 燐子の言葉にあこがえへへ〜、と笑う。褒められたあこはお返しに燐子の事も褒め、彼女は小さくはにかんだ。

 

「うんうん! アタシ達、かなりいい感じにまとまってきたんじゃないかな?」

「そうだな。この調子で、って行きたいところだけど、この程度じゃまだまだだ」

「えぇ、紅宮くんの言う通りよ今井さん。私達は遊びで音楽をやっているわけではないの」

「ちょ、ちょっとちょっと紗夜はわかるけどショウまで!?」

 

 俺が言うのが予想外だったのか、リサが目を見開く。あこと燐子も同様で驚いた顔をしている。

 何が意外だったんだろうか。

 

「確かに、コンテストを終えて間もなく、ここまで完成度を高くする事は凄い。けど、やっぱり結成して一ヶ月と少しだと、まだまだ磨きかけの原石って言ったところかな」

「いやいや、ここは皆の成長を称えあって次のライブに向けて頑張ろー! ……っていう流れじゃないの?」

「あこも、あこもそう思う!」

 

 ……これ、たぶん話噛み合ってないな。いや、俺が単純に言葉が足りていなかったか。

 

「……俺が言いたいのは、今もいいけどそれより完成度を高くしてライブに挑めって事。お前らなら出来るって思ってるし。それは紗夜と友希那も同じのはずだ」

 

 言っていて少し気恥ずかしくなり、目を逸らして後半は早口になった。その最中、つい癖で左の耳に触れてしまう。

 それを見たリサの頬が緩んだ。

 リサの前でこの癖抑えなきゃな。あいつこの癖の事知ってるし。

 俺のこの癖は、だいたいは気恥しさを紛らわせたりするものだ。あと他にもあると思うが自分でわかってるのはこれくらい。

 ()()()なら俺の事を理解してるからわかると思うんだが──ダメだ、思い出すな。俺は逃げたんだ()()()から。

 ズキリと痛み出す胸を軽く押さえる。幸い、メンバー達は友希那の言葉を聞いていて俺の事を見ていない。

 

「次のライブ、私達ができるのは三曲くらいね。何か演りたい曲はある?」

「はいはーい! あこはそろそろ新曲やりたいですっ!」

 

 友希那の質問にあこがぶんぶんと手を振って元気よく答える。

 紗夜は呆れて額に手を当て、リサはいいじゃん、と賛同する。燐子は困ったように眉を八の字にした。

 

「あこ、ライブまであと二週間だぞ? 確かに練習量を少し増やしていけば出来なくはないけど……難しくないか?」

「そうですね、仮に演奏できるようになったとしても中途半端なものはライブでは演奏できない。さっきも言ったけど私達は遊びでやっているんじゃないのよ」

「うー、でも……!」

「あ、あこちゃん……落ち着いて、ね?」

 

 新曲について否定する俺と紗夜にあこが食い下がる。

 俺も新曲を演りたい気持ちはわからないでもない。ずっと同じ曲を演ってきたからな。新しい曲をやりたくもなるだろう。

 

「そろそろスタジオを出る時間ね。新曲を演るかどうかは置いといて、各自明日の練習までにセットリストを考えてくる事。いいわね?」

 

 スタジオに付けられている時計を見て、友希那がそう言う。俺達はそれぞれ異口同音に返事をし、その日のバンド練習は解散となった。

 

 

 翌日。

 スタジオに集まった俺達は、それぞれ考えてきたセットリストを出し合った。

 

「皆が考えてきてくれたセットリストをまとめると……一、二曲目は満場一致で決まりって感じだね♪」

「そうだな。あとは三曲目をどうするか、だが」

「このまま勢いに乗っていくか、それとも緩急をつけていくか、考えどころね」

「あこはこのままバーンっ! っていきたいです!」

 

 むむむ、と紗夜が唸る。真面目な性格の彼女はこうしてRoseliaのために曲を慎重に選んでくれる。対してあこは自分がやりたいのとこうしたらカッコよく演出できるか、などを素直に言ってくれる。

 慎重過ぎるのもいけないから、あこのような子は本当にバンドにとって必要だ。

 

「アタシもあこに賛成! 今回は全曲アゲていきたいっ!」

「盛り上げも大事だけど、ずっと同じテンションの曲では単調に聴こえてしまう可能性もあるわ」

 

 あこの提案にリサが賛成するが、紗夜が首を振って言外に安易に提案を()呑みにするべきではないと言う。

 このままじゃ平行線だな。

 俺はどうしたものか、と頭をひねる。前回のライブの時は緩急をつけたセットリストだった。その前は今回のあこが提案した全曲盛り上げるセットリスト。もう少し別のパターンが欲しいところだ。

 ふと、俺は母親が所属するバンドが演っていたセットリストを思い出した。

 

「じゃあ、俺から提案。最初から盛り上げる曲じゃないけど、徐々に盛り上げるようなセットリストはどうだ? お客さんを煽るようにして最後にぶちアゲる」

 

 一、二曲目を変える必要があるけどな、と付け加えて五人を見る。

 するとあこが目をキラキラさせて飛び跳ねた。

 

「流石ショウ兄! それなら紗夜さんが言ってた事もクリアだねっ」

「紅宮くん、もしかしてその流れは……」

「お、紗夜はわかったか。母親のバンドでよく使われるセットリストでな。今みたいに意見が割れた時とかにやるって聞いたことがあったんだ」

 

 流石に、音楽について友希那と同等のストイックさを誇る紗夜はわかるか。母さんが所属するバンド、Red Rideの曲を何度も練習してるらしいし。

 

「私はこの流れでいいと思います。白金さんはどうかしら?」

「わ、わたしも……いいと、思います」

「リサは? 全曲アゲるってわけじゃないけど」

「うーん、まぁ紗夜の言ってた事も一理あるし、アタシもいいかな♪」

 

 良かった、四人は納得してくれたみたいだな。あとはさっきから黙ってる友希那なんだが。

 俺は心ここに在らず、というような友希那に声をかける。

 

「友希那、流れはこれでいいか? いいなら三曲目をどうするかについて話したいんだが」

 

 声をかけると友希那はハッ、としてごめんなさい、と一言謝ってくる。次に彼女がとった行動はポケットからひとつのカセットテープを取り出した。

 

「……ちょっと皆に、聴いて欲しい曲があるの」

「聴いて欲しい、曲?」

 

 友希那はカセットテープをセットして曲を流す。俺達五人は疑問を抱きつつその曲に耳を傾ける。

 スピーカーから流れるイントロ。ギターやドラム、キーボードにベース、全ての音が激しく響く。その中には激しさだけではなく繊細さも確かにあった。

 力強く、心を動かされるような歌声にそれを支える音。

 曲を聴き終わった俺はすげぇ、と呟きそれと同時に聞き覚えのある歌声だと内心そう思った。それは残りの四人も同じようで、皆目を見開いたり口を開けたりしている。

 

「……っごい」

 

 近くにいるあこが呆然とボヤく。次の瞬間には我に返って先程よりも目をキラキラさせた。

 

「すごい、すごいっ……すっご〜い!! カッコイイ! 超カッコイイ! ね、りんりん!」

「う、うん。素敵な、曲だね」

「あこ、この曲ライブで演奏してみたいっ! さっきの曲の感じもいいけど、こうやってバーン! って叩くの!」

 

 そう言ってあこは自分なりにアレンジをしてドラムを叩く。燐子もドラムを叩くあこを見て微笑んでキーボードに触れる。

 

「凄くいいと思うよ、あこちゃん。……Bメロは、こんな感じとか……?」

「あっ! それもいいね! ならあこはこうしてみようかなっ。サビは激しく叩くから抑えめにして……」

 

 そして、こうっ! とあこは輝かしい笑顔でドラムを轟かせた。どうやらこの聖堕天使あこ姫は大変この曲をお気に召したようだ。

 

「あははっ、完全に気に入ったみたいだね。まぁ、アタシもこの曲好きだな♪」

「俺もいいと思う。えーっと……なら、三曲目にこれを組み込んで……それに向けた練習をしなきゃだな……」

「紅宮くん、少し張り切ってない?」

「そのくらいショウも良かったって事だね」

 

 ポケットに突っ込んでいた手帳を取り出して練習メニューをつらつらと書き殴っていく。横でリサと紗夜が何か言っている気がするがまったく話が入ってこない。

 

「よし、練習メニューはこれくらいか? なぁリサ、ちょっと見て──」

「あ、紗夜はどう思ったー?」

「おい……」

「ん? あ、ごめんショウ、聞いてなかったや」

「もういいよ……」

 

 狙ったかのように俺の言葉を遮って紗夜に質問するリサ。

 くそぉ、結構いいメニュー組めたと思ったのに。燐子に見せようか。

 リサに質問された紗夜も俺やリサ、あこ、燐子と同様に演奏してみたいと答える。

 

「ですが、この曲は一体、誰が歌っている曲なのかしら……?」

「それは……」

 

 紗夜の呟きに友希那が言い淀む。俺もあと少しで答えが出そうなのだが喉元まで出かかっているのに出てこない。

 

「ねぇ、友希那。この曲ってもしかしてさ」

 

 リサは見当がついたのか友希那に話しかける。しかし、彼女は首を振って目を伏せた。

 

「いえ、やっぱりこの曲は今のレベルには見合わない」

「えっ!?」

「ごめんなさい、余計な事に時間を取らせてしまったわね。今の曲の事は忘れて。それと、セットリストの事だけれど、私もショウの提案に賛成よ。次のライブまでに、曲をまた考えてきてちょうだい」

 

 友希那は練習始めるわよ、と言って機材の準備を始める。

 

「かっこいい曲だと思ったのになぁ……」

 

 準備をする友希那の背中を見てあこは頬を膨らませてドラム周りの確認を始めた。燐子や紗夜も少し残念そうにして同様に作業をする。

 リサはどうなのか気になり彼女を見ると、心配そうな表情を浮かべて友希那を見つめていた。

 あの曲、もしかして……。いや、まだ確証は出来ないか。

 俺は手帳に書いた練習メニューに一瞬目を落とし、パタリと手帳を閉じた。

 

 

 

 ♪ ♭ ♪ ♭

 

 

 

 練習後、友希那は用事があると言って一人で帰って行った。いつもならリサもついていくはずなのだが、彼女もバイト先のコンビニに用事があるらしい。

 リサは今日も家に来るだろうし、あの曲についてはその時にいいだろう。

 

「うー、あこあの曲演奏したい〜!!」

「まだ言ってるのか、あこ?」

「だってー! むぅ、ショウ兄だってさっきから手帳見てるじゃん」

「俺はただ良い練習メニューできたから残念なだけだし」

 

 俺の言葉を聞いて、あこがウソだー! と声を上げた。ホントだって、と俺も言い返してふいに左耳を触る。

 

「ショウくんも……あの曲気になる、の?」

「……まぁ、そうだな。といっても別で気になるだけなんだが」

「別、とはなんの事かしら?」

 

 燐子と話していると少し前を行く紗夜が振り向いて質問してきた。俺は少し悩んで言おうか迷ったが、結局俺は首を振って、

 

「いや、大した事じゃない」

「そう。何かあったら言ってください」

「そーする」

 

 分かれ道に差し掛かり、俺は紗夜と燐子、あこにじゃあな、と告げて一人で暗くなりつつある道を歩く。

 途中で今日の晩御飯の材料をスーパーで購入する。材料を買う時にリサに予め報告も忘れない。

 家に帰り、玄関のドアの鍵を刺して回すと鍵が外れる音がしなく、むしろ回す時が軽かった。

 

「開いてる……? かけ忘れたのか?」

 

 いや、家を出る前に閉めたのは確認してるし、開いてるはずがない。親が帰ってきたか、もしくは泥棒か。

 俺はゆっくりと音を立てずにドアを開けて中に滑り込む。

 泥棒だったら、喧嘩とか出来ないけど、体育で柔道の成績いいしなんとかなるだろ。

 ゴクリと喉を鳴らして靴を脱ぐ。その時に足元を見ると、

 

「…………なんだよ、帰ってきただけか」

 

 緊張して損した。

 そこには普段家にいない親の靴が一足置いてあった。俺はデカい溜息を吐いてキッ、と顔を上げる。

 

「母さん! 帰ってくるなら連絡してくれって何度も言ってんだろ!?」

 

 リビングに続くドアを開けて、ソファで寛ぐ黒髪を長く伸ばした女性──母親の紅宮優凪(ゆうな)を怒鳴りつける。

 

「あ、将吾ーおかえりー」

 

 怒鳴る俺など知ったことかと言うような雰囲気で手を振る。しかも膝の上には気持ちよさそうに寝るナウの姿がある。

 

「突然フラフラと帰ってこられるとご飯の準備とかあるから困るってあれほど言ってんだろ。つか、親父は?」

「お父さんは次のライブの準備あるって言うから置いてきた」

「親父を介して連絡くらい寄越せよバカ親!!」

「なにそんなにカリカリしてるの将吾。いつもの事じゃない」

「いつもの事だからキレてんだよ!」

 

 はぁ、はぁ、と肩で息をしながら母さんを睨む。そんな母親は素知らぬ顔をしてコーヒーが入ったカップを傾ける。

 この自由人を相手するには本当に体力が必要だ。北海道から帰ってきた時はこれより酷かった。

 

「それより将吾ー、お母さんお腹減ったー」

「自分で作れよ! まだ冷蔵庫に材料あるだろ?」

「それお昼に全部使っちゃったのよねー」

「は? え、バカなの? いや、バカだろ!」

 

 疑問系から確定系に変えて実の母親を罵倒する。

 この母親、見た目スレンダーな体型をしているがバカみたいに食欲旺盛なのだ。

 

「そういえば、冷蔵庫にあったお料理凄く美味しかったー! 将吾が作ったの?」

「いや、俺じゃなくてリサ……が……」

「リサ? もしかして彼女!?」

 

 しまった……めんどくさい会話だこれ。

 完全な悪手を打ってしまい、俺は嫌な顔を浮かべる。スーパーで買ったものをキッチンまで持って行って冷蔵庫に詰めていく。中は案の定空っぽである。

 

「ねぇねぇ、将吾ーリサって子は彼女なの? お料理作ってくれるって事はそうよね? どんな子なの?」

「彼女じゃなくてバンドメンバー。それと、どっかの誰かが専用カラーのベース譲った相手」

「バンドメンバー? 将吾が? ……って、え? 湊くんが言ってた女の子なの!?」

 

 えーうそどうしよー! などとテンション高めに騒ぐ。

 これ、今日リサ来させない方がいいんじゃ……。

 四十代でキャーキャー言う母親を引きながら見て俺はふと思った。その瞬間、ピンポーン、と我が家のチャイムが鳴った。

 

「……タイミング悪っ」

 

 絶対リサだ。これ、どうなるんだ……?

 

 

 




最近三人称の作品を書いているからか、一人称が少し辛かったです。誤字などありましたらよろしくお願いします。


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