赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい! 作:倉崎あるちゅ
今回、アニメ一期の内容に触れます。アフロ以外の接点をそろそろ作らないといけないので。
それではどうぞ!
母さんと湊さんが来てくれたライブからしばらく経ったこの日。Roseliaはこの日もライブをする予定だった。Roseliaと
皆と集合するのは夕方から。集合場所はガールズバンドの聖地とされるライブハウス『SPACE』。
俺はいつでも出発してもいいように学校から帰ってきてから早々に支度を済ませ、リビングでナウを撫でながらテレビを見ていた。すると、ソファに投げ出していたスマホが鳴る。
音からして電話のようだ。
スマホを手に持って画面を見ると、そこには普段掛けてこない人物からの電話だった。
「はい、もしもし」
電話に出ると膝の上にいるナウが俺の事を見上げる。
こいつ、リサだと思ってるな。何も俺が電話する相手がリサだけだと思うなよ。
『将吾、悪いけど少し頼みがあるんだが』
電話口から聴こえる音を聞き、ナウは片耳を揺らしてリサではないと判断したのか再び膝の上で丸くなる。
「ん、なんかあったの、
『スタッフがほぼ全員インフルエンザにかかったそうだ』
「えっ、マジで? 今行くわ」
『助かる。まぁ、あんたいればどうにか回せるだろ』
それじゃ、と言って電話を切ろうとすると、終わり際に悪いね、と聞こえてきた。
今の電話の相手は、母さん達がまだ大学生くらい前の頃からの付き合いのある人だ。名前は
俺にとっては婆ちゃんみたいな人で厳しくもあり、同時に優しい人だ。
「ばあさんが謝るなんて珍しい事もあるもんだ。んじゃ、行くとするか」
ナウに大人しくしてるんだぞ、と声をかけてひと撫でする。
忘れ物がないか確認して家を出て鍵を閉めた。
しばらく歩き、あと少しでSPACEに着くところでまたしてもスマホが振動する。誰だと思って画面を見ると、ばあさんの名前ではなく今度は見慣れたリサの名前が表示されていた。
「もしもし、どうしたリサ?」
『あ、ショウ? ライブまでちょっと時間あるじゃん? だからショウの家で練習したいなって思ったんだけど、大丈夫かな』
「あー、悪い。これから用事なんだ」
『え? ライブあるけど……』
「大丈夫だよ、すぐ終わるだろうし」
なんて言ったって用事の場所がそのライブハウスだしな。
客を待たせない、という信条でやってるしライブまでには確実に間に合う。
それじゃあな、と電話を切った。スピーカーから『ちょっ』とか聴こえた気がしたけど気のせいだろ。
リサと話しながら歩いていたおかげで気付けば、目の前には既にSPACEがある。
CiRCLEと違って、ここには外にカフェのブースはない。あるのは列を整理するためのスペースだけだ。
中に入ると、椅子やテーブルを整理整頓する杖をついた白髪のお婆さんがいた。前髪の一部分に明るい紫色のメッシュを入れているのが特徴である。
「よっ、ばあさん」
「あぁ将吾。来てもらって悪いね。あんたのところのライブだっていうのに」
軽く手を挙げて挨拶するとばあさんが苦笑いを浮かべる。
「気にすんなよ。インフルじゃ仕方ないって」
何やればいい、とばあさんに聞くと、とりあえず上着だけでもSPACEの制服を着ろと言われた。更衣室に向かい、更衣室内にある制服が入ったダンボールを漁る。しかし、サイズは皆女性ものばかり。
俺着れないぞ、これ。どうしろっていうんだ。
短く息をつき、俺はばあさんに文句を言いに行こうとSPACEのホールへ向かう。
「おーい、ばあさん。制服俺入んな──」
片手に制服を持ってばあさんに文句を言おうとすると、ホール内にはばあさんの他にも数人の女の子がいた。
紗夜と燐子と同じ制服だというのは見てわかる。ただ、あまり見ない子達だなと思った。
「オーナー、凜々子さんから連絡あって!」
「……あぁ、全員アウトだってさ。参ったよ」
ばあさんと話す猫みたいな髪型の女の子は手伝わせて欲しいと声を上げる。その後ろのショートカットの子とポニーテールの子も同様に言う。
言われたばあさんは、もともと素直な性格ではないためしばらく黙る。
「手伝ってもらえよ、ばあさん」
「将吾……」
「難しいのは俺とばあさんでやればいいだろ。この子達は掃除とかドリンクの方やらせればいいし」
俺がそう言うと黒髪の長い髪の女の子と金髪をツインテールにした女の子以外の子達がお願いしますと頭を下げた。
「……その椅子、テーブルの下」
「っ! はい!」
テーブルに乗った椅子を指さして、ばあさんははぁ、と溜息をつく。
今日だけ頼むよ、とばあさんが言う。俺に連絡してきたみたいに素直になればいいのに。
「あ、ばあさん制服ないんだけど」
「ここで、ばあさん言うんじゃないよ。オーナーって呼びな。あんたはそのままでいいよ」
仕方ないね、と言ってばあさんは更衣室の方へ向かっていった。おそらく彼女達の制服を用意するためだろう。俺にはしてくれなかったのに。
「あ、あのっ!」
「ん?」
制服戻してこよう、と思って更衣室に戻ろうとすると後ろから声をかけられる。首だけ動かして後ろを見ると、猫みたいな髪型の女の子が俺の方を見ていた。
「さっきはありがとうございました!」
「あぁ。ばあさんは素直じゃないところあるから。別に俺が何も言わなくても受けてくれたと思うよ」
いくらCiRCLEで慣れているとはいえ、たった二人でライブハウスの開店準備をするのは流石に堪える。それはばあさんもわかっていただろう。俺に連絡を寄越す前は一人でやろうとしたはずだ。そして間に合わないと判断したから俺に連絡が来た。
俺ならある程度どういう仕事をするか理解してるし、ばあさんとも長い付き合いだからな。
「それでもですよ。ありがとうございました」
猫みたいな髪の女の子の次にポニーテールの女の子がお礼を言う。頭を下げた時にほのかにパンのいい匂いがする。
「いいっていいって。……俺は紅宮将吾。高校二年だ。Roseliaのサポーターをやってる。よろしく」
「私、
「ちょ、香澄声大きいだろ! ……コホン、私は
すげー猫かぶりだな。切り替えが早い。
「あ、あの私、
「花園たえです。皆からおたえって呼ばれてまーす。よろしくお願いします」
なんだ、この雰囲気から天然が滲み出る子は。
「あはは……私は
猫みたいな髪型の子は香澄、金髪ツインテールが有咲、黒髪のショートカットはりみ、黒髪ロングがたえ……俺もおたえでいいか。最後にポニーテールの子が沙綾ね。
五人はバンドを組んでいるらしく、バンド名は
その後、彼女達は更衣室に着替えに行き、俺は皆が来る前に掃除道具を用意しておく。最初はどこにあるのかわからなかったが、すぐに見つかった。
今は香澄と有咲、沙綾の三人がドリンクでの注文を練習をしている。
「コーラとメロンソーダと紅茶と昆布茶ください!」
「一二〇〇円になります」
「計算はや!」
「いや、全部値段一緒だし……」
香澄が注文をすると、有咲が即答で合計金額を伝える。
まぁ、全部一緒なら暗算も楽だろうよ。
さっき会話が聞こえてきたが、有咲は学年一位らしい。花咲川がどんな試験内容かはわからないが学年一位は凄いと思う。今度、紗夜か燐子に内容聞いてみよう。あの二人なら試験内容も把握済だろうし。
逆に羽丘の試験内容は俺も把握している。リサとも勉強するし友希那がバンドに支障が出ない程度とか言い出してるため、友希那の勉強に付き合う事もある。
「お待たせしました〜」
「準備はや!」
「パン屋で慣れてるから」
沙綾も、実家がパン屋なだけあって手際がいい。
モカと雨河さんがよく行くやまぶきベーカリーは沙綾の実家だとさっき聞かされた。雨河さんからたまにパンをご馳走してもらう時があるが、パン屋には行った事がないし今度行ってみよう。モカは連れていかないが。
テーブルを全部拭き終えると、ばあさんが香澄達に片付けておきな、と言ってライブを行うフロアの方へ向かった。
「……飲んでいいのかな?」
「メロンソーダぁ♪」
「あぁ! 狙ってたのに! だいたいお前なにもしてねーじゃねーか!」
楽しそうだな。ばあさんもそのままドリンクを捨てろとは言わないだろうし飲んでも構わないだろ。
「昆布茶いい?」
「……渋いね」
「じゃあ俺コーラ」
「あぁ!? 次に狙ってたのに!」
「遅いぞ、有咲」
あむ、とストローを加えてコーラを飲む。しゅわっとした喉に染み渡り、気分がいい。対して有咲は狙っていたドリンクを二つも取られて頬をひくつかせている。
「くっ……わ、私は紅茶で結構ですので」
「ありさぁ〜! 私のメロンソーダあげるから拗ねないでよー!」
「い、いらねー! ってかもう半分も残ってねーだろ!」
香澄が有咲に抱き着くようにカウンターに身を乗り出す。その彼女の手にあるグラスの中は有咲が言った通り、半分も残っていないメロンソーダがある。
「そういえば、紅宮先輩とオーナーってどんな関係なんですか?」
微笑ましい香澄と有咲の会話を見ていると、湯呑みを洗い終えた沙綾が俺に問うてくる。
「ん、そうだな。ざっくり言うと孫と祖母って感じか……?」
「親戚だったんですか!?」
「あー、いやそうじゃない。だから香澄そんな近くに来んな鼻息荒い」
俺は笑ってぐいっ、と近くに来る香澄の頬を掌で軽く押して退ける。
「親とばあさんが昔からの付き合いでな。だから子供の頃から知ってるんだ」
「そういう事だったんですね」
「ばあさん、言い方キツイけど勘違いしないくれな。あぁ見えて優しいからさ。な、有咲?」
「……はい」
様子を見る限り、どうも有咲はばあさんに苦手意識を持っているようだ。少しやりづらそうにしてるのがわかる。
「じゃあ俺フロアの方見てくる。テーブルとか拭いといたからロビーは大丈夫だと思う」
「はい、わかりました」
そう言って掃除関係は三人に任せ、俺はフロアへ向かう。フロアの掃除やライトの調整をしているのは、SPACEでバイトをしているおたえとGlitter*Greenのボーカルのゆりさんの妹のりみだ。
フロア内に入ると、りみが照明のスイッチのところでオロオロしていた。
「パーライト!」
「は、はい!」
オロオロするりみにばあさんが指示を出す。りみが照明のスイッチを押すと、パーライトとは違う照明を付けてしまった。
「違う、やり直し!」
ばあさんに言われ、りみは慌てて照明を消す。
俺はりみの下へ行って手元を覗き込む。
「りみ、落ち着いて。パーライトはこれ。落ち着いてやれば大丈夫だから。緊張しないように、な」
「は、はい。ありがとうございます」
「ライブまでに覚えておくんだよ。将吾、こっち来てくれ」
「おう。って、ばあさんはやるなよ! おたえ、悪い手伝って」
「はーい。オーナー、私やりますよ」
重い大型のアンプを持とうとするばあさんを諌めて、おたえと一緒に持つ。一人でやると落とした時、持っている人が怪我をするため、二人で持つようにするのだ。
ばあさんは大人しく指示してて欲しいものだ。万が一怪我でもしたら俺が母さんや親父に怒られる。もしくは殺される。
♪ ♭ ♪ ♭
無事に準備を終えると、タイミング良くGlitter*Greenのメンバー達がSPACEにやって来た。
ボーカルのゆりさんが俺に気付き、手を振ってこちらに寄ってくる。
「ショウくんじゃない。こんにちは。早いね」
「ゆりさん、こんにちは。見ての通り、スタッフがほぼアウトなのでばあさんに呼び出されたんですよ」
なるほどねー、と彼女は微笑む。
「ありがとね。Roseliaのサポートもあるのに」
「頑張ったショウくんには、うちのデベコを触らせてあげよう」
「え、いいんすか?」
ゆりさんと話していると、にょきっ、と横からベース担当の
滅多に触らせてくれるわけではないので、これはレアだ。
「うわ、めっちゃふかふか」
触らせてもらうと人がダメになるような感覚に襲われる。
堪能していると、ばあさんにリハーサルをやる、と言われ名残惜しくもあったがリィさんから離れる事になった。
「ベース」
ばあさんがPAをやり、次々に音を拾っていく。PAはこうしてバンドと一緒に音を作っていくのだ。
リィさんがベースを弾き、ベース独特の低音が流れる。
「次、キーボード」
キーボード担当の
「すげー……」
隣で有咲が感嘆の声を上げた。
七菜さんの技術は凄まじい。燐子と同等、もしくはそれ以上に匹敵する。
俺は小声で有咲に声をかける。
「七菜さん、すげぇよな」
「っ! べ、別に私は何も言ってませんけど……?」
「ははっ、そう照れんなよ」
「て、照れてねーし!」
「そうそう、そうやって俺に猫かぶらなくていいからな?」
「うっ……バレてた」
バレるも何も、香澄達と俺の態度でわかりやすいんだよな。
顔を赤くして俯く有咲を見てくすくす笑って、次に俺はステージに立つGlitter*Greenの姿を見た。
「ゆり、新曲はどうする?」
「いつもよりバンドのサウンドを効かせたいんですけど……」
「なるほど。軽く流してみな」
「「「「お願いします」」」」
おお、Glitter*Greenは新曲か。Roseliaは新曲なしだが前よりもLOUDERやBLACK SHOUTの完成度も高くなったし楽しくなりそうだ。
俺はそう思い、ニヤリと口の端を吊り上げて笑った。
いつもより長くなりました。ざっと1000文字ほど。
本当はもっと書きたかったんですが一旦区切りました。
感想、評価お待ちしてます。