赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい! 作:倉崎あるちゅ
連日投稿になりますね! 久しぶりの連日投稿で私は嬉しいです。
RoseliaとGlitter*Greenのジョイントライブは結果だけを見れば成功したと言えるだろう。ただし、それはあくまで全体的であり、バンドメンバー個々人にとっては決してそうではない。
それぞれ課題を見つけ、今の自分でやり切った彼女達はSPACEの控え室に戻った。
「うっ……っ……!」
「リサ……」
そして、控え室の中で、衣装に身を包むリサが顔を覆って涙していた。
友希那や紗夜、あこと燐子が心配そうに彼女を見やる。それを俺は何もできず、ただただ控え室の前で立ち尽くしているだけだ。
「ごめ、んね、友希那……アタシっ!」
Glitter*Greenのライブが終わり、次にRoseliaの番がやってきた。盛り上がった状態で彼女達にバトンを渡され、観客を楽しませるためにRoseliaは演奏をした。
演奏の中盤、リサが一瞬コードを間違えた。ほんの少し動揺した彼女は芋づる式に小さなミスを重ねて演奏を続けた。
普段ならコードを間違えただけでこんなに動揺なんてしないはずの彼女がミスを重ねた。リハーサル前にリサが緊張をしていたのはわかっていた。にも関わらず俺はなにもしないで見ていただけ。
「なにしてんだよ、俺は」
悔し涙を流すリサを見て、俺は歯が軋むほど歯噛みする。
リサのあんな悲しい顔なんて見たくない。俺は、どうしたら彼女を泣かせなくする事ができる。リサの事を支えるなんて抜かしておきながらこの体たらく。未熟過ぎる。
そんな事を考えていると、控え室からゆりさん達が出てきた。
「あ、ショウくん……」
「お疲れ様でした、ゆりさん。皆さんも」
できるだけ笑顔でそう挨拶をすると、ゆりさん達Glitter*Greenのメンバーは気まずそうな表情をしてお疲れ様、と去っていった。
気を遣わせてしまった、かな。今度謝らないと。
「ちっ」
何もできない。ここから動けない。そんな自分が腹立たしい。
気の利いた言葉をかけてやる事ができない。できない、というより言葉が出てこない。
「行ってあげないのかい」
「……ばあさん」
「ここでばあさんって言うんじゃないよ」
杖を突いて、ばあさんがちらりと控え室の中を見る。少し開いた扉の向こうに今もなお泣いているリサの姿が見える。
「……なにも、言葉が出てこないんだ」
「いつも通りに声をかけてやればいいだろ」
ばあさんの言葉に俺は首を振る。
「それだけじゃダメな気がする。なにがダメなのかわからないけど」
視線を落として、SPACEの木目の床を見つめる。
ばあさんも何も言わず、聴こえてくるのはリサの嗚咽とあこと燐子の心配する声。
拳を握り締めていると、ばあさんが短く息を吐いた。
「まったく、なんでこうもあんたはアイツに似るかね」
「アイツ?」
こめかみを押さえて、ばあさんは面倒くさそうな顔をする。
「あんたの親父だよ。アイツも、優凪が泣いてるのを見てそうやって立ち尽くしてたよ。ちょうどあんたが立っているところだ」
「親父が……?」
あの親父が俺みたいに? いつもバカみたいな事をするあの人が? じゃあ。じゃあ、親父はどうやってこれを乗り越えたんだ。どうしたら、俺はリサに声をかけてやれる。
「ばあさん、俺はどうしたら……」
「それはあんたが考える事だ。私が答えたら意味が無いだろう。まぁ、私から言えるのはあの子達だけじゃない、って事だ」
そう言って顎でRoseliaをしゃくって指す。
あいつらだけじゃない……。今の俺ではわからないな。どういう意味なんだ。
「まぁ、今回は私が行ってあげるよ。次はないないよ」
「……ありがとう、ばあさん」
お礼を言うとばあさんはふん、と鼻を鳴らして控え室に入っていった。
その前に、あこがショウ兄呼ぶ? と質問してリサがショウには見られたくない、と言っていた。
それを聞いた俺はとん、と壁に背中を預ける。
「あ、あのショウ先輩?」
「……香澄と有咲、か。どうした?」
ホールの方向から香澄と有咲が金庫を抱えてやってきていた。
有咲は控え室の中を覗いて俺の方を見る。
「行かないんですか?」
「どんな言葉をかければいいかわからないんだよ」
俺はそう言ってホールへ向かう。後ろから二人もついてきた。
「他の皆は?」
「ステージの掃除に行ってます。私と香澄は金庫を返そうって」
「なるほど」
だから金庫を抱えてるのか。
「あの、ショウ先輩」
「ん、なに香澄」
「リサさんなら、ショウ先輩の言葉なら元気出ると私思います! 私なにもわかんないけど、そんな気がします!」
「まぁ、それは私も思います。だって、リハーサルの時なんか嬉しそうだったし」
俺からはそう見えなかったが、香澄達からはそう見えたようだ。
俺の言葉なら。そうは言うがどんな言葉をかければいい。
そんな俺の考えた事を見透かしたように、香澄は口を開く。
「どんな言葉でもいいと思います。頑張ったね、とかお疲れ様とかでも!」
身振り手振りで一生懸命伝えようとしてくれているのが伝わる。
情けねぇな。年下の子にまで気を遣われるなんて。
「ありがとう。少し楽になった」
「いやぁ、私はそれほどでも〜」
お礼を言うと香澄が若干照れたように後頭部に手をやる。俺はそれを見て自然と笑いが出た。
「ジュース、奢ってやるよ。今日頑張ったからな」
「ホントですか!? やったー!」
「ちょ、香澄! 騒ぎ過ぎだろ!」
飛び跳ねて喜ぶ香澄を諌めるため、有咲が彼女を押さえる。二人に何がいい、とリクエストを訊いてそれぞれ好きな飲み物のボタンを押していく。その次に適当におたえとりみ、沙綾の飲み物も買う。
「ありがとうございますショウ先輩!」
「ありがとうございます」
「いんや、いいよ。情けないところ見せちまったし。それに有咲はさっきのお詫びも兼ねてな」
苦笑いを浮かべて言うと有咲はさっきの事を思い出したのかぷい、と顔を逸らす。まだ許してくれないみたいだ。
すると、控え室の方向からパタパタと軽快な足音が聞こえてきた。
「ショウ兄ってばここにいた!」
「ここにいたんですね、紅宮くん」
「あこと紗夜?」
着替えを済ませて荷物を持った二人がホールにやってきた。何をやっていたのか訊かれ、皆に飲み物を買っていたと答える。
「あこのはもう買っちゃった?」
「いや、まだ俺らのは買ってないよ」
「じゃああこはこれ!」
「はいはい。燐子はこれでいいと思う?」
「いいと思うよ!」
あこが飲みたいというものを買い、燐子のも買う。リサと友希那のはもう予想がつくので何も聞かずに買っていく。
「紗夜は? 金用意しなくていいからな?」
「いえ、そういうわけには」
「いいから。ほら、何がいい?」
「……では、お茶で」
「リョーカイ」
二人に飲み物を持ってもらい、控え室に戻ってもらう。俺は香澄と有咲の方に向いた。
「香澄、金庫預かる。ばあさんに渡してとく」
「はい! お願いします!」
「それじゃあ、Roseliaの皆着替え終わったみたいだし帰るよ。他の三人にもよろしく言っといて。お疲れ様」
そう言って俺はあこと紗夜の後を追う。後ろから香澄と有咲のお疲れ様でしたという声が聞こえてきた。
♪ ♭ ♪ ♭
SPACEから出たアタシ達は反省会をするためにいつものファミレスに向かっていた。
ショウにはさっきアタシが泣いていた事は伝えていない。理由は恥ずかしいから。大丈夫か、って訊いてくれたのになんでもないって突っぱねてしまったから。
泣いてる時にショウがいなくて良かった。あこに呼ぶ? って訊かれた時は焦ったな。
「グリグリ凄かったなぁ」
「そうね。牛込さんはギターも弾いているし私も凄いと思うわ」
アタシの独り言に友希那が反応する。友希那も凄いと感じるほど、Glitter*Greenは凄い。けど、
「アタシ達も負けられないね」
「ええ。次のSPACEでのライブは今よりも技術を高めるわよ」
「うん。次こそは大丈夫。オーナーにも言われちゃったしね」
胸を張って自分の出せる力を出す。その時その時をやり切る。
「そういやさ、紗夜と燐子に聞きたいんだけど」
「なんですか」
「どうか、した?」
「花女の試験ってどれくらいのレベルなの? 有咲……あー、さっきの金髪の子が花女の一年の学年トップらしいんだけど」
前を歩くショウと紗夜、燐子がそんな会話を繰り広げる。燐子は首を傾げてうーん、と唸る。すると紗夜が確か、と口を開いた。
「羽丘と同じのはずよ。日菜と話す時にそのような事を言っていたから」
「お、そうなのか。ならすげーな有咲は。俺も羽丘の内容はどっかのボーカルのせいで把握してるからわかるけどレベル高いもんな」
あはは……。それ、完璧に友希那だよね。ほら、友希那不機嫌そうに眉ぴくぴくしちゃってるよ。
それにしても、紗夜はヒナと上手くいってるみたいで良かった。
「うー、あこ大丈夫かな来年」
「大丈夫だってば、あこ。わからなかったらアタシも教えてあげるから♪ なんならショウも教えてくれるでしょ?」
「んー? おう、どうせ友希那にも教えないといけないしいいぞ」
「ショウ! 余計な事は言わなくていいわ!」
うわ、ショウってば隠さずに友希那の名前出しちゃった。
ショウは悪かった悪かった、と楽しそうにイタズラが成功したみたいな笑顔を浮かべる。
「おーい、ショウー!」
「ん、飛鳥?」
のらりくらりと友希那の文句を避けるショウに、アタシ達が向かう方向から手を挙げる人がいた。
短い黒髪をツンツンに逆立てた髪型をした少年がショウに向けてよう、と挨拶をする。
「今ライブから帰りか?」
「あぁ、学校終わってから家でゆっくりしようと思ったら呼び出されてな。それから今まで」
「あらら、そらお疲れ様。んで? そちらの五人がRoseliaね」
活発そうな雰囲気をした飛鳥と呼ばれた人はアタシ達に視線を向ける。友希那がどうも、と短く挨拶をする。
「俺はショウと同じ学校の香月飛鳥! 氷川さんの事をコイツに教えたのは俺なんだー」
「そうだったのね。バンドメンバーを探してくれてありがとう」
「いやいやー。ショウにはいろいろ世話になってたし少しでもな」
ニカッ、と笑ってショウの肩に手を置く。すると、ショウがそうだ、と思いついたように声を上げた。
「飛鳥も行くか、ファミレス」
「え、おれも行っていいの?」
自分の顔を指さしてアタシ達に訊いてくる。友希那はバンドメンバーを探してくれていた人だから賛成した。紗夜も間接的だけど紹介してくれた人だという事もあって賛成だ。
「学校の時のショウがどんな感じなのか気になるしアタシもいいよ☆」
「あこも!」
「わ、わたしも……大丈夫、です」
結果、満場一致という事で香月くんもファミレスに行く事が決定した。
ファミレスに着いて香月くん──飛鳥からショウの学校の時の様子を聞いていつもと態度が違うというのがわかった。
学校ではいつもは刃物みたいに冷たいんだそうだ。でも、先生とか困ってる生徒を見ると助けに行ったりしてるみたい。
「あ、あとこいつ。弁当食ったあとって結構上機嫌なんだよ。あれ彼女のだろ! 羨ましいなてめー!」
「彼女じゃないっていつも言ってんだろ。リサだよ。リサ」
「はぁ!? てめー、今井さんに作らせてたのか!?」
隣に座り合う彼らが小競り合いを始める。普段なら止めるのは紗夜なんだけど、今はポテト食べててそれどころじゃないみたい。
あはは、これは家に行ってご飯作ってる事は言わない方がいいかな。
そう思って二人の会話を笑いながら見ていると、ふと疑問に思った事があった。
なんで、お弁当食べたあとそんなに上機嫌になるんだろ。他の人がわかりやすいほど。
これにて三章は終わり。次は何かイベストを挟むか、そのまま四章に突撃します。
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