赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい! 作:倉崎あるちゅ
書きたいことが書けて心が、脳が震えてます。
一曲 親友
SPACEのライブからしばらく経ったある日。学校で昼休みにリサに作ってもらった弁当を食べていた俺は、購買からパンを持って帰ってきた飛鳥といつものようにバカな話をしていた。
すると、飛鳥が焼きそばパンを口に放り込んで飲み込んだあとにそういえばさ、と話を切り出した。
「明日、転校生来るらしいぞ」
「転校生?」
「そ、先生達が話してるの聞いてな。女子らしいぜ」
「へー、んで?」
大して興味を持てないため弁当箱に収まっている卵焼きを口に入れて咀嚼する。ほんのり甘い、俺好みの味で心が温まる。
「んだよ、素っ気ないな。いくらてめーに今井さんがいてもよ、なんか反応くれよー」
「だからリサとはそんなんじゃねぇって言ってんだろ」
保温ポットに入った味噌汁を啜り、ほっ、と息をつく。視線を飛鳥の方に向けると彼は眉をピクピクと動かして俺の事を見ていた。
「なんだよ」
「いや、美味そうに食うなって」
「文句のつけようのないくらい美味しいからな」
「はー、いいねー毎日毎日弁当を作ってくれる彼女がいて」
「だから違ぇって言ってんだろ」
しつこいぞ、とからあげを箸でつまんで口に放り込む。鶏自体に味をつけているため少し冷えていても美味しいのである。
からあげに舌鼓を打っていると、飛鳥はすばやく俺の弁当に手を突っ込み、最後の卵焼きを指でつまんだ。
「あっ、飛鳥お前!?」
「いいだろひとつくらいよー! てめーは散々食ってんだしよ!」
大きな口を開けて卵焼きを平らげ、彼はウマー、と大声で叫ぶ。思わず俺は大きく舌打ちを打つ。
「で、転校生がなんだって?」
「あ、そうそう。その子がハーフらしくてさー。どこの国かは聞けなかったけど、きっと可愛いぜ!」
「聞いた俺がバカだった」
ごちそうさま、と言って弁当箱を持って水飲み場へ向かう。お湯も出るため、ここでいつも弁当箱を洗っている。少しでもリサの負担を減らしたいからだ。
にしてもハーフ、か。あいつも確かハーフだったな。国はイギリスだったか。
小学に入る時に日本に来て、日本語が喋れなくて隣に住んでる祖父母に日本語を教わっていたと聞いた。だからあいつは北海道の訛りが多少入った日本語を喋る。
「……はぁ」
いや、正確には喋っていた、か。
チクリとした痛みが胸に走る。忘れる事のない痛み。忘れてはならない痛みだ。
はぁ、と俺はもう一度溜息をついた。
♪ ♭ ♪ ♭
あの後、ばあさんから電話が来た。ただ一言、七月中旬にSPACEを閉める、それだけ言ってばあさんは電話を切った。
おそらく、ばあさんは全部やり切ったんだろう。なら俺達がとやかく言うべきではない。まだSPACEを閉めるには期間があるし、友希那達にSPACE最後のライブをできないか相談してみよう。
「えぇ、いいわよ」
「お、おう」
相談したら即答だった。
「アタシも賛成だよ。SPACE最後のライブ、盛り上げようよ♪」
「私も賛成です」
「あこもあこもー! 閉店しちゃうのは寂しいけど、リサ姉が言った通り、あこ達で盛り上げよう! ね、りんりん!」
「う、うん……そのために、練習……頑張ろうね」
リサ、紗夜、あこ、燐子が友希那に続いて笑みを浮かべて頷く。
「なにをそんなに驚いているんですか、紅宮くん」
「そうよ。メンバーからの提案なのだし、無下にはしないわ」
機材にシールドを挿した紗夜がギターを構えて言い、友希那も腕を組んで強い意思が灯った眼で俺を見る。
もしかしたら断られるかも、と思っていたけど心配はいらなかったようだな。
「あぁ、俺も精一杯頑張る。皆、よろしく」
俺はニッ、と笑って力強く言った。
「「はい!」」
「「うん!」」
「えぇ」
五人は異口同音の返事をし、練習に気合を入れる。
完成度を高めるため、前回SPACEで演った曲を何回か通して練習する。
途中、ギターの音が一瞬遅れたのを俺は聴き逃さなかった。
「紗夜、大丈夫か? 一瞬遅れたけど」
「すみません、少し指が鈍くなりまして」
「少し演りすぎたな。悪い」
「いえ、大丈夫ですよ」
いけないいけない。熱が入りすぎて休憩を挟むのを忘れていた。
この会話を機に休憩を入れ、紗夜にはお礼に今度ポテトを奢ると言っておいた。そのあとに顔を真っ赤にしてくどくどと説教された。
俺とリサ、燐子にはバレてんだから隠さなくてもいいのに。
「だいたいね、紅宮くんは……」
「あー、はいはい」
「適当な返事をしない!」
「……はい」
理不尽な説教に適当な返事をすると余計に紗夜を怒らせてしまった。不機嫌そうに眉を寄せて小言を投げつけてくる。
これ、いつまで続くんだ。不機嫌そうな顔見ると顎痛くなってくるんだが。あいつのせいで苦手なんだよな、女の子の不機嫌そうな顔見るの。
「さーよっ、そろそろ勘弁してあげたら?」
顎が痛くなりそうになると紗夜の後ろからリサが苦笑いを浮かべて現れ、紗夜の両肩に手を置いた。
「……仕方ありませんね。そろそろ休憩も終わりですし」
「……助かった」
紗夜が俺の目の前から去っていくのを見てから小さく呟く。近くにいたリサは聞こえてたのだろう、あははっ、と楽しそうに笑う。
「あれでも必死に隠してるんだし、言わない方がいいよー?」
「そうしとく……くどさよ怖い」
リサにそう言うと、聴こえていないはずなのにギターを肩にかけた紗夜がギロリと俺を睨んでくる。
こわ、地獄耳かあの風紀委員。
「ショウ、リサ。練習を再開するわよ」
「おう」
「はーい☆」
友希那に声をかけられ、俺とリサは皆の下へ行く。リサは紅いベースを手に取り、キーボードの鍵盤に手を置く燐子の前に陣取る。俺はいつも通りの聴きやすい位置にいる。
「あと数曲やればいい時間だな。頑張ろう」
皆揃ってひとつ頷き、あこがスティックを叩いて演奏を始めた。
SPACE最後のライブは今のRoseliaの最高のパフォーマンスで挑みたい。
バンド練習が終わって一人で家に帰っている最中、河川敷の近くを通り、綺麗な夕焼けが俺の目を焼いた。俺は眩しくて手を
リサは汗をかいたから一旦家に帰って家に来るそうだ。
「今日は一段と綺麗だな」
普段あまり見ないが今日の夕焼けは綺麗だ。きっと、Afterglowのメンバー達は羽丘の屋上でこの夕焼けを見ているに違いない。
「そうだな」
「えっ──」
返ってくる相槌に俺は戸惑い、思わず声が出てしまう。聞こえてきた声の方向に体を向けると、ひときわ強い風が吹いてきた。
顔を顰めてもう一度その方向に目を向けると、風に吹かれ、金色の長い髪が靡く。夕焼けに照らされてその金色の髪が黄金に輝く。
「久しぶりだな、将吾」
つり目の赤い瞳。端正な顔立ち。小さな口は挑発気味に歪めて笑っている。
金色の長い髪の毛先は以前には見た事のない、グラデーションかかった紅い色に染まっている。
「──リズ?」
嘘だ。いるはずがない。
「おう。お、なんだアタシがやったピアスつけてくれてんのな。サンキュー」
だって、こいつは……リズは──
快活に笑う彼女を見て、俺は動揺する。
「なん、で」
「ん? 去年目が覚めてよ。頑張ってリハビリしたんだー」
たはは、と照れたように笑って頭に手をやる。
俺はリズの近くに寄って彼女の事を抱き締めた。
「おっ、と。なんだよ将吾」
「っ……よかった……! 生きててっ……よかった……!!」
十センチほど低い彼女を抱き締め、俺は涙を流す。
死んだと思った。意識不明の重体で、いつ目覚めるかもわからなくて。いつ目覚めるかわからないからとリズの両親から高校に上がる時はこっちに戻っていいと言われた。
ギターを触る度にリズの事を思い出して、たまに泣いた時だってあった。
そんなリズが今、目の前にいる。
「泣くなって、男だろ」
「俺、リズにっ……謝りたくて……ずっと……!」
「あれはお前が悪くない。悪いのはあのトラックのオッサンだし」
そう言ってリズは俺の背中に手を回してトントン、と手で叩く。俺はその言葉でさらに眼から涙を溢れさせた。
「でもまぁ、忘れないでいてくれてありがと」
♪ ♭ ♪ ♭
シャワーを浴び終わり、今井リサはウェーブのかかった栗色の長い髪を揺らして、将吾の家に走って向かっていた。
今日は何を作ろうかと思いながら走り、河川敷に出る道の角を曲がろうとする。
瞬間、
「えっ……」
見覚えのある後ろ姿が、金色の髪の少女を抱き締めていた。
「っ……!」
リサは思わず後ずさり、来た道を数歩戻る。口に手を当て、彼女は無意識に眼に涙を溜める。
──なんで、なんで?
リサに何かが喪われる感覚が襲いかかる。彼女自身でも理解できない感情が心を占め、溜めていた涙が頬を伝う。
理解が追いつかない。何故、将吾が少女と抱き合っているのか、どうしてこんな喪失感を覚えているのか。
ただ、今はその場から逃げたいと彼女は思った。
将吾の家に行くなんていう目的など忘れ、リサは来た道を引き返してその場から走り去った。
そんな涙を流して一心不乱に走るリサは、将吾のクラスメイトの香月飛鳥の横を通り過ぎる。
「今井、さん?」
通り過ぎた瞬間にリサの横顔を見て、泣いているとわかった飛鳥は不思議そうに首を傾げた。
何かあったのだろうと見当はついたが、それが一体何かまではわからず、飛鳥は疑問を抱きつつ家に帰った。
♪ ♭ ♪ ♭
翌日の朝。
いつものようにリサと友希那と一緒に登校しようと思い、俺は彼女達の家の前に行く。すると、いつもは俺が来る前にはリサがいるはずなのだが、今日はその彼女の姿はない。
昨日の夜、リサが来ると思って待っていたのだが、彼女は俺の家に来る事はなかった。一応リサにはメッセージを送ったが返事は返ってこないし既読すらつかない。
「ショウ、おはよう」
「あぁ、友希那。おはよう」
家から出てきた友希那が俺に挨拶をする。俺も片手を挙げて挨拶を返す。彼女はいつもと違うと思ったのか、辺りを見回す。
「ショウ、リサがいないようだけど」
「わからない。昨日家に来なかったし、メッセージも反応ない」
「何かあったのかしら。私の方にも何もないの」
うーん、と二人して唸り、友希那が口を開く。
「とりあえず学校に行きましょう。学校に着いたら連絡するわ」
「あぁ、頼む」
遅れたら元も子ないため、俺達は学校の方へ足を向けた。
普段リサと会話を回しているからか、こうして友希那と二人になると話が盛り上がらない。
はぁ、リサには世話になってるしリズを紹介したいんだがな。小学の頃からの親友だ、って。そういや、リズのやつ学校どこだ? 羽丘とか花女か?
学校に着き、俺は教室の扉を引いて中に入った。すると、クラスメイト達がざわざわと騒いでいた。
「どうしたんだ、これ」
席に座ってカバンを置き、前の席に座る飛鳥に訊く。
「お、おはようショウ。昨日話したろ、転校生だって」
「あー、言ってたなそういや」
転校生来るって昨日言ってたな。どんなやつか話の内容すっかり忘れてるけど。
カバンの整理を終えると、飛鳥がそうだそうだ、と思い出したように話しかけてくる。
「昨日の夕方さ、家に帰ろうとした時にいま──」
「おーら、静かにしろテメーら」
飛鳥が話してる途中に教室の扉が開き、俺達の担任教師が入ってきた。飛鳥は話を遮られ気を悪くしたのか、ちっ、と舌打ちをした。
「話が広がってるみたいだが、今日は転校生が来た! そして男子! 喜べ、女子だ!」
おおおおおおお! と教師の言葉にクラス中の男子が盛り上がる。中には席を立って歓喜する奴もいる。
「さ、入ってきていいぞ」
教師がそう言うと、教室の扉がガラリと開き、中に入ってきてまず目に入ったのが金色だった。
「……は?」
周りの男子はおお、と期待の声を上げる。対して俺は困惑の声を出す。
教壇に立って、転校生は挑発気味な笑みを浮かべる。教師は黒板に彼女の名前を書き出す。その名前は、
「古跡リズリットって言いまーす。皆遠慮なくリズ、って呼んでくれよ!」
自己紹介をし、一瞬間が空く。次の瞬間に大音量の歓声。リズの容姿は親友という贔屓目を除いても可愛いだろう。女子もまた可愛い女子がクラスの仲間になる事に喜び。男子共々歓声を上げた。
「おお、可愛いなショウ!」
「はぁ……? お前、どこをどう見て俺にそう言える……?」
「は? 何お前、あの子となんかあんの?」
「……俺の幼馴染」
「はぁぁぁ!? 今井さんと言うものがありながら、あんな可愛い子が幼馴染ィ!? 死ねてめぇ!!」
机に突っ伏して答えると、飛鳥が大声を上げて俺の頭をぶっ叩いた。急に叩かれた俺は立ち上がって飛鳥の首元を掴んで持ち上げた。
「おーい、香月、紅宮。喜ぶのはいいけど喧嘩すんなよー」
「「すんません」」
教師に注意され、俺と飛鳥は席に座り直す。当然、クラスメイトから注目されるわけで、皆から笑われる。
そして、あいつにも発見される。
「将吾じゃん。なんだ、お前もここだったのか」
「お、なんだ、古跡と知り合いだったのか紅宮」
「幼馴染なんですよ、アタシと将吾」
リズがそう言った途端、クラスの男子全員がガバッ、と俺の方に振り返って睨んでくる。
「よし、前から紅宮に学校の案内頼もうと思ってたが、これなら安心だな。紅宮、古跡を頼んだぞ。古跡の席は紅宮の隣な」
「はーい。んじゃ将吾頼むぞー!」
「……はい」
教師からの頼み、親友の頼みというのもあって、俺はリズの学校案内役に抜擢された。
親友が同じ学校というのは嬉しいが、クラス中の男子から敵視されるのは嫌だなぁ……。
本当はもっとリサを泣かせたかった。こう、リサが泣いてる姿見ると何かくすぐられますよね。心が死ぬけど。
感想、評価お待ちしてます。