赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい!   作:倉崎あるちゅ

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よし、好調に書けました。陽だまりロードナイトのinstrumental聴きながら書くのはいいですね。




二曲 彼女がいない日

 

 昼休みになる頃にはもう、将吾は満身創痍だった。休み時間の時にクラスメイトからのリズリットに関する質問責めに、男子からの憤怒が混じった視線。

 それらを耐え切った彼は食堂のテーブルに突っ伏していた。

 

「ほら将吾、早く食わないとラーメン伸びるぞ」

「わかってる……」

 

 リズリットに言われ、将吾は上体を起こしてどんぶりから湯気を立たせるラーメンを見る。あのあと、友希那から連絡があり、リサは学校を休んでいるようだった。当然朝に会っていないため将吾の弁当はない。

 久しぶりだな、と心の中で呟き、彼は割り箸を手に取ってラーメンの麺を持ち上げた。

 

「ショウ、今日は弁当じゃないのか?」

「……あぁ、今日は休みだって」

 

 カツ丼が乗ったトレイをテーブルに置いた飛鳥が珍しそうに訊いた。答えた将吾はズルズルと麺を啜る。

 飛鳥はへぇ、と相槌を打って昨日の泣きながら走り去るリサを思い出した。それが関係しているのでは、と彼は思ったが、リズリットがいる手前、不用意にその話をしたくはなかった。一回くらいリズリットが離れる時があるだろうし、いいだろうと考えた。

 しかし、教師からアレコレ手伝わされる将吾にそんな暇はなく、飛鳥は結局昨日の事を言えなかった。

 

「将吾ー! 帰ろー」

「悪い、俺今日バンド練習」

「なんだ、お前バンド組んでたのか」

「サポーターだけどな。悪いな、リズ」

 

 そう言って将吾はカバンを持ってひと足早く学校を出ていった。

 

「仕方ないなー。飛鳥ー、帰るよ」

「知り合って間もないのによく誘えるなぁ!?」

「別にアタシはそういうの気にしないし」

 

 パワフルだ、とリズリットに誘われた飛鳥は小さく呟く。リズリットは背中が小さくなる将吾の姿を見てふっ、と小さく笑う。

 

「中学の頃より楽しそうじゃんあいつ」

「リズさん、なんか言った?」

「なんも言ってねーよ。ほら、さっさと靴履く!」

「うわ、待って待って」

 

 靴を履くのに手間取る飛鳥の背中を叩き、彼女は生徒玄関をくぐって外へ出た。

 

 

 

 ♪ ♭ ♪ ♭

 

 

 

 羽丘の校門に着いた俺はその場に、花女の制服を着た紗夜と燐子がいる事に気付いた。二人とも委員会などがなかったみたいで俺より先に着いていたようだ。

 

「おまたせ、皆」

「ショウ、くん……今井さん、今日来ないみたいだね」

「あぁ。風邪だったのか?」

 

 友希那にそう訊くと彼女はえぇ、と頷く。昨日来なかったのは体調を崩して来れなかったのかもしれない。人の体調なんて突然悪くなったり良くなったりするものだ。特にリサは俺達を支えようと日々明るく接して忙しくしてるし、体調を崩すのも無理はない。

 そうさせないようにするのが俺なのに。ダメだな。

 

「そっか〜、今日リサ姉いないんだ……」

「今井さんがいない練習って……初めてだよね」

「確かに、俺がいない時はたまにあるけどリサがいないのは初めてだな」

 

 今日の練習メニューは少し予定を変えて既存の曲の反復練習かな。新曲の意見とかも聞いておきたかったんだけど、それはまた今度にしておこう。

 

「今井さんがいなくても、私達は普段通りに練習をしましょう。その方が彼女も心配しないはずよ」

「そうね。紗夜の言う通り、リサがいなくてもやる事は変わらないわ。スタジオに向かうわよ」

 

 普段通りに行くといいんだけどな。何かとRoseliaはリサを軸にしてるところが多々あるし、リサがいなくなるとどうなるのか。

 そんな一抹の不安を抱え、先を歩く四人の後を追う。スタジオに向かう道中、あこが昨日のNFOでドロップした素材の話を俺と燐子にし、あれこれとその素材の使い道を話した。

 

「あとは、そうだな。あまり使ってる人はいないけど、その素材から作れるアクセサリーが魔力の底上げにもなるはず」

「ホント!?」

「でも、それよりも高ランクのアクセサリーあるから使うやつなんていないぞ」

「初心者向き、なのかな」

 

 初心者にそのアクセサリーはいいかもしれないが、まずその素材を手に入れるにはレベルを少し上げなければならない。そのため、中級者向け、とされるがそこでも使っている者を見た事がない。

 とどのつまり、あこがドロップさせた素材は不要の産物なのだ。

 

「ちぇー、見た事ないアイテムだったのに〜」

「仕方ないよ、あこちゃん」

「次のイベントは友達招待するとアイテムが貰えるらしいから、それで我慢我慢」

「確か、それってあこちゃん……好きそうだったよね」

 

 燐子の言葉を聞いたあこは拗ねていた表情から一気に笑顔に戻った。テンションの上がり下がりが忙しい。

 燐子とあこの微笑ましい光景を見て笑っていると、突然スマホが振動する。

 

「……っと、すまん、電話出る」

 

 四人に断りを入れ、俺は電話に出た。すると電話口から申し訳なさそうな声が聞こえてくる。

 

『ごめんねー、ショウくん……』

「なにかありました、まりなさん?」

『実は……その……カフェテリアの方に人が足りなくてさぁ。頼めるかなー?』

 

 私がやろうかなって思ったんだけど書類が、と申し訳なさ最大で言う。人手が足りないのならば仕方ない。

 

「ちょっと待ってくださいね。今友希那達に相談するので」

『うん、無理しないでいいからね』

 

 マイクをミュートにして友希那達を見ると、何かを察したのか軽く溜息をついていた。

 

「悪い、CiRCLEで人手不足らしい」

「そう。ショウが行きたいのならいいわ」

「悪いな。リサもいないのに……」

「私達もCiRCLEでスタジオを借りますし、何かあれば呼びます」

 

 わかった、と返事をしてマイクのミュートを解除してまりなさんに出勤すると伝える。ありがとう、と深く感謝され、俺は苦笑いを浮かべた。

 しばらく歩いてライブハウスCiRCLEに着いて友希那達と別れ、俺は更衣室に入った。自分のロッカーに制服の上着を入れてワイシャツの上から赤いエプロンをつける。

 CiRCLEには制服は存在しない。まりなさんはカーディガン着てるし、他のスタッフはトレーナーだったりシャツの上からエプロンをしている。

 エプロンの後ろの紐を縛りながら更衣室を出てまりなさんのところへ向かうと、笑顔で手を振ってきた。

 

「ありがとね、来てくれて」

「いえ、いいんすよ。ただ、Roseliaで何かあったら行っていいですか? 今日リサいなくて」

「あ、そうなんだ! うん、行っていいよ」

 

 まりなさんから許可も貰ったし、これであいつらに何かあっても大丈夫だな。リサがいない日なんて初めてだからいろいろ不安だけど、なんとかなるだろう。

 バイト頑張るか、と両頬を叩いてカフェテリアの方へ向かう。昼までの先輩スタッフの引き継ぎを行い、レジのお金を合わせる。

 

「あれ、ショウくんやん」

「雨河さん。今日はAfterglowの付き添いなんすね」

「おう。バイトも休みでな。暇なら来いやーって蘭とひまりから言われたんや」

 

 そう言って彼はカフェテリアのテーブル席に蘭達が座って待っている方を指さす。雨河さんから注文をとり、オーダーを作り手の後輩スタッフに知らせ、レジに指を走らせた。

 

「合計五万円でーす」

「はいはーい、五万円なー……ってそんな高くないやろ!」

 

 俺のボケに雨河さんが流れるようなノリツッコミをし、作り手の後輩スタッフが笑う。

 

「ホンマにショウくん、オレに会う度にボケかますなぁ」

「雨河さんのツッコミが面白いんすよ。はい、極上コーヒー六つにフルーツタルト五つ」

「まぁ、おもろい言ってくれんの嬉しいけどよー」

「れいにぃ遅い」

 

 トレイを受け取った雨河さんと話していると、蘭が無愛想に雨河さんに苦言を言う。苦言を言われた彼はすまんすまん、と快活に笑った。

 

「それじゃな、ショウくん!」

「はい、また」

 

 トレイを持ち、蘭にあーだこーだと言われながら雨河さんはそんな事知らんと言わんばかりに笑って受け流す。その後ろ姿を見て俺は楽しそうだな、と思った。

 皆、学校が終わってバンド練習や個人練習をしにCiRCLEの併設スタジオにやってくる。練習終わりや練習の合間にここのカフェテリアを利用する人も少なくない。平日は夕方のこの時間がピークになる。

 二時間くらい経てばピークは過ぎ去り、カフェテリアの方は手が開く。その間に各テーブルを拭き掃除をして綺麗にしておいた。

 暇になるとRoseliaの皆は大丈夫かな、と考える。

 ちゃんと休憩は取ってるのかな。リサと俺がいないから止めるタイミングを失っていそうだ。

 そう思っていると、ライブハウスから四人程の集団がカフェテリアにやってきた。友希那達だ。

 彼女達はテーブルに着いて、メニュー表に目を通すと、あこがレジに立つ俺の方へ歩いて来た。

 

「今から休憩か?」

「うん! もうへとへとだよ〜」

「今からって事は結構練習したな。大方、パフォーマンスが落ちたから、ってところか」

「凄い! ショウ兄わかるんだ!」

「そりゃ、Roseliaのサポーターですから」

 

 あこからキラキラした目を向けられ、ふふん、と俺も胸を張る。

 

「それで、注文は?」

「あ! そうだった。えーっと、りんりんがホットミルクあったらそれにしたいって!」

「ホットミルク? 今の時期はないな。……まぁ、俺が準備したらいいだろ。燐子にいいよって言っといて」

「ホント!? わかったりんりんに言ってくる!」

 

 そう言ってあこはパタパタと友希那達のところへ帰って行った。その間にホットミルクの準備をしておく。おそらく友希那はコーヒーを頼むだろうしカップも準備しておこう。

 あ、昨日のお詫びで紗夜にカリカリポテト奢ろう。

 

「悪い、カリカリポテトの準備手伝ってもらえる?」

「はい!」

 

 今年入った新人スタッフだが、この子は元気が良くて動きもいいな。

 

「ショウ兄ー! ホットコーヒーとホットミルク、いちごソフトと抹茶ソフト、あとゴマソフトちょーだい!」

「はいはい。少し待ってて」

 

 会計を終わらせ、あこに待つように言って、ソフトクリームを作っていく。慣れた手つきでソフトを作っていると後輩スタッフとあこがおお、と感嘆の声を上げる。

 そんな見つめんな、手元がブレる。つか、ポテト見ててよ。

 無事に作り終え、ソフトクリームをスタンドに立ててトレイに乗せる。最後に揚げたてのカリカリポテトを置いて終わりだ。

 

「はい、お待ち」

「あれ、ショウ兄ポテトなんて頼んでないよ?」

「これは紗夜のお詫び。昨日俺怒られてたでしょ?」

「あー! ショウ兄紗夜さんに怒られてたもんねー!」

 

 思い出してくれたみたいで、あこがあはは、と明るく笑う。ソフトクリーム溶けるぞ、と言うと彼女は慌てて友希那達のいるテーブルに戻って行った。

 

「確か、Roseliaのドラムの子でしたよね」

「そ。Roselia一の元気っ子」

 

 Roseliaが今よりも近寄り難い雰囲気がないのは、リサの影響もあるだろうがあこの元気な姿もその内の一つだろう。

 あ、しまった。友希那苦いのダメじゃん。砂糖つけるの忘れてた。

 

「ショウ兄ー!! お砂糖ちょうだーい!!」

「ごめん、忘れてた。はい、砂糖」

 

 タイミング良くあこが帰ってきて砂糖を手渡す。

 ダメだな。カフェテリアの仕事する時によくリサと友希那来るけど、砂糖はリサに言われてから付けてるから忘れてるな。

 はぁ、と短く後輩スタッフに気付かれないように溜息を吐いた。

 

 

 Roseliaの練習よりも早くバイトが終わり、俺は四人が使っているCスタジオに入る。中に入るとマイクのケーブルは散らかってるし、友希那はギターのシールドが足に絡まってるし、床には燐子が持っていたであろうホットミルクが零れている。

 

「なんだこの惨状は!? なんでホットミルク零れてんの!?」

「ショウ兄ぃ!」

「あー、あこスカート濡れてるのか。ほら、俺のハンカチ使って。叩いて水分取る感じで拭くんだぞ。で、水洗いしといで臭いついたら大変だから」

「ありがとショウ兄……」

 

 あこはトイレに行った。あとはマイクのケーブルとシールドだな。

 

「雑巾がすぐ近くにあるから取ってくる」

 

 すぐに近くにあるロッカーを開けて雑巾数枚を取り出して紗夜と燐子に投げ渡す。

 

「それでホットミルク乾拭きして。俺は雑巾濡らしてくるから。友希那はマイクのケーブル束ねておいてくれ」

 

 すぐに男子トイレに入って雑巾を濡らして絞る。走ったら危ないので駆け足でスタジオに戻った。ホットミルクはすでに拭かれており、俺はその上から濡らした雑巾で拭き直す。機材にもかかってたしそっちも拭かなければ。

 それから十分後、先程までぐちゃぐちゃだったスタジオは綺麗に片付けられ、紗夜が借りたであろうエフェクターやドラムに使うハイハットにシンセサイザーを返した。

 

「終わった……」

「紅宮くんが来てすぐ終わったわね……」

「的確……でしたね」

「リサほど的確じゃない。リサならもっと早く終わるはずだ」

 

 リサがいないとこんなにも大変なのか。バイトもやって、こうして片付けるの大変だぞ。

 

「ショウ兄ありがとー! おかげで綺麗になったよー!」

「おう。よかったよかった」

 

 あこのスカートが綺麗になったみたいでよかった。シミになったり臭いつくとクリーニングに出さなきゃいけないしお金もかかるからな。

 それにしても、心底思う。リサがいないと本当に大変だ。それは友希那達も思っているようで溜息をついている。

 彼女がいない日はもう二度と来ないで欲しい。

 

 

 




今回は、「Don't leave me Lisa!!!」のイベストに触れました。察しのいい方なら気づくでしょう! 気づくといいな。


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