赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい!   作:倉崎あるちゅ

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よっしゃー!!連日投稿!

凄く書きたいところだったので頑張りました!


三曲 この想い

 リサが来なかった日の翌日。この日もまたリサと友希那の家の前まで来るが、リサの姿はなかった。俺と友希那は心配になりリサの家を訪ねたが、彼女の母親が出ただけだった。ただ、少し良くなっているみたいで、おそらく今日は遅れるが登校できるそうだ。

 よかった、良くなったみたいで。昨日のバンド練習が終わったあとにお見舞いに行ってもリサの姿は見られなかったから、良くなったと聞いて安心した。

 

「よかった、回復してるみたいで」

「えぇ、そうね。私も心配したわ」

「今日はバンド練習ないんだったな。ちょうどいいな、リサも休めるし」

「体調が万全ではないのだし、仮にあっても休ませるわ」

 

 心外だと言わんばかりにジトっとした目で見られ、俺は肩を竦める。

 何はともあれ、リサの体調が良くなったのはいい事だ。燐子とあこもストイックな友希那と紗夜の重い空気に耐えられないからな。リサがいてくれるだけでも助かる。

 ……今日の昼飯、どうしよう。

 

 

 

 ♪ ♭ ♪ ♭

 

 

 

 二時間目の授業が終わったあと、リサは遅れて学校に登校してきた。教室に入るとクラスメイト達が心配したと声をかけ、彼女は普段通りの明るい笑顔を浮かべて心配かけてごめん、と謝る。

 

「リサちー、おはよ。大丈夫なの?」

「ヒナ、おはよー☆ うん、大丈夫大丈夫」

 

 クラスメイト達に向けた同じ笑顔を浮かべると、声をかけた氷川日菜はそっか、と自分の席に座るリサを納得いかない顔で見つめた。

 そんな日菜の隣に、女子にしては高身長な人物が立つ。

 

「私には、とても大丈夫そうには見えないね」

(かおる)くんもそう思う?」

 

 席について、隣の席のクラスメイトと話すリサを見つめ、ハロー、ハッピーワールド! のギターを担当する瀬田(せた)薫は神妙な面持ちで頷く。

 

「何かあったのかなーリサちー」

 

 何かと周りを振り回す日菜だが、友人の不安定な状態を見過ごすほど鈍いわけではなかった。不思議そうに首を傾げ、うーん、と考えた。

 授業が始まるチャイムが鳴り、皆一様に席に座り始める。クラスメイト全員が前向き、リサは教科書とノートを机の上に広げ終わると短い溜息を吐く。

 まだ、彼女の頭の中には一昨日の夕方の光景が焼き付いている。走って帰ってからずっと、リサの心は何かを喪失したかのような感覚が残っていた。

 気分を紛らわそうとベースに触れようとしても将吾の事が頭から離れなく弾けなかった。

 

 ──ショウに彼女がいたって、別にアタシには関係ないのに。

 

 涙は止まった。しかし心は晴れず、今もなお彼女の胸を締め付ける痛みは消えない。理解ができない。あの光景を見ただけで心が締め付けられた。何故か、信じたくない気持ちもあった。

 

 ──もう、ショウの家には行かない方が良いのかな。

 

 彼女がいるなら邪魔したら悪いし、いかなくていいよね、と心の中で呟く。そうすると次の瞬間には止まったはずの涙がまたしても溢れそうになる。

 今は学校にいるため、リサは必死に溢れそうになる涙を止めて黒板の方へ視線を向けた。

 

 

 

 ♪ ♭ ♪ ♭

 

 

 

 昨日は友希那からリサが登校したと連絡を受けた。しかし、相変わらずリサからの連絡は一切ない。少し寂しい気持ちもあるが仕方ないだろう。

 今日は日直だったため早めに登校した。そのせいでリサと友希那と一緒に登校できなく話す事ができなかった。

 それにしても、彼女の料理を二日だけとはいえ食べていないのは、こう、なんだろうか。モヤッとする。言葉で言い表せないのが痛いが、そんな感じがする。

 一日中リズに付き合っていたせいでへとへとだ。何かあれば手が飛んでくるしあまり逆らいたくない相手なのでついていくしかないのだ。

 のそのそと羽丘に向かって歩いていると、校門前には友希那とあこ、そしてリサの姿があった。

 

「おまたせ」

 

 三人が話しているところで声をかけると、リサがビクリと肩を震わせた。

 

「ショウ兄! 遅いよー!」

「ごめん、ちょっと疲れててさ」

「ショウ、リサにも話したけれど体調管理はしっかりして。貴方達がいないと私達Roseliaは回らないのだから」

「わかったから、そんなマジな顔すんなよ」

 

 気をつける、と付け加えて俺は次にリサの顔を見た。すると彼女は俺の顔を見るなり一瞬固まる。

 

「リサは体調は大丈夫か? 風邪だったんだろ?」

「うん、大丈夫だよ。ありがとね、お見舞い来てくれて♪」

 

 固まったと思いきや、リサは笑顔を浮かべた。しかしそれは無理をしたような笑みで、どこか愛想笑いにも似ていた。

 まだ治ってない……? いや、でもこの表情はきっと、なにかがあるような。

 何故そんな笑みをするのか疑問で、俺はそう考える。

 友希那が歩き始め、俺達は彼女についていく。今日も練習場所はCiRCLEの併設スタジオだ。行く途中に紗夜と燐子とも合流して、二人ともリサの体調の心配をしたあとに練習を欠席しないようにと念を押していた。

 

「そういえばさ、ショウ兄っていっつもリサ姉にお弁当作ってもらってたよね?」

「あぁ、それがどうかしたか?」

「リサ姉いない間どうしてたの?」

 

 あこに質問され、俺は言葉に詰まった。答えない俺に皆の視線が刺さる。

 

「えーっと……その」

 

 左耳につけているピアスに触れて、俺はしどろもどろになりながら二日間の昼飯と夜飯を答えた。

 

「昼は学食のラーメンとか、購買のパン二個くらい。夜はその……」

「夜は、なんですか紅宮くん」

「冷蔵庫になんもないの忘れてて、中にあった豆腐と納豆だけで済ませました……」

 

 そう答えると空気が凍った。

 友希那の眼は凄く冷たくて、紗夜は呆れたような眼で、燐子は可哀想な人を見るようで、あこはえぇ……と紗夜同様呆れていた。そして最後に怖いリサは、もの凄い複雑な顔して俺の事を見ていた。

 

「ショウ、貴方リサがいないとまともに食べないの?」

「いや、そうじゃないんだけど……」

 

 じゃあなに、と苛立たしげに言われ俺は素直に口を割る。

 

「食材買い忘れたってのもあるけど、単純にリサの料理に慣れ過ぎて自分の料理じゃ物足りないというか」

「はぁ……」

 

 後半は自分でもわかるほど小さくなっていき、ボソボソと喋った。友希那は溜息をついてからあれこれと説教をする。やれRoseliaのサポーターなのだからしっかりとしろだの、やれリサがいなくても生活に支障を出さないようにしろだの言ってきた。

 自分だってリサいないとダメなくせによく言うものだ。

 文句の一つも言ってやりたい気持ちもあるがこればかりは俺が悪い。

 

「……」

「リサ? なんだその顔」

 

 眉を寄せたり落ち込んだり頬をひくつかせたりと忙しくしている。行かなかった事に申し訳なく思っているのか、彼女は目を伏せて口を開く。

 

「その、ごめんね行けなくて」

「いいんだよ。そもそも俺が悪いんだしさ」

 

 今日は全員揃ったし、一昨日みたいな事は起きないだろう。今日は新曲について話を詰めて──

 

「……ごめん、電話だ」

 

 どうせまりなさんでしょ。ほら、そうだ。

 スマホを取り出して画面を確認するとまりなさんの名前が表示されていた。友希那達に断りを入れて電話に出ると、一昨日の焼き回しのように申し訳なさそうな声が聞こえてくる。

 

「……ショウ、また?」

「あぁ、また」

「そう」

 

 せっかく揃ったというのに。燐子があー、と同情の眼差しを向けてくるのがわかる。あこも大変そうだなー、と呑気に言う。

 

「仕方ないわね」

「紅宮くんにはあとで新曲についての話をまとめて連絡しておくのでそれで我慢してください」

「……おう」

 

 くそ、俺だけハブかれるなんて。まりなさん、ホント恨むぞ。

 少し急いでるみたいだったので、俺は皆に一言言って走ってCiRCLEに先に向かった。

 

 

 

 ♪ ♭ ♪ ♭

 

 

 

 スタジオを借りて、新曲について話をするRoseliaメンバー。曲調やベースラインも詰め終わり、次は衣装について話が広げられた。

 

「おおー! 今回は赤がメインなんだねりんりん!」

「うん……曲に合うかなって」

 

 まだ細かいデザインは考えてないけど、と燐子は照れくさそうにはにかんだ。白い紙に描かれた衣装のデザインはどれもドレスを元にしたデザインだった。演奏の邪魔にならない、が前提なため、ノースリーブ、またはオフショルダーのデザインだ。

 ファッションに詳しいリサもこれを見て、興味津々に目を輝かせる。

 

「わー! アタシの衣装とかドレス感強くていい感じじゃん♪ 燐子ありがとー!」

「い、いえ……今井さんに似合うかなって、思ったので……」

 

 嬉しそうにお礼を言われ、燐子は顔を赤くして俯いた。まだ慣れていないようで彼女は落ち着かないようだ。

 

「失礼しまーす。レンタル機材のお届けでーす」

 

 そんな声と共にスタジオに入ってきたのは、シンセサイザーとエフェクター、ハイハットを持ってきた将吾だった。紗夜、燐子、あこはそれぞれ頼んだ機材を受け取って練習するために準備する。

 さきほど、機材をレンタルするためにインターホンで借りる旨をリサが伝えたのだが、将吾ではなくまりなだったため、てっきりリサはまりなが来ると思っていた。そのせいか、リサは将吾を見て顔を伏せて見ないようにしていた。

 

「んじゃ、頑張ってな。何かあったら言って」

 

 そう言って彼はリサの様子に気づく事なくスタジオから去っていく。隣でリサの様子を見ていた友希那は、顔を伏せる彼女に声をかけた。

 

「リサ、ショウと何かあったの?」

「っ……な、なんでもないっ」

 

 さ、練習練習ー! とリサはスタンドに立てかけていたベースを手に取って肩にかける。少し引っ掛かりを覚える友希那だが、練習に集中するため気持ちを切り替えた。

 何度か通しで練習し、その後は各個人で気になる部分を洗い出して互いに納得のいくまで練習をする。

 しかし、その間ベースの音が何回も途切れ、またはズレが起こった。

 

「今井さん、ミスが多いようだけど大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。ごめんね、紗夜」

「……何かあれば言ってください。今日の貴女は少し変です」

「……」

 

 紗夜が心配し、声をかけるがリサは大丈夫の一点張り。友希那もリサ、と声をかけても黙って何も言わない。

 痺れを切らした紗夜と友希那は互いに頷き、リサを取り囲む。

 

「え、ちょっと二人とも!?」

 

 紗夜がベースをリサから取り上げて友希那がベースケースを開いて紗夜から渡されるベースをしまう。

 

「白金さん、宇田川さん。悪いけれど機材を片付けて。今日の練習は中止よ」

「わ、わかり、ました」

「は、はい」

 

 燐子とあこは何が何だかわからない、といった様子で指示通りに片付けをする。

 

「紗夜、リサは任せたわ。私はあこ達とスタジオを片付けるから」

「わかりました。ほら、今井さん行きますよ」

 

 ズルズルとリサを引き摺るように紗夜は歩き、カウンターで仕事をする将吾と目が合うと、彼女は止まってキッパリと言った。

 

「今井さんが調子悪いようなので練習は中止です。今井さんは私が送りますので。では」

「……お、おう。気をつけてな」

 

 再びリサを引き摺るように歩く紗夜を見て将吾は触れてはならないのだと察してそれ以上言わずに見送る。

 必死に大丈夫だと言うリサを無視して紗夜は歩く。そんな行為を繰り返していると、気づけばリサの家の前まで来ていた。

 

「まったくもう……大丈夫なのに……」

「大丈夫には見えなかったから連れ出したのよ。湊さんも気づいているみたいでしたし」

 

 強めの口調で言われ、リサは言葉を詰まらせる。

 唇を噛み、彼女はしばらく黙り込む。そして、リサは小さく呟いた。

 

「……わかった。話す」

 

 入って、と紗夜を家に通す。リサの母親は買い物に行っているのか、家の中には誰もいない。

 まっすぐリサの部屋に招かれ、紗夜は背負っていたギターケースをリサが壁に立てかけたベースケースの隣に立てかける。

 リサは制服のブレザーをハンガーにかけ、クッションを抱いてベッドの奥に座った。

 

「……今井さん、下着……」

「紗夜も女の子だしいいじゃん」

 

 まったく、とリサの言葉に紗夜は頭を抱える。溜息をひとつつき、彼女はリサの隣に座る。

 二人は会話をせず、静寂の時間がしばらく続いた。

 そんな静かな時間を、リサが切り裂く。

 

「この間さ、見ちゃったんだ」

 

 唐突に彼女がクッションに顔を埋めながらそう言う。紗夜はわからずに首を傾げた。

 

「何をですか?」

 

 一拍置き、リサはクッションに埋めていた顔を上げて、一筋の涙を零した。

 

「ショウが……女の子と抱き合ってるとこ」

 

 

 

 ♪ ♭ ♪ ♭

 

 

 

「紅宮くんが、女の子と抱き合っていた……」

 

 アタシの言葉を聞いた紗夜が驚いて目を見開く。

 あはは、思い出したらまた涙出てきちゃった。学校でも出そうになったし、ダメだなー。

 アタシはまたクッションに顔を埋めて紗夜の反応を待つ。

 

「今井さんは、どう思ったんですか」

「どう、って……」

 

 そんなの、ショックだったに決まってる。なんでかはわからない。けど、ショックで、信じたくなくて、悲しくて……。

 

「……」

 

 アタシは要らないのかな、って思えてきて、寂しかった。

 ずっとそんな事考えてて泣いてた。ショウには彼女いるんだし、アタシなんて行かなくていいじゃん、って。

 だんだん顔を埋めていたクッションが涙で濡れてきた。

 

「私は、今井さんならすぐに理解しているものだと思ってました」

「え……?」

 

 顔を上げて紗夜の方を見ると、紗夜は柔らかく微笑んでた。

 

「私がすぐわかったくらいですし、本を読んでる今井さんならわかっていると思ったんですが、気づいてなかったのね」

「気づく?」

 

 わからない、紗夜の言っている事が。

 紗夜は二回目のまったく、と困ったように呟く。

 

「貴女は、紅宮くんの事をどう思っているの?」

「ショウの、事を」

「一緒にいて、どう感じるの?」

 

 ショウと一緒にいて感じるもの。それは、温かくて、柔らかくて、優しくて、楽しくて、そして安心する。ずっと、ずっと感じてたい感覚。もっと一緒にいたいって思う。

 

「……そっか」

 

 気づいてなかった。アタシ、ライブしてる時や練習してる時、ずっとショウの事目で追ってた。もっと見て欲しくてオシャレしたり、髪の手入れしたりしてた。

 簡単な事だった。

 

「……アタシ、ショウの事……」

 

 

 ──好きだったんだ。

 

 

 この想いに気づいた瞬間、アタシの胸が高鳴って、苦しいくらい締め付けられた。

 そうだ、この感じ。ずっと、ずっと前からあったのに気づいていなかった。

 

「ははっ……鈍いなぁ、アタシ」

「周りの事は気づくのに、自分の事になると鈍感ですね、貴女は」

「うん、そうかも」

 

 きっと、この想いは小学生の頃に助けられた時からだ。だからアタシはずっとショウがいないか探して待ってたんだ。

 でも、今気づいたって、遅いよね。

 

「まだ、紅宮くんに彼女ができたと確定したわけではないわ。だから落ち込まないの」

「……紗夜」

 

 またクッションに顔を埋めようとすると、紗夜が優しく頭に手を置いて髪を梳くように撫でる。

 

「応援するわ、貴女の恋を。だから、諦めないで」

「っ……! 紗夜、ありがと……!」

「ちょ、今井さん泣かないでください!」

 

 紗夜の言葉に、アタシは涙を流して紗夜に抱きついた。

 慌てる紗夜は少しして落ち着いてアタシの背中を母親みたいにトントン、と叩いてくれた。

 

 

 




今回の反省点は場面転換が多かったところですね。ここはもっとプロットを詰めれば改善できたと思うので以後気をつけます。

さて、やっと気持ちに気づいたリサ。お楽しみにしてください!!


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