赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい! 作:倉崎あるちゅ
タイトルでお察しの通り、そういう事です。
学校がないこの日、スマホのアラームで起こされた俺は、眠たい目を擦りながらベッドからむくりと起き上がった。ふわりとリサと同じ柔軟剤の香りが舞い上がる。この香りを嗅いでいるとまた眠くなってくる。
「ふ、あぁ……」
今日は昼からバンド練習があるため、このまま二度寝するわけにはいかない。
「わぶっ!」
少しボーッとしているとベッドの上に乗ったナウが突然俺の顔にしがみついてきた。黒猫を引き剥がして顔の前に持ってくるとペロリと俺の顔を舐める。
時間的にはあと少しでナウの朝ご飯だ。
ナウのおかげで目が覚め、俺はナウを抱いて下に行く。リビングについて黒猫を下ろして俺は洗面台に立って冷たい水で顔を洗う。
最後に歯を磨き終え、キッチンへ。昨日買った食パンを使ってサンドイッチを作り、テーブルの上にコーヒーと一緒に置いた。ナウのご飯も用意してあげて、ナウ専用の器を、まだかまだかと尻尾をゆらゆらと動かす子猫の前に置く。
この猫、本当に頭がいい。何も言わずとも待てをする。しっかり言う事を聞くし大人しい。躾も必要なかったくらいだ。
「いただきます」
俺も椅子に座って作ったサンドイッチを頬張る。
ん、ソースもう少し濃くした方が美味しくなりそう。
自分で作ったサンドイッチのソースの感想を心の中で言い、次にコーヒーを飲んだ。
朝食を食べ終えて着替えを済ませ、再びリビングに帰ってきた俺は、スマホに通知が来ている事に気づいた。
リズからのメッセージで、今から遊びに行く、と来ていた。
「いやいや、今からとか勘弁してくれ。バンド練習あんだから」
ガリガリと後頭部を掻く。バンド練習ある、と返信しようとした瞬間、家のチャイムが鳴った。
インターホンのカメラで確認するが人はいない。これで確信した。チャイムを鳴らしたのはあいつだ。
俺は靴を履いて家を出て、塀のすぐ裏側を確認する。予想通り、塀の裏側には金色の長い髪をポニーテールにしたリズが隠れていた。
「……ふんっ!」
「いて!?」
くだらない事をする彼女の頭に拳を叩き込み、首根っこを掴んで家に入れる。
「お前は毎回毎回! 子供みたいな事しないと気が済まんのか己は!」
「ごめん、いひゃいはなひて」
俺は玄関でリズの頬を抓り上げて怒鳴りつけた。
こいつは北海道にいた頃からこうして遊びに来る時はピンポンダッシュをしてくる。そして、北海道にいた時は俺の爺さんに見つかると今みたいに頬を抓り上げられる。
良いだけ抓り上げたので、解放してやると頬に手を当てて、俺を睨んできた。
「なまら痛いべや! じいちゃんより痛い!」
「知るか!」
学校にいる時は北海道の訛りを出さないようにしてるのか、久しぶりに訛りを聞いた気がする。
「ん? 将吾出かけるの?」
靴を脱いでリビングに行こうとするとリズが不思議そうに俺の格好を見てそう質問してきた。
「あと少しでバンド練習」
「えー、またー? 少しは幼馴染と遊んでくれよー」
不満げに言って俺の後に続いてリビングに入ってくる。すると、ナウがリズに向かって毛を逆立てて警戒しだす。
「ナウー、大丈夫大丈夫」
警戒する黒猫を抱いて小さな頭を撫でてやる。
初めて会った相手だからか、警戒が強い。リサと友希那に初めて会ったのが一年前のため、今より幼かったナウは警戒すらしなかった。
もともと友希那の家が昔に猫を飼っていたと言っていたし、扱いが慣れていたというのもあるだろう。
「おお、将吾猫飼ってんのか……」
「あぁ、去年公園で拾った。離しても離しても離れなくて」
「いいなぁ、アタシ猫はてんで懐かれないし」
そういえばリズは猫に懐かれる方ではなかったか。どちらかと言うと犬に懐かれる。
そーっとナウに手を差し出すが、ナウはリズの顔を睨んで触らせない雰囲気を出す。彼女には悪いが諦めてもらうしかない。
仕方ないかー、と頭の後ろで手を組み、リズはソファに座る。
「あっ、将吾! アタシもバンド練習見ていい?」
「帰れよ」
「あ゛ぁ゛?」
帰れと即答すると指を鳴らして凄んでくる。女の子がしてはいけない顔をして、赤い瞳で俺を睨んできた。
「……邪魔さえしなかったらいいと思うけど」
「しないしない! なんなら手伝うぞ」
リズに手伝わせたら危ないし遠慮しておこう。何やるかわからない。
「はぁ……連れてくけど、ダメだってなったら帰れよ」
「仕方ねーなぁ」
仕方ない、はこっちの台詞なんだが。
「ホントに迷惑かけんなよ」
「わかったって。大丈夫大丈夫」
本当にわかってんのか、この金髪。紅い毛先燃やすぞ。
♪ ♭ ♪ ♭
ライブハウスCiRCLEのカフェテリアで、早めに来ていた友希那、リサ、紗夜はそれぞれ好みの飲み物を飲んで談笑していた。
否、リサで談笑していた、というのが正しいだろう。
「はぁぁ……無理、緊張する」
自分の気持ちに気づいたリサは朝からずっとこの調子である。将吾に会いたいと思う反面、会いたくない、というのもある。
そんな彼女を、事情を知る友希那と紗夜は二人で笑っている。
「リサ、そんな調子で練習できるの?」
「……でもさぁ」
「あまり意識しすぎると、紅宮くんと今より気まずくなるわよ」
「うぅ……」
友希那がリサの気持ちを知ったのは、彼女自身が友希那に伝えたからである。まさか伝えたら、幼馴染が紗夜と一緒になって笑われるとは思わなかったようだ。
「そろそろ紅宮くんが来ますね」
「そうね、だいたいこの時間ね」
「あぁぁぁ、無理だって……」
手を伸ばしてテーブルに突っ伏し、リサは呻き声を上げる。会った時、どんなふうに声をかけたらいいのかと頭で考えても、脳内で将吾を想像しただけで沸騰しそうになる。
今もなお、うわー、と頬を染めて顔を覆っている。
「重症ね、今井さんは」
「耳まで真っ赤よ」
二人は苦笑いを浮かべてリサを見ながら残っているコーヒーや紅茶を飲み干す。リサも落ち着かせるためにコーヒーを飲み終え、深呼吸する。
よし、と深呼吸をして落ち着きを取り戻すと、後ろから将吾が声をかけた。
「何がよしなんだ、リサ?」
「ひゃう!?」
将吾が声をかけた途端、リサはビクッと震わせて変な声を上げた。おそるおそる振り返って彼女は将吾を見る。
「こ、こんにちは」
「ん? あぁ、こんにちは」
どうしたー? とリサの顔を覗き込むと彼女はなんでもないっ、と頬を染めて顔を背けて手で将吾の顔を押し退けた。
「なに、リサどうした」
「さぁ、どうしたのかしらね」
挙動不審な動きをするリサに疑問を持った将吾が友希那に問うが意味ありげな笑みを浮かべて何も言わない。
むむ、と考える将吾だったが、リサの耳が真っ赤に染まっている事に気づかない。すると、店側の方からリズリットが片手にソフトクリームを持ってやって来た。
「将吾ー! ここのソフトクリーム美味しいー!」
「騒ぐなっつったろ田舎娘!」
将吾が駆け寄ってきたリズリットの頬を抓った。
突然の事で驚いた友希那、リサ、紗夜は目を瞬かせて困惑する。
「え、えーと、紅宮くん、そちらは?」
頬を引き攣らせながら紗夜が訊く。
ふと、リサはこの間の光景を思い出した。あの時、将吾の肩越しから見えた髪の色、その色は金色だった事を。
──この人だ。
「あぁ、幼馴染の古跡リズリット。北海道に住んでたんだけどこっちに引っ越してきたんだと。それと、今日の練習見学したいって」
「そ、そうなんだ……」
痛いと繰り返し言うリズリットの頬を離して、彼女の紹介をする。紹介を聴いている間、リサは椅子から立ち上がりたい気分だった。
テーブルの上に置いていた手が少し震え出す。リサの様子に気づいた紗夜は彼女の手に触れる。
「ソフトクリーム落ちそうになったじゃーん……将吾後で覚えてろよ」
「騒ぐなって言ったのに騒いだリズが悪い」
将吾がそう言うとリズリットは痛烈な舌打ちをしてソフトクリームにかぶりつく。ペロリと口についたソフトクリームを舐めとって、リサや友希那、紗夜を見た。
「アタシは古跡リズリット。リズって呼んで!」
ニヒヒ、と髪を揺らして笑って自己紹介をする。その際に、彼女の耳に薔薇色のピアスが付けられているのが見える。
リサはその時、そのピアスに目が惹かれた。
──ショウと同じ、ピアス……。
彼女の心が、砕けようとしていた。
「私は湊友希那よ。よろしく、リズ」
「氷川紗夜です。よろしくお願いします古跡さん」
友希那と紗夜が自己紹介をすると、リズリットは紗夜にリズでいいって、と笑う。そして彼女は自己紹介をまだしていないリサに目を向ける。
視線に気づいたリサは精一杯笑顔を浮かべた。
「アタシは今井リサ。リサでいいよ、リズ♪」
「おう! よろしくリサ!」
手を握られリサは固まり、一方的に手を振られる。
人懐っこい、子犬のような雰囲気でポニーテールの金色の髪が揺れている。
リサが困っていると思った将吾は彼女とリズを離した。
「ほら、アイス溶けんぞ」
「あぁ!? あぶねー!」
将吾に指摘され、リズリットは指近くまで垂れてきたソフトクリームを舐めて、手を汚れる事を防ぐ。
まったく、と将吾はリズリットを見て呆れたように笑う。優しい眼差し。リサは彼のその目を見て胸が締め付けられる。
──やっぱり、アタシじゃダメかな。……ショウのあんな目、見た事ないや。
リサは内心、自嘲気味に呟いて顔を少し伏せた。
その後あこと燐子がCiRCLEにやってきて、七人でCiRCLEの併設スタジオに入る。
「今井さん、まだ諦めるのは早いわ。まだ確証はないのだから」
「紗夜……うん。ありがと」
スタジオに入る途中、将吾とリズリットに聞かれないよう、紗夜はリサに小声でそう励ました。
紗夜の励ましのおかげか、この日の練習はミスをする事なく続ける事ができた。
「リサ、今日は調子いいみたいだな」
「うん。昨日とこの間練習してなかったし、その分頑張らないとね♪」
「よし、なら今度俺の家来た時はもっと厳しくしていいな」
「ちょっ!? それは流石に勘弁してよー」
厳しい時はとことん厳しいのが将吾の練習方針である。それを知っているリサは冷や汗を流して手加減して欲しいと手を合わせて頼む。
その光景をリズリットは離れたところで見ていて、楽しそうだな、と小さく呟いた。そこでふと彼女はひとつ疑問を抱いた。
「リサは将吾の家によく行くのか?」
「あ、うん。よくっていうか、その……」
「リサはほぼ毎日来るぞ」
リサが言い淀んだ言葉を将吾が平然と言い出す。リズリットはへー、と興味あるように返事をする。
「リサには弁当とか晩ご飯も作ってもらってる。俺はベースを教えて、って感じ」
「ほうほう。リサは料理できるのかー! アタシできないからなー」
ダークマターだもんな、と将吾が言うとあ゛ぁ゛? 女性がしてはならない
「練習中よ。関係ない話はやめて。リズ、邪魔をするなら帰ってもらう」
「はーい、ごめんなさい」
友希那に注意され、話していた将吾、リサ、リズリットは謝って黙る。
練習は全員ミスをしても修正できる範囲のものだった。細かい指摘を将吾と友希那がし、各自以前より技術も向上した。
練習が終わり、将吾はリズリットを見ると彼女は椅子に座って船を漕いでいた。
「はぁ、こいつは……」
見学したいと言い出したのはリズリットのはずが、最後には居眠りしていた。これに将吾は苛立ちというより呆れが強く出て、頭を叩くという事すらしない。
「あ、あのさ、ショウ」
「ん? なに?」
今のうちですよ、と紗夜に背中を押され、リサは将吾に声をかけた。
「その、今日ショウの家にご飯作りに行ったら……ダメ、かな」
将吾とリサの身長差もあり、上目遣いで質問してくる彼女に、将吾は思わず目を背けてしまう。
──な、なんだ、リサがすげぇ可愛く見えた。
もともと可愛い部類であるリサだが、将吾は今までここまで思った事はない。せいぜい今日も可愛いな、オシャレだな、などだ。
「お、おう。久しぶり、っていうわけでもないか。リサの料理食べたいかな」
背けていた目を戻して、リサの目を見て返事をする。すると、
「そっか♪ うん、じゃあ帰りに買い物しないとだね」
ここ数日の中で一番の笑顔を浮かべて嬉しそうにそう言った。これには友希那と紗夜も陰で小さく互いの掌を叩く。
しかし、ここでちょうど目覚めたリズリットが声を上げる。
「アタシもリサのご飯食べたい!」
口からヨダレを垂らすのでは、と疑いたくなるほど口を開けてリサを見つめていた。
急な事に驚いたリサは固まっていたが、待てをする犬のような彼女を見てぷっ、と吹き出す。涙が出るほど笑い、落ち着いたところでリズリットに手を差し出す。
「いいよ、リズの分も作っちゃう! いいよね、ショウ」
「まぁ、いっか」
「ホント!? ヤッター! それじゃあ早く帰ろう! 今すぐ帰ろう!」
リサの手を掴み、リズリットは目を輝かせた。
皆に一言入れて将吾、リサ、リズリットの三人はスーパーに立ち寄ってから将吾の家に帰宅した。帰宅するなりリサにナウが飛びついたりとあったが、今はその黒猫は将吾の膝の上だ。
キッチンにはリサとリズリットが並んで料理をしている。リサがリズリットに料理をしながら教えているのだ。
時間的に晩ご飯としてはちょうどいいタイミングで出来上がり、将吾は約四日ぶりのリサの手料理を食べる事ができて満足そうに頬を緩めた。リズリットもリサの手料理を口に入れて次々におかずへと箸を進めていた。
食事を終え、片付けが終わったあと、三人であれこれとお互いの知らない将吾の話をしていると、気づけば時間は既に夜の九時を回っていた。
「うわ、もうこんな時間か」
「あっという間だったね~」
「まだまだ将吾の事をリサに話してーんだがなー」
「これ以上、俺の精神がすり減るの? 勘弁してくれないか」
昔話をされて既に将吾のメンタルは危機的だった。
「うーん、なぁリサ?」
「なに、リズ?」
「アタシらこのまま泊まらね?」
「えぇっ!?」
突然のリズリットの提案にリサはもちろん、将吾も驚く。
「いやぁ、リサがダメなら無理にとは言わないけどさ」
「……ショウがいいなら、アタシも、その」
いいんだけど、と髪を弄りながらリサは横目で将吾を見る。彼は頭を掻いてから、仕方ないな、と左耳を触りながら答えた。
「よっしゃ、決まりだな! じゃあ将吾、風呂洗ってこい」
「あーはいはい、ですよね」
入浴は女子にとって大切なもの、と理解している将吾は溜息をつきながら、着替えを取りに二階へ向かう。
リビングに帰ってきた彼の手には以前、リサが泊まった時に着たシャツとハーフパンツがある。
「リサはこの前のやつでいい? リズは適当にこんなん着とけ」
リサには手で渡し、リズリットには適当な服を投げて渡す。この扱いの差に流石のリズリットは頬を引き攣らせる。
「扱い酷くね?」
「お前相手はこんなもんだ」
そんな言葉で一蹴され、リズリットは諦めた。
洗ってくる、と将吾は言い残して浴室に向かった。脱衣場の戸が閉まった事を確認したリズリットは、ぐるんっ、とリサの方に顔を向ける。
「ひっ……!」
あまりの怖さにリサが思わず声を上げる。
「さてさて、
ニヤニヤとした笑みを浮かべて言われ、リサはこの前の事を思い出す。将吾の昔の写真を取ろうとして履いていたハーフパンツがずり落ちて、下着を見られた事を。
リサの頬がかあぁ、と熱くなる。
「なんだよ、その反応! 聞かせろよー! なぁなぁ!」
「あのー、そのっ……お手柔らかに……」
思い出して恥ずかしくなったリサは顔を覆ってそう呟いた。
まだまだ、夜は長い。
茶髪ギャルと金髪ヤンキー? ギャル? がイチャイチャしてるのいいですよね。これ、ある意味私の性癖なんです。
お泊まり会第二弾!! さぁ、今回はどうなるー!!
感想、評価お待ちしております。