赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい! 作:倉崎あるちゅ
今回から五章です。NFOですよ! この章は場面転換の仕様を変えてます!
一曲 ペアシート
「おまたせー! 次のスタジオ練予約してきたよー」
「リサがしたんじゃなくて俺がしたんだけどな」
「細かい事はいいじゃん☆」
CiRCLEからリサと一緒に出て、カフェテリアで待つ友希那、紗夜、燐子、あこに予約した事を伝える。
あはは、と笑うリサに溜息をつくと燐子が俺達に、あらかじめ頼んでいたコーヒーを差し出してくれた。
「いつも、ありがとうございます……」
「いいよ。いつもうちをご贔屓させていただき、ありとうございます」
俺が茶化した言い方をするとリサと燐子が笑う。
ふと、隣に座るあこに目を向けると、彼女は難しそうな
「あの、宇田川さん」
「へ? はい、なんですか紗夜さん?」
そんなあこに、紗夜が声をかける。
「今日はずっとドラムが走り気味でしたね。紅宮くんに何度も注意を受けてましたし」
「あ、そうそう。あこー、なんか悩み事あったら言いなよー?」
「ホント!?」
リサがそう言うとあこが嬉しそうに食いついた。リサはね、友希那? と声をかけると、砂糖を入れて甘くなったコーヒーを飲む友希那がカップをソーサーに置いて頷いた。
「ええ、あこの調子が悪いとバンド全体に影響する。問題があるなら、早く解決した方がいいわ」
「じゃ、じゃあ……あこのお願い、聞いてもらってもいいですか……?」
お願い? と友希那と紗夜が首を傾げる。
俺と燐子はだいたい察して、もしかして、と互いの顔を見合わせた。
「あこと一緒に……NFOやってください!」
必死な表情であこは友希那に言う。
やっぱり、予想した通りの言葉だった。
「NFO……?」
「Neo Fantasy Onlineっていう、わたしと……あこちゃん、ショウくんがやってる、オンラインゲームです」
どんなものかわからない紗夜が呟き、燐子が簡単に説明する。
「今、そのゲームで友達紹介キャンペーンをやっててな。新規ユーザーと一緒にクエストをクリアすると、あこが好きそうな武器が手に入るんだ」
「クエスト? 武器? ショウ、何を言っているの?」
「あー、つまりだな」
「アタシ達と一緒にゲームをすると良いモノが貰えるって事でいいのかな?」
どう言おうか悩んでいるとリサが的確にまとめてくれた。俺はそうそう、と彼女の言葉に頷く。
紗夜は怪訝そうな眼をあこに向けて口を開いた。
「それと今日のドラムの演奏に何が関係あるの?」
「あこ……前からその武器欲しくて……気になっちゃって……その……」
あこの声が不安そうにだんだん小さくなっていく。そんな彼女を、燐子は優しい眼差しを向けた。
「だからあこちゃん、ソワソワしてたんだね」
「うん……だから、お願いします! 一緒にゲームやってください!」
あこが頭を下げて友希那に頼み込む。その姿は彼女がバンドに入りたいと言っていた時の姿と被る。友希那の反応は、というと彼女は腕を組んで静かに閉じていた瞼を開く。
そして、
「断るわ」
バッサリ、とあこの頼みを切り捨てた。
「えぇ!?」
一切躊躇いのないその断りに、あこは目をぎょっと剥いて仰け反る。続いて紗夜も首を振る。
「私も同意見です。ゲームとバンドに関係があるとは思えません。そういうのは割り切って練習に集中するべきです」
「それは……」
あちゃ、こればっかりはあこの分が悪いか。しょうがない。ゲームやってる俺が言うとややこしいし、リサに助け舟を出してもらうとしよう。
俺は小声でリサに声をかける。
「悪いんだけど、一緒にやってもらえないか友希那達に言ってくれるか? あこのやつ、前から楽しみにしてたからさ。なんとかしてあげたいんだ」
「まぁアタシも少し興味あったし良いけど。ショウが言えばいいんじゃないの?」
「俺が言うとややこしくなるの。ゲームやってる身だとあこの味方になるから、取り入ってもらえるか怪しいし。ゲームやらないリサなら、興味あるしやらないかって誘えるからさ」
なんとか! なんとかぁ! とあこが友希那にすがりついて友希那が面倒くさそうにあこを剥がそうとしている。その間にリサと話し、彼女はわかった、と了承してくれた。
「アタシはやってみたいかな。前からあことショウから聞いてたしさ」
「リサ姉……!」
まるで救いの神を見るかのようにあこの目が光る。
「クエストは……短いです。そんなに時間はかからないと思い、ます」
「道中のモンスターとかは俺が倒せばいいし、友希那達はついてくるだけ」
「ショウ兄がいればすっごく早く終わるもんね!」
どうだ、と念押しすると、紗夜は困ったような顔をして友希那を見る。
「どうします、湊さん?」
「……わかったわ」
「やったー! ありがとうございます友希那さん!」
大喜びをするあこに、燐子とリサはよかったね、と声をかける。
はぁ、と溜息をついた友希那は諦めたような表情を浮かべ、ただし、と言葉を続けた。
「ゲームが終わったらバンドの練習をする事。いいわね?」
「はい! それじゃあ明日は皆でネカフェにレッツゴー!!」
おー、とリサが大きく手を挙げ、燐子も小さく手を挙げた。
「随分と簡単に了承しましたね、湊さん。良かったんですか?」
「こういう時、反対するだけ無駄だと最近わかってきたの。……それに、どこかの誰かさんが裏で根回ししているようだし」
紗夜と友希那の会話を片耳で聴いてると、責めるような言葉が聴こえてきた。次いで視線が俺の背中に刺さる。
うーん、気付いてたか。そりゃ今回露骨だったし気付かれてもおかしくない。でも仕方ないだろ。俺だって今回のキャンペーンの武器は欲しいんだ。職業的に俺は装備できないけど、イベント関係の武器とか防具は集めたいんだよ。
ふと、俺は妙案を思いついた。
今回は初心者が三人。なら職業をわかりやすくまとめておこう。それを友希那とリサ、紗夜に送って職業を決めておけば時間もスムーズだし、あわよくば紗夜あたりなんかはNFOにのめり込んでくれそうだ。
思わずふっ、と笑みが零れた。
「大変申し訳ありません。今すぐご案内できる席がリクライニングが二席、オープン席が二席とペアシートが一席でして……」
ネカフェの店員さんが苦笑いを浮かべてそう言う。
「全員個席じゃないけど仕方ないし、二人はペアシートだな」
ペアシートは読んで字のごとく。二人用の椅子に座り、二つのパソコンを使って周りに迷惑をかけずに談笑してネットやゲームを楽しむ席だ。
「うーん、誰と誰行こっか? アタシ来た事ないからよくわからないんだよね〜」
「んじゃ、あこか燐子ついて行く感じでいい?」
友希那とリサを一緒にしてもいいけどNFO初心者だし、色々わからないだろう。オープン席にリサか友希那を置いてあこと燐子を一緒にした方がいい。
「あれ、ショウは?」
「女の子と二人で密室とか流石にダメだろ」
何もしないという自信はあるがいくらなんでも無理がある。リサと一緒にゲーム、というのはちょっと……いや、結構やりたいけど。
「あっ、あこはオープンがいい! この前リクライニングだったからさー!」
「じゃあ、燐子、リサと一緒に頼むわ」
「え、あ……そ、その……」
友希那はオープンな、と勝手に手続きをする。あこも同様にし、紗夜は自動的にリクライニング。
俺の分を書こうとした時、くいっと服の裾をつままれた。
「ショウ、くん……もし氷川さんが、わからなくて教える時……同性の方がいいかも……」
「え、そう?」
「だって……場合によっては襲われてる、とか……」
あー、見ようによっては見られるか。いや、そんな事はないだろうけど。
軽く渋っていると燐子がそれに、と小さく言葉を続ける。
「わ、わたし、その……口で説明するのはあまり……」
なるほど。襲われる云々は建前でそれが本音だな燐子のやつ。
俺は短く息を吐いてわかった、と燐子の手続きをする。続けて俺とリサの分も終わらせる。
「じゃあ、俺と一緒だけど大丈夫かリサ?」
「うん、へーきへーき♪ それにショウとは家でも二人になる時多いし今更じゃない?」
それもそうだ。ならなんともないだろう。
受付を済ませ、俺達はそれぞれのブースに向かう。その途中に友希那と紗夜、リサになんの職業がいいか質問する。
「それで、職業は決まったか?」
「私はタンクをやってみようと思います。守りがしっかりしていて安心できそうなので」
「難しい職業ですけど……最初のうちはたぶん、大丈夫だと思います……」
紗夜はタンクね。紗夜が興味あったらそのまま教えてもいいな。
「友希那は? なんかあった?」
「いえ、種類が多くてまだ決めてないわ」
「ならあこが決めてあげます! 友希那さんは……そう! 吟遊詩人なんてどうですか! 歌を歌う職業なんですよー!」
「歌を歌う職業なんてあるのね。わかった、それにするわ」
そうやって話しているとブースに着き、紗夜と燐子と別れ、そして次にペアシートのブースに辿り着く。
「アタシの職業は楽しみにしてなよー、あこ☆」
「うん! それじゃまたあとでねー!」
「友希那、わからなかったらあこに訊くんだよー」
「大丈夫よ。それよりリサ」
「ん?」
ちょいちょい、と友希那は手招きをしてリサを呼ぶ。二言三言会話をして友希那とあこはオープン席に向かっていった。
「リサー、入るぞ」
「ぁ……う、うんっ」
リサに声をかけると、彼女は若干頬を染めてこちらにトコトコと歩いてくる。俺は首を傾げてリサに質問した。
「どうかした?」
「な、なんでもないよ〜」
「ふーん。体調悪かったら言えよ」
うん、とリサは頷く。ブースの中に入って、俺は二人で座れるソファに腰掛ける。しかし、リサがまだブースの入り口で立ち止まったまま入ってこない。
「何してんのリサ」
「えっ、あ、いやーなんか思ったより狭いなって」
「そう? これでも広い方だと思うけど」
まぁ、元々カップルとか仲のいい人同士で入るところだしな。
リサは初めてだからかはわからないが妙に緊張したようにぎこちなくソファに座った。それを確認して俺は眼前にある二台のパソコンの電源を立ち上げる。
駆動音を鳴らしてパソコンのモニターがつく。
「じゃあ、デスクトップのこのアイコンダブルクリックして」
「ここ?」
「そ、Neo Fantasy Onlineって書いてあるから。ここペアシートだし多分アプデに時間少し取られると思う」
「そうなんだ。その間どーしよっか?」
「その間に飲み物取りに行こう。せっかくフリードリンクにしたんだし」
NFOのアイコンをダブルクリックすると、予想通り、アップデートのウィンドウが開いた。
ここのネカフェがNFO推奨のパソコンを導入してるとはいえペアシートはカップルが多く来る。そのため、NFOをやる事は稀でアップデートされる事は少ない。幸い、今回は一つ前のバージョンで止まっていたらしい。飲み物を持って帰ってくる時にはできるはずだ。
「アタシオレンジジュースにしよっと」
「俺は……ジンジャーエールにするかな」
「コーラにしないの? コンビニでいつも買ってるじゃん」
「たまにはな」
飲み物を取り、再びブースに入るとモニターにはアップデートが終わったと告げる文字が表示されていた。これで準備OKだ。
リサにキャラメイクをさせ、次に職業を選ばせる。彼女は昨日の夜に悩み抜いてヒーラーにしようと決めたようだ。リサはこれからも度々やるみたいだしヒーラーは重要な職業だから基本的な動きはしっかり教えないと。
……っていうか、リサ。キャラメイクの時に質問するのはいいんだけど近いんだけど。
NFOにログインした俺は、最後にログアウトした場所に立っていた。直ぐに転移系のアイテムを使って旅立ちの村に行く。
集合場所は新規ユーザーが最初に降り立つ、旅立ちの村の入口だ。
『あっ! ジョーカーさーん!』
ポン、と画面にチャットの窓が浮かぶ。発言したのは聖堕天使あこ姫だ。すぐさまパーティ申請が出され、それを承諾する。すると、パーティチャットの方でチャットが飛んでくる。
『ショウ兄来るの遅かったねー?』
『アップデートがあってドリンク取ってきてた』
『ペアシートだからあんまりNFOをしない人が多いからだね(´-ω-)ウム』
『そうそう。一つ前だったからすぐ終わったけどね』
燐子──RinRinも交えてあこと会話をする。カタカタとキーボードを打っていると、横からチョン、とつつかれた。
「キーボード打つの速くない?」
「そう? 燐子の方がすげぇ速いけど……」
「いやいや、速いって。それにあこも速いし」
「そら俺達二人とチャットしてると速くなるよ」
若干引き気味に笑ってリサは再びモニターを見る。
『そうだ! 友希那さんと紗夜さん、こっちですよー!』
ポン、とチャットの窓が出て、そんな文字が表示されている。チャットを流し読みするとあこ姫とRinRinの後ろからユキナ、サヨと名前が表示されたアバターが出てくる。
ハットを被った銀髪の女性アバターがユキナ。水浅葱色の髪をした水色の鎧を着ている女性アバターがサヨ。ちなみにリサは、というと、
『あっ! リサ姉はヒーラーなんだ! あこがイメージしてたのとあってる!』
『あはは、結構可愛いでしょー!』
『はい。とても可愛いです٩(ˊᗜˋ*)و』
リサの位置は隣のモニターを見ればすぐにわかったので既にパーティ申請を出してパーティに入れている。
彼女のアバターはヒーラーらしいシスターのような格好だ。髪は現実の彼女と同様、栗色になっている。
『ってか、紗夜と友希那さっきから黙ってるけど大丈夫か?』
『友希那ー、紗夜ー? エンターキー押してキーボードで打つんだよ?』
リサがそう教えると、しばらくしてからサヨの頭上にチャットの窓が浮かび上がる。
『なるほど。こうしてチャットをするんですね。どうですか、湊さん』
『nnn』
『『『『『?』』』』』
ユキナが発言したと思いきや出てきたのはn三個。打ち間違えだろう。かな入力になるだろうし待っていよう。
俺がそう思った瞬間にポン、とチャットの窓が浮かぶ。そこに書かれていたのは、
『nihongo ga syaberenai』
『あこ、教えてあげてww』
『はーいw』
まさかかな入力できないとは。流石に笑ってしまう。
『あ』
『お、できたか』
『教えてきたよー』
『できたわ』
やっぱり友希那をオープン席にしておいてよかったな。こうして誰かが教えてあげられるし。
俺がそう思っていると、隣にいるリサがくすくすと声を押し殺して笑っている。
「はー、nihongo ga syaberenaiだって……! 笑っちゃうよ〜。ね、ショウ?」
「キーボード打つ時手が震えたくらいおもし──」
面白かった、と言いかけた瞬間リサと目が合う。長いまつ毛に縁取られた猫のような眼が俺の目を覗く。
リサの事が好き、その事をあのライブで自覚してから目が合う度にこうして彼女の眼をまじまじと見つめてしまう。見つめてしまう、というより目が離せなくなるというのが正しいか。
徐々に頬に熱が帯び始める。リサの頬も赤く染まり始めた。
「ぁ……」
「な、なんか悪い」
「い、いや、アタシこそ……」
最初にリサが言った通りだ。思ったより狭かった。横に振り向けばすぐ彼女の顔があって不用意に動けばどうなるかわからない。間違ってもキスはしないとは思うが、万が一なったら嫌われてもおかしくない。
あー、くそ。急に意識し始めたら心臓がうるさくなってきた。近くにいるんだから聴かれたら恥ずかしいだろ。
ちらりと横を見ると、リサはその栗色のウェーブがかかった髪を撫でたり弄んだりしていた。
なんか、気まずい。普段はそんな事ないのに。
ここまで狭い密室はこれまでの付き合いで初めてという事もあるからだろう。誰かなんとかしてくれ、と俺は左耳を弄りながらそう願った。
ちゃんとチャットの会話と現実の会話を区切ってるから混ざってないはず。
小説で書くとめんどくさくて困るなこの書き方。
紅宮くんの衣装は次回に説明します! 厨二力を全開にしてお送りしますw
感想、評価お待ちしております。