赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい! 作:倉崎あるちゅ
気まずくなり、俺はなんとかしてくれと願う。すると、ポン、ポンと通知音が鳴った。俺とリサは揃ってモニターを見ると、俺達のすぐそばに着飾った三名のアバターが立っていた。
『よーっす! ジョーカー、りんりん、あこ!』
『あー! れいにぃ!』
『こんにちは(*´꒳`*)れいにぃさん』
朱いローブを羽織った女性アバター、Rainがジェスチャーと一緒に挨拶をする。これが雨河さんが使うNFOのキャラだ。ゲームをしないような人相をしているが、あの赤メッシュアニキ、意外とゲーマーだ。
続けて後ろにいる二人もジェスチャーを混じえてチャットを打つ。
『『ナマステー(-人-)』』
『おぉい! ナマステすな!』
『『ナマステー』』
『りんりん!? あこ!?』
後ろの二人、深い青色の鎧を身に纏う男性アバターがとびで、露出が多い服を着ている女性アバターがAngeだ。Angeについては、俺はあんじさん、と呼んでいる。
ナマステー、とは、雨河さんがよくカレーライスやナンを食べている事からインドの挨拶を使っている。俺もナマステー、とチャットを打って挨拶をする。数秒後、お前もか! とツッコミをもらった。
「れいにぃ……? もしかして雨河さん?」
「そうそう、あの雨河さん」
「へー……意外」
大学やバイトではあまりゲームの話をしないみたいだし、知らなくて当然か。
どうせ雨河さん達がいるのは今回の紹介キャンペーンで
『れいにぃさん達もキャンペーンすか?』
『おうよ! あんじの後輩がやりたいゆうてな。それでー!』
『今手紙のおっさんの所で話聞いてもらってます¬(`0´)Г』
やはり彼らもキャンペーンでいたらしい。俺は雨河さん達が立ち上げたNFOでプレイヤーの集まり──ギルドに所属している。彼らのレベルを知っていればこの旅立ちの村にいる事は珍しいため、紹介キャンペーンのようなイベントでないとほぼここには来ない。
『ってことはジョーカー達もキャンペーンか! その三人?』
『うん! リサ姉とサヨさん、ユキナさん!』
『おおー! なんやなんや三人共始めたんか! 嬉しいなぁ!』
んじゃ自己紹介しよか、とRainの頭上にチャットの窓が浮かぶ。
『どうもー! 冷静沈着クールキャラのれいにぃでーす!』
『冷静沈着……? どこがやねん』
『冷静沈着やろオレは!!』
『いやあちょにぃさんは冷静沈着じゃないでしょ』
それには全くの同感だ。チャットを見て、隣のリサもコクコクと頷く。
あちょにぃさん、とはボイスチャットでゲームをする時に雨河さんがよく口癖で、あちょ、と口走るからあだ名化したものだ。ギルドのみんなでいつもこれで遊んでいる。
『超絶クソ雑魚初心者のとびです、よろしくお願いしまーす』
『初心者じゃないやろ! 嘘ついたらアカンっていつも言ってるやろ!』
『人脈キリマンジャロのあんじいですー┗=͟͟͞͞( ˙∀˙)=͟͟͞͞┛呼び方はお好きにどーぞー』
『人脈キリマンジャロ? チャラじぃの間違いじゃないん?』
『黙っとけ類人猿』
『俺はちゃんとした人間やわ!!』
とびとあんじさんの自己紹介を終えると、紗夜があの、とチャットを飛ばす。
『人脈キリマンジャロとは?』
『あぁ、僕割りと顔広いんでキリマンジャロ並ですよーって感じですね٩( ๑╹ ꇴ╹)۶』
あんじさんは今まで色々なギルドを渡り歩いてきて、それぞれのギルドに親しいフレンドを作っては大人数でダンジョンを攻略している。
かく言う俺もあんじさんと今のギルドとは別のギルドで会って仲良くなった。
『そういやジョーカーのキャラ、前よりかっこよくなってんな!』
『この前のPvPのイベントの優勝賞品っすよ。腰布がかっこよくて』
『あー、わかります。俺も好きっすわ。くそ、別トーナメントで負けてなければ……!』
雨河さんが俺のアバターを見て反応を示す。
俺のアバターは白をベースにした丈の短いジャケットと黒のシャツ、白色のコートのように伸びた腰布、白のパンツを着ている。腰には影より黒い片手剣が吊られている。
腰布はなんだろ、男の心を刺激してくるんだよな。
「そういえば、ショウのキャラって職業なんなの?」
雨河さんの言葉で俺のアバターを見たリサが気づいたように訊いてきた。
「あぁ、俺のは魔法剣士だよ。魔法を撃ったり剣で斬ったりっていうやつ」
「へぇ、なんか強そうだね」
魔法剣士は魔法と剣を使う職業。遠距離で魔法を撃ち、近距離で剣を振るう。一年前までは魔法か剣か選んで一極化するのが主流だったのだが、年明けの大型アップデートにより両方取っても強さが衰える事がなくなった。
そのおかげでこの前開催されたプレイヤー同士の戦闘──PvP戦のイベントで見事優勝する事ができた。その優勝賞品がこの衣装だ。元々付けていた篭手とか脛当ても一緒に付けると今までよりもかっこよくなっている。
おおー、とリサはまじまじと身を乗り出して俺のアバターを見つめる。流石に近過ぎて、俺は思わず身を引く。
さっきみたいに気まずくなるのは勘弁してくれ。
すると、ポンと通知音が鳴った。
『おっと、初心者達帰ってきたみたいやしオレらダンジョン行くわ。それじゃなー!』
『ちゃんと教えてあげてくださいよー』
『わーってる!』
手を振るジェスチャーをして、雨河さん達三人はフレンドのところへ戻っていった。
『それで、私達はどうしたらいいのかしら?』
『あ、そうですよね。説明しますね(`・ω・´)ゞ』
去っていく三人を見送ってから、友希那がそう話を切り出し、燐子がチャットを打っていく。
『ここは旅立ちの村といってNeo Fantasy Onlineの始まりの場所です。小さな村ですが、ゲームをする人が必ず通る思い出の詰まった大切な場所なんです。この大陸、フライクベルト大陸と呼ばれる大陸の最東端にあるので、通称、最果ての村とも呼ばれている場所です(*^ω^*)』
どんなゲームでも最初に降り立つ村や街がある。NFOにおいて、それがこの旅立ちの村だ。
『フライクベルトは大陸中央でいつも戦争をしていて、中央に近付くにつれて危険な場所が増えていきます。最果ての村と呼ばれているここは、比較的モンスターも弱く、受けられるクエストも安全なんですよ(*´꒳`*)クエスト、というのはお仕事のようなものです』
最初に降り立つ村で最前線のクエストがあったらたまったもんじゃない。初めてゲームをやっていきなり何十レベルも差のあるクエストに挑むのは無茶や無謀が過ぎる。
なので、この旅立ちの村で受けられるクエストは調達系、または弱いモンスターを数体討伐するだけのクエストが多い。
『NFOの世界を楽しんでもらうため、結構村の構造や家の設計も凝っているので良い所なんですよね(≧∇≦)実はこの村の村長さんは元々この世界で超有名な一騎当千の勇者風だったんですけど、モンスターとの戦争中に人間同士でも争いが起きてしまい、巻き込まれて大怪我をしてしまったんです(´×ω×`)そこで、未来ある若い冒険者達を何千、何万と支援しているんです』
NFOを作った製作会社は凄いよな。これを作るのに何ヶ月も、何年も設定を練りに練ったんだろうし。俺達ユーザーじゃ計り知れない。
『今回、わたし達はその村長さんの屋敷で下働きをするジェイクさんという人から手紙を預かって、この村から西に進んだロゴロ鉱山にいる、リンダさんに届けるのが目的です』
『燐子ー、その最中にモンスター、だっけ? それは出るの?』
『いえ、道中には出ませんが鉱山の中はダンジョンになっていて奥にはちょっと危険なモンスターが出てきます。なので、ちょっとだけ気をつけつつ皆で頑張りましょうね( -`ω-)✧』
話をそう締め括り、燐子のチャットが止む。隣に座っているリサは燐子キーボード打つの速いね、と楽しそうに俺に言ってくる。
友希那と紗夜は一切チャットをしていない。どうかしたのだろうか。
『りんりんはキーボード打つのが上手くて、チャットがめっちゃ速いんだよっ!』
『そ、そんな事ないよっ(//∇//)』
『友希那、紗夜、どうかしたか?』
『いえ……白金さんがこんなに沢山話すのは珍しいと思ったので』
『そうね。私もよ』
『え、ええっ? Σ(゚д゚)』
まぁ、普段の燐子の様子を見ているとギャップがあるよな。俺はNFOでの燐子が最初だったからなんともなかったんだけど。
『あははっ、大丈夫だよ燐子♪ もっと喋っていいからね』
たまに燐子とメッセージをするリサは慣れたのか、普通に対応している。
『私達は、とりあえず手紙を預かればいいのかしら』
『はい! ジェイクさんから手紙を受け取ってロゴロ鉱山にいるリンダさんに届けましょう! "(ノ*>∀<)ノ』
『そ、それじゃあ……そのジェイクさんの所へ行きましょうか』
燐子、あこが歩き始め、紗夜とリサ、俺が続く。すると、綺麗な音が流れ始めた。マウスを動かして周りを見ると、友希那のアバターが歌を歌っていた。
『友希那、なんでスキル使ってんの……?』
『知らないわよ、ボタンを押したら勝手になったの』
『何してんのー? 早く行こーよ』
『……これ、どうやって前に進むの?』
『『『……oh(´・ω・`)……』』』
前途多難なクエストになりそうだな、これは……。
ジェイクの下にやってきた俺達は屋敷の前で仕事をする彼に話しかけた。
【よく来てくれました旅の方……。実は折り入ってお願いしたい事があります。どうかこの手紙を、鉱山にいるリンダに届けてもらえませんか?】
クエスト前の決まり文句だな。だいたいのクエストを受ける際にはこうしてキャラクター達のセリフを聞いてからクエストを受注する。
『へぇ、この人がジェイクさん?』
『そうだよっ!』
あんじさんがさっき、おっさんって言ってたけどまだ若いだろ。見ようによってはおっさんだけど。
『クエストを受けるにはどうすれば?』
『クエストの受注ボタンを押してください!』
『なるほど……これね』
紗夜がクエストの受注ボタンを押し、俺達の画面にクエストを受けた事を知らせるウィンドウが表示される。これで手紙を届けるクエストが正式に受注できた。
【本当ですか!? ありがとうございます! リンダは村から出て西に進んだ先の鉱山にいるはずです。どうか、よろしくお願いします……】
『これでOKだね☆』
そのまま村を出ようと動こうとした瞬間、サヨの頭上にチャットの窓が出てきた。書かれた文字には、それにしても、とある。
『目的地が村を出て西に進んだ先なんて、ずいぶん曖昧なんですね。もう少し具体的な場所を聞いて教えてもらいましょう』
そう言って紗夜はジェイクにまた話しかける。
あー、紗夜のやつプレイヤーが操作してるって勘違いしてるのかな。
『何故この人は同じ事しか言わないの?』
『NPCは同じ事しか言いませんよ?』
『NPC?』
NPCの事もわからないとなると、紗夜は本当にゲームと無縁の生活をしてきたんだな。考えられない。
『NPCってのは、Non Player Characterの略で、文字通りプレイヤーが操作しない、簡単なAIが動かしているキャラクター達の事だ。だから決められた言葉しか発する事ができないんだよ』
『なるほど、そういうものなんですね。では、リンダさんも?』
『そう。友希那がわかってなさそうだから言うけど、わかりやすく言うとアドリブができない完璧な役者だ。決められたセリフを言い、行動する。それがNPC』
俺がチャットでそう言うと友希那がわかったわ、と言う。リサもわかりやすい、と言ってくれた。
まぁ、何事にも例外はあって、特殊なAIを与えられてるキャラもいてプレイヤーの行動に合わせて動きを変えるキャラ達もいる。
『よし! それじゃ鉱山に行こー♪』
『『『おおー! ٩(ˊᗜˋ*)و』』』
旅立ちの村を出た俺達は鉱山に続く道を歩いていた。
最初の村周辺には、攻撃しなければ攻撃してこないモンスター達がのどかに草原の上を歩いている。
『どれくらいで着くのかしら?』
『すぐですよっ! 最初のダンジョンだからすぐ近くっ!』
友希那とあこがチャットでそんな会話をする。
またしばらく歩くと今度はリサがあれ、とチャットを飛ばす。
『ねぇ、この光ってる草ってなに?』
『これは薬草ですね』
『薬草って事は薬になるの?』
『はい。ショウくんが教えてくれると思うので訊いてみると良いですよ(*¯ω¯*)』
燐子がそう言って取った薬草を調合してHP回復ポットを作って紗夜に渡す。
『HPが減ったら使ってくださいね(≧∇≦)』
『HP?』
『HPってのはHit Pointの略。要は生命力だな』
紗夜に説明をし終えて、ねぇねぇ、と俺の袖を引っ張るリサを見る。
あのですね、リサさん。近い、近いから。
「取った薬草ってどーしたらいいの?」
「アイテム欄開いて、薬草を選択して」
「こう?」
「そ。そしたら薬草の欄の横に調合、って所があるんだけど……」
「えーっと……これ?」
「あ、それカーソルもう少し上にして。じゃないと捨てちゃうから」
マウスのカーソルが捨てるの欄に合っていたので、リサの手を握ってほんの少し上に合わせてやる。
「ぁ……」
「ん? どうかした、リサ?」
「い、いやっ、その……」
急に彼女は口元に手を当てて顔を少し背けた。俺は疑問を持ち、リサの顔を覗いてみる。すると、彼女は頬を朱に染めていた。
「……あー、その、ごめん」
自分で近い近い、とか思ってたくせに何やってんだ俺。あー、くそ。調子出ないな。空回りしてる感じがして嫌だ。
「なんでもない、なんでもないからっ。調合のところクリックしたらいい?」
「あぁ、それで回復ポット作れるから」
俺はそう言っていそいそとリサから離れる。するとリサ付けているヘッドホンから調合の音が連続して聴こえてきた。
「ちょいちょいリサさん? 何してんの」
「え? 回復ポット作ってるんだけど……」
「なんで君、そんな作ってんの?」
「えー? いっぱいあった方が良くない? ほら、ショウにもあげる!」
「えぇ……」
燐子とあこもチャットで、なんでそんなに作っているのかと疑問を浮かべている。
『ありがとうございます:(´◦ω◦`):ポットでアイテムスロットがいっぱいに……』
『あ、あはははは……』
俺もアイテムスロットいっぱいになりそうなんだが。
『そんなものを使う所にこれから行くのね』
『鉱山の中はダンジョンになってるからな。奥に行けば行くほどモンスターも強くなっていくんだ』
『でもりんりんとショウ兄は強いから大丈夫ですよ友希那さん!』
まぁ、あこの言う通り、今回は俺がモンスターを薙ぎ払えばいいからな。ホントは友希那達にも戦ってもらって楽しんでもらいたいんだが、ゲームが終わったらバンド練もあるから長くできないんだよな。
俺達はリサが作った回復ポットを持って鉱山の中に入る。
画面が暗転しロード画面を挟み、次の瞬間には俺達は鉱山の中に入っていた。
『ここが鉱山の中?』
『うわぁ……暗いね……』
マウスを動かして周りを見たリサが嫌そうに顔を顰める。どうやらゲームの中とはいえ怖いらしい。
「リサ、ここはホラー系のモンスターも出ないし大丈夫だよ」
「ホント? 幽霊出ないの?」
「骸骨出るけど鎧着てるし、怖がらせるようなもんじゃないぞ」
「そ、そっか……うん、頑張ろ」
頑張ろ、と言ってジリジリと俺の方に、ペアシートのソファの上を移動してくる。
流石に割り切る事は難しいか。
『この奥にリンダさんがいます。あと少しですよ!(๑•̀⌄ー́๑)b』
燐子のチャットを皮切りに、俺達は鉱山の中にある通路を歩いていく。別れ道などあるが、先頭は俺が歩いているため迷う事はない。
すると、目の前が青く光り、このダンジョンに生息するゴブリンが出現した。よく見るモンスターだが、レベルはそこそこに高い。
『お、早速モンスターだねっ』
『皆さんご注目! ショウくんの戦いは凄いんですよ(≧∇≦)』
あこと燐子が呑気にチャットを打つ。その間にもゴブリンは数を増して合計五体が俺の目の前に立ちはだかっている。
俺は腰に吊っている片手剣を抜剣し、
『深き影より顕現せし魔の剣、今ここにその力の片鱗を魅せよ!』
影を凝縮したように黒い片手剣に、黒紫色のライトエフェクトが螺旋状にまとわりつく。俺はそのまま大上段に構えて、一気に振り下ろした。
黒紫色の螺旋状のライトエフェクト──魔力が五体のゴブリンを一掃し、軽々とそのHPバーを消し飛ばす。
今俺が使ったのは、俺が持つ魔剣の固定魔法だ。何個か魔法がセットされているのだが、今使った魔法はかなりの低級魔法であまり使われない。
『おおー!』
『派手ですね』
リサと紗夜がチャットでそれぞれ反応を見せる。
現実の隣を見ると、面白そうに目を輝かせるリサが見える。リサみたいな女の子でも、こういうのが面白く思えるのか、と俺は思った。
書いてて思ったのは戦闘描写がある話を書くとこんなにも私は文字を書くんだなと思いましたw
出身がストライク・ザ・ブラッドや問題児なので仕方ないんですけどね:(´◦ω◦`):
感想、評価お待ちしております。