赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい! 作:倉崎あるちゅ
今回は戦闘描写もりもりです。
五体のゴブリンを屠り、先に進もうとすると、またしてもゴブリン達が現れる。
『今度はあこにやってもらおうか。そのあとは燐子な』
『オッケー! あこの超カッコイイ魔法を見せてくれよう……!』
そう言ってあこはドクロがついた錫杖を取り出し、ドクロの頭をゴブリン達に向けた。そこから明るい紫色のライトエフェクト──魔力が迸る。
『開かれよ! 汝は我が下僕。盾となり剣となり、我が魔道を阻む者共を冥界に誘え!
あこの周りに魔法文字が円状に描かれ、ゴブリンと俺達の間に大きな扉が出現する。その扉が重々しく開き、そこから西洋の鎧を纏った骸骨兵数体が長剣を携えて門から出てくる。その頭は兜をしてはいるが、中身は空洞だ。
「うわっ、し、ショウ! いるじゃん怖いのっ」
急に服を掴まれ、俺はビクッと肩を震わせる。
「大丈夫だって。これあこの魔法だし」
「あこの……?」
「そ。あこはネクロマンサーって言ったろ? 死霊術を使って骸骨兵達でモンスターを倒すんだ」
「へ、へぇ……そうなんだ……」
アタシむり、とリサは首を振る。幽霊関係だと彼女はやはり厳しいようだ。できるだけ骸骨兵を見ないようにあこのアバターを見るように努めていて、微笑ましく思える。
『──これは魔王より授かった究極の魔法! 大いなる魔力の嵐に呑まれ塵芥に成り果てるがいい!』
あこは前に向けていた錫杖を横に薙ぎ払い、明るい紫色の魔力を一層輝かせる。
『
骸骨兵達が一箇所にゴブリン達を留め、その上から大きな魔法陣が出現し、黒い竜巻がゴブリン達を巻き込む。
骸骨兵は基本的に攻撃力が低い。その場凌ぎか、今みたいに攻撃魔法の準備に使われる。
黒い竜巻に吹き飛ばされ、ゴブリン達は呆気なくHPバーを散らした。
『ふっふっふっ、これが聖堕天使あこ姫の魔法!』
『紅宮くんの魔法もそうでしたが、宇田川さんの魔法も派手ね』
『あこちゃんが使った魔法は、天候を操る魔法なので上位に位置する魔法なんですヾ(*´∀`*)ノ攻撃力も高いですよ』
まぁ、このダンジョンでそんな上位魔法を使わなくてもいいんだがな。初心者三人もいるし良いところを見せたいのは俺もわかるけど。
『次は燐子だっけ? 燐子の魔法も楽しみかも♪』
『はい(*´꒳`*)楽しみにしてくださいね!』
『あ、そういえばさ、友希那は? いないみたいだけど?』
『『『え?』』』
リサがチャットで言い、俺はマウスを動かしてフィールドを見回す。あこに燐子、紗夜とリサ、そして俺。リサの言った通り友希那がいない。
「いつからかわかるリサ?」
「いやー、アタシもあこの魔法見てたしいつからかは……って、わっ!?」
「うわ、オーガ……」
リサと話している最中、紗夜の前に鉱山に設置されたランプに照らされ、黒光りする体を隆起させた鬼が現れた。
『オーガだよ、りんりん! このフロアに出たっけ?』
『基本的には二つ下のフロアのはずだけど、誰かが連れてきちゃったのかな……(゜ロ゜)』
『紗夜、盾構えて! あいつ、紗夜の事をターゲティングしてる!』
『わかりました』
ラウンズシールドを構え、紗夜はオーガを睨む。オーガはその黒くて太い逞しい腕を振り上げ、身長差を活かして紗夜に向かって拳を叩き込む。
ガガァン、とその拳は紗夜のラウンズシールドに阻まれ衝撃音を鳴らした。
『す、凄い衝撃……! こんなに吹き飛ばされるなんて』
『リサ、紗夜にヒールかけて。初期装備でオーガの攻撃を受けたから結構HPが減ってる』
『うんっ。紗夜、今行くから!』
盾で防御したとはいえ、レベル差があるため紗夜のHPは残り三割といったところだ。それに加えて紗夜のアバターは筋力が足りずにノックバックで後方に飛ばされている。
「回復のスキルってこれだっけ?」
「そう。紗夜にカーソル合わせてスキル使ってあげて」
「りょーかい!」
リサに質問され、俺は自分の画面と彼女の画面を両方見ながら指示を出す。
『ヒール!』
彼女は指示通りに紗夜に回復のスキルを使用した。
すると、モンスターによって減らされたHPがどんどん回復していく。
それを確認していると突然、ヘッドホンからゴウッ、と燃え盛る音が聴こえ始めた。
『──大いなる焔の竜。其の肺は焔を吹き、爪は焔を纏う。
焔を纏った竜の頭がRinRinの周囲に現れる。焔の竜はそのアギトを開き、火焔をオーガに向けて吐き出した。
オーガは火属性の攻撃に弱い。弱点属性で攻撃を行うと二倍近いダメージを稼ぐ事ができる。
「す、すご……」
「竜が吐くブレスを魔法で再現したものだよ。あと一撃入れたらあいつも倒れると思う」
リサにそう言っているうちに、燐子は次の魔法を準備していた。
自身の周囲に火球を数個出現させ、あこの錫杖より長い錫杖でオーガを指し示す。
『燃え上がれ、フレアボール!』
火球が錫杖から滑るように撃ち出され、全ての火球がオーガに当たって弾け飛んだ。鬼はHPバーを吹き飛ばされその巨体を呆気なく霧散させる。
モンスターはこれ以上湧いて出ないのか、モンスター特有の呻き声も聴こえない。
『オーガはびびったな。このパーティだと気が抜けないし』
『だね。あこもびっくりしちゃったよ〜』
『凄かったねー。紗夜なんてHPだっけ? それギリギリだったし』
まだレベルが低い上に初期装備の紗夜にはきついからな。でもさっきの戦闘で紗夜とリサはレベルが上がったみたいだ。
『氷川さん、もう盾はしまっていいですよ( ̄▽ ̄;)』
『大丈夫ですか? 先程みたいに突然、というのも……』
『大丈夫。突然来ても俺達がなんとかするから。っていうか、それよりも先に友希那だ。あいつどこにいった?』
ただ一人、戦闘に参加していないためレベルが一のままになっている。名前はユキナ。俺達が戦闘している間にどこかへ行ってしまったようだ。
どうせチャット欄は見てないだろうし……あこに直接行かせようか。その方が早く合流できるし。
俺はそう思い、チャットを打つべくキーボードに手を触れさせた。
「ここはどこかしら……? まったく、皆勝手にいなくなって……困ったわね」
周囲にリサはおろか誰一人としていない事に気付いた友希那はモニター前で腕を組む。
「……? あれは、人? 仕方ないわね。あの人に訊いて……」
近くのオープン席にあこがいる事を忘れ、彼女は鉱山の通路に佇む影に向かって歩いていく。その影が歪なものだと気付かぬまま。
あこにチャットで、直接友希那に合流するように言ってもらえるように頼もうとしたところで、隣のリサがあっ、と声を漏らした。
その視線を辿ると、画面の奥。ロゴロ鉱山の深部からハットを被った銀色の髪をしたアバター──ユキナが現れた。
『友希那ー!』
『友希那さぁぁぁん!!』
姿を現した友希那に向けてリサとあこがチャットを打つ。俺も彼女に向けてチャットを打とうとした瞬間、友希那の背後に何かが揺らめいたように見えた。
「……?」
視点をカメラモードに切り替えて、俺はユキナの背後にカメラを向ける。解像度が増し、揺らめいたものの正体を突き止めた。
『あら、貴方達、どこに行っていたの?』
『それはこっちのセリフだよ……って、なにそれ!? 誰!?』
『湊さん、それは!?』
鋭い長剣を携えた、堅牢な鎧を纏う骸の兵。あこが召喚した骸骨兵とは比にならない身長。眼の部分にあたる空洞に赤い光を灯し、カタカタと顎を鳴らす。
ガチャリ、と鎧と骨を鳴らして長剣を振りかぶるそれの名は、
『へ、ヘルスケルトンソルジャァァ!?』
『何連れてきてんだこのポンコツ詩人!!』
『(・・)……( ゚д゚ )……Σ(゚д゚lll)!?』
ヘルスケルトンソルジャー。この鉱山以外にも生息する骨系モンスター。骨系モンスターには階級があり、スケルトン、スケルトンソルジャー、ヘルスケルトンと続いてヘルスケルトンソルジャーとなる。
出現場所は深部。つまり、友希那は深部でこのヘルスケルトンソルジャーと出会い、それを連れてきた、というわけだ。
なんだこれ。ロゴロ鉱山が最初のダンジョンでよかったわ。
ここのヘルスケルトンソルジャーはまだレベルが低いため、俺と燐子、あこで倒せる。
『燐子は魔法の詠唱! あこは死霊術で俺の援護!』
『う、うん、わかった!』
『了解! ( ̄^ ̄)ゞ』
二人に指示を飛ばし、俺は腰に吊っている剣を抜剣してランプに照らされた通路を疾駆する。あこは死霊術を使って骸骨兵を呼び出し、燐子は聖属性の魔法の詠唱を開始する。
【ガアァ!】
二重、三重にも重なって聴こえる声と共に、ヘルスケルトンソルジャーは長剣を振り下ろす。ぎらりと重く光るその切っ先がユキナの細い背中を斬り付ける瞬間、俺が握る黒い剣がギィン、と火花を散らしてモンスターの攻撃を阻んだ。
鍔迫り合いを数秒し、俺は魔剣の固定魔法を使った。
『魔剣、第一封印解除。筋力、敏捷、耐久、ステータス上昇。──刮目して見るがいい! これが破滅を呼ぶ黒き太陽である!』
背中に黒い太陽を背負い、それが現れるとステータスが上昇した。握っている魔剣の刀身に黒い炎がまとわりつき、ヘルスケルトンソルジャーの長剣をジリジリと焦がしていく。
上昇した筋力に物を言わせてモンスターを後退させる。すると、後方から光の矢がいくつも射出された。
ちらりと後ろを見ると燐子が聖属性の魔法を放っていた。放ち終えると次の魔法を撃つために詠唱を開始する。
「うわ、腐ってもヘルスケルトンソルジャー。レベル低くても耐久あんな」
「あこの魔法よりこっちの方が怖いんだけど……」
「地獄の骸骨兵だからな……最初は俺もびびったから」
燐子に与えられたダメージは僅かにヘルスケルトンソルジャーの二段のHPバーを削っただけに留まった。
『ショウ兄! あこの骸骨兵皆倒れちゃうよー!』
あこが死霊術で止めどなく骸骨兵を召喚しているが、ヘルスケルトンソルジャーと数合剣を交えた後には長剣で薙ぎ払われている。
俺も攻撃に参加しようと地を蹴る。黒い炎を纏わす剣をヘルスケルトンソルジャーに突き刺そうとするが、モンスターは長剣で俺の剣を上に弾く。
片手で握っていた剣を両手で握り、俺は黒炎を噴かせながら上段斬りを行った。
ヘルスケルトンソルジャーの腕を斬り落とす勢いで振り下ろす。その攻撃は黒い炎で攻撃力を底上げされ、HPバーが目に見えて減少した。
『ショウくん、離れて!』
燐子に言われ、俺はステップを踏んで後ろに少し下がる。
『──大神官より伝えられた聖なる魔法! 邪悪なる魔物よ、これは神が与えた神罰である! セイクリッド・レイン!』
ヘルスケルトンソルジャーの頭上に魔法陣が浮かび、金色の槍が無数にモンスターに降り注ぐ。
天界にいる神が持つ無限の神槍だ。
神槍に貫かれ、ヘルスケルトンソルジャーの二段のHPバーが一つ消える。あともう一段削ればこのモンスターは霧散する。
俺は槍の雨が終わった直後に、再び地を蹴った。
剣に魔法陣が浮かび上がり、黒い炎が勢いを増す。ヘルスケルトンソルジャーの眼前で急停止し、慣性を使ってモンスターの土手っ腹を左へと横薙ぎに斬り裂く。
【ガウアァ……!】
モンスターは仰け反るが、動きを遅くしながらも長剣を俺に振り下ろしてくる。しかし、剣は薙ぎ払われた直後に軌道を変えて長剣を持つ骨の腕に食い込んだ。
刹那、薙ぎ払われた部位と食い込んだ部位の二箇所が黒い爆炎を起こして弾け飛ぶ。
黒炎爆裂剣という、魔法剣士だけの接近戦用の魔法だ。
爆炎を振り払い、ヘルスケルトンソルジャーは長剣を振るって俺を斬り裂こうとする。それをギリギリで躱し、モンスターの鎧に剣を叩きつけた。
再び爆炎がヘルスケルトンソルジャーを包み込む。
『これこそは禁断なる死霊術師の秘術! 蘇れ! 人の国を一夜にして沈めた悪竜よ! その罪過の炎を撒き散らせ!!』
地面に大きな魔法陣が浮かび上がり、そこから巨大な骨と化した竜の手が這い出てくる。苦しそうに藻掻き、竜の頭蓋は紫炎を口から漏れ出していた。
俺はヘルスケルトンソルジャーの後ろをとり、全力でその背中を斬り付ける。右薙、袈裟斬り、逆袈裟斬り、と次々に斬ると、黒い炎が火花を散らして周囲に漂う。
最後に渾身の突きを放つ。間を置いて斬り付けた箇所が斬った順番に爆裂する。
【ガアァッ!】
呻き声を上げてヘルスケルトンソルジャーは骸と化した竜へと吹き飛ぶ。
骸竜が撒き散らす紫炎に焼かれながら、モンスターは竜の紫炎のブレスによってそのHPバーを跡形もなく消し飛ばした。
シン、と鉱山内の通路が静まり返る。遅れてダンジョンの通常BGMが流れ始める。
どうやらこれで戦闘は終了したようだ。助かった……。
「お、終わったの?」
ふぅ、と息をついてソファの背もたれに背中を預けると隣のリサが俺を見て質問する。俺はあぁ、と相槌を打った。
『まったく、あんなもん連れてきやがって……』
『知らないわ。声をかけようとしたら何も言わないでこっちについてくるのよ』
『なんで声かけようとしたんですか友希那さん……』
本当、迷子になってモンスター連れてくるとか害悪プレイヤーの仲間入りじゃないか。勘弁して欲しい。
机の上に置いてあるジンジャエールを飲み、先程の戦闘の緊張をほぐす。すると、友希那がそういえば、チャットを打つ。
『どうしましたか、湊さん』
『大した事じゃないと思うのだけど、さっきのモンスターの他にもいたわ』
え、と俺とリサ、燐子、あこがチャットを打つ。全員バラバラのタイミングで、おそらく手が震えているのだろう。俺の手も微かに震えている。
そして、ドスン、とヘッドホンから音が聴こえてくる。ヘルスケルトンソルジャーが来た方向から、グルグル、という唸り声が響き渡った。
『おい、おい……! まだ鉱山の深部にすら行ってないんだぞ! なんでこうもフロア外の奴らが出てくんだよ!』
『うぇぇぇ!! なんで、なんでこのモンスターが!?』
『うそ……Σ(・□・;)』
そのモンスターが俺達の視界に入る。
それは、獅子の肉体を持ち、背部に山羊の頭を備え、尻尾は長い蛇をしたモンスター。
このロゴロ鉱山のダンジョンに生息するボスモンスターで、レベルが俺達より低くても複数人で相手しないといけない相手だった。
『キメラ……』
その手の知識がない紗夜ですら知っている有名なモンスター。そのモンスターが獰猛な牙を剥き出しにし、俺達を睥睨する。
【グルゥ……ガアァァァァ!!】
たった六人のパーティで、このモンスターを相手にするのは厳しい。なにより、初心者が三人。吟遊詩人のスキルでバフが入るが、吟遊詩人の友希那は操作がわかっていない。ヒーラーのリサもだんだん覚えてきてるけどいきなりボス戦は難しい。タンクの紗夜もレベルは上がったが装備が初期装備。
無理のある戦いだ。なんとかチャンスを作って逃げるしかない。
俺は涼しいネカフェのブース内で一人、冷や汗を垂らした。
紗夜とリサをもっと動かしてあげたかった。
燐子とあこももう少し詠唱凝りたかったけど、厨二力が足りない私には無理があった……。
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