赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい! 作:倉崎あるちゅ
更新の間隔が短いので注意。六曲目を読んだかご確認を。
ダンジョンに入ってからショウとあこ、燐子がモンスターを倒す時に魔法を見せてくれた。凄く派手でかっこよかった。あこは大きな竜巻で燐子は炎のドラゴン。ショウは黒い風みたいなやつ。
燐子の魔法の前に友希那がいない事に気づいたんだけど、話してる最中に紗夜がモンスターに飛ばされた。HPが少ししかない時は驚いたけど、アタシがヒールで紗夜を回復した。
そのあと、友希那が怖い骸骨のモンスターを連れて来ちゃってショウが友希那に、ポンコツ詩人とか言っていた。
ヘルスケルトンソルジャーを倒してなんとか終わったって思った途端、ドスン、という音が聴こえてきた。アタシ達はその方向にカメラを向けると、そこにはライオンの背中からヤギの頭が生えたモンスター、キメラが歩いてきていて、ショウとあこ、燐子が慌てていた。
どうやらアタシ達が逃げるための道はキメラがいるから動けないみたい。
『燐子はれいにぃさんに救援メッセ送って! 最悪全滅もありえる!』
『了解! (๑•̀ㅁ•́๑)ゞ』
そのあともショウはあこにも指示を出して友希那にスキルのやり方を教えるように言う。その直後に、ショウはキーボードを叩いて、何かをモンスターの後ろに投げてキメラを誘導した。
アタシも何かできる事はないかショウに訊いて、ヒールの上位版のハイ・ヒールの事を教えてもらった。
雨河さん達が来るまでの間、アタシ達は来るまで時間稼ぎをしなきゃいけない。なんとかショウと紗夜、あこがキメラの攻撃を防いでくれたり、燐子が魔法を撃ってくれる。
もちろん、アタシは何もしてないわけじゃない。紗夜が攻撃を受けてHPがギリギリになった時にはちゃんと教えてもらったハイ・ヒールを使って回復させた。
その後モンスターは怒り状態というものになって、口から炎を吐き出す瞬間、キメラに紫色の雷が落ちた。
『ふははははは! 待たせたなー!』
如何にも雨河さんらしいチャットが来て、雨河さんとその友達二人がキメラの後ろに立っていた。
雨河さんの友達のとびさんが指示を出してモンスターと戦っていると、友希那が意味もなくスキルを使っていることに気づいた。その直後、キメラが雨河さん──いや、友希那に向けて炎が吐かれる。
『やばいやばいやばいやばいちょちょちょちょ!! ちょっと、サヨちゃんオレを、守れ』
そう言って雨河さんのキャラクターは真っ黒になった。
うわー、可哀想だけどセリフが最低過ぎる……。
「やっぱサイテー」
声と一緒にチャットでもそう言うと、ショウも最低だ、とチャットで言う。
『最低やな!』
『wwwwww』
『れいにぃ……それはないよ……』
『(๑╹ω╹๑)』
ほら、あこだって引いてるじゃん。
『すみません、れいにぃさん。急だったので』
『紗夜さん紗夜さん、れいにぃなんて別に謝んなくてもいいですよ』
『そうそう、この人に謝んなくていいからね、紗夜』
『いえ、私が防げなかったので……』
『自業自得ですから大丈夫ですよ氷川さん(*´꒳`*)』
そうそう。余裕余裕とか言ってたのに危なくなったら女の子に助け求めるとか。まぁ、逆に雨河さんらしいからいいけど。
そうやってチャットをしていると、ショウが残りのHPを全部俺がやる、と宣言した。
ショウの魔法は、使うとHPを減らしていく魔法だからアタシが減ったHPを回復させないと。HPがなくなる前にしっかりヒールかけないとね。
ショウが魔法を使うと黒い炎がツルみたいに別れてキメラを攻撃した。その攻撃を何度もしているとショウのキャラクターのHPが黄色になっていた。多分もう少しで赤色になるはずだ。
アタシはそう思い、ハイ・ヒールを早めに使っておく。
「リサ」
「もう回復させてるよ!」
名前を呼ばれる頃にはハイ・ヒールでショウのキャラクターを癒していた。
「ありがとう、あと少しだ!」
無邪気に笑うショウを見て、アタシも笑みを浮かべる。
その後、宣言通りにショウはキメラの残りの五段の内、最後の一段のHPを消し飛ばした。
モンスターがいなくなって静かになった坑道に、最初に鉱山に入った時のBGMが鳴り出す。
「終わった、の?」
ボーッとソファの背もたれに寄りかかってアタシは呟いた。
「終わった……」
ショウは呆然と呟いてポフッ、とアタシと同じように背もたれに寄りかかった。
「……」
「…………」
長いようで、短いキメラとの戦いが終わった。その実感がなく、アタシはボーッと『Congratulation!!』と表示されたモニターを見つめた。
ヘッドホンからチャットの通知音が鳴り、チャット欄では燐子とあこ、雨河さん達が嬉しそうに喋っている。
そこでアタシは、あのボスモンスターを倒したんだという実感が湧いてきた。
「……った」
「ん?」
小さく呟いてから、アタシは思わずショウに抱きついた。
「──えっ!?」
「やったあぁぁ! 倒したー!」
ショウに抱きつくとドン、と音が鳴った。しかしアタシはそれよりも嬉しくて仕方ない。
「いつつ……」
「ショウ、倒したんだよっアタシ達♪」
「ぁあ、そう、だな」
ずるずると滑り落ちたショウを下にして、アタシはゲームの感想を言おうとする。
「一時はどーなるかわからなか──」
瞬間。
そっと、ショウが人差し指でアタシの唇に触れた。
「こら。ここはネカフェなんだから静かに、な?」
指を退かしてショウが困ったように笑ってそう言う。
そこでアタシは、自分がした事に気づいた。
な、なにしてんのアタシ……! ショウが下にいるって事はこれって、アタシがショウの事押し倒してるって事じゃん! ホントになにしてんの、アタシ!
そんな考えが頭の中でぐるぐる回り、アタシは口を開けたり閉じたりを繰り返す。
すると、はらりと肩にかかっていたアタシの髪がショウの顔にかかった。ショウは手を伸ばして髪を耳にかけて邪魔にならないようにしてくれた。
ちらり、と一瞬右耳に付けているピアスに目を向けたあと、そのまま手を伸ばして髪に触れ、ショウはアタシの目を見つめる。
「っ……!」
見つめられ、頬に熱が帯びる。
ドクン、ドクン、とショウかアタシかわからない心音が聴こえる。もしかしたらその両方かもしれない。
胸が痛くて、苦しい。
いつまでそうしていただろうか。何も喋らず、アタシ達は見つめ合ったまま動かなかった。首にかけたヘッドホンからは未だに通知音が鳴り続けている。
もう、ダメかもしれない。
ショウの事を見つめながら、頭の片隅で思った。
好きって言う想いが強くて、溢れそうになる。無邪気な笑顔、ゲームをしている時の真剣な眼、周りに対する配慮。上げればキリがないし、それより今のアタシにそんな事考えてる余裕なんてない。
「……ショウ」
小さな声でショウの名前を呼ぶ。
「ごめん」
一言、アタシは謝って少しずつその整った凛々しい顔に近付く。
「リサ、なに──」
目を閉じて、アタシはショウの唇に自分の唇を押し付けようとする。
あと少し、というところでコンコン、とブースの扉がノックされた。アタシはビクリと肩を震わせてショウから素早く離れる。
あ、危なかった……。今、なにしようとしてたのアタシ。
「今井さん、紅宮くん大丈夫なの?」
紗夜が心配して来てくれたみたい。
アタシは扉を開けてあはは、と頭の後ろに手を当てて笑った。
「ごめんごめん、倒して気が抜けちゃってた☆」
「そう。紅宮くんも疲れてるみたいね」
「……まぁ、な」
ごめん紗夜……ショウのこれ、アタシのせいなんだ……。
「もうあのモンスター以外に強いのはいないみたいだし、奥に進むと白金さんが言っていたわ。早く終わらせて練習もしなければならないし、急ぎましょう」
「うんっ、そーだね♪ やろやろ!」
では、と紗夜は少し楽しそうに笑って自分のブースに戻って行った。
紗夜の姿が見えなくなってから扉を閉めて、アタシはちらりとショウの事を盗み見ると目が合い、気まずくなって目を逸らす。
「その……さっきは、ごめん」
「いや、別に……。それより、ほら。続きやろう。みんな待ってる」
「あ、う、うん」
ポンポン、とソファを叩いて座るように促され、アタシは頷く。
そのあと、あこが前から倒したがっていたレアモンスターを倒した。その時に凄い嬉しそうな声がアタシ達のブースまで届いた。
『それじゃあ、これでゲームは終わりかな?』
『あぁ、これで終わり』
『あの……皆さん、どうでしたか?』
アタシが言うとショウが反応する。その後に燐子がアタシと友希那、紗夜に向けて感想を訊く。
『初めてというのもあるのでしょうが、覚える事が多くて驚きました』
『そうね。私も、よくわからなかったわ』
『操作は少しわからないところもあったけど、こうやって皆でワイワイ何かをやるのって楽しいよね。お話もちゃんとしてて結構面白かったから、アタシはまたやってもいいなーって感じ☆』
ショウが教えてくれるからね、とアタシはショウに向けて小さく笑った。ショウも肩をすくませて苦笑いを浮かべる。
『本当、リサ姉!?』
『ホントホントっ!』
『やったあぁぁぁっ! 絶対だよ!』
『あ、でも次やる時は誰かの家ね? ネカフェだと騒げないし……』
『そうだな。あこうるさかったし』
『うっ……それを言うならリサ姉だって!』
『あっ……い、いやぁ、あれはそのー』
ねぇ? とショウに目を向けるとすぅ、と目を逸らした。
む、なんで目を逸らすかな。
「ちょっと、ショウ〜こっち見てよー」
「嫌だ」
「ねぇってば〜」
アタシはショウの腕を抱えて揺すっていると、隣のブースからやけに大きな咳払いが聴こえてきた。
「「……すみませーん」」
二人同時に小声で隣に謝って、お互いジトっと睨み合う。
目を逸らすショウが悪い、と言うと騒がしいリサが悪いとか、小さな声で言い合いをしているとチャットの通知音が鳴った。
『さぁ、ゲームをやめてバンドの練習に行くわよ』
『そうですね。ゲームをするというのはちょっと寄り道でしたが、宇田川さんのやる気が出たのなら、結果的には良かったのかもしれませんね』
『どうかしら。それは、この後の練習次第ね』
『『あはは……』』
あ、そっか。目的は『リンダのサイス』だもんね。それ取っちゃったらやる意味ないか。んー、まだやってたい感じするんだけど、流石にダメだよね。
そう思っていると、アタシは妙案を思いついた。抱えてるショウの腕を揺する。
「ショウの家でアタシもゲームできたり、する?」
「……できるよ。パソコンなら使ってない型落ちの奴が二台あるし。一つはリズが使ってるけど、使ってない奴をリサが使えばいい」
そっか、とアタシは頬を緩めた。
「ショウってさ、専属のヒーラーいないと本気出せないんだよね?」
ショウの魔法はHPを減っていくから、回復に専念してくれる人が必要だよね。
「ん……まぁ、そうだな」
「じゃあさ、アタシがなってあげようか?」
「俺のレベル帯についてこれるならの話だけどな」
「そこはショウがアタシの事守ってくれるでしょ♪」
アタシがそう言うとショウは立ち上がって白い歯を見せながらニッ、と笑った。
「調子のいいやつめ」
頭に手を置かれ、髪をわしゃわしゃと撫で回される。
「ちょ、ちょっと!?」
髪型が崩れるのが嫌でアタシはショウの腕を離して、乱れた髪を手櫛で整えながら文句を言おうとすると、ショウの指がまたアタシの唇に触れた。
「俺の事押し倒した罰」
「っ……」
イタズラが成功した時の子供みたいな笑顔を見せて、ショウはレシートが挟まったバインダーを手に取ってブースから出ていった。
アタシはそっと、自分の唇に指を触れさせる。
人の気も知らないで、すぐそういう事をするんだから……。
「──ばか」
頬の熱はしばらくの間、引いてくれなかった。
これにてNFO編は終わりです。
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