赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい!   作:倉崎あるちゅ

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大変お待たせしました。
幕間という形でオリジナルストーリー、もとい単発です。






幕間
幕間一番 ご褒美


 

 

 燦々と照りつける太陽の下で、俺はフェンス越しに黄色のボールをラケットで打ち返し、汗を流すリサの姿を眺めていた。

 今日は紗夜と燐子が通う花咲川女子学園でテニスの大会が行われていた。その大会に出るリサに見に来て欲しいと言われ、俺は友希那、紗夜、あこ、燐子の四人と一緒にテニスコートに設置されたフェンス越しで応援している。

 

「リサ姉頑張れー!!」

 

 今リサがやっているのは学年別のトーナメント。相手は俺の学校の女子テニス部の生徒で、リサを応援したいのだが監督の先生に睨まれていてとてもじゃないができそうにない。

 うちの学校は何度も羽丘に、というよりリサに負け続けてるからなぁ。

 

「今井さん、頑張って……ください……!」

 

 燐子も精一杯声を出してリサを応援している。

 リサの持ち味はダンスで鍛え上げたフットワーク。それを活かして軽快なステップでテニスボールを打ち返す。

 

「今井さん! 次、右に来るわよ!」

 

 紗夜がこれまでの相手選手の行動を分析して打たれるところを指示する。リサもそれはわかっていたようで、フォワハンドで打ち返す。コートの線ギリギリでバウンドしたボールはフェンスにぶつかりコートに転がった。

 

「40-30!」

 

 審判がポイントを言う。もちろん、40の方がリサだ。

 

「その調子よ、リサ」

 

 お前が点数入れたわけじゃないだろ。なにドヤ顔してんの。

 よし、と小さくガッツポーズをして、リサは相手選手によるサーブに備えてコートのベースラインと呼ばれる一番後ろの線まで下がる。

 あと一回ポイントを取れば試合終了。晴れてリサは試合に勝つ事ができ、学年別のトーナメントで優勝できる。

 

「ショウ、貴方もリサに声をかけなさい。優勝がかかっているのよ」

「そうだよショウ兄! 応援しよーよ!」

「そうは言ってもな……」

 

 チラリと俺の学校のテニス部監督を盗み見る。案の定歯軋りしそうなほど歯を噛み締めて自分の選手を応援していた。

 

「紅宮くんの学校ですからね。応援しづらいでしょう」

「そうなんだよ……」

「で、でも……今なら小さな声でも聴こえる、かも」

 

 燐子の言う通り、まだサーブを打たれるまで猶予がある。今のうちに短いが応援する事ができるかもしれない。

 

「リサ」

 

 リサの名前を呼ぶとん、と顔を少し後ろに向けて俺を見る。

 俺はただ一言彼女に向けて言葉を投げかけた。

 

「頑張れ」

 

 俺がそう言うと、リサはぱぁ、と表情を明るくさせて笑った。

 

「うんっ!」

 

 頷いてすぐに前を向き、彼女はサーブに備えて腰を低くした。パコン、と相手選手がサーブを打つ。その瞬間にリサはコースを読んでボールが来るであろう場所に走った。

 ひらりとユニフォームのスカートが翻る。

 両手でラケットを握り締め、彼女はボールを相手選手がいる場所ではなく、逆側に打ち返した。

 ポイントを取られたら負けの相手選手は必死に食らいついてはリサが打った強いボールを凌ぐ。

 

「ふっ……!」

 

 対してリサは有名テニスプレイヤーの打ち方で、その力がこもっていないボールを打つ。いや、撃つ、と言った方がいいかもしれない。

 相手選手は今いるところとは逆側にボールが来ると判断したようで逆側に走ったが、残念ながらリサが撃ったボールは同じコースを貫いた。

 

 

 怪我もなく、無事に二学年シングルス優勝を果たしたリサは、監督と部員達と話し終えてから表彰を持って俺達のところへ走って寄ってきた。

 

「みんなー! 優勝したよー♪」

「リサ姉おめでとうー!!」

「今井さん、おめでとうございます」

「おめでとう、ございます」

「リサ、おめでとう。いい試合だったわ」

 

 おめでとう、と言って、あこはリサに抱きついた。

 

「ちょっとあこ〜? アタシ汗かいてるから離れた方がいいよ?」

「ダンス部の時だってそうじゃん!」

「そうだけどさー」

 

 お互い汗をかいてるなら話は別だろうが、流石に同性でも恥ずかしいのだろう。

 俺もリサに祝うために近寄ろうとすると、急に肩をガシッと掴まれた。

 

「紅宮くん……」

「ちょ、な、なに……?」

 

 後ろに振り向かさせられ、目の前に幽霊かと見間違えるほど真っ青な顔をした女子生徒がいた。リサの対戦相手だ。

 

「どうして……」

「なにが」

「どうして……私は応援してくれないのぉぉ!?」

 

 うわ、めんどくさ。

 

「いや、リサとは仲良いし」

「それでも同じ学校じゃない! 紅宮くんが今井さんを応援したら凄い打球だったんだけど!?」

 

 Roseliaメンバー以外、俺がリサの事を応援したなんて知るはずもないのになぜ知っている。

 なんで、なんで! と俺と同じ学校の女子生徒は半ば錯乱状態で俺の肩を揺する。すると、彼女の後ろから同じ部活の女子生徒が取り押さえた。

 

「はいはい、落ち着こうねー。ごめんね紅宮くん。それに今井さんも」

「まぁ、いいけど」

「別にアタシはなんとも……」

 

 いやー、と頭を搔いて女子生徒は笑って、他の生徒達に錯乱した女子生徒をまかせた。

 

「あの子紅宮くんのファンでさ。それでムキになってたのよ」

「俺の?」

「ショウってファンいるの?」

 

 訝しむようにリサに見られ、俺は知らない、と首を横に振る。

 

「結構いるんだよ、うちの学校。カッコイイし優しいしスポーツ万能だし頭もいいし。先生からも人気だよ」

「……そーなんだ」

 

 女子生徒がそう言うとリサは少し考えるように口元に手を当てた。

 

「まっ、あの子の事は気にしないで。次は負けないからね今井さん!」

「あ、うん! 次も勝つからね☆」

 

 ばいばい、と手を振った女子生徒は走って去っていき、女子テニス部の集団の中に飲まれていった。

 なんだったんだ……。

 

「まぁ、いっか。優勝おめでとうリサ」

 

 俺は横を向いて手に持っていたタオルをリサに渡す。彼女はありがとー! と受け取って頬を緩めた。

 

「なんだったのかしらね、さっきのは」

「紅宮くんに応援して欲しかったのでしょう。同じ学校ですし」

 

 俺達の後ろで友希那と紗夜がそんな会話をしている。あこは燐子を連れて、リサと同じくテニス部のひまりのところへ向かって行った。

 燐子すげー嫌がってたけど大丈夫かな。……あ、ふらふらしてる。

 

「大丈夫か? 燐子のやつ」

 

 苦笑い混じりの独り言を言うと、隣のリサがあはは、と笑う。

 

「そうだ、ショウ」

「ん? なに」

「優勝したからさ、ご褒美ちょーだい!」

「ご褒美? 急にそんな事言われても何もできないぞ?」

「なんでもいいからさ! ねっ?」

 

 なんでもいいって言ってもなぁ。まぁ、珍しくリサがこう言うんだし、俺もなにかしてあげたいな。

 

「よし、わかった。日曜日にご褒美をあげるよ。それまで考えとく」

「ホントっ? ありがとうショウ♪」

 

 機嫌良く笑って、リサはあこと燐子のところへ走って行った。

 その日の夜から俺はどんなものがいいかと自室のパソコンを使って調べていた。

 アクセとかは俺の財布が痛いしな。そもそも優勝でアクセとか重いって思われそうで嫌だし。

 うーん、と唸っていると、急にナウが机に飛び乗ってきてキーボードを打つ俺の手で遊んでくる。

 

「こーら、ナウ。おやつはさっきあげたろ?」

 

 ナウを抱いて膝の上に乗せて、構えと猫パンチしてくる脚を優しくキャッチする。

 ……ん? 待てよ。おやつ? 

 

「…………あぁっ!!」

 

 俺は黒猫を抱きながら立ち上がった。別にアクセとか贈り物じゃなくてもいいじゃないか。

 すぐにキーボードを叩き、俺はリサのご褒美に見合うものを見つけ出した。

 これならリサも喜んでくれるだろう。俺はそう思い、キーボードから手を離して机の上に置いてあるスマホを手に取り、彼女にメッセージを飛ばした。

 

 

 

 

 ♪  ♭ ♪  ♭

 

 

 

 

 日付は日曜日になり、俺は準備を終えて家から出た。

 今日はリサの家に行ってから一緒に行くのではなく、駅で待ち合わせしてから目的の場所に向かう。俺がリサを連れていきたい場所があると言って誘ったのだが、その時に彼女が駅待ち合わせがいいと言ったからだ。

 待ち合わせの時間までだいぶ余裕を持って駅に着いてベンチに座り込む。スマホを取り出して時間を確認すると待ち合わせ時間まであと三十分ある。

 スマホをスリープ状態にすると、俺の目の前を誰かが通り過ぎた。

 ふと隣のベンチを見ると栗色の髪を三つ編みにして右に流す髪型をした少女が座って、スマホのカメラかなにかで髪型やメイクのチェックをしていた。

 

「……」

 

 あれ、リサだよな……? 

 服装はオシャレしたのだろう。普段と同じように上着はオフショルダーだが、その下に黒色のホルターネックのニットを着て大人っぽく着こなしている。

 

 ──綺麗だな……。

 

 キラリと耳につけたイヤリングが、太陽に照らされ煌めく。

 そうやって見惚れていると視線に気づいたのか、彼女がこちらに顔を向けた。

 

「……」

 

 お互いの視線が合わさり、瞬きを繰り返す。俺が手を軽く挙げると、リサも手を振って返した。

 

「あ、あはは……」

「ははっ……」

 

 なにこれ。早めに着いておくのがマナーだって母さんやリズに教えられたのもあるけど、相手がリサだし早めに着て心を落ち着けさせようかなって思ってたのにこれじゃ意味がないんだけど。

 俺達は苦笑いを浮かべながらベンチから立ち上がり、歩み寄った。

 

「よ、ようリサ」

「や、やっほー、ショウ」

 

 どうしよう。今の俺、顔引き攣ってるんだけど。全然落ち着けてないし。あれ、今日どこ行くんだっけ。……あぁ、そうそうこの前見つけたところだ。

 

「来るの早いね?」

「そう言うリサも早いだろ?」

「アタシは、ほら。落ち着かなくてさ。ショウは?」

「……俺も」

「そっか♪ 一緒だね」

 

 何が嬉しいのか、機嫌を良くして彼女は笑う。

 

「それじゃあ、少し早いけど行こうか」

「うん。どこに連れてってくれるか楽しみだなー!」

 

 はしゃぐリサを連れて歩き始めようとし、俺はリサの方に目を向けて口を開いた。

 

「リサ」

「ん?」

「その……服、似合ってる」

 

 ボソッと独り言のように呟いて駅の方へ歩き出す。その時に、後ろからありがと! と嬉しそうなお礼の言葉が聞こえてきた。

 駅の中に入って、改札口を通って電車に乗り込む。

 休日のせいか人が多い。幸い近くに一席空いているのでそこにリサを座らせようと促すと、彼女は首を横に振った。

 

「ショウが立ってるのにアタシだけ座るのはやだ」

「別に気にしなくていいのに」

「アタシが気にするの!」

 

 そうやってリサに睨まれてたじろいでいる最中、近くの席は別の乗客が座ってしまった。

 

「それで、どこに行くの?」

「すげー並ぶカフェ。そこのパンケーキが人気なんだって。リサこの前、パンケーキ食べたいなー、って言ってたろ?」

「言ったけど……よく覚えてたねー」

「俺もちょうど食べたいって思ってたからな」

 

 ホントはナウにおやつあげたろ、って言って思いついたんだが。言わない方がいいな。

 

「嘘でしょ、それ」

「え」

「ホントはナウちゃんにおやつあげたりとかしたからじゃないのー?」

「えっ」

 

 やばい、バレた。

 たらりと冷や汗が背中を伝う。

 

「耳弄ってるしバレバレだよーショウ?」

「……実はナウが構えって、調べ物してる時に手にひっつくからおやつあげたろーって言ったらふと……」

「やっぱり」

 

 うわー、凄い恥ずかしい。妙な見栄を張るんじゃなかった。

 極力リサを見ないようにして俺は顔を背けた。

 

「んー? ショウどーしたの?」

「こっち見んな」

 

 ニマニマとした嫌な笑みを浮かべて、リサが俺の顔を覗き見ようとする。しばらくそうやって攻防を繰り返していると人が少なくなり、二人で座れるようになったので席に座った。

 そのあとは俺も落ち着き、互いにSNSで話題が出るドラマや最近見た番組の話をして暇を潰す。暇を潰すと言っても、同じ都内なのでそこまで時間はかからない。

 目的の最寄り駅に着き、電車を降りてエスカレーターで改札口に向かう。

 休日の影響か、人の行き来が多い。ちらりと隣を見ると、さっきまでいたリサが姿を消していた。振り返って後ろを確認すると、人に流され離れそうになっているのがわかった。

 すぐに俺はリサの方へ手を伸ばし彼女の手を握る。そのままリサを自分のところへ寄せて人が比較的少ない柱の近くに移動する。

 

「ごめん、気が利かなくて」

「っ、う、ううん。大丈夫!」

 

 妙に焦ったような返事をして、リサは笑った。俺はよかった、と安堵して彼女の手を握ったまま歩き始める。

 

「しょ、ショウ?」

「今日日曜で人多いし、このまま行こう」

「……う、うんっ」

 

 少し強引過ぎたかもしれないが、リサと手を繋ぐ事ができた。今日はテニスで優勝した彼女のご褒美として出掛けているが、少しでもリサとの関係を詰めなければならない。

 来年のフェスに向けて練習しないといけないし、恋愛なんてしていられないと思うけど。……これくらいならいいよな。

 柔らかな手の温もりを感じながら俺とリサは駅から出た。

 

 

 

 

 ♪  ♭ ♪  ♭

 

 

 

 

 駅から出て人通りの多い道を少し歩いて、アタシとショウは手を繋いだまま洋服店のウィンドウに置かれたマネキンを見たりしながら、ショウがアタシを連れていくところに向かっていた。

 

「あ、雨河さんに似合いそうなシャツ発見」

「うわー、着てそうなシャツ」

 

 派手な柄物のシャツをショウが笑いながら見つける。確かにこれは雨河さんが着てそうかもしれない。

 二人で笑って歩いていると、ふとアタシは思い直す。

 ……これって、アタシとショウ恋人同士に見えたりするのかな? 

 

「っ……」

 

 そう思うと頬に熱が帯び始める。その際にぎゅ、と繋いだ手に力を入れてしまう。

 

「ん、どうかした? もしかして歩くスピード速かったり?」

「な、なんでもないよ! 大丈夫♪」

「そっか」

 

 なんともないようにショウは黒い髪を揺らして再び前を向いた。悟られなかった事を安堵して、アタシは密かに息をつく。

 は〜、恋人同士に見えてたら嬉しい、な。そもそも今回のご褒美は恋人同士に見えるような感じにしたかったし。

 ショウにファンが多い、というのを聞いたアタシは危機感を覚えて思い付きでショウにご褒美を強請った。良くない事だと理解している。それでもショウにとってアタシは特別なんだ、というものが欲しかった。

 それが今日のデートになるとは思いもしなかったけど。

 デートと思っているのは自分だけかもしれない、と不安に思うが、それを振り払ってしっかりとオシャレもしてきた。

 電車に乗る前に、似合ってると言われた時は凄く嬉しかった。苦労して数時間も選び抜いた甲斐があったと思う。

 ダメだ、思い出したらにやけてきた。

 アタシは手を繋いでいる手とは逆の手で口元を隠した。

 そのあとショウと一緒にマネキンが着ている服を見て誰に似合うとか言い合い、デートしてるなと実感できた。

 今日のデートの待ち合わせ場所を駅にしたのは、少しでもデートの雰囲気を作りたかったから、何事もなくこうして手を繋いで歩けるのは嬉しい。

 そう思いながら、アタシに笑みを向けてくれるショウを見て、アタシは笑みを返した。

 

 

 

 

 ♪  ♭ ♪  ♭

 

 

 

 

 しばらく歩いて目的のカフェに辿り着いた。

 ネットで調べた時は結構並ぶと書いてあったが、今はそれほど並んでいるわけでもなさそうだ。

 よかった……凄い並んでたらどうしようかと思った……。

 

「うわお、結構並んでるねー」

「ネットで調べた時はこれより並ぶって書いてあったからまだいい方みたいだな。少し並べば中に入れそうだ」

「あ、じゃあ並んでる間さ、この前アタシが作った歌詞見てくれない?」

「もう新しいのできたのかよ。早いな」

 

 最近、リサは自分にももっと他の事ができないか模索している。その模索した中で見つけたのが作詞だ。

 Roseliaは現状、作詞作曲を友希那一人に任せている。俺も作曲の方は手伝ってはいるが、それでも大半は友希那が占める。

 リサは俺の手を離して、ポーチから手帳を取り出して俺にそれを差し出す。受け取ってパラパラと捲り、新しい歌詞のページで止めた。

 

「ふむ……」

 

 歌詞に使われる青薔薇や刹那という単語が目立っていてとてもRoseliaらしい。しかし見た目はRoseliaでも、中身がそれに伴っていないため、言い方は悪いが空々しく見えてしまう。

 

「どう、かな」

 

 緊張した面持ちで俺を見つめるリサには悪いが、正直に答えるとしよう。

 気を落としたら今日でなんとか挽回するしかないな。

 

「悪くはないけど、中身がないって感じ。見た目はRoseliaだけど中身は空、って言えばいいかな」

「空……」

「なんて言うかな。無理してRoseliaが使う単語を使わなくてもいいんだ。リサはリサの思った通りの詩を作ればいい」

「思った通りの詩を、か」

 

 リサはそう言ってひとつ頷く。

 

「わかった。また考えるよ。あはは、難しいね作詞って」

 

 リサはあはは、と気落ちしたようには見えない明るい笑みを浮かべて自分の髪の毛先を弄った。俺は手帳を閉じて彼女に返してそうだな、と返す。

 

「別に焦らなくてもいいからな。まだフェスまでは時間があるんだし」

「うん。今は何度も書いて書いての繰り返し。頑張らないとね」

「あぁ」

 

 話しているうちに列が進み、俺とリサはカフェの入り口付近まで進んだ。

 

「そういえば、ここって何が美味しいの?」

「それはメニューを見てからのお楽しみ」

「えー、いいじゃん教えてくれてもー」

 

 むぅ、と頬を膨らませて俺を睨む。リサの事だから、てっきりこういうカフェは把握済かと思ったのだが、案外そうでもなかったようだ。

 

「結構有名だし、もしかしたらSNSで写真とか回ってきたりしてるかもな」

「多分流れてたかも」

 

 気になるなー、とリサはスマホの角を顎に触れさせて独り言ちる。

 そろそろまた列が減るだろうし待って欲しい。

 

「お、中で待てそうだな」

「そろそろだね」

 

 店内に入るとコーヒーとミルクの香りが店中に広がっていた。

 ネットで調べただけじゃわからないな。つぐみのところの珈琲店とは違う感じがする。

 椅子に座り、呼ばれるまでリサとカフェの雰囲気や内装の事を話したりして待つ。リサはシンプルな内装を気に入ったようだった。

 そうして彼女と話していると店員さんに呼ばれ、俺達は席へ案内されてリサと対面で席に座る。

 

「はい、お待たせ。メニュー表」

 

 見えやすいようにメニュー表を開くと、おおー、とリサは目を輝かせた。

 

「どれがオススメなの?」

「えっと、このいちごソースがかかったパンケーキかな。木苺を使ってるみたいで甘酸っぱくて美味しいって口コミであった」

「へぇ、木苺かー。んー、他は?」

「他は無難なチョコレートソースとかバニラアイスを添えたやつとかかな」

「うわー、迷う〜!」

 

 そりゃリサが好きそうなメニューを置いていて、加えて人気のあるカフェを選んだからな。

 

「どれも店長が選び抜いた材料を使っているみたいで美味しいらしいから一番気になるやつ頼めよ。まだ気になるならまた来よう」

「くぅ……そうするかなー」

 

 心底悔しそうな顔をしてじゃあ、とリサはメニューを見る。

 

「チョコレートソースにしようかな!」

「りょーかい。んで、飲み物はどうする? 俺はアイスコーヒーにするけど」

「アタシはねー……んー、アイスカフェオレにする」

「はいはい」

 

 注文も決まったところで、店員さんを呼んで注文する。

 注文したものが来るまでに、リサには一から作っているから時間がかかる、と伝えて、待っている間にまたしても歌詞の話になった。どうしたら中身のある、想いが詰まった歌詞になるかと話す彼女は真剣な表情で取り組んでいた。

 そうして歌詞作りに没頭していると注文したものが来たらしく、テーブルの上を片付けて店員さんにパンケーキが乗った皿を置いてもらう。

 

「「すご……」」

 

 思わず二人で声を揃えてしまうくらいパンケーキがふっくらとしていて、食べるのがもったいないくらい綺麗だった。

 

「こういうのは写メ撮らなきゃね☆」

「やると思った。俺もやろっと」

 

 スマホを取り出してパンケーキを撮る。

 後で飛鳥とリズに写真を送り付けて飯テロしてやろう。きっと羨ましがるに違いない。

 

「そういえば、ショウがいちご系って珍しいね。普段チョコなのに」

「ん。そういや最近家で食べるアイスもいちごとかだな。そう言うリサもチョコは珍しいんじゃねぇの?」

「あー、そうかも。あれかな、似てきたんじゃない? アタシ達♪」

 

 にひひ、とリサがはにかむ。俺も自然に笑みがこぼれる。

 

「あ、じゃあさ……」

 

 そう言って彼女はパンケーキをナイフで一口サイズに切って、フォークに刺しておそるおそる俺にそれを向けてきた。

 ……え、それって!? 

 

「あ、あーん……」

 

 頬を朱に染めて言うリサは、凄く可愛かった。

 あまりの事に驚いた俺は固まっていた俺に痺れを切らした彼女はねぇ、と不安そうに俺に声をかける。

 

「そのっ、食べない、の?」

「……た、食べる」

 

 せっかくリサが食べさせてくれるならお言葉に甘えよう。

 そう思い、口を開けてちょうどいいサイズに切られたパンケーキを口に含む。ふわふわしたの感触はわかるのだが、緊張のせいで味がわからなかった。

 その後、お返しに俺もリサに食べさせると、気まずさでお互い食べ終わるまで無言になってしまった。

 

「ショウ」

 

 カフェを出ると、リサに呼び止められた。振り返ってリサを見ると、彼女は微笑んで口を開く。

 

 

「──また来ようね♪」

 

 

 そんな、陽だまりのように温かい笑顔で彼女はそう言った。

 

 

 

 

 




モンスターハンターワールド・アイスボーンが発売されてやっていました。すみませんでした:(´◦ω◦`):

この甘い話でどうかお許しを……。


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