赤いベーシストはバンドもしたいけど恋もしたい! 作:倉崎あるちゅ
期間が空いたため、少し長めです。大変申し訳ありませんでしたm(_ _)m
では、どうぞ!
大会の受付を済ませた俺達は、砂浜に埋まっている雨河さんの下へ向かった。
頭だけ出されて生首状態で大量の汗をかいている彼は俺を見るとパァっと表情を明るくする。
「やっと来てくれた……! ショウくん! 流石にもう出してくれへん?」
「いいっすよ。ただ、俺ら歌うま大会に出るんでその間ナウの事お願いします」
「歌うま大会? あー、あれか。ええでーナウちゃん預かるわ」
雨河さんの了承も得て、すぐに彼を砂浜から脱出させる。自分で埋めたのだが、思った以上に穴が深かくて出すのに時間がかかった。
そして、俺達三人は今、出場者の待機所で自分の出番を待っていた。
「うぅー、次はアタシの番かぁ……ちゃんと歌えるかなー?」
「リサなら平気よ。いざという時に強いのは私がよく知っているもの」
緊張しているリサに友希那が励ます。リサは若干頬を染めて笑う。
「あはは、幼馴染にそう言われたら頑張るしかないね♪」
「楽しみにしてるよ、リサの歌」
「ちょっと、ショウー? 折角緊張解れてきたのに、また緊張しちゃうじゃん」
ジト目でそう言われる。
まぁまぁ、とリサの背中を押してステージの方へ向かわせる。ステージでは前の出場者が最後の一節を熱唱している。
「リサが終われば次は俺だ。ノリノリでいこーぜ?」
「──っ!」
俺がそう言うとリサがビクッ、と肩を震わせた。
「……そうだね! よーし! ノリノリでいこー♪」
リサの反応に少し疑問を持ったが、前の出場者が歌い終えてスタッフがリサを呼んでいたし、なにより彼女が笑顔だったため気にせずに送り出した。
リサが歌う曲は確か、とある女性アーティストの曲だったはずだ。曲名は『knight-night.』だったかな。先程原曲を聴いたらリサにピッタリだなと思った。
ステージ横側の待機所から見る彼女の横顔は、先程の緊張など感じさせない程生き生きとしている。楽しげに歌うその姿はまるで歌姫のようで、友希那とはまた違った魅力がある。
「リサ、楽しそうね」
「だな。やっぱりリサの声って綺麗だよな」
「……当たり前じゃない、私の幼馴染だもの」
「ははっ、その通りだ」
そうこうして友希那と一緒にリサを見守っていると、リサの歌が終わって彼女が待機所まで帰ってくる。
次の番である俺はスタッフに呼ばれステージに向かう。
「お疲れ、リサ」
「ショウも頑張ってよー? 応援してるから♪」
「ま、やるだけやってみるさ」
そう言ってすれ違いざまにパシン、と互いにハイタッチを交わした。
ステージに上がった俺は意外に観客が多い事に驚いた。待機所から見るとそんなに多いと思わなかったが、ステージ上から見るととてもそんな事を思う事は出来ない。
……すげぇな、リサ。この中をあんなに楽しそうに歌うなんて。
平静な表情浮かべて心の中でリサに賞賛していると、司会の人から俺の事を紹介される。紹介と言っても俺の名前と歌う曲だけの簡素なものだ。
俺が歌う曲はとある声優の曲で、『トコナツウェーブ』という文字通り夏を感じさせるような曲で、俺が好きな曲である。
──それじゃあリサに言ったように、ノリノリでいこーかね。
♪ ♭ ♪ ♭
結果を言えば、我が友希那姫が優勝をもぎ取りました。それはもう圧勝で。
彼女が歌った曲は『Red fraction』で、観客並びにスタッフ、待機していた出場者を圧倒した。
現在は海の家にてビックパフェをリサと友希那が美味しそうにつついて食べている。
「予想通り、友希那の優勝だったね☆」
「それわかった上であの話したんだろ? ほぼほぼ八百長じゃないか」
「嫌な言い方だなー。楽しかったじゃん」
「……まぁ、良かったけどさ」
ロングスプーンを手に取り、その大きな濃厚そうなバニラアイスをくり抜いた。
友希那はパフェを食べる事に夢中になっていて、俺達の会話なんざ耳に入っていないようだ。
「うまっ」
「ね、美味しいよね♪」
くり抜いたアイスをパクリと口に放り込むと、噂通りの濃厚なミルクとバニラエッセンスの味がした。まるでとろけるような甘さが口に広がる。
本当に友希那には感謝だな。彼女のおかげでこうしてパフェが食べられるわけなのだし。
「三人共すげー歌上手かったな! 湊ちゃんはCiRCLEで聴いてたけど、ショウくんや今井ちゃんのは聴いたことなかったし新鮮やったわ」
「自分でも上手くいったなって思ったけど、あまり観客には興味が無いような曲だったかな」
「あれって声優の曲なん?」
「そうそう、男性声優で、演技もそうだけど歌もかなり上手いんすよ」
言いながらパクリとまたバニラアイスを口に入れる。
「あと少しでライブ始まるなー! 楽しみやわ」
「ですね。気になっていたバンドだし尚更」
雨河さんはコーヒーを飲み、俺はパフェをつつきながらコーラをちびちび飲む。
あまり勢いよく飲むと腹壊すしな。
……とか思ってるとリサの顔色悪いんだが。
「リサ、花摘みに行ってこい。腹痛くなってきたんだろ?」
隣に座っていたリサに小声で言う。一瞬、俺の息が耳にかかり、くすぐったかったのかビクッと震えたがコクリと頷いた。
「ごめん、アタシご馳走様♪ お花摘みに行ってくるね〜」
「おう。迷子にならんように気ぃつけてな」
「リサ、一人で大丈夫?」
「そんな子供じゃないんだから大丈夫だよ友希那♪ 雨河さんもありがとー! 行ってくるねー」
白色のパーカーを羽織って、リサは海の家を立ち去った。
腹を壊した人にとっては残念な事に、この海の家にトイレは無い。少し離れたところに複数ある。
仮設トイレでも海の家に置けよと思わなくもないが、今はトイレを作っている最中なのだそうだ。
「完全に完成してからビーチを開けばいいものを……」
「今日のライブに合わせてのものだったのでしょう。仕方の無い事よ」
「……そうだけど」
俺の独り言に友希那がパフェを食べながら応えた。
とりあえず、財布から胃腸の調子を整える薬出しておこう。これからライブだし、また調子を崩したら大変だ。
パーカーはさっきリサが着てたから大丈……夫って、あいつ俺のパーカー着て行ったぞ。まぁいいけど。少し厚手だし腹も暖かくできるだろ。
いろいろ準備して、リサが帰ってくるのをパフェを食べながら待つ。
十分経過してそろそろ帰ってくるかと思ったのだが、帰ってこない。
どうしたのだろう、と思っていると突然脚に引っ掻かれたような痛みを覚えた。
「つっ……。な、ナウ? どうしたんだよ?」
下を向いてみればそこには右足だけ白色の黒猫がいた。その右足は俺の脚に触れている。
普段爪を立てるなんてしないのに、どうしたのだろうか。
俺は疑問を持ち、黒猫を持ち上げる。
すると、飼い始めて見た事がない顔をしていた。子猫では想像出来ないくらい程眉間に皺を寄せて、そのクリっとした瞳で力いっぱい俺の事を睨んでいる。
低く唸って今度は俺の手を引っ掻いた。
痛みで思わず、ナウを抱いていた手を離してしまう。
「お、おいナウ? どうしたんだよ?」
「なんや、どしたん?」
「接してきて短いけれど、初めてね。こんなに苛立っているのは」
ナウの珍しい行動に気付いた友希那と雨河さんが、目の前で毛を逆立たせている黒猫を見る。
「何かあったのかしら?」
「何かって、何が──」
あるんだよ。そう言いかけて、俺は口を噤んだ。
そうだ。ナウはリサが来たら基本的にいつも彼女にべったりだ。今回だってリサが暇していたらすぐに彼女の膝の上で横になったり丸くなっていた。
さっきだってナウはリサに寄り添うようについて行ってた。
そんな子猫が一匹で帰ってくるか? いや、帰ってこない。こいつならその場で大人しく座って待ってるはずだ。
「──もしかして、リサに何か……?」
小さく呟くと気のせいか、ナウはそれに応えるようにみゃぁ、と鳴いた。
嫌な予感がして冷や汗が顎先から滴る。
リサのパーカーを引っ掴んで海の家を出る直前に、友希那と雨河さんにライブには先に行ってくれと伝え、彼女が向かったであろうトイレ付近まで全速力で走った。
海の家を出る瞬間に友希那と雨河さんの声が聴こえたが気にしていられない。
隣ではナウがしなやかな動きで追従してくるのがわかった。
「一人で行かすべきじゃなかったな……!」
ナンパだろうが、暴行だろうが、窃盗だろうが、どんな事に巻き込まれているのかわからないが、リサは俺が接してきた数少ない女の子の中でも凄く可愛いし美人だ。雰囲気が派手で、言い方悪いけどギャルっぽいし、ナンパ辺りが妥当だろう。
──待ってろ。
何故か、俺はリサがナンパされていると想像した時、焦燥感と嫌悪感が同時に心を占めた。
♪ ♭ ♪ ♭
もぅ〜……折角楽しくパフェ食べてたのにお腹壊しちゃうなんて。
最悪だ、ともう一度パーカーを羽織る。
「あれ? アタシのパーカーこんなにおっきかったっけ?」
袖を通してみれば、袖は余ってぶかぶかで、羽織った時に香る匂いはどこか陽だまりのようで、温かい気持ちにさせてくれる。
──って!?
「これショウのじゃん!? え、えと……え?」
あまりにもびっくりし過ぎて頭が真っ白になってしまった。
次第に状況が掴めてきたアタシは、ショウのパーカーを着て匂いを嗅いで落ち着いていた事に気付いた。頬が一気に熱を帯びていく。
日差しのせいだって思いたいけど、自分に言い訳する事ですら恥ずかしい……!
パタパタと手を振って頬に風を送る。それだけでまたショウの匂いがして頬の熱がより一層強くなる。
「……ホント、どーしちゃったんだろアタシ」
歌うま大会の時に彼が掛けてくれた言葉が、今もまだ耳に残っていて、思い出す度に胸が締めつけられる。
──ノリノリでいこーぜ?
また胸が締めつけられる。
あの時言ってくれた言葉は、まだアタシが小学生の頃に迷子になっていたのを助けてくれた、同い歳くらいの男の子の言葉と重なって聴こえた。
あの時の男の子が成長したのがショウだった、なんて言われたら信じてしまうかもしれない。
それ程重なって聴こえたのだ。
アタシは軽く深呼吸をして気持ちを切り替え、足元に寄ってきたナウちゃんを抱っこする。
やっぱりこの子はもふもふで、大人しくて可愛い♪
そう思いつつ海の家に向けて歩いていると、二人の男性達がアタシに話しかけてきた。
「ねーねー! キミ一人なの?」
「暇してたらオレらと遊ばないか? 楽しいぜ?」
あからさまなナンパだった。
如何にも女遊びしてそうな軽薄な感じの人達で、アタシは自分でもわかるくらい嫌な顔をする。
雰囲気を感じ取ったのか、ナウちゃんがアタシの腕から抜けて、海の家の方向に走り出していった。
「いえ結構です。友達と来てるんで」
「そう言わずにさぁ。なんならその友達も一緒にさ?」
割と口調を強めにして言うが、ヘラヘラと笑う男性二人が少しずつアタシににじり寄って来る。
ビーチに来て、今まで声をかけられなかったのはショウや雨河さんが一緒に居てくれていたお陰だったと再認識した。
「結構です。貴方達と一緒に行くつもりなんて無いので」
「まぁまぁ、そう言わずに……」
一人の男性が、その大きい手でアタシの手首を掴もうとした瞬間、逆に男性の手首が掴まれ、上に掲げられる。
えっ、と驚きの声を上げるアタシと男性二人。男性の手首を掴んだ者の正体を知る為、少し上に視線をずらすと、そこには眉間に深い谷を刻み、一筋の汗を垂らしたショウの姿があった。
彼はその翡翠色の瞳を細め、男性二人を睨みつける。
「悪い、連れなんだ。勝手に連れていくなんて事しないでくれるか」
低く唸るように言うと、男性二人は怯んだように後ずさった。
ショウは掴んでいた手首を離し、そのまま彼は後ろを向かずに手だけでアタシを背中の方へ移動させた。
「悪いけど、ナンパするなら他を当たって欲しい。何分、大切な彼女なんでね」
「か、かの……!?」
真剣な声音で彼女と言われ、アタシは大いに動揺した。もちろん、その場の嘘だって事はわかる。けど、彼女と言われて何故か嬉しく思えた。
男性二人はぶんぶんと首を縦に振る。
「わ、悪かった! 他当たるよ! 邪魔したなっ!」
「お邪魔しましたぁぁ!」
九十度の角度までお辞儀をして、二人は足早に去っていった。その間に、ギャルなら行けるって言ったお前が悪いだの、軽そうだったからだの聴こえてきた。
「言いたい放題言っちゃって……」
ヒクヒクと口元を引き攣らせて、アタシは去っていった二人を睨む。
何事も無く去っていった安堵とギャルや軽そうなど言われた怒りで複雑な気持ちでいるとショウがこっちに体を向けてアタシの顔に白い何かを被せた。
「わわっ!? なにこれ!?」
「リサのパーカー。お前、俺のパーカー持ってったろ?」
「そ、そうだけど何も被せなくても……! 髪型崩れるし」
もー、と被せられたパーカーを剥ぎ取り、着ていたショウのパーカーを脱ぐ。彼の匂いが離れて少し名残惜しい気持ちが湧いてきて、動きが固まる。
「……? どうしたリサ?」
「ううん、なんでもない」
首を横に振ってショウにパーカーを返す。
「……ありがとね、助けに来てくれて」
「気にすんなよ。礼なら知らせに来てくれたナウに言ってくれ」
「そっか、ナウちゃんが……」
やっぱりこの子は頭いいな〜。
足元に座っていた黒猫の頭を軽く撫でる。
「それじゃ、気分変えてライブ行こうぜ。そろそろ始まっちまう」
「あ、そういえばそうだったや」
ナンパされたりその場だけでも彼女と言われたりして、すっかり今日のメインであるライブの事が抜け落ちてた。
自分のパーカーを羽織り、ナウちゃんを抱き上げる。
すると、目の前に細くて綺麗な手が差し出された。
「走って会場まで行くぞ。時間もないし」
「あ、うん」
その手を取ると優しく、しかし力強く握られる。
彼の手は温かくて、まるで陽だまりにいるような感じがした。
さっ、と声を出して、ショウはアタシに笑いかける。
「ノリノリでいこーぜ!」
この時、アタシは確信した。
小学生の頃に助けてくれた同い歳くらいの男の子は、ショウ──紅宮将吾だったのだと。
恐らく、彼はその時助けたのがアタシだと気付いていない。何かきっかけがあれば、あの時ちゃんと言えなかったお礼を伝えたい。
そして──この心地良いとさえ思える胸の苦しさの理由が、いつか解ればいいな♪
いやぁ、暑くなってきましたね。
北海道はそうでもないんですが、本州のお住まいの方々は大丈夫ですか? 被災された方々も土砂を退かす作業も大変でしょうけどあまり無理をなさらずに……。
さて、今回は歌うま大会なるものを開催。
リサが歌ったのは「knight-night.」
皆さんご存知我らがゆりか姫の曲です。モノクロームオーバードライブと迷ったのですが、被りそうだったのでこの選曲です。
エモブレの最初の曲に入ってますのでまだの人はこれを機会に聞いてみてください。
紅宮くんが歌ったのは「トコナツウェーブ」
柿原徹也さんという声優さんの曲です。知ってる人は知ってるかな? あまり私も知らなかったのですが、この間妹と一緒に柿原徹也さんのライブに行ってハマってしまいまして。それで今回夏ならこの曲かな、と出しました。
友希那が歌ったのは「Red fraction」
ガルパではお馴染みの曲ですね。魂のルフランや残酷な天使のテーゼとかと迷ったのですが、ゆりしぃの曲と同じく他の作品と被る傾向にあるので、この選曲です。
長ったらしくなりましたが、読んでいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いしますm(_ _)m