イザークの姉は何を見る   作:ギアボックス

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揺れる感情

□□□□□

Side:エミリア

 

 

「カガリっ!」

 

カガリが救助されたと聞き、私はすぐにハンガーへと向かった。

そこにはストライクに救助されたカガリがいて、何やら医療班の治療を受けている様子だった。

 

「おうエミリア。久しぶりだな、元気にしてたか?」

 

「あなた────馬鹿っ、なんであんな……」

 

私が駆け寄ると、カガリは無事だということを示すように笑みを向けてきた。

その様子に負傷したものの大した怪我でないことはわかる。

 

私は無断出撃したカガリの行動を思い出し、彼女にそれを追及した。

 

「あはは……いや、でも私の援護がなきゃ危なかっただろ?」

 

「そうだけど──でも……」

 

「いいんだよ。友達の為に戦ったんだ、気にするなよな。」

 

そう言いながら、カガリは医療班に連れられて医務室へと運ばれていった。

その後ろ姿を見送り、私は再びブリッジへと戻る。

 

カガリ捜索の為にしばらくこの海域にアークエンジェルは停泊していたが、あまり長居していると再びザフトが襲ってくる可能性があった。

 

「艦長、すぐ動きましょう。長居は危険です」

 

「そうね。アークエンジェル、抜錨!そのまま潜航します!」

 

ラミアス艦長の指示が飛び、アークエンジェルはこのマラッカの地を離れた。

 

今のところは中部太平洋を通過してハワイ経由でアラスカに向かうルートを予定しているが、そろそろ食料や水の備蓄が怪しくなってきている。

 

まだザフトの追撃の可能性がある以上、当初マラッカで降ろす予定だったカガリは下ろせなくなった。

インドシナ半島周辺を悠長に航行していては、またザフトに捕捉されかねない。

 

となると、1つ案が浮上してくる。

 

「艦長、オーブ寄りの航路を取るのはいかがでしょうか?」

 

「オーブへ?」

 

「はい。物資補給の他にカガリとキサカさんを降ろす事もできます。それに中部太平洋でもあの周辺ならザフトも動きづらい地域の筈です。あまり派手な動きはできないでしょう。」

 

ザフトとは協力体制にある大洋州連合がオセアニアにある。

しかし中立の赤道連合を防波堤にしつつオーブ連合首長国の脇を抜ければ、ザフトは赤道連合との衝突を気にして下手な動きはできないだろう。

オーブはポリネシアやミクロネシアに跨がる国だ。大西洋連邦領のハワイとは距離的にも近い為一気に駆け抜けられる。

 

「悪くはないわね。南シナ海からバラバク海峡を抜けていきましょうか」

 

「いえ、ジャワ海を通りましょう。敵は我々が東アジア共和国へ向かうために南シナ海を通ると踏んで待ち構える筈です。マカッサル海峡を抜けてセレベス海から中部太平洋へ出れば交戦の可能性はかなり低くできる筈」

 

このルートであれば、仮にオーブへ向かうと読まれたとしても裏をかける。

 

問題は中立国である赤道連合の領海を通る事になるため、その間は無害通航──つまり浮上して航行しなければならないのが欠点だ。

 

その場合、当然ザフトの偵察衛星に見つかる事も有り得る。

見つかった場合は赤道連合領海外で待ち構えられる可能性もあるだろう。

 

その場合でも、入り汲んだインドネシア地域は進路の偽装がしやすい。

ザフトは様々なルートを予想しなければならないので対応はしにくい筈だ。

 

「一先ず赤道連合に領海通航の事前通達をしてみましょう。もしかしたら、潜航しての通航が許可される可能性もあるかもしれません。」

 

「そうね、一か八かやってみる価値はありそうだわ。法務官がいないからナタルにお願いしてもらえる?」

 

「わかりました。それとダメ元でオーブにも入港の許可を求めましょう。可能であれば本艦改修の打診をモルゲンレーテにも。」

 

「改修?」

 

「はい、本格的な潜航能力の付与を。アークエンジェルは確かモルゲンレーテが設計を請け負っていますよね?なら、本艦に潜水艦としての能力を付加する事も想定していた可能性があります。宇宙との連絡が取れるようになれば、月の第8艦隊に費用の打診をお願いしてみては?」

 

現状、アークエンジェルは潜れるというだけで潜航時の電子機器類や水中用兵装がない。

この際、オーブで改修して本格的な潜水艦化を図ればアラスカまでの航行も楽になる筈だ。

 

改修費用については第8艦隊経由で地球軍に捻出してもらう事になるだろうが、それさえ叶えばさほど難しい話ではないだろう。

 

「うーん……それは事後通告になる可能性もあるし、ハルバートン提督にもご負担が……額によってはとてもでないけど」

 

「そうですね……やはり具体的に費用を計上しないと交渉も……少しでも安くできればあるいは………あ。」

 

ふと、その改修に私の能力が生かせるのではと思った。

私の本職は造船技師なのだ。

 

専門は宇宙船だが、潜水艦に関する知識もあるにはある。

潜水艦として必要な能力を付加するというだけなら私だけでもやれるかもしれない。

そうすれば設計費用は浮くし、改修案についても具体的にまとめられるので予算計上もしやすい。

安くなるように設計する事もできるだろう。

 

「艦長、私が改修設計をやります。幸い改修箇所は多くないですし、時間と費用も節約できる筈です。予算も具体的な額を算出できます。」

 

「えっ!?」

 

ラミアス艦長は口をあんぐりとあけて驚く。

しかし、私がそのメリットを説明すると納得してくれたようだった。

 

「問題はあなたが潜水艦設計の経験がないことね……ノウハウがないとなると……」

 

「そればかりは……ただ、資料に関しては目星を付けてます。ボズゴロフ級も参考にしてどうにか」

 

「なら私も参加するわ。私も技術士官が本業なんだから。それとキャリー少尉や整備班の人たちにも助力をお願いしましょう。もしかしたら、何か知恵が得られるかもしれない。」

 

「そうですね、私一人では限界もありますし……」

 

「なら、改修設計チームを組織しましょう。設計主任はエミリアさんにお願いするわ。代行はナタルに任せるとして、私も少しは艦長やらないといけないから……」

 

「わかりました。」

 

私がふとした拍子に思い付いたアークエンジェル改修計画。

 

私はキャリー先生やクルーの有志、マリューさんと共に非番を使って改修設計に明け暮れる事となった。

キラくんにもシステム設計などで手伝ってもらい、アークエンジェルが中部太平洋へ向かう道すがら改修案を取りまとめていく。

 

幸いなことに、私の航路擬装作戦によってザフトとの交戦はほぼ発生しなかった。

 

まさかカーペンタリア基地から目と鼻の先であるモルッカ海峡を私達が通るとは思ってもみなかったらしい。

赤道連合から昼間に限って潜航許可が降りていたのも大きく、ジャワ海での進路をかなり誤魔化すことができた。

 

私達がマカッサル海峡を通過すると予測したのか、ザフト軍はスラウェシ海で網を張っていたようだ。

しかし、私達がモルッカ海峡を通過して中部太平洋に出た事でその背後を通る形となった。

 

華麗に彼らを欺いた後はそのままマリアナ諸島へ進路を取った。東アジア共和国に向かうと誤認させる為だ。

 

グァム島沖合いで東に針路を取り、カロリン諸島を防波堤にしながら東進する。

マーシャル諸島に着く頃にはザフトも追跡を諦めたらしく、追っ手らしい追っ手が現れる事もなくなっていた。

 

 

 

□□□□□

Side:イザーク

 

 

「……マーシャル諸島にいただと?」

 

俺はマラッカで取り逃がしたアークエンジェルがマーシャル諸島で見つかったと報告を受け、その手腕に舌を巻いていた。

その報告を持ってきたのはディアッカだった。

 

俺達は母艦のボズゴロフが被弾した上にMSは軒並み被弾損傷、更にはディン2機を失うという壊滅的打撃を受けた。

 

更には隊長のアスランが行方不明になり、ヤツを救助していたら目と鼻の先にアークエンジェルがいたのだ。

こちらにアークエンジェルと戦うだけの余力はなく、泣く泣く見過ごすしかなかったのが本当に悔しい。

むこうが狙ってそれをやったなら最早鬼才という他ない。

 

俺達は失態に失態を重ね、ほうほうのていでカーペンタリアに撤退した。

帰投するとクルーゼ隊長からは真綿で首を絞めてくるような叱責を受け、追跡任務は別の部隊が引き継ぐ事になる。

 

俺達は半ば謹慎処分のような待機を命ぜられ、基地内ではすっかりマヌケ扱いだった。

 

勇んで出ていったくせに返り討ちにされて逃げ帰ってきたと蔑まれる。

俺のプライドはズタズタだ。

 

しかし、普段ならそれでアークエンジェルが死ぬほど憎くなるのだろうが、今の俺はそんな気分じゃなかった。

 

「…………やっぱり、気になるのか?」

 

「……気にならん方が無理だろうが」

 

「そう、だよな。」

 

救助されたアスランに詰め寄った時、()()が告げられたのだ。

 

お前の姉──エミリア・ジュールがアークエンジェルに乗っている。

それどころか、鹵獲されたブリッツのパイロットをやっている、と。

 

それを聞いたとき、俺は酷い目眩がした。

姉上がアークエンジェルにいる?

しかもブリッツのパイロット?

 

冗談を言っているのかとアスランを怒鳴り付けたが、アスランは真顔でそれを否定した。

敵パイロットから情報を引き出したらしい。

元々アスランはそんなふざけた冗談を言う奴ではない。

つまり、それは本当の可能性が高いという事。

 

そうだとしたら、俺はずっと姉上と戦ってきたという事になる。

へリオポリスからマラッカまで、ずっとだ。

 

思えば、バナディーヤで姉上と会ったのはアークエンジェルがリビアに降りてきてからだ。

手紙が送れなかったのも、ずっとアークエンジェルにいたからなら説明がつく。

姉上はどういう因果かへリオポリスでアークエンジェルに乗り、恐らくそのまま同行しているのだろう。

 

 

 

だが姉上が相手だったとしたら、あの艦が何故あれほどの規格外じみた強さを発揮するのかも納得がいった。

 

姉上はマティウス・アーセナリーの造船技師で、当然こちらの軍事兵器にも詳しい。

博識な姉上なら、ちょっとした軍事講習や自主学習だけで用兵術や軍事知識をマスターしてしまう可能性もある。

何より、姉上の先を読む力や読心術、状況観察力はそのまま作戦指揮に活かせるレベルなのだ。

 

姉上がアークエンジェルを指揮しているなら、あの強さにも納得がいく。

そして何より、アークエンジェルの取ってきた戦術は思い出してみれば見るほど姉上らしい戦術だった。

 

敵を餌で誘引し、その虚をつく。所謂陽動戦術だ。

アークエンジェルの戦い方はそれに集約されている。

それによって俺達は何度も煮え湯を飲まされてきた。

 

何より姉上と何度もチェスで勝負してきた俺にとって、その戦法は見慣れたものだったのだ。

今になって思えば、姉上のやり方だと十分気づけた筈。

しかし、俺が気づかなかったのは相手が姉上だったからかもしれない。

 

姉上の恐ろしい事は、必ず陽動を取ってくるにも関わらずこちらにそれを気づかせない、もしくは気づいても時すでに遅しというような状況に陥らせてくるところだ。

 

チェスでこちらが何手先まで読もうが、その深読みを利用し、しかも相手の心理まで的確に利用して釣ってくる。

それが姉上の恐ろしさの根源。

 

だから、毎度俺は姉上にチェスで負けてきた。

俺の考え方は姉上には筒抜けであるが為、俺が動きたくなる状況を姉上に作られてしまうのである。

 

どうやら、姉上はチェスどころか実際の戦場でもその能力を発揮しているらしい。

尽く蹴散らされてきたのも、相手が姉上だと言うのなら納得がいった。

 

しかし、それでも疑問は残る。

実際の戦場に出るなど姉上の性格からは想像もつかない。戦争を嫌い、父上の死を嘆き悲しみ、俺が出征するのを無言で引き留めてくる姉上がである。

だからこそ、姉上が敵の艦に乗りこちらと戦っていると言われても想像しにくかった。

 

だが、戦術は姉上そのもの。

姉上が戦っていると信じる他ない。

 

しかし、思い出してみれば姉上はこちらに対して徹底的な戦い方をしてくる事はなかったようにも感じる。

アークエンジェルが何人もこちらの兵を殺してきたのは事実だ。

だが、姉上はそれを直接手にかけてない。

それに、どうも手加減されているのか俺を殺しにかかったことはない。

チャンスなどいくらでもあった筈なのにだ。

 

姉上は俺がデュエルに乗っている事は知っていると聞かされていた。

だから手加減してくるのも十分有り得る話だ。

それに思い当たる節もいくつかある。

 

姉上は戦いたがっていない。

無理矢理戦わされているのだ、そうとしか思えない。

姉上を早く助けなければという思いにこの身がうち震えた。

 

しかし、そんな希望はすぐに打ち砕かれた。

 

姉上は、私がこの艦を守らないといけないという旨を発言している。

しかも、あの艦に想い人までいる。

その思い人はストライクのパイロットで、かなり仲睦まじいときた。

 

そいつの名はキラ・ヤマト。

バナディーヤで姉上と会った時、その傍らにいたボーッとしたヤツだ。

アスランの旧友らしいソイツが、姉上の想い人。

 

今の姉上は、そのヤマトの為に戦っているらしいのだ。

 

思えば思うほど、何故バナディーヤで会った時に殴ってでも引き留めなかったのかと後悔した。

そうしていれば、少なくとも姉上と戦うというこの事態は避けられた筈なのに。

 

しかも、今俺はアークエンジェルの追跡任務から外されている。

姉上が友軍から攻撃されるのを、俺は指をくわえて見ているしかできないのである。

それがまたもどかしくて堪らない。

 

 

そして、現在に至る。

アークエンジェルは追跡を行う友軍を尽く欺き、裏目に裏目をついて悠々と逃げ去っていた。

 

南シナ海に出るかも思えば、ジャワ海で夜浮上航行しているのを衛星が捉える。

じゃあと次はマカッサル海峡に網を張った友軍の後ろを、まるでアークエンジェルは嘲笑うかのようにモルッカ海峡からスラウェシ海に抜けていた。

 

モルッカ海峡はこのカーペンタリアからそこまで離れていない。

姉上はそんなこちらの油断を逆手に取ったのだろう。

 

そして、中部太平洋をグァムまで向かったアークエンジェルに対し、カオシュン攻略を行った部隊が捉えようと網を張るが失敗。

アークエンジェルは姿を消し、次に見つかった時にはマーシャル諸島にいた。

つまり今日だ。

 

「つくづく思うが、姉上はしたたかな方だ。姉上の策略を読める将なぞそうはいない。その辺の部隊でアークエンジェルを捕まえるなど無茶な話だ。」

 

「随分慕ってんだな。敵だぞ、お前のねーちゃんは。」

 

「あぁ、知ってるさ。だが手腕が見事なのは事実だろうが。認めたくないが、"銀狼"の正体は姉上だ。こんなバカな話があるか?」

 

俺がそう漏らすと、ディアッカは肩を竦めながら首を振った。

姉上が敵で、しか銀狼だと知ってから俺はずっとこの調子だ。

 

「で、どうすんのさ。銀狼をやるってことは、つまり()()()()()()だぜ?」

 

「………やらなきゃならん。ジュール家の人間として、けじめをつけなければならんのだ、俺は。」

 

「そうは言うけどさ………お前、ねーちゃん前にして引き金引けるのかよ?」

 

「…………………」

 

ディアッカの指摘に俺は黙るしかない。

多分、姉上を前にすれば俺は引き金を引けない。

姉上を俺が殺すなど想像したくもなかった。

 

「…………まぁそうだよな。普通そうだ。俺だって、ねーちゃん殺せなんて言われてはいそうですかってやれるもんじゃないし。俺達にその暗殺任務がまわってこないよう祈るしかない、か。」

 

「………………畜生……畜生……なんで姉上が……なんで、こんな事になったんだ……!」

 

ディアッカが隣でぼやくように言う。同情してくれているのだろうが、俺はそれを聞いて尚更惨めな気分になった。

俺は頭を抱えて自分の無力さと運命を呪うしかない。

 

生きていて欲しいと願う俺と、死んで欲しいと思う俺。

相反する思いが交錯し、俺の頭はぐちゃぐちゃになりそうだった。

 

 

□□□□□

Side:フレイ

 

 

アークエンジェルのオーブ入港の可能性が高まり、私達はにわかに浮き足立っていた。

親族との面会や本土への上陸が検討されているらしく、一種の長期休暇のようなものが貰えるとエミリアから聞いた為だ。

 

アークエンジェルは現在オーブのオノゴロ島沖合80mの海底に潜んでおり、艦長さん達がオーブ政府との折衝で一足早くオノゴロ島へ赴いている。

 

残っている私達はというと、一部のクルーを除いて全員手空きという状態だった。

そもそもここまで来るのに戦闘らしい戦闘もなく、時折ザフト艦らしい音紋を見つけては海底に潜むというような事を繰り返していた。

 

とことん交戦を避け続けた結果損失らしい損失もなく、あるとすれば備蓄食料が乏しくなっているという事だけだ。

 

それも、艦長さん達の交渉次第で決着が着くだろう。

 

「フレイ、上陸したら何する?」

 

「んー、私はショッピングかな。パパと連絡も取りたいしね。」

 

ミリアリアと上陸後の予定について話していると、何やら廊下でエミリアとキラが話しているのを見つけた。

といっても廊下の曲がり角の向こう側から話し声が聞こえてくるだけであり、二人の姿を見たわけではない。

 

私は隣のミリアリアを引き留めると、廊下の曲がり角に二人がいることを耳打ちした。

 

「さっすがソナーマン………で、何話してるのあの二人?」

 

「ちょっと待ってよ…………二人も上陸の予定話してるわ。コーヒー飲みに行こうって話みたいね。」

 

「デートじゃん…!」

 

あの二人が付き合っているのは艦内では有名な話だ。最近は目撃談が減ったが、もっぱら副長室で逢瀬を楽しんでいると噂されている。

 

ただ不思議とキラからエミリアの匂いがしたことはないので、多分()()()()()()()

まぁエミリアは副長でキラはパイロットなのだから、艦内風紀の引き締めという意味で控えているのかもしれない。

 

そんな二人だからこそ、今回の上陸ではもしや……となる訳である。

 

エミリアもキラもここ最近は何かの作業に掛かりきりで忙しく、多分二人で会う時間はそんなに取れていないだろう。

というか、二人にとっては仕事がデートのようなものなのかもしれない。

 

「フレイもサイと出かけるんでしょ?私もトール誘ってみようかな……」

 

「いいんじゃない?今のうちにトールの予定聞いといたら?」

 

ミリアリアはトールと、私はサイと上陸する。まぁ、スケジュールが許せばの話だけど。

とにかく、今は艦長さん達の交渉が上手くいくのを待つしかなかった。

 

 

 

□□□□□

Side:カガリ

 

 

「なぁキラ、ちょっと話があるんだけど……」

 

「何?」

 

私は自室にいたキラに例の件の事で話しかけていた。

アスランから言われた事だ。

 

「実はさ、私……アスランに会ったんだ。」

 

「!…………そう、なんだ。」

 

「それでだな……アスランにお前とエミリアの事話したんだ。」

 

「えっ!?ちょ……ちょっと待ってよカガリ!それじゃ──」

 

その事を告げると、やはりキラは戸惑ったような表情を浮かべた。

エミリアの事についてはあまり話さない方がいいと言うのは理解している。

しかし、私はこれ以上エミリアが追い詰められていくのわ、見ていられなかったのだ。

 

「多分、知られたと思う。エミリアの弟にも……」

 

「───どうしてそんなことを!エミリアさんの事を考えたら黙っておいた方がいいってわかるだろ!?」

 

キラは眉を尖らせ、普段の様子からは想像もつかない程の剣幕で私に詰め寄ってきた。

思わず私は後ずさるが、私は持ち前の負けん気で持ち直すと素直な気持ちをキラに投げ掛けた。

 

「す、すまん!だが……お前やアイツの事を考えると、そうした方がいいと思ったんだ。お前もアイツも、本当ならアスラン達と戦う方がおかしいってわかるだろ?」

 

「そりゃ、僕だってアスランと戦うのは嫌だ。でも、仕方ないじゃないか」

 

「同じことアスランも言ってた。それに戦いたくないって事も。当たり前だろ、友達とか姉弟同士で戦うなんてさ。」

 

「…………それで、アスランはなんて言ってたの?」

 

キラが沈痛な表情で聞いてくる。

私は一瞬告げるべきかどうか躊躇うが、そのまま押し通した。

 

「…………投降して欲しい、だそうだ。お前とエミリアに。」

 

「それじゃ、この艦の人達はどうなるんだよ!?僕達がいなくなったら、この艦は……!」

 

キラまで、まるでエミリアのような事を言い出した。

もしかしたら付き合っていくなかでほだされたのかもしれない。

 

「お前までそんなこと言い出したのかよ!?」

 

「当たり前じゃないか!友達が乗ってるんだ、この艦には。僕達が投降したからって、ザフトがアークエンジェルを沈めない保証はどこにもない。皆を見捨てて、僕達だけ艦を離れるなんて出来るかよ!」

 

「じゃあ、お前はそうやってまたアスランと戦うのかよ!?死んでからじゃ遅いんだぞ!?」

 

まるでエミリアと話していた時のような内容をキラとも交わす。

私はキラやエミリアの献身的な精神は良いと思うが、それで死んでしまったのでは元も子もないと思うのだ。

だから、口調はどんどん強くなっていった。

 

しかし、キラは私の感情とは裏腹にトーンダウンしていく。

 

「カガリ……投降したとして、僕はまだいいさ。けど、エミリアさんがどうなるかは考えなかったのか?あの人はプラントの人なんだ。それがザフトの兵士を何人も殺したんだから絶対に追及される。エミリアさん殺されるかもしれないんだぞ?」

 

「…………だが、そんなの決まった訳じゃ……」

 

「可能性は捨てきれないだろ。なら、それも加味して動かないと駄目だ。言っちゃ悪いけど…………カガリ、君はエミリアさんを追い込んだかもしれない。」

 

「っ!?───そんな、私は……」

 

キラに言われ、私はその事が完全に頭から欠落していた事を思い知らされた。

確かにキラの言う通りだ。

エミリアの立場は端的に言って裏切り者。それもとびきりタチの悪い、だ。そんなのがノコノコ本国へ帰ってくれば極刑なんて話にもなりかねない。

 

私が言った事で、エミリアの選択肢を奪った可能性もある。

私は自分の軽はずみな言動を恥じる他ない。

 

「……エミリアさんは、全部推測してた。自分が仮にザフトに投降した事とかも。僕が言ったのは全部受け売りだ。エミリアさんは全部わかってたから投降しなかったんだ。あの人が何手先まで考えてるか、君もわかるだろ?」

 

「………………」

 

言われてみればその通りだ。

私に話さなかっただけで、エミリアはすべて考えていたのだろう。

私の考えが及ばないくらいアイツの頭はキレる。

エミリアが頑なに投降を拒否した事をしっかりと鑑みるべきだったのだ。

 

「……とにかく、僕達は投降しない。アークエンジェルに着いていくしか、僕達にはできないんだ。」

 

「けど……」

 

その時、背後から声がかかる。

私は振り向かなくともそれが誰かわかったが、振り向きたくなかった。

 

「────カガリ、あなた………」

 

「エ、エミリア……」

 

どうにか首を動かして後ろを振り向くと、案の定エミリアがいた。

エミリアの片方しかない瞳は悲しげで、それでも何か達観したような表情だった。

 

「ごめんなさい、話が聞こえたの……………それじゃ、私がこの艦にいるとあちらも知った、という事ね?」

 

「…………すまない、私が浅はかだった。なんてお詫びしたらいいか………」

 

「………いいわ。遅かれ早かれ、いつかは知られる事だったもの。知られた事は大した問題じゃない。あなたが気負う必要もない。」

 

いつもの通り、エミリアは感情的な私とは程遠い静かな口調で私に言う。

その態度を見て、更に私は自分の行いをいたたまれなくなってしまった。

 

「だが……」

 

「カガリは、私やキラくんの事を思ってそうしたんでしょう?なら仕方ない。けど、あなたのその心は美徳でもあり欠点でもあるの。一国のお姫様がそんな浅はかな考えで動くと国は滅びるわよ。次からはよく考えて動きなさい。」

 

「う、うん………」

 

エミリアは多分私の感情を汲み取ったのだろう。

だから、あえて私を嗜めたのだ。

私はそれで酷く惨めな気持ちになるが、エミリアに対する後ろめたさはそこで消えていた。

 

 

 

 

 


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