今回は結構長いです、申し訳ない。
とじよんのとあるネタ#25で思ったんですが……、
・病が完治しておらず、尚且つ龍眼もノロの力も使用していないであろう状態のうえ単独(つまり、龍眼は処理落ちしないので、性能は下がっていない。)で、可奈美達六人がかり(尚、この時はアニメ本編19話の真希さんの“紫様がタギツヒメの力を内側から力を抑えてくれていてくれたから云々”の証言が事実なら、可奈美のときは弱体化されている筈。)を相手に壊滅させた力を持つ大荒魂の力を“ヤキそばのために使う”紫様相手に2分50秒も戦い続けられた。
……この頃から結芽ちゃんって、ヤバない?
(……あの子童の瞳と髪の色が変わり、角が生えてきたということは、自身の身体をノロに侵食させ、荒魂の力を強めると同時に、身体能力と龍眼の強化を図った……。といった所か。)
大荒魂は自身の荒魂の腕を咀嚼する優の姿を見て、動揺するが、優の身体の変化によって冷静さを取り戻した後、身体の変化は自身の身体能力と龍眼の強化をするために、自身の体をノロに侵食させ、荒魂の力を強くしていった結果だろうと結論付けていた。それならば、20年分のノロを取り込んだ自分の方がまだ有利であると判断すると、
「だが、その程度で我に勝てると思って――――!!」
その言葉と同時に大荒魂は優に斬り掛かるが、荒魂の腕が持っていた御刀が優の身体に刺さったままだったので、優は自身の身体から一気に引き抜くと、紫に向けて投げる。大荒魂は優が投げてきた御刀を弾いて防ぐが、その代わりに優の接近を許してしまう。
「何!?」
大荒魂は驚愕していた。相手は剣術経験の無い子供であるのにも関わらず、地を這う蛇の様に動き、紫の鳩尾を狙った“平突き”に、大荒魂も流石に身長差から避けることしかできなかったが、何よりも“天然理心流の平突き”を使ってきたことに驚愕していた。
そして、大荒魂にとってはありえないモノが視えてしまっていた。優の動きが、結芽の動きと似ている部分が多く感じ取れていた。
左足を狙った足払いと薙ぎ払い、反撃の上段斬りを薙ぎで軌道を逸らし防御するだけでなく、薙ぎ払いと共に流れるような突き、迅移を使って突然背後に回ると同時に宙を舞うかの様な回転斬り、そして踊る様に跳ねながら剣を振るい続ける。
その迅移を駆使した縦横無尽の動きと、尚且つ流れるかの様な連撃にさしもの龍眼も対処不能なのか、大荒魂は優に有効打を与えることはできなかった。
……尚、優が結芽の動きを本当にできるようになったわけではなく、荒魂の力を強くしたことによる、強化された身体能力任せに打ち込んでるだけのことであり、実際はできていない状態である。
しかし、大荒魂も黙ったままなのはさすがに不味いと思い、打開策を講じる。そして、大荒魂はあることに気付き、仮説を立てていた。
(燕 結芽のノロを吸収して、その記憶から天然理心流を模倣しているのか?だが、その様な事で……。)
以前、結芽とは何度も立ち会ったが紫は何度も白星を上げていため、脅威ではないだろうと高を括り、二刀の御刀で斬り掛かる。
「……ありえないっ。」
だが、当たらない。二天一流の技が何一つ当たらない。
「ありえないっ!!」
龍眼による未来視で視ても、何一つ当たらないという結果が出ていた。
「……あのさぁ。」
不意に優が大荒魂に向かって、言い放つ。
「ごちゃごちゃとうるさいんだけど?」
ただ喧しいだけだと……。
大荒魂はその言葉に憤り、荒魂の腕を使うと、一瞬だが対処が遅れた様に感じていた。
(……もしや、龍眼ではなく燕 結芽の記憶から紫の動きを読み取って攻撃を対処していたのか?)
それが、紫の二天一流を避け続けられ、荒魂の腕の対処に遅れた理由ではないかと推測していた。
(……ならばっ!!)
大荒魂は荒魂の腕による最速の突きで“優を刺せるか”どうかを龍眼で確認していた。すると、優は避けられず、串刺しにすることができたことにより、推測通りであったと内心ほくそ笑むと、大荒魂は龍眼の予測通りに荒魂の腕による最速の突きで優の腹を串刺しにしていた。
「……ありがとう。力を貰うよ。」
優はそう言うと、笑顔で荒魂の腕を掴み、後ろに下がると同時に荒魂の腕を斬って千切り、荒魂の腕の切断面を咥えていた。
(……しまった!)
先程と同じ様に吸収されると判断した大荒魂は慌てて優に接近するが、また同じ様に迅移を駆使した縦横無尽の動きと、尚且つ流れるかの様な連撃を受けることになり、大荒魂は先程の激しい剣戟へと戻されてしまった。
(……我は奴の誘いに乗ってしまったのか!?)
大荒魂は、優が荒魂の腕の対処に遅れたのは、荒魂の腕を使わせ大荒魂と分離させ、その部分のみ吸収するためにそう見せたブラフではないのかと思い込み始める。
ただ実際は、大荒魂の推測通りであり、何度も紫に挑み続けた結芽の記憶とタギツヒメが持つ龍眼の未来予測で紫の肩の動きのみを視て対応していたことと、
『相手が先読みしてくるなら、相手よりもとにかく素早く動いて息つく暇を与えずに攻撃っ!!遅れんなっ!!』
結芽の厳しいスパルタ指導と結芽独自の龍眼対策の戦法を頼りに二天一流の攻撃を躱し続けられただけのことである。それを悟られぬよう、客を相手に嘘を使っていたミカが、敵を殺す術を覚えているジョニーが、
『あっ、そうだ。あの伸びる腕を使わせてたら勝てると思い込ませて、今みたいな伸びる腕を引き千切って吸収すれば、あの目ん玉動揺するんじゃない?』
『おお、そうだな。それに、俺が考えた千切った腕をもう一回喰えばあいつビビるんじゃね?』
といったアドバイスを優に伝え、言われた通りの行動をし、大荒魂の力を奪い取れていた。
(ならば、あの雛共を人質にして……何っ!!?)
龍眼の攻撃が通じないと見るやいなや、大荒魂は早期に決着をつけようと、可奈美達を人間の盾にして、勝利を得ようとしていた。しかし――――、
(……何だと!?)
可奈美、姫和、舞衣、沙耶香の誰かを人質にしても、
――――全て、その人質ごと大荒魂を斬ろうとする優の姿が龍眼を通して見えていた。――――
(……何故だっ!!)
大荒魂は驚愕した。
『折神紫、我は取引を提案する。』『我と同化しろ、さすれば藤原美奈都と柊篝の命は救われる。』
嘗て、こういった人の心の良心を利用し、紫を脅して、紫の身体を乗っ取ることが出来た。そのため、大荒魂は人の心の良心を理解できるが故に人の良心を利用することができた。……しかし、目の前の少年は可奈美のことを大切にしている筈である。なのに、龍眼を通して視た優は、何故か可奈美を人質にしても、何事も無いかのように斬り殺していたことに、大荒魂は先程の荒魂の腕を喰うといった行為を事も無げに行う優のことを思い出してしまい、この少年に恐れを抱くようになる。
『あの目ん玉。こっちのこと怖がってる。』
優に畏怖の念を抱いてしまった大荒魂は、恵んでくれる人の見分け方を教えられ、物乞いビジネスに従事し、感情の機微に聡くなったニキータによって大荒魂が動揺していることに気付かれてしまい、優に動揺していることを知られてしまう。
「なんだ……?お前は、一体?」
しかし、何故龍眼を通して見た優は何事も無いかのように斬り殺してしまえるのかと言うと、大荒魂が知る由も無いことだが、タギツヒメが言うには刀使に対抗できるようにするため、スレイド博士による、
『……人を殺すことに疑問を持たないこと、目的達成のためなら自己犠牲も厭わないこと、この二つだけの筈だ。』
洗脳と暗示によって、優はそのような内容を植え付けられていた。
そのため、目的達成のためなら自己犠牲も厭わないこと、という洗脳を受けていたため、タギツヒメのことを馬鹿にした大荒魂を殺すことを“目的”として、無意識にすげ変わっていた優は可奈美達のことが見えなくなっていた。
だが、優は此処に来る時、天井を突き破って来ていた。下に可奈美達が居るのにも関わらずにである。つまり優は、瓦礫が可奈美達の下敷きになることを全く考慮していない訳であり、後先考えない衝動的な行動を行う前兆は有ったのである。
しかし、大荒魂は目の前に居る少年が理解出来なくなり、次第に化け物か何かのように思い始める。
そのため、大荒魂は龍眼が出した荒魂の腕による最速の突きが有効、人間の盾は無意味といった“最良の結果”を信じていいものかどうか判断しづらくなりつつあった。更に――――。
『ですが困ったことに私達もそんなものを造ったのは初めてでして、いかんせんあのマッドでも久しぶりのことらしく、ノロの量を間違って“病弱な体”にとっては致死量となるようにしてしまったかも知れません。』
病弱な身体にとっては致死量となる程の多量のノロを結芽から受け継いでいること。
『半年前は紫様が肉体の自由を奪われながらも、内側からタギツヒメの力を抑えていてくれた。だが今は違う、タギツヒメは紫様という枷から解き放たれた。』
可奈美達が知りうることではなくなるかも知れないが、本来の世界線の真希が言うにはこのときの大荒魂は弱体化しており、
『人体に大荒魂との融合を完成させることだ。……確かに、伴侶と一つになれた。しかし、我が伴侶から抜ければ、ノロで強化された身体は無くなり、投薬と暗示の影響で優は薬物依存と様々な副作用によって短命化することになるとは思いも寄らなかった。だからこそ、我は伴侶のために全ての力を出していない。出してしまえば伴侶がどうなるか分からんから傍に居てやるべきだと思った。……そういうことだ。』
そして、タギツヒメも全力を出さなかったが、優に言われ、全力を出すことにし、
『でないと、私の凄いとこ、見せられないじゃん。』
自分の存在を他者に認識して欲しかった結芽は、最強の刀使と云われている紫に何度も挑み勝利を得ようとしたが、ソフィアに横槍を入れられ、ついぞ叶うことはなかった。
しかし、結芽が紫に挑み続けてきたからこそ、優は大荒魂が使う紫の二天一流を躱し続けることができた。
母の愛を知らない優が自身の身体を犠牲にして、タギツヒメの力を強め、身体能力と龍眼の力を底上げしたこと――――。
生まれたときから貯蔵槽の中に居た記憶しか無いタギツヒメが持つ龍眼のお陰で、一手先が見えていたこと――――。
ジョニーが家族を失い少年兵となり、銃と戦い方を教えたからこそ、此処まで来れたこと――――。
親によって花を売ることになったミカが客を相手に嘘を吐いていたため、はったりで相手の龍眼を封じれたこと――――。
ニキータが物乞い仕事を心無い大人達にさせられたことにより、人の感情の機微を読み取るようになったこと――――。
そして、両親から捨てられた結芽は最後の最後まで自身の運命に抗うためにノロを受け入れ、自らの天然理心流で紫の二天一流に挑み続けたことにより、結芽の天然理心流が紫の二天一流に拮抗していた――――。
そういった要素が一つ一つ繋がり、優と大荒魂の戦いは、今や龍眼やノロの量と質の差ではなく、純粋に結芽の剣か紫の剣かどちらかが優れているかという真剣勝負となっていた。
『……ありがとう、……みんな、ありがとう。』
結芽は真希と寿々花を救えず、夜見に酷い事を言ってしまったまま命を失ってしまったことに無念を抱き、自分の人生は剣術は一体何だったのかと意味はあったのかと思ってしまうほど思い詰めてしまっていた。
しかし、自分が持つ天然理心流の技が、あの現最強の刀使と云われている紫を相手に五分の勝負に持ち込めているのを見て、意味はあったと優と此処に居る子供達に教えて貰っているかのように思え、結芽は小さく誰にも聞かれなかったが、感謝の意の言葉を呟くと共に、結芽の心と血潮は昔日を思い出すかのように熱くなり、手を奮わせながら、その光景を見続けていた。
こうして、外敵の脅威によって仲間を奪われ、傷付けられ、ついには命を失ってしまった燕は今再び、飛び立つ不死鳥の如く復活し、親衛隊最強と謳われた結芽の
「……もっと、……もっとちょうだい。ヒメちゃん。」
そして優も理由はよく分からなかったが、結芽の天然理心流で勝ちたかった。
だからこそ、自身の身体がノロに侵食されるという激痛に苛まれながらも、更に笑顔で力を引き出そうとする優。そのためか、右額から生えた角は更に大きく、耳を覆う形となり、荒魂の腕となった左腕も更に太くなっていった。
(何だ……?何なんだお前は?そうまでして何故戦える!?)
満身創痍となり、最早荒魂と言っても過言ではないかのような姿となりながらも、熊の形をした鍔とイチゴ大福ネコのシールを貼った少女趣味溢れる御刀を携えるこのアンバランスな少年に大荒魂はある種の恐怖を感じていた。
『……やはり、我等は滅ぼされる運命にあるのか……。』
大荒魂のどこか自己否定的で自身の存在意義を見出すことを原動力とする分身が勝手にそう結論付けていた。
(……うるさいっ!!お前も考えろ!!)
大荒魂は感情的に、自己否定的な半身にこの窮地を脱する方策を考えろと言っていた。
『ここは逃げるべきではないのか?』
それに応えるかのように、人間への支配欲を原動力とする分身にここは一旦退却すべきであると進言されるものの、
(やっと、ここまでしてのけたのだぞっ!あんな
と言って、人間への支配欲を原動力とする分身の進言を却下していた。そのため、
『……ここが引き時か。』
人間への支配欲を原動力とする分身が、そう小さく呟いたことに気づかないままであった。
「くそっ!!舐めるなぁっ!!」
しかし、残った荒魂の腕で優の御刀を持っている方の腕を抑えつけると、もう一方の荒魂の腕で刺し貫き、壁に押しつけるということをやっと思いついた大荒魂は、荒魂の腕二本で優を壁に押しつけると、
「がっ!」
優は後頭部に壁が当たり、意識が朦朧となる。
そこへ、大荒魂が、
「悪あがきも、これで終わりだあぁぁぁぁっ!!!」
咆哮と共に優に向かって、二刀の御刀で切り刻もうとしていた。――――
少し時は戻り、真希はおぼろげながら気を取り戻し、周りを見ていた。
すると、剣戟の音が聴こえたので、そちらの方へ目を向けると、大荒魂と戦っている者がいることに気付いてしまう。
(……あれは、誰だ?)
大荒魂と単独で打ち合っているということは、それ相応の実力を持つということである。何者であるか見てみると。
(……結芽?)
忘れもしなかった。目標としていた一人の子の動きは。だからなのか真希の目には、優ではなく結芽と大荒魂が打ち合っているように見えた。
その光景に、真希は残酷な運命を乗り越えようとしていた“結芽”に希望の光明を見い出していた。
(……結芽、……そうだお前は僕達の切り札で親衛隊最強だ。……だから、紫様に乗り移っている不躾な荒魂を……倒せっ!!)
真希は立ち上がろうとするが、立ち上がることすら億劫であった。
しかし、自分も親衛隊の一員である。結芽を一人にしておく訳にはいかない。
(……立て、立つんだっ!!)
どうにか意識だけで這い上がろうとする真希。だが、結芽が大荒魂の荒魂の腕が持つ御刀で刺し貫かれると、虫の標本のように壁に押しつけられる光景を見て、奮起する。
真希は残った力を総動員させて、祢々切り丸を再び持ち上げ、意識を全て大荒魂に集中し、
「悪あがきも、これで終わりだあぁぁぁぁっ!!!」
意識が混濁しているにも関わらず、大荒魂の咆哮だけがやけにクリアに聴こえ、そのように喋ったような気がした。なら、結芽が危ない。そう反射的にそう思った真希は、
「結芽えぇぇぇぇっ!!」
獅子のような咆哮を上げ、大荒魂と優の間を狙って御刀祢々切り丸を回転させながら投げていた。その技は、奇しくも山中の戦いで薫にしてやられた技と同じであった。そのため、残っていた荒魂の腕は全て斬られて吹き飛ぶか、喰われてしまった。
(……おそらく、僕の方に攻撃するだろう。……結芽、必ずその隙狙って勝て。……そうして、名を上げてみんなに……憶えていてもらうんだ。)
そう思いながら真希は、結芽が大荒魂を討ち滅ぼす未来を夢見ながら、意識を失い、倒れていった。
「……おのれぇ……!!」
怨めがましい顔をした紫、もとい大荒魂が真希の方へ向いていた。その光景を見た結芽は、手を握り締めながら、優に向けて大きく叫ぶ。
『立てっ!私の剣術を使っておいて、負けんなぁっ!!』
結芽の叫びにハッとなる優。押さえつけられていた荒魂の腕は力を失っているため、自由に動けるようになり、そして――――、
『そうだっ!結芽の技貰っておいて、負けてダセェ姿晒すんじゃねぇ!!』
ジョニーの荒っぽい声援が右足を立たせ――――。
『そうよっ!!ここまでお膳立てしたんだから、負けんじゃないわよっ!!』
ミカの激しい声援が両足を立たせ――――。
『結芽おねーちゃんは弱くないってこと、証明させてあげてっ!!』
ニキータの必死な声援が意識をハッキリさせる――――。
大荒魂は優が真正面から来たため、驚きつつも迎え撃とうとするが、それは叶わなかった。
優の突きが、まるで同時に三方向に放たれたように見えたため、先を読むことができる龍眼を持ってしても躱すことができなかったからだ。
大荒魂は今の“三段突き”とも云える技に驚愕するしかなかった。
但し、今の“三段突き”は荒魂の力を強くし、身体能力を底上げして三箇所をただ早く突き技を放っただけのことであるため、もし大荒魂が“荒魂”としてではなく、“剣士”として立ち会っていたら、すぐさま対処したことであろう(例を挙げると、可奈美がやったようにわざと刺し貫かれて、優を押さえ付けて、反撃する等。)。
「……お前は一体何だ!?……こんな未来ある筈が……!!」
しかし、大荒魂は荒魂として本気を出すことを選んでしまったため、対処ができず、為す術なく“三段突き”を受けてしまう。
「……何か、……剣術ってこうするんだね。ありがとう結芽おねーちゃん。」
結芽に剣術を教えてもらった優は感謝の意を述べると、少し昔のことを思い出していた。
『それに、お医者さんが言っていたでしょ?大きくなったら身体が強くなれるから、強くなったら剣術を一緒に頑張ろう?ね?』
少しだけだけど、剣術を使えるようになった自分を見たら、可奈美は喜んでくれるかも知れないと思い描きながら。
「この……。」
そして、大荒魂は、
――――自身の一部である荒魂の腕をことも無げに喰べる。
――――幼い子供が、死を恐れぬ死兵の如く突き進んでくる。
――――親類縁者を人質にしても、それごと斬ってくる。
――――龍眼を持ってしても、対処できない“三段突き”を使う。
これらを思い出しながら、優のことをこう評し、こう叫んでいた。
「化け物があぁぁぁぁぁっ!!!」
大荒魂は、本当の怪異は荒魂ではなく、この少年のことではないかと思い始め、激しく動揺し、型も何もない、大振りの上段からの振り下ろしで斬り掛かろうとしていた。
しかし、相手を動揺させ倒すという目的で強化された優にとって、その行動は最大のパフォーマンスを発揮することができる物でしかなかった。
結果、写シの上とはいえ紫の片腕を弾き飛ばし、天下五剣の内のひとつの太刀童子切安綱という御刀を手元から失わせる。
更に優は追撃を行うべく、御刀を持っていない方の腕から近付くと、元々ひとつの太刀であったニッカリ青江が結芽の強さを証明させるかの如く、宗像三女神の名を冠する大荒魂を女の幽霊を斬ったという逸話通りに大荒魂を斬っていた。
そして、斬られた大荒魂は人間とも、獣とも言えない金切り声を上げていた。
『……済まんが、我はやらねばならぬことがある。ここを離れさせてもらう。』
『……同じく。』
そして、自己否定的な半身と人間への支配欲を原動力とする分身はそれだけ言うと、斬られた部分から天にも昇る程の紅い奔流を二本打ち上げると、本体を見捨てて逃げていた。
「……キサマらっ!!」
それを苦々しく見つめる大荒魂。しかし、それが大きな隙となり、
『あの目を斬れ!!そうすれば紫は意識が戻る筈!!』
優はタギツヒメからの指示を実行するため、自分の身体に刺さった御刀を抜くと、迷うことも躊躇うこともなく荒魂の目に向けて、御刀を投げ、当てると同時に姫和の“ひとつの太刀”のように迅移を使った平突きで大荒魂を突き刺していた――――。
大きな悲鳴を再度上げる大荒魂。優は突き刺した御刀を支えにして、荒魂化した腕の方で大荒魂の中に入れると、大荒魂のノロを吸収しようとする。
「……こせ。……ヨコセ。モット、ヨコセェ……!」
優は狂気を孕んだ瞳で、大荒魂が持つノロを全て吸収しようとしていた。
『……使っちゃダメ。…使っちゃダメだよ。姫和おねーちゃんが消えるくらいなら、そのおっきい荒魂、僕の中に入れる。』
嘗て、お祭りの際に交わした約束を守るため。
(……本当に、……本当に喰われるっ!!)
本当に全て奪われてしまうのではないかと思い始めた大荒魂は、自身のノロを殆ど囮にして、恥も外聞も無く紅い奔流となって、彗星の如く天に昇って逃れていった。
囮となったノロを全て吸収した優は、流石に満身創痍となりながら、ノロを身体に侵食させたことにより、優は気を失う。……可奈美と姫和の声を聴きながら。
燕 結芽という人物が居たからこそ可奈美達は大荒魂に勝利することができました。(というよりも、美奈都さんじゃなく、結芽が間接的に大荒魂相手に勝利を手にして貰いたかったのでこの小説を書きました。)