やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ちょっと長くなりましたが、ガイルパートです。


㉗一色いろはと生徒会長

週明けの放課後、俺は部室に向かっていたのだが……

 

「由比ヶ浜、なぜ俺の後ろにピタっとついてくる?」

 

「いいじゃん、別に。……ヒッキーの後姿をちょっと確認しただけ!」

何故か由比ヶ浜が俺の後ろを背後霊のようについてくるのだ。

 

「なんだ?いたずらの張り紙でも俺の背中についてるのか?」

まあ、そんなことされたら速攻で分かるがな……しかも霊視でやった犯人の特定まで出来る。

 

「ううん。いつものヒッキーだなーって」

 

「なんだ、そりゃ?」

 

「なーんでもない!」

そう言って、嬉しそうに俺の前に出て、先に部室の扉を開ける由比ヶ浜。

横に並ばれてくっ付かれるよりはましだが……一体何なんだ。

 

「やっはろー、ゆきのん!」

 

「由比ヶ浜さん、…と比企谷くん。こんにちは」

 

「うっす」

雪ノ下は俺の顔を見ると視線をずらし下に向ける。

……やはりか……京都の件といい、先日のデジャブーランドの件といい。俺みたいな異物がここにいても気持ちいいものではないな。ましては、挫折や嫉妬の対象である姉の陽乃さんと同じGSだ。

この依頼を最後に……俺は出ていった方がいいだろう。

 

俺はいつもの廊下側の椅子に、由比ヶ浜は雪ノ下の隣に席に座る。

 

「ヒッキー、一昨日のデジャブーランド、あの後結構時間かかった?」

由比ヶ浜は鞄を椅子の脇に置きながら俺に声をかける。

それに反応するかのように、雪ノ下の本をめくる手が止まる。

 

「ああ、まあな。先に帰って正解だぞ。結構手間がかかった」

結局、コンプレックス妖怪を使ったテロを行った犯人は特定できなかったしな。

 

「あのね。ヒッキー……あの時のヒッキーね。なんかいつもと違う感じだった」

 

「そうか?」

 

「うん。なんか大人に見えた。でも、今日のヒッキーはいつものヒッキーだった」

由比ヶ浜は照れ笑いのような感じで微笑む。

 

「よくわからんが……誰だってそうだろ?由比ヶ浜だってバイトしてる時はそれなりに身なりを正すだろ、それと一緒だ」

真剣に仕事してる姿は大人に見えるもんだ。

 

「うーん。そうなのかなー、でも優美子とかがバイトしてる時とはなんか違うっていうか……よくわからないや。でも、今日のヒッキー見てなんかホッとした!」

 

「よくわからん奴だな」

そうは言ったが……確かにそういうのはあるかもしれないな。

俺も茨木童子を圧倒的な強さで倒した横島師匠を見て、別人のように感じた。その後、いつもの二カっとした笑顔で冗談を言う師匠にホッとしていた自分がいたのは確かだ。

圧倒的な力を見たってのもあるだろうが、それ以外にも、横島師匠の俺の知らない一面を見て、たぶん驚いたのだろう。

由比ヶ浜もそれを俺に感じたのだろう。

確かに、俺のGSの仕事をしてる姿を見たことがない連中が、普段とのギャップを感じるのは致し方がない事なのだろう。

 

「別に訳わからないことないし!」

なんかプンスカしだす由比ヶ浜。

訳が分からんとは言っていないぞ!わからん奴だと言ったんだ。……同じ意味か。

 

「……先日の一色の生徒会候補者問題の件だが……俺なりに解決方法を考えてきた」

俺は先週末に受けた依頼の件を切り出す。

 

「聞きましょうか」

雪ノ下は挑戦的な態度でそう言って、こちらに振り向くがいつもの余裕が感じられない。

 

 

俺は先日、美神親子の口論のような意見を参考に解決方法を考えたのだ。

二人に俺は結論から語りだす。

 

「一色いろはを生徒会長にする」

 

「あなた、何を言ってるのかしら。一色さんは生徒会長候補から降りたいと言っているのよ」

「ヒッキー、いろはちゃんは、無理やり生徒会候補にさせられたんだよ」

雪ノ下は呆れたように、由比ヶ浜は不安そうに言葉を返す。

 

「そうだ。依頼は、悪意ある推薦で生徒会長候補者となった一色を、プライドや風聞被害を受けない形で生徒会長にならないようにする。だ」

 

「その通りよ。それがなぜ、一色さんが生徒会長をすることが解決になるのかしら」

 

「ここでポイントはなぜ、一色がこんなことに陥ったかということと、何を守りたいかだ」

 

「ヒッキー、どういうこと?さっぱりわからないよ」

 

「一色の話や由比ヶ浜の情報を統合すると、一色は男子受けするために、あの独特の雰囲気づくりをしている。いわば超劣化版雪ノ下姉だ。それが女子からはあからさまに見えるあたりが詰めが甘い」

 

「……確かにそう見えるわね」

最初は俺の話に否定的な態度だった雪ノ下も話に食いついてきた。

 

「男子受けがいいため、表面上ではクラスに溶け込んでいるようだが、裏では相当女子に嫌われているのだろう」

 

「う……そういうのあるかも」

由比ヶ浜は苦笑いをする。そういう経験があるのだろうか?

 

「それでもその態度を改めないあたりは、一色のプライドなのだろう。一色を嫌う勢力……ほぼ女子全員を敵に回してもだ。そこまでの覚悟があるということなのだろう。また、男子受けもよく、表面上はクラスの人気者ということで、女子どもは自分には直接手出しできないだろうとまで、考えているかもしれない。雪ノ下姉劣化版とはいえ、その辺はしたたかのようだ」

 

「……それはあなたの勝手な解釈でなくて?」

 

「そうかもしれん。しかし、今は続きを聞いてくれ」

 

「……いいわ、続きをどうぞ」

 

俺はうなずいて見せ、話を続ける。

 

「反一色勢力は、直接手を下さずに一色を貶める方法を考えた。それが生徒会候補者推薦だ。

この時期になっても一色以外候補者はいない。となるとこのままいけば一色は信任投票で生徒会長になるだろう。一色が生徒会長を辞すれば、それに対し、勝手に推薦した者たちは、推薦したのに辞退した一色を責め、さらに一色のプライドも壊すのだろう。当選したところで、一色は生徒会の重責でクラスにかまっている暇がなくなり、反一色勢力からすれば、いい厄介払いとなる。さらに一色がまともに生徒会など運営できないだろうと、その都度ミスを棚に上げし、一色を責めるだろう」

 

「ヒッキー、さすがにそこまでは……」

 

「……あるわね。陰湿で陰険で人の尊厳を平気で壊すのよそういう輩は……私はことごとく返り討ちにし逆にさらしてあげたわ。清水さんと川口さん。泣いて謝ってたわね」

……雪ノ下……実体験かよ。………やはり集団とは恐ろしい。異物がいれば排除しようとするのが世の常だ。こいつの場合、見た目も美少女で学力もトップ、しかも金持ちときた。排除の対象となったのだろう。

……まあ、俺も学生から見たら十分異物(GS)だからな……

 

「……ゆきのん」

 

「続きいいか、今度は一色以外の候補者を立てるとする。それが雪ノ下だとしよう。

間違いなく雪ノ下が勝つだろう。

敗北した一色は、一般の投票者や男子や一色に悪感情を持っていない生徒は、仕方がない、相手が悪かったと、納得するだろうが……悪感情を持った連中はどうだ。あることないことでっち上げて、結局は一色のプライドやら人気やらを貶めるだろう」

 

「……確かにそうね。でっち上げてあることないことを言いふらすのが得意なのよ。ああいう輩は!」

雪ノ下の怒りボルテージがまた上がる。

こいつもどんだけ敵がいたんだよ。雪ノ下の場合、社交性がないのが問題だと思うが……

 

「一色が守りたい物は、プライドと人気だ。そして、曲がりなりにも、悪感情を持った敵に負けたくないとも思っているから、あんな依頼だったのだろう。

じゃあ、一色を生徒会候補に推薦し、貶めようとした悪感情を持った敵をねじ伏せるにはどうしたらいい」

 

「……比企谷くんが言いたいことはわかったわ。確かにそうね。一色さんが生徒会長になり、立派に生徒会を運営し、生徒や教師の信頼と信用を集めることができれば、一色さんの完全勝利ね。悪感情を持った敵は肩身の狭い思いをし残りの学校生活を送ることになるわ」

 

「そういうことだ」

 

「うーん。要するにどういうこと?」

 

「由比ヶ浜さん……今の説明で分からなかったのかしら?」

 

「由比ヶ浜、要するにだ。一色が生徒会長になって、一色に悪感情を持った連中を権力で黙らせればいいってことだ」

 

「そうなん?」

 

「ああ、一色が生徒会長になり、ちゃんと生徒会を運営できれば、一色は一切に被害を受けずに、さらに仕返しができるってことだ」

 

「比企谷くん。それには大きな問題があるわ」

 

「ああ、一色が生徒会長を引き受けるか、だろ?」

 

「うん。いろはちゃんサッカー部のマネージャーもやってるし、難しいかも」

 

「そこは任せろ、俺が説得する。俺一人で行ったほうがいいだろう。一色は女子に警戒心が高いしな、俺は一色がちやほやされたい男の対象外だろうから、ちょうどいい」

 

「あなたが……でも……そうね。あなたなら」

雪ノ下はそういいながら、うつむき加減になる。

雪ノ下のこうした姿を最近ちょくちょく見る。何か俺に言いたいことがあるのだろうか……やはり、俺は雪ノ下にとって異物なのだろう。まあ、それももうしばらくだ。

 

「ええ!ヒッキーといろはちゃんの二人っきりで!!」

 

「そのほうが、説得しやすい」

 

「でも!!」

 

「まあ、一色のほうが嫌がるかもしれんがそこは我慢してもらうしかない」

 

「……そうじゃなくて……うーー」

由比ヶ浜は頭を抱えだした。

 

「失敗の可能性も十分にある。半分俺の妄想が入ってるからな。その時は、また、他の方法を考えるしかない。取り合えずまかせてみろ」

 

「うーーー、わかった。ヒッキーいろはちゃんに変なことしたらダメだからね」

由比ヶ浜は、そんなことを言ってくる。

 

「するわけないだろ。はぁ」

なんか急にやる気なくなってきたぞ。

 

 

 

俺は雪ノ下と由比ヶ浜を部室に残して、サッカー部にいるだろう一色いろはを訪ねる。

 

サッカー部主将の葉山隼人が声を大にして、練習を仕切っていた。

一色が見当たらないため、葉山に声をかけ一言二言話してると……一色は水汲みから戻ってきた。

 

葉山に断って、一色に話しかける。

 

「生徒会の事なんだが、ちょっといいか、葉山には断っておいた」

 

「先輩!葉山先輩とお友達だったんですか!意外……いえ、その」

 

「ちげーよ。クラスが一緒だっていうだけだ」

 

「そうですよね。びっくりした」

……おい、なんだその反応は…

 

 

グラウンドの端にあるベンチで一色と話す。

ちょうど今日は野球部が休みでここは使用されていない。

 

「なんかいい方法あったんですか?」

一色は劣化版陽乃さんスマイルで俺に聞いてきた。

 

「そんなようなもんだ。一色も大変そうだな。クラスの女子に陰険な仕打ちを受けて、ほぼいじめだな」

 

「そ……わたし、どうしても目立っちゃうんで仕方がないんですよ」

今こいつ、そうなんですよって言おうとしたな。やっぱり劣化版陽乃さんだな。

しかもテヘってとか言うし、いちいちしぐさがあざとい。

 

「一色はなぜサッカー部のマネージャーなんかしてるんだ?」

 

「先輩には関係ないです。はっ!もしかしてどさくさに紛れて私を口説いてます?二人っきりでついてきたからって、勘違いしないでください。運動神経がよくて、さわやかで、頭がいい人が好きなんです。先輩は頭よさげだけど趣味じゃないんでごめんなさい」

 

「………あのな、俺は質問してるだけだ」

告白もしてないのに振られたぞ。こいつの頭の構造はどうなってるんだ。どう見ても告白じゃないよな。俺が言ったの……

 

「そうなんですか?てっきり、マネージャーなんてやめて、俺の女になれって告白すると思ってました」

……こいつどんだけ自意識過剰なんだよ。

 

「……まあ、俺なんか眼中にはないわな。ところで一色、葉山隼人と二人っきりになる方法があるんだが」

 

「え!そんな方法が………な、何のことですか?なんで葉山先輩がそこに出るんですか?意味が分かりません」

 

「……おまえ、擬態できてないぞ………見ればわかる。サッカー部のマネージャーなんて面倒なことをやってるのは葉山が目当てだろ?」

え!そんな方法がって言ってたしな。

 

「……そんなに直ぐにわかっちゃいましたか………なんか、かっこいいなって、付き合えたらいいなって思って、自慢………その優しそうだし」

自慢って言ったっぞこいつ。擬態も中途半端だ。大丈夫か?劣化版陽乃さんといえども100分の1陽乃ぐらいの感じだぞ。

 

「そ…そうか」

 

「で、その方法ってなんですか!葉山先輩ってああ見えてガードが堅いんですよ!他も狙ってる子たくさんいるし!特に三浦先輩が邪魔!!」

めちゃくちゃ食いついてきたんだが……

 

「一色、生徒会長になれ、さすれば自然と葉山と二人きりになる機会が増える」

俺はここでようやく本題に移る。

 

「え?生徒会長?でも、サッカー部のマネージャーやってますし、私の依頼は生徒会長をやらないようにすることですよ?」

 

俺はこの後、一色にサッカー部のマネージャーをやりながら生徒会長をやる一色にどれだけ葉山と二人っきりになるチャンスがあるのかとうとうと語った。

 

「……先輩!天才ですか!そうですよね。マネージャーで二人っきりになれると思ってましたが、ほかのマネージャーも居るし、部員もたくさんいるし無理なんですよね。でもそれなら、間違いなく葉山先輩と二人っきりになれる!………でも、クラスの女の子たちの思い通りになるようで……」

 

「それも生徒会長になれば解決するぞ」

俺は生徒会長になれば、クラスの女子どころか学校中の人間をひれ伏せることができることを美神さんや美智恵さんの言葉を借りて、熱く語った。

 

「………せ、先輩!すごいです!………でも、私そういうの向いてないっていうか」

 

「生徒会長は飽くまでも象徴だ。どっしり構えて、後のことは役員に任せればいい。少々の失敗は一年生である一色だと笑って許してくれる。それよりも一年生で生徒会長というポジションが得られるのはでかい。今まで誰もいなかったハズだ」

 

「……うーん。確かに……メリットの方が圧倒的に高いですね」

どうやら一色もしたたかだ。ちゃんとメリット計算ができるようだ。

 

「そういうことだ」

 

「………わかりました。なんか乗せられた感がありますが、先輩に乗せられちゃいます。その代わり、手伝ってくださいね」

一色は生徒会長になることを同意し、最後にニコっとした笑顔で俺にこんなことを言ってきた。

……まあ、言った手前、ちょっとは手伝わないとな。

 

 

この後、一色の生徒会長への道筋を奉仕部として正式に依頼を受け、生徒会長演説や生徒会としての指針や他の補充メンバー選定などの道筋を策定して行く。

一週間後、一色は正式に生徒会長として信任を得ることになる。

 

 

その間、雪ノ下は俺に毒舌を吐くことはなくなり、その代わりと言っていいのか、俺に対して何やら言いよどむ事が多くなった。

 

 

それも、もうすぐ終わりだ。

一色の生徒会長就任を見届けた後……俺は奉仕部を辞めることを決めていた。

 




**補足**
雪乃は八幡を嫌ってません。
いろんな感情があわさり……自分でもよくわからない感情を八幡に抱いてる状態です。

八幡は、雪乃に嫌われたか、いい感情を持たれてないと勘違いしてます。

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