やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
俺は職場復帰後のこの土日に、シロとタマモと組み、Dランクの除霊依頼を2件こなす。
霊的構造も完全復活し、体の切れもいいし、調子もいい。
以前よりも、霊気量が増加し、霊力が高まった感じがする。
その間、美神さんとキヌさんは大規模な地鎮を兼ね備えた霊障依頼を受け、泊りがけで地方に仕事に出かけていた。
GS免許取得とはいえ見習い期間のため、本来見習い期間を終了したGSに付き従わないといけないのだが、CランクGSである俺は、それが免除される。なんだかんだと、美神さんは俺を信頼して仕事を任せてくれる。
すでにGS免許取得前に、単独で妖怪退治や除霊やらされてたからな……違法だけど……
週明けの月曜の全校集会で一色は信任を得て、生徒会長へと就任した。
俺の奉仕部での仕事はこれで完了だ。
放課後、俺はタイミングを遅めにずらし奉仕部に向かう。
退部届を携えて……
「うっす」
「比企谷君、こんにちは」
「ヒッキー!遅い!……ヒッキー?」
俺はいつもの廊下側にある自分の席に座らずに、雪ノ下と由比ヶ浜が座っている窓際へ行く。
そして、二人の座る席の前にある長テーブルの対面に椅子を持っていきそこに座る。
「ヒッキー……どうしたの?」
由比ヶ浜は不安そうな顔を向ける。
「……比企谷君…」
「二人に話がある」
「………」
「ヒッキー……」
雪ノ下は俯き、由比ヶ浜の顔はますます曇る。
「いままで、いろいろすまなかった。俺は退部しようと思う」
「ヒッキー急になんで!?どうして!?そんなの嫌だよ!!」
由比ヶ浜は席を勢いよく立ち対面の俺に訴えかける。
「………由比ヶ浜さん……仕方がないことよ。比企谷くんはGSの仕事があるもの」
雪ノ下は最初は目を大きく見開いていたが、視線をそらし、小さな声で由比ヶ浜にそう言った。
「だって、ゆきのん!」
「確かに仕事があるが……俺がこの部にいることで迷惑をかける。ゴーストスイーパーは世間では花形の仕事のように囃し立てられる一方、それを快く思っていない人たちもたくさんいる。もし学校中に俺がGSであることを知られれば、何らかの影響を受けるかもしれない……」
俺は言い訳じみたこんなことを言ってしまう。
これは建前でしかない。
「ヒッキーがGSだからって、誰にも迷惑かけてないじゃん!!」
「それは、学校では知られていないからだ。もし、何らかの状況でバレてみろ俺は慣れているからいいが……お前らまでも」
「そんなこと関係ない!!言わせたい人には言わせとけばいいよ!!」
「……由比ヶ浜さん」
雪ノ下は声を大にしてそう言う由比ヶ浜を驚いたように見上げていた。
俺は意を決して、言わなければならないことを言う。たとえこれで由比ヶ浜に嫌われようとも。
「………由比ヶ浜はわかっていない。いや、今は気が付いてはいないだけだ。いずれ気が付く。……俺の霊能は妖怪を倒すことができる。人間を上回る力を持つ妖怪や幽霊をな……それがどういうことか………俺は人をも簡単に殺める力を持っているということだ」
「ヒッキー!!それがここを辞める理由!?ヒッキーがそんなことをするわけないじゃん!!」
由比ヶ浜は怯むどころか、二人と俺を挟んでいた長テーブルを勢いよくずらし、椅子に座っている俺に迫る。
「……いや、ふつう怖いだろ?」
俺の方が逆に怯んでしまった。
「そんなことであたしがヒッキーを怖がると本気で思ったの?嫌いになると思ったの!?だから辞めようと思ったの!?」
「そう、……なるな」
なんだ……由比ヶ浜いつもにもなくすごい剣幕だ。由比ヶ浜が本気で怒ってる?
普段怒らない奴が本気で怒ると怖い……
俺の言動で由比ヶ浜の変なスイッチを入れてしまったようだ。
「……ヒッキーあたしの事馬鹿にしすぎだし!京都で命がけであたし達を守ろうとしたヒッキーがそんなことするわけないし!!……ヒッキー…だから辞めるなんて言わないでよ」
由比ヶ浜は怒ったような表情をしながら、涙を見せる。
「な、その、すまん」
……由比ヶ浜…おまえ、強いな。
「ゆきのんもゆきのんだよ!!ヒッキーが辞めるって言って簡単にあきらめるなんて!!」
由比ヶ浜は今度は雪ノ下を責めだした。
「………」
雪ノ下は俯いて何も言えない。
「おい……それが普通の反応だぞ。由比ヶ浜……お前がそう言ってくれるのはうれしいが」
俺は由比ヶ浜をなだめようとしたのだが……
「ヒッキーは黙ってて!」
「な!?」
なにこのガハマさん。覚醒した?いや三浦が乗り移った?
「……ゆきのん、ずっとヒッキーに何か言いたかったんじゃないの?……このままだと、ヒッキー本当にやめちゃうよ」
由比ヶ浜は雪ノ下の正面に向き直り、視線に合わせるために腰を落とし、諭すように雪ノ下に声をかける。
「……私は、わからないの。何をどうしたいのかが……わからないの」
雪ノ下は弱弱しく苦しそうに答える。
「でも、ゆきのん。ヒッキーにずっと何か言いたそうだったよ。ちゃんと伝えないとわからないよ」
この時ばかりは由比ヶ浜が妹を諭す姉のように見えた。
「…………」
「ゆきのんはヒッキーにこの部を辞めてほしいの、ほしくないの?」
「その……」
雪ノ下は弱弱しく、それでいて困惑した表情をし、俺に助けをもとめるように視線を送ってきた。
こんな雪ノ下は見たことがない。
「ゆきのん。ゆきのんがどう思ってるかだよ。ほかの人は関係ないの。ゆきのん自身がヒッキーの事どう思っているかなんだよ」
……そういえば、この半年間で一番成長したのは由比ヶ浜だよな。4月頃は他人の顔色ばかり見て、ろくすっぽ自分の意見も言えない奴だったのに………夏前ぐらいからずけずけ自分の意見を言うようになったよな。あの三浦に対してもだぞ。勉学には、もっと励んでほしいところだが……
「……私は…私も……辞めてほしくない」
「うん。そだね」
「………」
「そういうことだから!!ヒッキー!!辞めるなんて絶対ダメなんだからね!!」
「だが…しかし」
「ヒッキーが私たちが嫌いで辞めるっていうなら……仕方がないけど」
怒りのガハマさんから急にしおらしくなったぞ。
「……そんなことはない。意外と居心地はよかったぞ。依頼は少ないし、のんびり読書ができるしな」
「じゃあ、辞めるのなし!でもヒッキー!あたしたちの事が入ってない!読書とのんびりすることだけって」
また、怒りのガハマさんに戻ったぞ。
「ああ……保留にする」
完全に勢い負けしたな……
俺は口元が緩んでいた。苦笑いだろうか……
「保留って何!」
「とりあえず、辞めるのは止めるという意味だ」
「そ、それぐらいわかるし!」
うん、たぶんわかってなかったな。
「……比企谷君…あなたに聞いてほしいことと聞きたいことがあるの……由比ヶ浜さんも一緒に」
そんな中、雪ノ下はポツリポツリと話しだした。
「ゆきのん……」
由比ヶ浜は元の席に座り直し、優しげな視線で雪ノ下を見つめる。
「ああ」
「雪ノ下の実家は千葉で手広く建設業を営む会社を経営しているわ。父は県議会議員。家では厳しくしつけられたわ。雪ノ下の人間としてどこに出しても恥ずかしくないようにと……母が提示する課題(レール)を解き続けたわ。
姉は父母に期待された通り優秀な人に、人当たりも良く、誰もが姉を褒めたたえるわ……比較して私は昔から人とどう接していいのかがわからなかった。ただ、幸いにも次女ということで、社交的に表に出ることはほとんどなかったのだけど。それでも私は父母に期待されるように、姉の様にと……姉の道筋を真似してきたの……、でもその姉が2年前高校卒業と共に家を出て、京都を活動拠点にしてからは……私は家でどうふるまっていいのかがわからなくなった……それで父に願い、一人暮らしをさせてもらった。そうすれば私も一人で姉さんのようになんでもできると……
高校に入り一人で生活し、学業成績も維持し、何でもできた気になってた。
でも、何か違ってた。比企谷君あなたを見て……それが私の中で徐々に大きくなって、でも何が違っていたのかがわからない。
比企谷君と出会った当初は、あなたと私は似ていると思ってた。いつも一人なのも、一人で何でもしようとする姿勢も………
でも、違ってた。あなたはどんな依頼も解決していったわ。私が思いもよらない方法で……私とあなたは少しも似てなかった。
そして、あなたの京都での姿。先日のデジャブーランドでのあなたを見て……それが確信にかわった。あなたは、姉さんと同じ背中をしてた。
大人の社会で受け入れられ、認められ、一個人として独立した存在として……
確かにGSだったことは驚いたわ。その経緯も……でも、あなたは自分自身で勝ち取り今に至ってる。
まがい物の私とは似ても似つかない……。
比企谷君……あなたはどうして、そこまで出来たのか……それが聞きたかったの」
「ゆきのん……」
なんてこった……
俺は内心驚愕に似た何かを感じ、背中に冷たいものが流れる。
………俺は間違っていた。いや見誤っていた。
俺は勝手に雪ノ下は強い女の子だと決めつけていた。
学業優秀、文武両道、周囲の言動に惑わされることのない強い精神力を持つ、孤独にも動じない強い心を持った少女だと……
違ってた……彼女の知識や勉学などの優秀さとその美貌にその佇まいに俺はすっかり、決めつけていた。
雪ノ下雪乃には芯が無い。いや無いとは言わないまでも薄い。……その空虚な中身を知識や勉学、所作などの目に見える外骨格で覆っていたのだ。
それは雪ノ下家にとって都合のいい娘なのだろう。もしくはそういう風に育てたのかもしれない。
そんな中、唯一の救いはきっと、陽乃さんだったのだろう。
その陽乃さんが家から出て……雪ノ下は自分が何なのかがわからなくなり、今も彷徨い続けている。雪ノ下家に従い続ける彼女はそれに違和感を感じていた。わからないなりに感じていたからこそ……一人暮らしを選択したのだろう。彼女が取れる唯一の自己防衛本能だったのかもしれない。
雪ノ下と初めて会った際、姿勢正しく本を読む姿を何処か儚く感じた。まさに雪ノ下のありようは今にも崩れそうな儚い幻影のようだ。
俺に対してのあの毒舌は自分の弱さを…中身を見透かされないようにとのものだったのかもしれない……
そして……由比ヶ浜も俺は見誤った。
彼女は優しい女の子、ただそれだけだと決めつけていた。
しかし、芯を持っていた。由比ヶ浜は強い。
間違ったことを自ら認め、訂正し、修正していく力があった。
今までの彼女は、周りにあまり恵まれなかったせいで、それが発揮できなかっただけなのかもしれない。
京都で妖怪に襲われた時の彼女らの反応は、まさしくそれだった。
芯のある由比ヶ浜は直ぐに立ち直り、自らの足で立ち上がった。
外殻しかない雪ノ下は、自らの知識外の事に対応しきれずに、歩みを止めてしまった。
くそっ、俺も社会に出て、ちょっとは世間を知ったかのように思っていたが、所詮この程度だ。
まだまだということだ。
俺は雪ノ下にどう答えればいい。
雪ノ下は救いを求め彷徨ってる。
陽乃さんという唯一の心の拠り所を失い。ふらふらと……
下手な事を言うと、その拠り所……いや依存先が俺や由比ヶ浜に変わるだけの話になってしまう。
それでいいのか?いや、良いわけがない。
どうすればいい。
わからん!
美智恵さんだったら、何らかの対処方法をもっているだろうが……今の俺ではさすがに人生経験不足もいいところだ。
このままだと、雪ノ下はすべてをあきらめ、雪ノ下家の都合のいい人形になってしまう。
とりあえず、こちら側に引き留める必要がある。
「雪ノ下、お前が俺の何を持って出来ていると言っているのかはわからん……俺は今も間違って悩んでばかりだ。ただ……俺には周りでそれを見てくれる人達が近くにいた。
俺は周りの人に恵まれただけだ。
俺がもし、あの時事故で霊障が発現せず。美神さんや横島師匠に出会わなかったら……今の俺はここにはない。多分、一人でグダグダと腐っていただろう。
一人で解決などしていない。一人の力なんて微々たるものだ。一人で思いつく解決方法なんてものはたかが知れてる」
俺はGSのアルバイトを通じてそれを学んだ。
「……あなたでも、間違い……悩むのね」
「雪ノ下、わからなければ聞けばいい。助けを求めればいい。陽乃さんがいる。由比ヶ浜がいる。平塚先生だっている。
勘違いばかりして、部活を辞めようとした俺では不満に思うかもしれんが、ちょっとは役に立つかもしれん」
陽乃さんの雪ノ下へのあの態度は自立心を促すものだった。それも妹への愛情表現だった。めちゃくちゃわかりづらいがな……あんなん普通はわからないぞ。そういう意味でも陽乃さんも結構不器用だ。
「ヒッキー!……そうだよ。ゆきのん。一緒に考えようよ……ね?」
由比ヶ浜は俺の言葉を聞き、表情がパッと明るくなる。
そして俯いて座ってる雪ノ下を後ろから抱きしめる。
雪ノ下は目じりに涙をためていた。
そして、弱弱しく頷き、抱きしめる由比ヶ浜の腕に手を添えていた。
雪ノ下の問題は根が深い。
正直、俺たちがなんとかできる範疇を軽く超えてる。
一度陽乃さんに相談した方がよさそうだな……今の俺ではちゃんとした答えを出してあげることすらできん。
……これでよかったのだろうか?
わからない。正解なんてものはないのかもしれない。
横島師匠なら……こんな時どうしていたのだろうか?
……きっと一発ギャグをかまして、雪ノ下を元気づけたのだろうが……
俺にはそれすらできない。
……横島師匠……そういえば、年齢で言うと俺よりも2歳とちょっとしか違わない。
しかし、真面目な時の師匠はそれよりもはるかに年上に見える。
あんな仕事だ。多分今迄いろいろあったのだろう………
遠いな……あの人の背中は……
俺は啜り泣く二人を見て……
今ばかりは、俺がこの部活に居たことは間違いではなかったと思えた。
こんな感じになりました。
アニメ最終回を意識してます。はい。
あの有名なセリフはでませんでしたが
「本物がほしい」というのは八幡ではなく。雪乃のほうでした。
ここの八幡は美神令子除霊事務所でのコミュニティ、特に横島くんとの関係を本物と感じているため……このセリフは出てきません。
生徒会編の前編は終了です。
生徒会編の後編に入ります。
まずは一発GSネタとガイルのミックス。
そして、生徒会主催のクリスマス……は普通じゃないですねきっと。
その間、はるのん再登場予定