やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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㊽ドラゴンへの道、その4

「八幡起きろー!」

 

「………う、……後5分寝かせてくれ、小町」

 

「何寝ぼけてるんだ!」

 

「ん?……横島師匠?……おお?」

俺の部屋じゃない?……和室に布団?

そうだった。俺は昨日から泊まり込みで修行に来てたんだった。

俺は布団から飛び起きる。

意外にも体がすんなり動いてくれる。

いつもだったら霊気を限界まで使った翌日は、体がだるくて思うように動かないのだが……

俺は軽く腕や首を回してみる。

霊気切れによる体の負荷もかかってないようだ。

何より、たった一晩で霊気がほとんど回復してる。

どうなってんだ?

 

「やっと、起きたか」

 

「お、おはようございます。横島師匠……これは?」

 

「ん?ああ、ここな、天界と近いとあって、場の霊気が濃いから、霊気の回復も早くなる。それと、昨日の夕飯は天界の野菜をふんだんに使った料理だ。体力も霊気の回復も早まる上、怪我の治りも早くなるぞ」

横島師匠は俺の疑問を察して、答えてくれる。

なるほど、流石天界と現世を結ぶ場だ。確かに霊気が濃い。

それと、後で知ったが、ここの畑で取れる野菜は、現世では貴重なポーションや回復薬に使われる現世ではなかなか手に入らない原料だとか、なんかエリクサー級のものもあるらしい。

それらで作ってもらった料理だ。そりゃ回復するよな。

 

 

ここは、神と人とが交差する修行場、妙神山。

東洋ファンタジーヒロイン系美少女女神様にして、竜神の姫様である小竜姫様が管理する修行場。

この修行場で横島師匠の指導の元、俺は霊能者としてレベルアップを図るために、ここで一週間泊りがけでみっちり修行を……。

 

だったんだが……

 

「横島さん。比企谷さん。朝ごはん出来ましたよ」

 

「すみません小竜姫様、飯は俺がつぎますんで」

 

「いえ、横島さんは座っててください。今日のお味噌汁は横島さんが大好きな関西風に味付けしてみました。それと、だし巻き卵焼きですよ」

 

「美味しそうですね」

 

「………」

何?この雰囲気、どう見ても新婚ほやほやの朝食風景なんだが……なんで俺はここにいるんだ?超空気なんだが……

 

「八幡、小竜姫様の卵焼きは美味しいぞ!」

横島師匠、新妻の料理上手自慢に聞こえるんですけど……本当にただの姉弟弟子なのか?

 

「それでは頂きましょうか」

「頂きます」

「………い、頂きます」

 

小さなちゃぶ台を囲んでの朝食なんだが……き、気まずい。いや俺が気まずいだけで、横島師匠は至って普通だし、小竜姫様はニコニコ笑顔のままだし………

 

「横島さん、ごはんのお替りは?」

 

「大丈夫です」

 

「………」

なんか、涙が流れるんですが………

何この仲良し夫婦!横島師匠!!そんなキャラじゃないでしょう!!

何、普通に「大丈夫です」とか言っちゃってるの?

普段のあんたなら、「僕は!僕はもう!!小竜姫様をお替りにーーー!!」って小竜姫様に飛びつく場面でしょう!!そんでボコボコにされるまでがワンセット!!

 

しかも、だし巻き卵焼きめちゃうまいんですけど……なにこのヒロイン力!?

小竜姫様!料理もうまいって!どんだけヒロイン属性を足すんですか!?

 

「………」

まったくなんなんだ。

まじで小竜姫様が横島師匠に惚れてるよなこれ……

なぜだ!?

現代の一般社会での横島師匠の評価はゴキブリ以下の変態男のレッテルを張られてるってのに……

その裏では、こんな完璧無欠ヒロイン系女神小竜姫様と誰もが癒される現世聖母キヌさんに明らかな好意を寄せられるんだ!?

 

た、確かに横島師匠は普段あれだが、かっこいいところあるし、俺も尊敬してるんだが!これはやりすぎじゃないか?俺の中の理想の女性トップの二人ともが、横島師匠に惚れてるなんて……あんまりな現実だ!

いや、それだけ見る目があると言う事か……くっ、理解は出来るが納得がいかない。

 

「………」

しかし……横島師匠はなぜ、ここで生活をしてるのだろうか?修行をするためだけなのか?

小竜姫様に好意を寄せられているのは確かだ。ただ、天界の竜神の姫様がなぜ横島師匠に好意を、横島師匠が実は情に厚く、やさしい人だから?それだけじゃない。きっと過去に何かがあったのでは?その事は美神さんもキヌさんもたぶん、知ってる。でも、あえて口にしない。……知らないのは俺だけか。

昨日の寝る前に味わった、あのもやもやした気持ちがまた、俺の心を蝕んでいく。

 

こうして……朝の時間が過ぎていった。

 

 

 

この後、まさに厳しい修行が始まった。

美神さんのあの理不尽な修行なのか、いじめなのか、よくわからないものではない。

理にかなった効率のいい修行法なのだが……何せ精神的にも肉体的にも厳しい。

その甲斐もあってか、修行中はもやもやした気持ちを忘れさせてくれる。

 

朝は軽く、準備運動を兼ねた武術の型を行う。

前々から気になっていたのだが、横島師匠は武術的な動きをするが美神さんが武術を使うところは見たことがない。そして横島師匠からは本格派の中華系の古武術を教わっている。流派はわからないが……。

今思えば。横島師匠のここの師匠が古武術の使い手なのだろうと。

 

その後は、また修行場の異世界へと繋がる扉へと向かう。

今度入れられた異世界は、光と音が無い世界だ。そこに6時間放り込まれる。

霊視空間把握能力を横島師匠の文珠で封印された状態でだ。

視界と聴覚を奪われる事がどれだけつらい事か思い知る。

目の前が見えない、聞こえない事は恐怖でしかない。

自分の状況すらわからなくなる。自分が立っているのか、座っているのかさえ……

 

霊感や直接的な霊視能力、その他の感覚を研ぎ澄ませるための修行なのだろうが、正直つらい。

発狂しそうになる。

 

俺は一度心を落ち着かせ、集中力を高める。

徐々に俺の感覚が鋭敏になっていくがわかる。

流石に霊視空間把握能力とまでとはいかないが、俺の周囲の状況がある程度、理解出来てくる。

俺は今、土の上に立ち……周りには木らしきものが数本立ってるようだ………

そして、俺は一歩一歩確かめるように前へ足を踏み出し、徐々にだが、この修行にも慣れて来る。

 

次の修行は、重しを足や腕、頭に乗せられ、妙神山の周囲をランニングだ。

天界と現世の間である妙神山の敷地はそれほど広くはないが、俺が走るコースには横島師匠お手製とみられるトラップや障害物が多数点在する。

重しを体の一点ではなく、バラバラに異なる重さの重しを取りつけられてるため、バランスが非常に取りにくい、トラップが来るとわかってても、体勢を崩し避けられない。

しかも、発動し終わったトラップがあった場所には次の周回までに、鬼門達が新たなトラップを設置していくため、そこにはトラップが無いと油断して、引っかかる。多分横島師匠の指示だろう。俺の思考を読んでの再設置が、絶妙な場所過ぎる。

トラップに引っかかって吹っ飛んでる俺を見て、鬼門達は嬉しそうなんだが………くそ、あれか、ここに来た時の仕返しか?

筋力アップと体幹バランスの修行なのだろうが……相当きつい。

あと、トラップを見抜く力も備わりそうだ。

 

夕飯の後は、横島師匠と組み手をやり、昨日と同じ霊気が吸われる底なし沼に落とされ一日の修行は終了だ。

 

 

 

そんなこんなで3日が経過する。

厳しい修行を3日間過ごし、ようやく体も慣れてきて、今日は寝る前にぶっ倒れることは無かった。

俺は今風呂上りに、修行場の裏にある木で出来た手製ぽいベンチに座っていた。

 

「ここも月と星が見えるな……ここって一応地球なのか?それとも天界にも月や星があるということなのだろうか?」

何気なしに空を見上げ、独り言を言う。

 

 

「こんなところで何をしてるんですか?比企谷さん」

 

「あっ……小竜姫様」

 

「お邪魔して良いですか?」

 

「ど、どうぞ」

 

小竜姫様が何時の間にか目の前に現れ、微笑みながら俺の隣に座る。

ち、近い……小竜姫様の方にまともに顔を向けられない。暗がりと言えども、ほんのり月明かりが俺の方を向く小竜姫様の優しそうな表情を照らしてる。

 

「私と少しお話ししませんか?」

 

「は、はい」

 

「比企谷さん。ここに来てからずっと悩んでますね」

 

「……そんなことはありませんよ」

小竜姫様にそう言われ、俺は内心では肯定したが、心を見透かされているようで、つい否定の言葉が出てしまった。

確かに俺は今も悩み、もやもやとしていたのだ。

 

「横島さんの事ですね。……これでも神様なんですよ。だから分かっちゃいます」

そう言って微笑む小竜姫様。

 

「……いや、その、自分でもよくわからないんです」

小竜姫様の優しい笑顔は俺の心を軽くし、素直な言葉を出させてくれる。

 

「横島さんはあなたを認めてますよ」

ズバリと小竜姫様は俺のもやもやの確信を突く。

そう、俺は師匠に認められたい。そして師匠の事を知りたいと思っている。

 

「そうでしょうか、俺は師匠の事を知っていたようで、何も知らなかった」

 

「それは違いますよ。あなたをここへ連れて来たのが何よりの証拠です」

 

「……俺は師匠がここで住み込みで修行していた事すら知らされてなかったんです。それ以外にも、……改めて俺は師匠の事を何も知らないんだと……」

 

「比企谷さん。横島さんは、あなたにここを、今、知ってもらいたかったんです」

 

「たぶん事務所の皆は知っていて、俺だけ……」

俺は自分でそう言いながらも、心は沈んでいく。

 

「人には知られたくない過去の一つや二つあるものです。横島さんだってそうです」

 

「………」

俺はその小竜姫様の言葉を聞きハッとする。

俺はその言葉を、つい先日、俺の口から一色いろはに言ったばかりだ。

自分で言っておきながら、いざ自分がその立場になるとこれか……

確かにそうだ。人には知られたくない過去は必ずある。

だが……俺はそれでもあの人の事をもっと知りたいと思っているのだ。

そうか……これが人との関わりというものか………

 

「ああ見えて、横島さんはいつも悩み苦しんでいるんですよ。それを隠すのが凄くうまいだけなんです」

 

「え?……」

俺は小竜姫様のその言葉に衝撃を受ける。

俺は横島師匠は悩みに縁遠い人だと思っていた。そんなものをギャグとあの性格で吹き飛ばしてきたのだと……悩み苦しむ横島忠夫像は俺には想像できなかったのだ。

しかし、よくよく考えると、横島師匠は俺の二つ年上のだけ……なのに霊能力者としての能力は人界一ときてる。その霊能も後天的に得たものだと言う。何もなかったわけがないじゃないか!

それこそ、かけがえのない努力や、人に言えないような経験や苦労や困難や苦しみを味わってきたと言う事じゃないか。

俺の方が何も見えてなかった。横島忠夫を見てなかったのではないか!

 

俺は振り向き横に座る小竜姫様の顔を見る。

小竜姫様は空を見上げ、その視線は満月の月に……。

 

「横島さんが信用してるあなたならいいでしょう。……横島さんは将来を誓った恋人を亡くしてます」

 

「な……」

横島師匠に恋人が居た?しかも亡くなってって……何があったんだ!

 

「3年前になりますか、丁度比企谷さんと同じくらいの年の横島さんは、今のような神魔に匹敵する力を得てませんでした。しかし霊能者としては、美神さんに引けを取らないレベルのものを持ってました」

小竜姫様は月を見上げながら淡々と語る。

 

「とある大きな戦いで彼は勝利をおさめましたが、その代償として、恋人が命を落とし、二度と帰らぬ人に………詳しくは私からは語れませんが、彼のおかげで、世界は救われたと言っても過言ではありません。……恋人を亡くし、彼が負った心の傷は深い物でした。今も自分を責め続けてます。あの時の選択は本当に合っていたのか、もっと力があれば彼女を救えたのではないかと………」

3年前と言えば、世界同時多発霊災!もしや、その時の事ではないのか?横島師匠は世界同時多発霊災で何かと戦っていた。そして勝利した。霊災を鎮めることはできたが……その代償が、恋人の死………なんてことだ。あの師匠の馬鹿な事ばかり言ってる裏側には……こんなことが……

 

「さらに彼はその戦いで、ある種の呪いを受けたような呪縛にとらわれ、通常では回復不可能な状態に陥りました。しかし、亡くなった恋人が残した言葉が、横島さんの唯一の支えになり、彼はここで修行に励み、人智を超える力を得て、その呪縛を克服したのです。……彼女が残した言葉とは横島さんに生きてほしいという内容のものだったようです」

……さらにそんな事が……横島師匠は俺に修練をつけてくれながらも、自らもここで修行に励んでいたのか……なんて人なんだ!

 

「小竜姫様……横島師匠は」

 

「横島さんは今も彼女の事を思っているでしょう。……とても私が入る間など今はありません」

だからキヌさんは告白ができなかったのか。そして小竜姫様も……俺は何て馬鹿な事を今迄師匠に言って来たんだ。知らなかったとは言え………

 

「小竜姫様は……」

 

「はい、私も彼が好きです。支えになって上げたいと思っております。今はそれだけです」

そう言って俺に笑顔を向ける小竜姫様

 

「そうですか……」

 

「そういえば、先日横島さんが比企谷さんの事を、自分の事のように嬉しそうに褒めてました。『俺の弟子が……八幡が、大切な子達を命がけで守り切ったんです。俺が出来なかったことを、あいつは……』って、あまりにも褒めるものですから、さすがの私もヤキモチを焼いちゃう位でしたよ」

 

「師匠がそんな事を」

あの時の事か、京都の茨木童子の時の……師匠がそんな風に言ってくれてたのか、かなり嬉しいんだが!さっきまでの陰鬱ともやもやしていたことが、一気に晴れたような気分だ。

 

「だから、比企谷さん自信を持って下さい。横島さんは十分あなたを認めてますよ。そのうち横島さんの心の傷が癒えたのなら話してくれます。きっと」

この話、流石に言えなくて当然だ。美神さんもキヌさんも……話せるわけがない。

 

「ありがとうございます。大分すっきりしました。小竜姫様」

俺は椅子から立ち上がり、深く頭を下げ礼を言う。

 

「それと、ここでの話は内緒ですよ。横島さんに知られたら、きっと怒られちゃいますから」

小竜姫様はニコっとした笑顔と同時に人差し指を唇に持ってきて、内緒のポーズをとる。

 

俺は再度、小竜姫様に頭を下げ、この場を後にする。

 

 

体が動かしたくてたまらなくなり、しばらく自主訓練に励んだ。

 

その後、泊ってる部屋に戻ると、横島師匠が寝ずに待っていた。

 

「なんだ八幡……こんな遅くまで、まさか!小竜姫様の湯あみを覗きに!!」

何時もの、悪戯っぽい笑顔でそんな事を言ってくる横島師匠。

 

「違いますよ。ちょっと技の訓練をしてたんです。ようやく、あのとんでもない修行にも慣れてきたんで」

 

「ん?なんだ?なんかいい事でもあったのか?」

横島師匠は俺の顔を見て、そんな事を聞いてきた。

 

「なんでもありませんよ。もう寝ますよ」

そう言って俺は床に就く。

どうやら、俺はニヤケた顔になっていたようだ。




皆さまお分かりですね。
世界同時多発霊災とは、アシュタロスとの戦いの事です。
亡くなった恋人とはもちろんルシオラ

ただ、アシュタロスの戦いは関係者以外の人々の記憶には残っておりません。
それはおいおいと……
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