やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

56 / 187
感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

前回のお話の解決ですね。
但し、大きな流れから言うと、繋ぎという感じのお話です。
言うならば、つなぎ回。


(56)葉山隼人とは

葉山の3年時の進路先を知りたいという三浦の依頼を受けたのだが、肝心の葉山は親しい友人達にも頑なに教えないときたものだ。

それは何故なのかはわからない。

 

俺は取り合えず、調査、捜査の基本である情報収集を行う。

葉山とはクラスの中で何だかんだと関わる事が多い奴だ。

一般的な見方の葉山像は、文武両道、イケメンで人当たりよく、皆に慕われ、リーダーシップもとれる。みんなの葉山という感じだ。

俺のイメージでは、何かと皆で一緒に楽しもうとか、平等を意識したような言い回しが多いように感じる。争いを好まないと言えば聞こえがいいが、かなり保守的な考え方を持ってる印象だ。

確かに、みんなの葉山という言い回しはしっくりくる。いつの時代でも大衆の大半は安定を望み、保守的なリーダーを求めるものだ。

後は知ってる事といえば、雪ノ下とは幼馴染である事ぐらいか。

まあ、雪ノ下には毛嫌いされてるようだが……

 

そこで、葉山の情報を得るべく、葉山と幼馴染であるはずの雪ノ下と、同じグループの由比ヶ浜にメールで情報提供を申し出た。

偶然にも、葉山に近しい人間が奉仕部の3人のメンバーの内に2人もいる。情報源には困らない。

 

すると、間も置かずに、由比ヶ浜から電話が掛かってきた。

「ヒッキー、優美子の依頼を受けてくれてありがとね」

 

「あのな。俺だけが解決するんじゃないんだ。奉仕部として受けた依頼だぞ」

 

「わかってるよー、それでも、お礼が言いたかったの!」

 

「で、葉山はどんな奴だ?」

 

「うーんとね。誰にでも優しいかな。人気もあるし、サッカー部のキャプテンでカッコいいし、女の子にもモテルしね」

 

「それは俺も知ってる。もっと具体的なものは無いか?」

 

「具体的って何?」

 

「葉山の弱点とか嫌いなものとか、苦手な食べ物とかだ」

 

「……ヒッキー、そんなの聞いて何するつもり?」

由比ヶ浜はいぶかし気な感じに聞き返してくる。

別に葉山をどうこうするわけではないが、相手の弱点を知り、そこを突くのは戦術論としては当然の話だ。決して、人の弱点を知って、ほくそ笑むなんて趣味は無いぞ。

……意外性の有る弱点とかが有ったら面白いなと……イケメンで皆に慕われる葉山の意外な弱点とか、公衆の面前でばらしたらどうなるかとか、そんな事を妄想するだけでも結構楽しい……アレ?

 

「葉山の性格と言うか、そういうものが知りたい。プロファイリングとまでは行かないが、葉山の性格による行動予測が出来るだけの情報がほしくてな」

プロファイリング。犯罪心理学を利用した捜査方法の一つだ。相手のプロフィールを綿密に調べ、それによって起こすだろう行動を予測する手法だ。

GSの世界でもある程度確立しつつある。幽霊の行動については特にだ。

先人のGSや霊能者が残した記録や情報を集約し出来上がったものだ。

現状の幽霊の状況から、例えば、全身があるのか頭だけの幽霊なのか、着てる服の状態。現れた場所とその範囲などから、幽霊がなぜそこに居るのか、どういう経緯で幽霊になったのか、どんな幽霊なのかをある程度把握することができるようになったのだ。

 

基本は心理学や行動学なため、元々は人の行動についての行動学問だ。その人間がどのような行動を起こしやすいのかという性格診断のようなものだ。

今回の件は、葉山がどういう行動を起こす人間なのかという事を把握するために、情報を集めてる。

 

「ぷろふぁいりんぐ?」

 

「そうだ。簡単に言えば、葉山の情報から、葉山がどんな行動をする人間かを把握するための方法だ」

 

「ヒッキーってやっぱり刑事さんみたい。なんかかっこいいね」

由比ヶ浜が刑事みたいだと感じるのは、間違ってはいない。

GSはそう言う側面が多分にある。この世のならざる者が起こした迷惑行為や犯罪行為などを解決する職業だからだ。

特にオカルトGメンはオカルト犯罪の警察版だ。幽霊や妖怪妖魔だけでなく、オカルトを使った犯罪を起こした人間も対象となる。

 

「まあ、しょせん警察の真似事だ。何かあるか?」

 

「うーん」

 

この後も由比ヶ浜から色々と話し合ったが新たな有用な情報は得られなかった。

由比ヶ浜自身、葉山とは友人関係ではあるのだろうが、深く興味があるようには感じられない。

まあ、言うならば、友達(三浦)の友達程度の関係なのかもしれないな。

 

 

由比ヶ浜との電話を終えた後、雪ノ下からメールが届く、添付ファイルを見ろと書かれていた。

 

添付ファイルを開けると……なんだこりゃ?

 

これ?経歴書?履歴書?

そんな感じのものがPDFで送られてきたのだ。

葉山の経歴が丸わかりなのだが。

出身地から、両親の職業経歴も。……小学校のクラスまで書かれてるぞ。

雪ノ下は俺がメールを送ってからの短時間でこれを作ったのだろうか?

相変わらずハイスペックな奴だ。

 

そこで雪ノ下から電話だ。

 

「雪ノ下、これは?」

 

「あなたが知りたがっているだろう情報をまとめてみたわ」

 

「確かに俺が知りたかった情報だ。助かる……しかし、よくこの短時間でこれだけの事を調べることができたな」

確かに俺が知りたかった情報がすべて載っていた。

雪ノ下は俺が知りたがっている情報を正確に把握し、これを作ってくれたのだろうが、これはこれでやり過ぎなのではと思ってしまう程だ。プライバシーなんてあったもんじゃ無い。

 

「あなたも知っての通り、彼の家族と私の両親が公私共に付き合いがあるから、これぐらいの事は直ぐに調べられるわ。それに、私が出来ることはこれくらいだけだから……」

雪ノ下の声色はいつもより、沈んでいるように聞こえ、声も徐々に小さくなる。

 

「いや、十分だ。……ちょっといいか?」

 

「なにかしら?」

 

「葉山は毎年、雪ノ下の両親と付き添って、挨拶回りをしていたのか?」

 

「昨年までは私ではなくて、姉さんだったのだけど、彼は中学生の時から一緒だったようよ」

 

「そうか……挨拶回りは葉山家は父親だけか?」

 

「いいえ、おば様も同席されてる事が多いわ」

という事は、95パーセント以上の確率で奴の進路は決まりだな。

奴が大きな心変わりや、冒険をしなければの話だが、性格上、それも確率が低い。

雪ノ下の情報では、葉山の父親は雪ノ下家のグループ会社の顧問弁護士だ。しかもそこそこ大きな法律事務所を開業してる。

母親は医者で、元は大学病院で働いていたが、今は開業医だ。

葉山に兄弟は居ない。となると……

両親は葉山に父親の後を継がせようとしているという事だ。

父親は、早大のOB。弁護士グループも早大派閥で固められてるだろう。

となると、父親の後を継がなければならない葉山の希望大学は早大となるのは確実だ。

ならば、進路希望はおのずと……

 

 

 

 

 

翌日、俺は教室で葉山の行動を観察する。

休み時間はいつものグループの友人達と談笑する葉山。三浦は少し元気がない様に見える。

由比ヶ浜はそれに気を使ってるようだ。

 

このグループの中心はどう見ても葉山だ。

学校の成績もトップクラス。スポーツ万能で、人当たりも良くリーダーシップもある。絵にかいたような優等性だ。俺も数度話したことがあるが、悪い奴ではない。一般的にはいい奴に分類されるだろう。

まあ、髪を染めてる時点で、模範的な優等生からは外れるがな。

学校では笑顔を絶やさない葉山。

雪ノ下の話を聞いてる限りでは、家でもそうなのだろう。

しかも、父親はやり手の弁護士。母親は医者と超エリート一家だ。

葉山に対し、一人っ子で、しかも、出来た子を持つ親としての期待は半端ないだろう。

将来は自分たちの跡をついで、弁護士か医者か……子供のころからそう言い聞かされてきたのかもしれない。それは相当プレッシャーとして本人に圧し掛かってるはずだ。今、見た感じでは、そんなそぶりは見られない。まあ、四六時中、葉山を見てるわけではないからな。どこかで息抜きはしてるのだろうが。

俺が葉山だったら、即行投げ出す自信がある。いや、一生親に養ってもらうために、媚びへつらうまである。

 

 

 

放課後奉仕部。

早速、葉山の3年時の進路先を知りたいという三浦の依頼について打ち合わせをする。

 

「ヒッキー、ゆきのん、ごめん。なんかいい方法思いつかなかった」

由比ヶ浜はシュンとした感じで、俺達に謝ってきた。

 

「私も申し訳ないのだけど、良い案は浮かばなかったわ。最終手段として、非常に嫌なのだけど、姉さんに聞くという手があるのだけど……」

雪ノ下は悲壮な表情でそう言った。

 

「やめておけ雪ノ下。あの人に頼みごとをして、その見返りに何を要求されるか分かったもんじゃない」

それは俺も思いついたのだが、とてもじゃないがこの依頼で、そんなリスクを負うのは割に合わない。

 

「そうね。それは飽くまでも最終手段よ。……ところで比企谷君。あなたのその口ぶり、姉さんに何か約束でもさせられたのかしら?」

 

「…………」

し、しまった。墓穴を掘った。

……はい、確かにとんでもない約束をさせられました。

……陽乃さんと温泉旅行に行く約束してしまいました。

しかし、よく考えると、温泉旅行に行くとだけ約束しただけで、日帰りなのか、泊りがけなのかもわからない。しかも場所も日程も何もかも決まってない。

いや、温泉旅行をするという約束は、ある意味、空の手形を切ったようなものだ。

すでに陽乃さんのペースなのだ。

どんなプランを持ってくるのか、今から考えるだけでも恐ろしい。

とんでもないプランだったら断固反対したいが……もはやどうなるものでもない。

覚悟を決めるしか……

 

「ヒッキー、なんで黙るし」

俺が温泉旅行の件を思い出し、戦々恐々としていたところ、由比ヶ浜が俺の方にずいっと、顔を寄せ、俺の目を真正面から見てくる。

 

「いや、約束?何の事?」

こ、ここは、何としても誤魔化さないと。

 

「……あなた、目が泳いでるわよ」

雪ノ下がひんやりした視線を送って来る。

 

「ああ!目をそらしたし!怪しい!何を約束したヒッキー!!まさか、前の陽乃さんの旦那さんになる事!?」

由比ヶ浜はプンスカしだした。

 

「いや、あれはあの人の冗談であってな、そのだな……今は、葉山の進路の件だろ?」

俺は慌てて元の話題に強引に戻そうとする。

 

「そうね。いいわ。後でじっくり聞かせてもらいましょうか」

「絶対なんかある!後でちゃんと話すし!」

元の話題に戻りそうなのだが、かわし切れなかったようだ。

後で聞く気満々だ。

この二人に陽乃さんと温泉旅行に行くとか言ったら、何か非常に不味い気がする。

俺の霊感が警鐘を鳴らしていた。背筋に冷たいものが流れるのを感じる。

 

「元の話に戻すが、俺も具体的な案は無い。葉山は親しい友人にすら話していないのに、俺からアプローチをしたところで、話すわけがないだろう」

俺はその二人の言葉をスルーして、話を元に戻した。

 

「ヒッキーでも、ダメなんだ。じゃあ、どうしよう?」

「……難しいわね」

 

「本人から聞くことはできないが、推測することは出来る。かなりの確率でな」

 

「どういう事かしら?」

 

「雪ノ下と由比ヶ浜から昨日、葉山の情報をもらっただろ?そこから葉山の性格や行動パターンをプロファイリングや人間行動学の真似事で導きだした。まあ、俺も結構当たってるんじゃないかと思った」

特に雪ノ下の情報はかなりの情報量と有用性があった。

 

「ヒッキー、昨日も電話で言ってたね。ぷろふぁいりんぐって」

 

「そうだな。その結果、葉山はかなりの確率で文系に行くだろう。いや、葉山には選択肢がこれしか無い」

 

「そうなん?」

由比ヶ浜は疑問顔だ。

 

「まあ、プロファイリングをするまでもなく、葉山の家庭環境や、現在の様子。そして、あの性格をみれば推測できる。葉山は弁護士になり父親の跡を継ぐように言われてるはずだ」

 

「……確かにそう言われてるわね」

 

「そして、葉山もそれに応えようとしている。葉山の父親は早大出身で、法律事務所のグループも早大学閥で形成されてる。となると、葉山自身も父親の法律事務所を受け継ぐにあたって、早大に入る必要性がある。総武高校で早大出身者はほぼ99%文系からだ。となると、葉山が相当ひねくれた人間か、両親の期待を裏切る冒険をするような人間では無ければ、まず文系を選ぶだろう」

 

「そう。……彼にも選択肢はなかったのね」

雪ノ下は自嘲気味に苦笑する。

 

「え?隼人君って将来が決まってるの?」

 

「決まってるんじゃない。親に決められたゴールに向かっているんだ」

将来が何もせずにエスカレーター式に決まってるわけではない。親が決めたゴールを目指し、葉山自身が努力してそこに到達しないといけないのだ。

 

「同じじゃないの?」

 

「全く違う。葉山は親に決められたそのゴールに何としてもたどり着かなければならない。親の期待を裏切らないようにとな。その為に努力し、最善の選択肢を選ぶはずだ。自分が望む望まないなどは最初から、無い」

あの笑顔の裏では葉山は、決められたゴールに進むしかない自分に葛藤してるのだろうか?

 

「…………私もそう」

雪ノ下は視線を床に落とし小声で苦しそうに呟く。

 

「ゆきのん…」

由比ヶ浜は心配そうに雪ノ下に声を掛ける。

雪ノ下も葉山と同じだ。いや、それよりもひどい何かだった。

だが、それに違和感を感じたからこそ、父親に頼み、今一人暮らしをしている。

そして、今は自らの足で変わろうとしてる。

 

 

「まあ、これも結局は、本人に確証を得ない限りは、飽くまでも推論の域を脱しないものだ。だが可能性は非常に高いと思う」

俺は昨晩、雪ノ下の情報や、ネットでも情報収集を行って、何度も検証した。

ほぼ、文系で確定だろう。

ただ、葉山がいつ何時、何かのきっかけで、心変わりをするかもしれない。それは予測不可能な領域だろう。

 

「そうね。比企谷君の意見に同意するわ。彼は決められたレールの上を走る事しかできない。但し、あなたのような、とんでもない毒劇物に触れれば別よ」

至極真面目な顔をしながら、最後には悪戯っぽい笑顔で俺を見やる。

 

「なにそれ?危険人物扱いかよ」

毒劇物とか、もはや人扱いじゃないんだが、触れると人を腐らせる腐界とかそんな扱い?

 

「そうね毒劇物というよりは、ウイルスとか細菌に近いかもしれないわね」

雪ノ下さん?いい笑顔で何をおっしゃってらっしゃるのかな?

バイオなハザードになってるんですが?やっぱこの目か、この目なのか。初対面の霊能者からは悉くゾンビ扱いされるからな。

 

「なに?比企谷菌ってことか?俺のトラウマを掘り起こしてどうする気だ?」

何が言いたいんだ雪ノ下は。ただ俺をディスりたいだけ?

 

「あっ、なんかわかっちゃったかも!」

由比ヶ浜は手の平を口に当てながら、何かに気が付いたような顔をする。

 

「なんなんだ?」

 

「ヒッキーには内緒!」

「そうね。あなたは知らなくていいわ」

由比ヶ浜も雪ノ下も楽し気な笑顔を浮かべていた。

 

「そうかよ」

まじ、なんなんだ?

 

 

 

「でもよかった。これで優美子に報告できるね」

由比ヶ浜はスマホを取り出しながらホッとした表情をする。

 

「これで本当にいいのかしら?確証が得られない答えなんて」

 

「雪ノ下、確証が得られない答えなんてものは結構あるもんだぞ。その後の事は本人次第だ」

GSの仕事では推論だけで進めて行かないといけない事案は多々ある。但し、細心の注意をしながらだがな、一歩間違えると、死に至るケースもある。

美神さんは豊富な知識と経験と、時には第六感を使い慎重に事を進め答えにたどり着く。失敗しても取り返しのつかないような事態を避ける周到さをも持ち合わせている。

あの傍若無人の振る舞いからは想像できないかもしれないが、確かに時には大胆に攻める事もあるが、普段は冷静かつ慎重に事を進めていくのだ。

超一流のGSたるゆえんなのだろう。

 

「そういうものかしら?」

雪ノ下は首を傾げてはいるが、はっきりと否定していないところを見ると、疑問は残っているのだろうが、一応依頼完了という事でいいのだろう。

 

「そんなもんじゃないか?」

 

「じゃあ、優美子に伝えておくね」

由比ヶ浜はスマホを操作しだす。

三浦にこの件をメールで送っているのだろう。

 

 

しかし、葉山は何故、近しい友人連中に進路先を頑なに話さなかったのだろうか?それとも知られたら不味い事でもあるのか?

3年時の進路先はそれ程、重要なものでもないように思うが……俺はその疑問だけが残る。

何かの機会に聞いてみるか。

 

 

 

「それよりも隠しヶ谷くん。姉さんに何を強要されてるのかしら?」

雪ノ下め、思い出したか。

この解決した流れで、さっさと帰る予定だったのだが。

 

「あっ!ヒッキー!それ!陽乃さんの旦那さんになるって!」

由比ヶ浜は何故ぷりぷりしてるんだ?

しかも、その件は、さっき否定したぞ。

 

「言葉の綾というかだな。そんな気がしただけで、さっきの言葉に深い意味は無い」

 

「「………」」

俺は二人からジトっとした疑いの目を向けられる。




八幡のピンチだけが続く。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。