やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
長くなってしまいました。
とりあえず(後)もほぼ出来上がってるので、
アップは今日深夜かな、明日になるかな。
一応明日アップの予定。
バレンタインイベントは無事成功に終わり、後片付けを終えた俺達は、学校から持ってきた備品やらを返却しに学校に戻る。
俺が持ってる大きなボストンバック二つの中身はすべて一色の私物だがな。なんで俺が毎度持たされるんだ?
俺は一色と並んで、学校の校門をくぐり、校舎の昇降口にたどり着く。
先発した雪ノ下と由比ヶ浜は奉仕部の部室で待ってると言ってたな。
とっとと一色の私物を生徒会室に放り込むか。
なんだ?霊気の乱れ?
「きゃーーー!!」
一色の悲鳴が1年の下駄箱がある方から聞こえてくる。
俺はボストンバックをその場に放りだし、一色の下に駆けつける。
「せせせ先輩!……あれ…下駄箱から」
一色は下駄箱から出入口側へと慌てて飛び出し、駆けつけた俺を見て、飛びついて来た。
俺は飛びついて来た一色を抱き留める。
動揺してる一色が指さす先を見ると、下駄箱から黒いドロドロとした液体が多量に溢れ出し、その液体がこぼれ、黒い水溜まりのようになっていた。
これだけの量の液体が下駄箱に入っていたとは思えない。
しかも、この液体自身が霊気を帯びてる?しかも悪意を感じる。……何だこれは?
「一色、大丈夫か!?」
「はい、でも下駄箱を開けたら、箱が入ってて、触ったら……急に箱からあれがいっぱい溢れ出して……」
その黒い液体はみるみるうちに一塊となり、そして、人の形を成したのだ。
そして、その人の形を成したそれは、俺達の方へズルズルと歩くと言うよりは、滑るように進みだし、一気に迫ってきた。
「せ、先輩ーーー!!」
俺は一気に霊気を解放し、身体能力強化と霊視空間把握能力を発現させ、両腕で一色を抱き上げ、昇降口の中から校舎の外へとバックステップで大きく飛びのく。
その黒い人型はさらに俺達を追いすがって、水玉がはじけるように飛び掛かってきた。
俺は一色を両腕で抱えたまま、飛び上がり、昇降口の上、2階部の屋上に着地する。
霊視で黒い人型を確認する。
……あれは何らかの呪いのようだ。しかも明確にこちらを狙っている感じだ。
黒い人型はこちらに振り返り、俺達が居る昇降口の屋上部に、大きく溜めを作り飛び跳ねてくる。
俺は一色を片手で抱え直し、バックステップを踏みながら、空いた手で札を数枚取り出し、黒い人型が着地するだろう場所に投げつける。
黒い人型が着地すると同時に、
「我が眼にせし邪気を封印せよ、『結界』!」
俺は投げつけた札から言霊によって簡易結界を発動させる。
黒い人型の周囲に投げつけた札から黒い人型を囲むように三角錐状に結界が形成し、完全に閉じ込める。
「……せ、先輩?」
一色は不思議そうに俺の顔を見上げるが……
「一色、そこに居ろ」
俺はそう言って片手で抱きかかえていた一色を下ろし、結界に封じた黒い人型に近づく。
霊視でさらに黒い人型を詳しく探る。
……やはり呪いだな。
チョコに呪術的に呪いを込めた呪詛だ。
最悪だ。明らかに誰かが一色を狙って起こしたものだ。
目的はなんだ。この呪い自身や依り代になったものは強力なものではない。精々一色をチョコまみれにする位が関の山だ。
しかし、下手をすると、チョコに覆われた一色は窒息死するぞ。
しかも悪戯にしては手が込み過ぎてる。
俺は、昨年の千葉の学生精神暴走事件後、呪詛について調べ勉強した。もちろん個人での練習は呪詛関連は非常に危険なため、美神さんに指導もしてもらった。
プロでも扱いを間違えれば、自分自身に呪いが返り、自滅することがあるのだ。
呪いの先は……
俺は美神さんに教わった通りに、術式を唱え、呪いを霊的にたどる。この呪いの術者を見つけるためだ。
…どういうことだ。呪詛返しの防御術も使ってない。……俺はあまりにもすんなり、辿る事が出来た事に逆に驚いた。プロであれば最低限呪いに対して、何らかの防御策をとるのが普通だ。なのに、全く何もない。まさか、素人の仕業か!?
俺は呪いの先を辿るのをやめる。
このまま続けても、呪詛系の初級の域を脱してない俺でもたどれるだろう。
俺は嫌な想像をしていた。
この呪いを込めたのは、一色のクラスメイトではないかと……
一色は生徒会長選挙に無理やり推薦立候補させられ、嫌がらせを受けるぐらいクラスや一年の女子に嫌われているのは確かだ。その一色は、嫌がらせのはずだった生徒会長選挙に自ら積極的に活動し、一年生にして、生徒会長となったのだ。
そして、それから2か月以上経ってるが、立派に生徒会を運営し、イベントも成功させてる。
あの、あざといキャラ作りはそのままだが、先生や上級生の受けも良い。
この呪いを一色に向けたのは……それを面白く思っていない、一色に嫌がらせをしてきた女子の一人ではないかと……
俺はこれ以上、調べる事に躊躇した。
プロ失格と言われるかもしれない。しかし、一色を呪ったのは多分、この学校の……下手をすると一色のクラスメイトだ。俺の心は暗く沈む。
しかしこのまま呪いを放っておくと、呪いが返り、このチョコに呪詛を仕込んだ人物も呪われるだろう。
レベルの高い呪詛ではないが、何らかの影響は受けるのは間違いない。
俺は呪いの先の探査を再び開始する。
「………」
俺の霊視能力も相まって、相手が誰だかわかってしまう。
予想通りだった。この子は見た顔だ。一色の生徒会推薦候補問題で、推薦状に名前を連ねた一色のクラスメイトだ。これ以上は……
「封印」
俺は札に簡易的に呪いを封印するために、封印札に術式を書き足し、結界に囚われてる黒い人型に掲げる。
呪いだけが封印札に吸引され、人の大きさ程度に質量があった黒い人型の物体は、手の拳サイズぐらいに小さくなっていき元のチョコに戻り、その場で溶ける。
これで、呪いをかけた本人に返らないだろう。
これ以降はオカルトGメンの仕事だ。間違いなく、この呪いを一色に向けた子は事情聴取を受けるだろう。
下手をすると犯罪行為とみなされる。それ以上の事は考えたくない。
なぜ、オカルトに手を出してしまったんだ?冗談では済まないんだ。一色も君も……呪われた方の人生も呪った方の人生も、台無しになるんだぞ。
俺は自然と封印札を強く握っていた。
「先輩!」
一色が俺の背中に飛びついてきた。
俺は一色のその行動で我に返る事が出来た。
「一色、怪我は無いか?」
俺は振り返りながら一色に聞く。
「先輩~、怖かったです~」
ん?なんかわざとらしいんだが……
「怪我はなさそうだな」
「はい!先輩のおかげで!……すごいです!先輩凄いジャンプ力です!今の何なんですか!!あの化け物をバッって!もしかして先輩ってプロの……!」
なんなんだ?さっきまで襲われてただろ?え?一色は俺の両腕を掴み上目遣いで、目をキラキラさせながら一色は大声ではしゃぎ出したのだ。
俺は慌てて、一色の口をふさぐ。
「わかったから、落ち着け一色」
「むぐーーー!」
幸い今日は学校が休みだ。特に部活連中も出ていない。奉仕部と生徒会連中だけのハズだが、他の生徒会の連中にでもバレたら厄介だ。
「はぁ、とりあえず、ここを降りるぞ」
俺は、腰を下ろし背中を一色に向け、背中に乗るように促す。
「え~、さっきみたいにお姫様抱っこがいいです~」
「アホか、あれは緊急事態の時だけだ。早くしてくれ」
一色は不満たらたらに背中に乗っかり、俺はそのままジャンプして昇降口前に降り、一色を下ろす。
「先輩!凄いです!カッコいいです!やっぱり霊能者だったんですね!あのわけわからない化け物を簡単に倒しちゃうなんて!」
「はぁ、わかったから、静かにしてくれませんかね?」
「む~、いつもの先輩の感じに戻っちゃいました」
「あのな。はぁ、だからお前にバレたくなかったんだ」
俺はさっきから、ため息ばっかりついてる。
「せーんぱい!さっき雑用係って私に嘘つきましたよね~、先輩!私に今迄ずーっと、隠してましたよね!」
一色は何時ものあざとい笑顔で俺にこんな事言ってきた。
「それは本当だ。雑用係もちゃんとやってる」
掃除もやってるし、雑用もたんまりやってるぞ。横島師匠が真面目に仕事してるかの監視とか、美神さんや横島師匠がほったらかしにしてた報告書の代筆とか。
「ええ!?でも凄かったですよ先輩!簡単に化け物倒してましたよ!?」
「一色。その化け物はお前を襲ったんだぞ。ちょっとは怖かったとか無いのか?」
「でも!先輩が助けてくれて、そんなの一瞬で吹っ飛んじゃいましたよ!」
「はぁ、まあいいか。一色よく聞いてくれ、明らかにお前を狙ったオカルト犯罪だ。今から俺が言う事をだな……」
俺は真顔で一色に話し始める。
今から重要な話をするからだ。
「ここは寒いです~、中に入りましょ、せーんぱい!」
一色は俺の腕を掴み、校舎の中に引っ張る。
「おい」
「お話はちゃんと聞きますよ~」
「だったら、奉仕部の部室でだな」
「嫌です!」
そう言って一色に連れられるまま、昇降口直ぐ近くの保健室に入る。
なぜ保健室のカギをお前が持ってるんだ?まじで。
「奉仕部って事は、雪ノ下先輩と結衣先輩は先輩が霊能力者だって知ってるってことですよね。私だけ仲間外れなのは納得できません」
一色は保険の先生の椅子に座り、俺がその前の丸椅子に座らされる。
「はぁ、なんなんだ?……わかった。とりあえず聞け」
「聞いてあげましょう」
なにこれ?なんでお前が医者気どりで、俺がその患者みたいになってるの?
「先ずはだな。形式から行くぞ」
俺は制服のブレザーの内ポケットからGS免許を取り出し、一色に見せる。
「マジですか!先輩!本当の本当にプロのゴーストスイーパーなんですね!」
一色はまじまじとGS免許をみて、俺の顔をじっと見る。
「俺は美神令子除霊事務所所属GSだ。俺がこの免許を見せた時点で守秘義務がお前に発生する。今日見たことは、守秘義務が解除されるまで警察やオカルトGメン以外に話すことができなくなる。それと俺の事はGSだと口外しない事だ。いいな」
「はい、先輩!」
何で嬉しそうにしてるんだ?
「おい、わかってるのか?」
「分かってますよ。先輩の事は誰にも言いません!今日の事はわたしと先輩の二人だけの秘密です~」
「はぁ、続けるぞ……多分。オカルトGメンが一色の家に明日辺り事情聴取にくるだろう。俺の方からも報告を上げるから、簡単に済むと思うがな」
「え?先輩はこないんですか?」
「俺は民間GSだ。これはオカルトが絡んだ刑事事件だ。だからオカルトGメンの管轄なんだよ。個人的に民間に頼むと莫大な金を請求されるぞ」
「へ?刑事事件?」
「そうだ。明らかにお前を狙った犯罪だ」
「……え?え?」
ようやく事の重要性が分かったのか、困惑したような顔をする一色。
「オカルトを使ってな。しかし、俺の方で犯人は特定したし、後はオカルトGメンが何とかする」
「犯人…って、私、命を狙われたんですか?私、命を狙われるような覚えが……」
一色は急に恐ろしくなったのだろう。体を腕で抱え、震えていた。
「いや、犯人は悪戯程度に思っているだろう。実際にそれ程強いものではなかった。しかしな一色。下手をすると死に直結する。それがオカルト犯罪だ」
怖がらせるつもりは無いが、一色にはちゃんと認識してほしいと思ったからだ。
一色の行動が知らず知らずのうちに恨みを買い。こういう事になる可能性があると言う事を。
「悪戯……もしかして!?」
一色は気が付いたのだろう。自分に悪意を持ってる人間についてな。
一色を嫌ってる同学年の女子連中だという事を……
「それ以上は考えなくていい。ただ、そういう事もあると言う事だけは認識してくれ、一色だけじゃない。誰にも起こりえる事なんだ。俺だってそうだ。知らず知らずに恨みを買う事だってある。しかし、知っていて恨みを買う行動は、なるべく控えた方が良いに越した事は無い」
「先輩……」
一色の表情は暗い影を落とす。
「こんな事を言った手前、どうだと思うが、そんなに怯えなくてもいい。頼りないが俺もいるしな」
「先輩!」
「それに、ほぼ解決したと言っていいし、この件でお前が襲われる事は無いだろう」
俺は一色を励ますためにこんな言い方をする。
「先輩、なんかカッコいいですね」
「はぁ?お前、散々人をダサいとか、かっこ悪いとか言っては、告白もしないのに振っておいて何をいってやがる」
「むー、そういう事を言う先輩は嫌いです」
「あー、そうかよ。まあ、こんな事があった後だ、家まで送ってやる」
「え?その……あの、何カッコいい事言ってるんですか?本当にあの先輩なんですか?いつも気だるげに背中丸めて、年寄り見たいに歩いてる癖に、なんで今になってこんな。もうこれ以上は、ほ、惚れてしまいそうになるので、ご、ごめんなさい」
「あのな、なんでそこで振られるんだ俺?まあいいか、生徒会の用事が終わったら奉仕部に来てくれ」
ん?なんかいつもとニュアンスが違うような、まあ、気にするだけ無駄か。とりあえずは家まで送るか、一人になった途端に怖くなると言う事もあるからな。
「えー、生徒会室まで来てくれないんですか?」
「荷物だけは運んでやる。後は知らん」
俺はそう言って、保健室を出てから下駄箱付近に放り投げていた一色の私物を回収し、生徒会室に一色と一緒に持って行った。
その後、直ぐに俺は、玄関口に戻り一色の下駄箱を霊視をし確認する。
呪いのチョコが入っていた簡単な術式が掛かれた箱がそのまま残っていた。
証拠品も残ったままか。やはり完全に素人だな。
俺はその場で、オカルトGメンの西条さんに電話をする。
内容を聞いた西条さんは、俺の方で現場検証を済ませてほしいと。
この件を大ぴらにしたくないらしい。
もしかしたら、一色以外にこれと同じような事件があったんじゃないのか?
とりあえずは、一色を自宅に送った後に、オカG行って証拠品の提出と報告書を提出するか。
この後、美神さんの携帯に電話をし、報告をする。
一応、この事件性のあるオカルト犯罪を未然に防いだ場合は、報奨金という形で、事務所に国から支払われる。ただ、普通に依頼があるよりも金額は随分と安いがな。
美神さんからは、呆れたように、何でもかんでも頭突っ込むんじゃないと叱られる程度で済んだ。
あの声は、本気で怒ってるわけじゃない。そう言わないと気が済まないだけだ。
現場検証と行ってもな。
既に済ませたしな。
こういう時に、俺の霊視に優れた目は便利ではある。
とりあえず、奉仕部部室に戻るか……
いろはすにバレてしまいました。