やはり俺がゴーストスイーパーの弟子になったのは間違っていた。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

続きですが……
原作をかなり意識してます。
しかし、結果は!?



(71)八幡、困惑する。

バレンタインイベントの翌日。

俺は朝早くから葛西臨海公園に向かう。

千葉からすぐ隣、東京江戸川区の海岸沿いにある臨海公園で、水族園から鳥類園、子供が楽しめる広場、大観覧車、さらにバーベキュー施設まで整っている東京近郊ではメジャーな観光スポットである。

東に橋を渡った先にはディスティニーランドがあり、立地も悪くない。

俺や小町も幼いころは両親にここの水族園やらに連れて行ってもらった事がある。

千葉市民であれば、誰もが一度は訪れるだろう場所だ。

 

なぜ、そんな所に行くかって?

 

由比ヶ浜が俺に重要な要件で時間を作ってほしいような事を言っていたため、俺は昨日の夜の内に、午前から昼過ぎまでは空いてる事を伝えたのだ。

 

そんで、待ち合わせの場所として由比ヶ浜がこの葛西臨海公園を指定した。

俺は職場先の美神令子除霊事務所から近い場所とあって、特に不満はないのだが、なぜここなのかはわからない。今は2月中旬で寒い時期だ。わざわざなんでこんな時期にここなんだ?

話をするぐらいなら、千葉のサイゼ辺りで十分だと思うのだが。

 

由比ヶ浜と話をしていたが、どうやら電話越しには雪ノ下も近くにいるようだった。

由比ヶ浜は雪ノ下の家に泊まっていたのかもしれない。

 

由比ヶ浜だけでなく、雪ノ下もどうやら俺に用事があるようだが……結局、由比ヶ浜に電話で要件を聞いてみても、今日会って話すとの一点張りだ。

よくわからん。

俺に用事があると言った昨日のあの時、由比ヶ浜と雪ノ下の二人の間に流れる微妙な空気は……俺は今まで二人の間で感じたことがなかった雰囲気だ。

 

……いまさらだが、俺に奉仕部やめろとか、そういうのかもしれない。

そりゃ、言い難いわな。

思い当たる節がいくつもある。ゴーストスイーパーだと川崎にもバレ、一色にもバレ。うちの師匠は事あるごとに迷惑をこの二人にもかけてるし、致し方が無いといえばそうかもしれん。

はぁ、なんか気分が重くなってきた。

 

 

 

それはそうと、シロとタマモが昨日から泊りがけで家に遊びに来てた。

小町と一緒にバレンタインチョコレート作ったそうだ。

昨日の夜、家に帰ったら、2人にチョコを貰ったな。まあ、小町の教えもあって、まともなチョコだった。

親父なんて、シロとタマモにチョコ貰ってうれし泣きしながら食ってたぞ。

 

小町は先週に既に高校入学試験は終わってる。後は週明けの発表を待つだけ。

本人は、勉強から解放されたと楽し気には見えるが、内心不安なのだろう、こうしてシロとタマモと何かしてる方が楽なのかもしれない。

 

シロとタマモは今日そのまま俺と一緒に、事務所に戻るつもりだったらしいが、小町に止められていた。

俺は別に構わなかったんだが、俺が小町に由比ヶ浜と雪ノ下に呼ばれて、ちょっと約束があると伝えると、小町が『鈍感、単細胞、KY、八幡』と罵り、俺を早朝から追い出したのだ。

 

そんなもんだから、俺は待ち合わせの約束の時間より、40分前には駅についてしまった。

その辺で適当にマッ缶でも飲んで時間でも潰そうと思っていたのだが……

 

「ヒ、ヒッキー早くない?」

「比企谷君!?」

 

「いや、それを言うなら、お前らこそなんでそんなに早いんだ?約束の時間40分前だぞ?」

既に、由比ヶ浜と雪ノ下が公園入口付近の待ち合わせの場所のベンチに座っていたのだ。

俺がここに現れた事でかなり驚いた顔をしていた。

俺も内心驚いたわ。まさか、俺より先に来てるとは思わなかったからな。

 

「ち、ちょっと下見に……な、何でもない!何でもない!ヒッキーは何で!?」

由比ヶ浜は慌てたように聞いてくる。

下見ってなんだ?なに?俺と話すのに下見が必要なのか?何かのトラップでも仕掛けたとか?

 

「俺か?俺は家を小町に追い出されたんだよ」

 

「そう小町さんが、……私達は別に用事を済ませて来たのだけど、早過ぎたようね。でも、あなたも早く来たのだから丁度いいのではないかしら」

雪ノ下はそう言って微笑んでいた。

 

「そ、そうだよ。丁度良かった。あたし達も早く来てて!」

 

「まあ、そうだな。それで用事ってのは何だ?」

 

「それは後で…ね。ヒッキー、寒いし水族館に入ろ!」

由比ヶ浜も優し気に微笑んだ後、俺の手を引っ張り、公園内の水族園へと向かおうとする。

 

「おい!?」

用事は後にって、なんなんだ?しかも水族館って、どういうことだ?

 

「比企谷君、たまにはこういうのもいいんじゃないかしら?可愛い女の子2人と一緒に水族館なんて、人生で一度きりかもしれないわよ」

雪ノ下は若干悪戯っぽい笑顔で俺にそう言ってから、由比ヶ浜の隣を歩く。

 

「おい、雪ノ下も」

自分で可愛いとか言いますか?雪ノ下さん。まあ、否定できないのはそうなんだが、それにしてもなんだこのシチュエーションは?デートのような……いやいや、女の子二人とデートとかどこのリア充野郎だ?そんなわけないよな。

しかしだ。もしかしたら、他の人から見るとそう見えなくも無いのかもしれん。

なにそれ、ちょっと気恥しいんだが……それにしてもあいつらはどういうつもりなんだ?

そんな事を思いながら、俺は由比ヶ浜に手を引かれ、私服姿の二人の後に続く。

 

 

 

「おお!?深海魚かっこよくないか?」

 

「あなた、嫌そうだったなのに、一番はしゃいでるじゃない?」

 

「なんか、魚っぽくないっていうか。キモいね」

 

「バッカ!おまえら、深海魚だぞ!暗闇の中で生活してるのにだ!この自己主張したフォルムはカッコよすぎるだろ!!しかもだ。このダイオウグソクムシなんて、何年も飯を食わなくても生きていけるんだぞ!じっと暗闇のまどろみの中で何もしないで過ごせるなんぞ!理想すぎだろ!?」

テンション上がるだろ!!深海魚だぞ!!この一見非効率な姿をした連中は実は、深海という暗闇と水圧の中で個々にこの環境と生活環にあった理想な姿を手に入れた。いわば究極の個性だぞ!!はっきり言ってカッコいいぞ!!

 

 

 

 

「ヒッキー、あれ大きな魚にくっ付いてるの、親子みたいで可愛いね」

次のコーナーで由比ヶ浜は俺の袖を引っ張りながら、大きな水槽で雄大に泳ぐサメの腹にくっ付いてる小型の魚を指さしていた。

 

「コバンザメだな。フッ、あれは理想の姿だ。あれは大きな魚がハントして食べこぼした餌をああやってくっ付いて、おこぼれを貰っているのだ。自分で餌をとらずに、ジッとしてるだけで、食料が手に入る。まさに働かずに生活できると言う理想形だ!」

 

「比企谷君。あなた、まだ専業主夫などという、妄想を抱いているのかしら?」

隣の雪ノ下は額を押さえるようにして、呆れながら言う。

 

「まあな」

 

「でも、今のヒッキーとは全然違うね。いつも一生懸命で、みんなを助けてくれるし」

 

「今の俺は俺で有って俺じゃない」

何こっ恥かしい事を言ってるんだ由比ヶ浜は。

 

 

 

 

この後、館内をゆっくり回った後、ふれあいコーナーや外のペンギンコーナー等を見回り、水族園の展示が終わり、水族園を出口から、それとなしに海岸縁まで歩く。

 

「楽しかったね」

「そうね。こういうのも悪くなわね」

由比ヶ浜と雪ノ下は満足げに頷いていた。

 

「まあ、楽しかったが。これも用事の一環なのか?まだ、用事の件は何も聞いてないが?」

まさか、水族園に遊びに来る事が目的なのか?だったらそう言えばいいものを。

 

「そうだよ。3人で一緒に回る事が大事なの」

 

「なんでまたそんなことを?」

 

「これからも3人で一緒に居たいけど、もしかしたらもう3人一緒に居られないかもしれないから」

 

「どういうことだ由比ヶ浜……いや、そうか」

俺は一瞬、由比ヶ浜が何を言っているのかわからなかった。

しかし、よくよく考えるとこれは由比ヶ浜は3年時に引っ越して転校してしまうという事なのだろう。

それならば、その事情を知ってる雪ノ下が、昨日のあの苦しそうな表情は理解できる。

そうなると、3人が2人となった奉仕部は奉仕部でなくなると言う事か……なるほど、喪失感という奴だなこれは……

俺はこの年になって、初めて喪失感というものを味わったような気がする。

今迄、親しい人間を作れなかった俺が、感じようがなかった気持ちだ。

俺の中で、由比ヶ浜は知らず知らずに、心の中で大きな存在となっていたんだな。

 

「何時引っ越しなんだ。手伝いぐらいはするぞ」

俺は、ごそごそと背負ってる小さなバックから何かを取り出そうとしてる由比ヶ浜にそう声を掛ける。

 

「引っ越し?誰が?」

 

「違うのか?」

どうやら俺の勘違いだったようだ。だったら何なんだ?

 

「??」

 

由比ヶ浜は雪ノ下と視線を合わせ、お互い頷いていた。

「ヒッキーこれ!」

 

「ん?」

由比ヶ浜が俺の真正面に来て、ピンクのリボンで封をされた小さなラッピング袋を手渡してきた。

 

「あたしが1人で作ったの。家に帰って何度も何度も、でも、ゆきのんみたいにできなくて……中を開けて」

 

俺は由比ヶ浜に手渡されたラッピング袋を空けると、中にはクッキーが入っていた。

形は不ぞろいだし、ところどころ焦げ目が見えるが、ちゃんとしたクッキーだ。

 

「これが、お前ひとりで?」

炭しか作る事が出来なかった由比ヶ浜が一人でこれをか、相当努力したのだろう。

 

「そう、これがあたしの今の全力の実力なの。でもこれはあたし一人のお礼の気持ちだから……2年前サブレを助けてくれたヒッキーへの。そして私自身のけじめ。これであたしはヒッキーにちゃんとできるの。それでこれは今のあたしのヒッキーへの思い」

そう言って、由比ヶ浜はもう一つのラッピング袋を俺に両手で渡す。

クッキーが入っていたラッピング袋と同じような体裁ではあったが、バレンタインにまつわる絵柄やロゴがあしらった包装だ。

そう言えば今日はバレンタインデーだったな。これはチョコか、これを俺に?

 

「ああ、なんていうか……ありがとな」

俺はそう言うので精いっぱいだ。

仕方ないだろ?今迄こんなことは無かったからな。同級生からもらった事なんて。

昨年は職場でキヌさんに貰った時は手放しに喜んだが……

同級生の良く知る女の子からもらうというのは、義理だとわかっていても、嬉しさ半分で、恥かしいものだな。

 

俺は貰った小箱から目の前の由比ヶ浜に視線を移すと、やさしい笑顔だった。

 

今度は雪ノ下が俺の前まで歩み寄る。由比ヶ浜は雪ノ下に俺の前を譲るように一歩下がった。

雪ノ下は俯き加減になり、青色のリボンで括られた小さな小箱をショルダーバックから取り出し、俺に渡す。

「私も貴方に受け取って欲しい。これを……」

 

「ああ、その雪ノ下もありがとな」

俺はそれを受け取る。

雪ノ下もバレンタインのチョコだ。それにしても様子が……

 

「これは貴方に感謝の気持ちと……それと………私は、貴方に……」

雪ノ下の震えた声で次の言葉をだそうとする。

 

 

 

 

そんな時だ、第三者の声が介入する。

 

「あれー?こんなところで何をやってるのかな?」

 

その人物はオシャレな服装を着こなし、誰が見ても美女だと答えるだろう容姿をしていた。

そして、俺達の前に歩み寄り腰に手を当て、雪ノ下、俺、由比ヶ浜と品定めをするように見据えていた。

「ふーん。そう言う事。私が居ない間にずいぶんとまあ、やってくれるじゃない。まさか、ここまで進展してるなんて思ってもみなかったわ」

 

「姉さん!」

「は、陽乃さん!?」

「………」

こんな時に厄介な人現れる。

京都に居るはずの雪ノ下の姉、陽乃さんだ。

しかも、なんだ、いつもの外面仮面が半分外れかけてるぞ。

 

「まあいいわ。比企谷君。今度の二人っきりの温泉旅行ね。今週末だから」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。こんなところでわざわざ言わなくても、電話で言えばいい話じゃないですか」

 

「あれ、私の勘では雪乃ちゃんとガハマちゃんには温泉旅行の事を知ってると思ったのだけどな~、それとも、雪乃ちゃんとガハマちゃんはそこまで八幡に信用されてないって事かしら?」

 

「姉さん!邪魔しないで、今、私達が彼と話をしてるのよ!」

「そうです。今、ヒッキーと大事な話をしてるんです!」

 

「雪ノ下さん。確かに温泉旅行の約束はしましたけど、その日は無理です。オカルトGメンからの要請で遠方に出張予定です」

 

「それね。多分大丈夫だから。本当はここで言うつもりはなかったのにね。びっくりさせようとサプライズ温泉旅行のつもりだったんだけど、様子を見に来て正解だったわね」

 

「ちょ、どういう……」

オカGの仕事だぞ。しかも美神さんが俺に任せてくれた仕事だ。美神さんは丁度その週末は、GS協会の幹部会議が京都であって、横島師匠も西条さんとオーストラリアに出張だ。能力的にはキヌさんよりも俺が合ってる仕事らしいと言う事でだ。……それがキャンセル……なくなると言う事か?もしかして、陽乃さんがいや、土御門家が既に現場を解決したのか、それとも、俺が現場に行く前に解決に乗り出すからか?それで空いた俺を温泉旅行に連れ出す算段か?

 

「姉さん!比企谷君はまだ未成年よ。温泉旅行なんてどうかしてるわ!」

「そうです。本人が嫌がってるのに無理やりなんて!」

 

「ふーーん。そう言う事言うんだ」

陽乃さんは二人を見据えるが、さっきとは雰囲気が明らかに変わる。

さっきまでは雪ノ下と由比ヶ浜を歯牙にもかけないような感じであったが、今は敵視というかそう言う雰囲気を醸し出していた。

 

雪ノ下と由比ヶ浜も負けじと、陽乃さんに対峙する。

何か不味い雰囲気だな。

 

「ちょ、雪ノ下さん。それと雪ノ下と由比ヶ浜も、落ち着けって」

 

 

「八幡、お姉さん、ちょっと二人と話があるの。きっちり話をつけないとね。週末はよろしくね」

 

「ちょっと待ってください。どういう?」

週末って、俺はオカGの仕事はどうなるんだ?しかもなんか解決してるっぽい言い回しだ。それよりも、二人に話って何を話すんだ?

穏便にしてくれよ。

 

「比企谷君。姉さんと話があるわ。今日は楽しかったわ。それとそのチョコレートはそう言う事よ。また改めて続きを聞いてもらうわ。申し訳ないけどここで失礼するわね」

 

「雪ノ下、ちょ、どういうことだ?」

雪ノ下は陽乃さんとケンカでもするつもりかよ。それとチョコレートがそう言う事ってどういうことだ?続きってなんだ?

 

「ヒッキーごめんね。陽乃さんとちょっと話さないといけない事が出来ちゃった。それとチョコレートはそう言う事だから、また明日ねヒッキー、今日は楽しかった」

争いごとを好まない由比ヶ浜が、しかも陽乃さんに対して突っかかるなんて、どうしたんだ?

 

「由比ヶ浜もか!?」

 

 

陽乃さんは俺に手を振りながら、ここから遠ざかる。

その後ろには雪ノ下と由比ヶ浜が何か思いつめたような顔でついて行く。

 

追いかけなくてもいいのか?なんかヤバそうだぞ。

しかし、三人とも、明らかに俺が居ない方が良いような言い回しだったが。

 

「……なんなんだ?」

俺はポツンと一人この場に置いてけぼりにされ、寒空に風が吹く中、俺はしばらくこの場で茫然と立っていた。




結果は持ち越しなんですが……

陽乃さん。どうやらヒッキー達の様子を見ていたようです。
なんか、良い雰囲気だったから……
そんで、もともとの計画であったサプライズ温泉旅行作戦を断念して現れたようです。
陽乃VS雪乃・結衣が実現に……

滅茶苦茶悩みました。
今迄、すべて八幡視点だったんですが……
別視点を番外って形で居れちゃうかもです。
乙女達視点で……
今も悩んでます。

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