ということで申し訳ありませんが、前中後編の三話構成になります。例によって書いてるうちに文章が伸びてしまったので分割しました…ちなみに今回は、およそ6割が書く予定のなかった、執筆途中に追加したものです。いつになったら全部書き終わるんですかねえ……。ただ、約束通り八月前に上げたので、満足はしている。
マルマルマルサン、日付が変わって僅かばかり時が経った真夜中。神奈川県沿岸にある廃棄された工業地帯ほど近くのビルに、俺達はいた。
数年前まで大規模工場とそれを統括する支社が軒を連ねたここも、不況の煽りと魔族の息が掛かった新興企業の台頭による赤字によって撤退を余儀なくされ、今や死んだまま放置された白骨のような有り様だった。
俺達が作戦前に陣取ったのはその放棄されたうちの一つ、大手メーカーが支部として建設した高さ10mはあろうビルの屋上だった。周囲には稼働を停止させた工場群しかなく、人気も一切ない。戦闘を行うには絶好の場所だ。
「時間です。皆さん、用意はいいですか?」
灯り一つ付いていない闇に包まれたビルの屋上で、風にその銀髪を棚引かせながら七瀬は俺達へ問い掛ける。誰も声を発することなく、しかし首を微かに動かすだけで自らの意志を伝える。
その発意を受け取って自らもこくんと頷き、七瀬は部隊長たる蘇我へ声を掛けた。
「紅羽さん、隊員全員、準備出来ました。何時でも行けます」
「うん、ありがと」
七瀬に軽く言葉を返すと、工場へと……否、向かってくる目標へと感覚を向けていた蘇我は俺達の方へ向き直る。
丁度その時、空に掛かっていた雲が僅かに切れ、月明かりが地面へ向けて漏れ出した。その光はまるでヴェールのように陣取ったビルへと降り注ぎ、俺達を照らし出す。
光が写し出すは、捕虜奪還部隊総勢18名。それぞれが対魔忍スーツを着込み、得物を持ち、狩りを始める獣のように今か今かと戦意を高ぶらせている。
「それじゃあ皆、ブリーフィング通り行くよ。A班は前衛として近接戦闘、舞とB班は前衛の支援と人質の確保、田上君は全体把握と狙撃による火力支援。私は周辺警戒と全体指揮に専念するけど、必要なら援護に入るから」
紅羽が最後の確認として、大雑把に配置を説明する。前衛として主な戦闘を担当するA班は10名、部隊の大半を占めている。そして七瀬を中心とするB班6名、彼らは前衛の援護と人質の確保、更に増援が来たときの対処を行う言わば遊撃部隊だ。隊長である紅羽は事前に言っていた通り敵の罠を警戒して後方で索敵をメインに指揮を執る。
そして俺は、たった一人の後方支援要員にして
今回の襲撃は、どう考えても罠だ。ならばそれを警戒するのは当たり前の事。一応隊長の能力……獣並となった聴覚や嗅覚で敵を察知することもできるだろうが、前線に出ていたのではどうしても限界がある。そのため俺がビルの屋上に残り、周辺の索敵を担おうというのだ。そのために米連から強奪した虎の子のドローンを数機持ち込み、周囲に展開しているんだし。これ、私物扱いだから経費で落ちないんだぜ?
そして二つ目、これは単純に俺が接近戦がしたくないからだ。前世で善良な一般市民だったためか分からないが、どうも戦闘行為自体への忌避感があるらしく、特に相手と向き合って切った張ったする接近戦が非常に苦手だ。それでなくとも、わざわざ敵と正面切ってやり合う必要なんてないんだけども。必要のないリスクなんざ背負う意味はないからな。俺が狙撃を好むのだってそれが理由だし。
まあ、他の連中からは臆病者だのなんだの言われたけどな!こいつら誰も後詰の重要性を理解してない、最初から全員でかかれば最高効率だとか平気で言うやつらだ!まあ戦力の逐次投入は悪手ってよく言うからわからなくもないけど、ちゃんと後方配置の意味考えて!
一人悲しみに浸りつつ背中に背負ったガンケースを下ろす。今回は狙撃手ということで、装備も相応なものを用意した。俺は、ガンケースのジッパーを開け中から黒く艶消しされた一丁の銃ーーーSR-25を取り出し、オプションパーツをレイルに手際よく装着し始める。
SR-25───世界でも名だたる
弾薬は貫通力・ストッピングパワーに優れた7.62mm×51mmNATO弾を使用。作動方式もセミオートマチック式を採用しており、いざと言うときはバトルライフルとして射撃戦にも対応出来る。威力と射程、連射速度等のパラメータが高いバランスで纏まった自動小銃である。
更にM16の機構を踏襲しているため、部品の凡そ六割がM16シリーズのパーツと互換性があるのも有り難い。銃が戦闘で破損したりした場合闇市などで補充しなければならないので、整備性が高く低コストで確保出来るのは俺にとって大きなメリットだ。まあその分部品精度はピンキリなので、十分な精査が必要となるが。
またオプションパーツも共有出来るため、あらゆる状況に対応したカスタマイズが可能なのも有用だ。現在俺が使用している物は米海軍、Navy SEALsが採用しているMk11 Modというライフルシステムとほぼ同一の仕様にカスタマイズが施されている。本体上部には暗視機能付き光学スコープとバックアップ用のアイアンサイトがマウントされ、銃口にはサプレッサー、銃身下に二脚のバイポット。勿論いざとなればオプションをパージして銃撃戦を行うことも出来る。
射程が短い代わりに高い殺傷力と精度を誇り、どんな状況でも対応出来る信頼性と充実したオプション。正に今の状況に打ってつけなバトルライフルだ。
「……よし」
最後にバイポットを装着を確認し、薬室へ弾丸を装填。セーフティに指をかけて何時でも射撃出来るようにしつつ、俺はスコープを覗き込んだ。
光学スコープは問題なく作動しており、視線の先で走行するトラックの姿を俺の瞳に映し出した。
「目標と思われるトラックが二台こちらへ向かってきます。一般車両に偽装してはいますが、恐らく軍用の改造車。強襲ポイントまで、凡そ30秒」
「おっけぃ、皆行くよ!」
『はいっ!!』
俺からの報告を受けた紅羽が号令を発し、それに応えて隊員が武装を展開、出撃に備えた。俺は屋上の縁にバイポットの脚を立てベッタリと腹這いになる。芋虫のようにもぞもぞと身体を揺らしてしっくりくる位置を見つけると、スコープを覗き込み標的を追い始める。車両は前後に車列を作り時速60km程度の速度で移動している。作戦開始まであと少しだ。
「じゃあ宗次君、手筈通り……」
「出撃と同時に前方車両を狙撃、停止させます。それと、作戦中はコードネーム使ってくれます?」
「はいはい、分かったよガイドマン。案内は任せたよ?」
俺と軽口を交わして紅羽は縁から飛び立った。他の奴もそれに続いて次々と跳躍して闇夜へと消え去っていく。ちなみに、今回作戦用の呼称を用いているのは俺だけで、他は全員本名で呼び合っていた。もう何も言うまい。
と、何故か最後まで飛び立たなかった氷室は何かを逡巡した後祈るように胸の前で手を合わせ、口を開いた。
「……田上さん、お気を付けて」
「それは俺の台詞だろ、前に出るのはお前なんだから。まあ、こっからちゃんと援護してやるから、安心して剣を振るって来い」
「……はいっ、ご武運を!」
氷室の表情が何処か不安げなそれから凛とした力強い戦士のものへと切り替わり、そして彼女も闇の中へと飛び立った。
「さて、と。仕事しますか」
光学スコープを再度覗き込み、目標に照準を合わせる。まずは車両の足を止める必要があるため狙うはタイヤ、FR駆動のトラックなので後輪へと銃口を向ける。そして風向きや相対速度などを体感と目測で計りながら弾道を計算し、照準を少しずつ修正していく。
ブレを軽減するためにスゥッ、と一呼吸して息を止める。心臓の鼓動音が身体中に反響するのを感じながら意識を集中させ、引き金に指をかける。
意識に届く鼓動の間隔が延びていくのを無視しつつ、レティクルの向こうを睨み付ける。脳裏に浮かべた未来予測を視界に投影し、セピア色の幻影と同じ軌道をなぞるトラックを睥睨しながら刹那の中にあるタイミングを逃さず、
ーーー人差し指を、引いた。
△ ▼ △ ▼ △
花蓮達救出部隊が強襲ポイントに降り立ったとき、目標のトラックはタイヤとコンクリートが擦れる厭な音を立てて停車した後だった。見れば、後輪の両方が撃ち抜かれ、更に運転手と助手席にいた男が連続で眉間に風穴を開けている。
ビルから離れて着地するまでの間は僅か三秒ほど。その短い中で後輪をほぼ同時に撃ち抜き動きを完全に止めて見せた宗次の技術がどれほどの物か、見誤る者など誰もいないだろう。
「いやー、いい仕事するねぇ。私たちも負けてられないよ、みんな!」
『っ!了解!』
宗次の鮮やかな手際に感嘆した紅羽は、驚愕する隊員に発破を掛けることでその意識を引き戻す。それと同時、前方車両の異常を察知し急停止した後方車の荷台から次々と斧や剣などで武装したオークがコンクリートに降り立つ。人間を上回る膂力を持ち利器を用いる知能がない彼らは、得てして原始的な近接武装を好む傾向にある。銃などを使うにはそれなりの訓練が必要であり、その過程を修め銃火器を身に纏えるオークはほんの一握りだ。
最終的に現れた彼らの数は凡そ30、救出部隊の二倍近い数がいることになる。最も、その程度では対魔忍を止めることなど出来ない。そして、それを理解している紅羽の指示は迅速だ。
「B班は予定通り人質の奪回!A班は敵と戦闘、食い止めて!」
『了解!』
その号令と共に、戦場は動き出す。対魔忍は自らの正義と職務を全うすべく走り出し、オークは仕事、というよりは獣欲に涎を垂らしながら迫る。
そんな中で、花蓮は一番近くに来たオークへと駆け剣を振るった。
確かにオークの身体能力と肉体強度は人間を凌駕しており、時に対魔忍とて掴まれれば容易に振り払えない。しかし下等な種であるオークのそれは魔族の中では下も下であり、ただやたらと力を振るうだけ。修練を積んだ対魔忍を相手どるには不足も不足である。
実際、見習いである花蓮の剣閃に、相手取ったオークは為すすべもなく首を撥ね飛ばされた。その間十秒足らず、圧倒的と言ってもいいその勝利にしかし、花蓮の胸に去来したのは歓喜ではなく驚愕と無念だった。
(田上さんの援護がなければこうも上手く行かなかった……得意とは聞いていたけど、何て技量……!)
すぐさま別のオークと切り結びながら、思考の片隅で先ほどの出来事を反復する。自分へ斧を振り下ろそうと踏み込んだオークの両膝が撃ち抜かれ、首を差し出すように崩れ落ちた姿を。
(私とかなり接近してるはずなのに、一切の躊躇なく両膝を一瞬の内に……また!?)
その間にも、後方から音なく飛来した鉛の弾丸は、後ろへ下がろうとしたオークの足を地面に縫い付けるように撃ち抜いた。予定していた動きから外れたそれは当然オークのバランスを大きく崩す。そしてその間隙を縫うようにして、再度弾丸が飛来し今度はその手に持った剣を指ごと弾き飛ばした。
致命的な隙を晒け出した敵に花蓮は一切の容赦もなく、すり抜けざまに首筋を一閃。噴水の如く天高く舞い上がった鮮血の量から傷が浅いと見るや、背後から心臓へと刃を滑り込ませる。大量の血を吹き出し更に急所まで潰され、何が起きたか認識する間もなくこのオークは絶命した。
「後……一体!」
前衛を担当する人数が10名であることを考えれば、ノルマは一人三殺。本来ならば経験がある中忍が学生の分をある程度肩代わりするのだろうが、宗次の援護のお陰で花蓮が一番余力がある。それならノルマを達した後で他の援護へ向かうべき、そう判断した花蓮はすぐさま駆け出し、味方を囲もうとしているオークへと切りかかる。
「なっ、氷室ちゃん!?もう倒したんか!流石やなぁ!」
花連が助けた学生対魔忍――――大島雫は、対峙していたオークの顔面を殴り飛ばしながら声をあげた。恐らく花連と異なりノルマの三体を同時に相手取っていたのだろう、大きく露出された褐色の肌に珠のような汗が張り付いていた。
「手厚い援護のおかげです!一体引き受けますよ、大島さんっ」
「おう!頼むわ!こっちは任せと、き!」
残った二体のオークへと殴りかかる雫を後目に、花蓮は相手取ったオークを弾き飛ばして雫から距離を取らせ、刀を振るった。
花蓮はオークの攻撃を時には受け流し時には回避しながら、立ち回りを慎重に演じていく。本来ならば能力を使用して出来るだけ早く片づけるのだが、実戦訓練という意識と宗次の的確な援護が花蓮にこの方針を取らせた。すなわち、能力を用いない場合の戦闘力の把握及び鍛錬だ。
花蓮の忍法、氷花立景は水遁の派生、氷遁系忍法であり、自身を起点として物体を凍結させる能力だ。彼女の氷は生物非生物固体液体気体の区別なく凍てつかせ、侵食した物体の生命力を奪う。攻撃や防御、敵への妨害も自在に行える汎用性が高い忍法で花蓮も頼りにしている能力ではあるがその代償か効果範囲は大凡10mほどと短いし出力自体はさほど高いわけでもない。結局のところ本人の使い方次第であり、だからこそ花蓮と相性の良い忍法とも言えた。
花蓮は見習いながら数度の実戦経験を積んでおり、その時にも忍法を使うことで幾人もの敵を屠ってきた。勿論それは悪いことではないし、教師達は寧ろ固有の能力を成長させることを推奨していた。だから花蓮も特にそれを疑問に思ったことはなかったが、能力を持たずに戦い続ける宗次の姿を見て視野を広げることが出来たのだ。
何らかの要因で能力が使えなくなったとき。能力を隠して戦闘するべきだったとき。きっといつか、そういった能力なしで戦わなければならない場面に遭遇することになるだろう。そしてその時、忍法なしでは闘えないなんて甘えた考えは通じない。ならばこそ、余裕があるうちに地力を鍛え、自身の限界を見極める必要がある。
花蓮はこのオークを敵ではなく実験台として使うことに決めた。すぐさま倒すのではなく、ひたすらに攻撃を避けて受け流す。次の攻撃を予測し、更に次の行動までをも想定しながら互角の戦いを演じていく。
アサギは、花蓮の強みは強さではなく冷静な判断力だと言った。紅羽も、経験を積めば戦場で判断力を活かせると褒めてくれた。だからこそ、自分にしかない強みを伸ばす。追いかけるのではなく、隣に並び立つために。
攻撃のギリギリを見極め紙一重で避けながら、周りへと僅かに視線を配る。どうやら他の戦闘も優位に推移しているようだ。オークの数も大分減っているし、トラックの確保にも成功している様子。ここまでは作戦も成功、と言ってもいいだろう。
そんな事を思考の端で考えながら戦況の把握に努める、ふりをして敵が不自然に仰け反ったり武器が弾け飛んだりしている光景を目で追いかける自分に気付く。戦闘中にも関わらず頬が朱くなっているのを感じた。
それを隙と捉えたオークの攻撃を余裕で弾きつつ、自身の思考を整理する。どうやら宗次からの援護がなくなり、不安に思う心があったということだろう。まるで親を探す子供のような、赤面したくなる弱音ではあるが、外側から観察したことで花蓮にも彼の技術の一端を垣間見ることが出来た。
宗次の狙撃技術の本質は高い精度ではなく、敵の動きを見切るその眼だ。
宗次以外にも、アウトレンジからの狙撃を本領とする対魔忍は幾人も存在するし異能と組み合わせることで累乗的に能力が向上する分彼らのほうが精度は高いだろう。だがその分を宗次は、相手の動き―――即ち、相手が次に実行するであろう行動を的確に予測し、それに合わせ最適な位置を攻撃することが出来る卓越した技術で補っている。単純な狙撃ならばそれは精確無比な射撃に止まるが、敵味方入り乱れた戦闘ならば、それはまるで神の加護の如き支援へと変貌するのだ。
そもそも宗次は対魔忍になってからこの方味方に恵まれず、ずっと一人で戦ってきた男だ。友軍がいても脳筋で話を聞かない連中ばかり、生き残るならば自分が強くならなければならなかった。しかし彼には力なんてものはなく飛躍的な成長など望めない。だからこそ、敵や味方の行動をひたすら観察し、研究し、実践し、失敗を糧とてまた研究してというサイクルを繰り返し続けたのだ。その結果が味方を援護する卓越した能力の開花なのは、皮肉と言うしかないだろうが。
(たった一人、戦いながらここまでの技術を身に付けるなんて、凄まじいまでの執念……やっぱり遠いな……)
オークの攻撃を冷静に捌ききり、最後の仕上げと言わんばかりに正中線から両断することで戦闘を終了させた花蓮は、目指す背中のあまりの遠さに歯噛みする。
だが、その程度で諦めたくなどなかった。些細なミスで捕らわれた自分達を颯爽と助け出したその姿に、自分を許すなと言った、自身の外道を理解しながらも人の『善さ』を信じるその横顔に、どうしようもなく魅かれてしまったのだから。
「確かに遠いけど……うん、頑張ろう」
絶対隣に立つ、という決意を新たにぐっと力を込めた、
そうこうしている間に、敵の殲滅も終わり人質の救出も成功した。のだが、一つ問題が発生していた。
「一般人も一緒に……ですか?」
「うん、対象以外に五人、
「……これ、確実にわざとですよね?」
「そうだろうねぇ……」
進展を紅羽から聞いた花蓮は、状況の不味さに思わず顔を引きつらせた。諜報員からの情報になかった積み荷、恐らくというか確実に、こちら側を陥れる策だ。
戦場では、敵兵を殺すよりも重傷を負わせた方が戦力を削れるというのは有名な話だ。死体は放置すればよいが、生きていればそれを助けるための労力を割かねばならず、その分戦闘力が低下するというある意味順当な話だが、どうやらノマドはそれを対魔忍に仕掛けてきたらしい。
正義を標榜する対魔忍は、例え罠だと見抜いても無辜の一般人を助けないという選択が出来ない。まさに対魔忍殺しとも言うべきいっそ見事な策である。
「となると、確実に敵の増援が来るね。全員!周辺けいか、い……?」
即座に危険を看破し、隊員に指示を下そうとしたその時、彼女の獣の如き感覚が、空気を、地面を、響くように分子を震わせる振動を捉えた。まるで何かが爆発し、鋼鉄の咆哮を轟かせているかのような―――
「―――エンジン音!?各員戦闘態勢ッ!ガイドマン敵は!?」
『予想通り東西から装甲兵員輸送車が計8台、人数は大体……!?6時方向!敵影3、急速接近!!』
通信機から宗次の何時になく慌てたような怒号が響く。どこか悲鳴のようなそれに尋常ならざるものを感じた二人は振り向こうとして、凄まじい速度で飛んできた"何か"を察知しギリギリのところで跳躍した。
四肢を使って四つ脚のように着地した紅羽とは逆に跳躍後の体勢を気にする余裕がなかった花蓮は地面に叩きつけられ、浅く打たれピッチャーゴロになったボールのようにコンクリートの上を転がる羽目になった。地に倒れ伏しながらも何とか顔を上げると、数瞬まで自分達が立っていたはずの場所には、幾十本に及ぶ艶消しされたクナイが深々とコンクリートに牙を突き当てていた。
「く、ない?まさか、これって……!」
「そう、そのまさかよ」
真上、背後にしていた鉄塔から女の声が降ってくる。その場にいた全員が勢いよく顔を上げると、三つの影が飛び出し地面に降り立った。
電灯によって照らされたことで、それらは影から浮き出てその姿を晒す。手にクナイや忍者刀などそれぞれの得物を持ち、元々露出度の高いレオタードのような装束―――対魔忍スーツから更に肌色を増やした、最早娼婦のような自身の持つ肉体を魅せつけ男に媚び諂う衣装に身を包んだ女達。
「そ、んな……行方不明とは聞いていたけど……何やってんのよ!アンタらッ!!」
「あら、久し振りね蘇我さん。聞いたわよぉ、上忍になったんですってねぇ?随分と出世したものね、素直におめでとうと言っておくわ?」
紅羽のまるで悲鳴のような絶叫も我関せず、先頭に立っているリーダーらしき女は世間話でもするかのように笑いながら軽く言葉を発した。だがその笑みは紅羽を嘲るようないやらしさしかなく、声音もまるで媚びている娼婦のように、脳を直接掻き毟りたくなるような不快感を齎すねっとりとしたものだった。
最早ここまで来れば、彼女達が一体何者なのか、花蓮でも理解出来た。彼女達は、魔族側に寝返った元対魔忍。掲げた正義も胸の内の誇りも捨て去り、ただ快楽の虜となった雌奴隷だ。
思わず、花蓮の背筋に悪寒が走る。任務にて、色々な対魔忍達の姿を見てきた。彼らはほぼ例外なく自身の行いを正義と信じ、誇りを持って堂々と戦っていた。そんな先達の姿はよく覚えているし、自分もそれを目指していた時があった。
―――だからこそ怖気が走る。あれだけ真っ直ぐだった彼女らが、
……それでも、何とかそれらを押さえつけ、倒れた身体を引き起こす。自分の後ろで、彼が見ているのだ。どれだけ恐ろしくとも、諦めたくなんてない―――!
周りを見れば、仲間達は既に武器を構え
「いやだこわぁい!そんなに睨まないで、仲良くしましょう?」
「お断りです。あなたは誇りを捨て我々の敵となった。敵と語らう言葉など持ちません!」
珍しく語尾を荒げた舞は指に紙気を挟みいつでも放てるようにしている。17人もの対魔忍―――しかも二人は上忍だ―――に囲まれれば、いくら魔に偏り力を増している元対魔忍だとしてもたった三人で敵うわけがないはずだ。にも関わらず彼女たちの顔に張り付いたいやらしい笑みが消えることはない。どころか愉快気に口を開く。
「それは大変ねぇ。それじゃあ、こわーい人達から守ってもらわないといけないわ」
彼女の言葉に合わせてか、両側から花蓮達を挟むようにしてエンジンの爆音を響かせた装甲トラックが急停車し、中からオークが大量に降車する。先ほどの焼き直しのような光景だが、その数はざっと100にも上り、突撃銃や機関銃で武装していた。その腕に腕章を巻いた、言わば精鋭のオーク、先程の十把一絡げなオークとは比べ物にならないほどの脅威である。
部隊員全員が冷や汗をかく中、裏切りの対魔忍は唇に人差し指を当て愉しそうに口端を歪めながら、悪意に蕩け切った声で終わりを宣告した。
「さあ、対魔忍諸君。一緒に地獄へ墜ちましょう?」
宗次「何でこいつら悠長にくっちゃべってんだ…撃っちゃだめか?」
というわけで、とりあえず切りのいいところで分割。このまま書いてると二万字は行きそうだったから、仕方ないね。あと、今回は『ミステリー小説を書くコツと裏ワザ』という本を参考に少し表現を工夫してみました。そのため情景描写がくどくなっているかもしれません。「このSSミステリーじゃないじゃん!」というツッコミはなしでお願いします。元々はSCP記事の参考にと買ったものですので。
決戦アリーナでまたY豚ちゃんか、雫ちゃんあたり出ないかなあ。褐色っ子しゅきぃ…。というか花蓮ちゃんの復刻なり新カードなり出してくれえ、声を聞きたいしキャラを把握したい。誰かFC2とかに動画上げてもいいのよ?
嘘予告
「その対魔忍、平凡につき」が、ついに夏コミに参戦!本編ではカットされた花蓮との本番シーン他、紅羽や舞を始めとした本編登場キャラなどのイチャラブシーンを掲載!さらに本家絵師による書き下ろしえちぃイラストも挿絵としてあるぞ!価格はたった1000円!さあ、来る8月12日、Coming soon!
低評価も覚悟のうえで書いたけど、書いてみたかったので後悔はしてない。R-18は書く気力がわかないので特に投稿する予定はないけど、サクチケなるものに多大なる興味があるので頑張るかもしれない。っていうかサクチケ楽そうだからすごくほちぃ。あと対魔忍コスするレイヤーさんも見てみたい…
【追記】
大分前にですがご指摘があったので、銃の解説文を削りました。とりあえず半分まで減らしてみたので、大分マシになってる、はず……!
あそこだけで1200文字使ってたのは流石に馬鹿だろ……