後、主人公の有能ムーヴが思ったより目立って来たのでちょいとテコ入れました。不快な描写あるかもしれないので少し注意です。ここがどんな世界なのか、宗次君がどんな人間か、忘れたわけじゃないよなぁ?(にっこり)
首都、東京。関東平野に堂々とその偉容を見せつけるメトロポリスであり、数多くの高層ビルが天高く乱立し、幾十、幾百万の人々が社会の歯車として自らの人生をすり潰している日本の心臓部だ。人口、経済能力共に日本一であり、東京都のGDP(国内総生産)は凡そ90兆円強、ざっと日本国内の総生産20%近くを一手に担っていることになる。世界
そんな東京の中心から少し離れたビル街を、一台の白いミニバンが走っていた。スモークガラスなのか後部座席が見えないものの、日本ではありふれた乗用車。法定速度を幾らかオーバーしながら気儘に走る様も普通としか言い様がなく、故にそれは誰の目も引くことなく道路を走り付近の地下駐車場へとその姿を消す。
地下へと進入したミニバンは徐行しながらお目当ての駐車スペースを探し、駐車場の奥に止めてあったグレーのミニバンの真後ろにその身を置いた。
駐車を終えエンジンを切り、白いミニバンの運転手はドアを開いて車から降りる。そして一息伸びをすると、ごく自然な足取りでグレーのミニバンへと乗り込んだ。
「お久しぶりっす、田上の旦那!調子はどうっすか?」
「ぼちぼちかな。後旦那は止めろ、俺のが年下だと何度言やいいんだ?」
助手席に座った彼は、運転席で腕を組んでいた男―――田上宗次へとヘラヘラ笑いかけたのだった。
△ ▼ △ ▼
俺は、目の前で相も変わらず呼び方を改めない白人の男、ダニーに対し思わず苦言を呈する。いい加減長い付き合いになるというのに、何度訂正しても俺のことを『旦那』と呼んでくるのだ。何処にでもいるような平凡な日本人としては一回り年上の男に敬語で下手に出られるのはあまり嬉しくないのだが、こいつ演技とかではなく素でこれなんだよなぁ。
「というか、合い言葉はどうした。ちゃんと事前に通達しただろ」
「ええ?あんな一々長ったらしいもん覚えらんないっすよぉ!顔合わせりゃちゃんと解るんだからいいじゃないっすか?」
「それじゃあ成りすまされた時対処出来ないだろ……何でお前は腕は確かなのに頭ハッピーセットなんだ?」
「え?……ヘヘッ」
「誉めてねえよ照れんな」
何時ものやり取りになってしまった会話に思わず苦笑いを零す……っと、用事は済ませないとな。
「で、ブツは?」
「何時も通り持ってきましたよ。耳揃えてキッチリとね。ドアお願い出来ます?」
「勿論」
手元のキーを操作してトランクのドアを開ける。するとそれを合図に、後ろのミニバンから屈強な黒人が二人降りてきた。そして彼らは、バンの中から木箱を抱え此方の車両へと積み替え始めた。
「中身は?」
「頼まれてた弾薬と爆薬一通りに、M4及びそのカスタムパーツ一式を1ダース。勿論、全て米連が採用している正規品ですよ」
そう言ってダニーは目録の書かれたB5のコピー用紙をこちらに手渡した。そう、彼らは米連に所属する人間なのだ。
ダニーは間抜け面を晒してはいるが腕の立つ銃職人(Gun Smith)だし、黒人二人もタンクトップにジーンズと格好こそラフだが厳しい訓練を潜り抜けた米連の正規兵だ。本来ならば、対魔忍である俺と一緒にいていい人間ではない。まあ、安っぽい言い方をしてしまえば、裏取引と言う奴だ。
そもそも俺と彼らに縁が出来たのは、俺が本格的に対魔忍として活動を始めた一年程前のこと。金欠で武装の補充が滞っていた俺は、仕方なく彼らが乗っていた米連の輸送トラックを襲撃し物資を根刮ぎ強奪しようとしたのだ。一応魔族の仕業に偽装はしたが、対魔忍が強盗紛いな事をするとは考えないだろうしな。
下手な証拠が残っても困るので乗員は
どうやら彼らが所属する日本支部第八技術研究所は米連の中でも末端の末端らしく、常に金欠と人員不足に悩まされていたらしい。そこで闇ルートに物資を横流しして研究資金を確保する方法を考えたがそういった方面に詳しい者もおらず、下手な事をして上にバレれば処罰され、研究所の存続が危ぶまれる。八方塞がりで頭を悩まされていた時、任務ではなく物資目当てでトラックを襲撃する俺が現れた、というわけだ。
目の前の物資よりも、定期的に金と信頼性が高い米連産の装備が手に入るメリットを取った俺はその提案を了承。後日第八技研の所長などと話し合いを行い取引は成立、俺個人と第八技研全体による密やかな同盟が組まれることとなったのである。
取引の内容は、第八技研が密かにちょろまかした武器弾薬などをこうして俺に受け渡し、俺が代理人としてそれらを闇ルートへと横流しするというもの。利益分配は俺と第八で3:7と俺が不利な配当だが、その代わりに横流しされた物資から必要な物を頂戴していいことになっている。分配する金も売却で出た利益からの配当なので、俺が物資を差し引こうと損が出ることはない。あちらとしても、俺を経由して横流しするため横領がバレるリスクを限り無く低くできる。正にWin-Winの関係だ。
あ、勿論利益の計上は精確確実に行ってるぞ。こういう取引は信頼性が最重要だからな。有能な裏切り者と無能だが誠実な者、商売でどちらが尊ばれるかは解るだろう?
「……よし、リストは確認した。後は戻って中身を検めるだけだな」
「もっと俺達を信用してくださいよぉ。下手に嘘吐きゃ、俺ら旦那にぶち殺されますからね。アンドリューは運が良かっただけなんすよ」
「ああ、俺の目の前で猫ばばしようとしたあいつか。脅すついでに痛めつけようとしたら屁っ放り腰で逃げるもんだから変なところに当たっちまったよ」
「まさか、ケツにもう一つ穴こさえてくるとは思わなかったっすよ。いやー今でも一日一回は皆あれで笑ってます」
「俺としては、お前が迎えに来たときに『これでケツ使いすぎてダメになっても大丈夫っすね!』って言ったほうが面白かったけどな」
ダニーと適当な話をしてケラケラと笑いながら、荷物が積み替えられるのを待つ。本当なら逐一中身を確認したいところなのだが、ここは人が少ないとは言え一般の地下駐車場だ。車の影に隠れて荷物の受け渡しをするなら兎も角、木箱を開けてリストと睨めっこするには流石に場所が悪い。
「っと、そうだそうだ。渡すもんがあったのすっかり忘れてた」
「はい?」
ふと用事を思い出した俺は、手を後ろに回し後部座席に立てかけてあったガンケースを引っ張るとダニーへ手渡す。
「なんすか?これ」
「前に渡された試作品の資料。博士達が使ったら参考にしたいって言ってただろ」
「ああ、ありましたねそんなの。どれどれ……SR-25っすかってうわぁ」
慣れた手付きでガンケースを開け中を覗き込むダニー。そこには、先日の任務で使用したSR-25がオプションパーツを取り外された状態で入っていた。一見何の問題もないように見えるが、プロのガンスミスであるダニーは思わず顔を引きつらせた。
「バレルめっちゃ歪んでるじゃないっすか。フレームもガタガタになってるし、あああチャンバーに罅が……多分中のパーツもボロボロですよ。何したんすか一体」
「だから、お前が寄越した弾使ったんだよ!確かあれ、IAP弾だっけ?」
IAP―――爆
事前に爆弾などにより発生させた爆発を魔術によって圧縮・固定し炸薬の代わりに薬莢内に封入、雷管の炸裂に合わせて封印が解け、更に薬莢に刻まれた魔術によって解放された爆発は一方向へと収束される。本来ならば全方位に拡散する衝撃を弾頭へと集中させ、通常のライフル弾で対戦車ライフル並みの威力を出すことが出来るという仕組みらしい。俺がこれを使ったのは他の部隊員を撤退させた時含めて数回。結果は正にそのまま、オークの頭が粉微塵になった。ただこれはライフル銃で砲弾を撃ち出すようなもの、過剰なまでの負荷がかかったことで精密に配置されたパーツがボロボロになってしまったがな!
「聞くまでもないですけど、精度はどうっすか?」
「試射してみたけどひっでえ有り様だ。弾道がやたらめったらに逸れやがる。銃身が曲がってるだけじゃなくて、全体のパーツの噛み合わせガッタガタになってるな」
「あーあ、そりゃご愁傷さまです。替えの銃用意しましょうか?」
「いや、自前で適当に見繕うからいいわ。その代わりと言っちゃなんだけど使えそうな開発品回すように言ってくれ」
思わず、はぁぁ…と深い溜息を吐く。別にいくらでも替えは効くし、支障はないんだが……これ気に入ってたんだけどなあ。
「了解です。使ってみた所見はどうです?」
「悪くはないな。一々対物ライフル持ち運ばなくても同等の火力出せるのは便利だ。ただ衝撃がアホみたいに強いのと、銃の損耗が早過ぎるのが致命的だろ。こりゃ実戦じゃ使えねえよ、数発撃っただけで銃がお釈迦になるから。やるなら特注の専用パーツとか使わないとだけど、それだと汎用性が落ちるし」
「ふむふむ、なるほどなるほど。やっぱ単純な威力底上げするより、着弾時に効果を発揮する方が効率的か……旦那、弾頭内部に特殊な爆薬が入ってて身体ん中からぶっ飛ばす徹甲榴弾ってのがあるんですがね?」
「ライフル弾で戦車砲みたいなことするのやめない?」
俺の銃これ以上お釈迦にされてたまるか。後それ、小型爆弾マガジン一杯に詰めてくことになるんでしょ?怖いわ。予備弾倉撃たれて爆発とか、マンガじゃないんだからさ。
「えー、でも便利ですよ?通常弾でも頭蓋に入りゃイチコロですよ?」
「まあそうなんだけどさぁ……せめて寄越すにしても、安全に使えるようにしてからだぞ?」
「勿論っすよぉ、やだなぁ旦那。もっと信用してくれないと。あ、装備課が開発してる個人携行用の電磁投射砲があるんですけど、話だけでもどうです?」
「何それ詳しく」
携帯出来るレールガンとか何それ胸熱。やっぱサイバーパンクは男のロマンだよなぁ!
なお、討議の末俺の筋力では発射時の衝撃を支えきれないという結論に落ち着いた。どっとはらい。
「マジメな話、何かいい装備ねえの?」
「ん~……そうは言っても、どれも最近ようやく形になってきたばかりですからねえ。ていうか、俺ら一応米連なんすよ?ブガイヒって奴一杯あるんですけど」
「だからこうやって、知恵絞ってあちこち駆け回って少しでも多く金渡せるように努力してるじゃん。俺としちゃ、関係継続のために恩売ってるつもりなんだぜ?」
「分かってますよ。こっちだって、それのお返しとして
俺の言葉に、ダニーは拗ねたような口調で返す。そりゃそうだ。俺は我が儘言って恩着せがましい主張してるだけなのだから。
俺達は笑って話せる関係でも、この取引においてはあくまで対等だ。しかもその取引も資源の横流しと利益の分配のみ、研究成果の提供は契約の範疇外でしかない。だからこそ俺は試験品のテストや利益の拡大によって恩を売り、彼方も恩返しと言って俺に武装を提供することで貸しを返す。例え第八技研と密約を結んでいたとしても、あちらはあくまで米連の一機関だ。早々機密を明かしたくないのは当たり前の話である。
とは言え、俺もはいそうですか、と引き下がる訳にはいかない。米連や魔族との抗争が激化する一方である現在、自分を守る力は多いに越したことはない。特に現代科学の産物である兵器ならば、異能と違って保持していても怪しまれることも少ないからな。
何とか恩を売って開発品を手に入れたい俺と、研究費は欲しくても公開したくない第八。取引を始めてから一年、俺達の関係は詰まるところこれに収束している。互いに相手の利益を提供することで少しでも優位に立とうとする歪な暗闘。
――――だからこそ、今回は俺の勝ちだ。
「ま、そうなるだろうな。だからさ……お土産、持ってきたんだ。後ろのトランク見てみな」
俺はダニーの方を向いたまま、後ろを親指で指す。その先には、後部座席にでかでかと鎮座するかなり大きなトランクケースがあった。その大きさは、後部座席の上ほぼ全てを占拠している程だ。
ダニーはシートを目一杯倒し、後部座席へと身を移す。そして俺に勧められるままトランクのロックを解除し、重厚な蓋を上へと大きく開けた。
「………………うっわ」
少し長い沈黙の末ダニーが口にしたのは、自身の不快感を絞り出したような声だった。
「初めて会ったときから思ってましたけど、旦那。あんた相当な外道だよ」
「知ってるわんなこた」
ダニーの非難するような言葉をカラカラと笑って受け流す。今更だ、そんなもの。
実は倫理観が薄く人の生き死にも素っ気なく流す彼を呻かせたもの、それはトランクケースに詰め込まれた一人の女だ。
軽く手足を折り畳んで荷物のようにケースの中に入れられたその女は、あちこちがボロボロに破れ焼け爛れているレオタードのような衣装で辛うじて自らの肌を隠していた。
「これ、対魔忍っすか?旦那いくら何でもお仲間売り飛ばすのはちょっと……」
「そんなことするか。そいつは抜け忍だよ。快楽に負けて誇りも正義も投げ捨てた、元対魔忍さ。こないだの任務で生きてたからさ、使えるだろうと拾っといたんだ」
そう、こいつは先日の救出任務で出くわした「ミケ」と呼称されていた元対魔忍だ。全方位から迫るベアリング弾の嵐からどうやってか生き延びたらしく、ぼろ雑巾のような有り様で転がっていたのだ。撤退する際それを発見した俺はひとまず応急処置を施し、後日回収したのである。
まあ、したのは本当に応急処置のみであり、重傷なのは変わらないが。上手く胴体と頭部の損傷は避けたようだが、四肢の方は見るも無惨な有り様だ。両手足は何千もの鉄球に蹂躙されてズタズタに引き裂かれて穴だらけであり、両足等皮一枚で辛うじて繋がっているという悲惨な状態だ。
医者がこの惨状を見れば、間違いなく復帰の見込みなしと両手足を切断するべきだろうが、俺はそれをせず、あくまで止血するに留めた。
理由は主に2つ。一つは、単純に俺がそう言った治療法の技術がないから。腕がぶった切れた後の応急処置くらいなら出来ても、まだ付いてる腕を切断してとなれば話は別だ。まだ生きている神経やらを判別出来るほどの経験を、俺は持ち合わせていない。人を救うのは医者の分野であり、俺の仕事は人を殺すことだ。お門違いにもほどがある。そして二つ目、この状態の方が
両手足ほぼ全損と言ってもいい彼女だが、上腕や大腿部、そして胴体等の部位は比較的損傷が少ない。上手く処置出来れば切除せずに済ませることが出来るだろう。普通ならばそこからは達磨の人生だが、機械化技術の発展した米連ならば失った部分を機械義肢によって補うことが出来る。まあ対魔忍が飼っている魔界医師、桐生佐馬斗ならば完全な再生も可能だろうが……再度裏切る可能性が高い奴を、わざわざ内部に引き入れるつもりはない。
俺がこいつを回収して持ってきたのも、第八技研へ提供する交渉道具として利用するためだ。技術はあっても末端であるため献体が確保出来ない第八技研にとって喉から手が出る欲しい
だがもし、第八技研がこの取引に応じない場合。彼女は俺にとって、非常に厄介な存在になる。何せ元とは言え仲間を売り物にしようとしているのだ。和を貴ぶ対魔忍連中からは敵視されるだろう。そうなれば半ばハブられている現在よりも、余程厳しい状態になるだろう。何せ何時背中から撃たれても可笑しくないのだから。
故に手元に置くのは危険であり、この時点で五車学園に持ち込んでも意味はない。他の研究機関に伝手がないためそちらに売り込みも出来ない。残った手段は殺して捨てるか、闇市に商品として流すか。俺はもったいない主義者だから、当然売り飛ばす事を選択する。
さて、ここでようやく話が最初に戻る。闇ルートで彼女を流す場合、どうすれば彼女の価値は最大まで高まるのか?それは簡単、
仮に彼女に処置を施して、つまり所謂達磨にして売った場合、その値段は健常者よりも遥かに安値になる。これは見た目の観点だけではなく、維持管理が自身で出来ないという手間と面倒のせいで需要がかなり少ないためだ。見目麗しいモノにニーズが集中するのは、どこの世界でも変わらないヒトの性ということだ。
翻って、このままの状態で売り飛ばしたらどうなるだろうか。恐らく奴隷市などでは、四肢欠損より僅かに高くなる程度だろう。壊死や膿を防止したりする生命維持のコストを考えればぶった切ってしまったほうが手っ取り早いくらいだ。だが、例えばオークションにかけたり交渉で値を付ける場合では話が別だ。
どうしようもない性癖、例えば体中に傷がある女を愛でたいという欲求を持つ屑どもは、その欲求の達成が困難であればあるほど自身の趣向に対する出費を惜しまない傾向にある。今回俺が提供する商品は、全身を損傷し意識があっても抵抗が一切できない対魔忍、しかもそれは全て戦場で付いた敗北の証である。好事家ならば幾ら金を積んででも手に入れたい代物なはずだ。
「……で、俺たちにコイツ渡して、どうしろと?」
「好きに使えば?身体バラシてモルモットにするも良し、脳みそ漂白して従順な狗にするも良し、何だったら牝豚に改造して奴隷にするも良し、何にでもなる素敵なペットですってね」
呆れたように聞いてくるダニーに、俺はおどけたように返す。ぶっちゃけ使い道は割とどうでもいい。俺の目的は彼女を材料として第八技研の開発品や米連の情報を引き出すことにあるのだ。自ら闇の住人となった人間の末路なんざ知ったことか。
と。
「ぐ……ぅぅ……」
車内にうめき声が微かに響く。苦悶が漏れだしたかのようなそのか細い声はケースの中、元対魔忍の女の口から発せられていた。
「………旦那、つかぬ事お聞きしますが……麻酔使ってます?」
「使ってないけど?」
「Oh、my God……」
ダニーが顔に手を当てて上を仰ぐ。おお、ハリウッド映画でよく見るジェスチャーだ。まさか生で見れる日がこようとは。
あ、一応言っとくけど、別に痛みを味わわせたいから麻酔かけないわけじゃないぞ!?激痛を持続させることで抵抗の意志と気力を削いで、脱走とかさせないための合理的な処置であってだな……
「だ……だ、す……け……だずげ……でぇ……!」
俺がダニーに釈明(言い訳ともいう)をしていると、「ミケ」は掠れた声を絞り出して助けを求める。動かない身体を必死に捩り、苦痛と恐怖で歪んだ眼をこちらに向けて懇願する。あれだけ自信と驕りに溢れた態度で俺を襲撃した姿は影も形もなかった。
そのあまりに哀れな姿を前に、しかし俺とダニーは互いの顔を見合わせた。俺の肩をすくめるジェスチャーを見て、ダニーは苦笑しながら彼女に話しかけた。
「あー……わりぃね、お嬢さん。俺らこの人からあんた売られちゃってさ。助けるというよりはこれから酷いことするかもだけど、まあ許してね?」
彼の場違いなほどに軽い死刑宣告に、名と尊厳を奪われた元対魔忍は、絶望の奈落へと堕ちていったのだった。
△ ▼ △ ▼
30分ほど時間を潰した後、ダニーたちは駐車場から去った。当然トランクケースを積んで帰っていった。数日以内に第八の幹部から連絡が来るだろう。後は彼らがその価値をどれだけの物と判断するかだ。彼らに対魔忍を確保する伝手も金もないはずなので、喉から手が出るほど欲しいとは思うのだが……まあ、俺に出来るのは待つことだけだが。
「……さて、もう出てきていいぞ」
俺しかいないはずの車内に木霊する呟き。それは誰の耳にも届かず消え去る……はずだった。
ガコン、という音と共に後部座席の下が開き、中から一人の女が姿を現す。彼女は先程連れて行かれた「ミケ」と同じ対魔忍スーツを纏っており、唯一の違いは首に巻かれたボロボロのマフラーくらいだった。
ーーー彼女の名前は『鷲田明梨』、「タマ」と呼称されていた裏切り者の対魔忍である。
「いやー助かるよ。敵対しないと分かっているからって、一人じゃ心許ないからな」
「……こんなモノ見せて、一体何がしたいっていうの?」
平坦な声音と無表情で、それでも漏れ出る嫌悪感を隠そうともせずに彼女は俺に問いを投げる。対して俺は、特に思うものもないので率直に返す。
「別に?ただ、お前の立場を自覚させようと思ってな。まあ、お前の末路は奴隷ではなく死だからアイツよりはマシだろうけど」
先日の任務中、俺はあわやキシリアに斬り殺されそうになっていた彼女を助けた。キシリアが時間を掛け過ぎたせいで主任務である対魔忍の援護が疎かになっていた、というのもある。だが最大の理由は、鷲田が殺すには惜しい人材だからだ。
俺には外部に協力出来る
そこで彼女だ。自身を中心に作用する風力操作、今はクナイを飛ばしたり跳躍を伸ばす程度だが、うまく使えば光学迷彩や集音マイクとして利用出来る。潜入任務を任せるのに最適な人材と言ってもいい。下手に戦闘させるよりその力を発揮出来るだろう。故に俺は、彼女を専属の諜報員として使い潰すことにしたのだ。
「……そんな事言われて、私がはいそうですかって言うと思ってるの?」
「ああ、思ってる。お前流されやすいみたいだから、状況さえ作ってしまえば逆らわない。だろ?」
「………………」
そしてもう一つ、俺が強力な異能を持った他の二人ではなくぱっと見地味な鷲田を駒にすることを選んだ理由。それは彼女が、あの三人の中で唯一
他の二人が奴隷としての自身を完全に受け入れ、またその力に酔いしれていたのに対し、彼女だけは冷静に自身の
俺個人の所見だが、彼女は周りに流されやすい日本人気質だ。しかも周りが自我の強い人間ばかりのせいで自身の意思を主張する機会に恵まれず、引っ張られるに任せて来たのだろう。他の二人の猪突を諫めず流れで罠にかかり、身体を心を尊厳を惰性のように犯され続け、仲間が魔に堕ちたのを見て自分も抵抗を折る。
自己の意識が低い、と言ってしまえば其処までだ。だが彼女はまだ、自身の欲望以外のために戦える人間なのだ。
とは言え、五車学園に戻してしまえば元の木阿弥だ。どうせまた同じ様なことになるのが目に見えている。だからこそ、俺が彼女を利用し尽くすのだ。幸い、ちゃんとその流れを作ってしまえば抜け出そうとは考えもしないだろう。彼女の気持ちはよくわかるつもりだ。何せ前世……いや、対魔忍になる直前まで、俺も同類だったんだから。
「……はぁ。それで?私は何をすればいいの?」
溜め息をつき、観念したように鷲田は俺に問う。予想は的中、彼女は抵抗ではなく惰性を選んだのだ。
「普段は傭兵でもしながら情報収集してくれ。有事の際は俺の命令で戦力として動いてもらうが、それ以外は特に制限を付けない。あ、後は諜報員として働いてもらうと思うから、訓練を積んどくように。何か質問は?」
「……それだけ?もっとやることとか、ここから動くなとかないの?」
「ない。金欲しいから傭兵は必須だけど、俺が欲しいのは手足になる諜報員だからな。性的な行為要求したりしないから安心しろ。」
「…………わかった」
「宜しい。あ、後もう一つ。言ったとは思うけど、俺に危害加えようとしたり俺のこと誰かに伝えようとしたら呪いで頭吹っ飛ぶから。そんな事ないようにな」
俺は彼女に刻まれた呪いの契約紋―――断じて淫紋ではない。断じて―――を服の上からなぞりつつ警告する。鷲田も俺の言葉から自身の末路を想像したのだろう。ごくっ、と喉を鳴らしてから、神妙に頷いた。
「結構。住処や装備は初期投資としてこっちで用意するけど、今後は自分で調達するように。そこら辺を扱ってる裏の商売人共は後で紹介するから、自分で考えて適宜利用しろよ?」
「……ねえ、アナタホントに対魔忍?」
「?一応そうだが?他の連中が認めるかは別としてな」
俺の説明を無視するように意図が読めない質問をしてくる。そりゃ俺の所属は対魔忍だけど、何故そんな当たり前のこと聞くんだ?
「私が知ってる対魔忍は、自分の信じる正義や国のため、もしくは憧れのために闘ってた。でもアナタはそうじゃない。惰性でやってた私とも違う……アナタは、何故戦うの?」
「そんなの決まってる―――生きるためだ」
そう、俺が闘う理由はただ一つ、正義でも仁義でも矜持でもない。自らの生命と尊厳、只只それだけのために、俺は幾多の命を踏みにじるのだ。だから――――
「もし本当に正義だの悪だのが存在するのなら……俺は非道い悪党ってことになるな」
思わず唇が三日月のように歪む。呵々大笑しそうになるのを何とか抑えくつくつと喉を鳴らしながら、気圧された風の鷲田に対して手を横に広げて見せた。
「つまりお前は晴れて外道の手先ってことになる。
と言うわけで主人公の外道タイムでした。エロ期待したか?残念だったなぁ!何か宗次君がどんどん有能オリ主になってきたんでね、外道ムーヴ入れて軌道修正しなきゃ。感想欄で実は外道とか主張しても本編で描写しなきゃ、「有能で下半身元気な主人公」になってしまうと気付いたのじゃ……。
尚今回登場したキャラ及び第八技研は全てオリジナルです。対魔忍とは何だったのか…。
とりあえずこれで抜け忍三人娘の末路は書き終わったな。タマを除いて見るも無残だ、ざまあないぜ。と言うことで三人の設定忘れない内に軽く書いときます。あと一応言っておくけど、作者には別にアレな性癖はないからな!
『龍崎玲子』
通称「リーダー格の女対魔忍」。本編では出なかったが、クロという呼び名で呼ばれていた。傲慢かつ残忍、かつての仲間が犯される様を喜々として眺める所まで堕ちてしまったが、かつては真っ直ぐな努力家であり戦闘用ではない能力ながら近接戦闘では上位に入るほど。内心抱き続けた紅羽への嫉妬に捕らわれる余り、キシリアに気付くことが出来ず両断された。
忍法は生体温度を探知する『生熱窺知』。範囲は半径2kmと索敵向けの能力だが、彼女はこれを近距離レーダーとして使用することで近距離戦用へと昇華させた。
明梨が惰性で抵抗していた事を考慮すると、三人の中で最後まで対魔忍として陵辱に抗っていたことになる。
『三木田有希』
通称『ミケ』。快活…というかおちゃらけている性格。ぶっちゃけ貞操観念もガバく学生時代結構遊んでいた。そのせいか快楽責めに対しいの一番に根を上げている。特に設定考えてなかったから書くことない。
忍法は『火遁・爆砕指』。接触した物体を爆弾に変える能力で生物には使用不可。本編では投擲物を爆弾に変えると言われていたがそれ以外にも使用可能であり、逃走中に壁や縁などを爆発させ追跡を妨害するといった使い方も出来る。起爆は時限式のみであり、地雷として使うには計算が手間なので彼女は専ら投擲物を爆破するのに使っていた。
最終的に手足ズタボロにされた挙げ句米連に売っぱらわれるbadend。もし今後出てくるとしても禄な登場をしない模様。
『鷲田明梨』
通称『タマ』。表情の変化が乏しいクーデレで首元にマフラーを巻いているという作者の好みが詰まったキャラ。周りに流されやすい性質で、自分の意思はあるのだが周囲が意見を提示しているならそれに従う。本編ではそれで地獄を見、更なる外道に拾われることとなる。
忍法は『風遁・颶風流し』。自身の周囲に強烈な風を発生させることが出来る能力で、本人は投擲したクナイを増速させたり、敵の攻撃を防ぐシールドとして使用していた。今後は潜入のための使用方を宗次に仕込まれる予定。やったね。
最終的に宗次の手駒として収まり何かにつけて便利使いされるだろうが、三人の中では一番マトモな場所に落ち着いた。本当なら纏めて死んでいたはずが、「風で投擲する能力って…かっこいいな」という作者のきまぐれとクーデレ口調になったのが運の尽き。マフラーを装着され、有り得なかった生存ルートを突き進むことになる。
『ノマドの幹部(未登場)』
三人娘の飼い主である魔族。今回の輸送車囮作戦の立案者であり、一人を餌に十数人の対魔忍を捕らえようとした切れ者。上忍クラスの対魔忍を三人も捕らえた上手駒にした実績から幹部クラスに抜擢、フロント企業を一つ任されたまではよかったが、今回の作戦失敗とその損害ーー派遣した精鋭オーク百人の全滅と元対魔忍損失ーーの責任を追求され幹部から追い落とされた。その後、ダミーとして対魔忍の贄として殺害された模様。
「クロ」「ミケ」「タマ」と名を付けたように無類のネコ好きであり、三人も彼なりに可愛がっていた。
これにて『対魔忍救出編』は後始末まで含め完結です。本当なら一話で終わっていたはずが五話もかかってしまった…皆さんお付き合いありがとうございました!