その対魔忍、平凡につき   作:セキシキ

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またまたお待たせいたしまして。本当ならもう少し早く投稿出来たんですけど、「あ、これ間に話入れた方がいいかも」と思い立ちこの話を特急で仕上げてました。そのため何時もより文章が少し雑になっていますのでご了承を。

幕間ばっかりで申し訳ないですが、後一話で序章っぽいものも終わりです。やっと話が進められる……。



幕間 その日常は危険に満ち溢れ、彼は生を求め駆ける

さて、救出作戦が事後処理含め全て終了してから数日。俺は新たな任務を携え、夜の直中に身を投じていた。

 

「田上さん、ここが予定のポイントです。正面の目標も僅かですが視認出来ます」

「よし、とりあえず偵察だ。縁の手前に伏せろ、頭はマント被せて隠せ」

「了解」

 

事前にマークしておいたビルの屋上に降り立った俺達は、ビルの縁で匍匐の体勢をとりつつ、羽織っていた黒いマントを身体に被せる事で闇夜に身を紛らせた。

 

今回の任務は、とある企業から極秘資料を持ち出すこと。所有者の社長始め幹部幾人かはどっぷり闇に沈んでいるものの、他の社員はそれとは一切関係のない人々であるため実力行使は躊躇われた。

 

そこで白羽の矢が立てられたのが俺である。彼らを傷つけず、かつ可能な限り発見されないように資料を回収せよ。いや無理ゲーですやん。

 

そして氷室は、そんな俺の相方(バディ)だ。これまた校長からの指示らしい。まあ、実害がない範囲でなら幾らでも利用してもらって構いませんがね。俺の危険が減るのなら万々歳である。

 

俺と氷室は懐から大型の双眼鏡を取り出した。レンズを黒く艶消しした軍用のものだ。それを覗き込んで見つめる先には、今回の目標である企業の本社ビルがそびえ立っていた。

 

「田上さん、こんな遠くに陣取ってどうするんですか?流石にここからじゃ、中の様子はわかりませんよ?」

「こっからじゃないと逃げるのがキツいからな。あのビル周辺で事を起こしちゃ目立つだろ」

「それはそうですが……」

 

まあ、氷室の言いたいことは分かる。今回の任務は暗殺じゃないから遠くにいても意味などない。それこそ、ただ見ているだけしか出来ない状態だ。

 

だが、これはちゃんと言わせて貰おう。

 

「氷室、ぶっちゃけ俺は潜入任務は得意じゃない。絶対に見つかる自信がある。そしてお前も、能力的に見れば潜入向きじゃない。能力的には前衛、素質的には指揮官向きだ」

「え、あっはい」

「つまり!俺達に潜入任務なんて荷が重すぎる!」

「えぇ……」

 

小声で叫ぶという器用な真似をしつつ弁を振るうが、何故か引くような声が返ってくる。何故だ。

 

「まあそれはともかく。俺とお前じゃ、この仕事は無理だ。やったとしても、どっちか絶対捕まるから面倒なことになる」

「……成る程。それで、どうするんですか?」

「こうします」

 

懐からすっと小さな筒を取り出すと、その先端に付いている赤いボタンを押した。同時、視界のビルの外壁が爆煙とともに吹っ飛んだ。

 

「な……」

 

隣で唖然としている氷室を後目に、更に三回爆発が起こる。

 

「ふーむ、いい感じだな」

「なにやってるですか!?あんな事したら、従業員の方々に被害が……!」

「そうならないようにちゃんと計算してるって~。この時間帯人が利用しない場所をリサーチして吹っ飛ばしてるから。爆発も見た目は派手だけど、直に当たらなきゃ殺傷力大分落ちてるから大丈夫大丈夫」

「……もし今日だけ人が使ってたら?」

「…………まあ、ほら。俺の命には代えられないってことで……」

「バカ!いいわけないでしょう!?」

「おおぅ、ストレートな罵倒」

 

そんなやり取りをしていると、ビルから次々と人が溢れてきた。被害から逃れようと避難してきた社員達だろう。

 

「で、爆弾魔の田上さんはビルを爆破して何するつもりなんですか?」

「いや、本社ビルが危険に見舞われたら、社長が資料持って出てくるかなって。調べてもどこにあるかさっぱりだったから、本人に持ってきて貰うのが手っ取り早いでしょ?」

「……それは、確かに理に……適ってるの?う~ん?」

 

何でそこで悩むんですかね。

 

とはいえ下準備は終わった。後は社長と思われる人物もしくは車両を発見して、資料か情報を確保するだけである。

 

と、思っていたのだが。

 

「……いませんね」

「いねえなぁ」

 

出て来ると思っていた社長陣が一向に出てこない。おかしいな、出勤してるのは確認したんだけど……。

 

耳に突っ込んだイヤホンをいじり、何人かの社員に仕掛けた盗聴器の音声を拾う。確認した限り、社員連中も社長始め幹部連中を探しててんやわんやしているらしい。

 

「どうやら連中、誰も見てないらしい」

「……作戦がバレたのでしょうか。それで、何処かから逃げたとか……」

「通路とかは一通りチェックしたはずなんだがなあ。隠し通路とかあったらどうしようもないけど……」

 

作戦を実行するに当たって当然ビルの見取り図は確認しているものの、それにすら乗せられてはいない隠し通路とか作られてたら流石にお手上げだ。こんなことなら、セキュリティー厳重なの覚悟で幹部とかに発信機仕込むべきだったかな……。

 

「田上さん!ビル正面!」

「ん?なしたなした」

 

双眼鏡の倍率を調節し、言われた通りビル正面を見る。ビル前に停車した何台もの緊急車両が映る中で、正面玄関から突入していた消防隊員が人を背負いながらほうほうの体で這い出て来ていた。

 

彼らが用意されていた担架に救助者を移し、救急車へと搬送されるなかで、イヤホンから口々に「社長!」と叫ぶ社員達の悲痛な悲鳴が響いた。……は?

 

続けて運び出された数人に対しても、記憶していた幹部達の名前を呼び掛けている。 …………は?

 

「……」

「……」

 

俺と氷室の間に沈黙の帳が下りる。隣から何とも言えない視線をビシバシ感じつつ、俺は天を仰ぐ。ああ、星がきれいだなぁ……。

 

「何であいつら巻き込まれてんの……」

 

俺がなんとか絞り出せたのはその一言のみである。まさか確保する人物達が雁首揃えて病院行きになるなんて誰も思うまい。おかしいな、今の時間は重役会議やるって聞いてたんだが……。

 

「……どうするのよ、これ……」

「……とりあえず撤退だ。今からじゃ潜入する前に警察が来る。別働隊に任せよう」

「……はい」

 

微妙な気まずさを味わいながら、俺達はその場から離れた。物の見事に任務不達成である。

 

ちなみに後日確認したところ、例の重役連中はあの時間、社員の女数人を無理矢理連れ込んで乱交パーティーをしていたらしい。よりによって、俺が爆弾を仕掛けた「人が使わない一室」に。

 

彼らはそこでよく社員や買った女を並べて陵辱していたらしく、部屋への入室記録を改竄して使用したという事実をなかったことにしていたようだ。そりゃ、データベース調べても何も出ないわけだわな。

 

尚、被害者の女性達は幹部共が周りを囲っていたために爆風や破片から免れほぼ無傷だったそうな。犯していた側が文字通りの肉壁になるとは、何とも皮肉な話である。

 

その後資料に関しては別で待機していた紅羽が潜入して何とか確保したらしいが、俺は校長から熱いお説教をされた上紅羽に小言を言われ飯を奢らされた。

 

そして完全な蛇足ではあるが、社長を始め乱痴気騒ぎに参加していた重役は全て、救急車から霊柩車へと行き先変更になったとさ。どっとはらい(めでたしめでたし)

 

 

 

△ ▼ △ ▼

はたまた別の日。

 

俺達は誘拐された子供たちを救助するため、歓楽街の端にある廃ビルへと訪れていた。

 

「ここに、誘拐された子供達が?」

「情報屋の話が正しければな。ただ、運び込まれたのはかなり前だ。生きているかどうかは五分五分ってところか」

「そんな……っ」

 

ビルの中を伺いつつ、俺は氷室の質問に答える。救助対象が何の重要性もない一般の子供ということもあり、任務として辞令が下りるのが大分遅れたらしい。本当ならば今も捜索願という形で燻っていただろうが、頭領であるアサギがそれを引き上げ、直々に捜索を命じたのだ。

 

誘拐目的は、恐らく()()()()趣味の顧客へ売り払う用の奴隷だ。そうでもなければ、わざわざ子供を誘拐なんてするメリットなどない。対象が攫われてから時間が大分経っていることから考えて、例え売られていなかったとしても……。

 

「では、早く助けなければいけませんね。行きましょう」

「え、ちょっなな……α(アルファ)!?」

 

(一応)護衛と監督役として同行していた七瀬が、さっさとビルへと行ってしまう。罠があるかもしれないから様子見するって言ったのに!?

 

「ど、どうします……?」

「……仕方ない、行くぞ。最悪肉壁にしてやる……」

(悪い顔してるなあ)

 

ショルダーバッグの中に隠していたMP5Kを取り出してゆっくりビルの通路へと足を踏み入れる。忍者刀の代わりにタクティカルナイフを構えた氷室も後ろから続く。

 

「β(ベータ)、どこに罠があるか分からない。慎重に行動しろ。安全が確保出来るまで警戒は最大限するんだ。子供も近づけるなよ」

「そんな……彼らも被害者ですよ?誰かに縋りたくなるのは当たり前です」

「そいつらの体に何か仕込まれてたらどうするんだ。気付きませんでしたで全滅するつもりか?」

 

救助対象である子供達に何かしらの罠が仕掛けられている可能性は十分にある。俺だったら爆弾仕込むくらいはやるし、ヘタな魔族ならば体内に寄生型の魔族を宿しているかもしれない。そういう類のトラップに掛かった例も実際に見たことがある以上、敵地で己以外を信じる事など出来なかった。この様子だと氷室にはそんな発想はなさそうだし、忠告しておいて正解かな?ちゃんと活かしてくれれば言うことなしなのだが……。

 

そうしてゆっくり奥へと進むと、突き当たりの部屋から誰かの話し声が聞こえた。片方は七瀬の声で、もう片方は聞き覚えのない声だ。イマイチ聞き取れないが、微かに聞こえた限りでは少し高めの声……恐らく子供のものだと思われる。

 

氷室に目配せしてから、歩く速度を上げ部屋へと侵入する。そこはコンクリートが打ちっ放しにされた無機質な部屋で、生活感を全く感じない。所々に残ったシミやひっかき傷が、拭いきれない惨劇の痕を残していた。

 

部屋の中央では先に突入した七瀬が、数人の子供を落ち着かせるように相手している。彼らの顔は事前に確認した被害者のそれと一致している。一発でビンゴを引けたようだ。しかし、全員男子か……ホントどうしようもねえ奴らばっかだな。

 

「よかった、無事みたいですね」

 

氷室がホッと安堵の息を漏らしてナイフを下ろすが、俺は別の部分に引っかかりを覚えていた。それは彼らを誘拐した連中の姿が一切見えないことだ。待ち構えているものだとばかり思っていたが、その気配すらないとはどういうことだ?

 

「γ(ガンマ)、対象を発見しました。速やかに連れ帰りましょう。場合によっては治療も必要かもしれません」

「ここにいたはずの誘拐犯……いや、調教師とかはどこだ?」

「?  我々を察知して逃げたのでは?この子達以外に人の気配はありませんし、この子も知らないそうです」

「……本当か?」

 

俺は七瀬が頭を撫でている「この子」と呼ばれた男の子に声を掛ける。

 

「う、うん。いつの間にか誰も来なくなって……皆でどうしようか話してた時に、お姉さんが来たんだ」

「ふーん……」

 

こいつらを所有していた連中がいないのは確定か……しかし嫌な予感がするな。これはさっさと全員外に連れ出して……。

 

と、突然、入ってきた扉がギィ……という音を立ててゆっくりと閉じた。それと同時、床から何かが落下した軽い衝撃音。一瞬視界の端に映ったのは、手のひらに収まるほどの円筒形な何か----

 

「B-1!」

 

俺の怒号と共に、視界が薄いピンク色に包まれた。部屋中を着色されたガスが覆い尽くす。

 

頭上から換気扇の稼動音が聞こえて三十秒ほどで、部屋は元の灰色へと戻った。取り戻された視界には、驚愕した表情を浮かべる子供達と倒れ伏した舞の姿。隣を確認すれば、氷室が顔の下半分を覆うガスマスクを付けた状態で立っていた。いざという時のために決めておいた符号が役に立ったらしい。対BC兵器用の符丁も考えといて大正解だったな……約一名、床でおねんねしてる上忍さんもおるがな!

 

「さて、どういうつもりだ……何て聞かねえぞ。その顔を見れば何しようとしてたかはすぐわかる」

 

簡単な話だ、こいつらは結託し俺たちを嵌めようとしたのだ。それもわざわざ催眠ガスまで用意し、無害な被害者を装って。

 

「ま、待って!これは違うんだ、大人たちに無理矢理やらされて……」

「その大人はどこにもいないんだろ?いたとしたら、ガスが抜けた時点でドヤ顔晒しながら入ってきてるはずだ」

 

それと言いはしないが、この建物内は七瀬が紙気を使って既に索敵済みだ。頭こそ残念な彼女ではあるが、その能力とそれを使いこなす応用力は非常に優秀だ。そんな彼女が誰もいないと言うならば、誰かが潜んでいる可能性は低い。これ以上となると隠蔽系の異能持ちがステルス特化の達人だ。俺にそれを見つける術がない以上、彼女の言葉を信じつつ全力で警戒をするだけである。

 

更に弁明しようとする子供―――恐らくリーダー格―――に対し、俺は真っ直ぐ銃口を向ける。当然周り含めて警戒しながら。

 

「ま、待って!待って下さい!」

 

と、それを見た氷室が俺の前に出て射線を遮る。まあ、彼女からすれば、俺は救助対象の子供に武器を向ける悪人、ということになるのだろう。

 

「退け、そいつ等は()を故意に攻撃して来た。つまり敵だ。敵は殺さないと」

「でもっ、彼らはまだ子供です!助け出して心を癒せば、きっと――――!」

「いや、無理だろうな」

 

見ろ、と言って氷室の視線を()()の方へと促す。

 

「こいつらはもう、闇に堕ちることを決めたんだよ。助けに来た俺達を陥れようとしたのがいい証拠だ。そのままいれば元いた場所へ帰れるっつーのに、ここに残る選択肢を取った」

「そ、それは……」

「例えこのまま連れ帰っても、こいつらは周りの人間を、例え親であろうと喰い物にするだろう。そうすれば、関係ないはずの人間が被害者になる。もう、皆の中には帰れないんだよ、こいつらは」

 

俺は氷室を押し退けて前に出る。氷室はもう、前には出てこない。

 

「何でだよ……」

 

と、リーダー格の少年がボソリと呟いた。

 

「何で俺達がこんな目に遭わなきゃならないんだよ!突然誘拐されて、死ぬような事されて!だから大人が許せなくって、復讐してやろうって決めたのに----!」

 

部屋中に慟哭が響き渡る。きっと、それは彼らにとって偽りのない本音なのだろう。それほどの苦痛を彼らは背負ってきたのだ。

 

「だが、それは殺すのをやめる理由にはならないな」

 

俺は、そう言って引き金を引いた。脳天と、ついでに心臓に風穴を作った少年は銃弾の衝撃のままに吹き飛ばされ、コンクリートの天井を目に焼き付けて絶命した。

 

ヒィッ、と鳴くような悲鳴が響く。残った奴らが喉を引きつらせながら、恐怖に染まった瞳を此方に向けてくる。

 

彼らは仲間の末路を見て必死に命乞いを始める。死にたくない、助けて、お母さんに会いたい。俺はそれを全て聞き流し、追加の死体を四つ拵えた。

 

「どうして……」

 

ぼそり、と氷室が呟く。

 

「どうして、彼らは死ななくてはならなかったの……?この子達は、何も悪いことをしていないのに……」

 

……残念ながら、彼女の疑問に対する明確な答えを、俺は持っていない。そもそも、対魔忍というよりも人であるならば助け更生させるべきだし、彼らにはまだ『可能性』があった。ただ単純に、俺がそれを信じることが出来ないだけなんだから。それでも、敢えて一言言うならば----

 

 

「悪いことが出来る奴になってしまったから、かねぇ」

 

 

その後はわざわざ語るほどでもないが、子供たちの遺体と、ついでに媚薬ガスにやられて眠っていた(何か母乳も出る様になったらしい)七瀬を担いで帰還、任務は完了した。当然ながら、子供たちの親族には、その死に様が伝わることはなかった。彼らは単純な被害者として親兄弟に記憶される。その変容は、文字通り闇へと葬り去られる。

 

嘘で塗り固めた優しい虚構に心を痛めることと、辛く救えない真実を突き付けられること。一体どちらが正しい救いになるのかは俺にはわからないけど、彼らに降りかかった地獄を知らずに生きられるのは、幸福なのだろう。せめてそう願うばかりだ。

 

殺した張本人が言うことじゃないかもしれんけどな。めでたしめでたし、とは到底言えない結末だ。




今回後半で出てきた子供達ですが、この間復刻イベントで出ていた「ティナ・ウォーレル」のシーンに出て来たやつです。ワンマンアーミーなティナと違い、油断を捨て去った宗次君にはガスなんて聞かないんだよ……。ちなみに本編に出ていた符号は、「BC兵器確認、即時マスク着用」的な感じの意味です(適当)

次回は一週間後のこの時間帯に上げます。予約投稿なんてやるの初めてで少しワクワクしますね

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